考え - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1975年9月号
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1. SFマガジン 1975年9月号

はなるけれど、傷痕は残らないはずよ」 「おれも町を見てみたいな。いっか」 「もし蛇が尾で刺すというのがほんとうなら、あなたは牙も針も押「砂漠は越えられるわ」 さえてしまったんだから、おれが手伝うことはあんまりないんじや若者はなにもいわなかったが、スネークの故郷を離れた記憶は、 ないのかね」 相手の考えをおしはかれるほど、まだなまなましかった。 「今夜のわたしは、眠らないように横につきそってくれる人がほし つぎの一連のけいれんは、スネークが予想したよりもずっと早く いの。〈霧〉を扱うのを手伝ってくれるかどうかよりもね」コプラやってきた。その激しさから、彼女はステーヴィンの病気の重さを との格闘で生みだされたアドレナリンも、いまではそろそろひきはおしはかり、朝を待ちこがれた。もし、ステーヴィンが助からない じめて、彼女の疲れと飢えは、いっそう強くもどってきた。 ものなら、一刻も早く苦しみを終わらせてやり、泣いて忘れてしま 「スネーク : し / し コ・フラは、もしスネークと若者が押さえていなかったら、 砂の上に自分をたたきつけて死んでしまったかもしれなかった。と 若者は、なかば照れたように、ちらとほほえんだ。「発音をためつぜんそのコ・フラが、体をピンとこわばらせた。あごを食いしば してみたのさ」 り、先の分かれた舌をだらんと下にたらした。 「どうぞ」 呼吸がとまった。 「砂漠を越えてくるのに、どれぐらいかかったんだい ? 」 「しつかりつかまえていて」スネークはいった。「頭をもつのよ。 「それほど長くは : さあ、はやく。もしむこうが手からぬけだしたら、逃げなさい。さ しいえ、長くかかりすぎたわ。六日間」 「どうやって命をつないだんだね ? 」 あ、つかんで ! いまはあなたを咬みはしないわ。せいぜい、ふり 「水はあったわ。日かげの見つからないときは、夜中に旅をしたまわした尾がまぐれであたるぐらいよ」 の。きのうを別にして」 若者は一瞬ためらっただけで、〈霧〉の頭を後ろからっかまえ 「食料もぜんぶ持ってかね ? 」 た。スネークは走りだし、深い砂に足をとられながら、まるく立ち 彼女は肩をすくめて、「すこし」と答え、食料の話などしないで並んだテント村の縁から、まだところどころに残るやぶをめざし くれればいいのに、とった。 た。傷痕だらけの手がかきむしられるのもかまわず、枯れたとげだ 「砂漠のなこうにはなにがある ? らけの枝を折りとる。目のすみに、ホーンド・ り蛇の一種 ) 「これとおなじような砂、これとおなじような茂み、それにいくらの群れが見えた。ひからびた茂みの下に巣くった彼らは、みにくく かの水。いくつかの村と、交易商人たちと、わたしがそこで育ってねじくれて見えた。蛇の群れはシ = ー ッと唸りを上げたが、彼女は 訓練をうけた施設。そのもっとむこうには、山とその中を掘りぬい 目もくれなかった。細い中空の茎を一本見つけると、それを持って 5 た町」 駆けもどった。深くかきむしられた両手は血だらけたった。

