「どうそ、遠慮なく」 「その詩は今どこにあるんです ? 」 「なぜ : : : どうしてあたしを訊問なさらないの ? 」 「部屋です」 ふきだしてしまった。 「じや行きましよう」 「どうしてわたしが訊問しなきゃいかんのです ? なぜそうきめて彼女はいっしゅんためらった。 「さあ、どうしました、行きましよう」 かかってるんですか ? 」 彼女について俺が部屋へ入っていぐの 彼女は眠をあげた。それは、こうしてよく見ると想像以上に大き廊下でロレッチに会った。 , 、大粒のくるみのような感じがした。メキシコ女の眼は、はっきを彼がどんな顔をして見ているか、 ) ふり返っ ' てみるべきだらたがも りなんだとは言えない、なにかをたたえていた。なにかにおびえてしれない。 いるような、そのくせとことんまで頑張ろうとしている固い決意が「これです」四つにたたんだノートのきれつばしをさしだした。 ましりあったような、そんな感じのものだった。手負いの豹がいま重力測定のデータの余白に、前には気づかなかった詩が、へたな 字で書きこんであった。 にもとびかかろうとして構えているのに似ていた。 「マイゼルを殺したのはわたしだと思っていらっしやるにちがいあ りません」 あおじろい死産の朝やけが、灯火とまじり ごくあたりまえのことを話しているみたいに、さらっと口にした。 無意味なことばが窓から忍びこむ。 わたしに忍びよってくるものは、 その態度をなんとかくずす必要があった。 「なぜ昨夜わたしの部屋に入ったんですか ? 」 巨大で、貪慾で、個性がない。 さっと顔があおざめ、唇をかんだ。 しじまで、叫び声が発作的に 「わざとじゃありません。あの部屋をきちんとしておくのがわたし 口を引き裂くのがおそろしい の仕事でしたから・ : ・ : きのうも、つい習慣になっていて : : : 」 それから逃れるすべはない。 「でしよう、ドロレスー ノートを破ったのも習慣ですか、なぜ それが巨大な重荷となってのしかかるのを感じる あんなことをしたんです ? 読まれたくないことが書いてあったか その意味の無いことばを、 ら、ちぎったんじゃありませんか ? 」 うわごとで、わたしは愛たと呼んだ、 と人が一一一口う。 「とんでもありません。誓います。特別な意味なんかありません」 「信じていいんですか ? : つまり : : : あれに詩が書いてあったのです。だからあな「これはあなたにささげた詩 ? 」 「わかりません。でもたぶんそうだと思います」 たに誤解されはしないかと思って : : : 個人的なことですから : : : 」 2 7
数分後、かれらは最初の段の上にいた。宇宙に何カ月もいたあとる、とマーサーは考えた。となると、この弱い重力下でさえ、最終 で、堅い表面の上に立ち、その堅さを足の下に踏みしめるというの的な獲得速度は時速数百キロになりそうだ。おそらく、そのような は、奇妙な感じであった。かれらの体重はまだ十キロにも満たない 無鉄砲な落下には、摩擦のカで・フレーキをかけることも可能だろ が、それだけあれば、安定感を感じるには充分だ。目を閉じても、 う。それができるなら、これはラーマの内部表面に到達するいちば マーサーは自分がいま、ふたたび現実世界を踏みしめているのだとん簡便な手段になるかも知れない。だが、まず必要なのは、念には いうことを、信じることができた 9 念をいれた用心深い実験からとりかかることだ。 階段がスートするテラスというか、踊り場は、 ' 幅が約十メート 「艦長」と、マーサーは報告した。「梯子の降下には、問題がなか ルあり、両側が上向きに反りあがって、闇の中へ溶けこんでいた。 った。あんたが賛成なら、これから次のテラスに向って降りてみる マーサーは、それが完全な環状をなしていて、その上を五キロも歩よ。階段での降下速度を測ってみたいんだ」 けば、ラーマを一周して、ふたたびもとの出発点に戻ってくること ノートンはためらわず答えた。 を知っていた。 「やってくれ」蛇足だったが、つけ加えた。「くれぐれも慎重にな」 とはいえ、ここに存在する微弱な重力の下では、実際に歩くこと マーサーが一つの重大な発見をするのに、さほど時間はかからな は不可能だ。