向かっ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年1月号
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1. SFマガジン 1976年1月号

おなじみ , 高層ビルの林立するニ 。半数ぐらいの若い女され中華料理で手を打っことになった。 4 性がノー・フラ ( ただし、 店に入るまでは、なにがなんでもご飯ものを食べるつ 第シースルーはゼロに等しもりでいたが、中に入ると急にラーメンが食べたくなっ い ) というところはうれた。ところが、メニューの文字がよくわからない。漢 しいが、あのでつかいお字、英語の両方で書いてあるのだがはっきりしない。鏡 しりを見るともうダメ。 明が、シュリンプ R 0 U M E N というのを指して、 ・ほくは、とうとう最後ま「これが、エビ入りラーメンにちがいない」 でこの街を好きになれな ぼくは、他人を信用するたちだ。それじゃあ、それを 、ーかった。女性がグラマー食べようと R 0 U M E N を頼み、ほかに、揚げワンタ 、で、建物が高いのは、な ンなるものを注文する。これで、ラーメンが食べられる にもニューヨークばかりと、箸でテー・フルをたたきながら待っていると、はたし これ 強物 1 蠡ゾではなく、ロスもサンフて運ばれてきたのはラーメンならぬェビ焼きソく はいったいどうしたことか ? 原因はわかっているけ ランシスコも同じなのだ ど、ここではいうまい。責任者の名前を出したら鏡明が から、やはりニューヨ かわいそうだ。しかも、この揚げワンタンもまずい。な クという街のうす汚れた ムードが肌に合わなかつんとも納得のいかない食事になった。 こんな時 たにちがいない。鏡、荒ホテルにもどっても、どうも落ちつかない。 俣両氏はニ、ーヨークを気に入ってたようだ。ま、これはどうしたらいいか。三人で協議した結果、すぐに答が は当然といえば当然。かれらは、日本でもうす汚れてる出た。ポルノ映画を見るしかないー そこで、新聞などをひっくり返して映画館をあたり、 から ビクセン」という映画を見ることになっ この日の残りの時間は、古本屋歩ぎに費す。もちろ「スー た。しかし、この映画、ポル / としてはソフトコアで、 ん、売っている本は洋書 ( 向こうでは和書だ ) ばかりだ から、ぼくはなんの関心もない。ふたりとも五十ドル以あれを期待して入った・ほくたちはややもの足りなさを感 上買っていたから、いずれスキャナーあたりで紹介してじたものの、怪奇映画仕立てのなかなかの傑作。これは、 思わぬ収獲であった。 くれるだろう。 夕食はチャイナタウンに出ることになった。一日に最それと、もうひとつの収獲。・ほくと鏡明は荒俣宏の知 低一食はライスを食べないと落ちつかないぼくが、連日られざる一面を発見した。というのは荒俣先生、映画館 のパン食にいささかまいってしまったのだ。・ほくは日本に入るやスャスヤと眠りだしてしまったのだが、いわゆ 料理店に行くことを主張したのだが、ふたりに難色を示る場面が、あの場面になると、ちゃんと目を覚まして食

