ラーマ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年2月号
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1. SFマガジン 1976年2月号

ポリスは私と合流する。ルビー、すぐ出航できるように舵のところに、なぜ一か八かの冒険に挑むのだろう ? かれが最後の踏み段に足をかけたとき、堤の平坦な頂きの厚さが にいてくれ。私に何かおこったらカールに知らせて、かれの指示に ヒロイックにはなるなよ。わかっ十メートルもあることがわかった。内側は、斜路と階段が交互につ したがうんた。判断は的確に らなり、二十メートル下の都市の主平面へとつづいていた。かれは たね ? 」 ニューヨークをかこむ高い壁の上に立っていた。そこからは特等席 「わかりました、艦長。ご幸運を祈ります」 ノートン隊長は運などほとんど信じていなかった。あらゆる要因にでも坐ったように市内がよく見わたせた。 を分析するまでは、その場に没入することはなかったし、必す撤退市の重複性に呆然とするような光景だった。かれはまず最初にカ 線を確保していた。しかしラーマは、かれがかたくなにまもってきメラでゆっくりと市の全景を探査した。それが終わると仲間に手を たルールのいくつかをくつがえす破目に追いこんでしまった。ここふり、〈海〉のむこうに無線をおくった。「活動のけはいなし ラーマでは、すべての要素が未知であるーーー三百五十年前、太平洋すべて静か。のにつてこい。探険をはじめるそ」 と〈グレート・ アー・リーフ〉がかれのヒーローにとっても未 知であったように : : : そう、その時その時のツキを信じてやるのみ 第二十三章ラーマの〈ニ = ーヨーク〉 である。 それは都市というより機械だった。十分とはかからすに / ートン 階段は、かれらが〈海〉の向こうでおりたのと対になっていた。 向こう側にいるかれの友人は、きっと望遠鏡でまっすぐかれをみてはそう結論したが、全員が島を横断旅行したあとでも、その結論を いるにちがいない。″まっすぐ″という言葉は、この場合的確なこ変える理由がみつからなかった。都市ーー、住民の質がどうであるに には適応できるようなものがなければならない。だが、こ せよ とばだった。〈海〉はまったく平らで、ラーマの軸と平行してい こには、地下と同じように適応性の匂いすらなかった。入口や階段 た。これが真理だという宇宙では、氷の真の姿であるにちがいな いほかの世界ではすべて、海や湖は四方八方に等しく彎曲し、球やエレベーターはどこにあるのだろう ? かれはドアらしきものす の表面と同じでなければならないのだが。 ら発見できなかった。 地球上での類似をしいてあければ、それは巨大な化学処理工場に 「頂上目前」かれは報告し、記録のためと、五キロはなれたところ で熱心に耳をかたむけている副隊長のためにあとをつづけた。「依似ている。しかし、原料の山もなければ、輸送機構の表示もない。 然として静かだ。放射線は普通。頭にメーターをつけている。この製品がどこから出てくるのか・・、・、ーましてや製造されているのが何か 壁はシールドの役目をはたしているようだ。むこう側に敵でもいた皆目見当がっかなかった。すべてが不可解で、少なからずいらいら させられた。 ら、まず壁を撃つね」 もちろんこれはジョ 1 クなのだがーー・・敵をたやすく避けられるの「何だと思う ? 」聞いているかもしれないものみんなに、かれはい スキツ・ハ 309

