・サンセット方面、大通りの下あたりです。悪名高い下級視点を走査していた。何千という組み合わせを目まぐるしく走り抜 民の何人かも、その近所に棲んでいますわ」 け、ついに、古い用具部屋で停止した。ロポットが金属の丸いかけ 0 2 アンダーピー・フル その地区の悪い下級民について、何百という組み合せを点減さらをみがいていた。 ロ 1 ド・ウィリアムは荒れ狂った。 せながら、〈鐘〉は乳白色に変わっていった。ジェストコーストは 「それを手に入れろ」彼は叫んだ。「わたしにあれを買わせてくれ 自分がめったにないほどの集中力で、そのぼんやりしたミルク状の ものを眺めているのを感じた。 「いいだろう」ロ 1 ド・イサンが答えた。「少し不法ではあるが、 〈鐘〉がくつきりと映し出した。 浮かびあがった映像は、、 / ローウインごっこに興じている子供たまあいいだろう」 ち。 機械は主調査装置に知らせ、ロポットを昇降機へ運んだ。 レ一アイ ロ 1 ド・イサンが言った。「これは大した問題ではないな」 ・ヨハンナは笑った。「人間ではないわ。彼らはロポット ク・メルは涙をこ・ほす。まったく名女優である。「それからあの よ。あれはただの退屈な昔の遊びなのよ」 ホムンクルス 「まだあるんです」とク・メルはつけ加えた。「あの男は一ドル紙男は人造人間の卵を手に入れるよう、わたしに求めました。タイ 幣と一シリング硬貨を欲しがっていました。本物をです。故郷に持プの、鳥族のものです。故郷に持って帰るつもりなんです」 イサンは調査装置を始動させた。 って帰るつもりです。ロポットがいくつか見つけたのです」 「何だ、それは ? 」とロード・イサン。 「たぶん」とク・メル。「誰かがもう処分系列に入れてしまってま 「古代貨幣た。昔のアメリカ合衆国とオーストラリアで使われていすわ」 た」ロード・ウィリアムが叫んだ。「わたしは複製を持っている。 〈鐘〉と〈蔵〉は高速度ですべての処分装置を捜し回った。ジェス トコ 1 ストは神経が焼き切れそうな気がした。人間にはこの何千も だが国立博物館の外には本物は一つも残ってないはずだが」彼は熱 心なコイン・コレクターだった。 のパターンを記憶することはできない。人の目でとらえるには、 「ロポットがそれを見つけたのは、〈地球港〉の真下の、古い隠さ〈鐘〉を横切るパターンはあまりに速い。しかしジェストコースト ベル れた場所です」 の目を通して〈鐘〉の動きを読な頭脳は人間ではなかった。それ ロード・ウィリアムは〈鐘〉に向って絶叫した。 は、それ自身のコンビュ 1 ターに結びついてさえいるのだろう。 「ありとあらゆる隠し場所を走査せよ ! わたしのために、その金〈福祉機構〉のロードが、とジェストコ 1 ストは思う。人間望遠鏡 として使われるとは、まさに侮辱そのものだ。 を見つけるのだ」 〈鐘〉が曇った。悪しき隣人たちを捜すため、塔の北西地区のあら機構は映像を消した。 ゆる監視点を閃せていたのだが、今や、それは塔の下のすべての監「おまえはとんだ嘘つきだ」ロード・イサンが叫んだ。「証拠など アンーピー
いかに自在な動きと、高速機能とを備えた円盤であっても、この 保は自分の顔が強張るのを感じた。 それまで高速上昇を続けていた円盤が、空然に宙に停止したの三方向からの特攻をかわすのは不可能だったようだ。 強烈な光が空をつんざき、白く灼けた巨大な花弁がゆっくりと拡 だ。その外輪だけが溶鉄のように赤い光を放っている。 通常の航空機と異なり、円盤が宙に停止可能だということは、倉がっていった。 その衝撃波にあおられ、保の機は横に飛ばされてしまい、なかば 本たちは実際に自分の眼で見て承知していたはずである。承知して はいても、彼らがいざ円盤との実戦に臨んだ時、それまでの戦闘体失速の状態に陥っている。が、保は失速状態から機を立ち直らせよ 験でっちかわれた勘と反射神経とに導かれて、ついそのことを失念うとするのも忘れて、 「倉本つ」 、刀 してしまったのも無理のない話ではあったかもしれない。 