0 て激烈な竸争がある。メジで何が起 0 たか新聞にでもでてみろ、続いてした大声でクリンチの考えごとは中断された。 相手はかならず予算審議でそれを利用するにきま 0 ている。だから「よお、これはまた思いがけん所で顔をあわせるじゃないか ! 」 クリンチは眼をあげた。眼の前に、からだをゆらゆらさせた眼鏡 ロウは神経質になっているし、多少の出費にはかまってられんの の男が立っていた。 男はテ 1 ・フルにつかまりそこなって、上にのっていたジョッキを 「ということは、『ゴルゴーナ』のエージェントがメジで動いてい 床へ払い落としてしまった。 るとあんたは考えている、とみていいんだな ? 」 「これはたまげた ! その名を聞いただけでギャングも震えあがる 「ほ・ほ間違いないだろうな」 ウイルヘルム・シ = ナイダー雷帝とその名も高い探偵王ジャック・ 「その根拠は、天から出てきた弾の破片なのか ? 」 こいつはきっと宇宙になにかどえらい クリンチ様がご同席とはー 「鉱山の爆発と浸水のことも忘れるなよ」 ことが起ってるにちがいないぞ。首をかけて誓ったっていい」 「いや、忘れちゃいないさ。だが、そいつは偶然の一致というやっ クリンチがたちあがった。 かもしれんそ。ところで検死は誰がやったんだ ? 」 ーテンにたのんだ。 「電話をかけてくれるか ? 」・ 「探険隊のドロレス・サリエンテという女医だ」 「承知しました」 「スペイン女か ? 」 「医者を呼んでくれ。まもなくこいつの顎の骨がはずれるから手当 「メキシコ人だ。火葬をしたのもその医者だ」 をしなぎゃならんことになるはずだ」 「じゃ弾の破片をみつけたのは ? ー 「やめろ、ジャック ! 」シ、ナイダーはクリンチの肘をつかむと、 「コスモュネスコの葬儀部だ」 むりやり通りへ連れだしてしまった。 「へえ、そんなものがあるの ? 「あるとも。残念ながら想像以上にはんじようしていてね。なんて「相手が誰だか知 0 ててや 0 てるのか ! 、やつは『宇宙新報』の ぶんや ックス・ドレイクという記者だそ。なにかかんづかれでもしてみ ったって、宇宙の仕事は、ちょっと郊外へ ( イキングってわけには 冫だからロ 1 ランも人事配置の仕事だろ、とんでもないことになる。そんなことにでもなってみろ、きみ いかんからな。かわいそうこ、 けってわけにいかなくて、それ相当の葬式をだすことまで心配しなの信用はまず回復のみこみはなくなる。わかったか ? 」 「ああ、わかった」クリンチはげんこつをポケットに隠した。 きゃならんというしだいさー 「しかし機会があったら絶対にあん畜生の鼻面に一発くらわしてや クリンチはまた考えこんだ。ローランと会って話す必要がある。 探険隊員の詳しい身上調書もみたいし、きっと人事課ならたっぷりる」 「ときがきたら、俺をやったってかまわんよ。だが今はまずい、や 9 情報が仕入れられるにちがいない。 つから離れていろ。まだ聞きたいことが残ってるんだろう ? 」 そのとき、通りに面したドアがばたんと音をたてて開き、それに
えちまったーーまあ、酸素を得るために育てている緑色のガック それがおれたち居すわり村の土台にな 0 た 0 てわけだ。最初にや ( だからこれからだ 0 て、政府から酸素をそんなにたくさんちょろ ってきたのは宇宙人夫ゃあらくれどもだった。その連中とはちがうまかしたりしないですむんだ ) をたたえるという意味もあるし、食 べかすなんかで育てている食用ィーストやなにかを祝福するという 意味あいで、タフな芸術家や変わり者たちがつづいてやってきた。 連中はおれたちの暮ら . しぶりのことをうわさに聞いて、金を使った意味もあるんだけどさ。 おれたちはここでどんな生活をしているか ? 悪臭ふんぶんの、 り、流れ流れたり、インチキな手を使ったりしてここまであがって きたんだよ。