ことはまちがっている ! 」 考えだ。学ぶ時間はますます短かくなっているのだろうか ? どこ で終るのだろう ? 冬は大きくなり、やがてわしらは何ひとっ学ば おれの鱗はさかだっている、尻尾が大地を打ちはじめる。霧を通 して、爺のあえぎが聞える。 ず、さだめにしたがって盲目的に生きるだけになるのだろうか ? 重たい黒いものを引きずって、洞窟にはいったことはお・ほえてい 歌うだけで話すこともできない愚かな木登りどもと同じように」 る。 冷たいおそれが、おれのうちにひろがる。なんというおそろしい 知識だろう ! おれは怒りを感じる。 凍える寒さ、殺す寒さ : : : その寒さのなかで、おれはあんたを殺 「いやだ ! そんなことにはさせないそ ! おれたちはーー・おれたしてしまった。 リーリルー。爺は抵抗しなかった。 ちは暖かさをたくわえておくのだ ! 」 「暖かさをたくわえる ? 」爺は苦しそうに体をねじまげ、おれを見さだめは偉大だ。爺はすべてをうけいれたのだ、今のおれが感じ る。「暖かさをたくわえるか : : : すばらしい考えだ。なるほど。だているような、ふしぎな歓びまで味わっていたかもしれない。さだ が、どうやって ? どうやって ? もうじき考えも何もうかばなくめのなかには、歓びがあるのだ。だが、もしさだめがまちがってい るとしたら ? 冬が大きくなる。木登りたちにも彼らのさだめがあ なる寒さが来る、この場所にもだ ! 」 「また暖かさがもどってくるさ」おれはいう。「そうしたら、それるのだろうか ? どれほどおれたちは努力したこと をたくわえておく方法を学ぶんだ、あんたとおれで ! 」 ああ、むずかしい考えだ ! 爺の頭がぐらりとする。 か、おれのかわいい赤、おれの歓び。暖かい日々のあいだ、おれは : そくりかえしくりかえしおまえに説明した。暖かさをたくわえないか 「だめだ : : : 暖かくなるころには、わしはここにはいな、 ぎり、きっと冬がやってきて、おれたちを変えてしまうだろうと。 して、おまえは考える暇もないほど忙しくなるだろう、若者」 「おれがあんたを助けてやる ! あんたを洞窟まで運んでやる ! 」おまえはわかってくれた ! 今おまえは心をわかちあい、理解してく ロこそきけないおまえだ 「洞窟か」爺はあえぐ。「どの洞窟にも、おまえと同じような黒いれている、かけがえのないおれの炎よ やつがふたりずつはいる。ひとりは生きていて、空っぽの心のままが、おれにはおまえの愛が感じられるのだ。やさしい心づかいが : 冬が過ぎるのを待っている : そして待ちながら、その黒は食べ おお、そうだ、おれたちは計画をたてたのだ、おれたち自身のた る。もうひとりを食べるのだ、そうして生きながらえるのだ。それめのさだめを作ったのだ。暑さのさかりのときでさえ、寒さに対す るさだめを作ることを忘れなかった。ほかの恋人たちもあんなふう がさだめた。おまえがわしを食うようにな、小僧」 にしたのだろうか ? かわいい花のつ・ほみ、おまえを抱いて、どれ 「うそだ ! 」おれはおそろしさのあまり叫ぶ。「おれは絶対あんた を傷つけたりしない ! 」 ほどさがしたことか、山なみをつぎつぎと越え、太陽を追って、お 「寒くなればわかる」爺はささやく。「さだめは偉大だ ! 」 れたちはとうとう日のあたる側でいちばん暖かい谷間を見つけたの 「ちがう ! そんなことがあるものか ! おれはさだめをこわしてだ。ここならきっと寒さも弱いにちがいない、おれはそう思った。お やる」おれは叫ぶ。寒い風が頂きから吹きおろし、太陽が死ぬ。 れのなかにある自分を凍らせ、冬の洞窟へとむかう道におれを導い 「おれはあんたを傷つけはしない」おれはほえる。「あんたのいうた冷たい霧や冷たい風、やつらだってここまで来ることはできまい