2. SFマガジン 1976年2月号

光が走った。みんなの目が〈南極〉にふりむけられ、ジミーもっか「もちろんです。われながら間抜けでした。とにかく、いまは万事 のま吐き気を忘れた。〈ホーン〉が、またもや花火のショウを始めおさまったようですよ : : : 次回までは」 「うん、次回まではな」 / ートンはおうむ返しにいった。ラーマの たのだ。 一キロもの長さの炎の流れが、中央の尖塔からその小さい同類の謎は、どんどん大きくなる一方だ。発見がふえるにつれて、ますま ほうへと踊りまわった。ふたたび炎の流れは、まるで目に見えないすこの世界は理解しにくいものになってゆく。 メイ・飛ー だしぬけに、舵輪のほうから叫びが上った。 踊り手たちが電気的な五月柱にリポンを巻きつけているかのよう スキツ・ハ に、荘重な回転をはじめた。しかし、こんどはその回転がしだいし「艦長ーー・見てーー空のあそこを ! 」 だいに速さを増し、ついには一つに・ほやけて、明減する光の円錐に ノートンは目を上げて、すばやく〈海〉の全周を見まわそうとし なってしまった。 た。視線がほ・ほ天頂に達するまではなにも見えなかったが、つぎの それは、このラーマでかれらがいままでに見たなによりも畏怖を瞬間、かれの目は、空の反対側に釘づけになった。 そそる眺めであるばかりでなく、く ′リ・ハリと裂けるような遠い雷鳴「なんてこった」のろのろとそう呟いたかれは、″次回″がすでに で、圧倒的な力の印象はいっそう強まった。華々しいエネルギーのすぐそこまで来ていることをさとった。 誇示は、約五分間つづいた。それから、だれかがスイッチを切りで〈円筒海〉の永遠の彎曲にそって、高潮がかれらのほうへと押しょ もしたように、ばったりとやんだ。 せつつあるのだ。 ( 以下次号 ) 「〈ラーマ委員会〉があれをどう解釈するか、知りたいもんだな」 ノートンはだれにともなく呟いた。「ここにいる者で、なにか仮説 それに答える時間は与えられなかった。というのは、ちょうどそ の瞬間に、〈軸端司令部〉からひどく興奮した呼出しがあったから である。 「レゾリューション号 ! だいじようぶか ? あれを感じたか ? 」 「感じたかって、なにをだ ? 」 「地震だと思いますーーあの花火がやんだ直後に起きたにちがいな 「損害は ? 」 「ないようです。それほど強烈じゃなかったーー・ちょいとびつくり しましたがね」 「こっちでは何も感じなかった。もっとも、感じるはずはない・ 〈海〉の上だからな」 338

3. SFマガジン 1976年2月号

初期のものに似た、球状で単細胞の徴生物が何千とふくまれてい しかし、彼女はそれを示唆するようなこ・とばなかった。 着実に船足をのばして二十分後、 = = ーヨークはもはや遠隔の島 8 3 だが、有機物には、わけのわからない違いがあった。最も初期のではなかった。現実の場所となり、望遠鏡と拡大写真を通してでし 地球上の生命体にさえも最低限必要なものといえるのに、細胞には かみられなかったその細部は、いま、どっしりとした頑丈な建造物 核がなかった。ローラ・アーンストーー船医と調査研究員を兼ねてとしての姿をあらわにしつつあった。その《市》の外見上の特徴 は、微生物がたしかに酸素を発生することをまえに証明しは、ラーマの多くがそうであるように三つに分れていた。三つの同 たが、ラーマの大気の増加を解明するには、微生物はあまりに少なすじ円形の複合体もしくは建造物が長い楕円形の土台の上に建ってい ぎた。その数は数千どころか、数十億は存在しているにちがいない。 た。〈軸端〉からとった写真によれば、その各々が、一二〇度の割 彼女はつぎに、微生物の数が急速に減っていることを発見した。 合で切られたパイのように、それ自体三等分されていた。このこと 微生物はラーマの夜明け二、三時間に活発化したのにちがいなかっ は探険を簡単にする。ニューヨークの九分の一だけ調査すればよい た。それは、〈地球〉の初期の歴史を一兆倍の速さでかけぬけた、 ことになる。たとえ厖大な仕事であるにしても、少くとも建物と機 つかのまの生命の爆発であった。いまは、消耗しつくし、波間に漂械の平方キロと空中数百メートルにそびえたつもののいくつかを探 う微生物は分裂をつづけ、化学物質を〈海〉へとときはなってい 査すれば十分だ。 こ 0 ラーマ人は、三つの重複性の技術を高度に完成させたようであっ 「泳がなければならなくなったら」アーンスト博士が隊員に警告し た。それはエアロック機構、〈軸端〉の階段、人工太陽に示されて た。「ロをとじていることね。少しなら問題ないわーーすぐ吐きだ いた。かれらはいま、ほんとうに重要なところへと踏みこんだので せばいいの。だけど、この超自然的な有機金属塩は、そのまま有毒ある。たしかにニ = ーヨークは三ー三の重複性の一例といえた。 なものになってしまうのよ。解毒剤をつくるような破目にならない ルビーはレゾリューション号を、複合体の中心へとすすめた。そ ことを祈ってるわ」 こは、海から島を囲繞する壁、もしくは堤の頂上へとつづく階段の さいわい、こんな危険は起こりそうもなかった。たとえ浮揚性のあるところでもあり、ポートをもやうのに都合のいい場所さえもあ タンクの二つがパンクしたとしても、レゾリューション号は海上に った。これをみたとき、彼女はひどく興奮したが、ラ 1 ーマ人が異常 浮かんでいられる。 ( この話を聞いたとき、ジョー・キャルヴァー な海をわたる舟の一つを発見するまでは、とても満足といえる気分 トは陰欝につぶやいた、『タイタニック号を忘れるな』と ) 万一沈ではなかった。 むようなことがあっても、洗練されていないが有能な救命衣が頭を ノートンは、最初の足跡を岸辺に印した。かれは三人の隊員をふ まもってくれるだろう。ローラはこの件について断定をさけていた が、〈海〉に数時間つかっていても、命に別条はないと思っていた。 「壁の頂上にいくまで待っていたまえ。手をふったら、。ヒーター こ 0

