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検索対象: SFマガジン 1976年1月号
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1. SFマガジン 1976年1月号

当然、 0 現象は、出版ジャーナリズムのレ。ハ 1 トリーに組み 入れられた。しかしながら、寄稿家のマーケットはごく狭いといっ てもよかった。おびただしい需要が、そのマーケットに殺到したの 列車は、山国に向かって走っていた。 である。常に最新の情報をフォローしつつ、時代に先行する感覚を グリーン車輛の、 リクライニングされたシートにもたれかかつもった「研究家」ーーー・前衛科学におけるそのような存在は、日本で て、私は渋い目をこすった。どうやら、わずかだがうたた寝したらはごく限られている。私はたまたま、そのような人間の一人であっ たに過ぎない。 それも無理はなかった。このところ寝不足は慢性になっている。 しかし、ジャーナリズムの吹く笛のままにおどらされているつも ューフォ戸ジー 絶えず仕事に追いまくられ、睡眠をふくめた安息の時間は、盗むよりもない。学は、テクニカルなアプローチと論理体系を持っ うにしてひねり出さねばならなかった。 れつきとした科学の一分野であり、その認識を社会に滲透させるべ 私の肩書きは、をふくめた超常現象の研究家ということにく 、私は論陣を張っているといってもよかったのだ。 なっている。かっては、本業はあくまでも出版社づとめであり、私が今、東京の西北に位置する県の県都へ向かう列車に揺られ gæO 研究は趣味的な仕事だったのだが、趣味が嵩じて、ペンで身をているのもその仕事の一環である。ある男性雑誌の依頼で、数日 きよう 立ててゆくべく踏み切ったときには、正直いってこれほど引っぱり前、県都市近郊の山郷で起きた騒ぎの顛末を取材に出向く ところなのだった。 だこになるとは思いもよらなかった。 むろん、超常現象に関して世間・ジャーナリズムの関心が高まり このところ、日本各地で、ひんばんに DßO 出現のさわぎが起き ウェープ つつあった上げ潮にのったこともある。近年、オカルト・・フームをている。「波」と呼ばれる、一種の集中現象だといえただろう。地 のり 皮切りに、超自然的な事物ーーー常識的な科学の矩をこえた諸現象に元のマスコミがまた派手に騒ぎ立てるものだから、いっそう派手な 対して、広範なプームが巻きおこりつつあった。 印象をもたらすのかも知れない。 その原因については、わけ知り顔な識者によってさまざまな分析その男性週刊誌は、その種の記事にかけてはとりわけ熱心だっ がなされていたが、動機はどうであれ、今まではごく一部のマニアた。私をほとんど契約ライターのような形にして、騒ぎが起こるた の興味の対象でしかなかった現象が、ひろく世間の耳目を惹びに現地へ飛ばせていたのである。 くようになったことは、よろこばしいことといっていた。すべては むろん私に否やがあるわけもなかった。学は野外検証をも まず、「関心を持つ」ことから始まるのである。百人の移り気な野ふくむ学問である。現場を踏み、データを集めることは研究者とし 次馬から、何人かの真摯なユーフォロジストが出ぬとも限らぬからての第一歩に過ぎなかった。 しかし、山合の盆地にひろがり始めた地方都市の景観に目を プイールド・ワーク