ニコラスは急に空腹を意識した。彼は歩きだした。 「マヤ ? 」 アイランド博士が木の葉をつうじていった。「わたしがきみに話 しかけるとね、ニコラス、きみの心は、そのとぎ耳に聞こえたなに彼はイグナシオが浜辺で祈っているのを見つけた。一時間あまり かの音を、わたしの考えを伝える媒体にかえるのさ。きみは雨のしもニコラスは椰子の木蔭にかくれてそれを見まもったが、イグナシ としと降る音に静かなわたしの声を聞き、 - 小鳥のさえずりに朗らかオがだれに祈っているのか、さつばり見当がっかなかった。イグナ なわたしの声を聞くかもしれない だけど、やろうと思えば、わシオは寄せ波のレースのような縁がちょうど消えるところにひざま たしは自分の与えたい観念や暗示がきみの意識の中へ釘のようにうずき、海のほうを向いていた。そしてときおりおじぎをしては、濡 ちこまれるまでに . 、自分の声を増幅することができる。そうすれば、れた砂にひたいをくつつけるのだった。やがてニコラスは、波のざ きみはわたしの思いのままに動くことになる」 わめきにまじって、かすかにイグナシオの声が伝わってくるのを聞 「そんなこと信じないね」ニコラスはいった。「それができるんな いた。ニコラスは、祈りというもの一般に、好意をよせていた。彼 ら、ダイアンが緊張病になるのを、な・せとめなかったんだ ? 」 の観察によると、祈りをする人間のほうが、しない人間よりも、概 「第一に、彼女がわたしから逃れようとして、もっと深く病気の中して興味深い話し相手だったからだ。しかし、同時に彼は、信者が し . ー十 / し、刀、こ へひきこもるおそれがあるから。第二に、そんな方法で彼女の緊張その信仰の対象にどんな名をつけようとたいして違、よよ、 病をとめても、原因をとりのそくことにならないから」 のようにしてその神が考えだされたかを知ることが大切なのを、す 「第三に ? 」 でに知っていた。イグナシオはアイランド博士に祈っているのでは 「わたしは『第三に』とはいわなかったよ、ニコラス」 なさそうだーーーもしそうなら、ニコラスの考えでは、彼は反対側を 「聞こえたように思ったけどなーー・・・二枚の木の葉がふれあったとき向くはずである。つかのま彼は、ひょっとしてイグナシオが波に祈 っているのではないか、といぶかしんだ。相手の背後の位置から、 「第三に、 ニコラス、きみも彼女も、あるほかの人物への影響力と彼はイグナシオの視線のゆくえを追った。外へ外へ、波また波とそ いうことから選ばれたからだ。もしわたしが彼女を , ーー・あるいはきのむこうの明るくぼやけた空、上へ上へ、カー・フした空をついにぐ みを , ・・。ーあまり急激にかえては、その効果が失われてしまう」アイるりと一周して、ふたたびイグナシオの背中にもどるまで。ふとそ を一い、つ ランド博士は、またもや猿になっていた。二十メートルほどむこう こで、イグナシオは自分自身に祈っているのかもしれない、 で、木の幹を盾にしてキイキイ鳴きたてている新しい猿だった。ニ考えがうかんだ。彼は思いきって椰子の木蔭を離れると、イグナシ コラスはそいつに枯枝を投げつけた。 オがひざまずいている場所との真中あたりまで近づき、そこへ腰を 「あの猿たちはただの小動物だよ、ニコラス。人のあとをつけてきおろした。波の音とイグナシオの低いつぶやきを除くと、あたりに て、キイキイ鳴くのが好きなのさ」 はとほうもなく大きくて脆い静寂がはりつめ、今にもこのガラス張 「イグナシオも猿を殺すんだろう、きっと」 りの衛星ぜんたいが、どらのように鳴りだしそうな気配たった。 「いや、彼は猿たちが好きなんだよ。彼は食べるための魚しか殺さ しばらくして、ニコラスは彼の左半身がふるえているのを感し ない」 た。彼は右手でそっちをさすりはじめ、左腕の上から肱へ、左肩か 8 9
「ああ、上々さ。珍しい動物を観察してた」 プラを、ひややかににらんだ。「いまから、おまえたちの族長と、 「娘も、そうらしいわ」 話しにゆくそ」 「どういう意味なんだ ? 」 「二ひきのそれと、部屋にこもりきりなのよ」 階下に降りたわたしは、家内を詰問した。「なぜ、こんなことが 「二ひきのそれ ? 」 起こってるのを、知らせてくれなかったんだ ? こんなことが起こ 「ええ。あなたなら、どんな名をつけるかしら ? 」 ってるのに、わたしと相談しない法があるか ? 」 家内の表情は、これまでめったに見せたことのないものだった。 「こっちも、 わたしは階段を三段すっかけあがって、娘の部屋にとびこんだ。 ししたいことがあるわ。