大変な大股で跳ねていくのがやっとで、それは何かとかった。少くともこの一の二十分の一のレベルでは、普通の足連 危険なのだ 7 びで階段を降りることが不可能だったのだ。歩いて降りようとする 階段はヘルメット灯の到達範囲の遙か下、暗黒の中へながながとと、じれったいほど退屈な、夢の中を泳ぐようなスローモーション 延びていて、見たところいかにも降り易そうだった。だが、両側に になってしまう。唯一の実際的な方法は、階段を無視して、手すり 走っている高い手すりにつかまって降りるほうが、無難だろう。あをこぎながら体を降ろしていくことであった。 まり不注意にどんどん歩を運ぶと、空中へ弧を描いて飛び出してし キャルヴァートも同じ結論に到達していた。 まわないとも限らない。その結果は、おそらく数百メートル下の表「この階段は、降りるためじゃなく、登るために作られたんだ ! 」 面に、ふたたび着地することになる。その衝撃そのものには、さほと、かれは叫んだ。「重力に抗らって動くときは、段を利用できる ど危険はないだろうが、とどのつまりは危険にさらされる恐れがあが、下りのときは邪魔になるだけです。あんまり格好はよくないか るーラーマの自転が、階段の位置を左へずらしてしまうからだ。 も知れないが、いちばんいい降りかたは、手すりを滑り降りる方法 そうなると、落下した体は、およそ七キロ近く下の平原まで切れ目らしい」 なく弧を描いて続いている、滑らかな彎曲表面にぶつかってしま「そいつは馬鹿げてますよ」と、マイロン軍曹は異論を唱えた。 「ラーマ人がそんなことをしたなんて信じられないー その結果は、トボガン橇も顔負けの猛烈な急滑降の始まりにな「そもそも連中が、この階段を使ったかどうかも疑わしいぜ スキツ・、 旧 0
ら見ると、頭を下にしてぶらさがってるように見えるん ぎざぎざに切りさけたのやら、いろんな凸凹ができてい るやつが、すぐま上に見えているんだからね。今じゃもだが、ところが御当人にはいつもと同じの当り前の姿勢 さ。ただ、奇妙なことって言えば、目をあげるとね、頭 う違っちゃってるだろうがね、そのころの月はーーー・とい の上にはきらきら光る海の大空が、舟も仲間たちも逆し うよりもむしろ月の底というか腹というか、要するに、 こすり合わさるぐらいにすぐそばを地球と並び合って通まにして、まるで蔓からたれているぶどうみたいにぶら ってゆく部分のことだがねーー、とがった石くれで鱗みたぶらさせているのが見えるってことだった。 このとんぼ返りに特別の才能を発揮したのは、わしの いに覆われていたんだ。何だか魚の腹に似ていたね。お まけに匂いまでが、まるつきり魚くさいってわけじゃな従弟のつんぼのやつだったよ。武骨なそいつの手がね、 いにしろ、せい・せい、ほんの少しましな、鮭の燻製って ( 彼がいつもいちばん先に脚榻からとびあがる役だっ た ) 、急にしなやかで、しつかりした手つきになっちゃ ところだった。 実際、脚榻の上からだと、いちばん上の台にのって平うんだ。手がかりになる場所をたちどころに見つけてし 均を取りながら、まっすぐ腕をのばせば、ちょうど手がまう、というより、掌でちょっと押しただけでは、あい さわるくらいにはなった。わしらはきちんと寸法を測っ つは月の表層とくつついちゃうっていうふうだった。一 てやって来たとも ( 遠くなってゆくなんてことは、まだ度なぞは、やつが手をのばすのと同時に、むこうから近 思ってもみちゃいなかったさ ) 。一つだけ、・ すいぶん用づいて来たんじゃないかとさえ、わしには思えたよ。 やつは地球におりて来るときも、やつばり同じように 心しなければならなかったのは、手のつき方だった。わ しは頑丈そうな岩を選んで ( 全員が五、六人ずつの班をうまかった、こっちのほうがずっとむずかしい仕事なん 組んで、交替であがることになっていたんだ ) 、で、片手だがね。