2. SFマガジン 1976年1月号

ダダ、ダ、ダ、ダ : 四機編隊を常態とする米国航空隊が、彼らにのみ三機編隊を許し 上げ舵をとったソルトの発射した十二・七ミリ機銃弾に、エンジ ていることからも、いかにシュガーたちの戦功がはなばなしいもの 、 - こよると、シュ ンを射ぬかれ、山本機は火を噴いた。それとほとんど同時に、隊長 であるかが分るだろう。保が情報将校から聞した話冫 とどめ ーに止を刺されている。 ガーたちはかって米国義勇航空隊フライング・タイガーに在籍し、機もペッ。、 つわもの 二機の零戦は白煙に包まれ、もつれ合うようにして落ちていっ 幾多の空中戦をくぐり抜けてきた兵である、ということだった。 予科練出身の、まだ若い山本た。 山本中尉の機が急上昇していく。 が、名高いシ = ガーたちに激しい敵愾心を燃やすのは当然であっ保はスロットルを押して、シ = ガーに向かって急行している。怒 ほむら た。当然であったかもしれないが、しかし山本のうでが到底シ = ガりとも悲しみともっかない感情が、白い焔をあげて保のうちで燃え たっていたが、その炎は彼を熱することはなく、かえって糞落ち着 ーたちに及ばないことを、長く彼の二番機、三番機をつとめてきた 保たちは承知していた。保は揺翼して、倉本に合図を送ると、エンきに落ち着かせているようだった。 現在の日本軍には極端に戦闘機の数が不足しているし、まがりな ジンを全開にして山本中尉の機を追った。 倉本の機は水平飛行を保っている。そうせざるをえないのでありにも戦闘の役に立っパイロットの数はさらに不足している。それ る。倉本が空中戦に加わってしまえば、艦爆機隊を掩護する零戦を想えば、わずか十分たらずの間に、戦闘機一個中隊をほとんど潰 減状態にまで追い込んだシ = ガーたちは、憎んでも余りある敵であ は、一機もいなくなってしまう。 零戦がまた一機火を吐き、白煙を曳きながら落ちていく。残る隊ったが、しかし怒りに我を忘れて勝てるような相手ではなかった。 長機もどうやら被弾しているらしく、うしろに迫るべッパーをふり空中戦の勝敗は、技術と、運と、そして。 ( イロットが冷静でいられ るかどうかに掛かっているのだった。 きれないでいる。 上昇してきた倉本機が、保の零戦と平行に並んだ。操縦席のなか 「山本中尉つ、奴らは自分にまかせてください」 保は懸命になって伝声管にそう叫んだが、しかしはやる山本中尉の倉本が、げんこつをふりあげ、その拇指で右下方を指差した。右 を制することはできなかった。機銃弾が交錯し、曳痕弾が鮮かに弧下方に首をねじまげた保の視界に、ガダルカナル島に向かって飛び を描いている空中戦の真只中に、山本機はしやにむに突っこんでい去っていく艦爆隊の姿が映った。不完全にではあったが、艦爆隊を 掩護するという航空隊の使命は、とにもかくにも果たされたわけ ったのだった。 シュガーが山本機の前方を斜め下方にすりぬけた。山本中尉も慌だ。 これで互角に戦える。 てて機を滑らせようとする。実戦経験の浅い山本中尉は、そんな体 勢をとれば、敵に機腹をさらけたす危険の多いことに気がっかなか保はそう想 0 ている。確かに、三対二と数のうえからいえば、シ 3 ュガーたちの方が優ってはいるが、しかし艦爆隊の掩護という枷か ったのである。