4. SFマガジン 1976年2月号

る。この角度からみると、不吉なまがまがしい黒い姿で、全大陸を とりかこむ刑務所といった印象を与えた。その表面には一連の階段 第二十四章ドラゴンフライ号 もなければ、近づく方法もなかった。 ジェイムズ ニューヨークから南方の島にわたるのに、ラーマ人はどんな手段 ・パック中尉は、エンデヴァー号内でもっとも新参の をつかったのか、ノートンには不思議だった。たぶん〈海〉の下を士官であり、深宇宙への探険は今回で四度めだった。かれは野心家 走る輸送機構があるにちがいない。こちらには着陸用の開けた場所であり、近く昇進の予定であったが、重大な軍規違反もおかしてい がたくさんあるのだから、同じように航空機も持っていたとも考た。そのために、決心するまでに長い時間がかかったものと思われ えられた。主体をおかねばならないのは、ラーマの輸送機関を発見る。 することであるーーとくに運転方法を知らねばならない。 ( もっと大賭博である。失敗すれば、ひどくめんどうなことになるだろ も数十万年たっても動力源がまだ動いているとしてだが ) 。一見、う。 経歴を汚すばかりか首をしめることにもなりかねない。成功す 格納庫かガレージと思える建物は数限りなくあるが、まるで封水剤れば一躍英雄になる。しかし、かれを動かしたものは、この論議の を撤かれたように、どれもこれも滑らかで窓がない。遅かれはやかどちらでもなかった。なにもしなければ、残りの人生を、失われた れ、火薬とレーザー光線を使わなければならないな、とノートンは好機を思いおこしてすごすことになろう。かれはそうしたくはなか 自分に厳しく語りかけた。もっとも、かれはこの決定を、これしか ったからだ。にもかかわらす、隊長に個人的に会いたいと申し込ん ないという場合まで保留するつもりだった。 だときも、依然としてためらっていた。 どうしても暴力をふるわなければならない場合は、半分誇り半分 こんどは何だ ? 若い士官のあやふやな表情を分析しながらノー は恐怖のためだった。かれは技術をもった野蛮人としてふるまいた トンは己れに聞いた。かれはポリス・ロドリゴとの神経の疲れる会 くなかったし、理解ではないものをこわしたくもなかった。つまる見を忘れてはいなかった。いや、あんなことはないだろう。みたと ところ、かれはこの世界では招かれざる客であり、それらしく行動ころ、ジミーは宗教家的な男ではない、仕事以外の興味といえば、 しなければならない。 スポーツとセックスだけである。 かれの恐怖についていえばーーぎようぎようしいだけで、危惧の前者である筈はなかった。ノートンは後者でないことも望んでい 方がより的確である。ラーマ人はすべてのことに手をうっておいた た。歴代の司令官が出会わしたのと同じように、かれも多くの問題 もっとも、探険旅行中に計画外の出産とい にちがいないが、財産をまもるためにとられた予防措置をみつけるに出会わしていた。 ことを、かれは気にもしなかった。かれが本土に戻ったとき、それう古くからある例にはおめにかかったことはない。この場の状況 はまた無に帰る。 は、ジョークのたねになるだろうが、まだ口にされたことはない。 いずれにしろ、時間の問題なのだが。