2. SFマガジン 1976年1月号

うで大声が荒俣宏はまだ、しゃべっている。ぼくは、トイレの前 する。 から少し足音を高くして、ペ「ツドにもどっていった。荒 ( はて、な俣宏、一瞬ギョッとした表情で、 んたろう「あっ、うん、ああ、いまなん時 ? 」 「三時たよ」 と、用を「ああ、三時か。そうか、ちょっと起きるのが早かった たすのもそかな。でも、いまから起きてれば、飛行機に乗り遅れな こそこにし いですむなあ」 て出てくる そりや、そうですとも。飛行機に乗る時間は朝の七時 と、荒俣先なのだからね。なんのことはない。荒俣先生、今朝ばか りは寝坊できないと自分にいい聞かしてペッドに入り、 生がべッド の上に上半それが強迫観念になって寝ぼけてしまったのだ。荒俣宏 身を起こして、なにやらしゃべっている。空つ。ほのはすは寝・ほけ説を否定したけど、ぼくは絶対信じてる。あれ はまちがいなく寝ぼけだ。それにしても、こんな事件が の・ほくのべッドに向かってだ。さあ、・ほくはわからなく なった。いま、トイレの扉を開けて出てきた人間は、ま脇で起こっているのに、ぜん・せん気づかずに寝ている鏡 ぎれもなく・ほくであるはすなのに、荒俣先生はどうもべ明って人もすごいなあ。まったく。 ッドの上の・ほくとしゃべっているらしいのだ。鏡明はこ の世の幸せをひとり占めにしたような顔で眠っている。囹九月七日・九月八日 トイレの入口で立ち止まって見ていると、荒 いよいよ、このドタ・ハタ旅行も最終目的地サンフラン る俣先生はこんなことをいってるのだ。 シスコに入った。サンフランシスコはいい街た。小ちん 「わあー。よかった。奇跡的に目が覚めたそ ? 今日は カ まりして、なんとなく気品があって、美しくて。実に・ほ 朝早く出発しなければならないからね。いまなん時だい。 ョコジュン、出発の用意をしくにピッタリの街た。それに、日本人が多くて ( ほとん そろそろ起きなきや : っ ど観光客だけど ) たいていのところで日本語が通じる。 ろよ ! 」 こ ・ほくはじっとヨコジュンのペッドを見つめたが返事は古い街並、うまいカニ料理、おもちゃみたいなケー・フル 。人影もない。当り前だ、ぼくはトイレの前にいるカー。もし、日本が沈没してアメリカに移住しなければ を ならないとしたら、ぼくはサンフランシスコにしよう。 のだから。 この街では、あまり・ハガな出来事はなかったようた。 「ねえ、ヨコジュン、サンフランシスコが、ムニャムニ - - 由 ここには二日滞在したが、初日、四時間ばかり街を歩い - 8

3. SFマガジン 1976年1月号

のくっ下の一件を思いだすといし 。きっと君は、納得し ロスアンジェルスを夜九時に出発したジェット機は、 てこの世を去ることができるだろう。 途中フェニックスに立ち寄って朝の八時にケネディ空港 マ こうして、ディズニーランドで数時間を楽しんだ・ほくに到着した。この間の飛行時間五時間。よくわからない たち三人は、夕刻ロスアンジェルスのダウンタウンにも計算だけど、ともかくアメリカは広い国だから、そうい どり、中華料理店で伊藤さんとお別れのワンタンを食う計算になるのだそうた。 " す べ、サヨナラをいって、空港に向かった。いい よよ、次空港からスで一時間。ニューヨークはマンハッタン はアメリカのもっともアメリカたる街ニューヨークへ向島のどまん中。エンパイアステイトビルのすぐそばの三 かうのた。 流ホテルに身を落ちつけた。 そうそう、ロスアンジェルスでもうひとつ事件があっ さっそく、市内見学が始まる。外へ出た荒俣宏、先頭 たことを報告するのを忘れていた。といってもたいした に立ってスタスタと歩きだす。地図を片手に右に曲り左 ことじゃない。四人でハリウッドにいった時のことだ。 に曲り、また右に曲る。まるで、知りつくした場所を案 アイスクリームを食べながら歩いていたぼくは、食べか内するように休みもせずにスタコラサッサと大股で歩 すの棒を捨てようとしく。歩き続けること約一時間。どこまで行くのだろうと て、ゴミ箱と郵便ポスト いぶかしがりながら気がついて見ると、これが出発した をまちがえたのだ。なにホテルの前だ。。ほくと鏡明が首をかしげていると、荒俣 しろアメリカのポストは宏がいった。 赤い色をしていないうえ 「ふーむ。これでホテル周辺の地理がわかった。この地 に、形も日本のポストと図は正確だ」 ちがうのだ。しかも、〒 このひとも、実に怪人だなあ。 のマークもついていな このころから、ぼくは足の指が痛くなってきた。日本 い。まちがえて当然なのを発つ前に深ヅメをしてしまった両足の親指が炎症を起 だ。どちらにしても、こ こし、ウミがたまってきたのだ。とくに右足がひどく痛 れはたいした事件じゃなむ。しかし、歩けないというほどではないので、なんと い。だから、これを読んか化膿止めの薬を塗って、ふたりの後をついて行く。 い、をだひとも、こんなことは ニューヨークの街は汚ない。東京よりもひどいくらい だ。建物はやたらに高くて、太陽光があまり当らないし、 はすぐ忘れてしまおう。 なによりもます、・ほくなんか圧迫感をお・ほえる。高所恐 怖症じゃなくて、デッカイもの恐怖症だ。いろんな人種 囹九月三日 がグジャグジャいて、これもまた背が高く、身体がでか 3

