調査 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年2月号
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1. SFマガジン 1976年2月号

は、むつつりと言った。 遣することを要請しおったのだ」 フリツツが出頭すると、べリング大佐は歓迎して、椅子から腰を フリツツは一瞬、そのことばの意味を考えた。「正確なところ、 やや浮かせた。「おう、ヴァン・ヌーン ! きみに会いたかったのタズーでおこなわれているのは、どんなことなのですか」 「考古学調査団の援助だ。タズーには現在生物は死減してしまって 「は ? 」フリツツは問いかえしたが、その口調はうたがわしげだっ存在しないが、地球と同程度か地球より進歩していた文明がかって た。ペリング大佐は、自分の部下にていねいにするような男ではなそこに栄えた証拠があるのだ。そこで発見されるはすの知識は、こ ぶん人類の宇宙進出開始以来最大の成果となるはずだ。タズー人の ヒューマノイド ペリングは笑みを見せたが、その笑い方はまるで腹をすかせたオ体型は人類型であったか、あるいは亜人類型であったかどうかすら オカミそっくりだった。「いま幕僚幹部会議からもどってきたとこあやしい。そして、すくなくとも二百万年の昔に減亡している。そ ろだ。キャニス惑星における鉄道再敷設にきみたちが成功したのをれほど異質で、それほど古い複雑に発達した機械文明の遺品をひろ いあつめ、それらの目的が何であったかを理解するのが、われわれ 見て、〈親爺〉までが異端技術部隊の存在価値をみとめてしまっ の課題なのだ」 た。個人的にはわたしは、専門の技術者をつかうことを進言したか 「そのことが、それほど困難な仕事だとは思ってもみませんでし ったし、道理もわきまえない技術部隊に仕事をまかせることなど、 自分の辞書にはないと言いたカった。いつも言うように、幼稚園をた」 卒業する資格もない科学者千人より、たった一人卒業した者のほう「そうだ、フリツツ、 . きみがそう思うなどとは期待しない。そのこ を、わたしは買うのだ。機械に適応できないそういうやつらを追いと自体、きみたちを派遣しようという理由の一つになるのだ。われ やる場所が一カ所だけあり、それが異端技術部隊なのだ。そこでなわれのあいだで、異星の科学技術にもっとも近いものというのが、 ら、何かがおこったとしても、その打撃はすでに予測すみのことときみたちの、倒錯した横道からの追求方法というわけだ。つまり、 なるわけだからだ」 きみたちは専門家なのだ」 「その言い方は、すこしばかり不公平ではないでしようか。わたし「ありがとうございます」フリツツは、疲れたような声音で言っ が申しあげたいのは : : : 」 た。「それ以外に、わたしたちを派遣しようという理由にはどんな 「きみの言いたいことなどわかっているよ、フリツツ。そんな言い ものがあるのですか」 分をうけいれるつもりはない。技術というのはほんらい訓練の成果「タズーは、ひどい気候条件のもとにあり、普通装備の頑丈な無限 なのだが、きみたちが看板にしているのはまるで規格外だ。会議の軌条地上車が、二週間ばかりで使用に耐えなくなってしまう。つま 結果、ナッシュ大佐がー・彼は被虐趣味があるんじゃないかとうた り、考古学者のチームは基地からじゅうぶんに遠くまで探険にでか がいはじめているんだがー・・・・彼が、タズー計画に異端技術部隊を派けることができず、むざむざたしかに存在する真の大きな発見を果 ・キャット グラウ