5. SFマガジン 1976年2月号

った。「工場ならば、何をつくっているんだろう ? 原料の仕入先か確認できなかった。 「ラビ」と隊長は最後にいった。「きみの理論は気狂いじみている はどこなんだ ? 「こう思うんですが、艦長」はるかかなたの岸辺にいるカール・ が、核心をついている : : : テストされてると思いたくない : : : 少く マーサーがいった。「原料は〈海〉からとっているのだと思いまとも本土に戻れるまでは」 す。軍医の話ですと、艦長のお考えになっているものは全部〈海〉 天上のニューヨークは広さはマンハッタン島とほ・ほ同じだが、平 にふくまれているそうです」 面図形はまったく違っていた。直線道路はほとんどなく、短い同心 もっともらしい答えである。だが、そのことはノートンは考えすの弧とそれをつなぐ放射状の輻が迷路のように入り組んでいた。さ いわい、ラーマの内部では、自分のいる場所がわからなくなること みだった。〈海〉に通じるパイプが埋設されている可能性もあるー はない。空を一贅すれば、北ー南軸がすぐにわかるのだから。 ー事実埋設されているにちがいない。なにしろ想像上の化学工場は かれらはほとんど各交差点に立ちどまっては、全景精査をした。 厖大な海水を必要とするのだから。しかし、間違いがあまりにも多 いので、かれはもっともらしい答えには信をおいていなかった。 何千とあるこれらの写真が区分されたとき、都市の雛型をつくる仕 ール。だが、ニューヨークは海水で何をするんだ事は、退屈であるが、興味をひくものだろう。ノートンは、このジ 「考えはいし グソ ろう ? 」 ーパズルが科学者を走りまわらせるのではないかと思った。 長い時間、船からも〈軸端〉か〈北方〉平原からも答えがなかっ ラーマの平原にいたときよりも、ここの静けさに慣れるほうが耐 た。それから思いもよらない声が話した。 えがたい。市の機械は音をたてるべきものなのに、電気のかすかな うなりも機械の動くけはいすらなかった。ノートンは何度となく地 「わけないことです、艦長。だけど、みんな笑うでしようね」 「いや、笑わない、 ラビ。話してみたまえ」用度係主任でシンプの面や建物の壁に耳をあて、一心に音を聞きとろうとしたが、血液の 調教師のラビ・マッカンドリュース軍曹は、技術的な議論となると脈動以外は何も聞こえなかった。 いつも話をこじらせる、この船内最後の一人である。知能指数は機械は眠りについている、ほそ・ほそと動いてすらいないのだ。ふ たたびめざめるのだろうか ? とすれば何のために ? すべては順 中、科学的知識は無いに等しいが、馬鹿ではないし、人に一目おか 調なのだ。どこかにわるいところがあれば、コン。ヒュータ内蔵の閉 れる生来の敏腕さがあった。 スキツ・ハー 「まちがいなくエ場です、艦長。たぶん、〈海〉が原料を提供し回路が、この迷路のすべてに生命を甦えらせるのだろう。 かれらが市の遠部についに着いたとき、市をとりかこむ堤防の頂 ているのでしよう。 ・ : 方法のちがいはあるものの、地球の工法と ニューヨークは工場だと思いますーー・、それも上にの・ほり、〈海〉の南方岐のかなたをながめた。ノ 1 トンは、ラ 結局は同じです・ : 1 マの半分をかくし、行くてをはばむ五百メートルの壁をみつめた ラーマ人を作るための」 望遠鏡による調査によれば、いちばん難物で半分は埋まってい 誰かが、どこかでくすくす笑ったが、すぐに静かになり、誰なの スキッパ スキツ・ハ 引 0

