コラス - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1975年9月号
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1. SFマガジン 1975年9月号

「その魚、どこにいるんだい ? 」ニコラスはたずねながら、イグナにいる金魚を見て、いつもこう思った。 『いさましい金魚よ、おま シオが前の晩にたべていた魚のことを考え、そして、たぶん彼が極えは怪物のまえに投げこまれたが、やつをうちほろぼせるか ? や 8 点から帰ってくるあいだに、また一びきの魚が捕えられて、今どこ つをうちほろぼせ。そうすれば、やつのダイヤモンドの家は永久に かに隠され、焚火にあぶられるのを待っているのではないか、と想おまえのものだ』すると、その魚、すばらしい歯の下側に小さく赤 像した。「大きな魚 ? 」 サクランボのような斑点のあるその魚は、若い金魚にむかって 「そいつはもういない」イグナシオはいった。「だが、おとなの掌突進し、いっとき、澄みきった水が血で赤くにごるのだ」 ぐらいの丈しかなかった。おれは大きな川でそれをとった」 「それから ? 」と、ニコラスはたすねた。 ハックルべリー 「知ってる、ミシシッ。ヒ ー川だね。きっとキ「それから、巧妙な装置が水をもう一度きれいにし、その魚、すば ャットフィッシ、鯰」和ひ ) だ。でなきやサンフィッシ = らしい歯をしたその魚は、もとのように石の上に浮かぶ。するとイ クロマス科の グナシオはテープルの上の小さなスイッチをひねり、 パンのお代り / さい淡水魚 と果物のお代りを注文したものだ」 「たぶんそんな名まえだろう。一時、そいつは、ある人間にとって、 ちょうど太陽とおなじだったからな」どこからともしれぬ光が、波「あんた、腹がへってるかい、今 ? 」 の上でたわむれている。「とにかく、そいつは、ある人間の住む家「いや、今おれは疲れて体がだるい。もしおまえを追いかけてもっ の居間のテープルの上で飼われていた。水槽の中にいたのだが、そかまえられないだろうし、かりにーー、おまえの逃げ方がのろかった り、へまだったりして・ーー・・つかまえることができたとしても、おれ れは隅に金属がついていてガラスごしにのそきこむような、旧式な はおまえを殺さないし、かりに殺したとしても、食べはしない」 ものではなかった。もっと新式のもので、ガラスは丈夫だが非常に ニコラスはすでにそのまえから後ずさりをはじめていたが、最後 薄く、光を反射しないようにカー・フしていて、隅もなく、そして、 の一言を聞いたとたん、それが合図だとさとって、くるりと背中を 巧妙な装置のおかげで、水はいつも澄みきっていた」依然としてニ コラスとは眼を合わさずに、イグナシオはきらきらする水を片手で向け、浅い水をはねちらかしながら逃げだした。イグナシオはコン すくった。「水はこのように澄みきり、それにさざ波一つ立たない パスの長さを利して、浅黒く若々しい顔のうしろに髪をなびかせな ため、眼にはまったく見えなかった。おれの魚は、テー・フルの真中がら、追いかけてきた。彼の四角な歯はーーその一本一本が骨のよ におかれたいくつかの石の上こ、、 冫しつも浮かんでいた」 うにまっ白で、ニコラスの親指の爪ほども大きい その唇を手す ニコラスはきいた。「あんたは川の上に筏を浮かべたのかい ? 」 りにして並んた見物人のようたった。 「いや、おれたちは小舟を持っていた。イグナシオはそいつを網で「逃げてはいけない、ニコラス」アイランド博士が波の声でいった。 とったのだが、ひきあけるまえに、もうすこしで網を食いやぶられ「逃げると彼を怒らせるだけだよ」ニコラスはこたえずに、左に向 るところだった。そいつはすばらしい歯をしていた。その家の中にきをかえ、砂浜を登って、椰子の木立ちの中にとびこんだ。実は、イ は、そいっともう一人と、それにロポットたちしかいなかった。しグナシオは彼の首根っこに手の届くほどのすぐ背後にせまっている かし、毎朝だれかが中庭の池へいって、そいつのために金魚を一びわけではなかったのだが、それを知らない彼は、ただひたすらに走 きとることになっていた。イグナシオは朝食に下りてくると、そこ りつづけた。ようやく足をとめたとき、あたりは広葉樹のそそりた