これまで、あなたの全生活 トの上にすわった娘が、二ひきのヴォルプラ相手に、本を読は、わたしたちにとって秘密だったのよ。娘が、ほんのちょっとし んで聞かせている。 た秘密を持ったからといって、つべこぺいう権利はないはずだわ」 ヴォルプラの一びきが、ニャリと笑うと、英語でこういっこ。 にじりよった家内の目から、わたしの全身めがけて、青い火花が 「やあ、こんにちは、アーサー王」 飛びちるようだった。「そもそも、あなたにしゃべったこと自体が、 ーしー - し これはどういうことなんだ ? 」わたしは、ひとりと二まちがいね。だれにもいわないと、娘に約東したのに。でも、こう ひきに問いただした。 なるとは思わなかったわ。小さな女の子が、ちょっとした秘密を持 「なんでもないわ、 いつものように、お話を読んであげてる っただけのことを、まるで気ちがいみたいにわめきたてたりして」 だけよ」 「ちょっとした秘密だと ! 」わたしは、どなった。「これが、どん 「いつものように ? いっから、こんなことをはじめたんだ ? 」 なに危険なことか、きみにはわからないのか ? あの生き物たちと 「もう何週も何週もまえのことだわ。あなたが、はじめてここ〈ききたら、セックス過剰で、おまけに : ・ : 」わたしはロをつぐんだ。 てから、どのぐらいたったかしら、ムクムクちゃん ? 」 気まずい沈黙のなかで、家内はワイセッな微笑をうかべてみせた。 かんがん わたしをアーサー王と呼んだ無礼なヴォル。フラは、 = ャリと笑う「どうしてまた : : だしぬけに・ : ハーレムの宦官みたいな口をき と、指を折って数えた。「もう何週も何週も、まえのことさ」 きはじめたの ? あのかわいいムク毛の生きもののどこに、わるい 「英語を、彼らに教えたのか ? 」 ところがあって ? でも、わたしが、なにも知らないと思ったら、 「もちろんよ。だ 0 て、と「てもいい生徒たし、すごく喜んでるの大まちがいだわ。あの生きものを作「たのは、あなたご自身でし よ。パパ、お願いだから、追っぱらうなんていわないで。わたした よ。もしかして、彼らにイヤラシイ考えがあるとしたら、わたしに ち、お友だちでしよ、ね ? 」 はその原因がわかる気がするわ」 ヴォルプラたちは、熱心にあいづちを打った。 わたしは、憤然と家をとびだした。急転回でジープを庭から出す 娘は、わたしのほうに向きなおった。「パ 知ってる ? 彼と、森の中をつつばしった。 ら、飛べるのよ。この窓からでも、空に飛んでゆけるの」 族長は、、 しつもの場所に、ゆうゆうとおさまりかえっていた。自 「ほんとうかい ? 」わたしは、むか「腹で答えて、二ひきのヴォル分の家のある、大きなかしわの木にもたれているのだ。そばには、 2
一年後、ハワイの〈遠宇宙追跡ステーション〉を訪れた際に、か最後を遂げるまでは。 れはさらに忘れ得ぬ経験にめぐり合った。ケアラケクア湾に向う水通信軍曹は、指揮官が黙然とラーマの夜をみつめているあいだ、 中翼船に乗って、荒涼とした一火口壁のそばを迅速に走り過ぎなが辛抱強く待っていた。夜はもはや完全な闇ではなかった。なぜな ら、かれは胸の奥底が感動に揺さぶられるのを感じて、驚きもし、 ら、四キロほど離れた二地点に、探検隊のほのかな光点がはっきり 狼狽もした。ガイドが、科学者や技師や宇宙飛行士から成るかれのと見てとれたからだ。 一行を、一九六八年の″大津波〃で破壊された以前の記念碑に代え いざというときは、一時間以内でかれらを呼び戻せる、とノート て建立された、光り輝く金属の記念塔のところへ案内してくれたのンは考えた。それなら、たしかに問題はあるまい だ。かれらは真っ黒な滑りやすい溶岩の上を、数メートルほど歩き かれは軍曹のほうに向きなおった。「こう返電してくれ。〈惑星 なぎさ 渡って、渚は立っている小さな飾り板の前に立った。小さな波が打通信社〉気付〈ラーマ委員会〉宛。ご忠告を謝す。十全の警戒をと ち寄せてしぶきを散らしていたが、かがみこんで板面の文字を読むる。″突発″の文意、ご教示乞う。エンデヴァー号艦長ノートン」 ノートンの眼中には、ほとんど入らなかった。 かれは軍曹がキャンプの煌々と輝く照明の中へ消え去るまで待っ てから、再びレコーダーのスイッチを入れた。