4. SFマガジン 1976年1月号

その″声″が青年のものであることをは疑わなかった。そしては倒木の下敷きになっていた。おびえた三号は歯をむきだし : 脚を それを聞いたのが自分ひとりであることも。″声″をとらえたのはひきぬこうとあせった。だが直径三十センチもある幹はしつかりと 5 耳ではなかった。それは彼女の内奥に湧き、内側から彼女の皮膚を彼の左脚をとらえて離そうとしなかった。 男は優しい調子でなにか喋りながら近づいてきた。そして手にも 搏った。痺れるような衝撃だった。は自分の肩に両腕をまわして っていた長い杖を挺子にして倒木の締木から三号を解放してくれ 自分を固く抱きしめた。 男の指先が脚の折れた部分に触れた時、三号は思わずうめき声を はアミューズメント・センターにあるレストランを出た。この まま自分の部屋に帰る気分にはならなかった。″声″は北西の方向洩らしたが、男のなすがままにまかせた。男に敵意のないことはわ から流れてきたように思えた。 " 声。の主を探しあててその説明をかっていた。男から流れでる " 声″が彼をなだめてその不安を静め た。男は・ハッグからだした薬を塗り副木をあててしつかりと繃帯を 聞くまでは矢も楯もたまらない感じだった。″ド ・ノ ? ″。彼女は心のなかで念じてみた。そしてたちどまって耳をまいてくれた。 男は三号がもとどおり活漫に動きまわれるようになるまでいっし すました。後ろから歩いてきた男が彼女の肩にぶつかっていった。 ょにいた。一カ月近くの間、男は三号の行動を観察して、しきりと 彼女はかまわずにもう一度叫んでみた。″ナゼョンダ / 。アナタハ ノ 1 トになにかを書きしるしていた。三号は単独生活の若いオラン ダアレ % 答はかえってこなかった。彼女は北西への道をたどるた めに中央駅から地下鉄にのった。どうそもう一度あの″声″が響きゥータンだった。夜、男は地上のテントに眠り、三号は樹上に作っ た巣のなかにを横たえた。三号は男の言葉や身振りを理解するよ ますようにと祈りながら。 うになった。特にその声のない″声″を。脚がなおった三号は男と 、つしょに歩きまわるようになった。 ポンゴ三号は山を馳けおりた。だれかに呼ばれたような気がしし た。懐かしい声だった。人間にとらえられる前の自由な空気のなか 男の食糧が尽きた。別れの時がやってきた。男が去ってから三号 にそれは響いた。三号の脳裡に一つの映像が浮かびあがっていた。 はなんともいえない淋しさを感じた。男の体臭が彼の鼻孔をかきた て男の存在を思いださせた。もう一度あの″声″になだめられたい 背の高い痩せ型の人間の姿だった。 と思った。 夜間に歩きまわる習性をオランウータンはもっていない。それは 樹上での安息の時間なのだ。だがポンゴ三号は鼻をならしながらま人間にとらえられた時、三号はすぐあの男のことを思いだした。 っ暗な夜のなかを歩きまわった。あの人間がどこか近くにいるにちだがその人間たちはすぐ違う匂いを発散させはじめた。甘ったるい 花の匂いだった。そして人間の体臭を憎むことを教えはじめた。人 、刀し / . し 密林の空閑地でその男と初めて顔をあわせた時、ポンゴ三号の脚間の匂いを放つ人形にとびかかりねじあげないと、首筋に鋭い痛み こ 0

