研究室 - みる会図書館


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1. SFマガジン 1975年9月号

ど興味深いところなのである。 いったいどうすれば、増大する騒音から身を守るうちに下がったという。 ることができるか。同研究室では広大な音響試験この研究室では都市騒音だけでなく、工場とか極地の空に出現するオーロラの大部分は、地上 場を設け、そこに一〇分の一の規模の模型市街をビルなどの騒音についても研究を続けている。騒九〇キロから一一〇キロの空間に現われる。短波 組み立て、駁音のない街作りを考えることにし音の状況を調べ、それをどのようにして押えるか無線通信に重要な役割を果す電離層の層も、一 を教える。これによって工場やビルでは、環境が〇〇キロ前後に出現する。電波障害の原因を究明 住宅地や商店街、交通路をどのように配置すれ改善されるばかりでなく、労働生産性も向上するし、対策を立てるためには、どうしてもこのあた りの仕組みをよく知っておく必要がある。 。しいか、緑地帯でどのように騒音を遮蔽するかそうだ。 を、モデル都市によって考えようというわけであ 公害といえば大気とか海洋などの汚染ばかりが このほか流星の分光分析により、地上一〇〇キ る。 クローズアツ。フされているが、騷音についてももロほどの空間には、ナトリウムとかマグネシウ っと考えてみる必要がありそうだ。 同大学の近くにあるポルジスキー市では、ここ ム、カルシウム、鉄などのイオンが浮遊している 数年交通量が増え、カルビシェフ将軍通りを中心 ものとみられている。なぜこうしたものがあるの に騒音レベルが上がってきた。研究室ではさっそ か、どうしても知りたいところだ。 新顔「ジャンプ」衛星 くここを研究材料としてとり上げ、交通の流れを さらに地球の上層にはジェット電流というもの 変えることにより、騒音を押えるアイデアを提案これまでに人工衛星がどれだけ打ち上げられたが流れている。不思議な現象だが、これも地上一 した。 かご存じだろうか。その数はざっと二〇〇〇個。〇〇キロほどのところで起きているのである。 このアイデアは同市ソビエト執行委員会によっ通信衛星、測地衛星、太陽観測衛星、偵察衛星、 こうみてくると、科学者たちが地上一〇〇キロ て受け入れられ、さっそく実行に移された。効果気象衛星 : : : 。数え上げればキリがないほどであ付近を調べたいと思う理由がおわかりいただける はてき面、ポルジスキー市の騒音レベルはみるみる。 だろう。地上一〇〇キロ付近は、人工衛星も気球 だが、大気圏外のことなら何でものこの人工衛も近づけない秘境。そうなればますますもって、 星にも、できないことがただひとつある。それは知りたいというのが、人間のさがというものだ。 地上一〇〇キロ前後を飛んで観測することだ。事何かいい方法はないものか、各国の宇宙科学者 実、二〇〇〇個もの人工衛星のうち、それができたちは知恵を絞っていたが、そこにわが日本の科 るのは、ただの一個もないのだ。 学者たちが実に巧妙なアイデアを考えた。人工衛 どうして低空飛行が人工衛星にはできないの 星とロケッ か。それは大気の抵抗が大きすぎて、速度が急激 トの合いの ににぶり、地上に落下してしまうか、大気の摩擦 子を打ち上 熱で燃えっきてしまうからである。 のげ、それそ れの欠点を これまで科学者は、この問題に頭を痛めてき カ・ハーして た。地上一〇〇キロほどの大気圏外を調べたくと 星観測しよう も、人工衛星は使えない。そうかといって気球は 衛 というの 地上三〇キロほどまでしか上昇しない。止むなく る 観測ロケットを使っていたのだが、ロケットの滞 す図ナ 空時間はごく短かく、思うように観測できない。 プ像考案した ン想のは航空宇 地上一〇〇キロ前後は、科学者たちのアンタッチ ャ成宙研究所の ャプル・ゾーンだったのだ。 7 ジ完 五代富文主 ところが皮肉なことに、この地上一〇〇キロの 任研究員ら あたりは、科学者たちにとって、よだれが出るほ こ 0 模型都市に騒音源を配置し実験する 大学の研究室 ) 0

