人間 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年2月号
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1. SFマガジン 1976年2月号

グロは作品のテーマと密接に結びつくことに成功してい有な成功をおさめている。 ( しかし、このほの・ほのとし る。 ( 後略 ) たムードの作品の中にも戦争の影がさしている ) 「軍用鮫」 ( 「新青年」昭和十一一年十一月号 ) は、「変人 ( Ⅱ ) のミステリーに属する作品としては、名探偵科学者の世間知らず」そのものをテーマとして一つの文 帆村荘六を主人公とする一連の作品がその代表的なもの明批評を試みているが、残念ながら小説としては成功し である。「俘囚」 ( 「新青年」昭和九年六月号 ) は人間のていない。 ( 後略 ) 体の必要最低限の部分を残し、四肢等を切断・除去して ( 「宇宙塵」一七二号「続・概説日本史 , より ) 一種のサイボーグを作る話、「振動魔ー ( 「新青年」昭和 六年十一月号 ) は不義の子を宿した妻を超音波による振以上で、海野十三の他の分野の作品はともかくとし 動で流産させる話、いずれも「ナマのエログロをこれたて、についてはある程度のご理解をいただけたと思 け的に消化し切ったみごとさ」 ( 柴野拓美「日本 う。そこで、いつもならこのへんで代表作でも紹介する 史雑論」マガジン一九六〇年十一月号 ) を感じさところなのだが、後の表のように、海野の代表作は せる。 現在、比較的容易に読むことができるので、まず、今後 「盗まれた脳髄」 ( 「雄弁」昭和八年連載 ) は、テレビジもリ・ハイバルされることはないと思われるショート・シ ョン発明家として有名なる沢柳大教授」 ( 中略 ) をは ヨートを再録してみることにしよう。帆村荘六探偵こそ じめとする日本中の科学界の権威が次々に襲われた不思登場しないが、科学啓蒙とエロ・グロとユーモアがミッ 議な病気の謎を帆村が解くもの。「人造人間事件」 ( 「オクスされた実に海野十三的な作品だ。 ール讀物」昭和十一年十二月号 ) は、ロポット研究家竹 —z—・、ノョ 田博士が自分の造ったロポットに殺される話で、帆村荘囹ショー ート「宇宙線」 六は「理学士」として登場する。 ( 後略 ) 宇宙線という恐ろしい放射線が発見されてから、まだ ( 虹 ) のユーモアとしては、「十八時の音楽浴」の いくばくも経たないが、人間は恐ろしい生物だ。はや人 中では「特許多腕人間方式」 ( 「現代」昭和十六年二月造宇宙線というものを作ることに成功した。あの光線 号 ) があげられるだろう。海野の小説 ( 特に少年向の作でさえ一、、 リの鉛板を貫きかねるのに、人造宇宙線は三 品 ) にはユーモアに富んだものが多いが、海野の人柄の十センチの鉛板も楽に貫く。だから鉄の扉やコンクリー せいか余りに「毒」の無いユーモアが多く、またその発トの厚い壁を貫くことなんか何でもない。人間の身体な 想が変人科学者の「世間知らず」を基盤にしたものに限んかお茶の子サイ / 、である。 られており、うまく作品に生かされていない。その点で どこから飛んでくるか判らない宇宙線は、その強烈な は、「特許多腕人間方式」は海野の素直なユーモアが希力を発揮して、人間の知らぬ大昔から、人体を絶え間な ドア