宇宙研究の仕事をもらってやってきて、自分の割りあたくさんの気球のなかに閉じこめられていながら、どうしてがまん て分だけの仕事をすませちまってから、おれたちの仲間に入ってきできるのか ? みなさん、おれたちゃ、ここだとほんとうに自由 フリー た連中もいる。御招待旅行を利用してやってきて、いかにもうつか ( 重力も無いしね ) でいられるんだよ。生まれて初めての、ほんと うの自由ってわけさ。おれたちゃ、文字どおり、空中を浮浪してい り自分の一行からはぐれちまって、おれたちとばったりでくわした みたいによそおって、仲間に入った連中もいたよ。みんなはテー。フるんだ。重力がのしかかってきて背中を曲げることもなければ、お や楽器を持ってきた。スケッチブックやタイプも持ちこんだ。何人れたちの考えをおさえつけることもないんだもの。わかるでしよ、 地球の外のここだけなんだよ、おれたちみたいな愚か者でも、ちゃ か、自分の気球をこっそり持ちこんだ連中までいるんだ。たいてい こんな空のかなたんとものを考えることができるのは。重さがないおかげで、頭から の連中が、宇宙でも仕事をなにか覚えこんだ で暮らしていくのはよい保証になるんでね。でも誤解しないでほし考えをひつばり出すこともできるし、そのなかからよいものをえり いな。おれたちゃ誰ひとりとして仕事気狂いなんかじゃないんだかわけることだってできるんだ。考えはどこまでもどんどん大きくひ ろがっていく ここは思索にとってじつによい環境ってわけさ。 ら。じっさいには、宇宙きってののらくら者なんだよ。一生のあい だ毎日毎日、自分で自分の体重をささえて暮らしていくなんて考え誰であろうと、宇宙へやってくることはできるんだよ。もし一生 るだけでもがまんできないってわけなんだから ! 金のために臨時懸命望みさえすればね。夢こそがここ行きのキツ。フになるんだ。 これがおれたちの物語ってわけだ、みなさん。おれたちは宇宙へ やといの仕事をするとか、どうしてもやらなきゃならない仕事がで きちまったとかいうときだけ、・ほそ・ほそと働くくらいのものなんの道へやってぎた。なぜなら、ここがただ一つ残された辺境の地だ からさ。宇宙がここにあるから、やってこなければならなかったん だ。おれたちゃ夢想家であり、遊び好きなんだ。歌うたいであり、 思索家なんだ。『星をめざして』がんばるのは、親愛なる宇宙海軍だ。山があるから山への・ほる人のように、この世で初めて、緑色の のみなさんにおまかせするよ。『明日のすばらしき宇宙』という標水の深みにとびこんだ人のようにね。この世で初めて、鳥や流れ星 語 ( みなさんの ( イスクールの標語もこれだったんじゃないの ? ) をうらやんだ人のように」 があるけどさ、おれたちはその最初の部分を『アスパラガス』と変音楽はそれまで、ファッツの言葉にあわせてやわらかな調べをか フリー
かれはドアのノ・フに手をかけて、わたしのほうをふり返っていつくわかった。 「いっ発つつもりだ ? 」 「あなたも、・ほくも、人間の弱さと力を知っています。あとは、ほ「許可が出しだい、明日にでも、と思っています。火星で基地建設 んのちょっとしたこと、つまり、人間とはいったい何か、というこの仕事につきます」かれはわたしの身振りに気づき、その意味を察 とを理解することだけだと思いますー した。「ぼくがこの部署に配属されたのは一時的なものです。ぼく も、ほかのシホムと同じで、基本的な任務は惑星調査です。あなた がた人間がそこに住みつき仕事がはしめられるようになれば、また べつのもっと遠い惑星にでかけます。しかしそれはたいして重要な 結局わたしが決断できなかったことを、 ミ ( イヴィチがやって問題ではありません。将来われわれは自己改造をして、知的生物に くれた。シホムがここへ来ることになったとき、本庁でわたしは、 とって最も望ましい形態を追求します。たぶんそれは球状の電光 シホムのほうでわれわれと一緒に仕事をやれないと判断したら、転か、あるいは超プラズマ雲に似た形になるんじゃないかと思いま 任を願いでる権利がかれにも留保されている、とあらかじめいわれす。