5. SFマガジン 1976年1月号

「考えごと ? やれやれ、ほんとにほっとしたよ」シャ 1 マン氏が言った。車に戻ると、 ばたんとドアを閉じ、スターターを踏んだ。 「シャーマンさん・ーー」 「何だい、・ほうや ? 」 「何でもありません、全然何でもないんです」 「おかしなやつだなあ」シャーマン氏は首を振った。「おい、町へ帰るんなら乗らない か ? そろそろめしどきだ」 「いいんです」ポールはすばやく、心の底からそう答えた。 くり色のクーべが去って行くのを眺めながら、ポールの心は空転した。車は帰ろうとし ている。彼を乗せないままで。シャーマン氏は逃げ出そうとしているのに気づかなかっ た。どうして ? ああ、みんなまだ彼を失ってはいない。もし : : : もし自分が帰らなくて 、さ、そんなことはないんだ ! 車は家を も、 ) みんなかまわないんだったら。いいさ。いし まっすぐ通り越して行く。すぐに町の中だ。大した家じゃない。でも、そこにあるのは彼 一の部屋だ。小さな、けれどほんとうに彼自身のもの。 もう一つの帰り道には、いろんなやっかい事があるだろう。株式市場で大当たりを取っ て結婚するまでの時間。飛行機を手に入れるまでの時間。手を一部分失うには「たぶんも っと時間がかかるこ・とだろう。でも、こっちの道なら 突然、彼は道に飛び出し、叫んでいた。「シャーマンさん ! シャーマンさん ! 」 シャーマン氏にはその声は聞こえなかった。が、姿はパックミラーに見えた。彼は車を 止め、・ハックした。ポールが飛び乗り、あえぎながら礼を言い、呼吸を整えてそっと腰を , " , 降ろした。タウンシップ街道へ入ったあたりで、呼吸はすっかりもとに戻っていた。 シャーマン氏は不意に少年を見やった。「ポール」 「はい」 「きみが道路の上にいたとき、家出しようとしてるのかと思ったぞ。そうだったのか ? 」 「いいえ」ポールは言った。その目は、ひどく当惑していた。「・ほく、ただ、帰ろうとし 7 ていただけなんです」

6. SFマガジン 1976年1月号

ゆとり でいたかも知れない。が、私はその常識的なおもんばかりをも忘れ私は、黄ばみかけた空を見上げた。時間の余裕は、もうそれほど そま ていた。故意に無視していたというべきかも知れぬ。私の心には、 はない。カメラだけを肩にかけ、敏捷な身ごなしで杣道を登り始め 2 灼熱した好奇心の他は何もなかったのだ。彼女が私に示すだろうもた彼女の後に従った。 のへの期待で、全身がふくれ上がっていた。 さすがに山国育ちの娘らしく、ナップサックを背負った彼女の足 車は、いちめんに果樹園がひろがる郊外を走りぬけ、低い山どりは早かった。、 しささか中年肥りが気になり始めている、根っか 『のうねりに抱かれた一つの谷へ入っていった。アルプスの山嶺らの都会人間の私には、少々苛酷な運動だったろう。顎を突き出し、 の、青白く冴えた雪化粧が、その向こうには浮かんでいる。山脈肺に間断ない悲鳴を上げさせながらも、かろうじて彼女との距離を は、すでに淡く紅葉し始めていた。刈 り入れの終わった田がうつろ保つことが、すぐに私に課せられた最大の課題となった。 しゅ に広がる谷のそこここには、たわわな柿の実の朱の輝きが見える。 しかし、その努力に意識のなかばを奪られながらも、疑問が私の 秋たけなわな山里の、典型的な光景だった。 胸に浮かび上がり始めていた。ーー彼女は、私をどこへ連れてゆこ ドライ・フの間中、彼女は寡黙だった。道を指示する他は、ほとんうとしているのだろうか ? 目的地について、彼女はついそひとこ ど口を利かなかったといってしし 、、。自分だけの殻にひっそりと閉じとも説明しようとはしなかった。「現場」を案内すると、漠然と伝 こもっているように見えた。それが、この年頃の娘にありがちなうえたにすぎなかった。「現場」とはどこだ ? 例の着陸痕のあたり つろいやすい心のためなのかどうか、私に知るすべはなかった。 か ? しかし彼女のくちぶりから推して、ことがそれほど単純だと 道は舗装された県道から、山道に変り、鋭いカ 1 ・フを繰り返しな は思われなかった。誰もが知らない新事実を、彼女は握っているの ではあるまいか ? がら高度を上げていた。岩を噛む溪流が車の右手に肩を並べ始め、 くぬぎ 左手には山肌が迫っていた。 やがて、櫟の木立の茂るあたりで、彼女は足を止めた。もう間近 さらに枝道に入った。セカンドギア以上は使えぬような険しい登かにそびえる稜線を指さした。 あれは、音もな りだった。めったに使われることのない林道らしい。沢筋に沿って「ここで、あたしたちはあれを見たんです。 く、まばゆい光を撒き散らしながら飛んで行きました」 二十分ほど走ったろうか、うっそうとした杉木立が続くあたりで、 彼女は車を止めるようにいった。 「なるほど」と、私はいった。 きも 「ここから歩くしかありません。尾根筋まで、一時間ほどの登りで「そこで君の友達ーーー・元田幸江は、肝をつぶして一目散に逃げ出し た。しかし、君は踏みとどまった。・ 路肩の柔らかい土のあたりには、真新らしいタイヤの跡がいちめ私は彼女の横顔に目を当てた。 んに残っていた。例の騒ぎで見物に押しかけた連中が残したものに「じつは、それからの君の行動に、私は興味を持っている。彼女と ちがいない。 再びめぐり会うまでの間、君は何をしていたのだ ?