円盤の意想外な急停止に狼狽して、攻撃の矛先を鈍らせてしまった再び叫んでいる。彼の頬は涙でグッショリと濡れていた。 しかし、倉本の死を悼んでいる余裕は、いまの保にはなかった。 パイロットにはあるまじき失態とい のは、彼らのようなべテラン・ 保はエンジンを赤・フースト一杯まで全開すると、シュガー機に向か わねばならなかった。 焦げつくような音と共に、円盤が赤い光線を放った。光線は噴水って疾走った。 のように宙を跳ね、上下から円盤に迫ろうとしていた三機の戦闘機シ、ガーは善戦していた。ヘルキャットに備わる優れた旋回機能 をフルに活用して、円盤に。ヒッタリとっきまとい、その動きを牽制 の機体を薙いでいた。 が、怪物じみた円盤が相手では、その戦法にも 円盤の光線攻撃をうけながら、三機の戦闘機が桜花のようにもろしていたのだ。 に爆破しなかったのは、やはりパイロットたちのうでが優れていた自と限界があるようだった。シ = ガー機の尾翼が、白い絹のような からだとしかいいようがない。しかし、いかに彼らが優秀なパイロ煙を曳いているのを保は視認している。 ットたちであっても、凄じいほどの威力を持っその光線を避けきる保は機を横転させて、円盤との火線上に躍りあがると、背面のま ことはできなかった。。〈ッパー機は胴体から、倉本機とソルト機はま機銃弾を放った。保の放った二十ミリ弾は、一発余さず目標に吸 い込まれていったが、しかし円盤にはなんの損傷も与えることはで 左翼から、それそれに火を吐いている。 きなかったようだ。 「倉本つ」保は叫んでいる。 特攻しかないのか。 叫んだ保の視界に、焔に包まれた三機の戦闘機が、黒煙を曳きな ー機は空を 円盤の頭上を飛び越え、インメルマンターンで機を水平に戻しな がら、円盤に向かって突進していくのが映った。ペッパ 這い上がるようになりながら、倉本機とソルト機はほとんど錐揉状がら、保は血走った想いを頭に駆けめぐらせていた。死ぬのは怖く 態に入りながら、まるで網を絞るように、中央に占位している円盤なかった。いや、死ぬのが怖くないはずはないのだが、しかしそれ で円盤と相討ちに持っていけるなら、むしろ満足すべきではないた に突進していくのだ。
り、なにか奇妙に清浄な調子さえ帯びるようになった。死につつあ保の瞳孔が拡散しきった。その瞬間、五人の戦闘機パイロットた り、そしてその死を受け入れようとする者だけが持つ、透明で、明ちは、皆一様に身体を硬くして、咽喉がはり裂けんばかりに絶叫し ていた。 晰な決意がその歌には込められているようだった。 上空に漂っていた断雲から、ふいに一条の赤い光が斜めに放たれ 別れの時がきたのだ。 保は右手をあげ、倉本に合図を送った。倉本も手をあげてそれにると、桜花の機体を貫いたのだった。桜花はひとたまりもなく爆破 応えると、その手で頭上に大きく円を描き、シュガーたちの注意をされている。 喚起した。了解したというように、三機のヘルキャットは一様に揺二基の円盤が断雲から姿を現わすと、まるで何事もなかったかの ように、ゆっくりと高度を下げていった。そして、桜花の残骸が黒 翼して見せた。 桜花発進のレ・ハ ーに手を伸ばしながら、しかし保の胸は奇妙に乾煙を曳きながら、放射状に散っていく辺りまで降りていくと、。ヒタ リと停止した。 いていた。保は感傷的になるのに相応しい男ではなかったし、それ のち にかぐや姫と別れた後、彼を待ちうけているのもまた「死」である保は絶叫し続けた。絶叫しながら、エンジンを全開にし、機を一 はすだった。 シュガーたちにむざむざ取れることになるとは思直線に円盤に向かわせていた。怒りでも悲しみでもなかった。かぐ っていなかったが、しかし彼らの技量を考えれば、無傷で勝利がかや姫が虐殺されたという想いが、彼の血肉を震わせ、ただ円盤を撃 なうとはなおさらに思えなかった。 墜する執念だけの存在に変えたのだった。 みちゅき こいつは、かぐや姫とおれたちの心中行になりそうだな。 