しかも、その形態になるために、必ずしもシホムの段階を个る ォルガニズム ていた。かれが結論をだした今となっては、かれを引きとめておけ必要はないでしよう。もし人間が体の組織を変え、直接その形態に るのは、共同作業になんらかの区切りがつくまでぐらいのことた。 なれたら、と思っています。そうなれば、・ほくたちは、心から自分 そして今わたしのデスクの上にこうしてミハイロヴィチの転勤願たちの義務の一部があなたがたに返せると考えます : : : 」 いがのっており、ただあとは、《転勤を認める》と署名さえすれば 「そうだ、たしかにきみがいう通りだ」いささかいいかげんなあい すべてがかたづく。 づちをうって、わたしは立ち上り、部屋のなかを行ったりきたりしは シホムがいなくなれば、 ( 部の仕事は旧態依然の状態にもどり じめた。政府筋の仕事の件がどうしても頭から離れなかったのだ。 どの官庁からもごたごたいわれることもなくなるだろう 考えると恐ろしくなった。 だが、シホムに、なにかほかに方法はないのか、とたずねたわた 『こいつの決心は固い。そうなると、新鋭機はかれの手を借りずに しの顔はふるえていた。 仕上けなきゃならん。ところが期限は目の前に迫っている : : : 』わ たしは、 「ありません」 ミハイロヴィチが答えた。 ミ一イロヴィチの顔をそっと横目でうかがい、その唇がせつ 「もう少し時間をかければあるいは : : : 」 かちにふるえているのに気づいた。わたしはあわてて喋りはじめ 「遅らせれば遅らせるほどやっかいになると思います。あなたがた がコン。ヒュータになじめるようになるはずがありません 「よくわかった。考えておこう : ・ : だが、ます新鋭機を仕上げて納 かれはそれ以上なにもいわなかったが、かれのいいたいことはよめるのが先だ。だから当分はここに残ってもらうことになる : : : 」 0 4
「そう言われても、そのさきはさつばり。メジの状態についてはな たら、それに気づいたはずだ。ミスター ・ロウ、そういうことです んとも言えません。縦坑の水が汲みだせるかどうかわかりませんから、またあそこ〈探険隊をや 0 て、仕事をはじめるんですね。地 ね。どのみち、あそこでまた採掘しようとしてみるんじゃないです崩れでおしやかになったポンコッ機材について言えば、あそこじゃ だからこそ、ミンナ・ホルストはあらたに破壊工作員を送りもう必要ありませんよ」 こむことにしたんです。弾の トリックまで考えだして、わたしを口 ロウは立ちあがると部屋を横切ってきた。 ンドンから呼び寄せたんですよ」 「よくやってくれた、ミスター・クリンチ。報酬だけのことはやっ 「まえから彼女を知っておったのか ? 」 てくれたらしいな」 「とんでもないー 「それに、二割のわりましをのつけてもらいますよ」クリンチはさ 「だったらどうして、彼女はあんなにきみに執着したんだろう。きらっと言ってのけた。 みいがいにおらんといって頑張ったんだよ。なにかあてがあったん「それはまたどうしてだね ? 」 だろうか ? 」 「一五パーセントは産地の発見料、五パーセントは クリンチは ここでにやっといじ悪く笑った これはさっきあなたがおっしゃ クリンチはちょっと顔を赤くした。 ったのテーマ代として頂戴します。この話をどっかの三文文士 「自分のセックス・ア。ヒールに自信があったじゃないですか。アイ に売りつけたりしたら、ご都合が悪いんじゃないかと思いましてね」 ルランド人が、たいへん感受性にとんでいて、女に弱いことを知っ てたんですよ」 「もちろんそいつはまずい ! 」思いがけないほど真剣になってロウ が言った。「それどころか。この話は記録保存所にいっさい引きわ 「そして、どうやらそれで誤算をしたらしいな ! 」シュナイダーが たさなきゃならんだろう。現在、ラテンアメリカ諸国のあいだ 笑った。「いや、失礼、ジャック ! 続けてくれ」 「これ以上話すことはない。これで全部だ」 で、ゴルゴーナ鉱山の国有化に関する交渉が進行中だ。