2. SFマガジン 1975年9月号

いう自転に従っていますーが、上昇して南北に流れるとき、同じそうだった。いちいち運びあげるとなると、想像もっかぬほどの労 問題にぶつかるのです」 力がかかるーーーー実際問題として、とても不可能であった。ときおり 8 「ああ、貿易風ね ! 地理学の講義で聞いた覚えがありますよ」 ノートン中佐は、この奇妙なまでに清浄な場所を、ごみだらけにし 「その通りです、ロバート卿。ラーマにも貿易風が吹くのです、そたまま立ち去ることに、なぜともない恥ずかしさを感じた。最後に れもいやというほどの。もっとも、数時間も吹けば、あとはまた一立ち去るとき、かれは貴重な時間をいくらか犠牲にしてでも、きち かん んと後片づけをしていこう、と秘かに思い定めていた。ますあり得 種の平衡状態が復活するでしよう。その間、私はノートン中佐に、 緊急避難ーーーそれもできるたけ早くーーを勧告したいと思います。ないことではあるにしても、万一、何百万年か後に、ラーマがどこ かの太陽系内を飛び抜けるとき、再び訪問客を迎えないとも限らな 私としては、こんな電文を送ったらいかがと存じます」 い。かれはその連中に、地球についていい印象をあたえたいような ちょっぴり想像力を働かせるだけでーーと、ノートン中佐は思っ気がしたのである。 すそ 一方では、かれはもう少し切実な問題を抱えていた。この二十四 ここは、アジアがアメリカの辺鄙な山裾に張った、応急的な 夜営地だというふりをすることもできそうであった。ごたごたと散時間のあいだに、かれは火星と地球の両方から、ほとんどそっくり らかった寝袋だの、折りたたみ式の椅子とテープルだの、携帯用発同じ電文を受け取っていた。それは奇妙な偶然の暗合に見えた。お 電機だの、照明器具だの、電子処理トイレだの、雑多な科学機器だそらく、かれらは互いに同情を感じていたのであろう。それそれ異 のは、地球の上でもべつに場違いな物品ではなかったからだーーとなる惑星の上で安穏に暮らしていれば、どんな妻でもたいていはじ りわけ、生命維持装置もつけずに、男女が立ち働いているとあってりじりしたあげく、そうするものなのだ。かれらは多少あてつけが ましく、たとえいまやかれがどんなに偉大な英雄であるにしても、 は、なおさらそうである。 っこ。よ家族に対する責任はまだ免れないのだということを、指摘してい キャンプ・アルフアの設立には、たいへんな手間がかかナオ にしろ荷物という荷物を、一連のエアロック内は人手で運び、〈軸た。 中佐は折りたたみ式の椅子を拾いあげると、光の輪から歩み出 端部〉からは斜面を橇で滑降させ、それからやっと回収して開包し なければならなかったからだ。ときには・フレーキ用のパラシュートて、キャンプを取りかこむ暗闇の中へ入っていった。。フライヴァシ ーを得るには、これしか方法がなかったし、それに喧騒から離れた が開かずに、託送物が平原上を一キロも先まで行ってしまうことさ えあった。それでも、二、三の艦員は橇の便乗許可を願い出たが、 ほうが考えがまとまるというものだ。かれは背後の組織立った混乱 ノートンはそれを固く禁じた。とはいうものの、いざという場合に に、わざわざ背を向けると、首からぶらさげたレコーダーに吹きこ み始めた。 は、この禁令を再考しなければならぬかもしれなかった。 こうした機材はほとんど全部、このまま放置していくことになり 「原文は個人用ファイルに、複写は火星と地球に送信。ヘロー、ダ

3. SFマガジン 1975年9月号

ったのである。本来は、それらの宇宙活劇オペラ全盛時代に、荒唐無稽で俗悪で低級マガジンには、しかし、何か強力 に、これだけは備わっていなければならな なポンチ絵まがいの娯楽小説という焼印な、。 ( ンチのある作品が必要だった。その い、的フィ ーリングと、原初的なロマを、ひとしなみに押されてしまう破目に陥意味でいえば、スペース・オペラは、たし ンチシズムが、意外に稀薄であることに気った。そして、その影響は今日にまで尾をかに、打ってつけのパンチカを持っていた づいたからである。 引き、を他に遜色ない小説形式と考えはずだった。それは・ほくも、よく知ってい た。つぎの引用はそれについて後年書いた 宇宙小説が、本来的に持っている問題性させることを妨害しているのである。 を、思想性を、文明論としての可能性を にもかかわらずぼくは、マガジン発文章の一節である。 そうした大切なすべてを、救い難く損行後二年め頃から、それらのスペース・オ「たしかに、スペース・オペラは、単純な ・なってしまうおそれを感じたからである。 。ヘラ的作品に頼らざるを得なくなっているだけに、の初心者にとって判りやす く、しかも若い読者むきのマンチシズム . いわゆるスペース・オペラが読まれること自分を発見したのであった。 ( 中略 ) によって、全体が受けるであろう誤解それは当時、・ほくにとって、一種の屈辱に満ちている。それは嘗て、アメリカの 読者の血を湧かせ、現在の読者の厚 でさえあった。 が恐ろしかったからである。 い層をつくらせるに至った同じマンチシ そして事実、歴史的に見てもスペース・ 誌は、人ぞ知る凝り性のガンコ ・ハウチャーのズムである。同時に、スペース・オペラの オペラは、その名前の由来に似つかわし いおやじ的批評家アンソニー マイナスを、全体に流している。編集になり、同誌には、それそれ一ひねり作家たちの、徹底したサービス精神とエン は、猖獗をきわめたアメリカのスペース・ も二ひねりもした、文学的持味のつよい作ターテナーぶりとは、そうしたものをあま 品が多く掲載されていた。それり知らない日本の若い読者たちを、興がら は、。ハウチャーが、アメリカ rn せるにちがいない。 さらに、より重大なのは、やはり、スペ , を、スペース・オペラの泥沼 ース・オペラの持っている、あの驚くべき から救いだし、新しいアメリカ 現代文学の一領域としようとすヴァイタリティである。その、初心に戻っ る意気ごみを、きわめて明瞭にた原初的な感情の新鮮さである。少年時代 に、はじめて天文学書を読んだときに抱く かつは独断的にあらわした あの感動ーーーわれわれを取り巻く空間と時 編集方針でもあった。 間の厖大さの、そのほんの一端を知りえた そうした、いわば高踏的な から、一時代以前の大衆的と知ったときの筆舌に尽しがたい感動。そ ・、、まくにとの先に果しなく拡がっているであろう神秘 へ後退することカ ~ な世界への憧憬。それらを、本来のスペー って決して楽な決断でなかった スをオペラは生のままに持っている。どん ことはもちろんである」 ~ 矢野徹氏