わしらなら、これは両手を上にのばしてとびあ でそいつにしがみつき、それからもう一方の手をのばすがるってことになるわけで、それもできるだけ高くだ ( ただし月から見ての話で、地球から見りゃあ、あべこ と、たちまち脚榻も舟もわしの足の下から離れてゆくの がわかって、月の動ぎがわしを地球の引力からひっぺがべに跳び込みか、深いところへ腕をたらして泳いでゆく ってとこが、ずっと似合っていたね ) 、要するに地球か すって感じだった。そうとも、月には強い力があって、 ぐいっと引っこ抜くんだよ、それが両方のあいだを通っら跳びあがるときとまったく同じことだったけれど、た てゆくときわかるんだ。とをほ返りの要領で、ばっとまだ今度は脚榻がないってわけだ、月には台にするものは ノ ) っすぐ跳びあがって、岩をつかんで、両脚をはねあげ、何もなかったからね。ところが従弟は、腕を前につきだに 月の表面に立つようにしなければいけないんだ。地球かして跳び込むんじゃなしに、月面で、とんば返りをする
とほとんど同じ体をしているのに : : : あなたがたは自分たちと ている。その責任がきみにあるとも思っていない : ふと気づいたことがある。いやしくも人の上に立つ者はただ同情同等だと認めていません : ・ : こ かれはため息をつくと、自分で自分に答えて首を横にふり、また するだけではなく、忠告し、示唆し、方向を与えてやるべきではな 、、 0 しカ 話を続けた。 そこでわたしはいった。 「もしかりに・ほくがホモ・サビエンスになってしまったら、・ほくた 「嘘は問題の解決にはならん。それにきみは規律、一番だいじな精ちはまたべつのシホムを創りだすかもしれませんね。それだったら 同じことのくり返しです。憎悪も、おたがいの関係も。あなたは二 神的なそれを忘れている : : : 」 こんなことを言いだすつもりじゃなかったが、この場にふさわし度とこんな部下をもちたくないと思っておられるかもしれません。 い言葉がみつからす、黙っているのが不安だったからだ。そうでもしかし、いなければいないで、人間は自分の目的にむかって前進し しなかったら、とてもかれに面とむかってはいえそうもない、憎悪なくてはなりませんし、そのために人間が変らざるを得ないかもし の原因や、自分と友人たちのこと、不当な表彰の件や、いわゆる指れませんが、またシホムを探しもとめることになるんです。実をい 導者の権威というもの、小学校のそばでわたしが目撃し感じたことえば、人間はとっくの昔に、自己改造をやりはじめているんです。 など、いっさいがっさいについて考えなきゃならない破目になる。現代の人間とシホムの差より、。ヒテカントロプスと現代人の差の 「おっしやるとおりです」かれが認めた。「おおすじでは、おっしほうがはるかに大きいんじゃないんですか。その、永遠に上昇しつ やるとおりだと思います。たしかにあなたがたを侮辱したことになづける人間の変化こそ、人間が偉大であることの証拠ではないでし ようか : : : もし、あなたがたが、ぼくを平等に扱って、人間として ります。でも、・ほくはどうしたらいいのかわかりません、教えてく ・こ癶」し、 、。まくはどうしたらほかの人たちと同じようになれるんです認めてくれれば : : : 」ミハイロヴィチは悲しそうに微笑した。「つ いでだからいいますが、ホモ・サビエンスを略して短くすればサホ か ? なぜ・ほくは憎まれなければならんのですか ? 」 わたしも同しことを考えていた。かれはいっそう頭をひくくたれムとなります。シホムと似ています。との一字違いですからね て続けた。 わたしは心の底から同情した。だが、だからといってわれわれの 「基本的には・ほくも人間です。ところがホモ・サビエンスにはなれ 間にある溝はなくならなかった。 ません。人間が持っているものなら全部ぼくも持っています。ぼく そして、そのことはかれにもよくわかっていた。 の頭の中にあるものは、人間の書いたものだし、人間の記憶してい ることです。だったらどんな新しいことを・ほくが考えだしたにして「もっとっきつめて考えてみます : : : 」 も、結局それは人間の思想ですよ。体を除いては、ぼくはまったく『溝にわたす橋はあるんだろうか ? そして、それは探し求めるだ 人間そのもののはすです。その体にしたって、猿や大はあなたがたけの価値があるのだろうか ? 』わたしはそう思った。 ォルがニズム 9 3