それはユネ 「これで全部だと ? 」ロウがびつくりした声をたした。 スコの庇護下で国家間コンツ = ルンを組織することが前提になって 「きみがやった爆破の件は ? まさか、オルガンのパイプにただ栓おる。生産は、科学的な基礎にた 0 て再編成されるはずだ。ロレッ チの・ハクテリアもそこで役立てるつもりでおる。こいつは、極秘秘 がしたかっただけではあるまい ? 」 「パイプをふさぎたかったのは本当です。ほかにも理由はありまし報だそ、ミスター・クリンチ。だから、わたしは、きみのロが固い ことをあてにしておる」 たがね。岩に潰されそうになったことは覚えておいででしよう ? 」 ジャック・クリンチは立ちあがると、もったいぶった仕種でひげ 「ああ覚えておるー をいじると、 いかにもおうような態度でロウを見おろした。 「それですよ。割れ目の表面を調べたら、金属ィリジウムがみつか 「以前にも言ったように、私立探偵の稼業が成りたってるのはい秘 づたんです。岩のなかにもパクテリアはいるんです。岩を爆破して 密を絶対にほかにもらさんからですよ。畜生、いまいましいがしか みたら、露天掘りで採鉱できるなかなか良質の産地がみつかりまし たがない。それにまだ、アイルランド人の真心からの約束ってやっ たよ。実を言うと、そのことはとっくに調査資料でわかっていたこ もある。これだってなんかの価値はあるー となんですがね。マイゼルがやる・ヘき仕事をちゃんとやってさえい アルヒ
ですか ? お祭り ? 」 からなくなってしまった。 「今じゃ毎日が祭りみたいなもんです。なんにもすることがないん お手あげの状態で、結論がでないままロレッチの部屋へ出むい 8 ですから」ミルンが応じた。 「それも人によるさ。・ほくなんかけっこう仕事がある」ロレッチが ミルンの部屋のドアがあいていた。ひょいと中をのそいてみる レ 顔をしかめて言った。 と、ドロレスがはだしにショートパンツ姿で床を洗っていた。ミ 「するときみは仕事を続けているのか ? 」これはニュースだった。 ンは、お行儀のいい子供みたいに、靴をぬいで、きちんとおおいの 「なんだかんだとやることはありますよ」 かかった・ヘッ・ トの上にあぐらをかいていた。窓はいつばいに開けは 「ところで、わたしたちはいっ地球へ発てますの ? 」ドロレスがまなしてあり、そこから見える空は、なじめない青味がかった色をし たきいた。 ていた。 「そりやロウがきめることだから、わかりませんね」 まことにもって、奇妙きてれつな日だー 「でもご意見はなにかおありなんでしょ ? 」 ドロレスは俺にきづいて、手の甲で髪の房をはらいあげながらに 「基地は閉鎖すべきだと思います。縦坑から水をすっかり汲みだすっこり笑った。 のはまずむりな相談だし、あれだけの厚味のある岩を掘りぬくのは 「ちがいますか、ミスター ・クリンチ、こんなにだらしのない人い 不可能ですよ」 ませんわ」 「そのとおりだ」ミルンがテー・フルをびしやりとたたいて言った。 ご婦人のおみ足をとっくりこうして拝見してみて、言うんだが、 「なかなかいいこと言うよ ! 話は聞いてみるもんだ ! 」 掛け値なしに最高だ ! だが、探偵なんて因果な商売だ、こうして ロレッチが立ちあがった。 人生が男にプレゼントしてくれる最高の贈物を犠牲にしなきゃなら 「仕事があるから失礼する」 んときがしよっちゅうだ。未練がましいことを言うのはやめよう。 俺もたちあがった。 重要な手がかりがっかめるかもしれない会談がまだひかえているの 「コーヒーをどうもありがとう、ドロレス。セニ チ、ちょっと話がある」 ロレッチのドアをノックした。 彼は驚いたようだ。 彼は顕微鏡にむかって仕事をしており、眼顔で坐れとすすめた。 「いいですよ、一時間あとなら。やりかけの実験をすませてからに部屋の中を見まわした。なにもかもきちんとしていた。すみのべ してほしい」 ッドの枕もとに娘の、というより女の子といったほうがあたってい メダモルフォーゼ その一時間を部屋で、この驚くべき変態が起きたわけをあれる、写真が貼ってあった。百万長者の未成年の娘の話をふと思いだ これ考えてすごした。臆測をたくましくすればするほど、わけがわした。 ヨール・ロレッ