だが、思考の連鎖が 一七七九年二月十四日、ジェイムズ・クック船長はこの付近断ち切られたいまとなっては、もう前の気分に戻ることはできなか にて殺さる。 った。手紙をしたためるのは、またの時にするほかはない。 一九二八年八月二十八日、クック百五十年記念訪問団が最初かれが当然の義務を怠けているときに、クック船長が救けの手を の記念碑を献納。 差しのべてくれることは、減多になかった。だが、突然かれは、十 一一〇七九年二月十四日、三百年記念訪問団により再建さる。 六年間の結婚生活中エリザベス・クックが夫と一緒にいられたの は、気の毒にもごく時たまで、それもごく短い期間だけだった、と いうことを思い出した。それでも、彼女は六人も子供を産みーーそ あれはもう何年も前のことだし、一億キロも離れた場所の出来事 であった。しかし、このような瞬間には、クックの頼もしい存在の全員に先立たれてしまったのだ。 だから、光速度で十分以上はかからぬところにいるかれの妻たち が、すぐ身近かに感じられるのだった。心の奥深くで、かれはこう だって、不平をいう理由などさらさらないはすではないか : 訊ねるのが常であった。 「では、船長ーーーあなたのお考えは ? 」健全な判断を下すにたるだ けの事実がなく、もつばら直感に頼るほかない場合に、それはかれ 第十七章春来たる が楽しむ軽いゲ 1 ムなのだ。それはクックの才能の一部でもあっ ラーマに来て最初の何″夜″かは、なかなか寝つかれなかった。 た。かれはいつも正しい選択をやってのけたーーケアラケクア湾で 掲 3
あ 0 て、彼女がじきじきに訪れることは絶対不可能、という憤懣や中へま 0 すぐ入 0 ています。これは一一十世紀初頭の市街電車の線路 るかたない一点を除けばであるが。 と、驚くほどそっくりで、明らかに輸送システムの一部にちがいあ 7 「みなさんもすでにご存じの通り」彼女は始めた。「ノートン中佐りません。 は、まったく何ごともなくほぼ三十キロの横断を完了しました。か 公共の輸送機関を、各家庭へじかに接続させる必然性は考えられ れはみなさんの地図に、〈直線渓谷〉の名で示されている奇妙な堀ません。経済的に見てもばかげていますーー人間は数百メートルぐ を探険しました。この堀の目的はまだ皆目不明ですが、それがラら、 し、いつだって歩けるのですから。でも、もしこれらの建物が、 1 マの全長にわたって 〈円筒海〉の部分だけ途切れております重機材の貯蔵所に使われるのだったら、筋が通ります」 がーー走っている点からみて、また、この世界の円周に沿って、一「質問してもよろしいですか ? 」と、地球大使がいった。 一一〇度間隔で同一の構造物が、ほかにも二本存在する点からみて、 「どうそどうそ、ロバート卿」 明らかに重要な目的をもつものと思われます。 「 / ートン中佐は建物の中に一つも入れなかったのですか ? 」 その後、一行は左へ 〈北極〉での申し合せに従えば、東へ 「ええ。中佐の報告をお聞きになれば、かれの企てがすべて失敗し ーーー進路を変え、 ハリに到達しました。〈軸端部〉の望遠カメラが たことがわかりますわ。はじめかれは、地下からしか建物の中へ入 とらえたこの写真からおわかりのように、そこは数百の建物の集まれないのではないか、と考えていましたが、その後輸送システムの りで、あいだを広い通りが走っています。 溝が発見されたので、考えを変えました」 さて、こちらの写真は、ノートン中佐の一行がその場所にたどり「中へ押し入ろうとはしたのですか ? 」 ついた際、撮影したものです。もしパリが都市であるとしたら、 「方法が見つからなかったのです、爆薬か重い道具を使う以外に 常に風変わりな都市です。建物のどれ一つとして、窓もなければ、ド は。中佐としては、ほかの手段がすべて失敗に終らぬうちは、そう アもないことにご注意ください ! 建物はすべて単純な長方形構造したくないと考えています」 で、どれも高さは一様に三十五メートルです。それに、地面からに 「わかったそ ! 」デニス・ソロモンズが突然口をはさんだ。「″かい よきによき生え出たように見えますーー合せ目も接ぎ目もありませこのまゆ。式た ! 