下れば、まったく問題がなくなるだろう。おかげで、探険がひじよ問題はまた別だ。 ほかにここでしなければならぬことは ? かれはまだ不慣れな弱 うにやりやすくなるよ。こりや大発見だーー呼吸装置なしで歩きま わる初めての世界ってわけだよ ! 実際は、これからひと嗅ぎ試し弱しい重力を楽しむこと以外に、何も思いっかなかった。しかし、 いまわざわざそれに体を慣らしたところで、どうせすぐまた、無重 てみるところだ」 軸端部にいるノートン中佐は、やや不安げに身じろぎした。だ力の軸端部へ帰るのだから、何にもならない。 が、マーサーは、自分が何をやるかをつねに弁えている点では、人「これより帰還する、艦長」と、かれは報告した。「もっと先に進 後に落ちなかった。かれはすでに、納得のいくまで充分試験ずみだまなきゃならん理由もないしーーずっと下まで降りる準備が整うま ったのだ。 ではね」 マ 1 サーは内外を等圧にすると、ヘルメットの留め金具をはずし「いいとも。帰りの時間を測ってみるが、気楽にやってくれ」 て、少し隙間を作った。用心深くひと息吸い、次にもっと深く吸っ 三、四段をひとまたぎに跳び上りながら、マーサーはキャルヴァ 1 トが完全に正しかったことを認めた。これらの階段は降りるため てみた。 ラーマの空気は死んでいて、かび臭かった。まるで、物質的な腐ではなく、登るために作られたのだ。うしろを振り返らず、また登 敗の最後の痕跡さえとうの昔に消減してしまった太古の墓から、漂りカープの目暈がしそうな険しさを気にせぬかぎり、この登攀は楽 しい経験であった。だが、二百段ほどを過ぎると、ふくらはぎに痛 ってくるかのような空気であった。生命維持システムのテストを、 命を張って長年続けるうちに鍛えあげたマ 1 サーの過敏すぎるほどみを感じ始めたので、スビ 1 ドを落すことにした。ほかの二人も同 鋭い嗅覚でさえも、これといって特別の匂いを嗅ぎつけることはでじだった。ちらりと肩ごしに見やると、坂のかなり下のほうにい きなかった。かすかに金属的な感じの香りがあり、かれは不意に、 ルナー・モジュール ただもう階段が無限に続 登りはまったく平穏無事な旅だった 月に降り立った最初の人間たちが、月着陸船を再加圧したときに、 いているように見えるだけだった。ふたたび梯子のすぐ下にある最 火薬の焦げるような匂いがした、と報告していたことを思い出し 上階のテラスに立ったとき、かれらはほとんど息切れもしていなか ったし、ここまで来るのに、十分しか経っていなかった。十分間休 月の塵に汚染されたイーグル号のキャビンの中は、むしろラーマ 憩をとると、かれらは最後の垂直の一キロを登りだした。 のような匂いがしたに違いない、とマーサーは想像した。 びよんと跳んでーーー段をつかみーー跳んでーーーっかみーー・跳んで かれはヘルメットを閉じ直して、肺の中から異星の空気を吐き出 つかみ : : : 簡単ではあったが、うつかりすると注意が散漫にな した。生命の維持に必要なものは、何一つそこから検出できなかっ た。これでは、エヴェレスト頂上の空気に順化訓練を受けた登山家る危険があるほど、退屈なくり返しであった。梯子を半ばまで登っ掲 でも、たちまち死んでしまうだろう。だが、もう数キロも降りれば、 たところで、五分間休憩した。このころになると、脚はもちろん、 こ 0 スキツ・ハ
思い出した。 と続いています。たった三本の骨を等角度でとりつけた傘を想像し おそらく、ここにあるのはさらに不思議な海だった・ーー・環状どこていただければ、ラーマのこちら端の光景が、よくつかめると思い 7 ろか、円筒形なのだから。恒星間の夜を飛ぶうちに凍りついてしまます。 うまでは、そこにも波が立ち、潮が満ち干き、海流が流れていたの これらの骨のそれそれが階段で、軸の付近ではきわめて急傾斜で だろうかーーそれに、魚はどうだ ? すが、眼下の平原に近づくにつれて、しだいになだらかになってい 照明弾はすうっとうすれ、そして消えた。黙示の時は終わった。 ます。