2. SFマガジン 1975年9月号

ことができなくなった。そこで宇宙技術を利用し 6 て、宇宙で情報を集めることになったのだとい 2 だが米国では「宇宙より地球を」との批判的な 世論が高まり、このような宇宙探査予算は大幅に 削減された。体制の違いがあるとはいえ、ソ連に も同じような見方が出ているようで、この二月に 亡くなったソ連科学アカデミー宇宙空間研究利用 委員会議長のアナトリー ・・フラゴヌラボフ氏は 「宇宙研究の基本的目的は、地球をとりまく環境 の認識を深め、自然の基礎的な諸法則を確立する ことにある」と、よく繰り返していたという。 宇宙開発は地球人にどのようなメリットを与え るものか、論議はますます活発になりそうだ。 騒がしくなった地球 だが実のところ、金星についてはこれまでの米都市の騒音のレ・ヘルは、この一〇年間に一二デシ ソ探査機の観測で、かなり多くの情報を入手でき・ヘルから五デシベルも上がった。このプロセスを た。気温とか大気の成分などのほか、精密な写真阻止しなければ、人間は将来大きな被害を受ける 金星へ編隊旅行 ことになるーー・とソ連ポルゴグラード都市工学大 撮影により、地表の様子や地形もかなりくわしく わかっている。それにもかかわらず、ソ連はどう学の都市建設講座付属交通産業音防止研究室 は、騒音から人類を守るための大がかりな研究に このところ惑星探査の話題が遠のき、宇宙科学してこんなに金星探査に熱をあげるのか。 者たちの関心も薄らいだかと思っていたら、どう ソ連科学アカデミーの宇宙研究所長であるロア取り組み始めた。 してどうして惑星探査熱はまださめていないらしリド・サグジェ ーエフ氏は、ソ連が惑星探査を続少々うるさくったって、どうということはない じゃないか、といいたくなるが、同研究室の科学 ける理由を、こう説明している。 ソ連の宇宙科学陣は五月八日に自動惑星間ステ「惑星探査は太陽系の起源や、太陽系のなかにお者たちによると、音はそんなに生やさしい問題 ーション金星 9 号を打ち上げたのに続き、同十四ける生命の発生というような基礎的な問題を、解ではないらしい 日に金星川号を発進させた。一一つの金星探査機は決する可能性を与えてくれます。太陽系のさまざ同じ部屋の中に、ゼラニウムの鉢を並べ、そば 雁行しながらこの十月に金星に到着、大気や地表まな天体と、その特色を研究することによって、 にポリュームをいつばいに上げたラジオを置いて を観測するという。 太陽系の歴史の諸段階をつきとめることができまおく。するとこのゼラニウムは何と三日間で枯れ 金星観測については、ソ連は米国より一歩先んす。さらにガスや水の出現、惑星表面の形成、環てしまうそうだ。 じており、すでに軟着陸にも成功している。ソ連境との相互作用など、もっとも重要なプロセスを耳や神経のない植物でもこの通り。動物の場 は毎回、新しい試みをするのが例なので、 9 号と理解するカギをつかめるようになるでしよう」 合、影響はもっと大きくて、騒音の作用は神経細 号もこれまでとは違う離れ業を演じることにな これまでは、このような問題を解くための情報胞に蓄積され、やがてそれを破壊してしまう。ひ りそう。各国の宇宙科学者たちは、興味深くこのを、地球人は地上で得ていた。しかしこうした情どい場合には血管すら破壊されることがあるそう 金星探査機を見守っているようだ。 報だけでは、もはや現代科学の要求を満足させるだ。 す , ヾーま・ . を影、 あんフこな 金星 9 、号からの報告を待ちうける ソ連の宇宙基地のアンテナ