2. SFマガジン 1976年2月号

さん。あなたがわたしに相談に見えたのは、心理的な適応についてため、人間もどきの姿をとっていたのです。おわかりですか ? 」 であってーー」 しばらく考えてから、マンスターはいった。「いや、よくわから 「いますぐそっちへ行きます」といってから、マンスターは気がつない」 いた。いまのプローベルの姿では、町のむこう側にあるジョーンズ「あなたには、治療に対する精神的・フロックがありますな。とにか 博士の診療所まで這っていくのに、何日もかかる。彼は絶望にからく、こうしてください、マンスターさん。明朝十一時に、わたしの れた。「ねえ、ドクター これじやどうにもならない。ぼくは、毎診療所へきていただくのです。あなたの問題の解決法は、そのとき にご相談しましよう。では」 晩八時頃からあくる朝の七時頃まで、このアパートにカンヅメな マンスターはけだるそうにいった。「プローベルの姿でいるとき んだ・ : ・ : あなたのところへ行って、アドヴァイスをうけようにも かんべ の・ほくは、あまりよく頭がはたらかないんです、ドクター 「おちつきなさい、 マンスターさん」ジョーンズ博士がさえぎつんしてやってください」彼は電話を切ったが、まだ。ヒンとこない気 た。「あなたに知らせたいことがあるんです。こういう状態にある持だった。すると、いまこの瞬間、タイタンには、いやおうなしに 地球人の姿をとらされた十五人のプロ 1 ベルが、歩きまわっている のは、あなただけじゃない。それはご存じでしたか ? 」 のろのろと、マンスターは答えた。「ああ。時期はまちまちだわけかーーーそれがどうした ? それがどうおれの役に立っ ? が、ぜんぶで八十三名の地球人が、戦争中にプローベルの姿に改造あしたの十一時になれば、その答がわかるかもしれない。 された。その八十三名の中でーーー」もうそうした事実は、すっかり 暗記していた。「六十一名が生き残り、そのうち五十名が会員にな ジョ 1 ンズ博士の待合室へすたすたとはいっていった彼は、すで って、不自然戦争帰還兵クラブというのを作っている。ぼくも会員に先客が、隅のフロアスタンドのそばの深いイスに腰をかけ、フォ の一人だ。月に二回、会合があって、みんなでいっせいに変身し : ーチューン誌を読んでいるのに気づいた。すばらしく魅力的な若い ・ : 」しゃべりながら、マンスターは電話を切りたくなった。あれだ女性だった。 けの金をはらって、手にはいったのはこれか。このカビの生えたニ 自動的にマンスターは、彼女をとっくり眺められる位置をえらん ュースなのか。「さようなら、ドクター」と、彼はつぶやいた。 で坐った。いま流行の、白く染めて、三つ編みに後ろへ垂らした髪 ジョーンズ博士は、あわてたようにヒューツと回転音を出した。 : 彼はもう一冊のフォーチューン誌を読むふりをしながら、その 「マンスターさん、わたしがいうのは、ほかの地球人のことじゃあ相手に見とれた。すらりとした足、小さくきやしゃな肱。彫りの深 鼻ー・ー・・こりやとびき 、きりつとした顔立ち。知的な瞳、形のいい りません。あなたのためにいろいろ調査しました結果、こういう事 実が出てきました。つまり、国連図書館の押収文書によりますと、 りの美人だ、と彼は思った。むさ・ほるようにその姿を見つめる : ゾローベル側でも、十五名のプローベルが、スパイとして行動すると、だしぬけに彼女が顔を上げ、すずやかに彼の視線をうけとめ

3. SFマガジン 1976年2月号

され、ふるいにかけられる。おそらく、小 い。ぼくらのような戦中派末期の世代のも〈日本シリーズ〉の広告は、すでに 学生のときの興味を、そのまま中学へと持のをも、かなりのパ ーセンテージで含んでマガジンの一九六三年十一月号 ( 九月末 ち越すのは、全体の十分の一にも満たない いたのだった。 刊 ) から掲載されていた。そして、その広 だろう。同じことが中学から高校へ、高校それが、この頃から、急速に変化しつつ 告には、この年の末から刊行すると謳って から大学へ、大学から社会への各段階で繰あった。低年層は、十五、六歳に下がり、 あった。当初の企画ではそれは、つぎのよ り返されるが、それは受験や採用試験など十八、九歳の若者のパーセンテージが、 うなラインナツ。フであった。 という条件によってよりシビアなフィルタマガジンの実売数の増加と比例して増大安部公房人間もどき ーとなるから、いわゆる読者候補はー し、平均年齢は二十歳前後にまで若返った 小松左京復活の日 ー途中から新たに興味を持って参加する者のである。 佐野洋海底樹林 をかなり多く見込んでもーーー最終的には見ぼくは、こうした読者年代層の変化に光瀬龍たそがれに還る るもむざんに減少することになるのであも、対応する必要を感じはじめていた。そ都筑道夫地球強奪計画 る。 して、そのためにも、一日も早く、〈日本星新一夢魔の標的 かくて、読者は、ごくわずかな〈固シリーズ〉の刊行を急ぐ必要があると これが、プログラム通りにいけば、だ、 定読者〉を除けば、他のジャンルと全く同考えたのだった。 たいこの順序で、おそくも一九六四年春か じように、きわめて流動的な不特定多数だ ら、月一冊ずつ刊行される予定になってい 8 ったのである。 た。だが、それが前年の年末になっても、 だが、これとは別に、マガジン読者前にも書いたように、・ほくは一九六三年なかなかめどがっかない。星新一の『夢魔 層の変化という問題が、この頃から起こっ春頃から、日本ではじめての長篇シリ の標的』は、すでに一九六三年十二月号か てきた。 ーズの刊行を目論みはじめていた。諸般のら連載が始まっていたから、いちおうの予 マガジン創刊の頃、・ほくは、読者層情勢は、長篇のシリーズ出版のため、定はたったが、それ以外の全部が、進行す の年代をつかむため、アンケートその他のまだけっして熟しているとは思えなかっ こぶるはかばかしくなかった。 たが、ためらっているひまはない、と・ほく 調査を絶えず行なった。それによれば、創 それも、もちろん、決して無理とはいえ 刊後二、三年間の読者は、最も若い層で十を督令するさまざまの油断ならない動きが なかった。安部公房氏は別として、他の作 七、八歳、最年長者で五十代にまで及んで確かにあったし、それ以上に、このあたり家たちにとっては、長篇は、まったく いたが、そのビークは、二十代前半から半で、わが国の読者に、もう一つの新らのはじめての経験だった。いや、佐野洋氏 ばにかけての世代であることが、数字的にしい刺戟を与えなければならないという気を除くすべての作家にとっては処女長篇に も確かめられていた。ということは、当時持も、いっそうつのっていた。 なるはずだったのだ。半年や一年の歳月で の読者は、大半が大学生と、若い社会というより、ややあせりはじめていた、 完成できると考える方が、甘かった。とい 人とによって占められていたばかりではなという方が正直だろう。 うより、あまりにこの企画を、出版ビジネ