2. SFマガジン 1975年9月号

頂きまで緑繁れる山、芝草生うる原、 代る資料はないしね」 天の小通い路のごと高みを縫う木下道、 細身の椰子のしだれたる羽根冠、 地面はかなり急傾斜の上りになった。とある林間の空地で少年は 虫と小鳥のいなずまの閃き、 立ちどまり、後ろをふりかえった。今、彼がその下を登ってきた密林 巨いなる幹を巻きったい が、池の面をおおう藻のように緑の膜を張り、そのむこうに海が見 岸の果てまでもつづく える。左右の視野はまだ葉むらにふさがれ、行く手にはまばらに木 いと長きつる草の艷、この の生えた草地が、 ( 少年は気づかなかったが、ちょうど彼が最初に 幅広き帯なす世界の輝きと華、 くぐり出てきた四角な砂の ( ッチのように ) 斜めに立てかけられた これらすべてを彼は見たりき。 かたちで、見えない頂上へと険しくのびている。彼には、足もとで ほんのかすかに山腹がゆれているような気がした。とっぜん、彼は 「これでもきみは何も感じないだろうか、ニコラス ? 」 風に問いかけた。「イグナシオはどこだ ? 」 もっと浜の近くにいる」 「ここには、よ、。 「ずいぶん本を読んでるね、あんたは」 「そう。日が暮れて、ほかのみんなが眠りについたあとでね。だっ 「しゃあ、ダイアンは ? 」 て、わたしはとても手持ちぶさただから」 「きみがおいてきた場所にいる。この眺望が気にいった ? 」 「女みたいなしゃべりかただな。あんた、女 ? 」 「きれいだけど、地面がゆれてるみたいだ」 「どうしてわたしが女でありうる ? 」 「そのとおり。わたしはこの衛星の強化ガラスの外殻に、二百本の ケープルでつなぎとめられているが、それでも潮の干満と海流がわ「ちえつ、わかってるくせに。ただ、あんたがおもにダイアンとし しうまでもなやべってるときは、もっと男つ。ほいけどさ」 ずかな振動をわたしの体に伝えてくる。この振動は、、 「きみはまだわたしを美しいといってくれないね」 く、きみが高く登るにつれて大きくなっていく」 「おれはあんたが外殻へびったりへばりついてると思ってた。あん「あんたは復活祭の飾り卵だ」 とうやってみんなは出入りするんだい 「それはどういう意味かな、ニコラス ? 」 たの下にも水があるなら、・ 「気にするなよ」その卵は、彼が前に見たときとおなじように宙に うかび、金色に輝き、花におおわれていた。 「わたしは連絡チ = ープで外側のエアロックとつながっているんだ 「復活祭の卵はきれいな色に染まっているし、わたしの色彩は美し よ。きみの目には、たぶんふつうの昇降路に見えたかもしれないー そういう意味だね、ニコラス ? 」 ニコラスはうなずいて、茂った葉と海に背を向け、また登りはじ その卵は面会日に母が持ってきてくれたものだが、母がそれを作 めた。 れたはずはなかった。ある男がそれを作ったにちがいないことを、 「ニコラス、今きみは美しい場所にいる。その美しさに心をひらい = コラスは知っていた。その金色は、精密計器をシールドするのに 3 ているかな ? 」返らぬ答をいっとき待ってから、風はうたった 使われる純金のそれだった。卵の表面に小さな星をちりばめた結晶