これらの階段は、ーーアルフア、べータ、ガンマとそれそれ名 しかし / ートンは、これから一生涯、いま垣間見た光景が心に焼きづけましたがーー・連続的ではなく、途中五カ所で環状のテラスに区 ついて離れないだろうことを悟った。将来どのような発見がもたら切られています。われわれの見積もりでは、ステップの数は二万か されようとも、この第一印象は決して消し去られることはない。そら三万はあるに違いありません : : : たぶんこれは、緊急事態の際に して″歴史″はもはや異星文明の創造物を見た人類最初の男、とい だけ使用されたのでしよう。ラーマ人がーー何と呼んでも同じです う特権を、決してかれから取りあげることはできないのだ。 がーーー自分の世界の軸部分に到達するのに、もっといい手段をもっ ていなかったとはとうてい考えられないからです。 〈南半球〉のほうは、まったく様相を異にしています。一つには、 第九章偵察行動 階段がなく、中央の平面的なこしき部分がないからです。その代 り、巨大な尖塔ーー長さが何キロもありますーーーが軸に沿って突き 「われわれはただいま、円筒世界の軸沿いに、五発の長時間遅発照 明弾を発射して、端から端まで綿密な写真撮影をおこなっていると出ており、その周囲にもっと小さい六本の尖塔を従えています。全 ころです。おもな地形はすでにマツ。フしました。確認可能なものは体の配置が非常に奇妙で、これが何を意味するのかは、見当もっき ません。 ごく僅かですが、一応それそれに仮の名称をつけました。 空洞内部の長さは五十キロ、幅は十六キロです。両端はおわん型 二つのおわん部の中間に横たわる、長さ五十キロの円筒部分を、 ですが、かなり複雑な幾何学的設計になっています。われわれはこわれわれは〈中央平原〉と命名しました。明らかに彎曲しているも ちら側の端を〈北半球〉と名づけ、目下、ここ中央軸上に、最初ののに、″平原という言葉を使うのはばかけて見えるかも知れませ 基地を建設中であります。 んが、感じからすればそれで正しいと思います。そこに降り立って 中央のこしきからは、輻射状に一二〇度間隔で、三本の梯子がほみれば、実際平らに見えるでしようからーーー中を這いまわるアリか とんど一キロにわたって延びています。梯子はテラス、ないしはおら見れば、びんの内側も平らに見えるに違いないのと、同じ理屈で プラトー わんをぐるりと一周している環状の台地のところで終わり、そこかす。 〈中央平原〉のいちばん目立っ地形は、ちょうど中間点をぐるりと ら先は、やはり梯子と同じ方向に、三列の階段が下の平原までずつ はしご
「食べる」ってことに結びつかない人なのです。朝日新聞の文芸欄に「ヴォネガットは的手法「へえ」なんて感心してみせたけど、その眼はま るで″ャプー″あるいは″地這い虫″それとも″非 咀嚼を通りこして飲みこむだけ、という感じ。飲で『チャンビオンたちの朝食』を書いた」とあり、 みものですね、この方は。 映画紹介では同じヴォネガット原作の『スロータヴァルダ人″はたまた″フラキ龕等の哀れむべき お酒かな ? 原料の色と形を連想させず、不思 ーハウス 5 』をとりあげて、僕をうれしがらせた的生物を見ているかのようだった。 議な味を抽出してるところ、蒸溜酒でしようね。のだが、その内容文では空飛ぶ円盤やトラルフアをして」ということなのだろう ( 絶対にぼくのひ ル星人のことなど少しも触れていなかったがみなんかじゃない。たしかにそんな顔をしたん 小さな虹色にきらめく透明なグラスに注がれ、天マドー 使の涙と悪魔の冷や汗、といったビターの類が落 ( 少なくとも原作的意味あいにおいては ) と記憶だ。ごんちぐじよう ) 。こんなのがたまに話題に している ( 確かなことは言えないけど。あ ~ あ、なるようなに出遇うと″的手法″とか″単 としてあります。よく冷やしてあり、魂がオー ーヒート気味のとき、ひどくおいしく感じるお酒・プラナーの″記憶ホノグラム説″を信じたくなるではない″といいだすんですよ、きっと。 いささか感情的に書いちゃったけど、これらが なってきた ) 。きっと映画評論家氏は、円盤・宇宙 です。 ・「おい、焦げくさいぞ」と夫の声。