4. SFマガジン 1976年2月号

った。ビンホール写真の原理だ この圧倒的に明るい世界によく に、脚のとんでいくのが見えることはたしかだった。が、それを追 適応した構造だといえる。もちろん夜は役に立つまいが、ここで いかけたり、食いついたりしようというそぶりは、まったく見せな は、他の生物もだいたいそうなのだろう。ここでまた、カニンガムかった。そのかわりに、そいつは、カニンガムのほうへ目を向ける は、さっきの生物のどれかが、彼を認めたのかどうかという疑問に なり、ふいに大急ぎで逃げだすと、危険があるらしいこのカニンガム 直面することとなった このデネプの輝きに適した目に、それとの場所から遮蔽される吹きよせの向こうがわにかくれてしまった。 較べると真の闇にもひとしいこの場所がみえないことは、どう考え しかし、とるに足るほどの記憶力はないらしく、一分か二分たっ ても確実なように思われるのだった。 と、そいつはまた見える場所へ這いだしてきて、まだあちこちで植 残りの骨格をしらべるのに、なかば心を奪われながらも、この問物を食んでいる小型の生物のひとつに忍びよった。闘争と饗宴は、 題は、彼の念頭を去らなかった。調査の結果からいって、視覚は除前回よりすっと近くで行なわれたので、今度はずっと見やすかっ 外される。嗅覚と聴覚も、大気がない以上は問題にならない。味覚こ。・、、結果は、いささかちがったことになった。あの巨大なむか や触覚も、これまでの経過では考えられないだろう。「超感覚的知で、もしくはその同類のやつが、食肉生物がまだ獲物を平らげてい とる最中に現われ、びつくりするほどのスビードで砂丘をとびこえ 覚」などという、無知に対する昔ながらの逃げ口上に走るのは、。 うしても気がすすまなかったが、それに類するもの以外に、説明のて、その場に襲いかかったのである。その接近を知ったときにはも 方法は思いっかなかった。 う遅く、食っていたほうも、食われていたほうともども、カニンガ ムが屍肉あさりであってくれればいいと願っていた怪物の胃袋の中 に消えてしまった。 レアード・カニンガムが、いま陥っているような状況下で、人間 それと同時に、さらに興味深いことが起こった。むかでのひと飛 が、身の安全とまったく無関係な問題に没頭するなどということ は、ちょっと信じにくいかもしれない。しかしながら、そういう人びが、ちょうど草食生物の群をつきぬけたかたちになり、それらが 、っせいに、まるでいいあわせたかのように、洞窟めがけて全速力で 間がいることはたしかだし、そういう傾向のある人間を知っているし 人は、かなり多いはすだ。カニンガムは、その極端な例だった。単かけよってきたのである。はじめ彼は、行手にいる自分を見つけて 横にそれるだろうと思ったが、二種類の敵の中では彼のほうがまし 線思考型の彼は、一身上の問題は当分棚上げしてしまっていた。 標本をこまかく調べ終える前に、その楽しみは中断された。あのだったらしく、洞窟の入口に腹這いになっている彼の横をすりぬ 食肉生物の一匹が、れいの距離ーーー洞窟から十ャードかそこらの場け、乗りこえて、それそれの見つけた塵の深みの中へもぐりこみは 所・ーーに現われ、細い脚先でのびあがって、周囲を見まわしはじめじめた。見ていると、まんざらでもない気分だった。すばらしい標 たのである。カニンガムは、なかば冗談、なかば本気の好奇心か本の一団が、労せすして手にはいったことになる。 ら、甲殻からちぎった脚の一本を、そっちへ投げてみた。そいっ最後の一匹が塵の中へもぐりこんだのを見とどけて、彼は外へ目 265