3. SFマガジン 1975年9月号

陽みたいに、だけどもっと大きく見えるはずじゃんか。なのに、このためなのよ。その近づこうとするのをむりにひき離しておくと、 この空は一面にきらきら光ってるだけだ・せ、雨が降ってないときでそこにある緊張が生まれ、それをあたしたちは一つの力として感じ 8 もさ」 て、重量だの何だのといろいろな名まえで呼んでいる。だからもし 「波が光を分散して、像がばやけてしまうのよ。でも、〈焦点〉は直接に空間を曲げれば、当然、重力の効果がそっくり合成できる 見えるわ。空気があんまり澄んでなければ。焦点って何だか知ってわ。あの透明なガラスの外殻にあれだけの水をへばりつかせている る ? 」 のも、その作用なのよーー・あの外殻には、とてもそれをやってのけ ニコラスはかぶりをふった。 るだけの質量はないわ」 「もうすぐそこへ行けるわ、この雨がやんだら。そしたら教えたげ「つまり」 ニコラスはゆっくり落ちてくる丸い雨粒を手にうけ る」 たーーー「これは海からの水ってわけだね ? 」 「まだ、雨のこともよくわかんないんだ」 「あたった。このてつべんにある海からの水。ね、わかるでしよ、 たしぬけにダイアンがくすくす笑いだした。「今、ふっと考えた空気の温度の差で風が生まれ、その風が、さっき浜辺を歩いたとき んだけど・ーーあたしがなんになるつもりだったか知ってる ? 学校に見たような大波小波をつくる。波が砕けると水しぶきが上がるけ に行ってたとき」 ど、注意して見てると、晴れてるときでも、ずいぶん上のほうまで 「無ロな子」ニコラスがいった。 昇ってゆくのがわかるわ。だから、重力がもっと減ってくると、す 「ちがうわよ、ま、。 ( 力もし卒業できたら、どんな職業につくつもりつかり離れて行ってしまえるわけ。もし、これが外に向いてれば、 だ 0 たか 0 てこと。あたしは教師になるつもりだったの。たくさん宇宙空間へとびち 0 てしまうでしよう。でも、そうじゃなくて、球 のテレビカメラにかこまれ、そして各地の子どもたちがそのあたしの内側にいるもんだから、水しぶきとしてはそのまま中心かそのあ を見て、相互伝達回路で質問をぶつけてくる。すてきじゃない。今たりを通りすぎて、また海の上か、アイランド博士にぶつかるしか あたしはここでそれをしてるわけ、生徒はあなたしかいないけど」 ないのよ」 「いやかい ? 」 「アイランド博士は、ときどき嵐になることもあるといった。みん 「いいえ。たのしいわ」ダイアンの太腿には青黒いあざが残「ておながめちゃくちゃに腹を立てると」 、彼女はしゃべりながら思案げに片手でそれをさすった。「とこ 「そうよ。ものすごく風が吹いて、そのためにものすごく雨も降る ろで、重力を作るには三つの方法があるのよ。知ってる ? はい、 わ。だけど、そのときの雨は、風が波のてつべんをはねとばすから きみ、答えなさい」 で、ふつうの雨降りのときみたいに、体が軽くなったりはしないの」 「知ってるさ。加速度と、質量と、合成だ」 「何がそんなにすごい風を起こすんだろう ? 」 「よろしい。運動と質量がどちらも空間の湾曲なのよ、、 をしうまでも「知らない。とにかく起こるのよ」 ないわ。ゼノンの逆説が実際に起こらないのはそのためだし、物体二人はだまりこんですわり、 = コラスは木の葉のぼたぼたいう音 がおたがいに近づきあったりーーそれをあたしたちは落下と呼んでに耳をすました。そこで思いだしたのは、空気中にとびちって凝固 るけど , ーーでなければ、すくなくとも近づきあおうとするのも、そしはじめた小さい血の玉を吸いとるために、とうとう病院モジ = ー

4. SFマガジン 1975年9月号

「あんたが来いといったからだ」 ら太腿へと、指を走らせた。左半身がそんなにおじけづいているの が彼には不安になり、ひょっとすると脳のもう半分、そこから彼が「イグナシオがいうのはここのことだ。おまえはここを見て、前に 永久に切りはなされている半分には、イグナシオが波に語りかけて見たどこかを思いださないか、小さいの ? 」 ニコラスはガラス張りのどらと、復活祭の飾り卵のことを考え、そ いる言葉が聞こえるのかもしれない、と思ったりした。彼は自分も もう片方に ( そしてたぶんイグナシオにも ) 聞これから香水の蒸気のはいった極薄の皮膜のポールのことを考えた。 祈りはじめた えるようこ、、 冫しくらか声を出して 「心配するな、こわがっちゃそのポールは、クリスマスになると、ときおり廊下のむこうからふ だめだ、あいつは何にもしないよ、あいつはおとなしい、もしあいわふわと送られてきて、子どもたちがホッ。ヒングの棒でそれをつつ つが何かしてもおれたちはやつつけるさ。こっちは食べものがほしくと、ばちんと割れて、きれいな粉になってとびちり、さわやかな いだけなんだ、ひょっとしたら、あいっ魚のとりかたを教えてくれ松林の匂いをただよわせるのだ。しかし、彼は何もいわなかった。 るかもしれない、こんどはきっとおとなしいよ」しかし、こんども イグナシオはつづけた。「イグナシオがお話をしてやろう。むか イグナシオがおとなしくないだろうことは、彼にはわかっていたー し、地球に一人の男がいたーーー実際には、まだ少年だったーー・・・」 ニコラスは、なぜいつも男だけが ( 彼の経験からいうと、医師と いや、すくなくともわかっているような感じがした。 ようやくイグナシオは立ちあがった。ニコラスのほうをふりむか臨床心理学者が一番多い ) お話をしたがるのだろう、といぶかっ ずに、どんどん海へはいってゆく。それから、まるでニコラスが後た。イエスはいつもみんなにお話をしたが、聖母マリアはめったに ろにいたのを最初から知っていたかのように ( 足音を聞きつけられそうしなかった。もっとも、彼がまえに知っていたある婦人は、自 たのかどうか、ニコラスにはよくわからなかった たぶんアイラ分で自分を聖母マリアと思いこんでいたが、そのくせいつも息子の 彼まイグナシオがちょっぴりイエスに似てい ンド博士がイグナシオに教えたのかもしれない ) 、彼はニコラスに話ばかりしたものだ。 / 。 ると思った。彼は、母が家でお話をしてくれたことがあったか思い 向かって、ついてこいという身ぶりをした。 水は = コラスの記憶にあるよりもつめたく、足指のあいだに挾まだそうとっとめたすえ、一度もなかったと結論した。母は情報スク リーンのマンガのスイッチを入れただけだ。 る砂は粗くざらざらしていた。彼はアイランド博士のいったことー 「ーーその少年がーーー」 ー島がうかんでいることーーを思いだし、この水底の砂も博士の一 部分にちがいなく、それが海の中へ ( どこまで ? ) 伸びているのた「ーーーお話をしようと思った」ニコラスは、代りにあとをしめくく っこ 0 ろう、と想像した。どこか沖のほうで博士がとぎれたあとは、深し 「どうしてそれを知っている ? 」怒りと驚き。 深い底にこの衛星の本体の透明な強化ガラスがあるだけなのだ。 「来い」イグナシオがいった。「おまえは泳げるか ? 」前夜のこと「それはあんたのことなんだろ ? それで、あんたはいまそうしょ を忘れきっているかのようだった。ニコラスは、返事をすればイグうと思ってるじゃないか」 ナシオがふりかえるたろうかと考えながら、うん、泳げる、とこた「おまえのいったことは、イグナシオがいうはずであったこととち 9 がうそ。イグナシオはおまえに一びきの魚のことを話すつもりだっ えた。イグナシオはふりむかない。 た」 「おまえはなぜ自分がここにいるかを知っているか ? 」

