体の山と、破壊された回廊が、とぼしい発光材の発する薄明りの中たであろうか。目の前の現実はあきらかにシンヤのわずかな願いを も完全に否定しさっていた。狂気でも夢でもなかった。この壮大な 4 に悪夢のつづきのように静まりかえっていた。 そうだ ! あのワッペン ! あれをつけた兵士たちは : : : 辺境派都市に死と破壊をもたらしたものこそ、まぎれもなく辺境から還っ 遣軍。そしてナン・ハーはこの街出身の兵士たちの所属する部隊のもてきた派遣軍だった。 たカ、いったいそのようなことがあるだろうか ? 派遣軍が乗船 のだった。かれらこそ、市民の誰もがその帰りを待ちに待っていた 派遣軍の兵士たちではないか ! 帰還する宇宙船団の船内からそのしているはずの輸送船団には人っ子一人乗っていなかった。だが、 シティ 装備もろともことごとく姿を消したその派遣軍の兵士たちがな・せこ今、派遣軍は現実に市にいる。どこからやって来たのか ? 何に シティ いっさいは深い謎につつまれていた。そ こに ? そしてなぜかれらは自分たちの故郷である市を破壊し、乗って帰ってきたのか ? れが現実でないとすれば、市は底知れぬ狂気の淵に投げこまれたこ 自分たちの親や弟妹、なかまたちを殺りくするのか ? とになる。むしろその方が救いがあるのかもしれない。な・せなら、 シンヤは長いこと死体の間にうずくまっていた。身動きすると、 崩壊はなお急速に進展し、事態はさらに新たな変化をとげつつあっ こんどこそ完全に正気が失われてしまうような気がした。 「夢なんだよ。あまり疲れたものだから実際に見てもいないものをたからだ。 見たような気がしただけなのさ」 4 シンヤはくりかえしつぶやいた。今見たものを認めることは、そ のまま自分の狂気を認めることになってしまいそうな恐怖が胸を締 めつけた。 電話線は各所で切断されているらしく、何度キーを押しても、調 「そうだ ! 」 査局も市政庁も医療部も全く沈黙したきりだった。回廊の壁に設け ノイズ シンヤはふいに目をかがやかせて立ち上った。 られているスビーカーもわずかな雑音すら発しなかった。結成され 「そうだ。きっとそうだ ! 」 たばかりの委員会には、この事態に対処する能力はまだ生れていな これは辺境側のゲリラ部隊が連邦宇宙兵団の姿をよそおってひそかったのであろう。傷ついた市民の救助活動さえおこなわれていな シティ いようだった。いぜんとして遠く近く銃声がとどろき、人々の悲鳴 かに市に侵入してきたのにちがいない。そうだ ! きっとそうだー シンヤは子供のように笑った。それなら何もうろたえることはなやさけび声が断続して聞えた。 壁面に埋めこまれた水道管が破れ、滝のように水が流れ落ちてい い。純粋に戦闘技術の問題であり、狂気の介入してくる余地はな いのだ。シンヤは体をおって笑った。しかし、その笑いは急速にる階段を、シンヤは押し流されるように降った。水は回廊の床に十 退いていった。シンヤは前にも増してうつろな視線を周囲の死体のセンチメートルもたまり、床を埋めている死体を汐が満ちてくるよ 山にめぐらせた。むしろゲリラの侵入であった方がどれだけ救われうに浸していた。水に濡れた体が心地よかった。シンヤは水の中に シティ
すら目的を追うように南へ向かった。おそろしく間の抜けた気分もしれない。幻覚を見たなどということはかれも生まれてはじめて で、ホモ・サピエンスの特命大使は、〈最切の接触〉が、かれの存だった。こんなことは、〈軸端司令部〉にも恥すかしくていえない。 在にはまったく無関心に、すたすたとラ 1 マの平原のかなたへ歩み最初ちょっと考えた斜路の探険は、わざわざやってみる気になら 去ってゆくのを見送った。 なかった。エネルギーの浪費にきまっている。 それは、これまでの一生でもめったに味わったことがないほどの かれが見たような錯覚を起した、あの旋回する幻は、この決定と 屈辱だった。しかし、ジミ 1 の持ち前のユーモアのセンスが、このはなんの関係もない。 まったくなんの関係もない。なぜなら、ジミーはもちろん幽霊の 急場を凌いでくれた。まあ、生きたゴミ集めのトラックに無視され たと思えば、あまり腹も立たない。