」 んーー・壁の基部のところを大写しにしたこの写真をごらんください 「何とおっしゃいました ? 」 壁から地上にそのまま変わっております。 「二、三百年前に開発された技術です」と、科学史家は続けた。 私の思いますには、ここは居住区ではなく、貯蔵所か補給倉庫で 「またの名を″虫よけ玉″式という。何か保存しておきたいものが す。この仮説の裏づけとして、この写真を見てください : あるとき、それをプラスチック容器の中へ封じこんでから、不活性 約五センチ幅の、このような狭い穴といいますか溝が、あらゆる気体を注入するのです。最初は、次の戦争に備えて、軍事設備を保 通りに沿 0 て走 0 ており、どの建物にもそれが続いていて・ー・壁の管しておく目的に使われました。昔は、船を丸ごと、この方式で保
の先に立っと、雫をたらしている枝を横にかきわけた。「ねえ、さ「へんな臭いーーおれが前にいたところの調理場みたいな臭いだ。 一度、そこの調理場で働かされたんだよ」 つきはとんまだなんていって、ごめんなさい」 「植物が腐ってるの。その臭いよ。それで、どんなことをしたの ? 」 「考えごとしてただけさ」ニコラスはいった。「怒ってなんかいな 「何もするもんかーーーあいつらのこしらえてた料理の中へ、洗剤を いよ。あいつのこと、ほんとに何も知らないの ? 」 「ええ。でも、あれを見て」彼女は身ぶりで示した。「まわりを見ぶちこんでやったよ。どうしてこうなるんだろう ? 」 し ? このカープした空のちょうど真上に 「大光斑のせいだわ。、、 てごらん。だれかがこれだけのものを作ったのよ」 大光斑がくると、上にある海がレンズの働きをするわけ。といって 「つまり、すごく金がかかってるってこと ? 」 ほとんどの光は散らばって 「もちろん全部自動化されてはいるけど、それにしても : : : たとえも、あんまり上等のレンズじゃない ばよ、あなたがいままでにいたようなところを考えてみてーー患者しまう。でも、いくぶんかの光は焦点をむすんで、これだけのこと 一人当たりにどれだけのスペースがあって ? 全部の広さを、そのをやってのけるのよ。もしあなたがそれを心配してるなら教えたげ るけど、かりに今ここを焦点が通ったとしても、黒焦げにされたり 中にいる人数で割ってごらん」 「わかったよ、ここは桁はずれに広いさ。だけど、おれたち、それするようなことはないわ。そんなに熱くないの。あたし、その中に 立ってみたことがある。でも、一分もしたら外に出たくなるわね」 だけの値打ちがあると思われてるのかもね」 「ニコラス : : : 」彼女は間をおいた。「ニコラス、イグナシオは殺「あれを見せてくれるのかと思った。ほら、さっき浜辺で見えたお 人狂なのよ。アイランド博士から聞かなかった ? 」 れたちの影」 「聞いた」 ダイアンは倒れた木の幹に腰をかけた。「そのつもりだったのよ、 ほんとは。この前ここに来たときは、もっと海から離れてて、それ 「なのに、あなたはまだ十四で、年のわりには小柄だし、あたしは にもっと長いことつづいたんじゃないかと思うわ。だって、こうい 女。いったい彼らは、だれのことを気づかってるのかしら ? 」 う枯れたものが、ほとんどきれいになくなってたもの。このへんで ニコラスの顔に現われた表情は、彼女をぎくりとさせた。 は、扇区の幅が浜辺よりもせまいのよ。扇区ぜんたいがちょうどパ 一時間あまり歩いたすえ、二人はそこに着いた。枯れしなび、茶イの一切れみたいなかたちで、中へいくほど幅がせばまっている や黄に変色した草木が一本の帯になってつづいている。その帯は定の。だから、どっち側にも焦点が見えるし、自分の姿も、浜辺で見 規で測ったようにまっすぐだった。「もうここにないかと心配だつるよりずっと近くに見える。まるで左右の壁が鏡張りになった広い たわ」ダイアンがいった。「嵐があるたびに、これが動きまわるの。広い部屋にいるみたいな感じ。それとも、自分の背中に立ってるよ うな感じ。あなたに見せたらよろこぶと思ったんだけどな」 あたしたちのいる扇区から全然なくなっちゃうことも、ありうるか ら」 「ここでためしてみるよ」ニコラスはそう告げると、娘を下に残し ニコラスよ、つこ。 をしナ「これはなに ? 」 て、一本の枯木に登りはじめた。しかし、足をかけた枯枝がぎしぎ 「焦点。このへんを通っていた跡なのよ。でも、ふつう焦点が行っし鳴ったり、ぼきりと折れたりするので、自分の姿が両側に見晴ら てしまったあとは、すぐにまた草木が生えてくるわ」 せるほど高くへは登れなかった。もう一度彼女のそばへとびおりる セクター 8 8