5. SFマガジン 1975年9月号

さを持ちこんでいた。二人がものの数分ほど歩いたとき、ニコラスとりかかるものと、彼は思っていたが、・フラジル人はゆっくりと、 はその風の中に、カタカタと、かすかな、ほとんどリズミックともしかし、休みなく泳ぎつづけ、とうとう二人は、ニコラスの見たと ころ、岸から一キロあまりも沖に出た。だしぬけに、まるで一つの いえる音を聞いた。 イグナシオが彼をふりかえった。「音楽だ。竹の林がしゃべって部屋の照明がスイッチに反応するように、二人のまわりの暗い海 いるのだ、聞こえるか ? 」 が、乳光を発する青になった。イグナシオは進むのをやめ、やすを 二人はニコラスの手首よりやや細めの竹を見つけ、その根もとに うきに使いながら立ち泳ぎをはじめた。 火のついた枯枝を置き、さらにまきをつぎたした。竹が倒れると、 「ここだ。おまえと光のあいだに魚を挾め」 イグナシオはその上端をも火で焼き切り、ニコラスの背丈ほどある眼をあけたまま、イグナシオは顔を水に近づけ、もう一度顔を上 棒をつくってから、太いほうの端を貝殻で削って、するどくとがらげて大きく息をすいこんでから、水にもぐった。ニコラスもそれに せた。「これでおまえはもう魚とりだ」と、イグナシオはいった。 ならい、眼をあけたまま、うつぶせに浮かんだ。 ニコラスは、まだ彼と視線を合わさぬように気をつけながら、「は光と影の舞いおどる島の世界は、すべて消えうせた。夢の中に顔 ハトラン」と、こたえた。 をつつこんだかのようだった。はるか、はるか眼下には、木星が縞 「腹がへったか ? 」 模様のある大きな円盤を横たえており、拡がりつつある大光斑がそ / トラン」 の眺めを傷つけていた。そこでは、人工のシリコン触媒がメタンか 「では、おまえに教えておくことがある。おまえが何をとっても、 ら水素を剥ぎとって、核融合の火を燃やしつづけているーーそれは それはイグナシオのものだ、わかるな ? そして彼がとったものは、惑星のガンであり、燃えさかる幼い太陽だった。その太陽と彼の眼 やはり彼のものだ。しかし、彼が好きなだけ食べたあと、その残りのあいだには、十万キロメートルの見えない宇宙空間が横たわり、 はおまえのものだ。来い。今からイグナシオがおまえに魚のとり方そしてこの人工衛星の強化ガラスの外殻があった。その手前には深 を教えるか、でなければおまえを溺れさせる」 さ数百メートルの明るい水、そしてその中に、四肢をひろげたイグ イグナシオ自身のやすは、焚火からほど遠くない砂の中に埋めてナシオが、逆光にくろぐろと浮きだし、黒いペンシル・ラインのよ あった。彼がニコラスのために作ったのよりも、ずっと大きいやすうなやすを手にしたまま、まだ下にむかって足をけりつづけていた。 だった。それを胸のまえで横に支えて、彼は海へはいり、水が腰に知らずしらずニコラスは水から頭をもたげ、きらめく波の世界に くるまで歩いたあと、あとからニコラスがついてくるかどうかをふもどった。これまで彼が『夜』と呼んでいたものが、アイランド博 りむいて確かめることもせず、いきなり泳ぎだした。ニコラスは、 士の下側へ木星とその大光斑が沈んだときに島の投げかける影にす 足の動きに全力をかたむければ、やすを持って泳けることを発見しぎないことを、今はじめて彼は認識した。その影の線は、空中では た。左手でやすを握り、ときたま右手で水をかくのだ。「息をしろ」それとわからないのだが、彼の背後の水をくつきりと横ぎっている と、彼は小声でいった。「やすを放すな」そのあとは、ときどき顔のが見えた。 = コラスは大きく息をすって、また水にもぐった。 もぐったと思うまもなく、一びきの魚がどこか下のほうですいと 9 を水から上げるだけでよかった。 浜辺からある程度離れれば、すぐにもイグナシオが魚をさがしに動き、彼の左手はやすを突きたしたが、とうてい届かなかった。そ