2. SFマガジン 1976年2月号

した惑星の悲しくもおそろしい物語を知っている。人間とは異なるないのだから。 どうしてスズダルがそれを知ろうか ? ものに変化していった人びとの物語。はるか彼方、星の海の中でも 人間がアラコシア人と出会ったのは、それが最切であり、しかも もっとも忌わしい場所におこった物語。 ほんとうの話を知ったならば、スズダルは逃げたにちがいない。今その出会いは、メッセージを通したものにすぎなかった。それは妖 のわれわれにとって周知のことが、彼には理解できなかったのだ。精の声がうたう妖精の歌、古い共通語で一語一語はっきりと語られ 人類がいったんおそるべきアラコシアは人に遭遇されば、アラコる崩壊の物語だった。それがあまりにも悲しく、あまりに忌わしい シア人人類をその故郷まで追い求め、悲しみ以上の悲しみ、たんなものであったため、人類はいまだにそれを忘れてはいない。物語の る狂気以上の狂気、考えうるあらゆる悪疫を越える悪疫をもたらさ本質は、非常に単純だった。これは、スズダルがそのとき聞き、の ずにはおかないだろう。アラコシア人は人非人となりながら、しかちに人びとが知るにいたった物語のあらましである。 アラコシア人は植民者だった。植民者たちは、帆船で旅立っこと も人格の奥の奥では、人間でありつづけた。おのれの不具を愛する 歌、おのれの浅ましい姿をその浅ましさゆえに称える歌をうたいなもある。帆船はうしろに多数のポッドを従えており、彼らはその中 がら、しかもその歌、そのパラッドには、オルガンの調べにのせてにはいる。これが第一の方法。 また、プラ / フォーム船で旅立っこともある。熟練したパイロッ こんなリフレインを折りこんでいるのだった。 トの操縦によって、彼らは第二空間にはいり、そこからとびだし、 人間世界を見出す。 さはあれ、心は人を悼む ! また、きわめて遠距離の場合には、新しい組みあわせが使われ 彼らはおのれが何者かを知っており、おのれを憎んでいた。おのる。多数のポッドを詰めこんだ超大型貝殻船、スズダル自身の船の 巨大版で旅立つのだ。人間はみんな冷凍睡眠にはいり、機械だけが れを憎みつつ、人類を追い求めていた。 目覚めたまま、船は光速に近づき、それを越え、宇宙の下をくぐり おそらく、今でも追い求めていることだろう。 現在では〈福祉機構〉の周到な配慮によって、アラコシア人がわぬけ、盲減法に正常空間に出現しては適当な目標に到着する。それ れわれを発見する気づかいはない。銀河系周辺部にはりめぐらされは賭けではあるが、その方法をとる勇敢な人びとも多かった。もし た欺瞞の網は、この失われた悪鬼の種族が決してわれわれを発見し目標が見つからなければ、機械は永遠に宇宙を飛びつづけ、その 「、冷凍保存されてはいるものの肉体はすこしずつ侵されてゆき、 ないことを保証している。〈福祉機構〉は、地球をはじめ、人類の 住むあらゆる世界を知りつくし、それらをアラコシアと呼ばれる奇凍った頭脳からは生命のかすかな火が失われてゆくのだ。 形から守っているのだ。われわれはアラコシアとはいっさい関わり貝殻船は、人口過剰に対する人類の回答ではあったが、老いたる を持ちたくない。さがしたければ、さがすがいし 。どうせ発見でき地球やその配下の惑星は、むしろその結果にとまどっていた。貝穀 いた

3. SFマガジン 1976年2月号

子を完璧に管理しているこの世界でも生れてくるこ 時、すでにそこには個の自由も感情も許され・ h ・バスの処女長篇『人類は過去を とがあった。彼らは〈ハンター〉の眼をぬすんでは はしなかった。もち論統制するのも人間では捨てた』 "HALF PAST HUMAN" 農作物をかすめとり、ほそ・ほそと地表で暮してい なく″アース・ソサヤティ″と呼ばれる巨大 る。何世代も前に逃げ出した者たちは、もう石器時 コン。ヒューター群なのだ。結婚にしてもその 代そのままのような生活をしながらも部族としての 配偶者は保育者と呼ばれるにすぎず、当人の まとまりを見せ村落すらも存在するようになって、 希望を提出しておくと、コンピューターが適 牛目族と呼ばれていた。そして最近では〈ハンタ 当な相手を決定するというものになってい ー〉たちを襲うようにさえなってきていた。 た。さらに家族制度そのものが破壊されファ こんな世界に除々に変革の時が近づいていた。機 丿ー・ 2 からファミリー・ 6 までの 5 段階 械がうまく動かなくなってきたのだ。高度の機械文 のファミリーと呼ばれるものはまったくの他 明もすでにそのにない手たる人類が、自からを蟻の 人をその性格や遺伝子系をもとに、コンビュ ータ】が組織する生活共同体それも食料のク ような生物へと進化させてしまった今となっては、 レジットによって結束した共同体であった。 補修ひとつままにならず、各所に不調が目立ち始め ハイ・フ 巨大なたて穴式の〈巣〉の中に何百万の人々がう書いてきたら、なんだか憂うつになってきてしまっていた。 ごめいている。一日二十四時間休みなく活動を続けた。でも物語はむしろ明るい色調で進んで行くんでそんなある日、ティンカーという名の一人の若い ハンターが極性化手術を受けていた。それは小さな る工場、そこへ吸い込まれ吐き出されてくる人々のす。もうちょっと我慢して下さい ( イ・フ 群が、〈巣〉の中心の軸空間をとりまくラセン状の〈巣〉に住む人々は、太陽の直照にさらされること時に埋めこまれた発情防止力プセルを取り出すだけ 道にあふれそうになっている。異様な熱気、音響、もないため、メラニン色素が欠乏し、さらには足指もの手術であったが、最近ではその希望者も千人に一 そして形容しがたい臭気。人々の一生はただ単調な四本になってしまっている。地表の農作機器を管理人いるかいないかというほど減ってきていた。もち 手作業と合成食品の淋しい食事のくり返し。地表にし、農作物を保護するために狩猟機に乗って飛びま論過剰人口に悩む″アース・ソサヤティ″も簡単に 出るのは特殊な仕事についている者のみで、大部分わるハンターたちは、遮光服を着なければ狩に出掛許可するわけもなかった。しかし、その手術の後、 の人々は一度も太陽を眼にすることなく、空の青さけることも出来ないのだ。彼らは何を狩ろうという彼の目には今の〈巣〉がどうにも堪らないものに写 ハイプ も草木の緑も知ることなく死んで行くのだった。 のか ? それは〈巣〉に住むことが出来ず、逃げ出しるようになってきたのだ。ほとんどの人々は性もわ 果してこれが人口爆発に悩む人類の未来なのだろて行った先祖がえりたちだった。裸で太陽に照らさからぬ無表情で無気力な顔つぎをし、ただ蠢いて うか ? こんな蟻のような暮し方が、・ほくらに残されても火ぶくれなど起きず、背が高く、足指も五本いるだけのように思われる。たまに彼の注意をひく れた未来なのだろうか ? 舞台設定だけをここまであるような、そんな原始的人間がごくたまに、遺伝のはやはり極性化手術を受けている人たちだけだっ 0 疆 -- 0 ハイ・フ 0 0 0 0 0 W ト朝 h 叩 p い 0 0 町 when ad ⅳ、ト hi ヨⅳⅲ 9 ? HALF PAST HUMAN T. 」 . BASS