3. SFマガジン 1976年1月号

り、なにか奇妙に清浄な調子さえ帯びるようになった。死につつあ保の瞳孔が拡散しきった。その瞬間、五人の戦闘機パイロットた り、そしてその死を受け入れようとする者だけが持つ、透明で、明ちは、皆一様に身体を硬くして、咽喉がはり裂けんばかりに絶叫し ていた。 晰な決意がその歌には込められているようだった。 上空に漂っていた断雲から、ふいに一条の赤い光が斜めに放たれ 別れの時がきたのだ。 保は右手をあげ、倉本に合図を送った。倉本も手をあげてそれにると、桜花の機体を貫いたのだった。桜花はひとたまりもなく爆破 応えると、その手で頭上に大きく円を描き、シュガーたちの注意をされている。 喚起した。了解したというように、三機のヘルキャットは一様に揺二基の円盤が断雲から姿を現わすと、まるで何事もなかったかの ように、ゆっくりと高度を下げていった。そして、桜花の残骸が黒 翼して見せた。 桜花発進のレ・ハ ーに手を伸ばしながら、しかし保の胸は奇妙に乾煙を曳きながら、放射状に散っていく辺りまで降りていくと、。ヒタ リと停止した。 いていた。保は感傷的になるのに相応しい男ではなかったし、それ のち にかぐや姫と別れた後、彼を待ちうけているのもまた「死」である保は絶叫し続けた。絶叫しながら、エンジンを全開にし、機を一 はすだった。 シュガーたちにむざむざ取れることになるとは思直線に円盤に向かわせていた。怒りでも悲しみでもなかった。かぐ っていなかったが、しかし彼らの技量を考えれば、無傷で勝利がかや姫が虐殺されたという想いが、彼の血肉を震わせ、ただ円盤を撃 なうとはなおさらに思えなかった。 墜する執念だけの存在に変えたのだった。 みちゅき こいつは、かぐや姫とおれたちの心中行になりそうだな。 むろん保は気がついてもいないが、彼と同時に倉本が、そしてシ 保は苦笑を浮かべた。浄瑠璃ではなく、戦闘機のエンジン音が聞ュガーたちがその機を円盤に向かわせている。 みちゅき いま二機の零戦と三機のヘルキャットが編隊を組み、二基の円盤 こえてくる心中行・ , にほとんど勝ちめのない戦いを挑もうとしている。 桜花が発進した。 桜花はキラキラと陽光をあびながら、一本の針のようになって、 保は発射把柄を握った。赤い曳痕弾が弧を描いて、円盤に向かっ ゆっくりと空を滑っていく。 今、かぐや姫は空に放たれたのだ。 て飛んでいく。 五機の戦闘機はわずかに上昇しながら、見る見る小さくなってい く桜花を見送った。その滑空機がロケットに点火し、紅い線条を曳通常、曳痕弾は狙いを確かめるために発射されるものだが、しか けば、次の瞬間には、桜花はもう彼らの視界から消えているはずだしこの場合は違っていた。曳痕弾を放っことで円盤の動きを牽制し、 った。そして、零戦とヘルキャットの空中戦が展開されるはずだっその航法を見定めようとしたのである。確かに過去二回、保は円盤 たのだが : ・ を目撃してはいるが、そのいずれの場合もあまりに短時間のことで、 5 「う ! 」 それだけの予備知識で戦闘に臨むのはおぼっかなく思えたのだ。

4. SFマガジン 1976年1月号

やりながら、私は小さな吐息をついた。先入観を抱くことは禁物だは、うすあたたかい東京の秋に慣れた私の体を刺し通した。 がおそらく今度も、肩すかしをくらうのがおちだろう。 レンタカーを借りるのも、いつもの習わしであった。「現場」 は、それが山の場合、山麓一帯をも踏査せねばならぬことが多い。 残念ながら日本には、アメリカや南米とちがって、いわゆるハ ドコア・ケースーー・・あらゆる既知の解釈にも当てはまらず、説明もい きおい、「足」が必要になった。借りた車を、いつもフルに使い まくることになる。 不可能な、まざりけなしの出現現象ーーは数少ない。 このところ続いている一連の騒ぎも、現地で克明にしらべてみる車を借りてから、電話をかけた。電話番号は、雑誌社から地元の と、ほとんどが誤認のケースだった。一一、三の例をのそいて、雲に新聞社を通じて、調べてもらってあったものである。すなわち、今 反射した自動車のヘッドライト、飛行機の標識燈、サーチライトの回の騒ぎの中心人物 , ーー一一人の目撃者の、それそれの自宅の 光など、雑多な光源を見誤り、それに尾ひれがついて話が広まった電話番号だった。 に過ぎない。 むろん、 0 出現現象は、ケース・ハイケースで、そのつど状況 はことなるが、今回の直接の目撃者とその目撃状況には、とりたて 今回の取材行に、私が心から熱心でなかったとしても、無理から てユニークな点はなかったといっていた。 ぬものがあったろう。 しいていえば、目撃者は二人とも女性であり、その一方が、事件 が報道され地元の町をあげての騒ぎとなった後、ふいに沈黙を守り 始めたことぐらいだろう。 正確にいえば、彼女らは少女だったーー市の外れにある県立高 県都市の駅に下り立ったのは、正午を少し回った時刻だっ こ 0 校の一年生であり、クラスメイトであった。「事件」は、四日前の 日曜日に起こった。親友同士の彼女たちは、山菜をとるために近く 駅の前にはロータリーがあり、二、三階建てのデ・ハ 1 トや商工ビ きめん ルなどが並んでいる。・ ( スの発着所が見え、田舎ぶりのいでたちをの山へ登ったのだ。鬼面山と呼ばれる山で、名前こそおどろおどろ した人々が・ ( スを待ってまばらに立っている。典型的な地方中都市しいが、千五百メートルそこそこの低山である。しかし山菜の宝庫 であるだけに、山懐は意外にふかく、切れ込んだいくつもの沢を の駅前の光景だった。 私はレインコ 1 トの襟を立て、観光案内所の傍に見えるレンタカ抱えている。 1 の営業所に向かって歩き出した。ショルダ 1 ・・ハッグにカメラを時刻は白昼だった。その沢の一つの奥の、尾根に近い斜面で山菜 ぶら下げただけの軽装である。そのせいというわけでもないだろうを漁っていた彼女たちは、ふと異様な気配を感じて目を上げた。ま が、寒さが身にしみた。山間にあるこの地方は、きびしい冬の寒さぶしく、銀灰色にかがやく、偏平な釜のようなものが、音もなく尾 9 で知られている。十月もすえの、盆地特有の山から吹き下ろす風根の向こうから迫り上がって来たのは、そのときだった。 ぶところ