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ニコラスは急に空腹を意識した。彼は歩きだした。 「マヤ ? 」 アイランド博士が木の葉をつうじていった。「わたしがきみに話 しかけるとね、ニコラス、きみの心は、そのとぎ耳に聞こえたなに彼はイグナシオが浜辺で祈っているのを見つけた。一時間あまり かの音を、わたしの考えを伝える媒体にかえるのさ。きみは雨のしもニコラスは椰子の木蔭にかくれてそれを見まもったが、イグナシ としと降る音に静かなわたしの声を聞き、 - 小鳥のさえずりに朗らかオがだれに祈っているのか、さつばり見当がっかなかった。イグナ なわたしの声を聞くかもしれない だけど、やろうと思えば、わシオは寄せ波のレースのような縁がちょうど消えるところにひざま たしは自分の与えたい観念や暗示がきみの意識の中へ釘のようにうずき、海のほうを向いていた。そしてときおりおじぎをしては、濡 ちこまれるまでに . 、自分の声を増幅することができる。そうすれば、れた砂にひたいをくつつけるのだった。やがてニコラスは、波のざ きみはわたしの思いのままに動くことになる」 わめきにまじって、かすかにイグナシオの声が伝わってくるのを聞 「そんなこと信じないね」ニコラスはいった。「それができるんな いた。ニコラスは、祈りというもの一般に、好意をよせていた。彼 ら、ダイアンが緊張病になるのを、な・せとめなかったんだ ? 」 の観察によると、祈りをする人間のほうが、しない人間よりも、概 「第一に、彼女がわたしから逃れようとして、もっと深く病気の中して興味深い話し相手だったからだ。しかし、同時に彼は、信者が し . ー十 / し、刀、こ へひきこもるおそれがあるから。第二に、そんな方法で彼女の緊張その信仰の対象にどんな名をつけようとたいして違、よよ、 病をとめても、原因をとりのそくことにならないから」 のようにしてその神が考えだされたかを知ることが大切なのを、す 「第三に ? 」 でに知っていた。イグナシオはアイランド博士に祈っているのでは 「わたしは『第三に』とはいわなかったよ、ニコラス」 なさそうだーーーもしそうなら、ニコラスの考えでは、彼は反対側を 「聞こえたように思ったけどなーー・・・二枚の木の葉がふれあったとき向くはずである。つかのま彼は、ひょっとしてイグナシオが波に祈 っているのではないか、といぶかしんだ。相手の背後の位置から、 「第三に、 ニコラス、きみも彼女も、あるほかの人物への影響力と彼はイグナシオの視線のゆくえを追った。外へ外へ、波また波とそ いうことから選ばれたからだ。もしわたしが彼女を , ーー・あるいはきのむこうの明るくぼやけた空、上へ上へ、カー・フした空をついにぐ みを , ・・。ーあまり急激にかえては、その効果が失われてしまう」アイるりと一周して、ふたたびイグナシオの背中にもどるまで。ふとそ を一い、つ ランド博士は、またもや猿になっていた。二十メートルほどむこう こで、イグナシオは自分自身に祈っているのかもしれない、 で、木の幹を盾にしてキイキイ鳴きたてている新しい猿だった。ニ考えがうかんだ。彼は思いきって椰子の木蔭を離れると、イグナシ コラスはそいつに枯枝を投げつけた。 オがひざまずいている場所との真中あたりまで近づき、そこへ腰を 「あの猿たちはただの小動物だよ、ニコラス。人のあとをつけてきおろした。波の音とイグナシオの低いつぶやきを除くと、あたりに て、キイキイ鳴くのが好きなのさ」 はとほうもなく大きくて脆い静寂がはりつめ、今にもこのガラス張 「イグナシオも猿を殺すんだろう、きっと」 りの衛星ぜんたいが、どらのように鳴りだしそうな気配たった。 「いや、彼は猿たちが好きなんだよ。彼は食べるための魚しか殺さ しばらくして、ニコラスは彼の左半身がふるえているのを感し ない」 た。彼は右手でそっちをさすりはじめ、左腕の上から肱へ、左肩か 8 9