4. SFマガジン 1976年2月号

には、名古屋大学文学部の新村猛研究室で助手をしていた朝倉剛氏 ~ キリスト教の伝統をもたない日本人にとって「神」の信仰はは ~ なはだ理解しにくいけれど、その信仰が彼の人間性に対する信 ~ ( 当時歳 ) を紹介した『若い研究』という記事が貼ってあった。 〇・・・・・・現代に生きる文学者である以上、はげしく動」て」る現 ~ 一頼に 0 なが 0 て」る = とだけは、うかがえる。人間性に対する ~ 信頼こそ、フランスのヒ、ーマニズムの歴史に脈々と波うって一 実の社会となんのつながりもなく過すことはできない。戦後の いるものだ。人間の尊厳がナチの軍靴で踏みにじられるのを見 フランスで " アンガージ = ( 社会参加 ) の文学。がやかましく ~ ることは、彼にとってたえられない苦痛であったに違いない。 唱えられ、日本でも、おくればせながら「文学と政治」の問題 このことが彼を対独抵抗の行為にまで走らせたのではなかろう が真剣にとりあげられているのは、このためである。 ・フォ 1 レの匿名で秘密出版物である″深 ~ か。彼はムッシュ 1952 年度のノーベル文学賞を受けたカトリック作家、フ ~ ~ ~ 夜叢書。に「黒い手帖」を執筆し、同志を集めるためみすから・ ランソワ・モ 1 リャックは、第二次大戦中、征服者ナチスに対 ~ 危険をおかして占領下のフランスをかけずり回った。・ するレジスタンス ( 抵抗 ) 運動の先頭に立った。それまで彼を ~ ノーベル文学賞の彼に対する受賞の理由にはこう述べられて 保守的なプルジョア作家だときめつけていた人々にとって、こ いる。「人間の魂の透徹した分析、ならびに小説という形式の の果敢な「人間の敵」との戦いは驚異のコトだった。母と子の ~ もとに人生を解釈したその芸術的強烈さに対して」と。その芸 ~ 愛情や、ドストエフスキー的な人間心理を異常な執拗さで追求 ~ ~ ~ ~ 術的強烈さは、彼を書斎に閉じこめてはおかなかったのであ していたこの作家が、なぜ力強く立上るに至ったのか、どのよ る。しかし、戦争が終り、抗独の線で結ばれていた人々が再び うにして「書くとは行為することだ」という信念が彼に芽ばえ ~ それそれの道を歩み出したいま、カトリシズムとともにフラン るに至ったのか スの思想界を三分している実存主義、共産主義の陣営は、モー 戦中、戦後のモーリャックの動きをとおして、このテーマを リャックをなまぬるいヒ、ーマニスト、進歩の敵として、また ~ 研究することは、現代文学の当面している問題に、ひとつのカ そろ非難しはしめている。これはどういうことなのか。この大 ~ ギを与えてくれるだろう。こう朝倉氏は考える。 きな問いを、朝倉氏はつぎのように解釈する。 「これまでジイド、ヴァレリイを研究してきた・ほくの当然の発 ~ ~ ~ モーリャックにも限界はある。彼の育ってきた・フルジョア社 展として、彼らにつづく世代のモーリャックの問題につきあた 会を・ほくらの世代は踏みこえていこうとしているが、モーリヤ った。一一十世紀の二つの大きな事件にまたがって生きた作家と ックは行きづまったさまざまのプルジョアのモラルをかかえす ~ して、これを研究することは、新しい文学研究の足場になるだ ~ ぎている。また〕 = 。 ( 一。。 ( 正義 ) を。 h 主 ( 0 ( 神の慈悲 ) とい ろう」と氏はいう。 7 ~ いかえたり、 frate 「 nité ( 友愛 ) の観念が完全に理解できなか 〇 : : : モーリャックはなによりもまずカ下リック作家である。 ~ ったりする世界観の狭さをもっている。