5. SFマガジン 1976年1月号

というより、 衛生兵の見立ては、はなはだ悲観的であった。 させると、地を一歩一歩踏みしめるようにして歩きだした。 所詮は医者の真似事しかできない衛生兵には、 : カくや姫の病状がな 4 「空を見てみろよー倉本がいった。 にに由来するものであるのか、よくは分らないようだった。 「またあいつだぜ」 「なんだか人間じゃないような : : : 」ロ髭の衛生兵は首をひねっ 保は空を見上げた。 空に赤い曳光をひいて、あの二基の円盤が上昇していきつつあった。 た。円盤は赤い小さな点になるまで上昇していくと、まったく減速「いや、そんなはずはないのだが : : : 」 一度、小峰少尉が倉本をひったてるようにして現われたが、さす することなしに鋭角ターンをして、そのまま断雲の陰に入っていっ がにかぐや姫の様子を見ると何をいう気にもなれなかったのか、そ た。通常機の航空機能ではとても考えられない飛行であった。 「あいっとやり合うことになりそうな予感がするといったな」保はのまま踵を返して小屋を出ていった。 夜になった。 川を渡りながら、倉本に声をかけた。 かぐや姫は昏睡を続けている。衛生兵は匙を投げた形で、夕食を 「ああ」倉本はうなずいた。 とりに出、あとには保と倉本だけが残っている。 「無理だな」 今夜も月が出ている。風抜き穴から覗く銀色の月が、小屋のなか 「なにが ? 」 を充分に明るく照らしだし、灯油に火を点す必要はなかった。い 「あんなのが相手じゃ、とてもこちらに勝ちめはない」 ことさらに水飛沫をあげながら、保は吐き棄てるようにそういつや、必要があったところで、保たちは決してそうはしなかったろ た。そしてその後、基地に帰り着くまで、彼はもう一言も口をきこう。病状もどうやら小康状態に入ったらしく、安らかな寝息をたて うとはしなかった。 ている今のかぐや姫には、油臭い明りではなく、月の光こそ相応し たっぷり三時間はかかる行軍であった。ただでさえ、体力を最期かったからだ。 みちのり 。しカ・ : ・ : 」倉本がポソリとそうつぶや 「このまま治ってくれれま、 まで消耗しつくすその長い道程を、保はかぐや姫を背負い、倉本の 「替わろうか」という呼びかけにも首を振りながら、たた黙々と歩いた。 「 : : : 」保も同じ想いでいる。 き続けた。 密林の樹間から、ようやく仮設滑走路が見え始めた時には、さすしかし、南方の病気の恐ろしさは、二人とも身に染みて承知して がに保も顔面蒼白になっていた。それでも、他の兵隊たちがへなへ いた。南方の日本兵の多くがマラリアにかかっているが、保たちも なと腰をおろしたのに比して、保は足を休めることなく、まっすぐまたその例外ではなかった。その時の発熱の苦しみを想うと、かぐ や姫が哀れで哀れで、保たちは居ても立ってもいられないような気 衛生兵のいる小屋へと向かった。 「小隊長に報告してくる」倉本の腰もふらついていた。 持ちに襲われるのたった。