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たので、 = コラスはそれをよけるために砂浜の上のほうへと移動し「しかし、おれの焚火へ行くことはできない。火が消えてしまった た。上では風が強かったが、それでも彼は眠りにおち、さっき自分のだ」 がやってきた方角にひらめいた光で、いっとき目をさましただけだ「新しい火をおこすことはできないのです力 , った。彼は何がその光の原因だろうと考え、ダイアンとイグナシオ「きみはおれを信用していないな、ええ ? むりもないことだが。 もしそうしたければ、お が火の弧をながめるために、燃えたまきを空中へ投げているところいや、おれには新しい火はおこせない を想像しーー眠くて腹を立てる気にもならなかったのでー・ーーにつこれの持っていたものを使っていいから、おれのいなくなったあと で、きみが火をおこせ。おれはただ、さよならを言いにきたんだ」 りほほえむと、また眠りにおちた。 「どこかへ行くんですか ? 」 つめたく不機嫌な朝がおとずれた。ニコラスは両手で体をこすり ながら、砂浜を駆けの・ほり、駆けおりた。霧雨かそれとも波しぶき揶子の葉をゆする風がいった。「イグナシオはもうずいぶんよく か、どちらとも見わけのつかぬものが風にまじって、光を灰色の輝なった。彼はこれからほかの場所へ行くんだよ、 = コラス」 きにかげらせていた。今もどればダイアンとイグナシオがいやがる「どこがの病院へ ? 」 のではないかと気をまわしたすえ、彼はもうすこし待っことにき「そう、病院へ。しかし、たぶん彼は、そこにも長くいないですむ だろう」 め、それから何か手みやげを持っていけるように、魚とりをしよう かと考えた。しかし海はおそろしくつめたい上に、波も荒く、彼を「だけど : : : 」ニコラスは、何かこの場にふさわしい言葉を思いっ こうとした。彼が監禁されたことのあるセント・ジョンやそのほか もみくちゃにして、その手から竹のやすをもぎとってしまった。。ほ た。ほた水をたらしながら、揶子の木の幹に背中をくつつけてうずくの病院では、だれかが退院するときには、しごくあっさりと行って まり、上向きにカー・フした海を見つめている彼を、通りかかったイしまったものだ。いったんだれかが退院の予定で、したがって、外 の人びとの微笑を凍らせ、涙を乾かせているあるものに、すでに汚 グナシオが見つけた。 染されているとわかると、その人間はもうみんなから話しかけても 「やあ、いたな」イグナシオはいった。 らえなくなったからだ。ようやくのことで、彼はいった。「魚のと 、。、トラン」 「おはようございます イグナシオも腰をおろした。「きみの名は何という ? たしか最り方を教えてくれて、ありがとう」 初に会ったときに聞いた気がするが、忘れてしまったんだ。すまな「礼はいいんだよ」イグナシオはいうと、立ちあがり、ニコラスの 肩に片手をおいてから、むこうを向いた。彼の四メ 1 トルほど左 で、湿った砂が盛りあがり、ひび割れはじめていた。ニコラスが見 「ニコラスです」 まもるうちに、その下から、白い壁にかこまれた明るい昇降路の入 「そうだった」 パトラン、わたしはすごく寒いんです。これからあなたの焚火ヘロが現われた。イグナシオは眼にかぶさった黒い巻き毛を後ろへか きあげて、その中へ下りていき、やがて砂がどすんと音を立てて閉 行って、あたらせてもらえませんか ? 」 じた。 「おれの名はイグナシオだ。そう呼んでくれ」 「もうこれつきり帰ってこないんだね、イグナシオは ? 」ニコラス ニコラスは恐怖にかられながら、うなずいた。 99