3. SFマガジン 1975年9月号

息子は、さっさとテラスをあとにして、プールへえび型飛び込み家内の手が、わたしの耳をぎゅっとねじった。目がいっそうきっ くなった。 「というと ? 」 をしおわったところだった。涼しそうな水音に誘われたのか、とた んに娘は、着替えに走った。 「あれは、・ほくのおやじが、オクラホマの油田で、ひと山当てかか わたしは、家内をふりかえった。「どういうつもりなんだい ? 」 ったころのことだった。・ほくたち家族も、そこに住んでいてね。あ 「あの子も、じきに年ごろの娘ですからね」 る日、その町はずれで、板石のがらくたの下に、黒蛇がうじゃうじ 「そんなのが、理由になるものか。あいつをごらん。むこうのほうやいるのを見つけたんだ。ぼくは、そいつを・ハケツにいつばいつめ が、よっ。ほど年ごろだぜ」 て町へ行き、ちょうどセダ・・ハラの昼興行がはねかかっている活動 「そうお。もしあなたがそういうお気持なら、ふたりとも水着を着小屋のまえへ、そっくりうっちゃっておいた。うまいことに、だれ せることにしたら ? 」 にも見つからずにすんだのさ。出てきた連中は、。 とこからそんなに わたしは、、ン・ハ ーガーの最後のひとかけを、ビールで流しこんたくさんの蛇がやってきたのか、さつばり見当がっかなかったらし ぼ」 0 。人をいつばい食わせて、すました顔で見物するのが、どんなに 「わが家も、かわりはてたものさ。亭主はメイドのおしりもつねれ楽しいものかということを、・ほくはそのとき、はじめて覚えた」 ず、子供は裸にもなれない」そうこ・ほしながら、家内の頬にキスし家内は、わたしの耳をはなした。「新しい楽しみっていうのも、 た。「もっとも、食いものとかみさんだけは、、 しまもってとびきりそれに似たことなのね ? 」 だが」 「さよう」 「ねえ、どうかしたんじゃない ? 研究室を出てからこっち、ゴリ 家内は、かぶりを振りながら、「奇人もいいところだわ」といっ ラみたいにニタニタ笑いつづけよ」 「さっき、いったとおり : : : 」 わたしはニャリと笑いかえした。「食い逃げでわるいが、失礼す 「まあ、よして ! あなたの危険な年ごろは、、 しまに始まったことるよ。研究室に、手を放せない仕事があってね」 じゃないわ」 手を放すどころではない。研究室には、わたしの期待以上のもの 立ち上ったわたしは、皿をわきにどかせてから、背をかがめてい が、控えているのだ。もともとは、オーストラリヤ産の有袋類フク 「なんにしろ、・ほくは、新しい楽しみを満喫するつもりでい ロモモンガを、もう少し効率よくした程度の滑空哺乳類が、目標だ るよ」 った。このミュータント育種室も、ド・フネズミから手をつけはじめ 家内の手がっと伸びて、わたしの耳をつかまえた。上目使いに、 た初期にひきかえて、最近はサル的な外観が、圧倒的に幅をきかせ わたしをにらむふりをしてみせる。 てきた。ところが、ヴォルプラ第一号は、ショッキングなまでに、 「つまり、いたずらのことさ」安心させるように、わたしはいつ人間に似かよっていたのだ。 メタリック・アクセレーター た。「全世界があっというようないたずらを、やってみるつもりな代謝加速機による爆発的な成長のあとの順応性にかけても、 んだ。むかし、ほんのちょっぴりとだが、そんな気分を味わったこ彼らは先輩たちより、はるかにすばやかった。わたしが研究室に戻 とがある。それいらい ったとき、彼らはすでにマットレスの上を這い ( 一四三頁へ続く ) 6

4. SFマガジン 1975年9月号

「約束する」彼は、夜空を眺めた。その目に驚異がこもっているの塒を狙って、やすやすと獲物をせしめていた。火おこしぎりの使い が、焚火の明りで、わたしにも見えた。「われわれは、あそこからかたは、すでにわたしから教わっている。そのほかに、ヴォルプラ きたといったね ? 」 たちは、草と蔓と小枝を使って、みごとな細工の家を、樹の上に作 「きみの種族の老人たちは、わたしにそう話してくれたよ。聞いてっていた。そこでは、子供たちゃ、時にはおとなまでが、昼夜を問 しュ / し・カ ? ・」 わず眠っているのだった。 「老人なんて、覚えがない。あなたが話してくれ」 家族がもどる日の午後、わたしは人夫たちに、飼育室と研究室 「老人たちの話では、きみたちは、赤い人間たちのずっと前に、星を、とりこわさせた。研究用のミュ 1 タントは、ぜんぶ麻酔をかけ メタリック・アクセレーター の世界から船に乗って、ここへやってきたそうだ」暗がりで、わたてある。代謝加速機や、ほかの実験機械も、ひとっ残らす分解 しは頬をゆるめた。これから一年さぎ、いやそれ以内に書かれるだしてしまうつもりだった。ヴォルプラの突然の出現と、わたしの研 ろう新聞の日曜版をふと空想したのである。 究所を結びつけるような手がかりは、残したくなかったのである。 彼は、長いあいだ。じっと空をみつめていた。「あの小さな光あと数週間で、ヴォルプラが生存の手段をすっかりのみこみ、彼ら が、星なのか ? 」 なりの文化の芽生えを発展させてゆくだろうことは、はっきりして 「そうだ」 いた。そうなれば、もう牧場を出てゆかせてもいい。楽しみは、そ 「どの星から ? 」 れからだ。 空を見回したわたしは、やがて、木の上の一点を指さした。「金車を下りた家内は、はらわたのはみ出たような建物のまわりで忙 星からだ」そこで、うつかり英語を教えてしまったことに気づ いしく働いているのを、きよろきよろと眺めた。「いったい、なにご て、言いなおした。「きみたちの言葉で、ポオタという星だ」 ' とが持ちあがったの ? 」 彼は、じっとその惑星を見つめながら、つぶやいていた。「キン「研究が完成したので、もう建物はいらないんだ。あとは、結果を セイ。ポオタ」 論文にするだけさ」 その翌週、わたしはヴォルプラ全員を、かしわの森に移した。 家内は、値ぶみするようにわたしを眺めてから、かぶりを振っ 男、女、子供、しめて百七ひきの大世帯である。わたしのあずかり た。「本気にするところだったわ。でも、ほんとにそうするべき 知らぬうちに、彼らは、四組から八組の夫婦と、女たちが最近生んよ。あなたの最初の論文でしよう ? 」 だ子供で成り立った、い くつかのグルー。フにわかれていた。成人た 息子がたすねた。「動物たちは、どうしたの ? 」 ちの乱交関係は、このグループの中に限られて、その範囲以上に 「大学へ、研究用にひきわたしてしまったよ」わたしは嘘をつい こ 0 は、出ないらしい。こうして、巨大家族的な外観を備えたグループ の中で、オスたちは、実際の親子関係にはこだわらずに、・ せんぶの そうとうな 「ふうん」息子は母親にむかっていう。「うちのパパ、 子供たちの面倒をみてやっていた。 決断力たよね」 週末には、これらの大家族は、牧場の十平方キロにわたって、散二十四時間後、牧場には、動物実験のあとかたもなくなった。 らばった。スズメという新しいごちそうを発見した彼らは、夜中の もちろん、森いつばいのヴォルプラを除いてである。夜中にテラ に 0