連載日 LL こてん古典 貧一「 ( ~ 一一十九回古典《ら 話題はいささか古くなるけれども、こないだうちナンしようか ? ( 鉄道唱歌がヒントです ) センス・クイズが大流行した時のこと。ある雑誌社か ら、ぼくのところへも、おもしろいやつを作れなんて注〔問題三〕一寸法師が鬼を退治したのは、いつのできご 文がきた。いままでにほかの人が作ってないやつを考えとでしようか ? てくれという。いろいろ考えた結果、これならまだ、だ れも考えていないだろと思うやつを二つばかり作り、数さっそく、これを雑誌記者氏に渡した。 をそろえるために、つけたしの一つを作って三問にし「どうですか ? わかりますか ? 」 た。名づけて、おとぎ話シリ 1 ズ。 「いえ、・せんぜん」 「最初の、玉手箱からでてきた海の動物ですね。これは こわ 〔問題一〕浦島太郎のもらった玉手箱の中には、ある海カ一一なんです。しかも、とっても恐いやつね」 の動物が入っていました。その動物とはなんでしよう ? 「はあ、そうなんですか」 「浦島太郎が玉手箱を開けるでしよ」 「はあ、開けますね」 〔問題一 D サルカニ合戦のサルは山、カ一一は海に住んで います。では、カニを助けたウスはどこに住んでいるで「すると、白いけむりが、もくもく : : : 」 田 彌 :
おれは以前の倍の狩りをする。この洞窟を天井まで埋めてしまお こんどこそ、おれは寒さを追いはらうー う、おれの太った。ヒンクのつ・ほみよ、ここを食べ物でいつばいにして こんどはおまえがいるのだ。 しまえば、冬のあいだすっとおまえのそばにいられるじゃないか ! 」 「わたしをそんなところへやらないで、わたしのモッガディー ー冬のふしぎさを恐れて、おまえは懇願した。「わたしを寒い おれはそのとおりにした、そうじゃなかったか、おれのリツリ ? ところへ連れていかないで ! 」 間抜けなモッガディート、どれほど狩りをしたことか、何十びきと木 「連れていくものか、おれのリーリルー ! 絶対にだ、おれは誓登りやとかげやとびっちょやさわぎ虫を運びいれたことか。なんと う。おれはおまえのかあさんだろう、かわいい赤 ? 」 いうばかだったのだろう ! もちろん、みんな腐ってしまった、暑さ 「でも、あなたは変る ! 寒さがあなたを忘れさせてしまう。それのなかで、そして食べ物の山はべとべとした緑色に変った がさだめなのでしよう ? 」 しかたなく、おれた おれの赤い実よ、まずくはなかったろう ? 「そのさだめをこわすのだ、リリ。ごらん、おれの炎の実、おまえちはその場で全部食べてしまわねばならなかった。子供みたいにま はますます大きく重くなってゆくーーーそして、いっそう美しくなつるまると太るまで。そして、おまえはなんと大きくなったことか ! てゆく ! おまえを楽に運べなくなるときが、まもなく来るだろ おお、美しくなったおまえ、おれの赤い宝石 ! はちきれそうに う、寒い道などへおまえを運んでいけるはずがない。そしておれは太り、輝いている、だがそれでもおまえはおれのチビ助、おれの太 決しておまえから離れない ! 」 陽の火花だ。毎夜、おまえが満腹すると、おれは絹を裂き、おまえ 「だけど、あなたはこんなに大きい、モッガティート ! 変るときの頭を、眼を、やわらかな耳をなで、興奮に震えながら、あの気の が来たら、あなたは何もかも忘れて、わたしを寒いなかへ連れてい 遠くなるような瞬間ーーーおまえの緋色の肢の一本目を解きはなち、 ってしまう」 それを抱きしめ、もみほぐし、脈打つおれの喉袋に押しつける瞬間 「うそだ ! おまえのモッガディートは、もっと念入りなさだめをを待ち望んだものだった。ときには、おまえの動き、それだけを見 作っている ! 霧が出は . じめたら、おまえをこの洞窟のいちばん遠るのが楽しみで、二本いっぺんに解き放ってしまったこともある。 