5. SFマガジン 1976年2月号

多く信じられているほど真暗なものではない そして、すぐにカ ちょっとのあいだ、新来の生物は、あの食肉生物の饗宴のあとに ニンガムは、その塵の上に、これまで見てきた生物のつけたと覚し 6 2 頭をつつこみ、大きな残りかすをむさ・ほり食っていた。 : 、 力やおらい跡を見つけた。それもいつばいあるところをみると、やつらはよ 頭をあげ、もっと餌はないかというようにまわりを見まわし、それ くここへ出入りしていたらしい いま、ここへ近づいてこないの から明らかに洞窟を認めた様子で、流れるようにこちらへ向かっては、人間がいるせいらしいことが、これでやっとわかってきた。 きはじめた。 いちばん奥の壁近くで、四つの関節をもった腰の殻が見つかっ カニンガムが恐慌を来たしたのも無理はない。武器はまったくな た。ひどく軽く、中につまっていたはずの肉は、食われたか、腐敗 いし、このむかでは、まだ屍肉を食うのを見ただけだが、必要とあしてなくなったらしい。もっとも、このものすごい温度の中で腐敗 ればみずから餌食を殺すこともできそうにみえる。そいつはさっきするというのは たとえ洞窟の中は外界より穏やかであるにして の小さいやっと同じく、洞窟の入口から十フィート かそこらのとこもーーー寄妙なことに思われた。この脚が、その持ちぬしについたま ろで停止すると、同じようにのびあがってこっちを見つめた。野球まここへ運ばれたのか、それとも他の生物の餌としてもってこられ のポールくらいの大きさがある黒い「目」は、数秒間、カニンガムたのだろうかと、カニンガムはいぶかった。もし前の場合が正しい の本当の目をのぞきこんでいるかのようだった。・、、 力やがて、有難なら、もっと遺骨が見つかるはずである。 いことに、さっきのやっと同様、自分の全長にそって折りかえすよ たしかにあった。二、三分間、塵の深いところを掘り返しただけ うな恰好で、すべるように視界から去っていった。そしてカニンガで、あの小さいほうの蟹のような生物の、完全な外骨格が現われた ムには、そのときもまた、いったい相手がこっちを見つけたのか、 のである。カニンガムは、洞窟の入口へ引きかえし、船を監視しな それとも洞窟の闇が、ここの異様な生命体を一様に怖れさせるのがら、これをしらべてみることにした。 か、見当がっかなかった。 をしくら 目と覚しい球体が、第一の関心事だった。表面からでよ、、 ふと、もしもあとのほうが解釈が正しくないとしたら、前にこの観察しても何も見えないので、彼はそうっとそれを柄からとりはず 洞窟に棲んでいたやつの痕跡が残っているかもしれないという思い そうとした。とうとうそれを、乱暴に引きちぎってしまったが、思 が、頭に浮かんだ。そこで、ふたりの男がジャッキで船体をもちあったとおり、その内部はからつぼだった。網膜があったような痕跡 げようとしているのへ、チラリと目を走らせたのち、この洞窟の内はないが、殻の中のどこにも肉は残っていないので、何の証明にも 部の綿密な調査にとりかかった。 ならない。急に思いついて、カニンガムは、そのもろい黒い球の前 ここにも、塵の吹きよせがあり、それも壁の近くや隅のほうにそ半の部分を、目の前にかざしてみた。疑う余地はなかった。まぶし れが多いのを、彼は見てとった。外から反射してくる光で、あたり く光る宇宙船の船体の方向へ向けたとき、ほとんど顕微鏡的な小孔 は、その観察に充分なほど明るかったーー真空の世界での日影は、 を通して、チカリと光がひらめいたのだ。たしかに、これは目であ