5. SFマガジン 1975年9月号

そこには三びきがいた。おカタい生物学者が見たら、ひきつけをみのニジンスキーが、灰色の頭を檻からのそかせている飼育室のほ 起しそうな小動物のミータントが、何ダースとなく、この代謝うを、わたしはちらと眺めた。思えば、 = ジンスキーの細長い腕 ・アクセレーター と、そのいとこの襞状の側皮が、飛行ミュータントというアイデア 加速機のなかで眠っている。しかし、この三びきは特別だ。わた を与えてくれたときから、わたしは彼らをヴォルプラと呼びならわ しの胸は、ときめいていた。 動物飼育室のほうから、わたしの娘のかけてくる足音が聞こえしてきたのだった。 わたしに眺められて、ニジンスキーは、ちょっとしたタランテラ た。がちゃがちゃ鳴っているのは、手に下げたローラースケートに アクセレーダー ちがいない。わたしは加速機のふたを閉じると、研究室のドアへと舞踏を踊りだした。檻のなかを跳ねまわるたびに、ほかの指の四倍 歩いた。文字合せ錠をなんとか開けようと、娘は乱暴にノ・フをまわも長い第五指が伸び開くのを、しばらく懐旧の思いにかられなが ら、わたしは眺めていた。 している。 錠をはずしたわたしは、中から押し返しながら、ドアのわきをすわれにかえったわたしは、もういつ。ほうのスケートを、はかせに 、くら中をのそこうとしても、見えるはずかカった りぬけた。こうすれば、し 0 、 0 、 はない。わたしは、忍耐強い顔つきで、娘を見おろした。 「ん ? 」 「スケートが、はまらないのかい ? 」こうきくのは、もう二度目で ある。 「ママがパ。ハのこと、キジンだって。ほんとう ? 」 「。、パ、なんべんもなんべんもやったんだけど、この・ハックル、き「そいつは、けしからん」 「あれ、知らなかった ? 」 つく締めれないの」 「どういうことか、わかるのかい ? 」 わたしは、だまっていた。 「ううん」 「ねえ 、。、パったら ! 」 わたしは、娘を椅子から抱きおろして、床に立たせた。 「きつく締まらない」 「おとうさんも、やりかえしてやるそ。いっておくれ、ママはビジ ンだ、とね」 「・ハックルがきつく締まらない、だろ ? 」 娘は、へつびり腰で、檻のあいだを滑っていった。青い柔毛に茶 「あたし、そうゆった : : : そういったけどな」 色の柔毛、毛のあり余ったのから、まばらなの、おそろしく腕の長 「わかったよ、お嬢さん。その椅子におすわりー いやっから、滑稽なぐらい短いやっ、さまざまなミュータントが、 わたしは屈んで、サドルシュ 1 ズの片方を、スケートに突っ込ん でみた。びったりなのだ。かかとを結え、うわの空で、・ ( ックルをサル、イヌ、ネズミ、それそれの顔つきで、彼女を見送っている。 出口のドアで、娘は危なっかしく向きをかえ、わたしに手を振って 締めにかかた ついに生れたヴォルプラ。三びきの彼ら。そのくせ、彼らを生みみせた。 メタリック・アクセレーター 出せる自信で、この十年間、わたしはヴォルプラという名を、ロぐ 研究室に戻ったわたしは、代謝加速機にもぐりこんで、ヴォ せに唱えてきたのだった。十年ーーーいや、十二年間である。昔なじルプラたちから静脈注射針を抜きとり、ぐったりとしたその小さな メタ飛リック