長いこと生き別れだった兄弟に存在など信じていないからだ。 めぐり会ったようにあいさっされたら、それこそ一大事 : ジミーはコペルニクスの縁にもどり、その不透明な水面をのそき 第三十章花 こんだ。はじめてかれは、そこにお・ほろげな姿がーーー中にはかなり 大きいものもあるーー水面の下をゆっくりと行きっ戻りつ動いてい 動きまわったジミーは、のどが渇いた。それとともにかれは、この るのに気がついた。まもなくその一つが、もよりの螺旋斜路へと向陸地のどこにも人間が飲める水はないという事実を、痛いほど認識 かった。やがて長い上昇にとりかかったのは、多数の脚を持ったタした。水筒の中味だけで、おそらく一週間は生きのびられるかもし ンクのようなしろものだった。あのス。ヒードなら、地上へたどりつれない しかし、なんのために ? 地球最高の頭脳の持ちぬした くまでには一時間近くかかるだろう、とジミーは判断した。かりにちが、まもなくかれの問題に能力を集中してくれるだろう。ノート その相手が危険だとしても、ひどく動きのにぶい危険だ。 ン中佐のところへ、いろいろな助言が殺到することは、まちがいな つぎにかれの目をひいたのは、それよりはるかに素早い、ちらち しかし、どう考えても、あの半キロの高さの断崖の表面を伝い らした動きだった。場所は、喫水線のそばにある洞穴に似た入口の下りる方法があるとは、かれには思われなかった。かりに充分な長 近く。なにかが非常な速さで斜路にそって登ってくるのだが、かれさのロー。フが手許にあったとしても、その端を固定できる場所がど ははっきりとそれに目の焦点を合わせられなかったし、また、そのこにもないのだ。 形を見きわめることもできなかった。ちょうど、人間ぐらいのサイ とはいうものの、なんの努力もせずに、はなから諦めてしまうの ズの小さなつむじ風か、竜巻を見ているようだ : は愚かであり、それに男らしくもない。もし救助の手がさしのべら ジミーは目をしばたたき、頭をふり、数秒間じっと目を閉じた。 れるとすれば、それは〈海〉からだろうし、そっちへ向かって進ん もう一度目を開けたとき、妖怪は消えていた。 でいるあいだは、まるで何事もなかったように、自分の仕事をつづけ たぶん墜落の衝撃がかれの思ったよりも神経にこたえているのかればいいのだ。これからかれが通りぬけなくてはならない複雑な地
ひょっとして、巣を作る材料を集めてでもいるなに大きくなかったら、カプト虫と呼びたいところだった。その甲羅 とは思えない には、美しい金属的な光沢がある。事実、かれはそれが金属だと誓 ら別だが。 ってもいいほどの気持だった。 まだかれを完全に無視しているカニに警戒の目をそそぎながら、 それは面白い考えだ。すると、こいつは動物じゃなくて、ロポッ ジミーはやっとの思いで立ち上った。一一、三歩よろよろと踏みだして トなのだろうか ? ジミーはその考えを頭において相手を見つめな みて、なんとか歩けることがわかった。しかし、あの六本足が追い がら、その体のあらゆる特徴を分析した。口があるべきところに かけてきたら、逃げきれる自信はない。それからかれは無電のスイ シミーがそれから連想し ッチを入れた。それがまだ作動することについては、一点の疑いもは、さまざまの操作器官がついていたが、・ たのは、元気のいい男の子ならだれでも大喜びしそうな万能ナイフ 持っていなかった。かれが生きのびられるぐらいの墜落なら、ソリ だった。そこには、やっとこも、探り針も、やすりも、いや、 ッド・ステートの電子回路は、ビクともしないはずだ。 ルらしいものまであった。しかし、これだけの証拠ではまだ決定的 かれは低く呼んでみた。「〈軸端司令部〉、聞こえますか ? 」 といえない。地球の昆虫界も、これらの道具に相当するすべてと、 「よかった ! 無事だったか ? 」 それ以上の多くのものを備えているからだ。動物かロポットかとい 「ちょいと揺すぶられただけです。これを見てくださいー ジミーはカメラをカニのほうに向けた。ちょうど、ドラゴンフラう疑問は、まだかれの心の中で、完全な・ハランスをたもっていた。 