6. SFマガジン 1976年2月号

一角に新しい乱闘が湧き起った。、肉体に加えられる打撃音が鈍く「市内に残っている連邦軍に降伏勧告をしたらどうか ? もうそん 重なり、何人かの男たちが床にころがった。熱線銃の火の矢がはしなに生き残っていないのではないか ? 」 り、部屋の入口まで走り出た人影が絶叫とともに火だるまになっ 「それもやってみよう」 た。とどめおかれていた局員たちがさわぎを利用してのがれ出よう「ほかに発言は ? 」 としたのだろう。 「ない」 「ない。さっそくかかろう ! 」 そのとき、インターフォンのブザーが鳴りひびいた。 「よし ! やれ ! 」 「緊急有線回路四四。こちら第八ゲイト。連邦軍救援部隊がやって きた。こちら第八ゲイト。連邦軍救援部隊がやってきた。くりか代表の言葉に十数名の男たちがコンソールにならんでいる電話器 えす。緊急有線回路四四。こちら第八ゲイト。連邦軍救援部隊がやに走り寄った。命令をつたえる声が交錯した。 ってきた。対策本部、聞えるか ? 対策本部、、聞えるか ? 、こちら「どうしたんだろう ? だれも電話に出ないが ? 」 第八ゲイト。連邦軍救援部隊がやってきた 「電話線が切れたのかな ? ぜんぜんかからないぜ」 室内は騒然となった。 七、八人が首をかしげた。 「市内の連邦軍と合同させるな ! 」 「われわれも行こう。おい、二、三人、ここへ残れ。緊急の連絡は 「市内に入るまでにやつつけるんだ」 第八ゲイトの検門所のオフィスへ回せ。あそこを本部にする」 そのさけびに押されるように、委員会の代表をつとめている男が代表のあわただしい声が終らぬうちに、かれらは汐のひくように みなの前に大股に進み出た。 指令室から走り出ていった。 「よし。われわれは調査局の協力を得ようとして時間をむだに使い 過ぎたようだ。ただちに市民の武装隊を第八ゲイトと十六号環状道わずかに首を回したシンヤの目に《部屋のドア近くに横たわって ランプ 路を結ぶ傾斜路に集結させろ。現在市内の連邦軍と接触している武いる黒焦げの死体がとびこんできた。そっと視線を回すと落着かな 装隊も招集するんだ。先ず救援部隊をたたく。そうすれば市内にひ いようすでコンソールの前をゆききしている二人の男が見えた。さ そんでいる連邦軍は補給を絶たれて自減た」 らに部屋の中央の椅子には、居眠ってでもいるかのように背を丸め 「代表 ! 救援部隊が第八ゲイトを通って市内に入ったら第八ゲイている総局長のジュウゼンの姿があった。シンヤは横倒しになって トを爆破してしまったらどうだ ? このあと、第二、第三の連邦軍いる椅子やテーブルのかげに身をかくしてそろそろと這い進んだ。 救援部隊がやってきたとしても、他のゲイトは空港からは遠い。回ジュウゼンの目がちら、と動いた。倒れているテーブルから近い方 ってくる間にゲイトを閉じてしまったらいい」 の男までの距離は約五メートル。その間には身をかくせるようなも 「よし、いい考えだ。そうしよう」 のは何もない。最初の男は倒せるかもしれないが、さらに三メート 352