6. SFマガジン 1975年9月号

産であり、僥倖であった。かれらにとって人類は接触するに値 いする何程の意味も持たぬかのように、かれらはあらわれたと きと同じように、たちまちま・ほろしのごとく宇宙の深淵へ消え 去った。かれらは長い旅の道程にあったのかもしれない。それ は宇宙技術者たちの想像力をかき立てるに十分なできごとであ いずれにせよ、それら宇宙生命との接触はかれらの側からな されたものではなく、したがってそこに、地球あるいは地球人 類に対するいかなる意味における攻撃意図も存在しなかった。 実はここに、ひとつの事件の痕跡がある。私があえて痕跡と 言ったのは、その全容を知るための記録があまりにも乏しく、 今日、その事件に関する新資料を発見する可能性はほとんど絶 望的ともいえる状態であるが故だ。 それは第三次統合戦争後の無秩序と、創成期の新体制の混乱 の中で、誤った取捨選択と不必要な慎重さが、貴重な記録を破 棄し、無に帰せしめたことによる。事実を伝えることが、瀕死 の文明を再起させる作業を妨げ、その意欲を喪わしむるという 判断が、当時の為政名の胸中を占めたであろうことは疑いな 今日、この事件のもたらしたものは、すべて第三次統合戦争 の結果と理解されている。 私はこの事件を記述するにあたって、何人かの歴史研究者と ス・ヘース・マン 話し合った。また多くのもと宇宙技術者とも会い、かれらの間 に伝わる伝説を収録し、あきらかにこの事件に関係があると思 われる事項を抜粋し、それらを、この事件を解明するために設 計されたコンビューターによってモンタージュさせた。 私が興味を抱いたのは、歴史研究者たちゃ、経験を積んだも と宇宙技術者たちが、この事件を、地球人類に対する、宇宙生 命体の最初の意図的攻撃であると考えている点であった。 だが、極めて乏しい資料ではあったが、それを解明してゆく うちに、私にはある別な解釈が生じた。それはある種の感慨と もいう・ヘきものであった。 広大な宇宙は、人類の感知し得ると否とにかかわらず、つね に幾多の波瀾と変転に富んだドラマで満たされている。そこで 営まれる生と死、建設と崩壊を見定めるものは、かがやく千億 の星々のみであり、それを演出するものは、無限の過去から永 劫の未来にかけて流れてやむことなき時の流れである。 それは遠い日の存在の痕跡をのみ見せて、ふたたび時の流れ の中に、永遠にその姿を消した。人類が耳にしたものこそ、そ れを悼むものの挽歌であった。 第一章かれら常闇より ュイ・アフテングリ著 『星間文明史』第二十一巻第八章 〈見残した夢または伝説のモンタ 1 ジュ〉より 225