4. SFマガジン 1975年9月号

たので、 = コラスはそれをよけるために砂浜の上のほうへと移動し「しかし、おれの焚火へ行くことはできない。火が消えてしまった た。上では風が強かったが、それでも彼は眠りにおち、さっき自分のだ」 がやってきた方角にひらめいた光で、いっとき目をさましただけだ「新しい火をおこすことはできないのです力 , った。彼は何がその光の原因だろうと考え、ダイアンとイグナシオ「きみはおれを信用していないな、ええ ? むりもないことだが。 もしそうしたければ、お が火の弧をながめるために、燃えたまきを空中へ投げているところいや、おれには新しい火はおこせない を想像しーー眠くて腹を立てる気にもならなかったのでー・ーーにつこれの持っていたものを使っていいから、おれのいなくなったあと で、きみが火をおこせ。おれはただ、さよならを言いにきたんだ」 りほほえむと、また眠りにおちた。 「どこかへ行くんですか ? 」 つめたく不機嫌な朝がおとずれた。ニコラスは両手で体をこすり ながら、砂浜を駆けの・ほり、駆けおりた。霧雨かそれとも波しぶき揶子の葉をゆする風がいった。「イグナシオはもうずいぶんよく か、どちらとも見わけのつかぬものが風にまじって、光を灰色の輝なった。彼はこれからほかの場所へ行くんだよ、 = コラス」 きにかげらせていた。今もどればダイアンとイグナシオがいやがる「どこがの病院へ ? 」 のではないかと気をまわしたすえ、彼はもうすこし待っことにき「そう、病院へ。しかし、たぶん彼は、そこにも長くいないですむ だろう」 め、それから何か手みやげを持っていけるように、魚とりをしよう かと考えた。しかし海はおそろしくつめたい上に、波も荒く、彼を「だけど : : : 」ニコラスは、何かこの場にふさわしい言葉を思いっ こうとした。彼が監禁されたことのあるセント・ジョンやそのほか もみくちゃにして、その手から竹のやすをもぎとってしまった。。ほ た。ほた水をたらしながら、揶子の木の幹に背中をくつつけてうずくの病院では、だれかが退院するときには、しごくあっさりと行って まり、上向きにカー・フした海を見つめている彼を、通りかかったイしまったものだ。いったんだれかが退院の予定で、したがって、外 の人びとの微笑を凍らせ、涙を乾かせているあるものに、すでに汚 グナシオが見つけた。 染されているとわかると、その人間はもうみんなから話しかけても 「やあ、いたな」イグナシオはいった。 らえなくなったからだ。ようやくのことで、彼はいった。「魚のと 、。、トラン」 「おはようございます イグナシオも腰をおろした。「きみの名は何という ? たしか最り方を教えてくれて、ありがとう」 初に会ったときに聞いた気がするが、忘れてしまったんだ。すまな「礼はいいんだよ」イグナシオはいうと、立ちあがり、ニコラスの 肩に片手をおいてから、むこうを向いた。彼の四メ 1 トルほど左 で、湿った砂が盛りあがり、ひび割れはじめていた。ニコラスが見 「ニコラスです」 まもるうちに、その下から、白い壁にかこまれた明るい昇降路の入 「そうだった」 パトラン、わたしはすごく寒いんです。これからあなたの焚火ヘロが現われた。イグナシオは眼にかぶさった黒い巻き毛を後ろへか きあげて、その中へ下りていき、やがて砂がどすんと音を立てて閉 行って、あたらせてもらえませんか ? 」 じた。 「おれの名はイグナシオだ。そう呼んでくれ」 「もうこれつきり帰ってこないんだね、イグナシオは ? 」ニコラス ニコラスは恐怖にかられながら、うなずいた。 99