6. SFマガジン 1976年1月号

の口調は冷ややかだった。このー七八五六をどう扱うかは長我はただちに失敗につながるからだ。 官の意思一つだった。処刑するか、それとも正規の方法で連れ戻す考えていたより道路の状態は良好だった。当然積っているものと 5 か。 N は″ポンゴによる処刑″のほうに賭けた。その公算のほうが予想していた山からの泥は激しい雨に洗い流されていた。舗装道路 に散り落ちた枯葉は、熱帯性の湿潤な気候のためにすぐ腐敗し微塵 大きいと思った。 と化した。ひび割れや大地のえぐれは散在していたが、注意深く車 「出動は例によって明朝だな」 を走らせれば避けることができた。交通量が減ったために道はかえ 移動する緑の点を眼で追いながらが言った。 「ああ、今晩ひと晩、自由を味わわせてやろう。あの方向へ向かうって生き伸びたのだ。 ヘッド・ライトのオレンジ色の光のなかに浮かびあがってはすさ とすれば″廃市″のどこかへもぐりこんで、海上脱出の準備をする んだろう。急ぐことはないさ。明朝八時出動た。準備をしておいてっていく道を見つめて、は快調にパイクを走らせた。まだ自由は 手にしていなかったが、冒険は始まっていた。冒険こそは彼の生き くれ。おれは長官に報告してくる」 甲斐だった。捕えられて連れ戻されるよりは戦ってきり抜けようと は部下に命令をすると監視室をでていった。 特捜班員たちは互いに視線を交しあった。 N がなんのために長官心を決めていた。問題はどんな戦いになるかだった。 ″ナ・ゼ・ヨ・ン・ダ・ノ″ のところへいったかわかっていたからた。 ″声″は突然のこめかみにあたり、頭の芯に突ぎとおった。不意 「あっ、あいっ停ったそ ! 」 をうたれて彼はよろめいた。ちょうど急カー・フにさしかかったとこ 監視員のが叫んだ。 ろだった。路肩が深くえぐりとられていた。慎重な運転が必要な箇 緑の点が移動しはじめてから二十七分が経過していた。 所だった。山裾に乗りあげるようにして彼はそこを通りぬけた。 「土砂崩れにひっかかったんだよ」 ″ア・ナ・タ・ダ・ア・レ″ が驚いたふうもなく言った。 ″声は手探りする盲者のように弱々しく頼りなげだった。 >< はパ 「動かないそ。首根っこでも折ったんじゃないのか」 イクを走らせながら思わず苦笑いを浮かべた。最初の声にあんなに が心配そうな声をだした。 ショックをうけたのは声が鋭かったからではなかったのだ。彼の受 「そのうち動くさ。スポーツマンなんだろう。大丈夫だ」 は心のなかで″動け、動け″と念じながら言った。せつかくの容器が開きつばなしになっていたからなのだ。 については興味を感 は心を閉ざした。新しい″テレトーカー 楽しみが、あっけなく終るのではたまらない。 じたが、いまはそれどころではない。彼女がーー″声″は確かに女 滑りだしは好調だった。猶予地帯の十キロは時速百キロでとばし性のものだったーーー敵側の人間であるかもしれなかった。は運転 た。迂回路へはいってからは慎重を期して六十キロに落とした。怪に専念することにした。