7. SFマガジン 1976年2月号

んぜん空っぽで駄目だ。連中は、みんな頭が空つぼなんだ。どうやのまえの物体は、どこかから伝わってくる目に見えない衝動に応え て、カチカチと鋭い音を発していたが、そのうちに回転をやめる 8 ら、連中は別の周波数の範囲内でものを考えている様子だ」 「そんなことは問題じゃない」クヴォルドは応答した。「その点はと、その小さな覗き窓をアイ = フのほうへ向けて、。ヒタリと静止し た。「たぶん、温度か気象を記録する機械の一種だろう」 お互いさまだ。われわれの頭脳だって、もしわれわれが彼らを支配 「それなら、な・せ止まったんだーーーきみのほうを向いて ? 」 する君主になれば、彼らの頭脳を締め出してしまうはすだからな」 「ああ、それがひとつの強みだ」アイ = フは街路の端まで到達し「ああ、そのことか」アイ = フは軽い調子で答えた。爿それは、だ て、小さな広場に着くと、そこで立ち止ま 0 た ~ そして、背負 0 てれもこの機械に注意を払う者がいないからだ。ここでは一どんなこ とにも、みんな無関心なんだ。連中はみんな、盲目だからだ」 いる送波機の・ヘルトをはずして、地面へおろすと、肩の荷が下りた ことでホッと安堵の吐息をもらし、それから、さりげなく周囲を見「い 0 たい、だれが盲目だというんだ ? そこには、だれもいない まわした。彼のわきに立っている交通信号の色が変った。彼はすでじゃよ、 「それがどうしたんだ ? 」 、この信号の目的を発見していた。信号が変っても、自動車は一 台も動かなかった。広場のなかにある数台の自動車は、その場へ止「おい、アイ = フ、すると、その三本足の上の箱は、ひょっとした ら : : : ひょっとしたら、盲目じゃないかもしれんというわけか ? 」 まったままで、だれも乗っていなかった。運転手の姿も見えない。 く「バカをいうな」アイニフはむっとしたように、その繊維組織を箱 それどころか、はるか後方の街路に立っているそれのほかは、近 に二足動物の姿はぜんぜん見当らなかった。広場は森閑と静まり返に向けてゆすぶりながら、「超感覚補助器を作る方法は子供でも知 をしったいどんな新し っている。しかし、視覚のような感覚機能よ、、 り、不気味なことに、生気はまったく感じられなかった。 「あれはなんだ ? 」不意にクヴォルドが説ねた。「前方の、わすかい機械を使ったら、これを複製することができると思う ? 」 「さあ、わからんな」クヴォルドは正直にいった。「・ほくには見当 右側に見えるあの奇妙な物体は ? 」 アイ = フは前進して、問題の物体を調べにかかった。その物体はもっかん。それはまず不可能じゃないかと思う。しかし : : : 」 「しかし、どうだというんだ ? 」アイニフは問いつめた。 三本足で立っていた。その足の上にのっている大きな箱の周囲に は、小さなアンテナのような形をした無数の管制棒がっき、箱の正「もしかりに、その物体に視力があったら」クヴォルドはゆっくり 面には透明な覗き窓が一個ついていた。箱の部分はカチカチと音をと思案ぶかげに答えた。「その視覚は、ある意味では、その物体を 立てながら、ゆっくりと一定の速度で水平に回転し、その奇妙な覗作った動物の視覚とは同一のものでないのかもしれん。とにかく、 き窓は、アイニフがその場へ立っているあいだに四回、彼の目のまそれとは別の、もっと機械的な方法で物を見ることができるという 可能性は充分にある。もしそうだとしたらーーー」 えをかすめ過ぎた。 「どうやら、なにかの機械らしい」とアイニフが意見をのべた。目「ああ、それで ? 」アイニフは相手の態度がおかしくてならぬとい

8. SFマガジン 1976年2月号

知り顔の下賤な輩のところまでおとしめるこもった。三こと、四こと、応酬があった通りを歩きながら、自分の周囲に、目に見 ことだった。 と思うと、いきなり、大部屋の奥の「保安えない柵がひしひしと張りめぐらされてい 8 2 それに・ほくは、伊達にをやっている部長室」と書かれた部屋のドアが乱暴にあて、ぼくの持つ自由は、その柵内だけの自 いた。そしてそこから、猪首に怒り肩、四由ではなかったのかという思いに、いここ のではなかった。こんなものに手もなく屈 いまれない思いをしていた。 ・伏しては、によってぼくの内部に培わ角い赤ら顔の、無教養まるたしの体格の い男が現われ、「何かぐずぐずいってるの このささやかな体験ーーーそして翌年の、 ・れた自由なものの考え方に顔むけができな もう少し手荒らなそれーーカを ; 、まくの未来 かった。無知蒙昧な官憲にちょっとおどか か ! 」と大声で怒鳴った。 ・されただけで、セックス描写であれ何であ 刑事は、にたにたしながら、・ほくのいっの世界にある種のニュアンスを与えた たことを伝えた。すると保安部長 ( 警視でことは、確かであった。 れ、表現の自由を侵害されるがままになっ ていることはできなかった。 あった ) は、仁王立ちに腕組みという典形 一九六五年一月、爆弾犯人横行。 ・ほくはコチコチになって、反撃を開始し的なおどしスタイルでぼくを睨みつけなが た。じつをいうと、これまたわれながら意ら、「ほう面白い。それじゃ、二、三日泊四月、べ平連、初のデモ行進を行なう。 一千万人の足乱れる。 ー外であった ・ほくは、・ほくの空想の中でってもらえ。それでもわからなきや、最高私鉄二四時間スト。 六月、阿賀野川流域の有機水銀中毒患者 は、この程度の連中を相手にするときは、裁まで持っていって、徹底的にやろうじゃ 発生が問題となる。東京都のゴミ捨場「夢 小説中のヒーローよろしく、クールに、やないか」とわめいた。 やユーモアさえまじえて、かっこよく応対ぼくは臆病者らしく、脳底の冷たくなるの島」でハエが異常発生 のを感じた が同時に、あまりに月並み 七月、少年ライフル魔あばれる。 宀できるはずだったのである。 なその台詞から、彼らが、恫喝以上のこと 八月、長野県松代町に、、 しわゆる松代群 ・ほくは、卑屈な迎合の笑みをふりまきな がらこっちを見ているエロ週刊誌の編集者をする気のないのも、本能的に察知してい発地震発生。地震予知と、その発表をめぐ や、・フルーフィルムで挙げられた経験豊富た。案の定、彼らもそれ以上追求してこずって、学界と政府との間の軋轢が表面化す なエロ事師や、ポン引きや、ぎくぎく笑っに、下手くそきわまったりの訓戒ひとくさる。 てばかりいる売春容疑のトルコ嬢たちの真り垂れてーーーもちろん・ほくは、頷きもしな十月国勢調査の結果、わが国の総人口 中で、真赤に傍線を引かれ、ご丁寧に附箋かったが、反論の声を不必要にあげることが九八二七万四九六一人に達したことが発 をはられた本を前にして、「犯意」を認めもさし控えているていどには世間を知って表された。 この年、ビートルズが若者の人気をさら いたーーー・満足し、ぼくらを帰した。 ることを、声たからかに拒否した。 エレキ・ギターが全盛となり、ツイス じつはこれは、翌六五年に再び起こった 刑事の薄ら笑いから、共犯者の親しみが トにつづいてモンキー・ダンスが流行し たちまち消え、そのかわりに、「ほう、理『キャンデイ』事件の序章にすぎなかった のだが、それでもぼくには、けっこうこたて、本格的ゴーゴー時代がはじまった。 屈をいうのかい、これは困ったねえ」とい うその口調に明らかなサディストの喜びがえた。警視庁からの帰り道、寒風すさぶ大十一月中国の文化大革命が始まった。