5. SFマガジン 1975年9月号

また、黒法師先生の翻案が実にビタリと決まってい れは、当時の報知新聞の評によれば、 て、原書からの直訳ではなく日本語訳からの翻案ではな こんな面白い物語を近頃読んだ事がない、五百頁を終いかというふしも見受けられます。 ( ただし、これはあ くまでもぼくの直感ですから、あまりあてにはなりませ 始一貫して不思議な事許り続出する、唯不思議と言った 丈では到底感興の千分の一も言尽せぬ、何がさて絶世のん ) だとすれば、明治二十五年から四十五年のあいだに初 美人 : : : 一目見た許りで其美しさに気絶しない男がない 美人、之を憐んで男助けの覆面を掛けて居 : : : 素張敷い訳があるのだろうと考えられますが : 美人が二千年以上を生き永へて、恋人の子孫が自分を探あまり、あてにならないことばかり書いてもしようが しに来るのを待って居る、所は何処 ? 名は何と ? 此ないので、このへんで許してください。なお、黒岩涙香 物語を読むとまだ / \ 何とも言へぬ不思議な面白い事ががハガードを訳している事実は残念ながらないようで 沢山出て来る、吾知らすポーツとする稀世の神秘小説。す。涙香のみならず、明治期に ( ガードの翻訳が少ない のは、冒険小説とはいっても他の冒険小説作家の文体に という内容の小説で、作者は黒法師先生となっていま比べると、かなり緻密でむすかしいせいではないかと思 います。 す。 では、例によって、「大宝窟」と「美人探検」のサワ しかし、「 She 」を読んだことのある読者なら、この リを原文引用で少々 : 評から「美人探検」が翻案であることはすぐにわかるで しよう。これも涙香の「今の世の奇蹟」と同様、訳の文 この小説の舞台は、雨の迷ふてふ亜非利加の大荒漠、 字がなく、また舞台、登場人物を完全に日本に移してあ おのれ るので、翻案とは思われていなかったようです。 ( とい主役は斯くいふ予アラン、クオーターメーンと、士爵へ うよりも、むしろ、この本の存在自体が、ほとんど知らンリー、カーチス、及び海軍の尉官グードの三人にて、 ャッテ退けたり。序幕の口上は、是れまでとして、いで れていないようです ) おのれ では、この「美人探検」を初訳と断定することができ先づ余が此の二人の紳士に、面識を得たる次第を聞こえ ばや。 るか、というと・ほくにはやはり、あまり自信がありませ イギリスうまれ ん。報知新聞の評には、「こんな面白い物語を近頃読ん予はもと英吉利生なりしかども、小学校に入学べき頃 あひて より、ナタルの植民地に徒り住み、土人を対手の闘争 だ事がない」とあるので、初訳のような気もしますが、 めあて 「因業老爺」が原作発表から四年後、「大宝窟」が九年と、野獣を目的の狩猟、さては鉱穴の工夫と貿易商とし 後、「二人女王」が十六年後と比較的早く訳されているての生業に、酸味苦味を嘗めつくし、五十余歳の今日ま のに、この名作が二十五年後にやっと初訳されたと考えで、浮きもせず、沈みもせす、花笑う春、鹿鳴く秋を、 めぐりあ るのはどうかと思うからです。 一炊の夢と過ごしたりしに、一度二人の冒険家に邂逅ひ