本来なら、その問題を解決してくれるかもしれないはずの眼が、 イ号の主翼の最後の破壊を記録するのに、間に合った。 それに、なぜきみのパイクをむ いっそうそれをあいまいにしているのだった。第一、保護被覆の中 「いったい、そいつは何者だ ? へあまりにも深く埋められているので、そのレンズが結品体なのか しやむしややってるんだ ? 」 「それがわかればね。こいつはドラゴンフライ号をきれいに平らげゼリー状なのかも、はっきりしない。そして、まったく無表情な上 ーのほ ちゃいました。こっちに目をつけられちゃまずいので、いまから後に、おどろくほど鮮かな・フルーだった。その目は何度かジ、、 うを向いたにもかかわらず、ほんのかすかな興味の閃きすら示さな 退します」 かった。かれのおそらくは偏向を帯びた意見からすると、それがこ ジミーは一瞬たりともカニから目を離さずに、そろそろと後退し た。むこうは、見落した破片がないか探しているらしく、ぐるぐるの相手の知能の水準を物語っている。ロポットにせよ、動物にせ としだいに大きな螺旋を描きはじめたので、ジミーははじめてあらよ、かりにも人間を無視するような相手は、あまり頭がいいとは申 せない。 ゆる方向から相手を眺めることができた。 いまや相手は周回運動をやめ、まるでなにか聞こえないメッセー 最初のショックが薄れたいま、ジミーは相手が実にスマートな生 物なのをさとった。かれが自動的に与えた″カニ″という名は、ともジに耳をすますように、数秒間静止した。それから、いつぶう変っ すると誤解を招くかもしれない。もし、この相手がこうもべらぼうた横揺れするような足どりで、〈円筒海〉の方角へと出発した。時 326
たいてみてくれないか ? 中部が空洞かどうかぐらいはわかるだろ ・ホーン〉自体へ着陸することはできなかった。次第に面積を広げ うから」 る〈ビッグ・ホーン〉の斜面の重力が今では大き過ぎて接着弾の弱旧 「了解。今度は何をしましよう ? いカで支えることができなくなっていたからだ。 「その塔に沿ってとんでみて、五百メートルごとに完全調査をし、 南極に近づくにつれて、かれは自分が巨大な寺院ーーーもっとも現 なんでもいいから、異常があったら教えてほしい。それから、安全在までに建立された寺院には、ここの百分の一ほどのものさえなか だと思ったら〈リトル・ホーン〉へ行っても、 しい。だが、あくまでつこ・、 ナーーの丸天井の真下を飛んでいる雀のように感じられてく も、きみが何の問題もなく重力ゼロのところへ戻れるという確証をるのだった。それが実際、宗教的な聖堂なのか、それとも別の類似 つかんでからのことだ」 物なのかと考えたが、すぐにそんな思いを払いのけた。ラーマのど 「軸から三キロのところまでは・ーー月の重力と大差ありません。そこにも、芸術の匂いすらなかったのである。すべては機能本位にで して、ドラゴンフライ号はその重力用に設計されているんです。できていた。ラーマ人は自分たちがすでに宇宙の本質を把握している すから、もっと急いで調査を行なうつもりでいるのですが , と考えていたにちがいなかった。だから人類を駆りたてる熱望とか こちら隊長。そのことで思いついたことがある。きみの野心とかには、悩まされることもなかったのだ。 それはそっとするような考えで、ジミーのいつもの深遠ではない 送ってくれた映像から判断すると、小さい方の塔も大きいのと同じ だと思われる。だから、ぎみは望遠レンズをつかってできるだけそ哲学にとっては全く異質なものだった。むしように交信を再開した くなり、遠くの友へ現在の状況を報告することにした。 いつをおさめてくれ。きみを低重力地帯から遠ざけたくはない : 「ドラゴンフライ号、もう一度いってくれー〈軸端司令部〉は応答 きわめて重要と思われるものを発見したというのでなければな。こ してきた。ー「言ってることがよく判らないーーーきみの送信波が歪め れで交信を終わる」 られているんだ」 「了解、艦長」そう応答したジミーの声には少しばかり安堵の色が うかんだ。「〈ビッグ・ホーン〉のそばにいます。さあ、もう一度「くり返しますーーー六番目の〈リトル・ホーン〉の基部付近にいま す。