6. SFマガジン 1976年2月号

1 でなくてはならない。しかし、そのエレベーターがなにを乗せて それを形づくっている材料は、やすりのような感触を持っていた。 しかし、そんなことはあまりかれの念頭にの・ほらなかった 上り下りするものかは、とうてい見当がっかなかった。ただ推測で うのは、その隣の碁盤目が、これまでかれのでくわしたどれよりも、 きるのは、それがかなり大きい、したがって、たぶんかなり危険な 思考を刺激したからである。ついに、かれにも理解のできるものがものではないか、ということだけだ。 現われたのだ。しかも、それは少なからず不安をかきたてるもので それからの数時間、ジミーは〈海〉の縁にそって十キロあまりも あった。 歩いた。そして、さまざまな碁盤目は、かれの記憶の中でもうろうと その碁盤目ぜんたいが、柵にとりかこまれていた。もし地球でそ混じりあいはじめた。まるで巨大な鳥籠のように、テントに似た金 れを見かけたとしても、ふりかえって見る気も起きないだろうほど網ですつぼりと覆われている方形もあった。また、一面に渦巻形の の、ごく平凡な柵である。どうやら金属製らしい柱が五メートルお散らばった、凝固した液体の池を思わせるものもあった。しかし、 きに並び、そのあいだに六本の針金がビンと張られている。 そっとさわってみると、堅い手ごたえが返ってきた。それからま そして その柵の内側には、第二の、まったく同一の柵があり た、あまりにも完全な漆黒で、はっきりと見ることさえできないも その内側には、第三の柵があった。これもラーマの重複性の典型のもあった。かれの触感だけが、なにかがそこにあることを告げて 的な一例だ。この囲いの中に入れられたが最後、どんな獣でも逃げくれた。 るのは不可能だろう。そこには出入口がない 囲いの中へ入れる しかし、いまやそこには微妙な変化が起って、かれの理解できるよ べき獣を追いこむために開く門が、どこにもないのだ。その代りうな何物かが現われはじめたようであった。南に向かって順々につ 一連の畑だ に、方形の真中に、ちょうどコ。ヘルニクスの小型版のような穴が、 づいているのは ほかの言葉では言い表わせない 一つあいている。 った。まるで地球の実験農場を歩いているような感じなのだ。どの なら これが違った状況のもとであったとしても、おそらくジミーはた方形も、みごとに均された、滑らかな土の広がりであり、それはか めらわなかったろう。しかも、いまのかれは失うべき何物もないのれがラーマの金属的な風景の中で、はじめて目にした土であった。 だ。かれはすばやく三つの柵を乗り越えると、穴に近づいて、中を巨大な一連の畑は、処女地で、生命がなかった・ーーまだ一度も植 のそきこんだ。 えられたことのない作物を、待ちうけているようだった。ジ、、 は、その目的はなんだろうかといぶかしんだ。ラーマ人のような高 コペルニクスとは違って、この井戸の深さは五十メートルぐらい しかなかった。底にはトンネルへの入口が三つあり、どれも象がす等生物が、どんな形にしろ、農業に手をつけるとは信じられなかっ っぽりはいれるほど大きい。あるのはそれだけだ。 たからである。地球でさえ、畑作りば人気のある趣味、エキゾティ しばらくそれを見つめてから、ジミーはこう判断を下した。もしックで贅沢な食料の供給源でしかない。しかし、これらが丹念に準備 3 この設備になにかの意味があるとしたら、あの底の床はエレベータされた将来の農場であることについては、かれは誓ってもよいほど リグンンシー