9. SFマガジン 1976年2月号

ーンは椅子により 個人に対して、ひとかたならぬ配慮を示すという伝統があることは、我々全員に幸運が必要だ」そして、ウイル・ ( カかった。しかし、一息いれる暇はなかった。 を、彼は覚えていた。もし失敗したら、おそらく自分の政治生命は 調査活動を動きださせている間に、電話が殺到していた。それを 終りだろう。だが、その危険は覚悟のうえだ。それに、このジョー 議長は評議会の開会を宣し、継続中 ジ・アンドリュ 1 スという名前には、心の奥底から何となく心をか処理しはじめると、ヤードリー き乱す記憶を呼びおこすような何か、そもそも彼をこのリクエストの議事を手際よく省略して、オーストラリア懲罰の問題を上程し に注目させた何かがあった。まあ、何でもいい 。自分の総力を挙げた。ウイル・ハ ーンは、本会議場での議事に耳を傾けながらも、入っ てくる電話やそのほかの用件を処理しつづけた。議長は、旱魃決議 て行動にうっすべき時が来たのだ。 彼は自分のところに部下全員の回線をつなぎ、それ以外のものを案に対する賛成、反対の討論の順序を述べ、評議会は仕事の手を休 全部切った。彼はいった。「私はジョ 1 ジ・アンドリ = ースのリクめて聞きいった。デ = ボア議員は前おきを述べ、評議会が気象会議 エストを支持しようと思っている」彼は自分のいったことが皆の胸の原則をこのような形で維持することが必要と考えることに、深甚 ーンは思った。 におちるのを待って言葉を切り、部下たちのショックを思って、ひな遺憾の意を表明した。立派な演説だ、とウイル・ハ ーンが皆にこんな気違い沙汰をいうのはデ = ボアの誠実さは疑う余地がなかったし、彼が決議案の本文を読 そかに徴笑した。ウイル・、 初めてだったのである。「ジョージ・アンドリ = ースについて、できみあげたとき、その眠には涙が浮かび、その声は震えた。次に、オ るかぎりのことを調べてくれ。彼のリクエストが本物かどうか、私ーストラリア選出議員の一番手が、決議案反対の演説をするために のようなお人好しの議員をひっかけようとする何かの罠じゃないこ立上った。 とくにジョージ・アンドリュースとメイトランド とを確かめたい。 ーをポケットに入れ、レシー 議員との間に何も関係がないことを確かめたい。カリフォルニア南ウイル・ハーンは携帯レシー 部の極めて狭い地域に七月の雪を降らせるという問題を実現できる通じて聞いていることを示すボタンを押し、議場を出た。他の議員 可能性があるかどうかについて、『顧問会議』のグリーン・ハーグに の多くも同じことをし、その大部分は議員専用のレストランへ向っ 聞いてみろ。それが可能だというなら、『気象局』のヘクマーか誰ていた。そこなら、選挙区の住民や新聞記者や運動員や多数の団体 かに当ってーーー彼はいま太陽の方へ行っているがなーーそれを実行などを相手にせずにコーヒーが飲めるのだった。彼らは、コーヒー できる可能性を調べろ。これだけのことを : ・ : ・ちょっと待て」ウィ をすすり、うまいケーキをかじり、おしゃべりをしていた。会話は レく どれも後ほど行なわれる表決についてであったが、意見の大勢は決 ーンは、あたりを見まわした。気象リクエストは終り、ヤード 丿ー議員が自席を離れて、議長としての職責を果すために本会議の議案に賛成の方向に固まりつつあることは一目でわかった。議員た 正面の方へ歩いてゆくところだった。「以上の情報をすっかり手にちは、向うの議場で行なわれている討議の趨勢がたどれるように、 ーを身につけており、 入れるまでに四時間の余裕がある。では、幸運を祈る。今度ばかり低い声で話していた。各議員は携帯レシー 237