7. SFマガジン 1975年9月号

九州に怪獣ファンクラブ現わる ! それは、か の侵攻がなかなかすすまない大きな要因ではない世話人・〒横浜市戸塚区若竹町一一〇ー一〇 小野一男の「宙」 ( おおぞら ) の九州支部「ヤマト』です。 かと田む、つ。 とは言 0 ても「宇宙戦艦ャ「ト」ではありません。 なお、岡山大学にはお同好会はないのでしょ 怪獣専門家、「ゴジラ」より素晴らしいシナリオ うか。もしあったら連絡してください。もし同「多元宇宙管理委員会」会員募集 ! 会がなくて「について僕と話してみようと思本誌四月号の投書により「多元宇宙管理委員会」を書こうとしている方、また漫画映画音楽の好き われる方は下宿までどうそ、新しい同好会を結成が結成されました。会員数は現在十名弱。小な方、どうそご連絡下さい。 8 月に会誌『スター 説だけでなく、映画・ア = メ・アート・マンクロス』 ( 電子コビー、川頁以上 ) の第 2 号発行 しましよう。 ガ : ・ : ・に関連のあることならなんでもを予定しています。連絡は下記へ。 ( 〒北九州 ( 〒川岡山市津島本町の岸本克子方 寿崎敬洋 ) 市八幡西区萩原 高田直隆 ) 研究・創作していく方針です。 興味のある方は左記へご連絡下さい。入会案内 を基本とした創作グループ「・ハルタの白い 告知板ーー 書をお送り致します。年齢、性別は問いません。 ( 〒Ⅲ愛知県岡崎市洞町寺前ー 4 近藤孝彦 ) 鷹』を創設したいと思います。小説、詩、イラス 、批評、論文、何でも結構です。歳以上の熱 神戸大学研究会・翻訳アンソロジイ 意のある方、円切手同封の上、下記までご連絡 北陸にも怪獣ファンクラブ発足 ! ( 五〇年代作家集成 ) 発売中 ! 深く雪にとざされた北陸・ : ・ : そこにもようやく下さい。 ( 〒東京都小平市学園西町 1656 の 7 中村哲 ) O ・・シマック「たそがれの世界」 ( 七〇枚 ) 明るい怪獣の光 ( ? ) がさそうとしています。 広告ーー ・スミス「クメルの詩」 ( 七〇枚 ) / ・スそれはかの有名な「宙」の子分で「セプンスタ ー」の弟分にあたる「宙」北陸支部「ショート・ タージョン「家路」 ( 二〇枚 ) ・ベスター「だ クイズ解答・当選者発表 ビース」の誕生なのです。会員のみんなが参加で れかさんは私がお好き」 ( 七〇枚 ) ・ライ・ハ 本誌 7 月号掲載のクイズに対し、総数九 ー「頭脳の平方根」 ( 三〇枚 ) ・ミラー「大きる会誌を計画中です。 怪獣ファンやマニアの方で興味をお持ちになっ いなる飢え」 ( 四〇枚 ) / その他、 O ・・コ 1 三八通という多数のご応募戴きありがとうござ ンプルース、 O ・ = ムシ , ウイラー / タイプ印刷た方は連絡して下さい。くわしい入会案内を送り いました。正解者多数のため、厳正なる抽選に より五名の方を選ばせて戴きました。 / 判 / 八〇ページ / ( 〒共 ) 六〇〇円 / 〒ます。もちろん北陸に住んでない方も大歓迎。 解答および当選された方は次の通りです。 引神戸市北区北五葉 1 の 6 の、吉田守宛 ( 現金連絡先・〒富山県新湊市庄西町一ー十一一ー七 ・〇七六六六ー四ー五 8 〇浜谷輝夫 書留・為替にて ) 解答小松左京『易仙逃里記」 ( 。フラントメン・クラブ ) 会員募集中ー 関東大学研究会議発足 ! でてくたあ ( 201 号 ) に紹介されたように当選者 ( 五十音順 ) 秋吉肇 ( 兵庫 ) 東京近辺の大学研間の交流をはかる、関東気楽な雑誌です。判、肥頁、フランス装の小 礒辺彰男 ( 東京 ) 大学研会議が、予備会議を経ていよいよ本格さな雑誌です。詳細は円切手同封の上、下記ま 知念政彦 ( 沖繩 ) で。 ( 〒東京都練馬区関町 2 ー林亜美 ) 的にスタ 1 トしました。 西島茂 ( 京都 ) 浜口照美 ( 東京 ) 会員大募集 ! 映画、ドラマ、漫画等 定例会・毎月第一日曜日 参加校・明治、法政、慶応、立教、東大、お茶の視聴覚メディアに於ける中心の会です。詳 当選された方々には、本誌九月号から十一一月 細は円切手同封の上、下記まで。 ( 〒繝大阪府 の水、中央、埼玉各大学研 号までをお送り致します。おめでとうございま 大阪市鶴見区茨田徳庵町 2 の 1 長谷川清 ) す。 問い合わせ等の連絡は

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ら、玉ねぎを挾んだ。ビールの栓を抜き、ぐう 0 とラ ' パ飲みす西 ) を後足で立たせて、息子が声をかけた。「その乙女から手を る。ひと息いれて、わたしたちの牧場のなだらかな丘とかしわのひけ、怪人め。さもないと、ダムダム弾をお見舞いするそ」 森、そして、そのむこうの大平洋のきらめきに、目を走らせた。「こ わたしは大笑いして、さっきの皿をとり上げると、椅子に腰かけ のすべてと、おまけに三びきのヴォルプラ」そう思いたくもなろう た。家内が、サラダを運んできた。息子が馬から鞍をはずし、尻に というものだ。 平手打ちをくれて牧場に追いやるのを、わたしはハン・ハ ーガーを頬 手の甲でロをぬぐうと、声に出してはこういった。「危険な年ごばりながら見物した。 ろ、それにまちがいないね。そんぶんに楽しまなくっちゃ」 そして思った。「まったくの話、研究室になにがあるかを知った 家内は、母親のようなためいきをついた。 ら、あいつ、とび上ってびつくりするだろうがなあ ! いや、うち わたしは、そばに寄って、ビールびんを持ったままの手で肩を抱じゅうが大騒ぎだろう ! 」 き、もひとつの手で彼女のおとがいを持ち上げた。金いろの太陽息子は、かついできた鞍を、ドスンとテラスに放りだした。「マ が、青い瞳のなかで踊っている。そのきらきらと光る目を見つめなマ、・ほく、ごはんのまえに泳ぎたいんだけど」いいながら、もう服 がら、 いった。「しかし、危険なのは、きみを相手にしたときだけを脱ぎかけていた。 さ」 「そうね。まる洗いの必要な感じだわ」家内はうなずいてから、自 テラスのいつ。ほうからローラースケートの音が聞こえ、もういっ分け皿を持って、わたしのとなりにすわった。 。ほうから蹄の音がひびいてくるまで、わたしたちはキスをつづけて こんどは、娘が、家内のスカートをひつばった。「あたしも、泳 ぎたい」 「かわいいくちびるだ」と、わたしはささやく。 ししわ。でも家へ入って、水着に着かえてからよー 「ありがとう。あなたも、家庭善行章がもらえてよ」 「おお、ママったら。な・せ ? 」 十四歳の誕生祝に買ってもらったばかりの・ハロミノ 「なぜってね、おチビさん、それがママの命令だから」 アラビヤ系のク ーム色の馬、 おとめ 5