あっ、人の類いがでてくると一般客の足が遠のき、この・ほくの被害妄想的傾向の発露だけでないのは、彼 そうだ ! ガスレンジにシチ = ーのつけといたんすばらしい映画に接する人が減ると考えて、 ) ポルのアリガタイ賞を作家たちが幾度となく逃が 。していることでも、充分な傍証となり得るんじゃ だっけー ノに対する映倫みたいなことをやったのだろう それとも、主人公ビリーの娘さんみたいに、狂っないかな、それに関しては半村良でさえ例外では ああ、絶望 : : : お鍋の中はみごとに炭化 ! ト ないのです。何となれば『雨やどり』はじゃ ンマ・シチュー : じゃなかった、マトン・・シチた精神のなせる業と解釈しちゃったんだろうか ? ュ ーがうす青い煙を残して変身しちゃったのでぼくなんか単純に″けいれん的時間旅行″が実在ないでしようーー悲しいことだけど ( シ・ハレンさ んが半村さんの本領を理解してくれたのが僅かに す。さっきから匂ってたウサン臭さはこれだったしたんだとみたんだけど。 のか 具体的に例をあげてしまったけど、前記のよう救い ) 。 でも側にも頼もしい同志 ( 「を読まな ついにひとロも味を見られることなく、空しくなのが周辺を見廻せば幾らでもあると思うんだ。 逝った哀れな羊のカケラたちに対し、謹んで黙疇何故″的手法″なんていうのか、何故「これい奴は・ハ力だ」なんて抗言してくれる豪傑も ) が はですよ」と素直にいえないのか ? この辺大勢いるから、「を嗜む低能児」と巷にざん 言されようともおそれることはない。これからも 三三田斐子 ) に偏見と差別を感じちゃうんだなあ。 ( 川崎市多摩区千代ヶ丘三ー一三ー 『日本沈没』以来、も人口に膾炙され、を読み、且っ創作することに励もうではない 皆さんは新潮文庫解説目録・三島由紀夫『美しスベオペの旧態依然とした図式がようやく改めらかー い星』の欄に「この小説には空飛ぶ円盤や宇宙人れつつあるとのことだが、やはりまだまだ謬った「てれぼーと」を読んだあとはよく眠れるーーほ が登場する。だがこれはいわゆるではなく、 認識も多いようです。特にインテリゲンチャとか 広告ーーー・ 的手法をつかって : : : 」とあるのを御存知でいわれる人々にーーあんまり熾烈なことはいいた すか ? ファンならカチンと来ちゃいますよくないけど、彼らは保守的な余り、″考える″こ クイズについてのお知らせ ね。これを書いた人はみたいな下種文学を三とをやめてしまったのだー 本誌七月号に掲載いたしましたクイズに 島由紀夫が創作する筈がないとでも思ったのでし このような、を荒唐無稽な未来版オデッセ 多数御応募頂きまことにありがとうございま イぐらいにしか思わぬ人たちにとっては、の す。 他にもこれと同ケ 1 スと思われるのがよくある思弁的要素もやはりスベオペの稚拙な書き割りと 同クイズ掲載時に〆切の日時が欠落していま んですよ。例えば、某週刊誌の読書欄でイーデス・しか眼に映らない。彼らにとっては″お子様 した。ここにおわびとともに勝手ながら〆切を′ ハンソンさんが「『日本沈没』は単なるではなランチ″そのものなのだ ( そのわりには「推理小 3 設定させて頂きます。 9 い」という趣向のことを澎湃と綴っていました。説はエスケー。フ文学」なぞとペダンティックな理 〆切七月二日。当日消印有効 むろん彼女は″単なるではない″から・せひ皆由づけをしたがる ) 。 〈マガジン編集部〉 さんもお読みなさいとすすめているのです。また・ほくが先日、友人にを読むことを言ったら
そうではないか、そうであったらーーーという気持ちは、出してはい つまんで、リカのことを話した。グレイスの質問に応じて、さらに けないのであった。 くわしく、よみがえってくる記憶を話しつづけた。話しているうち グレイスはこっちをみつめていた。が、彼が沈黙したので、不意に、なぜか、心の中に澱んでいたものが、わずかずつではあるが吹 に、語調を変えた。 き払われて行くのを感じた。 「さっきは、ずいぶん懸命に泳いでらっしゃいましたね」 「ーーそうでしたの」 「あまりいい図ではなかったでしよう」 話が終ると、グレイスはかすかに溜息をついてから、 「さあ、どうでしようか」 「でも : : : あなたはまちがったと思います」 グレイスは、ひょいと小首を傾けた。