7. SFマガジン 1976年1月号

ドアを開けて彼に笑いかけてくれ。彼が近寄ってきたらまた向うの ェア・カーのそばにたっては空を見あげた。建物の向う側に里 部屋にかけこんで、ガンを構えてくれればいいんだ」 い煙がたち昇っていた。 「それだけ、あなたは ? 」 「・ほくはカウンタ 1 の陰にいる」 は″廃市″へ通じる橋にたどりついた。肩にめりこむ重い麻酔 「わかったわ、両側から挾みうちね」 銃をおろしてひと息つくことにした。水筒の水を飲み、濡らしたハ 大きくうなずいて P.-4 はビーム・ガンを置きにいった。はカウン ンカチーフで汗まみれの胸や首筋を拭いた。空をかけぬけるエア・ ターの陰に身をかがめていつでも飛びだせるように待機した。 カーを眼にしてから二時間半がたっていた。″廃市″まではあとひ ドアの開く音につづいて、「アハアー」と呼びかける彼女の声がとふんばりだ。同僚の e はいまごろ仕事を終って彼のくるのを待っ した。それから通路の向うの部屋に走りこむ靴音。 ているだろう。ポンゴの飼育係をやめて故郷のポルネオに帰る相談 「おい、待てよ。君はいったい誰だい ? 」 をしてみようと思った。は真剣だった。長官にむり強いされた汚 建物にはいってきた操縦士は、 >< のひそむカウンターの前を通りない仕事には心の底から嫌気を感じていた。ポンゴ三号がどうなろ すぎた。 うと、長官からどんな風に怒鳴られようとかまうものかと思った。 「そのまま両腕を後ろにまわせ」 >< は操縦士の背中にビーム・ガンを押しつけて言った。ガンを構ポンゴ三号は、もとは花屋だった店の奥にうずくまっていた。彼 えたが姿を現わした。 の頭のなかを飛び交っていた″声は消えてしまっていた。仲間の >< はポケットから綱をだして操縦士を後ろ手に縛りあげた。両脚一号と二号の姿を広場に見かけた時、近よろうとする彼を押しとど もやっと歩けるくらいのゆるみをもたせて縛った。 めたのはその″声″だった。彼は仲間の毛むくじゃらな首筋に光っ 「君にぜひともやってもらいたいことがあるんだ」 ている首輪から、不愉快な痺れを思いだした。長いコードの端を持 >•< はそう言いながら鉛筆をだして、テープルの上のカタログに短って仲間を追いたてている男たちが誰であるか識別したが、特別の いい、なんでも用意しておくん親しみは感じなかった。むしろ彼らが発散させる花の匂いに警戒す い文章を書いた。綱といい、鉛筆と ・ヘきものがあるのを覚っていた。 だわ、このひととは髞った。 ものの焦げる匂いが漂ってきた。山火事の匂いだった。三号は鼻 「さあ、無線機のところへいこう。この文章をそのまま本部へ送っ てもらいたいんだ。ただし、少しでも変なところがあったら君を殺をならしながらショーウインドまで歩いてきて外を眺めた。広場に はだれもいなかった。 す。言ったとおりにしてくれれば君の生命は保証する。どうかね、 やってくれるかね」 「本部、本部、一」ちら五一九、こちら五一九 : : : 」 操縦士はしぶしぶうなずいた。 3 -8