まえはろくにミハイロヴィチとロもきかなかったスポーツ好きの かれは並木路に入ると、学校の門のところで立ちどまった。でき 部下が、かれをテニスにさそうようなことも起ったし、次長は次長るだけ近くまで行くと、そこにあった老婆が坐っているべンチに、 で、かれのことを脱走兵呼ばわりをするようになった。だが、わた並んで腰かけた。 しは局長に呼ばれて、小言をいわれながらふと考えた。『こんどの少年が二人、ミハイロヴィチのほうへ近づいてきた。一人がなに 仕事を与えられたとき、シホムを計算にいれて考えていた。この責か手に持って、それをさかんに振りまわしていた。子供たちは話を 任はわたしにある。もともと、わたしが要請したから、あいつが配しながら駆けていた。 属されたんだし、あのとき、いつまでもこっちに置いとくわけには「ほら、きみがいった通りに組立てた模型だ。すごいだろう」 いかん、とあらかじめ釘をさされている。本庁に電話一本いれれば「今日は魚釣りに行こうよ それですむことだ。本庁の連中はよろこんで、シホム本来の惑星の 「ビチカのやっすごくおこってたそ、だってあいつ自分が一番工作 調査や開発の仕事にやつを転勤させてくれるはずだ。しかし、やつがうまいと思ってたろう」 が、わたしの部下でいるうちは、ただの部下だ。特別に考えるのが ミハイロヴィチの眼が生々とかがやくのを見て、わたしは立ち上 間違いだ』 ると、そっと気づかれないようにその場を離れた。 ミハイヴィチがどんな任務を与えられているか推測するのはむ『子供は粘土とおなじだ、どんな形にでもなるーーーと、わたしは思 つかしいことではない。 ったーー新しい構想やアイデアのためになる豊かな土壌た。まあど その日はいつもより早目に仕事をきりあげ、どこで時間をつぶその程度かは知らないが、死を正当に評価し、新しいもののために場 うか考えながら歩いていた。すると前を見お・ほえのあるうしろ姿の所をゆずることが当然のことだと思うようになっただけでもたいし 男がいそいで歩いているのに気づいた。ミハイロヴィチだった。重たもんだ。かれに必要なことをみつけたらしい : ・ : ・偏見を持たない 力調整装置を使って飛ぶこともできるのに、やつはどういうわけか友達がみつかったんだ』 そうしていなかった。見失わないようにあとをつけながら、やつを それから二日後、ミハイロヴィチがわたしのところへ設計図をみ 知っていらい今はじめて、あいつは俺たちにとっていったい何なんせにきた。 だろう、と考えていた。それで、あるいは宇宙船から宇宙空間に出「できればチ = ックしてから、試験所にわたしてください」 たパイロットのことでも連想したのだろう、急に気分が悪くなっ 「チェックなんかしてる暇はない」 ミハイロヴィチがほかのシホムと会うのはとめられていない。 眉をひそめると、はじめてかれは文句をつけた。 地球に残っているシホムも二、三いるにはいたが、ほかは全部、金「でも、ミスがあったら、それぐらいの時間じゃまにあいません 星と火星の調査に従事している。だから、 ミハイロヴィチは二十四よ。数台モデルを作るだけでももっと時間がかかるんですから」 時間のほとんどをわれわれの中で暮さなければならなかった。 絶対にミスはあり得ないと、確信はしていたものの、そういわれ 6 3