7. SFマガジン 1976年1月号

のくっ下の一件を思いだすといし 。きっと君は、納得し ロスアンジェルスを夜九時に出発したジェット機は、 てこの世を去ることができるだろう。 途中フェニックスに立ち寄って朝の八時にケネディ空港 マ こうして、ディズニーランドで数時間を楽しんだ・ほくに到着した。この間の飛行時間五時間。よくわからない たち三人は、夕刻ロスアンジェルスのダウンタウンにも計算だけど、ともかくアメリカは広い国だから、そうい どり、中華料理店で伊藤さんとお別れのワンタンを食う計算になるのだそうた。 " す べ、サヨナラをいって、空港に向かった。いい よよ、次空港からスで一時間。ニューヨークはマンハッタン はアメリカのもっともアメリカたる街ニューヨークへ向島のどまん中。エンパイアステイトビルのすぐそばの三 かうのた。 流ホテルに身を落ちつけた。 そうそう、ロスアンジェルスでもうひとつ事件があっ さっそく、市内見学が始まる。外へ出た荒俣宏、先頭 たことを報告するのを忘れていた。といってもたいした に立ってスタスタと歩きだす。地図を片手に右に曲り左 ことじゃない。四人でハリウッドにいった時のことだ。 に曲り、また右に曲る。まるで、知りつくした場所を案 アイスクリームを食べながら歩いていたぼくは、食べか内するように休みもせずにスタコラサッサと大股で歩 すの棒を捨てようとしく。歩き続けること約一時間。どこまで行くのだろうと て、ゴミ箱と郵便ポスト いぶかしがりながら気がついて見ると、これが出発した をまちがえたのだ。なにホテルの前だ。。ほくと鏡明が首をかしげていると、荒俣 しろアメリカのポストは宏がいった。 赤い色をしていないうえ 「ふーむ。これでホテル周辺の地理がわかった。この地 に、形も日本のポストと図は正確だ」 ちがうのだ。しかも、〒 このひとも、実に怪人だなあ。 のマークもついていな このころから、ぼくは足の指が痛くなってきた。日本 い。まちがえて当然なのを発つ前に深ヅメをしてしまった両足の親指が炎症を起 だ。どちらにしても、こ こし、ウミがたまってきたのだ。とくに右足がひどく痛 れはたいした事件じゃなむ。しかし、歩けないというほどではないので、なんと い。だから、これを読んか化膿止めの薬を塗って、ふたりの後をついて行く。 い、をだひとも、こんなことは ニューヨークの街は汚ない。東京よりもひどいくらい だ。建物はやたらに高くて、太陽光があまり当らないし、 はすぐ忘れてしまおう。 なによりもます、・ほくなんか圧迫感をお・ほえる。高所恐 怖症じゃなくて、デッカイもの恐怖症だ。いろんな人種 囹九月三日 がグジャグジャいて、これもまた背が高く、身体がでか 3