むろん保は気がついてもいないが、彼と同時に倉本が、そしてシ 保は苦笑を浮かべた。浄瑠璃ではなく、戦闘機のエンジン音が聞ュガーたちがその機を円盤に向かわせている。 みちゅき いま二機の零戦と三機のヘルキャットが編隊を組み、二基の円盤 こえてくる心中行・ , にほとんど勝ちめのない戦いを挑もうとしている。 桜花が発進した。 桜花はキラキラと陽光をあびながら、一本の針のようになって、 保は発射把柄を握った。赤い曳痕弾が弧を描いて、円盤に向かっ ゆっくりと空を滑っていく。 今、かぐや姫は空に放たれたのだ。 て飛んでいく。 五機の戦闘機はわずかに上昇しながら、見る見る小さくなってい く桜花を見送った。その滑空機がロケットに点火し、紅い線条を曳通常、曳痕弾は狙いを確かめるために発射されるものだが、しか けば、次の瞬間には、桜花はもう彼らの視界から消えているはずだしこの場合は違っていた。曳痕弾を放っことで円盤の動きを牽制し、 った。そして、零戦とヘルキャットの空中戦が展開されるはずだっその航法を見定めようとしたのである。確かに過去二回、保は円盤 たのだが : ・ を目撃してはいるが、そのいずれの場合もあまりに短時間のことで、 5 「う ! 」 それだけの予備知識で戦闘に臨むのはおぼっかなく思えたのだ。
をとり巻く幅十キロの猶予地帯が脱島者の早期発見のためにあるの昔の観光ルートの一つだったのだろう。嶮しくそそりたっ岩場に は確かだが、五百キロ以内に隣接する島のない海上へ丸木船や筏では幅五十センチほどの道がついていた。ことし七十歳のチャンじい 4 漕ぎだす暴挙を防止する意味もあるのだ。猶予地帯にはきっと警報さんがな・せそんなところまで登れたのかをプロフエサ 1 は理解し 装置がついているにちがいない、とプロフエサーは想像していた。 た。救護用のタンカをもった二人を後ろに従えて。フロフエサ 1 は足 そこへ踏みこむ人間があると警報が鳴り、逮捕者の出動という順序早に登っていった。 になるのだと。 洞窟の入口近い壁にじいさんは寄りかかっていた。白衣に包まれ チャンじいさんが″シティ″を脱けでたのは一カ月前だった。そた穏やかな顔はまるで眠っているようだった。洞窟は真東に向いて のままじいさんは帰ってこなかった。プロフエサーは確かめるため いた。そこからは″シティ″を取り巻く外縁の林と東の海上を見渡 に警備事務長に会いにいった。最近では事務長に会うのは脱島者のすことができた。海と空を染めて昇る曙光を浴びながらじいさんは 消息を確かめるぐらいのことしかなかった。 死んだのだ、とプロフエサーは思った。 事務長はいつものとおり愛想よくプロフエサーを迎えた。 二人の若ものがじいさんをタンカに横たえて運び去った。その後 「これからお知らせしようと思っていました」 につづこうとしてプロフエサーはもう一度じいさんのいた場所をふ と彼は言った。そしてチャンじいさんの死体が発見されたことをりかえった。キラリと光るものがあった。彼が拾いあげてみると長 知らせた。プロフエサーの顔に浮んだ疑念を彼はすばやく読みとっ しコート のついた首輪だった。コードのはしに小さな黒い箱状のも て言葉を続けた。 のがついていた。プロフエサ 1 はそれをまとめてポケットに納めた。 「埋葬なさりたいでしよう。ちょうど遺体を引きとりに出発すると「われわれは脱島者を連れ戻すために必死の努力を払っています」 ころでした。ついてきてください」 じいさんの遺体をのせたエア・カーが飛びたっと事務長が言っ こ 0 肥った顎の肉を震わせて事務長は哀しそうに頭をふった。 ェア・カーで連れていかれたのは島の北々西にあるこの島での最「だがなんとしても捜索のための人員と機材が不足なんです。だか 高峰だった。山頂近くのカルデラの端にエア・カーは停った。行手ら残念なことだがみすみす殺してしまうことになります。ご連絡し に高さ二百メートルほどの玄武岩質の岩場が聳えたっていた。 てあるとおり、海で溺れたり、崖から飛びおりたり、遺体をお渡し 「あの岩場の中ほどに洞窟があります。