5. SFマガジン 1976年2月号

これは、彼にとって、最初の担当世界なのだ。この、担当世界を ざわめきと : : : 人々と・ : : ・陽の照りかげりと : 与えられるというのは、訓練につぐ訓練、テストにつぐテストを乗 2 この感じなのだ。これが、他の世界の都市と、ある一線を画してり切って、なおかつ見込みがあるという判定を貰「て、はじめて得 いるのだ。このどうにもならぬ混乱と、どこかに不安・あきらめをられるのである。過去の司政官たちと比較すれば、むしろマセたち 蔵した活気 : : : これこそ、ラクザーン特有のものなのである。 の期の連中のほうが、はるかにきびしく鍛えられたといっても、過 なぜ、こうなるのかーーー彼は知っていた。知っていることを思い 言ではないであろう。司政制度が各植民地の″文明化″の進行につ 出した。思い出すと : : : 例によって、かすかな頭痛がはじまるのでれて、しだいに有名無実のものに近づきつつあり、可政官そのもの あった。 が能力を発揮するケースはますますまれになっているとはいえ : いや、だからこそ、既定の確立されたコースとして、司政官になる 「本官としては、貴官に、伝達すべき事項は伝達して、納得しておためには、おそるべき課程をこなさなければならないのであった。 いて貰わなければならない。それが本官の立場というものでね。貴ただ : : これは、退役したかってのペテラン司政官の述懐である 官にとって、きわめてやりにくい世界であることは分っているが : が、今のように体系化され型にはめられた訓練をこれでもかこれで ・ : もちろん、貴官は本官の説明を受けたあと、連邦経営機構植民省もかとやらされるよりは、ある程度未完成の状態で担当世界に飛び 司政局に異議申立てをすることはできる」 込み、そこで実地に何かをつかんで行くほうが、ずっと有効ではあ 連邦情報官は、マセの表情を読み取ろうという目つきでいった。 るまいか・ーーというのが、実は真理であるのかも分らなかった。訓 「ともかく、説明してくれないか ? 」 練所での特待生が必ずしも優秀な司政官ではなかったのは、司政制 マセは答えた。彼は自分の顔つきからその気持をくみとられる程度の歴史が証明しているのである。まして、今のように、実習を経 のへまはしないつもりだったし、そのくらいの修練は積んでいたのずして直ちに司政官として送り込まれる時代では : : : なおさら 4 てう だ。時として、誰も見ていない場合には感情が面に出ることもあつであろう。とはいえ、実習制はもう十年も前に廃止されていた。そ たが : : : 警戒しなければならぬ人間が前にいるときには、まず、それはすなわち、植民惑星における司政官というものが、過去よりは んな真似はしなかったし、自信も持っていた。それが出来ないようずっと形式的な存在になっているのと無関係ではなかったであろ では、待命司政官などにはなれないのである。しかも、待命司政官う。 が増え、ついに待命司政官で終るかも知れないという可能性、それ 司政官はすでに、連邦経営機構への参加をもくろむ人間の、その ゆえに、待命司政官になりながら、連邦での他の仕事〈と転身する道程のワンステ , 。フと化そうとしているのだ。司政官になるか巡察 人間が続出している現在、担当惑星を与えられそうな状況を、みず官になるかが、連邦高官 = ースのひとつの。 ( タ 1 ンなのである。そ からぶち壊す気は、彼にはなかったのである。 れでもまた司政官になろうという人々の中には、以前 2 司政官が る )