8. SFマガジン 1976年1月号

超大国 ! ? ディズニーランドのガイドブック 苦しみだったのですよ。伊藤さん ) 日本の小さな公園ほどの広さがある。ディズニーランド 朝食をいただいて、ウロウロするうち、早や時計の針の総面積は六平方キロとか。遊園地といえば後楽園と豊 は十時半。三人に最大級のお礼をいってもらって、アッ 島園と二子玉川園しか知らないぼくには広すぎる。 カーマンおじさん宅を去る。それにしても、アッカーマ 入場料は六ドル。どこから、見始めたらいいのかわか ン夫妻にはほんとうにお世話になった。たとえ、山河へらない。ほくを、鏡、荒俣の両君が案内してくれる。ふた だっとも、忘れはしないこのご恩 りは、昨年の同じころすでにディズニーランドを一度訪 秘書氏に・ハスターミナルまで送ってもらい、そこかられているのだ。園内をくまなく見て歩くと、まる二日は ・ハスでディズニーランドへ向かう。・ハスは一〇〇キロ以 かかるという。チケットをフルに使うと十ヶ所の遊びが 上のス。ヒードで走ること一時間強。アッカーマン夫人に楽しめるのだから、六ドルの入場料も高くはない。中で いわせれば、「すぐ近く」なのだが、せまい日本に住むも両君の楽しさ保証付推薦の「幽霊屋敷」「カリ・フ海の ・ほくらには相当な距離た。東京近郊の人にしかわからな海賊」「ジェットコースター」を楽しむ。 しかし、まあ、それにしても、これらの設備になんと いだろうけど、鶴見から北千住ぐらいの距離ではないか、 というのが四人の一致した見解たった。 お金のかかっていることよ。日本の遊園地など比較にも 四十人乗りぐらいの。ハスに、・ほくたちのほかに日本人ならない。雲泥の差。月とスッポン。ちょうちんにつり が四 ~ 五人。さすがは、旅行アニマル日本人と、自分のがね。出る釘は打たれる。たかが遊園地に、あれだけの ことはタナにあけて妙なところで感心する。 お金をかけられる国といったら、やはり、世界中でアメ さてリカだけだろう。おそろしい国だ。日本が太平洋戦争に ディズ負けたのも道理。いま、ディズニーランドと戦ったって ニーラ勝ち目はない。 ンドに かって、ユル・プリンナー主演の「ウエスト・ワー 到着しルド」という映画を見た時、その設定になっている て、まレジャーランドにびつくりしたが、ディズニーランドも 第 ) 0 。 ( 物 = す驚い大差ない。ディズニーランドが、もう少しお金をかけた な物、。あー たのはら、ウエストワールドも夢ではない。 ( テレビで見てた その駐ら、天皇陛下はディズニーランドで、パレードだけしか ジ、、を車場の見なかったようだけど、どうして宮内庁の人は「カリプ 広さ。海の海賊」を見せてあげなかったのだろう ? オモシロ ここだ イのになあ ) ディズニーランド内のマーケットで、・ほくは買物をす

9. SFマガジン 1976年1月号

が自由の女神像の訪問。足の指はますます痛くなる。とらない国の知らない街だ。こんなこともあるさ」 ~ > ん : 人さ はいうものの、・ほくも大和男子。こんなことでくじけて とおたがいなぐさめ合いながら、別の改札ロで、今度 : 本田 一日横 と思 は、天照大神に申しわけがたたない。両足をひきずっては五十セント払って中に入る。いよいよフェリー、 = くあ街へ出る。 ってよく見たら走ってくるのは地下鉄。また、五十セン みす 相変わらず、ふたりの古書の買い込みは気狂い沙汰。 トのただ損だ。さすがに自分たち自身で気はずかしくな てい 五十ドルや六十ドルの金は、金のうちに入らないという って、ゲラゲラ笑いながら、ついにホンモノの自由の女 にし - - クタ 顔で買いあさる。みんな、ほんとうにキチガイなん神像行きフェリー乗り場に到着した。 「あったそ ! ここだ、ここだ ! 」 し J ・まノ、 0 いつまで買ってもきりがないので、適当なところでき りあげて自由の女神像に向かう。ホテルを出発した時間 は四時。フェリー の乗り場についたのが四時半。予想以「 : ・ 上の数の人びとが行列をなして乗り場に向かう。中には 荒俣と鏡。 どう見ても通動帰りとしか思えない服装の人もいる。 「どうしたんだ。ここもちがうのか ? 」 さすがに、自由の女神はアメリカの象徴なんだなと感「いや、場所は正しいんだ。だが、時間が : : : 」 心しながら二十五セントを払って改札口に入る。ところ「四時が最後の便なんだってさ」 が、どうもようすがおかしい。自由の女神像行きのフェ 今度は、ぼくが、 リーのムードではないのだ。鏡明が通行人を呼び止めて「 : たすねた。 その夜は早目にべッドに入る。翌朝早くサンフランシ と、 スコに飛ばなければならないからだ。そうだ、・、 ノカカの 「 ( を・ ,. 真相が判明鏡明が、チェ 1 ンロックしてあるホテルの部屋をムリヤ した。ぼく リ開けて、チェーンをぶっちぎっちゃったのは、この夜 たちは改札だったつけ。 口をまちが早目にべッドに入ったものの、どうにも眠れない。足 えていたのが痛む。しようがないから起きだして、風呂に入った だ。そこは り、本を読んだり。もちろん、ふたりはぐっすり眠って 通勤フェリ いくらな ーの乗り場時計の針はついに午前三時を指した。もう、 ミ」っこ 0 んでも眠らなければ、明日体がもたないと、なにがなん 「まあ、知でも眠ろうと覚悟を決め、トイレに入ると、べッドのほ 第いドこ第、発第ま 第 : る 7 :