もなかった。それどころか、ふたりのために・ほくは大変な額のものてゆく、と。 ・まど、ま、リ だがぎみたち 0 男に出かける予定はないよといった を費やしていた かれらを買ってやったことはまた別の話として 2 かわ は、″仕事の将来性″ってことを考えたのか ? 何の技術もない人 だ。そのことについては、頭の中でさえ、かれらに金を請求したり 間のための仕事は先行きまっ暗だぞ。 しなかった。それどころか、ぼくは深い満足を与えられたのだ もしもかれらが独立してやってゆくことを学べば特にだ。だが・ほく 彼女はびつくりした顔になった。そんなこととは考えてもみなか はこれについてふたりと話しあったりは決してしなかった。ただリったのだ。だが、ヒントはそれで充分だった。ふたたび新聞をのそ ータにかれらの出資分を計算させただけだーーそれが・ほくのやりかきこんでひそひそやってから、彼女は・ほくのところに新聞を持って きてある広告を指さしーーー・ほくの出したものだが、そうとは書いて たなんだ。 五カ年償却とはどういう意味かと尋ねた。 ( 省略 ) ・ほくはそれを見てふんと鼻を鳴らし、それはゆっくりと破産する 二千ほどになったが、それではふたりをそれほど長く養うこ とはできない。どがに ナまくは時間を割いてごく小さい食堂を見つけ、ための方法だ、特にきみが衣裳に金を使えばな、といった , ーーそれ オプ / ョン そこの選択売買権を第三者の名前で取った。もし価格が適当で働くに、どこかまずいところがあるに違いないな、そうでなければ持主 気があれば、ふたりの努力家がうまくやっていけるはずだというこが売りたがるものか、と。 とを、自分に納得させてからだ。それから・ほくはふたりにむかっ彼女はジョウと同じぐらい悲しそうな表情になったが、つづけて て、ぼくはリビイを売り出すか、または賃貸契約するつもりだから、そのほかの仕事には大金を投資することが必要だといった。ぼくは 職探しを始めたほうがいいといった。汗水たらして働き、成功するしぶしぶ、見るだけなら損はあるまいということを認めた か飢え死にするか。ふたりは本当に自由なんだーーー飢えるのも勝手が、落とし穴には気をつけるんだぞ。 かれらはすっかり興奮して帰ってきた・ーー・・そこを買って儲けを出 なんだと。 ジョウはそこを持っていた若い料理人 リータはむくれたりしなかった。彼女はただ真面目な表情になっせると自信を持ったのだー て・の世話をつづけただけだった。ジョウは恐ろしくなったよの二倍も腕がよかったーー・そいつは油を使いすぎ、出来あがりはひ どい味たったし、コーヒーはまずく、その店を清潔に保っておくこ うだった。だがぼくはあとで、ふたりが頭をよせあい、・ほくが船に 持ってきた新聞をのそきこんでいるのを見た。ふたりは求人広告をとさえできないんです。何よりいいのは、店のうしろに寝室がある 調べていたのだ。 から、そこで暮らすことができるし ばくはふたりを黙らせた。総売上高はいくらだった ? 税金は ? さんざんひそひそやったあとでリータは、自分たちが職探しをし ているあいだ赤ん坊の子守りをしてもらえないかと、遠慮しながらどんな許可証と検査が必要だ ? そしてそれぞれにどれぐらいの賄 尋ねてきた だがもしぼくが忙しければ、・は背中におぶつ賂がいるんだ ? 食料品を卸売りで買うことについては何を知って
てきたのは遺骨だけだ」 にとっては稼ぎどきだ。なんか仕事のロがころがりこんでくるさ。 クリンチはひゅうとロ笛をふいた・ クリンチは椅子から立ち上って言った。 「なるほどそういうことか : : : 灰になってたんじゃあんまり証拠も「たいへん残念ですが、どうやら出る幕はなさそうですな。おみう ないだろうから」 けしたところ、インターポールが捜査を開始するだけのじゅうぶん 「ジャック、それはきみの見当ちがいだ。その灰の中からちゃんとな手がかりはあるようです。ヘル・シュナイダーなら万事うまくや 重要な証拠が手に入っている」シュナイダーが口をはさんだ。 ってくれると思いますー 彼はポケットから表面が焼けただれた金属のかけらをだした。 「インターポールはこの件には手をださないことになっている」シ 「よく見てくれ。なんだと思う ? 」 ユナイダーが言った。 ト戸フィ 「な・せ ? 」 クリンチが手を出すと、彼は用心ぶかくその掌に証拠をのせた。 「型が変ってしまっているが、三五口径の弾の破片のようだ」 「まあ坐れ、ジャック。・ほくから説明しよう。