「でも、やつばり : ・ : ・前冫 「まちがった ? 」 もいったけれど、それに失礼かも分りませんけれど、あなたは司政「ええ。その方、あなたに司政官への可能性のすべてを捨てて自分 官のようには見えませんわ」 を愛することを求めていたんじゃないと思うんです」 「昔はそうでもなかったのですよ。きっと、年をとって疲れたから「しかし、彼女はそう明言したんですよ」 でしよう」 「わかってらっしやらない ! 」 「年を ? わたしと四歳しか違わないのに ? 」 グレイスは、軽い笑い声を立てた。「一惑星の司政機構をひぎい 「まさかー る、知識のかたまりのような人のくせに : いえ、それだからこそ 「そうなんです。あなたの年齢はここの資料ですぐに分りました。 でしようね : : : 何もわかってらっしやらないんだわ ! 」 そうなんですのよ」 「これは想像ですけど : : : そして、きっとそうだとしかいえません それにしては若く見える、と、シゲイは相手を見やった。 けど : : : その方、言葉でそういっていただけなんです。あなたを待 「ほんとに、司政官らしくない司政官」 っていたんです。あなたが踏み切るのを待っていたんです。そうい グレイスは、低い笑い声を立てた。「ナイー・フなんですね。とてっていただけなんですわ」 も傷つきやすい感じ」 「ーーそうでしようか」 「もう終りましたよ。そんな時代は、過去のことです」 「そうだと思います。あなたは思い切って賭けるべきだったんで 「思い出をお持ちなんですね ? 」 す。そういうときがあるものです。それを : : : あなたはおそれた」 「思い出 ? 思い出と呼べるほどのものかどうか」 「おそれた ? 彼女を傷つけることをですか ? 」 「よければ、聞かせて下さらない ? 」 「その方は傷ついてもいいつもりだったんです。おそれていたのは、 シゲイはためらった。 司政官、あなたですわ。あなた自身、傷つくのがこわかったんです」 ためらったが : : : プールでの運動時間はまだだいぶ残っていた。 「ーー良く分らない」 も報告にあらわれなかった。午後のゼクテンの陽光が天井か「そうなんですよ。あなたは、わたしは知らないけど、いろいろ苦 ら射して、彼は、もう少しこうして喋っていたかった。彼は、かい労して来られたと思います。だけど、すくなくとも女性相手には、 しュ / 262
かたちが出来かけていたのが、再び混乱状態に落ち込んでいる。そための護衛ロポットの増強を依頼しながらであろうが・ : : ・それは彼 んなときに、こまかい情報といえども、聞き逃すわけには行かなの知ったことではなかった。 彼はプールから這いあがり、それから、グレイスが来る迄にまだ だから彼は、昨今、彼が泳いでいる最中でも、公務室と同じよう多少は時間がありそうだと考えて、跳込板の上に立「た。 に連絡を受けることにしていた。 飛び込む。 もっとも、報告にやって来るのは、、 しつもであった。もと 自由形で、全力をあげて泳ぐ。むこうの端でターンして、戻って もと司政官の随行隊長としての機能を与えられているが、で来ると、そこに、グレイスがいた。プールサイドの、ロポット官僚 ある。の指令でそうなっているのだ。ということは、の誰かが用意したらしい椅子に腰をかけて、こちらを眺めていた。 にしてみれば、司政官がたとえ司政庁内のプールで泳いでいても、 彼は水をしたたらせながら、にロー・フを持って来させ、 公務室にいるのとは違う状況下にあると判断しているのだろう。 それをひっかけると、グレイスの前の椅子にすわった。 ともかく、そのだ。 「こんな格好で失礼」 「何だ ? 」 と、彼はそう挨拶した。 シゲイは、プ 1 ルの縁から首をもたげ、水中からたずねた。 「いいんですのよ」 「面会要求です」 グレイスは、・ とこか面白がっているような目で彼を見やりなが は応じた。「グレイス・グレイスンが面会を求めています。ら、微笑を浮かべて答える。彼には ( 自分でも妙な感じだ 0 たが ) cnOr-«は今なら面会可能と判断しました。