9. SFマガジン 1975年9月号

R ・ H ・ハガード作宮井安吉訳「大宝窟」 ( 世界文庫・上巻 ) 表紙 パート 2 」「寺内貫太郎一家収録 ) のタイトルで訳されている短篇です。 12 」「ゴッドファ 1 ザー いうまでもなく原作の舞台はイギリスですが、涙香は 2 」とくれば、これはもうどうしたって、次は「古典 これを日本に移し、登場人物はすべて日本人としていま ・ 2 」といかないわけにはいくまい。だから、 す。ストーリイ展開は原作に忠実ですが、涙香は独自に そういくよ。 当時の寺内内閣を批判・諷刺する部分をかなり多くつけ 加えるなどして、原作よりだいぶ長くなっています。 囹「今の世の奇蹟」は創作か ? 翻訳か ? 万朝報連載 ( 大正七年九月 ~ 十一月 ) 時も、翌年単行 Oi ー伊藤秀雄氏の黒岩涙香作品研究書「黒岩涙香ーーそ本化された時も、ウエルズの名はなく黒岩涙香著となっ の小説のすべて」 ( 昭和四十六年、桃源社 ) を読んだとていたため、一般には創作のように思われていたようで ころ、「こてん古典」の第二十五回で・・ウエルズす。 ( 斎藤昌三編「現代日本文学大年表ー昭和六年、改 作品の翻訳として紹介してある「今の世の奇蹟」 ( 大正造社〈現代日本文学全集別巻〉には、黒岩涙香訳と記 八年、扶桑堂 ) が、涙香最後の創作と書かれていまし載されています。ただし、ウエルズの名はありません ) た。どちらが正しいのでしようか。翻訳ならば、その原「今の世の奇蹟」は涙香の作品の中でも、入手がむずか しく、現物に接する機会もあまりないと思いますから、 作はなんというタイトルですか ? おもしろそうな部分を少し引用しておきます。現代訳と <—「今の世の奇蹟」は、まちがいなく翻訳です。原作比較してみてください。涙香の魅力を肌で感じとってい たたけるかも知れません。 はウエルズの "The Man Who Could Work Miracles" = 第ャカワ彼れは、何事をでも命令することの出来る奇蹟の力が シ我身に在るを知りながら、何を喚起して好からうと只管 〈。東リーズに煩悶を初めた、『何とか奇蹟の力を利用する工夫は有 るまいか』彼れは自れッたさに、起上ってキョロ / \ と が第では、 《博冖一「奇蹟室の中を見廻した。 が、此時は彼れ是れ午後の一時でもあらう、彼れはフ ・負一、太「一を行う 舘〉、男」と空腹を感じた、感ずると同時に彼の心に浮んだは、兼 。一 ( 「来たて先輩が此事務所で、取寄せて喰ふ竹葉の鰻、七十匁の ト一反《るべき別焼である、アゝ是だと思ひ、大奮発で、更に先輩より すぐここ 世界のも十匁だけ輪を掛けて、『竹葉の八十匁の蒲焼、直に へ』と云った、実に奇蹟は争はれぬ、鼻を穿っ如き香ば 物語」 、い : ト第を = 烹第