6. SFマガジン 1976年2月号

た。そして、その中の一人と親しくなって数日後、いの後、開放された五本指の者たちは自由を求めてりして、ファン好みの道具立てがメチャメチャ その友人がティンカーに外からの怪電波について話大移動を開始しました。そして彼らを待っていたのに出て来るのです。発想も表現力も第一級というほ してくれた。原始的な牛目族しかいないはずの ~ 〉は、オルガと呼ばれる星からの迎えだ 0 たのです。どではないのですが、・ ( スのこうした努力と態度は の外から電波が来るなど信じられぬことだったが、遠い昔に外宇宙へ植民に飛んでいった人々が、その最近では珍しい部類に入ると思います。 ティンカーは好奇心を押えきれなかった。彼が先祖少数なるが故の遺伝子の不足に悩み、母なる地球にそれではいよいよ『神鯨』に行きましよう。海中 がえりというほどではなかったが、五本指で、多少新しい人々Ⅱ新しい遺伝子を求めてやってきて見出プランクトンを採集して食料化するサイボーグ鯨た 他の人々とは変っていたのも、彼にそんなに強い好したのは、かっての栄光も忘れただ生きのびんがたちは、海が汚染され死に絶えてしまった時″アース 奇心を起こさせた原因かもしれない。非番となっために地下にもぐって暮している、ちびの白子の群だ・ソサヤティ″に冷たく捨て去られ、いまでは海底で 晩、ティンカーは通信器の前に坐り込んだ。怪電波ったのです。しかし植民星の人々が望んでいた遺伝朽ち果てるのをただ待つのみであった。しかし、マ は簡単にとらえられた。かすかな音楽が聞こえてく子はちゃんと残っていました。五本指とさげすまルーという鯨だけは、もう一度人間に仕えたいと思 る。ティンカーは思わず口をひらいた。 れ、〈巣〉の生活に適応出来ず逃げ出していた原始い自ら人間を捜す旅に出ていた。そしてついにエネ 「誰だ、そこにいるのは ? 」 的人間達こそ、その保有者でした。いまやひとつのルギーが尽きる時が来て、マルーはある島の砂浜に 「問うたのは誰か ? 」 流れとなって五本指の者たちは星々への道を歩み始身体をのし上げ、永遠の眠りにつこうとしていた。 めました。ォルガの歌が高らかに唱われます。 「おれの名はティンカー、このハイ・フの者だ」 ・ : まぶたに積もる砂が、マルーの世界を暗くし ォルガの子供等よ、自由の日は近い 「私は収穫者」 ていくにつれ、彼女は空しく過ぎてしまった年月を 走り、泳ぎ、木に登り、 「脱走者か ? 」 思って涙を流した。収穫すべきプランクトンを求め 「私はオルガの弟子。そのひどい巣から出て自由に梨を口にし、・フドウを味わい て、長いこと大陸棚を調べてはみたのだが、海の生 なりたければ、来るが良い。自然のままに自由に生鳥や魚や猿と共に自由を楽しむ日は近い 命体はまったく死に絶えていた。マルーの姉妹たち はるか昔に地球を離れた者たちも きられる」 は静かに沈んでいって、海底には彼女らの骨格がほ どうも枚数が足りなくなりそうなので後をいそぐ君等への救いの手を惜しみはしない。 の白く光っている。彼女がこの島を自らの墓場と選 ことにします。外から呼んでいたのはギターというそして共にオルガの子供等よ んだのは、実は船体が目につくようにしておけばも ハイプ ロポットだったのです。それは各地の〈巣〉に脱走星々への道を歩もう、永遠に。 しかするとサルべージして貰えるかもしれないと思 を呼びかけては、新しく逃げ出してきた者たちを集実はこうした筋の中に、数多くのサイドストーリってのことだった。′ 彼女の耳には何ひとっきこえて め組織しているのです。ティンカーが加わってまもーが組み込まれていて、例えば黄金の入歯のダンとはこなかったけれど、人類はきっと『ハイ・フ』とや なくギターは五本指の者たちが何百万と冷凍睡眠にいうサイボーグ大なんかが大活躍したり、ツマヨウらの中で生き続けているんだわとマルーは思ってい 入っている基地の襲撃を計画します。長い苦しい闘ジという名の携帯用コンビューターが軍師になったた。もしも人類が海に戻ってくるのなら、もう一度 ハーベスター 0 0 翡一 - ■