チャンじいさんはそこまですることもできないことが多いのです」 登ってカ尽きたのでしよう。私は心臓が弱いので登りは苦手です。 事務長は残念そうに窓外を眺めながら頭をふった。彼の表情には 若いものにご案内させましよう」 誠意が表われていたがプロフエサーは信じなかった。人の好さそう 事務長はエア・カーの操縦士と警備隊員に顎をしやくって合図をな事務長の表情の裏側に黒い靄が湧きたっているのを感じた。プロ した。 フエサ 1 は事務長の横顔に視線をあててその靄の中心を突きとめよ
でつらぬいて階段は上へ上へとのびている。一層、二層、三層、シ ンヤははげしい声でさえぎられた。高速道路から半分のり出すよう ンヤは息を切らせて体を運び上げていった。ようやくたどりついたに停止したまま黒焦げになっている大型トレーラーのかげに数名の 五層目、シンヤは階段からとび離れて階段室の小ホールを走り出人影がうすくまっていた。 た。下方と全く同じ構造の回廊を走る。最初の十字路を右に曲り、 「どこへ行くんだ ? 」 ハイ・ウ . ェイ 「やつらが来るそ ! 」 二百メートルほど走ると回廊は広大な高速道路のトンネルへ出る。 この十八号速道路は下層をつらぬく先程の高速道路と十字に立体「かくれろ ! 早く ! 」 フリーザー・カーイ 交叉しているはずだった。その交又している部分は、複雑にからみ 一一十メートルほど先に横倒しになった冷凍車がドライ・アイス インター・チェンジ 合う方向変換路をもふくめて直径数キロメートルにおよぶ大空間をの真白な蒸気を噴き出していた。シンヤはそのかげにとびこんだ。 イ・ウェイ 作り出していた。シンヤは高速道路をひた走りに走った。大型トレそこにも三、四名の男たちがひそんでいた。熱線銃や麻酔銃をかま え、狂気のように前方に目をすえてあえいでいた。 1 ラーがくず鉄の山になって横たわっていた。さらにその後に一 台。もう一台。これは猛焔になめられたとみえ、原形をとどめたま「どうしたんだ ? これは ? 」 ま塗色を失って赤さび色に変色していた。巨大なタイヤは完全に溶シンヤは身近な一人にたずねた。答えはなく、あらしのような息 づかいだけが車体のかげのささやかな平穏を乱していた。 け去り、コールタ 1 ルのように真黒に路面を厚くおおって貼りつい ていた。チュープをつつんでいたステンレスの網が、ホイルを捕え「反乱か ? それにしてはあんな武器が市中にあったとは思えない た籠のようにつぶれてならんでいる。ここにも機銃弾が散乱してい が」 た。前方からはげしい爆発音が聞える。それを縫って機関銃のけた「ちがう ! 」 たましい射撃音がとどろいた。人々の悲鳴や絶叫が汐鳴りのように人影のひとつがたたきつけるように言った。 交錯し、それを爆発音が圧しつぶした。 「連邦だ ! 」 ゆくてにオレンヂ色の光の滝があらわれてきた。はるかな高みか「連邦 ? ばかな ! 連邦の軍隊がなんでこんな所へやってくるん ら降りそそぐ光の中に幾重にもカー・フを描くインターチェンジが非 現実な立体構成のようにかすんでいた。それらをおおって褐色の煙狂っているのか ? シンヤは男の肩をつかんでその上体を自分の がたなびき、黒煙が噴き上り、火焔がはしり、すべては悪夢のまば方にふり向かせようとした。男はうるさそうにシンヤの手を払いの ろしのように変容していた。たえまなく閃光がひらめき曳光弾の火けた。 インダーチェンジ の矢が入り乱れてちゅうくうを切り裂いた。眼下にくねる変換路「居住区の方でもさわいでいた。連邦がのり出してきた。などと言 にすさまじい爆発がおこり、高速道路は地震のようにゆさゆさとゆってな。おまえらもか。しつかりしろ ! 」 シンヤはもう一度、男の肩をとらえ、力をこめてゆさぶった。男 れ動いた。立体交又にのそむゆるやかな傾斜にさしかかった時、シ イ・ウェイ イ・ウェ ( イ・ウェイ 2 田