6. SFマガジン 1975年9月号

サヴェッジ ハウチ ッド・ジョンや野蛮人や、レンズマンたちについての考え方が、アンソニー かしこのときのことを思いだすたびに、・ほ ャーや・ハジル・ダヴェンポートなどのそれ くは、当時作家たることがいかに難しやジョン・カーターとその息子たちゃ、シ ートンやジェイムスン教授やキャンベル三「 , の影響を受けていたためもあった。彼らは かったか、にもかかわらず作家たろう ・とする彼らの決意がいかに強固だったかを人組や , ー・・・・その他数えきれないほどの新旧、スペース・オペラを、堕落したと考え の英雄や宇宙怪獣やが、同居していた時代ていた。そしてぼくも、その意見に、全面的 ・思うのである。 であった。この時代を素通りしては、アメに賛成だった。ロマンチックで、ドラマチ ックであることをーーー・そして、時としてグ リカは存在しなかったといってもいし 時代ーーーヴァイタリティと、渾沌とが身上ラン・ギニョ 1 ルであることを唯一の武器 として、科学の衣をかぶせ舞台を宇宙に移 だいぶ回り道をしたが、 t-o マガの時代でもあった。 マガジンは、三〇年出おくれて しただけの安価な大衆冒険小説であること ジンの迫られた転機にあたって、・ほくが、 具体的にどのような方向づけをしたかにった。そのため、この時代の良かれ悪しかれをてんとして恥じないその幼児性は、・ほく の洗礼を当然受けていなかった。・ほく自身にはとても戴けなかった。そんなものを、 いて、できるだけ正確に話を進めよう。 前にもいったように、・ほくが第一に考えの好みだけでいえば、・ほくはスペース・オ、日本の読者に送ることは、・ほくのプラ たことは、海外作品の主流を、従来の。ヘラが性に合わなかったし、ぼくの判断か、イドが許さなかった。 とはいっても、・ほくも、最初からスペー リらいえば、そうしたものを最初から日本の ;-v 誌の・ハックナイハー作品から、パプ ック・ドメインのーーー一九三〇 ~ 四〇年代読者に与えることは得策でなかった。そうス・オペラを毛嫌いしていたわけではな というより、読みはじめた最初の頃 のアメリカ・イギリスのに切りかえよすれば、たちまち世間から、ポンチ絵の、 は、火星シリーズといいキャプテン・フュ うということであった。この年代は、とく荒唐無稽の通俗小説のと軽蔑されること スカイラーク、レンズマ 1 チャーといし にアメリカにとっては、きわめて重要は、目に見えすぎていたからである。 ンなどの諸作といい、結構楽しめたものだ ここでまた、以前・ほくがスペース・オペ な年月であった。それは、一語にしていえ ば、アメリカの躍進を準備するためラに就いて書いた文章の一部を、少し長くった。それがな・せ途中から気が変ったのか といえば : : : 端的にいって飽きたのであ 引用することを許してもらいたい。 の、あらゆることの起こった時代であっ いいながら、その実はマン 「ーーとくに初期の頃、ぼくはスペース・ る。波瀾万丈と た。そこには、スペース・オペラから、ハ 、主人 ードにいたる , ーーヒロイック・ファンオペラとレッテルを貼られた作品を、殊更ネリでステロタイプな筋立てといし に避けた。を、荒唐無稽なポンチ絵ま公たちのあまりの超人的能力とそれに見合 タジーからリアリスチックなサイエンエイ フィック・フィクションにいたるあらゆるがいとーーー・知能指数のひくい幼児性精神がわないあまりに精薄的な知能と、単純素朴 ・ものがあった。キャプテン・フュ 1 チャー描きだす幼稚な妄想のたぐいと見られるので魅力のない非個性的な情緒と感受性と 要するに、あまりに安手な、粗雑な、 を、極度におそれていたからである。 や、シャン・フローや、クワールや、マイスリ それは一つには、ぼくの〈望ましい〉ご都合主義的な内容に、我慢がならなくな ングや、ロビーやビッグ・・フラザーや、オ ロ 4