7. SFマガジン 1976年2月号

( 4 ) 絶対にこわれないゼネラル・・フロダクッ製船殻の秘密が、売かれらは、どこへいくつもりなのだるうか ? そう、銀河系の周 りに出されていた。同社を代表する人間が、一年間入札を受けつけ辺は、光暈のように、小さな球状星団がとりまいている。そのいち 3 るが、金額は一兆スター以上となっている。こいつは、誰でも、一 ばん端のほうのどれかなら、安全かもしれない。・が、あるいは、ア ンドロメダ星雲までいくつもりかもしれない。そのつもりなら、調 枚かみこみたいところだろう。 ( 5 ) 事情を知っているものは、ひとりもいなかった。そのこと査には「ロング・ショット」があるし、もっと何隻も製造すること / ウ / ・スペイス が、むしろ恐慌のおもな原因だった。既知空間から。 ( 。〈ッティア人ができよう。銀河系外空間の空虚さを思えば、・ ( ペッティア人の。 ( が姿を消してから、もう一カ月になる。かれらは、どうしてそんなイロットでも、種族の存亡がかかっている現在、なんとかひとりで 飛ばすことくらいはできるだろう。 に突然、星間企業から手をひいてしまったのだろうか ? それにしても、残念なことである。パ。ヘッティア人のいなくなっ 私だけが知っていた。 た銀河系なんて、たいくつ以外の何ものでもない。あのふたっ頭の 二万年後には、あの放射線の洪水が、宇宙のこの地域にも押しょ怪物が、星間ビジネス界最大の支え手であったからというだけでは せてくるのだ。三万光年という距離は、大きいし、安全なようにみない。いくらかなりと人間的な種族にとって、かれらの存在は、荒 えるが、あれほどの大爆発に対しては、けっしてそうではない。私野における水のようなものだった。かれらに、われわれなみの大胆 さの持ちあわせがないのは、まったく惜しいことであった。 はすでに警告した。中心核の爆発が、その銀河系全体を、既知のい が、本当にそうなのだろうか ? かなる生命体も棲息不可能なものにしてしまうことを。 二万年というのは、たしかに長い時間だ。記録に残っている人間 パべッティア人が、直面した問題から目をそむけるのを、私はま の歴史の四倍にもあたる。われわれみんな、危険が迫ってくるはる だ一度も見たことがない。かれらは単に、いちはやく身をひく算段 か以前に、塵にかえっているだろうし、げんに私自身、気にかけてをするだけで、当の問題が存在しないかのようにふるまうことはし 亠よ、よ、 0 ない。これから一一百世紀のあいだの、いくつかある時期には、われ われ人類も、現在すでに四三〇億に達している総人口の移住を、考 だが、パペッティア人の考えかたは、ちがっていた。かれらは、 恐怖にかられ、ただちに逃げだす道をえらんだのだった。違約金を慮しなければならなくなるのだ。が、どうやって ? どこへ ? そ 払ったり、自前のこわれない船殻に積みこむ動力その他の装備を買して、いつ、われわれはそのことを真剣に考えはじめるだろうか ? しいれるには、莫大な金額が必要だったろう。だから、私のとるに中心核の放射が、塵雲をとおして見えはじめたら、腰をあげるだろ たらぬ報酬までも、取りあげようとたくらんだのだ。星間ビジネスうか ? こと銀 たぶん、臆病なのは、人間のほうなのではなかろうか など、知ったことか。パペッティア人には、もう、逃げだす以外の 河の「核」に関するかぎりは。 ことを念頭に浮かべる余裕もなかったのである。

8. SFマガジン 1976年2月号

マセは聞いた。 司政官であり得た時代の記憶を継承し、良き司政官になろうと志向 している者も、幾分かの比率で存在してはいた。巡察官を経て連邦ラクザーンの公転周期は、地球年に直して一・六年。自転周期一一 経営機構に食い込もうという連中ほど、オポチ、 = ストではなかっ十八時間。これをラクザーンの原住民であるラクザー ( は、一 年を一レーンと称し、一日を一ルーヌ、一ルーヌを十四ルーヌルに たのだ。 マセもまた、連邦高官になるよりは、まだ僅かではあるが生きて分けているというのだった。 こよれば、このルーヌルというのは、ルーヌから派生 いる司政制度の理念に賭け、司政官としての仕事をやりとげたい人「何人かの説冫 間であった。それゆえに、司政官たるための訓練に耐えて来たのでした言葉と推測される。そうなれば、ラクザー ( たちにとって、一 時間一一時間という単位よりも、一日のほうが基本的な感覚というこ ある。 とになるのかも知れないが : : : まあこれは余談だ」 彼は、待命司政官で終ゑあるいは待命司政官からの転身などは 情報官はいった。 考えていなかった。 と、マセはそのとき漠然と 担当惑星に赴任し、そこで、おのれに恥じない司政官になりたか それが余談などであるはずはない 考えていた。余談のかたちをとっているものの、情報官にとっては 連邦情報官 ( それは、上級情報官ではなかった。上級情報官と呼これも話しておくべき必要性を持ったデータなのであろう。司政官 ばれた階層の人々は、連邦経営機構の枢要な部分の柱となっておの必須知識としてではなく、今後、起り得るかも知れない事態に対 り、司政官に赴任惑星の情報を与えるのは、一般情報官の作業になする予備知識として、優先度は低いが、一応伝えておかなければな らないものなのであろう。 っていたのである ) は、執務標準に従って、説明を開始していた。 マセは黙って傾聴した。 「お手もとのデータでお分りのように、ラクザーンは植民世界とし 「このラクザーンは、一二三五星系の唯一の惑星でね」 ては、もっとも古いものというわけではない。比較的新しい 情報官は、・ かだか五十年かそこらしか経由していないところだ」 テータを渡し、ときには立体映像を投写しながらいう のだった。「この一二三五番にあたる恒星は型。これでラクザー 情報官は続けた。「それにもかかわらずこのラクザーンは、最古 ンとの平均距離が一億五千万キロとかそんな程度だったら、人間のの植民世界に匹敵するか、見方によってはそれ以上の発展を遂げて 住み得るーー植民用世界としては、暑すぎるところだったろう。け いる。こんな連邦辺縁部に位置する星系にしては、不思議なくらい れども天の配剤というか偶然というか、彡クザーンはもっと離れてにね。だが、これは不思議でも何でもない。れつきとした理由があ いる。そのため、ここは人間にとって居住可能だし、人間に酷似しるんだ」 た高等生命体もいる」 情報官は、そこでちょっと息をついだ。 マセは、目顔で次の言葉を促した。一応のことはあらかじめ与え こ 5 2