そして、接着弾を使って機体を固定しようとしているところで 行くそ」 かれは信じられないほど高く尖った山々の峡谷へ、真逆さまに落す」 「一部だけだがわかった。私の言っていることが聞こえるか ? 」 ちていくような感を味わった。〈ビック・ホーン〉は今では頭上一 キロのところにあり、六本の〈 リトル・ホーン〉はかれのまわりに 「はい、完全に。くり返します、完全に」 無気味にそびえ立っていた。下の斜面を取り巻いている飛梁や飛拱「数を数え始めてくれたまえ」 の複合体が急速に近づいてきた。キプロス風の建造物の中のどこか「一、 に無事着陸できるかどうか心もとなく思えてきた。もはや〈ビッグ「一部分は聞こえた。十五秒間、ビーコンを発信してくれ、それか
「第三には」アイニフは強引につづけた。「もしかりに、この機械ても、すこしジグザグに進んで相手を混乱させたほうが賢明だっ の目的が・ほくの正体を見抜くことにあるとしたら、これは・ほくがこた。そうすれば、その思いもかけぬ武器の威力で、彼らを無能者に こへ到着するまえに、この場へ置いてあったはずだ。しかし、ぼくしてしまうことができたはずだ」 「彼ら、彼ら、彼ら、か」アイニフはあざけるようにいうと、広場 がここへくることが、連中にどうしてわかったんだ ? クヴォルドは問題を慎重に検討してから、答えた。「きみは、現には人っ子ひとりいない事実を強調するため自分の繊維を振ってみ せた。「いったい、きみのいっている青白い顔をした幽霊とは、ど 在の場所へ一直線に進んできたからだ」 「そりや確かだ。きみもよく知っているとおり、精神感応伝達にはんな連中だね ? 」 方向感覚が欠けているから、道に迷わぬよう注意することが必要「つまりーーもし彼らがなんらかの知覚機能をそなえている場合ー だ。とにかく、自分の足跡をたどって帰れる直線コースを進むの ーこの盲目地帯の通路を地図のうえに記入して、六日のあいだに、 これま が、いちばん簡単じゃないか ? 」 それが一本の直線になった事実に気づいた連中。それと 「そんなことは百も承知だ」クヴォルドはビシャリといった。「きた、彼らがなんらかの知覚機能をそなえている場合ーー・盲目になっ みは自分の動機をくわしく説明しているつもりらしいが、そのじた原因がこの盲目地帯の中心にあることに気がつくような連中だ」 ナししち、きみはその箱の内部を透視しクヴォルドの精神衝動は、いまや、あらゆる可能性をつぎからつぎ つ、話の内容は空つぼだ。ど、、 てみたのか ? 」 へと想像し検討していくにつれて、ますます用心深くなる人間のそ れにふさわしい、鋭敏さを加えていた。「またーー・・・彼らがなんらか 「いの一番にやった」 「で、なにが見つかった ? 」 の知覚機能をそなえている場合ーーその線を、彼らの罠をしかける 「なんだか、わけのわからん物ばかりだ」アイニフは、つい、うか理想的な場所まで伸ばすかもしれぬ連中のことだ」 「ぼくの恰好を見ろ」アイニフは急に気取った姿勢を取って、呼び つな返事をした。「なんの目的に使うものか見当のつかない、妙に かけた。「罠にかかってしまったよ ! 」 複雑な部品がぎっしり詰まっているだけだ」 「それはたぶん、きみが超感覚に関連した通常の知識で、その組立「それからーー彼らがなんらかの知覚機能をそなえている場合ー ー」クヴォルドは冷然とした口調でつづけた。「その線の元までた 部品を理解しようとしたからだ」と、クヴォルドは意見をのべた。 「つまりそれは、きみもぼくも、異星の機械技術に対抗できないたどっていって、禍の原因を排除するまで、罠のロをあけない連中の め、あるいは、われわれが視覚というものを持たないために、それことだ ! 彼らは、きみとの話し合いで、このぼくを追っ払うよう を理解することができないからだ」クヴォルドは慎重に考えてかな真似は絶対にしないはずだ」クヴォルドは深刻な思いで、最後の ら、いい足した。「いずれにしても、一直線に前進したきみは、重結論を出した。「アイニフ、連中はまず第一に、この・ほくをやつつ 9 大な過ちをおかしたと思う。たとえ方向を見失うという危険はあっけるんだ ! 」