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低くひそめた声がイグナシオに聞こえないことをねがいながら、 はジャングルへ放してやろうなんて思うことはないのかい ? 」 ニコラスはいった。「朝になったらまた会おう。 「ないだろうね、 = コラス。もっとも、われわれは : : : きみは何か 8 ダイアンの頭が、ほんの一ミリか二ミリ下に振れた。 言いたいんじゃないのかな ? 」 「いや、べつに」 いったん焚火が見えないところまで遠ざかると、もう浜辺のどこ 「つまり、、 , ーロウ博士は、ひとりぼっちの猿をつがわせようとし に眠ろうが、たいしてかわりはなさそうだった。焚火からまきを一たんだよーーセックスは基本的な社会機能だから。しかし、彼らは 本もらってくれば自分の火をおこせたのに、と悔みながら、彼はっ つがおうとしなかった。オス、メス、どちらの猿が近づいても、彼 めたい風をふせぐために両脚を砂でおおってみたが、動くたびに砂らは攻撃性を発揮し、そして相手の猿もそれに応じた。とうとう最 はさらさらすべりおちるし、それに左手と左足は、彼の意志に関係後に、、 , ーロウ博士は、成熟した一人前の猿のかわりに未成熟な猿 なく、ひとりでに動きだすのだった。 子猿・ーーを持ちこむことによって、彼らを治療するのに成功し 小さく起伏した渚にうちよせる波がいった。「さっきはよくやっ た。子猿たちはおとなの猿を痛切に必要としているので、何度はね たよ、ニコラス」 つけられても、またいくら激しくはねつけられても、接近をつづけ 「あんたの動いてるのがわかる」 = コラスはいった。「まえには気るものだから、とうとうしまいには相手にうけいれられ、そして孤 がっかなかったんだけどな。山の上へ行ったときのほかは」 立した猿のほうも社交化される。興味ぶかいことに、キリスト教の 「いまのきみがそれを感じられるとは思えないが。わたしの横揺れ開祖も、この原理を直感的に把握していたようだよ ただしそれ は百分の一度以下なんだよ」 は、これが科学的に実証されるより、二千年近くも前のことたった 「だけど、感じるんだ。あんた、おれにあれをさせたかったんだけれどもね」 な、そうだろ ? イグナシオのことさ」 「ここでそのやり方がうまくいったとは思えないな」ニコラスはい 「きみよ、 を / ーロウ効果というものを知っているかな、ニコラス ? 」 った。「なにしろ、ずっとこみいってるもの」 ニコラスはかぶりをふった。 「人間はこみいった猿だよ、ニコラス」 「百年ほど蔔こ、、 目冫ノーロウ博士が猿を使っておこなった実験たよ。 「あんたが冗談をいったのをはじめて聞いた・せ。人間でなくてよか 完全な孤独の中でーーー母親もいず、ほかの猿もいない環境でー・ー育ったと思ってるんだろ、あんた ? 」 った猿を使ってね」 「もちろん。きみもそのほうがいいと思わないかな ? 」 「運のいいえて公」 「せんにはいつもそう思ってたよ。だけど、今はよくわからない。 「その猿たちは、成熟するのを待って、ふつうの猿たちのいる檻へあんた、おれを癒すためにそういったんだろ、ちがうかい ? 感じ 入れられた。ひとりぼっちで育てられた猿は、ほかの猿がそばへ寄わるいぜ」 ろうとするとけんかをはじめ、ときには彼らを殺すことさえあっ ほかの波よりひときわ高い波が、つめたいしぶきをニコラスの脚 た」 にはねかけ、一瞬、彼はそれがアイランド博士の返事だろうかとい 「心理学者「てのは、いつも動物を檻の中へ入れるんだな。たまにぶか「た。三十秒後に別の波が、そしてまたつぎの波が彼を濡らし

9. SFマガジン 1975年9月号

いのを知った。 いていの病人は病気にならずにすんだだろうって。おぼえてる ? 」 「小さなさけびをあげたわよ、たしか。それを聞いてあたしは、き「でも、実際は、まわりの人間としよっちゅう顔をつきあわさなき 8 っとあれは一「コラスだわってひとり言をいって、それからあなたのやならない。この世界はそうしたものだわ」 「プラジルはそうじゃないんだろう、たぶん」ニコラスはいった。 名を呼んだの。でもそのあとで、ひょっとしたら空耳じゃないか、 彼はプラジルのことを思いだそうとしたが、思いだせるのは、情報 それともイグナシオかもしれないって気がしてきたわ」 「イグナ . シオが追っかけてきたんだよ。まだおれをさがしてるかもスクリーンで見たマンガの一場面、麦藁帽子の中で歌っていたオウ ムのことだけだった。それからカメとヤマアラシがくつついてアル しれないけど、たぶんもうあきらめたと思う」 ! 「なぜあい ダイアンは暗い水をのぞきこみながらうなずいたが、彼の言葉をマジロにかわり : : : おい、後生だよ、モントレッサー つはそこにずっといなかったのかな ? 」 聞いているふうには見えなかった。ニコラスはぎっしりたてこんだ 「あなたに鳥のことを話したかしら、ニコラス ? 」彼女はまた、な 樹々の蛇に似た根をまたぎこえながら、池の縁づたいに彼女に近づ にも聞いていなかったらしい いていった。「なぜイグナシオはおれを殺したがるの、ダイアン ? 」 「ときどき彼はあたしを殺したがることもあってよ」 「何の鳥 ? 」 「だけど、なぜだい ? 」 「ここに鳥がいるのよ。この中に」彼女は小さな乳房の下のたいら 「たぶん、あたしたちのことをすこし怖がっているんじゃないかしなおなかを軽くたたいてみせ、一瞬ニコラスは、彼女が食べものを ら。いままでに彼と話したことはある、ニコラス ? 」 見つけたことをいったのかと思った。「あの子はこの中にとまって 「きよう、ちょっと話した。あいつ、むかし飼っていた魚の話をしるわ。あたしのはらわたをからみあわせて巣をつくり、その中にす たよ」 わって、あたしの息をくちばしでつついている。あなたの目には、 「イグナシオはひとり・ほっちで育ったの。彼、そのことをいわなかあたし健康に見えるでしょ ? でも、中側は大きな空洞で、腐って った ? 地球で育ったのよ。プラジルのアマゾン川の上流にある農茶色になったごみと古い羽根から汁がじくじくにじみだしてるの 園でーーアイランド博士が教えてくれたわ」 よ。もうじき、あの子のくちばしが皮をつきやぶって出てくるわ」 「地球は人間でいつばいだと思ったけどな」 「わかったよ」ニコラスは背を向けて歩きだそうとした。 「都市は人間でいつばい。それと、都市にすぐくつついた田舎も「あたし、あの子を溺らせようと、ここでずっと水をのんでたの。 ね。だけど、中には昔よりもずっと人のすくなくな 0 た土地もあるあんまりたくさんのんだおかげで、もうこっちは立てそうもないの のよ。イグナシオがいたところは、二、三百年前にはアメリカ・イ に、あの子ったらまるで濡れてもいないわ。一つ教えてあげましょ ンディアンの狩人たちが住んでいた土地なの。でも、彼のいたときうか、 = コラス。あたしは、あたしが実はあたしでないことを発見 にはもう機械だけで、だれも住んでいなかったらしいわ。だから、彼しちゃったの。あたしはあの子なのよ」 は人に見られるのをいやがるし、人がそばに来るのをいやがるのよ」 ふりむいて、ニコラスはきいた。「きみがこのまえ食べものを口 ニコラスはゆっくりといった。「アイランド博士がいったつけ。 にたのよ、、 をしつのことなんたい ? 」 もし、まわりの人間としよっちゅう顔をつきあわさずにすめば、た 「さあ、いつだったかしら。二、三日まえね。イグナシオが何かく