10. SFマガジン 1976年1月号

誰にもいったことはないが、また他人にいったところで到底信じなぜか保は饒舌になるのだった。 てもらえないかもしれないが、保はまだ童貞だった。義母との不仲女は立てた膝に両手を回した姿勢で、自分が何をいわれたのか確 3 が原因で、家をとびだした保の胸には、女性嫌悪の念がぬきがたく かめようとでもするかのように、無邪気に首を上げて保を見つめて 刷り込まれていた。それがどうして、かぐや姫と会う時にだけは、 これほど胸がときめくのか、保自身にもよくは分らないのだった。 保は顔がほてるのを感じた。浅草の仲間が、顔を赤らめている保 海岸へ出るにはジャングルを通過せねばならなかった。スコール月を見たら、腹を抱えて笑い転げるだろう。もしかしたら、自分の のあとの泥濘と、蜘蛛の網のように垂れ下がっている蔦とで、ジャ眠を信じないかもしれなかった。 ングルの隘路はひどく歩きにくく、両手に余る壺を抱えている保「いま倉本の奴が来るから : : : 」 は、幾度も転びそうになった。 弁解するような口調でそういうと、保は女の前に腰をおろした。 海岸へ出た時には、保の身体は汗でグッショリと濡れていた。確そして、適当な大きさの貝殻を拾うと、それをコップ替りにして、 かに暑さも暑さだが、それ以上に、ジャングルの湿度の高さが人かヤシ酒をグイ飲みし始めた。 ら体力を奪うのだ。 潮騒の音が低く聞こえていた。 かぐや姫を探すまでもなかった。波打ち際に坐っている女の姿保は酒に強い方たが、さして酒好きなわけではない。酒好きなわ が、細いシルエットとなって銀色の波に映えている。 けではない保が、休みなしに貝殻を口に運んでいるのは、柄にもな 月が出ている。今夜の月は満月だった。 く女と一緒にいることに照れているからだった。 気息を整えて、保は波打ち際に向かってゆっくりと歩きだした。 女は無心に海を見ている。ヤシ酒を飲みながら、女の横顔を盗み 壺のなかのヤシ酒が舌を打つような音をたてている。 見ている保の胸に、彼女の美しさを賞嘆する気持ちが、しだいに広 ライナ島には戦略的な価値はまったくないかもしれない。南方のがっていった。 島としては、土質もさほど肥えているとはいえないだろう。が、こ かぐや姫というのは、保たちが仮にそう呼んでいるだけで、もち の海岸の美しさだけは、断じて他島にひけはとらない。 二つのろん本名ではない。本名は分らないのである。いや、本名どころ 砂嘴に抱かれた入江になっているためか、この海岸を覆っているの か、彼女の国籍、人種さえもはっきりとはしなかった。東洋人でな は砂ではなく、貝殻や刑瑚の細かいかけらだった。こんな月夜に いことは明らかだが、かといって白人とも思えなかった。そのいく は、その貝殻や珊瑚のかけらが純白に輝くのだ。 らか琥珀がかった、肌理の細かい肌からは、なんとも人種の判別の 「待ったか」 つけようがないのだった。中国人とフランス人との混血にあんな綺 女の前まで来ると、保はそういった。どうせ何をいったところ麗な女がよくいるーー倉本がかってそんなことをいっていたが、自 で、彼女には通じはしないのだが、しかしかぐや姫の前に出ると、分の言葉に確信を持っているようには見えなかった。