り、じっさいの試運転のさいにはそこからはなれるようにとなんとの人工的遺物が再作動される最初の瞬間になるわけだ。つまりそれ か上官を説得しようとした。だが、フリツツは、実験の結果破減的は、その、どちらかといえば、歴史的瞬間だ。その場に立ちあうよ な損害がひきおこされるかもしれないと予想していながら、なお実うに招待されて当然ではないだろうか」 験することによって二度と使用することが不可能になってしまうか「わたしのことばも誤解されているようです」フリツツが言った。 もしれない機械装置が一度だけ作用するところを、現場にいて観察「どんな実験においてもかならず、〈実験中、立入禁止〉という掲 示を出して、部外者の見学をことわる過程が存在します。もちろん したいと決心していたのである。 ゼロ・アワー五分前、フリツツは自分の道具に最後の点検をおこわれわれの知るかぎり、タズーの地下鉄は完璧なもので、保存状態 なった。補助機器にスイッチをいれるように、ジャッコに信号したも完全です。技術的な観点から言えば、二百万年前とおなじように あとになって、プラットフォームに通じる廊下に、足音と人声とが電流を通してうごかしていけないという理由はありません」 「それで ? 」ナッシュが険悪な口調でたずねた。「それではどんな 反響するのを聞いた。通話装置を彼はひったくった。 「一時中止た、ジャッコ。こちらに仲間ができたようだ。もう一度問題があるのだ」 「こういうことです」フリツツが言った。「たとえタズー人にとっ 連絡するまで何もするな」 「わかりました」ジャッコが言った。「しかしうちの者は誰も下にてはごくふつうのことであったものでも、それが地球人には遠くに いてさえも危険なものでないと言いきることはできません。そもそ 降りてはいません。それは確かですー 「うむ」フリツツが言った。「わたしの耳にまちがいなければ、あも、この一つの地区だけに入力する動力の大きさが、地球人の標準 から見るとまったく道理にはずれているものです。タズー人が動力 のしやがれた低音はナッシュ大佐とその副官だ。もちろん、出てい ってもらう。一つの仕事のたびに将官級をいちいち皆殺しにしてし変換の効率について無知だったとはとても思えませんから、結局タ まったら、悪名がたってしまう」通話装置を投げすて、ナッシ = とズーの地下鉄組織はじつに動力を消耗するものだったのだと結論す る以外ありません。上で主スイッチをたおすとき、タズーの機械文 副官が到着したときにはプラットフォームに出てきていた。 「ヴァン・ヌ 1 ン中尉」ナッシ = が冷やかな声音で言った。「きみ明の生のサンプルが手に入ります。その瞬間に、地下のここには実 たちがタズーの地下鉄を再作動させようとしているという情報を、験の成功に完全に必要な最小限の人間以外いてほしくないのです」 ナッシュ大佐は、いらたって鼻を鳴らした。 たったいま聞いたところだ。これほど重要度の高い実験は、もっと 「現在までに得られた知識によれば、タズー人は骨の細い、どちら 直接に情報をうけたかったものだ」 かといえばかよわいような鳥類型の生物だった。地球軍異星探検隊 「報告すべきことが入手できしだい、御報告します」 「きみは、わたしのことばをまったく理解していないようだ」ナツの士官であるわたしが、旧住民が耐えられた状況に耐えられないは シが言った。「もしきみがこの実験に成功するとしたら、タズ 1 ずはない。しかし、きみ自身それほど確信がないのなら、なぜ一時 7
「いいたくないのですが、南部平野の地域にです。その回線は分岐た。地球ではサセックスの高原を象があるきまわり、人類の祖先 し、また分岐し、えんえんとこまかく分れていくのです。およそ四が、動物たちと変わるところなくたたかっていたころにその動きを 7 万組みの分岐をかぞえましたが、そんなものでは終わりません。わ止めた遺物が、いまこうこうと照らしだされていた。 日没すこし前、フリツッと彼のチームは地下鉄の建物に集合し たしたちは、十三組ばかり末端までつきとめました。発見を三つし た。すでに昼の静穏な天気は、上空低くもりあがる雲の群れが割れ たのですが : : : 」 たことによってくずれはじめており、夜の風の責苦の先触れがおと 「言うんじゃない」フリツツが言った。