7. SFマガジン 1975年9月号

以下強烈なニューウェーヴへのいやみに続くのだ ぎつかったようで、身にしみて反省するのです。ま が、ファイルという人はこんな考えの人。ほんの二 あ、いいや。どうせ、・ほくの狂うのは、メイン・ス 年前はこういう話が大っぴらに出てきたし、それだ トリームにはならない人ばかりだもんね。今回は、 けの価値もあったのです。いやになっかしい論旨だ ゼラズニーの「 Lord of Light 」とデニケン・タッ なあ。結局ヴァーテックスはダウンして、たとえば チのインチキ科学テーマでもやろうかいなと思って オービットなんてアンソロジ ー・シリーズは依然と いたけど、それはもうちょっと時間をもらったほう して残ったりしてね、わかんないものさ。もっとも が良さそうなので、何の脈絡もなく オービットあたりは、ペ ー・ハックとしては部数 「 Voyage to A Forgotten Sun 」 が普通の五分の一から四分の一位なんだってね、売 by Donald J. Pfeil れにくいのだ。ともに極端はいけない ( 商業的な意 というのから行ってみよう。凄絶 /. スペース・ 「 0 0 0 0 味でだよ ) ということなのでしよう。 オペラなんそというコ。ヒーに負けて、ついつい買っ てなわけで、「忘れられた太陽への旅」という作 てしまったのだ。・ほくは根っからのス。ヘース・オペ ラ・ファンなのでせう。ファイルと読むのかね、著ーのない作品を書くのがたくみな人だった ) にこう品、もしかしたらファイル氏の理論の実践か / と 者は、あの馬鹿高い「ヴァーテックス」の編集長な尋ねたのだ。どうしてあなたはハインラインの ( クいう興味が湧いてくる。 主人公はフリーの宇宙商人の一人、ジム。彼は閉 のです。あんな高くて薄っぺらな雑誌、良く出てるラークでも、アンダースンでも、ハリスンでもよい なあと思っていたら、この間、つぶれちゃったそうが ) スタイルやプロットを自分の作品に取り込まな鎖的な惑星「スタンドラ」を宇宙貿易にひきこむた で、やつばりというか、当然というか、とりあえずいのか、と。彼の答えは、それらの作家たちのスタイめに、宇宙商人ギルドから派遣されてきた。ところ 黙疇。しかし、スペース・オペラ /. なんて恥知らルはすでに過去のものであり、オールド・ファッシが、どうあがいても駄目、ついにジムは密貿易とい ずに売り出した現代作家の作品てのは、かなり珍しョンなのだということだった。なるほど、私はオーう最後の手段に訴えた。何事も悪いことは栄えない いのじゃないかな。中味が楽しみですな。この作ルド・ファッションなのかもしれない。だが、小説のです。ジムはあえなく警察に捕まって、二十年間 者、実にうれしい人で、毎回、ヴァーテックスの工を書く行為には二つの目的があると信じている。一の禁錮刑を宣告されてしまう。これが本当の禁錮刑 デイトリアルを書いていたのだけど、七三年の十月つは読者を楽しませること、もう一つは金をかせぐというやつで、一部屋に二十年間とじこめられつば ことだ。個人的にも、プロとしても、ヴァーテックなし、実質的に死ぬか狂うか、どちらかしかないと 号には、こんなことを書いてる。 ー・ラヴスには、或いは一般的なには、もっと多くのハくる。ギルドは助けにきてくれないし、ジムはさび スハインラインのタイム・イナフ・フォ を読んでいて ) のニューウェーヴ派の一人と話インラインのようなオールド・ファッションの作家しく刑に服すことになるのです。そして数カ月後 ( 当然、スペース・オ。ヘラだもの、こうなる ) 、ジム トーリが登場して欲しいと思う」 したことを思い出した。私はその人 ( 例のス - PRINT 」デ A R ( ) し、 G SPACE ()PERA ◎当 A ( じ ()O LL スキ。ャナー 3