グレイス・グレイスンそれが少し眩しいもののような気がした。 は、なるべく早く面会したいと申し出ています。お会いになります「おかげさまで、ゼクテアの定期移動というのを見せて貰うことが できました」 グレイスが ? と、すると、彼女は、ゼクテアの定期移動を観察と、グレイスよ をいいだした。「そのお礼をかねて、ご報告にあが して戻って来たのであろう。 ったんです。お忙しいのに、ご迷惑ではなかったですか ? 」 「会おう」 「いいや。泳いでいたんですからね。 で、いかがでした ? 」 彼は答えた。答えたから、そのためには一度着替えてどこかの部「やつばり、ショッ クを受けましたわ」 屋におもむかねばならないのに気がっき、補足命令を出した。「こ グレイスはいう。「話に聞いていたよりもすごかったものですか のプールサイドでなら、今、会おう」 ら。とくに、あの色の変わりかたは、残酷ですわね。残酷で鮮烈だ 「承知いたしました」 けど : : : 」 は引返して行く。おそらく、外来者をこのプールに入れる「そうでしようね」 2
′なみ だった。こんなふうに、やつはどんどん先へいってしま んで、まるで月に悪戯をして驚かせてやるか、むしろく すぐってやろうってしているみたいだった。やつが手をつて、やがてふっと見えなくなってしまった。月の上に かける場所は、たちまち山羊の乳房みたいにミルクが湧は、わしらに探険して来てみようなどという好奇心も、 き出て来るんだ。だから、わしらみんなにすれば、やつまたそんな必要を一度だって感じさせたりしたことのな のあとについていって、やつがあっちこっちとし・ほり出い地方が、いくらだって拡がっていた。ところが、従弟 してゆくその乳液を集めるだけでよかったんだ。ところが姿を消したのは、そういう所なのだ。例のとん・ほ返り ジャンプ にしろ跳躍にしろ、わしらの目の前であんなふうにふざ がそのやり方は、まるででたらめなんだ、つまり、やっ の進んでゆく道すじは、どう考えたって、はっきりした実け狂ってみせていたのはみな、隠れた場所でやがて起こ るに違いない何かしら秘密のできごとの序奏、たんなる 際的な目的があるようには見えなかったのさ。例えば、 ただ触ってみたいから触ってみただけだっていうような準備にすぎなかったのではないかと、実は、わしもすで 場所だってあった、岩と岩とのすきまとか、露わにのそに考えていたことだったのだ。 けて見えている柔らかな月の地肌のしわのあいだとか《亜鉛》礁沖のそうした夜は、一種独特の気分がわしら を捉えていたものだった。陽気な、それでもいくらか不 ね。ときには、手の指を押しつけるんじゃなくって ジャンフ じゅうぶんに計算された跳躍の動作を利用してねー・・ー足安な気分だったよ、まるで頭のなかには脳みそのかわり に、魚が一匹、月の引力にひかれて浮かんでいるという の親指を使うんだ ( やつは月には裸足であがったんだ ) 。 そのとき、やつののどから出た声と、またそのすぐあと感じだったな。こうして、わしらは歌をうたい、楽器を 鳴らしながら漕いでいったものさ。船長夫人はハープを に始まった新しいジャンプとから察すると、どうやら、 ひと やつにとってはそれはよほど愉快なことだったに違いな弾いてね。あの女の長い長い腕は、そういった夜の光の なかでウナギのように銀色に見え、また腋のく・ほみはウ 、カュノ ニのように黒々と神秘的に見えていた。そして竪琴の音 月の地層は一面が鱗のような石ばかりで覆われていた というわけじゃなくて、つるつると滑りやすい、白い粘は甘く鋭く、飽くまでも甘く鋭く、じっと立ってもいら 土をむきだしにした不規則な区域も、ところどころで見れないくらいで、やむなくわしらは長い悲鳴をあげたも せていた。このふわふわした場所が、つんぼのやつにとのだ、楽の音にあわせるというより、聴覚を保護するた んぼ返りや小鳥のように飛びまわったりの気まぐれを呼めにな。 てび起こさせるのだが、その様子ときたら、まるで全身で透きとお 0 て見える無数のクラゲが海面に姿をあらわに 月のしんこ餅に自分のしるしを残しておこうというようしては、少しのあいだ震えているが、やがて体を波打た チンク ね