われわれの組織は規 インターイ・ラネットボ シュナイダーはうなずいた。 則で地球外では行動できんことになっている。さりとて惑星間警察 「その通りだ。ところできみだったらこれからどんな結論をひきだ機構もまだない。そういうしだいだから、きみに惑星へ飛んでもら わなきゃならんのだ」 「まあ、あんたが考えそうなことはおおよそ見当はつくが、俺が結クリンチは眼をむいた。 論を言うのはまだ少し早すぎる。かりに人がこの口径のビストルを「なんだと ! まさか、その : : : なんてたつけ : : : スジとかいう惑 自分に向けて撃ったら、弾は貫通してしまうだろうな、そうだろ ? 」星へ俺を飛ばそうってこんたんじゃあるまいな ? 」 「もちろんだ。で ? 「メジだ」ロウが訂正した。 「それなりの距離からはなれて撃ったということになる」 「しかし、べらぼうに時間がかかるそ ! 」 「ということは、まだ証明しなきゃならないことがあるわけだ」シ 「やく一年だ」ロウはデスクの引出しから手帳を出してページをく ユナイダーは満足そうにほほえんだ。 クリンチは考えこんだ。ここへやってきたのは無駄だったんじゃ 「うん、これだ。十月二十日に『ヘルメス』が出発する。というこ ないだろうか、という気がしてきた。インターポールがからんでい とはまだ十日ある。それから五カ月の航行だ。『ヘルメス』は惑星 ′ールロケット るんなら連中にやらせときゃいいんだ。シ = ナイダーがいるところ巡航船だが、メジには着陸しない。だからは郵便艇がきみを運んで で顧問役をやらされるんじゃぜんぜんましやくにあわない。今日じくれる。一カ月後にそのロケットで軌道にもどれば、「ヘルメス』 ゅうにロンドンに引きあげたほうがよさそうだ。依頼人が往復の航がきみを拾いあげて地球へ連れもどしてくれるはずだ」 空券の払いをすませておいてくれたのは好都合だ。秋は、私立探偵「技術者に弾をぶちこんだやつをつきとめるだけのことで、そんな 6 5
した。 「お荷物を取りにやらせましようか ? 」 「いやけっこうだ。二、三日滞在するだけだから、持ち物はこれだ けだ」 クリンチは、トランクと、・鞄を運んでいくボーイのあとを追っ ジャック・クリンチは人目をしのんでコスモポリスへやってきた。 た。だから、スチワ 1 デスからホテルのメイドにいたるまで、あ寝室と居間に書斎つきのデラックスな部屋を、けちをつけたそう らゆる女から興味をもって見られるのにはヘいこうした。だが、身な目で眺めまわした。私立探偵という職業がらじつにいろんな人間 を見てきたが、出し惜しみする依頼者にはがまんできなかった。そ 長が二メートルもあり、髪は赤毛で、ロひげをたつぶり生やしてい たのでは人目につくなというのが無理な話で、ことに女達の目をひの点今度の客はどうやら問題がなさそうだった。 、た。クリンチじしん女に関心がないというと嘘になるが、今しば「なにかご用はございませんか ? 」 「ない。さがっていい」 らくいっときでいいからもう少し人目につかない外見だったらいい クリンチはズボンのポケットから小銭をだした。 のにと思った。だからといって、そんなことで今までさんざん気を つかって手入れをし、ここまでにしたひげを剃りおとす気にはとて「ありがとうございます。・ ( ーは二階で、レストランは一階になっ ております。ルームサービスはこのボタンでお申しつけください」 もなれなかった。 ロンドンの技術者、ユージン・コネリイの名前でホテルの部屋を「わかった」 予約してあったので、小型のトランクのほかにもうひとつ、やたら「トランクの中のものをおだしして、かたづけなくともよろしゅう ございますか ? 」 に金がある水牛皮のかさばった書類鞄をかかえていた。 「いや、その必要はない。自分でやる」 だが、鞄の中はからつばだった。その意味では、イギリスでも一 ポーイがさがるのを待って、トランクから下着類をだすと、浴槽 流のテーラーに仕立てさせたダークグレイの背広の内ポケットにお さまっているモロッコ革の札入れもご同様だった。