8. SFマガジン 1976年1月号

と - さ蝨 -1 ウルトラスーバーデラックスマン ( 一一九頁より続く ) ・ケッ、よ 0 、つ こんな時間ロ それとも ・幺カ・ : 車が ひどいことに なってる あいつに ~ 何ちば、つけを くわせると どんなことに なるか ( えらい こっちゃ よっ、つ だめだ とても まにあわ、、 シュワッチリ

9. SFマガジン 1976年1月号

がはしつこ。 した驅半分ぐらいある板根を乗りこえ、群らがってくる虫や山ビル 人間の体臭をそのままもっているもの達もいた。彼らは棒でポンを払いのけながらの密林行は苦難の連続だった。雨が降らないのが ゴを打ち、先をとがらせた枝で突いた。彼らは絶え間なくボンゴをせめてもの幸いといえた。年間五千ミリという雨の多い島なのだ。 刺激し、彼の神経をさかなでした。三号は人間の体臭を憎むように はウォーキー トーキーのアンテナを伸ばしてスイッチをいれ なったが、それでも時おり森のなかで出会ったあの男を思いだすた。夜間連絡の時間は過ぎていた。同僚の e がいらいらして待って と、とまどいに似たものを感じるのだった。 いるにちがいない。 慣れていない夜の旅にポンゴ三号は疲れを感じた。 " 声″はもう「こちら、どうそ。こちら」 聞こえてこなかった。彼は手近の欝蒼と茂った樹に登って太い枝に 「こちら e 、どんなエ合だ。どうそ」 躯をもたせかけた。眠りに落ちこむ前に三号は二人の人間の幻しを雑音のカリカリいう音にまじっての声が響いてきた。 見た。森の男と白衣を身につけた老人の姿だった。彼が眠った樹は 「三号は気が狂ったようだ。森にいたかと思うと山へはいる。山へ ″廃市″にま近い密林のはずれにあった。 追ってゆくと森のほうへひきかえしている。おれはもうくたくた は重い足をひきずりながら遊覧船の待合室跡にはいっていっ ・こ、どうそ」 た。″廃市″の東二キロを流れる河の上流十キロの地点だった。こ 「ご苦労さまだな。長官もだいぶいらだっている。どうぞ」 の島が観光客で賑わっていた時分には、派手な原色のテントをつけ「いらいらしているのはおれのほうだ。ケツをわって島を逃げたく た遊覧船が河下三十五キロの船着場を目指して下っていた。船からなったよ。どうそ」 は音楽が流れ、人々の歓声が湧きあがった。 「まあ、短気をおこすな。長官に話をしておれも助つ人にゆく。明 この辺りで窓ガラスと木製だがべンチらしいものが残っているの日十時に救助隊本部で会おう、どうそ」 はその待合室だけだった。″廃市″の救助隊本部へ行けばシャワ】 「正午にしてくれ。本部まで十二キロてくらなくちゃあならんの を浴びられることはわかっていたが、このうえ十二キロの道を歩き だ。麻酔銃のやつが重くてな。肩にめりこみやがる。どうそ」 続ける力は残っていなかった。 「わかった。正午だな。・ ・ : おい、三号がはいった山ってどれだ。 は部屋の中に防虫剤を撒き散らしたあと、べンチを二つあわせどうそ」 てべッドを作った。それから固型燃料で携帯食糧を暖めまずいタ食「 3 だよ、それがどうかしたか ? どうそ」 をとった。逃亡したポンゴ三号の足跡を追いはじめて二日目の夜だ「 3 といえばチャンじいさんが死んでいた山だな、ふーん」 った。一カ月に三回目の追跡行だった。 の声がとぎれた。はいらだってきて叫んだ。 はポンゴが好きだったがこん度ばかりは腹がたった。密林内の 「それがどうかしたのか、どうそ」 捜索には乗物は使えない。山刃で絡みあうつるを断ち切り、張りだ「三号の首輪をはずしてやったのはチャンじいさんだ。それ以外に 5