8. SFマガジン 1975年9月号

ごっごっした岩のまえに立ち、ココナツを両手で持っている姿を想 っ深い密林だった。その幹の一本に、彼は息を切らしてよりかかっ た。人類の出現以前の長い時代の地球を思わせる、静かで眠りこけ像してみた。彼はそれをふりかぶって岩の上にたたきつけたが、ぶ つかったとき、それはもうココナツではなく、マヤの頭だった。ばち た雰囲気の中で、聞こえるのは彼の心臓のどきどきいう音だけだっ た。イグナシオが近くをさがし歩いているのではないかと彼は耳をんとゴムの切れるような音を立てて、鼻の軟骨が折れるのが聞こえ た。彼女の瞳、あの卵の中のきらめく青空、インドのマドヤ・プラ すましたが、それらしい物音はなにもしなかった。ニコラスはよう やく大きな息をついていった。「さあ、これですんだ」アイランドデシ州の上空のように青い瞳が、彼を見上げたが、彼はもうそれを 博士がなにかの答を返すだろうと期待したのだが、緑のしじまがあのぞきこめなかった。マヤの瞳は彼のそれから遠のいてゆき、そし るだけだった。 てまったくだしぬけに、こんな考えが彼の頭にうかんだ。堕天使ル 日ざしはまだ明るく、強く、そしてほとんど影がなかったが、あシフェルは、天国から落ちるとき、二度と地球の暖かい緑と茶を見 ることのない、宇宙空間の火と極寒へと、上に向かって落ちていっ る内部感覚から一日の終わりの近づいていることを教えられて、 彼はかすかな影がそれぞれの物体から長く水平に、ゆがんだ尾をひたのにちがいない。われ天より閃く電光のごとくサタンの落ちしを いているのを、見わけることができた。空腹は感じなかったが、ま見たり。どこかでそんな言葉をテープで聞いたお・ほえがあるのだ が、どこだったかは思いだせなかった。地球では電光が雲から下へ えにも絶食の経験のある彼は、自分が飢えのどちら側に位置してい るかを知っていた。たった一日前と比べてみても体力が弱っている向かわずに、惑星の表面から雲へ向かってとびあがり、そして二度 し、明日の今ごろになれば、たぶんイグナシオから逃げきることもと返ってこないのだと、本で読んだことがある。 むりだろう。いまになって彼は、あのとき猿を食べておけばよかっ 「ニコラス」 たと気づいた。しかし、生肉と考えるだけで胸がむかっくし、それ耳をすましたが、二度と彼の名を呼ぶ声は聞こえなかった。かす に、前の晩イグナシオがおこしたらしいあんな焚火も、彼はどうや かに水のぶくぶくいう音がする。アイランド博士はその音を使っ っておこしていいか知らないのだ。かりに魚がとれたとしても、なて、彼に話しかけようとしたのだろうか ? その方向へ歩いていく まの魚では、なまの猿とおなじで、食えたものではないだろう。まと、木のあいだを縫って流れる小川が見つかったので、彼はそれを えにココナツの実を割ろうとしたことがあったのを、彼は思いだし たどっていくことにした。約百歩ほどで川幅が広がり、流れがゆる たーー・・あのときは失敗したが、決して不可能ではないはずだ 9 ココ くなって、木の葉のドームを上にいただく細長い溜まり池にかわっ ナツの実の中になにがはいっているかとなると、あやしげな記億し た。ダイアンが、向かい側の岸の苔の上にすわっていた。眼を上げ かないが、中味は食べられるにちがいない。たしかそんな場面を本た彼女は、彼をみとめてにつこりした。 で読んだ気がする。彼はジャングルの中を斜めにぬけて、イグナシ 「ヘロー」と、彼はいった。 オから遠く離れた浜辺へ出ようと、心をきめた。椰子の木の下の砂「ヘロー ニコラス。さっき、あなたの声が聞こえたような気がし にココナツが落ちているのを、これまでに何度か見たことがある。 たの。やつばり、あたしの空耳じゃなかったわ、でしよう ? 」 まだいくらかこわごわ、彼はそうっと歩きだし、もしココナツが「おれ、なにもいわなかったと思うけどな」 見つかったらそれを割る方法を、歩きながら考えた。自分が大きな ためしに暗い水の中へ片足をひたしてみた彼は、水がひどく冷た