とはできなかった。シンヤは自分から襲いかかってくる群集の中に布を引き裂くようなするどいひびきを曳いて飛んだ。爆発の閃光が 回廊の天井や壁を一瞬、黄白色に染め、衝撃波が回廊を走る人々を 突込んでいった。 床にたたきつけた。回廊にはたくさんの死体が横たわっていた。ど シンヤはただひたすれもひどい傷を受け、流れ出た血液が暗赤色のタールのように硬ば なぐり合っては走り、走ってはなぐり合い った手足や胴体をつたい床に幾すじもの縞模様を描いていた。傷口 らに走った。追ってくる群集は逃れてくる人の波にさえぎられ、 つの間にかシンヤを見失った。さいわい、乱闘の中で上衣もズボンはするどい金属の破片で切り裂かれたもののようだった。瞬間的な も引き裂かれ、ベルトは引き千切られ、かれが連邦職員であること高熱にあぶられたとみえ、壁面が彗星の尾のような形に大きくえぐ を示すものはなにひとっ身につけていなかった。シンヤは乱闘で傷れ、どす黒く変色していた。指で触れると、黒い微細なほこりが壁 ついた傷口から流れ出る血をてのひらで押しぬぐいながら逃げ走る面から剥離して煙のように舞い上り、ふわふわとただよった。おび たたしいすすだった。壁面に張られたチタニック・シリコン・ハ一 人の波にさからって進んだ。 カムの重層材の表面が炭化したのだ。 連邦が弾圧にのり出したというのは妙だな ? このさわぎはただの乱闘事件とはちがうようだが ? 市民「なんだろう ? 手榴弾やダイナマイトなどではないようだが」 超硬度を持っ壁面材を焼き焦がすような強力な武器を保安部が持 の中に乱闘を引き起すような対立グループがあったのだろうか ? っているとは思えない。 シンヤの胸は疑惑につつまれた。 三十二層から三十三層へのびる傾斜回廊を中ほどまで進んだと「辺境側の破壊工作とも思えないが」 この時期にそれはとうてい考え難い。シンヤはこれまで何回も自 き、前方からはげしい銃声が聞えてきた。それは三十三層の奥まっ 分を襲ってきた奇妙な襲撃者たちのことを思ったが、これは自分を たところからったわってきた。 目標とした攻撃ではないようだった。シンヤはいったん支局へもど 「自動銃のようたが ? おかしいな ? 」 保安部だろうか ? 保安部はすでに武装解除され、その武器は新ろうかと思ったが、事態の真相を知りたい欲求がさらに足を前へ進 ませた。進むにつれていよいよ壁面の焼損はひどくなってきた。天 しい委員会に引き継がれているはずだ。 井や床も一面に黒いすすでおおわれ、壁面は削り取られ、ふくれ上 「それが市民の手にわたったのだろうか ? 」 まだ職務についている連邦職員に対するいやがらせにしては市民ってゆがみ、すさまじい高熱の間断ない打撃の跡をとどめていた。 の混乱がげせない。 シンヤは傾斜回廊をいっきにかけ登った。回廊回廊を逃げ走ってきた人々はこの攻撃に追い立てられ、傷つき、焼 は火災の煙ともほこりともっかない汚濁色のべールにつつまれ、喚かれたのだ。 声や怒声、物のくずれ落ちる音、さらに何物の発するひびきともわ前方から遠雷のようなどよめきがったわってくる。真黒な死体の盟 からぬどよめきと轟音で閉されていた。頭上の空間を何かが丈夫なおり重なっている十字路を過ぎ、百メートルほど走ってさらにもう
が、現在の連邦にはそのような余裕があるはずもなか 0 た。貨物輸い尾を曳いて走 0 た。風が吐息をつくと、ほんのしばらくの間、薄 送機も、長距離輸送車も、すべてが連邦の必要とする輸送力の半分汚れた青空がのそく。真夏の太陽はそのときだけ、砂にまみれた ス・ヘース・ポ 4 ト もカ・ ( ーでき得な . い現状では、そのような輸送を優先的にあっか 0 宇宙空港のフィンガーや、そこにひしめく車輛のむれの上に強烈な てくれるわけはない。それこそ何年かかるか、何十年かかるかわか陽射しを落した。 午頃、砂あらしはいちだんとはげしさを加えた。ごうごうと天も らない。その間の食料や生活物資は市から送らなければならない。 送ることができるぐらいなら引きとりにゆくことができる。