「想像がつく : : : タズーの あのどえらい ープだろう」 ずれていた。嵐の前の小康どころのものではなく、砂に満ちた烈風 ハープで、ハ ープ以外はなしです。そしてそのハープにが強襲しようと、すでにきつく緊めた・ハネをなおいっそう緊めてい は弦は張られていない。音楽をきこうというのなら理解できます。るような状況だった。 た力いったい」 ダ車の騒音を聞くためだけに、大平野に五百億個の フリツツは自分がもくろんでいる事業に、すくなからぬ恐れをい ラウドスビ 1 カーをそなえつけたなんて、本気で信じられますか。 だいていることに気がついた。たしかにタズーのこれら人工物はみ いくら異星人がやったことだといえ、そこまでは信じられない ! 」 な一点の損傷もないように見えるが、とフリツツは技術者の常識と フリツツはテープルをどーんとたたいた。「ジャッコ、きみはとして考えないわけこよ 冫。いかなかった。低温、種子の発芽、分子の拡 ほうもない天才だ ! 」 散と金属製の機材が、二百万年の眠りのあいだにどんな損傷をうけ 「わたしがですか」ジャッコはまばたきした。 てしまっているかわからないのだ。 「そうだ。おれのもとめていた手がかりをおしえてくれた。隊員を いずれにしても、もうはじめてしまったことだ。感情も好奇心も 集合させろ、ジャッコ。タズーの地下鉄の運転をはじめるんだ」 いまや問題ではない。異端技術部隊の存続という、たいへんな重荷 が、彼が地下鉄を再作動できるかできないのかにかかっていた。た 試運転がはじめられるまでに、ナッシュ大佐の最後通牒の貴重なとえ彼のためにあたり一面が大音響とともに粉々に霧散してしまう 三カ月のうち、十週間がすぎさった。その期間、異端技術部隊は死危険があるにせよ、もうあとには引けないのだった。 に物ぐるいではたらいた。そしてそのあいだじゅうフリツツは、秘やむをえぬ危険をおかさなければならないばあいのいつもの例の 密をベールでつつみかくし、彼がゆっくりと展開している計画がど とおり、フリツツはひとりで地下鉄自体にセットされた機器につき んなものなのか、仲間うち以外に知る者はなかった。そして最後のそうことにした。ジャッコが通話装置のこちらの末端、スイッチ室 晩にすべての準備がととのった。地球の、新品のケープルが地下鉄におり、そこにはタズーにはこばれてきた物資の残りをくみあわせ の入口からもぐっていた。そしてプラットフォ 1 ムでは、二百万年て急造でつくられた制御装置や観察機器がおかれていた。ジャッコ は、フリツツがいるところがどんなに危険な場所であるか知ってお 前にほうじた機械文明の精華を二ダースもの照明が照らし出してい
「奇跡のていどなら、われわれは即座に演じてみせます」しずかな 「それがわかれば苦労はない。さあ、大移動の準備状況を確認して 口調で、フリツツは言った。「だが、不可能を可能にするとなるきてくれ。ネヴィルがどんなぐあいか、発掘現場に行ってみる。あ と、もうすこし余計に時間がかかります。けつぎよくのところ、こそこで何かインスビレーションを掘りだしているにちがいない。そ こに来てからまだ一週間しかたっていないわけですから」 れをすこしばかり正しい方向におれが利用することができるかどう ナッシュは目をほそめて、しばらくのあいだフリツツをみつめてかは、神のみそ知る、だ」 いた。「フリツツ、率直に言って、わたしのたのみが実行されるか 地上車が赤い砂漠を横切ってくるのを目にとめ、ネヴィルは作業 すかな確率も絶対にありえないと信じている。だが、きみの大ボラ場の端に出てフリツツをでむかえた。 にのろう。もしきみがタズーをはしる輸送機関をどんなものでも三 「どんな状況ですか、フィリップ」 カ月以内につくることができれば、わたしは喜んで、いままでに異「すばらしいものだ、フリツツ。ここが重要な発見だということは 端技術部隊に関して言ったきついことばを全部とりけそう。だが、 わかっていた。だがそれどころか、ここは天国だ。大都市らしいと もし失敗したら、ぎみを地球におくりかえさなければならない。