9. SFマガジン 1976年2月号

個人的な質問をしたことを後悔した。 機構〉は、コンビュータの能力を越えた人類の問題の処理にあた 「死ぬか、でなければ罰せられます」公安官は同情に耐えぬようにる。〈福祉機構〉は、行動にさいしての人間的な選択を、人間の頭 いった。「どちらが不幸か、わたしにはわかりません」 脳にゆだねているのだ。 「今か ? 」 〈福祉機構〉はその幹部たちに、人間の世界ではふつう知られてい 「今です。もう時間はありません」 ない、一般の男女に知らせてはならない極秘の知識をさずける。な 「しかし規則は : ぜなら、責任ある立場にいる将校ーーー隊長、副長、部長。ー・・は、お 「あなたはすでに規則を大幅に踏みはずしています」 のれの仕事に通じていなければならないからだ。それが十分でない 規則はあった。だがスズダルは、とうにそれを破っていた。 場合には、全人類が消減することさえあるかもしれない。 規則。平常の時、平常の場所での、理解しやすい危険に対する規スズダルは兵器庫にはいった。何をしているかは承知していた。 Ⅱ 10 アラコシアの二つの月のうち、大きなほうは居住可能だった。すで これは、人の肉体によって作られ、人の頭脳によって動機づけらにそこには地球の植物が根をおろし、地球の虫がすみついていた。 れた悪夢なのだ。すでに船のモニターからは、この民族の正体をつアラコシア人はその衛星にまだ定着していないようだ、とモニター はっげた。スズダルは苦痛にみちた問いをコンビュータにぶつけ げる情報がはいりはじめていた。狂人としか思えない人間の集団、 女を知らない男たち、肉欲と戦いのためだけに成長してきた少年た。 たち、正常な頭脳には受けいれることも、信じることも、許容する「どれくらい古い時代のものか調べろ ! 」 こともできない家族制度を作りあげた民族。船外にいる生き物たち機械はうたうように答えた。「三千万年以上です」 スズダルには奇妙な武器があった。地球にすむほとんどすべての は人間でありながら、人間ではなかった。船外にいる生き物たち は、人間の頭脳と、人間の想像力と、人間の復讐心を持ちあわせて動物を、双子や四つ子のかたちで持っていたのだ。薬のカプセルほ いたが、その性格には、スズダルのような勇敢な将校さえもおびえどの小さなカプセルにおさめられたそれは、高等動物の精子と卵子 させるものがあり、彼はついに外からの呼びかけに応じることがでから成り、いつでも受精や刷りこみのできる状態で保存されてい きなかった。 た。また彼には、どのような生命形態をもつつみこみ、生存に有利 外壁をたたいているのが何者か明らかになるにつれ、亀人の女たな条件を与える小型の生命爆弾もあった。 ちは目に見えておそれおののきはじめた。外では拡声機が、入れ彼は貯蔵室におもむくと、八 6 猫、十六びきの地球の猫、だれ もが知っている種類の猫フェリス・ドメスティクスをとりだした。 ろ、入れろ、入れろ、と歌っていた。 スズダルは犯罪をおかした。〈福祉機構〉には一つの誇りがあときにはテレ。 ( シー用に飼育され、ときには予備の兵器として宇宙 る。それは、将校の罪や失敗や自殺を容認していることだ。〈福祉船に同乗し、ビンライターたちを危険から守る猫である。