10. SFマガジン 1975年9月号

人 ー・ハックス ) も、最近のノンフィクション中 ノン・フィクション部門に、触れるべきもという印象が強いのだが、あなたはどうか ? のが多かった。まず取りあげなければならな イギリスの科学ジャーナリスト、 << ・ペリ のヒットである。プラックホールは、七〇年 0 2 いのは、出版の待たれていたチャールズ・ ーの『一万年後 ( 上・下 ) 』 "The Next Ten 代天文学界の最大の発見であり話題であった ーリツツの『謎の・ハミューダ海域垰 The Ber ・ Thousand Years" ・ 75 ( 小林司訳、カッパ が、その発見の意義は、今日ますます大きく muda Triangle" 4 ( 南山宏訳・徳間書店・・フックス・各四八〇円 ) は、ここのところなりつつある。最初は、恒星進化の、一プロ オ セスーー・最終プロセスと思われていたのだ ・六〇〇円 ) である。昨年アメリカのベスト珍しい正面きっての〈明るい未来論〉である。 セラー・リストに顔を出して以来一年以上にただし、十年前のそれとはちがって、〈暗い〉が、それがいっか現代物理学を根底からゆる わたって未だにその位置を保ってその部数一一面に気がっかないのではなく、そうした困難がせるかもしれない重大問題を啓示しつつあ 〉そ 〇〇万部に達するといわれる久々の超大型・ヘは克服できるという立場に立っている。従っるーー・超空間や時間旅行がたんなる概念でな ストセラーだが、わが国でも発売以来たちまて、この本では、公害や環境破壊を、現代文くなることがありうるということを暗示しは ち二〇万とも三〇万ともいわれる大ヒットと明のもたらした必然の結果として捉えようとじめたのだ。一般解説書として、わかりやす よっこ 0 するために陥る終末論的ペシミズムを、正面く、興味ぶかい。 フィクションのための紙数がなくなりかけ 冫から否定するところに、かなりカが入ってい ハーリツツは古代史・先史学研究ですでこ たが、・シルヴァー・、 ーグの『禁じられた 名のある人で、アトランティス伝説についてる。ペリーは多数の科学者、科学ジャーナリス 惑星』 "A Time of Changes ・ :71 ( 中村保 の著書が先年わが国で翻訳出版されているト、 研究団体とのインタビ、ーや話し合いを男訳・創元推理文庫・ = 一〇〇円 ) は : せひあげ が、それだけに〈三角海域〉伝説を扱う手際通じて、いわゆる〈成長の限界〉の克服しうるておかなければならない。地球人類が嘗て征 もなかなか鮮やか。この海域で〈蒸発〉した こと、むしろ悲観論が性急な誤りであること服した惑星ポーサンの主権者の第二王子とし 飛行機、船舶、乗員などの奇怪な事件を、を指摘し、より大きな視点ーーー人類史的な視て生まれた主人公が長兄の粛清を逃れて生れ ドラマチックに紹介していって、その原因究点に立っことによって、近未来のさらにむこ故郷を捨てるが、地球人シュワルッと知りあ ってから大きな〈変化〉を経験し理想社会の建 明にかかり、とっぜんの津波、竜巻きから磁うに展開する雄大な遠未来建設を展望する。 力、重力異常、四次元の割れ目、そして 月の開拓、金星の自然改造と移住、木星の設を夢みるーー・こういってしまえば変てつの ないストーリ ーの中に、かなり重大なテーマ 0 説と展開していく。特にユニークなのは、資源の利用、宇宙への本格的進出、プラック がひそんでいる。一人称を使うことを禁じら アトランティス説で、嘗て大西洋の海底にホールの謎の解明から予測される亜空間飛れた = ゴのない社会、心を打明けるのは絆兄 沈んだこの超古代人の正体不明の動力源がま行、機械との共存、そして人類文明の高い次弟といわれる特定の人物だけという、異様な だ生き残っていて、それがたまたま通りかか元への飛躍と、ペリーの予言は、宇宙小説そ社会、スビノザの〈神〉が如実に信じられてい った船や飛行機を消したり、人間の精神に異このけの大スケールで展開される。 る社会の中で、麻 常を起こし消失原因をつくったりしているのどうやら著者は、カルダシェフやサガンや薬によって自己解 実 ではないかという暗示は面白い。また、そのクラークやダイソンなどの、前衛的科学者、天放をはかるという 証拠を、著名な霊能力者エドガー・ケースの文学者、作家の影響を多分に受けているこのでシルヴ ーグは何を 言葉に求めて、アトランティスがその驚くべらしく、しばしば彼らを引用して話をすすめ 語ろうとしている き超文明そのもののために減亡したこと、そるが、たしかにわれわれは、ここ暫くのあい のか、ネビュラ賞 ク一 0 田 の種の超古代文明の跡が地球上に数多くあるこ、 だこうした長期展望を忘れていたかもしれ 受賞も当然と思わ こと、そうした〈減亡〉が、再び近づいていない。問題は、われわれ自身の生を、どうや れる力の入った問 るかもしれないこと、それをが警告しってこの遠大な未来へつなぐのかであろうけ 題作。おそらくは 当 ているのかもしれないこと : の示唆れども : 海 も彼の雄弁な語り口でかなりのリアリティをジョン・テイラーの『プラックホール宇シルヴァーパ 持ってくる。ただし筆者にいわせれば、非常に宙の終焉』 "Black Holes:The End 。 ( the の最大の達成とい よくできたドキ = メンタリー・タッチの Universe?"'73 ( 渡辺正訳・五〇〇円・プル っていいだろう。