タ ころにまっすぐに掘り下ろしたが、下の階の内容物は完全な保存状 ズー計画は空荷で進行するためのものではないのだから」 態にある。そこは砂が乾燥しているからだ。三階建ての建物のうち 「その挑戦は、おうけします」フリツツが言った。「しかし、そののいくつかなどは、あまり完璧にのこっているから、つかおうと思 輸送機関は、あなたがいままでに見たどんな乗物にも似ているとはえばわたしらの使用にすら耐えるくらいだ。そうだ、フリツツ、タ 思わないでください。見たことのある外見のものになる確率は、百ズー計画は二百万バーセントくらいの払いもどしがあったのだ。こ 万に一つなのですから」 こで発見された遺物を完全に調査しきるには、何世代もかかるだろ う」 オフィスの外で、ジャッコが待っていた。「まずいですか」とた 広い石切り場のような発掘の作業現場を、プリツツは見おろして いた。考古学調査団の全員の手が、まるで熱病におかされたように ずねた。 「うまくはない」フリツツが言った。「輸送問題を解決するのに三うごいており、参加するすべての人員の興奮と熱狂がそこから読み とれた。布陣は無秩序に広がっておりその先端では、これほどのは カ月もらった。できなければ、不良部品として蹴り出されるとさや 異端技術部隊の名誉が・ーーそれにその存続までもが綱わたりの状況かりしれない考古学の宝庫ではたらくことに喜び疲労の極にたおれ だ。なんとか、どんなものでも乗物をひねり出さねばならず、それてしまうのをふせぐために、作業を強制的に中止させたりしなけれ もタズーの大気に耐えうる建設資材なしでやらなきゃならないわけばならないのだった。 あちこちにすでに異星的な様式の塔が姿を砂の上にあらわしてお 「では、こ、こよりいずこに向かおうというんですか」 り、理解しがたいかたちの想像もおよばない記念碑のように見えて
か」 や、その質問には答は出せません。確認されていることですが、タ 「先発した測量隊が、二つの衛星両方にタズー人が到着していた証ズー人は人口稠密な地域をすべて放棄し、赤道地帯に向けて移動し 拠をみつけている。それに、この太陽系中一つ内側の惑星にも、夕ました。分布人口の調査から見ると、まるで人口のすべてが移動 ズー人が到達して基地をきずいていたにちがいないと思われる根拠し、その途中で十人のうち一人が死んでしまったようなのです。っ もあるのた」 まり、生物学的な意味で耐えることのできない災厄がおそって彼ら を追い、そして大量の死者までを出したということのようなので 「たしかに有望そうな話ではありますが」とフリツツは言った。 「たが、二百万年という時間は、短いものではありません。それだす」 けの時がたったいま、機械装置がのこっていたりするでしようか」 「急激な気候変化だろうか」フリツツが言った。 「ネヴィルの説によれば、高度な文明をもったタズー人のことだか「気候の問題ではないです。おこったのは環境の変化なのです。わ ら、ここの大気の構成まで当然考慮にいれるだけの能力の技術者が たしたちは気候の大変化の証拠をもとめたのですが、確認でぎるか 存在したはずだという。そのうえ、ここの湿潤な大気も砂のなかにぎりでは、意味をもつほどの大変化はありませんでした。最近にー はそれほど深くまで浸入できないから、遺物が深く埋まっていれば ーっまり、地質学的な意味での最近に、ですがーー・おこった唯一の それだけほ・ほ完全に保存される可能性もあるという。もっとも有望変化は、砂なのです」 な遺跡を一つ、深く掘りすすんで探究すれば、じつに良好な保存状「砂ですって ? 」 態のタズー文明の標本が手にはいる。このタズー計画全体を成功さ「ええ、生態学的な・ ( ランスが、どこかで多分くずれ、その結果な せるにも、良い遺跡がたった一つだけあれば充分なわけだ」 のです。あの大荒原にも、いま温帯のそこここに見られるような繁 茂した森林がかって存在していたようです。多分洪水か大火か病害 という、なんらかの原因によってそれらの森林は死に絶えました。 フリツツは翌日考古学室でフリ ィップ・ネヴィルをみつけたが、 前日の嵐の被害はまだ全然快方に向かっていないようだった。 