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にいるにちがいないと思っている。危険をもたらす 場だろうが らまた音声に戻ってほしい」 ほど強力かもしれん。よって、ただちに離脱するように指示するー 「そうします」 ーたんなる局地的なものかもしれんが、また、ビーコンのスイッチ ジミ 1 はラーマの内部のどこにいても自分の位置を示す低出力の ビーコンにスイッチを入れ、秒を教えた。ふたたび音声の交信に戻を入れてくれ、そちらへ送り返すので、干渉地帯から脱出すればま た話せるようになるだろう」 ったとき、ジミーは哀れつぼく尋ねた。「何が起きたんですか ? ジミーはいそいで接着弾を引き離し、着陸の試みを放棄した。イ 今度はわたしの言葉が聞こえますか ? 」 おそらく〈軸端〉では聞こえなかったのだ。なぜなら、管制官かアホーンの震動する音に注意をこらし、大きな輪を描いてドラゴン フライ号を上昇させた。ほんの数メートル飛んだだけで、その場の ら、今度は、を十五秒間発信するように言ってきたからだ。ジ ミーが同じ問いを二度くり返すまでもなく、言葉がったわってき力が急速に衰えていると断言できた。〈軸端司令部〉の示唆したと こ。 おり、きわめて局部的なものだったのだ。 頭の内奥でかすかに脈うつようなそれが感じられる最後の地点 「ジミー きみがわれわれの方を受信できるのはよかった。だが、 で、かれは、しばらく停止していた。素朴な野蛮人が、巨大な変圧 きみの方で何か奇妙な事態が生じているようだ、聞いてくれ」 受信機から、送り返されてきたいつものビーコンのささやきが聞器の低いうなりに無知ゆえの畏怖の念をもって耳を傾けているかの こえた。しばらくは完全に正常だったが、そのうちに気味悪くゆがように。だが、野蛮人でさえ、かれの聞いている音が、実は完全に められた音が混じるようになった。きわめて低い音なので、ほとんコントロールされ、時機を待っ厖大なエネルギーから漏れる空電に ど可聴閾以下にあったが、深奥から脈うつパルスによって、一〇〇すぎないのだと考えつくだろう・ : 〇サイクルのビーコンが変調を受けているのだった。それは、個々 この音が何かの意味をもつにしろ、ジミーはそれから逃れること の音のゆれが聞きとれる最低音振動の一種だった。そして変調を受ができたのを喜んだ。南極の圧倒的な建造物にはさまれたここは、 けたもの自体が変調され、約五秒周期で高くなったり低くなったり 一人・ほっちの人間がラーマの声に耳を傾けるべきところではない。 をくり返す。 送信機に何か異常があるとはジミ 1 の頭にはまったく浮かばなか 第二十七章対流放電 った。これは外部からのものだ。何であろうと、何を意味するにし ーには、ラーマの北端が信 帰投しようと機首を転じたとき、ジミ ろ、想像を絶するものであった。 〈軸端司令部〉は賢明ではなかったにしろ、少なくとも論理的だつじられないほど遠く感じられた。ここからみると、三本の大階段で さえ、この世界をおおうドームに刻まれた″″として、かろうじ 「きみが十サイクルの周波数をもつ一種の強力な場ーー・おそらく磁てみえる程度である。〈円筒海〉の帯は、広大な危険にみちた障害 9

8. SFマガジン 1976年2月号

それ以上はだめ」 「ちょっと待てーー・大丈夫か ? 」 制御装置を調べながら、ジミーは放心状態でうなずいた。幼稚な高度を失えば、ジミーは、最大の利点を犠牲にする。軸上にとど 操縦士席の後ろに五メートルの張出し材がある簡単な作りで、方向まるかぎり、かれとドラゴンフライ号には重さがない。なにもしな 舵と昇降舵で組みたてられたそのものは、身をよじらせはじめた。 いで浮かんでいられるし、眠ろうと思えば眠ることもできる。しか それから、主翼の半分しかない、ひらたい補助翼が上下に交互に動し、かれが、ラーマが自転する中心線からはなれると、たちまちい つわりの遠心力が再びあらわれるにちがいない。 「プロペラをまわしてやろうか ? 」二百年前の戦争映画の数々をお だから、この高度を維持できないばあい、落ちつづける破目にな もいだして、ジョ ・キャルヴァートが訊いた。「点火 ! 目視 ! 」るーーー同時に、自重も加わる。加速度も出て破局で幕をとじる。ラ ジミー以外には、かれのいっていることを理解したものはいないだ 1 マの平原上の重力は、ドラゴンフライ号が作動できるそれの二倍 ろうが、びんと張りつめたその場の空気をやわらげるたすけにはなである。無事に着陸できたとしても、二度と離陸できないのは明白 である。 ゆっくりとジミーはペダルをふみはじめた。プロペラの役目を果しかし、このことを十分考慮していたかれは、自信をもって答え たす、脆くて広い扇ーー翼と同様、ぎらぎら光る薄膜でおおわれた た。「面倒もおこさず、十分の一の重力をなんとかこなします。空 繊細な骨組みだったーー がまわりはじめた。いくつかの変化があ気のこいところでは、もっとたやすくとべるでしよう」 り、完全にみえなくなった。かくて、ドラゴンフライ号はその途に ゆっくりとゆるい螺旋をえがきながら、ドラゴンフライ号は空の ついたのである。 むこうへ漂っていき、平原のほうにつづく〈階段アルファ〉をたど ドラゴンフライ号は〈軸端〉から外へまっすぐ飛び、ラーマの軸っていった。ある角度からは、小さな空中自転車はほとんどみえな にそってゆるやかに動いていた。百メートル飛んだところで、ジミ かった。中空に坐り、はげしくべダルをふむジ、、 1 だけがみえるの ーはペダルを踏むのをやめた。空気力学的な車が中空に静止して浮だった。ときとして、時速三十キロにまでス・ ( ートする。つぎに惰 かんでいるのは奇妙な眺めだ 0 た。より大きな宇宙ステーシ ' ン内走して休息し、制御装置をしらべ、ふたたび速度をはやめる。かれ 部のごとくかぎられた規模でなら可能だろうが、それ以外のところは注意してラーマの彎曲する端から安全な距離をたも「ていた。 では、はじめてのことである。 ドラゴンフライ号が少し高度をさげたほうがよいことが、まもな 「調子はどうだ ? 」ノートンが叫んだ。 くはっきりしてきた。どんな角度にも横揺れしなくなり、翼は七キ 「反応は上乗ですが、安定性はよくありません。が、その原因はわ。下の平原に平行して安定を保 0 ていた。ジミーは数回大きく旋回 か 0 ております。ーー無重力のせいです。一キロメートル下げたほし、つぎには、ふたたび上昇しはじめた。かれは最後に、待ちわび うがいいでしよう」 る同僚の二、三メートル上で休み、すこしたって、繊細な飛行機の 引 4