つま地もどよめき、吹きつける砂はフィンガーのあちこちに設けられた り、市に無事、全員が降り立っことができないかぎり、かれらは餓退避壕の屋根に豪雨のような音をたてた。 シティ その間にも、レーダーは刻々と近づいてくる船団をとらえてい 死することになりかねない。そしてもっとも悪いことには、市への 着陸が不可能な場合に考えられる第二の着陸場は、現在のところアた。メルポルンの航路管制センターは、その先頭集団がすでに高度 レキサンドリアの宇宙空港だけだった。そこだけが連邦の設けた予七二万メートルで周回コースに入ったことを告げていた。 シティ 一四時二二分。市の通信センターに緊急通信が入った。 備の着陸指定地だった。 今日は保安部や空港作業員の補助員としてあちこちに分散してい = ・グリーンの信号弾で第一車輛群のうち、群は五分以内た調査局員に非常招集の指令がとんだ。空港管制所の会議室に集合 イした調査局員にその通信の内容が示された。 にフィールドに進入する。作業を終った車輛は黄灯をかかげ、フ ールド西側に移動。先導車の指揮にしたがって第八ランプ・ウェイ 何の結論も出ない無意味な議論が続いている間に何十分かが過ぎ よりゲイトに向う。グリーンの信号弾二発で第一車輛群のうち、 ていった。 ラウド・スビーカーの声は、空港の周辺を埋める車輛のむれの上 一五時五八分。朝からの砂あらしもようやく北の空へしりそき、 にくりかえしこだまをよび、むしろ悲しげに風に千切れた。 地平線にはまだ遠い太陽がよみがえったように平原を灼きはじめ た。まだ高空にただよう徴細な砂の粒子に、空は奇妙にくすんでい その日は早朝から砂あらしが平原をおしつつんでいた。数十台のた。その空の一角からわき出るように幾すじもの銀色の飛行雲がの ス・ヘース・ポート びはじめた。 吸塵車がひっきりなしに宇宙空港の広大なフィールドを走り回り、 降り積った軽い砂を掃き寄せては吸い込んだ。太古の火山天だった「来たそ ! 来たそ ! 」 ローム層は、焦土となってその本来の性質をとりもどしたかのよう「船団だ ! 」 に、微細な粒子となって烈風に舞い、けむりのように幾十条もの長つなみのように喚声がわいた。 シティ 2 ー 3
かぐや姫の死で動転しきってはいても、保はやはり骨の髄からの分が逃げきれる望みはまずないことを覚らせた。 戦闘機パイロットなのだった。ほとんどそうと意識しないままに、 保は宙返りをして反撃にうって出るしかないと思った。そんな小 5 どう戦えま をいいかを模索し、的確な手段を見つけだしている。 細工が通用するような相手とは思えなかったが、しかし他にどんな 連続して放たれた曳痕弾を避けて、二基の円盤が切り離されたよ方法もなかった。 うに上下に別れた。垂直上昇に移った円盤を追うのは困難であった宙返りをする必要はなかった。 し、それ以上に危険でもあった。 保の機と円盤とのわすかな間隙をぬうようにして、曳痕弾が赤く 保は機首をおとして、下降していく円盤をしやにむに追った。保の尾をひいて撃ちこまれた。円盤は曳痕弾の直撃にもびくともしなか 機は円盤の上方五十メートルぐらいに占位している。ーー常の空中ったが、わすかにその進路は変えたようた 0 た。高速で擦過してい 戦であったら、保はそれ以上もなく優利な位置を占めていることに った円盤に、保の機は大きく揺れた。 なるはずなのだが、しかしこの敵に限って楽観は許されなかった。 保は上方を振りあおいだ。保の予想に反して、曳痕弾を放っこと ・こっこ 0 。 第一、相手が円盤型では、はたして自分が後尾についているのかどで彼を救けてくれたのは、倉本ではなくべッパー うかさえはっきりとしなかった。 機はいまその射撃を曳痕弾から機銃弾に変え、上昇していく円盤に 保は全速降下に入った。 追いすがるようにして撃ち続けている。 照準器に円盤が迫ってきた。 保も円盤を追った。そして、ペッパー機が円盤を追い上げていく 操縦桿の二十ミリノッ・フを押した。 