その結果は、地球上でおこるのとまったくおなじかたちをとりまし 「やあ、フリツツ。何かお手伝いしましようか」 「ひとっ質問にこたえていただけるとありがたい。タズー人に何が「土壌が侵食されたわけですか」 おこったかはご存知ですか。つまり、タズー人は明らかに高度の技「ええ、それが、破減的な規模でおこったわけです。無防備な土壌 術水準をえたが、そのとたんになぜ減亡に向かってしまったのか、 にいったん砂が作用しはじめれば、そのあとそこには何物も発芽す という理由です」 ることは不可能です。深く発掘すれば「いまでも発芽可能な植物の 9 ネヴィルは眉をしかめた。「科学技術と、環境を変化させて生存種子が出てきます。けれど、地表近くにあった種子はみな死んでし 4 を確実にする能力とを、あなたは一つのものとして考えている。 いまったか、あるいは発芽しはじめてもそのとちゅうで死に絶えてし
は、むつつりと言った。 遣することを要請しおったのだ」 フリツツが出頭すると、べリング大佐は歓迎して、椅子から腰を フリツツは一瞬、そのことばの意味を考えた。「正確なところ、 やや浮かせた。「おう、ヴァン・ヌーン ! きみに会いたかったのタズーでおこなわれているのは、どんなことなのですか」 「考古学調査団の援助だ。タズーには現在生物は死減してしまって 「は ? 」フリツツは問いかえしたが、その口調はうたがわしげだっ存在しないが、地球と同程度か地球より進歩していた文明がかって た。ペリング大佐は、自分の部下にていねいにするような男ではなそこに栄えた証拠があるのだ。そこで発見されるはすの知識は、こ ぶん人類の宇宙進出開始以来最大の成果となるはずだ。タズー人の ヒューマノイド ペリングは笑みを見せたが、その笑い方はまるで腹をすかせたオ体型は人類型であったか、あるいは亜人類型であったかどうかすら オカミそっくりだった。「いま幕僚幹部会議からもどってきたとこあやしい。そして、すくなくとも二百万年の昔に減亡している。そ ろだ。キャニス惑星における鉄道再敷設にきみたちが成功したのをれほど異質で、それほど古い複雑に発達した機械文明の遺品をひろ いあつめ、それらの目的が何であったかを理解するのが、われわれ 見て、〈親爺〉までが異端技術部隊の存在価値をみとめてしまっ の課題なのだ」 た。個人的にはわたしは、専門の技術者をつかうことを進言したか 「そのことが、それほど困難な仕事だとは思ってもみませんでし ったし、道理もわきまえない技術部隊に仕事をまかせることなど、 自分の辞書にはないと言いたカった。いつも言うように、幼稚園をた」 卒業する資格もない科学者千人より、たった一人卒業した者のほう「そうだ、フリツツ、 . きみがそう思うなどとは期待しない。そのこ を、わたしは買うのだ。機械に適応できないそういうやつらを追いと自体、きみたちを派遣しようという理由の一つになるのだ。われ やる場所が一カ所だけあり、それが異端技術部隊なのだ。そこでなわれのあいだで、異星の科学技術にもっとも近いものというのが、 ら、何かがおこったとしても、その打撃はすでに予測すみのことときみたちの、倒錯した横道からの追求方法というわけだ。つまり、 なるわけだからだ」 きみたちは専門家なのだ」 「その言い方は、すこしばかり不公平ではないでしようか。わたし「ありがとうございます」フリツツは、疲れたような声音で言っ が申しあげたいのは : : : 」 た。「それ以外に、わたしたちを派遣しようという理由にはどんな 「きみの言いたいことなどわかっているよ、フリツツ。そんな言い ものがあるのですか」 分をうけいれるつもりはない。技術というのはほんらい訓練の成果「タズーは、ひどい気候条件のもとにあり、普通装備の頑丈な無限 なのだが、きみたちが看板にしているのはまるで規格外だ。会議の軌条地上車が、二週間ばかりで使用に耐えなくなってしまう。つま 結果、ナッシュ大佐がー・彼は被虐趣味があるんじゃないかとうた り、考古学者のチームは基地からじゅうぶんに遠くまで探険にでか がいはじめているんだがー・・・・彼が、タズー計画に異端技術部隊を派けることができず、むざむざたしかに存在する真の大きな発見を果 ・キャット グラウ