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ただ一つの花かもしれない。いったいかれにそれを摘む権利がある 体つきなので、その格子細工のすきまからもぐりこむ自信はあっ た。しかし、もう一度外へくぐり出るのは、話が別だった。中で向のだろうか ? もしかれに言い訳が必要なら、ラーマ人自身もこの花を計画の中 きを変えるのは不可能にきまっているから、そのまま後ろ向きに出 に含めていなかったのだと考えて、自分を慰めることができたろう。 てこなくてはならない。 ジミーが花のことを説明し、あらゆる可能な角度からカメラをそ明らかにこの花は、幾時代も遅すぎて , ーーあるいは早すぎてーー生 まれてきた、変り種なのだから。しかし、かれは別に言い訳を必要 れに向けると、〈軸端司令部〉もこの発見に大喜びだった。ジミー が、「いまからあれを取りにいきます」と宣言しても、反対はなかとしていなかったし、ためらいもほんの一瞬のものだった。かれは ぐいとひつばっこ。 った。かれも、反対のあるはずはないと思っていた。かれの生命は手をのばし、茎をつかみ、 花はやすやすと手折ることができた。かれはついでに葉も二枚摘 いまやかれ自身のものであり、なにをしようと勝手なのだ。 かれは衣服をすっかり脱ぎすて、すべすべした金属の棒を両手でみとり、それから格子細工の中をゆっくりと後ずさりしはじめた。 こんどは片手しか自由に使えないので、後退はきわめてむずかしく、 つかんで、枠組の中へ体をくねらせはじめた。おそろしく窮屈だ。 かれは、監房の鉄格子をすりぬけて脱出しようとしている囚人の心苦しくさえあった。まもなく、かれは息をととのえるために一休みし なければならなかった。羽毛に似た葉むらがしぼみかかり、首を失 境だった。格子細工の中へ半分まで体がはいるのを待って、ひょっ った茎がゆっくりと支柱からほぐれはじめたのに気がついたのは、 として不都合がないかどうかを確かめるために、かれは後ろ向きに 外へ出られるかどうかを試してみた。これは、前に伸ばした両腕でそのときだった。魅惑と不安とのいり混じった気持で見まもるうち ひつばる代りに押さなくてはならないので、前進よりもはるかにむに、植物ぜんたいが、まるで致命傷をうけた蛇が穴の中へ這いもど ずかしかったが、中へはいったきり、袋のネズミになってしまうおるように、すこしずつ地中へひっこんでいった。 おれは美しいなにものかを殺してしまった、とジミーは自分に言 それは、ないように思われた。 ジミーは行動と衝動の男で、内省とは縁がない。棒と棒のすきまい聞かせた。しかし、それも、もとはといえばラーマがかれを殺し の狭い通路を苦労して這いくぐるあいだも、かれはなぜ自分がこれたからだ。かれとしては、当然受けるべきものを手に入れたたけの ほどにもドン・キホーテ的な芸当を演じているのかを自問して、時ことだった。 間をむだにしたりはしなかった。これまでの生涯をつうじて一度も 花などに興味を持ったことのないかれだったが、いま、たった一輪 第三十一章終端速度 の花をとるために、最後のエネルギーを賭けているのだ。 ノートン中佐はまだ一度も部下を失った経験がなかったし、また この標本がユニークで、非常な科学的価値があることは確かだ。 しかし、かれが欲しがる真の理由は、それが生命の世界との、そしそんな経験をしたいとも思わなかった。ジミーが〈南極〉に向けて 出発するその前から、すでに中佐は、万一の場合の救助方法を考慮 てかれが生まれた惑星との、最後のつながりであるからだった。 に入れていた。しかし、その問題はあまりにも困難で、ちょっと解答 にもかかわらず、その花に手の届くところまできたとき、かれは とっぜん気のとがめを感じた。ひょっとすると、これは全ラーマでが見つかりそうもなかった。これまでにかれがなんとかやってのけ 333