しいちばん暖かい裂け目へ連れていこう。そして、そこに壁を紡そして夜ごとに、その時間は長くなり、朝を迎えるたびに、おまえ ぎ、二度とおまえを引っぱりだせないようにするのだ。さだめがどを縛る絹の量はふえていった。どれほどおまえを誇りに思ったこと れほど強かろうと、モッガディートとリーリルーを引き離せはしな ・ころう、おれのリーリリリルー ! 最高の考えがわきあがったのは、そのときだ。 おまえのまわりにきらめく繭をそっと織っているとき、おれの歓 「でも、あなたが狩りにでかけるとき、寒さがあなたをさらってし まうかもしれないー わたしを忘れて冬の冷たい愛のあとを追いかびの実よ、おれはふと思ったのだ、なぜ生きている木登りたちをい け、わたしはここで死んでしまう ! もしかすると、それがさだめっしょにつつみこんでしまわないのか ? 生きたまま閉じこめてし まえば、肉がますくなることもないし、冬のあいだずっと、おれた かもしれないわ ! 」 「よすんだ、かわいい赤、かけがえのない赤 ! 悲しむな、泣くちの役に立つはずだー ツレ、おれは実行した、そ それはすばらしい考えだった、リリノー な ! おまえのモッガディートが考えたさだめを話そう ! 今から ( カ 5 6
いうものを見た。あのころのおれには、それらは何の意味もないもれも声をかけたりはしなかった。ひとりずつ別々に、おれたちは洞 のだった。だが、やがておれは重要なことを学びはじめた。 窟へと登ってゆく、考えもせず、眠もうつろに。おれだってそうな っていたかもしれない。 寒さだ。 だがそこで、すばらしいことがおこったのだ。 おまえにはわかるな、かわいい赤。暖かいころには、おれはお もっともすばらしいことではな しや、ちがう、リリル れ、自分日モッガディートだ。絶えず大きくなり、絶えず学んでい 。もっともすばらしいのは、おまえだ、永遠に。かけがえのない る。暖かいなかで、おれたちは考える、話す。愛する ! おれたちい 自身のさだめを作るのだ、ああ作っただろう、おれの愛する宝 ? 光の子、おれのまっ赤な太陽 ! おちついて、そう、そう。抱いて だが寒いなかでは、夜のなかでは , ・ーー一日ごとに夜は寒くなっておくれ、やさしく。おれが学んだ大きなことを話さなければならな モッガディ い。おまえのモッガディートの話を聞くのだ、聞いておばえるの いたからーー寒い夜には、おれはーーー何たったか ? ートではなかった。考えるモッガディートではなかった。おれ " 自だー 分ではなかった。ただ生きているだけの何か、考えもなく動くも太陽の最後のぬくもりのなかで、おれは彼を見つけた、爺を。見 の。自由のきかない宅ッガディ 1 ト、 ・ほろ・ほろに傷ついていた。腐りかけたり、 寒いなかには、さだめしかなるも無残な姿だった ! 。そう思いかけたほどだった。 ちぎれてなくなっている部分もあった。おれは見つめた、死んでい ところが、ある日、夜の冷たさがいつまでもいつまでも残り、太るとばかり思っていたのだ。とっ・せん、その頭が弱々しく回り、し 陽が霧のなかに隠れるときが来た。そして気がつくと、おれは道をわがれ声がもれた。 「若者 : : : か ? 」腐りかけた頭にある眠のひとつがあいた。飛ぶ生 登っていたのだ。 き物がそれをついばんでいる。「若者 : : : 待て ! 」 道もまたさだめのひとつなのだ、かわいい赤。 道は冬のためのものだ。おれたち黒いものはみんな、それを登らすると、おれにはわかったのだ ! ああ、高まる愛のなかで やさし そうじゃない、ちがうんだ、かわいい赤 ! やさしくー なければならない。寒さの力がますころになると、さだめは上へ上 へとさし招き、おれたちは道を登りはじめるのた。尾根づたいに寒 く、おまえのモッガディート の話を聞いておくれ。言葉をかわすこ さのなかへ、山々の夜の側へ。森のかなた、木々がまばらになり、 とができたのだ、爺とおれのあいだで ! おとなから子供へ、おれ 石のような枯木だけしかないところへと。 たちはわかちあったのだ。おこるはすのないことなのに。 こうして、さだめはおれを引っぱり、おれはぼんやりした頭でそ「おとなにはおらん」と爺はしわがれ声でいった。