10. SFマガジン 1976年2月号

の内部にひそんでいる連中は動くものと見れば見境いなしに麻酔銃クトをつたわってさらに下方に降るためには、いったんダクトの外 フィルダー へ出て格子部をう回してさらにダクト内にもどらなければならな や熱線銃をあびせかけてくるのだった。 ・ : 全市民に一時、市を離れ、地上に避難するよう勧告すかった。 ダスト・シュートをダクトの内部から押し開くのは容易な作業で る。これは強制的 : はなかったが、二十分ほどの苦闘の末、シンヤは回廊へころがり出 ・ : 市民は調査局の放送を信じて秩序正しく行動すること。 デマを信じてはいけない。デマを : ダスト・シュート のふたに記されたナン・ハーをたしかめる。長い ラウド・ス。ヒーカーの声がまた聞えてきた。大きなダストシュー ーの上三けたは一〇八。ここは地下一〇八階だった。回 トが洞くつのように暗い口を開いていた。上半身をおしこんで携帯一連ナイハ へ無意識に眼がはしる。 用投光器で内部をたしかめる。青白い光芒の中に垂直なトンネルの廊の壁の街区標示プレート 内擘に設けられた点検用のラッタルが地の果までとどくかのように「第七居住区か ! 」 シンヤの胸にとっぜんそれまで忘れていた一人の人物の記億が鮮 まっすぐにのびていた。 シンヤは休みなしに手足を動かし、下へ下へと降っていった。あ明によみがえってきた。 らゆる種類の塵芥をのみこみ、幾つかの集積所をへてさいごには中「そうだ。セクションの : : : 」 ぶじに避難したかどうかをたしかめるぐらいのひまはありそうだ 央原子力区から供給される六千度 0 におよぶ熱プラズマによって一 瞬に跡形も・、、焼却処理してしまう座芥処理システムもすでに数時った。シンヤは廃墟のような静寂を踏み鳴らし、靴音にこだまを曳 いて走った。 間前に完全にその機能を失っていた。このダクトをどこまでもった わっていってさいごに焼却炉にゆきついたとしても、中央原子力区〇四八一 : : : 〇四八〇 : : : 〇四七九 ・ハーは急速に遠のいてゆく。シンヤは今来 からのエネルギー供給の絶えた今は、そこは単なる巨大な、冷えき個室のドアのナン った穴ぐらでしかないであろうし、このダクトの中を、厖大な量の た回廊をかけもどった。 塵芥が滝のように流れくだることも、あるいはもう二度とないこと〇四六一 : : : 〇四六二 : : : 〇四六三 かもしれなかった。 いっかと同じだった。めざすナン・ハーはなかなかあらわれなかっ 階層をたてにつらぬいているダクトには、各階層ごとにダスト・ つの間にか街区 た。焦れば焦るほど目的の場所から離れてゆく。い シートが口を開いている。そのダスト・シュートの数で三十個ほ標示プレートは第六居住区に変っていた。時間はこくこくと過ぎて フィルタ ど下降したとき、巨大なダクトは目の粗い鋼鉄の格子で閉されてゆく。もうだめか ! あきらめて階段へ向おうとしたとき、《 いた。ダクトの内壁に半開きになった ( ッチからムカデのようなべ。〇四九一・》という数字が目に入った。 フィルター ルトコンべアーが格子の上に這い出していた。格子の幅は人体を「あれだ ! 」 透過させるには不十分だった。ダクト内を落下してくるごみは、各 シンヤは突進した。 フィルダー 所に設けられたこのような格子でせき止められ、選別されてベル 天井も壁も、黒く焼け焦げ、反りかえって剥落していた。床は大 トコンペアーによって幾つかの焼却炉に分かれてゆくのだった。ダきく波を打っていた。 シティ こ 0 358