10. SFマガジン 1976年1月号

るのに慣れていたし、生々しい憎悪は、優雅に飾り付けられ毒で装彼女は自分の父親に対して、娘のような気がしたことはない。気 アンタービーフル われた憎しみよりましだったからである。下級民は憎しみの中で楽な仲間意識、無邪気で手近な愛情しか覚えがなか ? た。、それは父 が彼女よりずっと猫らしかったという事実をおおい隠していた。父 生きねばならなかった。 と彼女の間には、永遠にロに出せない、うずくような空虚感があっ 今やすべてが変わった。 た。どちらもまったく話すことができない、そして結局そのままに 彼女はジェストコーストに恋をしている。 終わってしまったもの。あまりにも近くにいたため、それ以上近づ 彼は彼女を愛しているのか ? くことができなかったのだ。それはむのはり裂けるような、だが言 不可能。いや、そう言い切れるものでもない。非合法で、ありそ 葉にならない、大きな距離となった。父は死んだ。そして今、この うもなく、みだらな : : : そう、そのとおり。だが不可能しゃない。 人間がいる。ここに、ありとあらゆる優しさとともに そうだ、彼女の愛に何かを感じている。 「そうよ」と彼女はひとり囁く。「ありとあらゆる優しさーーこれ たとえそうであっても、彼がそれらしい素振りを見せたことはな まですれ違って行った男たちが決して本当には見せてくれなかった アングーピー・フル 人間と下級民とが恋をしたことはこれまでにも何度となくあもの。わたしたち哀れな下級民がどうしても手に入れられない、 る。そのたびに下級民は破壊され、人間は洗脳された。それが法あの深い優しさ。もともとなかったわけじゃないけど、みんな、塵 みたいに生み落とされ、扱われ、死ねば塵みたいに捨てられるもの 律だった。 アンダー・ヒー・フル から。わたしたちの種族が、どうやって本当の優しさを育てられる 下級民を創った科学者たちは、彼らに人間にない力を与えた。 ( たとえば五十メートルのジャン。フ、地下三キロからのテレバシの。優しさのもつ、特別な崇高さ。人間であるための一番大切な部 、緊急時に備えて千年間の待機を続ける亀人間、無報酬で門を守分。そしてあの人は、まるで世界中の海を集めたほど、優しさを持 アンダーピー・フル る牛人間など ) 。科学者たちは下級民の多くに人間の形態をさずっているんたもの。あの人が人間の女の誰にも、本当の愛を決して けた。その方が便利だったからである。人間の眼、五本指の手、人さずけたことがなかったなんて、とっても、とっても、とっても奇 間の背たけ , ーーこういったものは技術的要請だった。下級民を人間妙なこと」 と同型同大に創っておけば、一一、三の、いや一ダースもの異なる備ひやりとして、彼女一口葉を切った。 品セットを作る必要がなくなる。人間の形はそのすべてに適合するそれから気を休めて続ける、「あったところで、もう関係のない 昔のことね。あの人はわたしを虜にした。それを知っているのかし のだ。 ら ? 」 しかし、彼らは人間の心のことを忘れていた。 そして今、彼女、ク・メルは人間と恋をしたのだ。曾祖父くらい 歳の離れた、人間と。 アングー・ヒー・フル アングービー・フル 205