その先に、倉本機とソルト機が旋回しながら待ちかまえているの 機銃弾が火箭のように空中を流れた。 を、一種の感嘆を込めて視認した。実際、ヘルキャット零戦が協同 が、保の予想もしていなかった航法で、円盤はその機銃弾をかわ作戦をとっている光景なそ、未だかって目撃した人間はいないし、 したのた。落葉のように左右に機体を蛇行させたのである。なみのたとえ誰か目撃した人間がいたとしても、彼は決して自分の眼を信 さなか 戦闘機が高速降下の最中にそんな航法をすれば間違いなく失速してじようとはしないだろう。 いたはずだった。 シュガーはどうやらもう一基の円盤を戦場に誘い込もうとしてい 保は慌てて機を上昇反転させようとした。円盤の自在な動きが激るらしく、遠くの空に黒い点のようになって、大きく旋回している していた保の胸にようやく警戒心を惹起したのだ。桜花を一瞬のうのが見えた。 ちに爆破した円盤の光線が、いま保の脳裡を鮮やかに過っていく。 ソルト機が急降下し、続いて倉本機が機首を下げる。ペッ。ハーカ ーー・深追いすればやられる。 追い上げ、ソルトが波状攻撃にかかり、倉本が止を刺すーー一糸乱 が、すでに保は深追いし過ぎていた。ふいに垂直上昇に移った円れぬその見事な編隊攻撃に、保は内心喝果を送っていたのだが 盤が、保の機に迫ってくる。その凄じいほどの上昇速度が、保に自「う : : : 」 スティック ′ 7 ー - ダイプ とどめ
った。操縦士を抱えあげる時に、それを床においたのを思いだしをさせているのに、いまは逃走者の臭いだった。しかもその男からは た。は一瞬絶望におし包まれた。引潮のように全身の力がひいて懐かしい″声″が響いてこなかった。三号は不安げに身じろぎした。 いった。飛びかかるにしても相手は遠すぎる。 はビーム・ガンをだらりとさげたまま、呆然と軒下から姿を現 「二人とも手をあげろ。壁に手をついて足をひけ」 わした男を見た。胴部の膨んだ異様な銃は強力な火器に思えた。 は勝ち誇って叫んだ。彼は自分が絶妙のタイミングで広場に到 ″どたん場になって失敗したんだ″、一彼女は暗い絶望に落ちこんで 着したと思った。広場へ百メートルのホテルの前を歩いている時 いくのを感じた。 >< の激しい言葉が彼女の軅を打たなかったら、い に、警備艇が彼の頭上を越えていった。警備艇が出動するなどは、 つまでもたたずんだままでいただろう。 集団脱走以外にはないことだった。なにかある、とは思った。だ 「 ! ぼくにかまわずあいつを撃て。やつがもっているのは麻酔 からショッ。ヒング・センターのアーケードの裏口から足音を忍ばせ 銃だ。撃たれてもぼくは眠るだけだ。やれ ! 」 てはいってきたのだ。最初、彼の眼にはいったのは女の姿だった。 その声にうたれてはビーム・ガンのねらいを男の胸につけた。 彼女は警備艇にはいっていった。女と警備艇、ますます怪しかった。 男はたじろいだようだった。男の顔から笑いが消え、動揺した眼 彼は様子をうかがうことにして花屋だった店の軒下に身を隠した。 がまたたいた。銃口が >< から、 p-* から >< へと揺れた。 警備隊員を担ぎあげた男が姿を現わした。女が傍によりそってい ″ボクハ地面ニ倒レル。ソ / 時ャッラ撃テ。イイカ、三デ倒レル。 た。はまちがいなくその二人が、 e の話していた脱走者だと判断 した。なんらかの幸運に恵まれて二人は追跡の手をかわし、警備艇 >< の軆が倒れるのを眼のはしでとらえて、はビーム・ガンを発 をのっとろうとしているのだ。は肩にかけたウォーキトーキーに 射した。と同時に失敗したことを覚った。男の姿は消えていた。ビ 手をかけたが、それを使うのはやめにした。いまから本部を呼びだ ームは空しく花屋のショ ーウインドを貫いただけだった。 しても間にあわない。それより自分独りで脱走者を捕えれば、ある ″ヨシ、コノ暇ニ警備艇へ行コウ、ナニガアッテモ馳ケヌケルンダ″ いは、ポンゴ三号を逃した罪を帳消しにしてもらえるかもしれな 二人は同時に走りだした。