10. SFマガジン 1975年9月号

男は満足そうにうなずいた。 に真紅の徴細な点がとりついてうごめいている。よく見るとそれは 「そうか。それなら何年待ったって乗れねえや」 作業員の群れだった。その長大な物体を分解しようとしているのだ シンヤは体を回した。 ろう。クレーンの背後になお幾つか、同じ形のものが順番を待つよ うにならんでいた。シンヤはしばらくの間、それに目を当てつづけ「なぜだ ? 」 男の顔が輪郭を失った。笑ったらしい た。そこでおこなわれている作業には別になんの興味もなかった が、作業員たちの真紅の点の動きには、気づいた者の目をほんのわ「な・せって、おれがこのモーター・プールの管理係になってもう十 五年にもなるが、そこのヘリポートにヘリ・ハスがやって来たのなん ずかの間でもひきつけるようなあるひたむきなものがあった。 むかえの車が来ないからといってむだに時間をつぶすことはできそ見たことがねえものな」 ・・ハスはある「どうして ? 」 ない。たぶんこのポートと市街をむすぶヘリコプター 「どうして ? そんなことおれが知るものか ! 」 だろう。シンヤはそのヘリポートの場所をたすねようとしてモータ モンキー ヘリ・ハスが来ないとなると市街に入る別な方法をさがさなければ ・プールの入口にある管理小屋をのそいた。分厚いガラス窓のむ よつよ、 0 こうに、大きな影が動いた。 「ヘリポートならむこうの十字路を右に曲って五百メートルほど行「困ったな」 ここはモ 1 ター・プールだ。地上車の一台ぐらいは借 そうだ ! ったところだ」 グスダ 古い型の放射能防護服で頭のてつべんから足のつま先までつつんりることができるだろう。シンヤはポケットをさぐって身分証明書 だ男が、水族館のヒトデのようにガラス窓にはりついた。顔面をおをとり出すと男の前のガラスに押し当てた。あらためて自分の身分 おう透明なマスクの奥に、なま焼きの粘土をはりつけたような顔がを告げ、できるだけ早く目的の場所へおもむかなければならないこ のそいた。ケロイドを切除した整形医の、おそろしく拙劣な技術のとを説明した。 なせるわざだ。荒廃しているのはどうやらスペ 1 ス・ポートばかり 男はシンヤのさし出した身分証明書にちらりと目を走らせただけ ではなさそうであった。 で大きく手をふった。 「ありがとう」 「調査局だかなんだかしらねえが、ここへ来るやつはみんなそれそ れにどことかへいそいで行かなければならねえんだなどと言うぜ。 シンヤは指先でガラスを叩くとバッグを肩に負って歩き出した。 「ありがとうよ、 それを言うまえに見なよ ! あそこにならんでいるのは地上車には 冫ししが、おめえ、ヘ リ・ハスに乗るつもりか ? シンヤのイヤホーンに、気笛のような声が流れこんできた。そのちがいねえが戦争前からあそこにあるしろものだぜ。動かせるなら どれでもいいから乗ってゆきな ! 」 声は妙に耳の底に粘りついてシンヤの足を止めた。 「ああ」 そう言われてのび上って見ると、整然とならんでいる地上車のど ハウス 227