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もして歯を折ったりしてごらん、どれだけお金がかかるかしれたもしやばしやかけて冷やしていた。「もしそれが明々白々で、むこう んじゃないわ」 が理解できて当然ならねーーーあたしとうちの家族との問題が、ちょ 「ママったら、たのしみはみんなダメっていうのね」 うどそれだわ」 、え、もっと上品なたのしみなら、なにもいいませんよ。年ご 「どんな ? 」 ろの娘だもの、もっと気をつけてもらわなくちゃねーーーねえ、マヤ、 「うちの家族ったら、なにもいってくれないのよ この意味がわ ほんとにそのへんをよくわかってちょうだい、若い娘というものかる ? あたしはいうわけーー・ねえ、教えて、たのむから教えて、 は、どれだけ用心をしてもたりないのよ」 あたしはなにをしたらいいの、なにをしてほしいの。でも、その返 だれもなにもいわなかったので、ニコラス / ジェリーがアドリプ事がいつもちがうのよ。ママのいうことには、『ダイアン、すこし で間をうめた。「そのオー ト・ハイさ、三枚プロペラーっきなんだ・せ。はポーイフレンドとっきあいなさい。彼とでかけちゃだめ。お父さ おれ、プロペラーの羽根に吹き流しをくつつけてやろうと思うんんもわたしも彼と会ったことがないし、むこうのご家族もぜんぜん だ。先っちょに小さな重りをつけてさ。そいつであの三七号通路知らないもの。ダグラス、ダイアンのことであなたに知っておいて をすっとばすの。よう、気をつけろい、キャ・ヘッみじん切り号のおほしいことがありますのよ。この子はときどき混乱することがある 通りだあ ! 」 んです。お医者にもみせました。病院にも入れました。だから、な 「こんなふうにね」マヤはいうと、両足をそろえ、両手を横にのばるべく。ー・・・・ヒ して、オート・ハイ用の三枚プロペラーか、十字架を思わせるかっこ 「この子を興奮させないでください」ニコラスが代りにあとをしめ うになった。そのかっこうのまま彼女は旋回をはじめ、舞台の中央くくった。 「あなた、あのときにそばで聞いてたの ? ねえ、ひょっとしたら でゆっくりと回転したーー赤いショーツ、白い・フラウス、赤いショ 1 ツ、白いプラウス、赤いショーツ、靴をはいてない足。 トロヤ惑星群からきたんじゃなくて ? あたしのママを知ってる ? 」 ダイアンがたずねた。「それで、あなたは彼女が二度と家へは帰「おれはこういう場所でしか暮らしたことないよ」ニコラスはいっ れないことを、それどころか、逆に病院へ入れられて、そこで手首た。「最近ずっとそうだった。だけど、きみは外の人間みたいな話 しっぷりだね」 を切って死ぬことを、前もって見てしまったわけ ? 」 ニコラスはうなずいた。 「あなたといっしょにいたら、気分がよくなったわ。あなたってほ 「彼女にはそのことを教えた ? 」 んとに優しいのね。あたしより年上ならよかったのに」 「うん」ニコラスよ、つこ。 をしナ「いや」 「おれ、そこまで長生きできそうもないなあ」 「雨が降ってきそうーーー感じる ? 」 「どっちなのよ。教えなかったの ? ねえ、怒っちゃいやよ」 ニコラスはかぶりをふった。 「むこうがなんのことかわかんなくても、やつばり教えたことにな るかい ? 」 「見て」ダイアンは子ウサギのようにぎごちなく、三メートルほど ダイアンがそのことを考えながら何歩かあるくうちに、ニコラスとびあがってみせた。「こんなに高くとべるでしょ ? これはみん はイグナシオになぐられてまだひりひりしている顔の傷へ、水をば なが悲しいからで、そうすると雨になるの。さっき話したでしよ」

10. SFマガジン 1975年9月号

H ・ G ・ウェルズ作黒岩涙香翻案「今の世の奇蹟」函 の問題、これはかんたんですよね。一寸法師の鬼退治は」 「ええ、ええ」 「えーと、いつごろだったかな ? 奈良か平安でした 「とたんに、浦島は白髪の老人になっちゃうでしょ : ね。確か : : : 」 「そんな、昔の話のじゃないです。京 ( 今日 ) のできご 「はい、はい」 「そこで、浦島がいうじゃありませんか、″此は如何とです」 「なるほど、そうか。おもしろいなあ。使えるなあ、こ だから、恐いカニです」 れは」 「いうんですか ? そんなこと。へエー」 「そうですか、それはよかった」 「次の問題に移りましよう。ウスの住んでいる場所ね。 「ところでね、横田さん」 これは″海のかなた″なんですよ」 「なんでしよう ? 」 「どうしてですか ? 」 「最初の二つの問題なんとかなりませんか ? 」 「鉄道唱歌、知ってるでしよ」 「汽笛一声新橋を : : : っていうのですか ? 」 そんなわけで、このナンセンス・クイズは採用されず 「そうです、そうです。あの三番だか四番だかに、窓よ に終った。 : ってのがありますね」 り近く品川の・ そうこうしているうちに、中華民国の蒋介石総統が亡 「はあ、そうですか ? 」 うすがす くなったというニュースが伝わってきた。・ほくは賰介石 「あの歌詞の終りのほうに、海のかなたに薄霞む、山は かずさ という人は好きだから、これは哀悼の意を表さなければ ・つて文句があるでしよ。したがって、 上総か房州か : いけないというので、パラバラと古本の。ヘージをめくり 海のか なたでだした。いつのころから、こうなってしまったのかわか らなし力を 、。、、まくはひとたびなにかことが起こると、古本 す。 を読まずにはいられないのだ。 おなかが痛いといっては、古本を読み、子猫が生まれ 第「あるたといっては、古本を読み、風呂がぬるいといっては、 畳当んです古本を読む : ・ そうして、手にした一冊が「科学べン」という古雑誌 だった。近い将来、正式に ( なにが正式なんだか、自分 そんな でもよくわからないけど ) このページで取り扱う予定だ へェ」けれども、この「科学べン」は昭和十一年に創刊され 「最後た、科学者仲間の同人誌的ふんいきの強い科学啓蒙雑 こ : 29