銃弾が飛んでくるのを予想して背中を 少なくともいまより良い条件でポルネオに帰る話合いができる こわばらせていた。二人は警備艇までの二十五メートルをいっ気に だろう。邪魔になるウォ 1 キ ートーキーを地面におろして、は麻 馳けぬけて艇にとびこんだ。 酔銃を構えて進みでた。芳香スプレーをかけ忘れた彼の躯からは、 >< が後方のビ 1 ム砲座にとびつき、がエンジンをいれた時に . 、 汗臭い体臭がたちの・ほっていた。 >< は花屋からよろめきでてくる男の姿を見た。麻酔銃は手にしてい なかった。一一、三歩足をもつれさせて歩いたが、そのまま舗道に頭 ポンゴ三号はま近にを見た。その体臭を嗅いだ。それが見慣れた からつつこんでいった。 男であることはわかったが、臭いがちがっていた。いつもは花の香り
の首はがくがくとはげしく動いたが、その目はいぜんとしてまたたのめりこんだ。その男につづいて走り出したもう一人の男も、たち フリーザー・ワゴン きもせずに立体交又の橋上に向けられていた。 まちぼろ布のように射ち倒された。冷凍車の車体のかげから泣く 3 2 「来たそ ! 」 ような笑い声が聞えていた。笑い声はいつやむともなくつづいてい とっぜん男はさけんだ。 た。銃火を撒き散らしながら突進してくる人影はすでに数メートル ゆるやかな傾斜の果の稜線に幾つかの人影があらわれた。冷凍の距離まで迫っていた。その先頭の者が走り過ぎようとする時、シ 車のかげの男たちはいっせいに異様なおびえに体を硬張らせると、 ンヤは死体のかげからおどり出た。 手にした麻酔銃や熱線銃をかまえた。 シンヤは奪い取った銃をすばやく水平に回し、引金を引きづめに おい ! あいつらはいったい何者なんだ」 引いた。手もとから噴き出す轟音とはげしい震動にシンヤの手は感 シンヤの声が終らぬうちに、大型トレーラーのかげから熱線銃の覚を失った。絶叫が渦まき、引き裂かれた手足や千切れた内臓が飛 真紅の火矢がのびた。つづいてシンヤのかたわらの男が引金をしぼび散った。路上に立っているのはかれ一人になっていた。さらに新 った。麻酔銃が弓弦のようにうなり、さらに幾すじもの細い光の矢しい一団があらわれた。これ以上ここにとどまっていることは死を が入り乱れて橋上の人影をとらえた。人の形をしたほのおの塊がつ意味する。シンヤは銃を腰だめにして射ちまくりながら後退した。 ぎつぎと傾斜をころがり落ちてくる。橋上の人影はいったんすべて数秒で弾倉がからになった。シンヤは銃を投げ出し、必死に走っ 掃き落されたかに見えたが、つぎには数倍する数になってかけ降りた。 てきた。ふたたびかれらに向って火矢がのびた。同時にかれらの間 ようやくもとの回廊の入口に達した時、かれは背後の路上を、お フリーザー・ワゴン に、無数のさび色の閃光が明減した。空気が切り裂かれ、冷凍車そろしく巨大なものが移動しているのを目にした。それはあとから のステンレスの車体はミシンで縫われたように穴があいた。路面はあとから交叉橋をわたってこちらへ向ってくる。長大な熱線砲をふ 反跳弾でえぐられ、硫煙の匂いが鼻をついた。ふたたびトレーラー り立てたその姿はまさにこの狂気の光景にふさわしかった。 のかげから熱線銃の火矢がのびたが、すぐそれは大きくちゅうにそ「あれは ! 」 れ、消減するともう二度と発射されなかった。ふいにシンヤのかた装甲車だった。イカルス平原やオルドウリク城外の決戦で、連 わらの男がのけそってくずれ落ちた。湯のような液体がしぶいてシ邦を勝利に導いた辺境派遣軍の装甲車だった。 ンヤの体を濡らした。なま臭い匂いが立ちこめ、シンヤの視界が赤派遣軍は還ってきたのた。辺境派遣軍は今還ってきたのだ ! 。 一色に閉された。シンヤは着ていたシャツを破って目をぬぐった。 顔にかぶった男の血は糊のように粘った。ようやく片方の目だけが 色調を回復した。まだ麻酔銃を射ちつづけていた男が、銃を投け棄 てると逃け出した。しかし五メートルも走らぬうちに頭から路上に ワ・コン フリー挙ー