10. SFマガジン 1976年2月号

組みたててとりはずし自由の車にのせて十キロ以上の平原をはこぶ 作業で、隊員たちは数日分の = ネルギーを費消してしまった。賭け 第二十二章〈円筒海〉をわたる ははやければはやいほどい、。 かれらが階段の下についたとき、またショックをうけた。なにか賞金には危険がみあう。五キロ彼方、翳のない光にきらめく〈ニ ューヨーク〉の謎の塔は、隊員たちがラーマに入ってからずっとか がキャンプのなかを通り抜けていったようだったーー機械をひっく りかえし、こまごましたものまで、一まとめにして持ち去ってしまれらを嘲けりつづけていた。その都市ーーーたとえどんなものであろ うともーーーは、この世界の中心であることを誰も疑わなかった。な っていた。しかし、少し調べた結果、ばつのわるい困惑が驚きにと にはさておいても、かれらは〈ニューヨーク〉に着かなければなら ってかわったのである。 風がその犯人だった。かれらは出発まえ、ゆるんだ荷物をしばり いいのがあります なおしておいたのだが、思いもよらぬ突風のため、何本かのロープ「まだ名前をつけていませんでした。艦長 が切れたのにちがいない。散乱したものを全部回収するのに七日もか ? 」 っこ 0 ノートンは笑ったが、すぐに真顔になり、 レゾリューション 「諸君用に一つとってあるーーー〈決断〉号だ」 ほかに大きな変化はみられなかった。ラーマの静寂ももどり、つ かのまの春の嵐も去った。〈平原〉の端のむこうには穏やかな海が「どうしてですか ? 」 「キャプテン・クックの舟の一つの名前だからだ・ーー名前まけのし ひろがり、一万年間にはじめて浮かぶ舟を待っている。 ないはたらきをすると思う」 なるほどといった沈黙がただよった。それから、デザインの担当 「シャンペンの瓶をわって、新しい舟に名前をつけようじゃない 責任者である・ハーンズ軍曹が志願兵を三人っのったところ、全員が か」 「どんな場合でも、そんなもったいないまねはできないね。いずれ手をあげた。 ビータ 「残念だわーー救命具が四つしかないの。ポリス、ジミ にせよ、もう手遅れだよ。もう舟をうかばせちゃったんだもの」 、みんな航海した経験があるわね。ためしてみましようよ」 。地球に帰った 「浮くだけは浮いているね。賭けは負けだ、ジ、、 副長の軍曹が、この場の主導権をにぎっていることを奇異に思う らはらうよ」 ものはだれもいなかった。船中で船長の免状を持っているのは、ル 「名前をつけようじゃないか。何かアイデアはあるかい ? 」 ーンスだけだったので、異存のあろうはずはなかった。彼 その話題の主は〈円筒海〉につづく階段のかたわらに漂ってい た。それは、六箇のからの貯蔵用ドラム罐に軽金属の枠組を結びつ女は競走用のトライマランで太平洋を横断したこともあり、たった けた小さないかだだった。それを作り、〈キャンプ・アルファ〉で数キロの死んだように凪いだ海が彼女のうでをためそうとしている スキッパ