手付金のおおかに湯を張りにかかった。 一時間後に、ひといき入れ、さつばりとひげをあたったクリンチ しつも金 たが、仕立代で消えてしまったからだった。クリンチは、、 でひいひいいっているわけではない。ただ、昨年はばかに仕事のロは・ ( ーへおりていった。 そこはまだほとんど客がいなかった。隅のテー・フルで、コスモュ がすくなかったうえ、暮しむきをいささか派手に広げすぎてしまっ ネスコのパイロットの・ハッジをつけた若い男が三人、連れの女達と ていただけのことだった。 「どうそ、ミスター ・クリンチ」フロントの女が部屋の鍵をさしだウイスキーをやっているほかは、くたびれた上着にしわくちゃのズ 第一章 5 ・
運中まで、ひどく無理をしてテープルごしにあれこれ世話をやきは「あんなばかさわぎ、おいやでしょ ? 」 じめた。皿はたちまち盛りすぎでこぼれそうになるし、グラスは極だがその顔は全然反対のことをいっていることを雄弁に語ってい 3 上品の琥珀色のアルメニヤ産のコニャックがなみなみと注がれた。 ミハイロヴィチをとがめるわけこよ、、 冫をし力なかった 3 やつはなるべ その相手をするつもりはなかったが「・袖口をおさえられては逃げ くひかえめな態度をとり、注意をひかないようにしていた。だが、 るわけにもいかなカた よくあることだが、それがかえっ - て火に油をそそぐことにもなっ 「あの人が独り者だというのはほんとですか ? 「かくれない真実ですよ、奥さん」わたしは、自分の腹のうちを見 退屈きわまりない祝辞から逃げるために、妻と踊ることにした。すかされないように表情をつくって答えた。 ところが、妻の席は空っぽだった。 ミハイロヴィチは、わたしと次長に気がついた。群がる崇拝者た 「リダをみかけなかったかね ? 」次長に聞いてみた。 ちから逃げだす口実ができたのをよろこんでいるふうだった。かれ 「わたしも妻を探していたところなんです」笑って答えた。「きつは生々しいかこみを押しわけて出てくると、まだなにか中世の絵画 と同じところだと思います。一緒に探しましようか。奥さんがみつきの話を続けながら、わたしたちの腕をつかんで、あわててホール かればうちのやつもみつかります : : : 」 の出口のほうへ引っ張、っていった。そこの柱の陰で、まだ帰りたく 「どうしてだ ? 」わたしはおどいた。 ないが、時間がないとかなんとかいいわけをいって、そそくさと姿 を消した。 「ほらごらんなさい」次長は意味ありげに眼くばせした。 ミ . ( イロヴィチの声がしていた ~ だが姿は見えなかった。女ども「ミハイロヴィチはどこ ? 」どこからともなく忽然と現われた、わ が人垣をつくって、群がっていた。人だかりの常として、ここでもれわれの妻たちが、ほとんど一緒に同じことを聞いた。 好奇心という法則が作用していた。だれかが興味をもっと、自分も われわれが顔を見あわせると、妻たちは、彼女たちがよくやる見 何事が起ったかどうしても知りたくなる、というやつだ。 えすいた手で、先制攻撃をかけてきた。 ときどき男が寄って行って、ほとんどカづくで妻か、フィアンセ 「いくら呼んでも返事をしないんですもの、妻のことなんかどうせ か、あるいはただのガールフレンド か、を引っ張りだす。するとたどうでもいいんでしよ。仕事か政治のことしか頭にないのよ、あな ちまち後の列にいた女が素早くそのすきまにすべりこんで、あっとたは いうまに人垣はもと通りつまってしまう。 こうなると、叱りつけるなんてことは思いもよらなかった。結局 もっとも、席から離れないで、さりげないふりをしている女性もあたりさわりのない話にもっていくほか手がなかった。おまけに、 いないではなかったが、内心むりをしていた。技術主任の妻もその女どもこよ 冫をいかにも恩着せがましい態度をされた 一人でい通りがかったわたしを呼びとめ、早ロでささやいた。 帰宅する道で、リダはうつかり口をすべらした。 こ 0