「ロはきかん : : ないからだ。わしだけ れに従った。ときどき暖かな日ざしのなかに出ることがあり、そう ・ : わしら黒たちは。決して。さだめでは : いうところでは立ちどまり、食べ、なんとか考えることができた。 は : : : わしは待って : : : 」 だがまた寒い霧があがってきて、おれは先を急ぐだけになるのだっ 「さだめ」うすうす気づきながらも、おれはきく。「さだめとは何 た。そのうち、遠い山腹におれと同じようなものたちの姿が、ちら ほら見えるようになった。しつかりした足どりで登ってゆく。おれ「美さ」爺はささやく。「暖かいころ、空気のなかを伝わってきた : ・ところが、別の黒いやつが現われ に気づいても、連中は起きあがったり、ほえたりはしなかった。お美 : : : わしはあとを追った :
と、少年はいった。「ここにもぜんぜん食べものがないみたいだな「ダイアンは気にいらなかったみたいだぜ」 あ」 「ダイアンは治療を望んでいないのかもしれないーーー治療はときに 「あたしも見つけたことがないわ」 苦しいものだし、人びとがそれを嫌うことはめずらしくない。けれ 「あいつらーーーじゃなかった、アイランド博士は、まさかおれたちども、相手がそれを望んでいようといまいと、できるかぎりカを貸 すのが、わたしの役目さ」 を飢え死にさせる気じゃないんだろ ? 」 「彼にはどうしようもないと思うわ。ここがそんなふうにできてる「おれが行きたくないといったら ? 」 のよ。ときどき何かが見つかったりして。あたしも魚をとろうと何「むりに行かせることはできない。それはわかるね。だけど、行か べんかやってみたけど、だめだった。でも、二度ほどイグナシオが ないと、ニコラス、きみはこの扇区で一番年下なうえに、あれを見 自分のとったのを分けてくれたわ。彼、とても上手なの。きっとあていないたった一人の患者になるよ。ダイアンもイグナシオもあれ なた、あたしのこと痩せっぽちだと思ってるでしよう ? でも、こを見た。イグナシオはしよっちゅう見に行っている」 こへ来たばかりは、もっと肥ってたのよ 「危険なのか ? 」 「これからおれたち何するんだい ? 」 「いや、べつに。怖いのかね ? 」 「このまま歩くんでしようね、ニコラス。それとも、浜辺へもどっ ニコラスは物問いたげにダイアンを見やった。「ねえ、何だい ? てもいいわ」 何が見えるんだい」 「何か見つかると思う ? 」 彼女は少年がアイランド博士と話しているまにすたすた歩いて、 朽ちた丸太から、虫の鳴き声が呼びかけた。「待ちなさい」 今ではニコラスの立っているところから五メートルほど先で地べた ニコラスがきいた。「おまえ、何かのあるとこを知ってるのか ? 」 にあぐらをかき、じっと両手を見つめていた。ニコラスはくりかえ 「きみの食べもののことかな ? いや、べつに。しかし、こんな枯した。「何が見えるんだい、ダイアン ? 」彼女が答えるとは、あて 木の山よりもっともっと面白いものを見せてあげるよ、ここからそにしていなかった。 う遠くないところで。見たいだろう ? 」 娘がいった。「鏡よ。鏡」 ダイアンがいった。「行かないで、ニコラス」 「鏡だけ ? 」 「あなたがここの木に登ったとき、あたしの話したことをお・ほえて 「何を見せるんだ ? 」 「これを『焦点』と呼んでいるダイアンは、今からわたしがきみにる ? 『極点』は、両側の縁がいっしょに合わさるところなの。あ 見せるものを、『極点』と呼んでいるよ」 そこでは、自分の姿が見えるわーーーちょうど浜辺で見たように ニコラスはダイアンにたすねた。「なぜ行っちゃいけないのさ ? 」でも、もっと近くに」 ニコラスは失望を表わした。「鏡にうつる自分なら、いやってほ 「あたしは行かないわ。前に一度行ったことがあるしねー 「わたしが連れていったのさ」アイランド博士がいった。「こんどど見たよ」 はきみを連れてゆく。これがきみのためになると思わなければ、連アイランド博士が、こんどは枯葉のささやきとなって、語りかけ た。「ニコラス、ここへ来るまえ、きみの部屋には鏡があった ? 」 れていきはしないよ」 9 8