10. SFマガジン 1976年2月号

勿論、にしても、人間がつくるものであ地上性を有しながら、一方で、枝を握りしめるリカの環境は南米より過酷だったのだろう。 イドラ 猿鼻猿類はオナガザル上科とヒトニザル上科 るからには、べ 1 コンの言う「種族の偶像」 ( 人のに便利な指紋などの樹上性も合わせ持ってい 間性そのものの中に持っているあやまり ) のある。この両生性を活用し。始新世の森の地上か ( 無尾猿類 ) とにわかれ、オナガザル上科はオ やまちは免れない。森本哲郎氏は「人間というら樹冠にいたる広い三次元空間を自在に利用しナガザル亜科とコロプス亜科とにわかれる。オ ナガザル亜科には両頬に食物を一時貯えるため 制約」を「制約として、はっきり自覚」 6 せよていた。 とされる。しかし、単に心の問題としてしまっ 次の漸新世はサルの暗黒時代。北方の原猿のの頬袋があるが、コロ・フス亜科にはない。ホホ ては、「洞窟の偶像」 ( 各個人がそれそれ背負多くが絶減し、一部が南へ逃げて、ようやく生プクロ派は、生息場所がオープン・ランドに近 っている制約 ) と区別し難い。それだけでは、 き残った。同時に、地上性をいったん捨てて、く、イプクロだけ派に比べ、地上性、雑食性で 個人の限界でしかないものを人類の限界と思い真猿が原猿から分化し、次の中新世に真猿時代あるから、敵の多い地上で食べられる時に、食 込み、簡単に引下がってしまいやすい。あるいを築きあげるにいたった。それは、サルの黄金べられるだけ食べておこうということなのだろ は、人類の限界なのに個人の限界と見誤って、時代でもあったが、あくまで南方に展開するのう。しかも、地上性のサルは、群れが大きく順 安易に挑戦し挫折しかねない。「動物を通してみであった。ヨーロッパのサルが絶減し、ヒト位制が明確で、攻撃的なのである。イプクロだ 神を知る」インド人は、西欧の人類絶対主義と他の動物たちとの中間であるサルがこの地域け派が樹上生活に安住したのに対し、ホホプク ロ派は、いったんは撤退した地上に対し、樹上 が陥りがちな「種族の偶像」を原理的に免れての人々の目に日常的に触れなくなったことが、 いる。はインド文明から吸収すべきものがやがて、人類絶対主義を生む根因のひとつになで獲得した立体視などの三次元能力で、再攻撃 しているといえよう。 沢山あるのではないか。 るのである。 アジアでは、オナガザル亜科にマカク属、コ 翌朝、マナス川を渡し舟で渡り、・フータンの原猿時代には北米と欧州が陸続きで、原猿も 森にひっくりかえって、頭上のゴールデン・ラ一体であったが、真猿時代になると、南米の広ロ・フス亜科にはリーフ・モンキー属がそれぞれ ングールたちが三次元の世界で自由に遊んでい鼻猿類 ( 下目 ) と、アジア・アフリカの狭鼻猿一属ずつ所属するのみで、アフリカで前者に三 るのを、心ゆくまで見た。我々もしばらく「サ類 ( 下目 ) とに分化した。広鼻猿類の特徴は器属、後者に二属、属しているのと対照的だが、 ルの世界」⑦に遊び、「動物を通して神を知る」用な尾であり、それには指紋ならぬ尾紋がある今は問わない。れいのリーフ・モンキー属に属す インド精神の一端を探ってみよう。 のだ。尾が移動手段として使われるのは、前中るゴールデン・ラングールは、わずか二百頭余 世代的ですらあり、この仲間から地上に戻ったりが、・フータンの森深く、平和に暮している。 四手動物である霊長目は、原猿亜目と真猿亜ものはいない。一方、狭鼻猿類の特質はしりだ大地に横たわって、彼らが遊ぶのを見上げてい 目にわかれる。まず原猿が新世代暁新世に現わこである。そもそも動物たちにとって眠っていると、インドの人達が、なぜ、マカクではなく れ、つづく始新世に原猿時代とさえいわれる程る時が敵に一番襲われやすい。細い枝で眠って特にリーフ・モンキ】の方を、叙事詩ラーマー の大繁栄をとげた。ただし、現在はサルが全くいれば、敵が接近して枝が動くので、・パッと目ャナで活躍させ、聖なるサルとして崇め続けて 野生していない北米と欧州に広がったのみで、を覚まして、逃げればよろしい。しかし、お尻きているのが、わかってくるのだった。もっと 南米、インド、アフリカには全く存在していなが痛くなる。そこで、座ぶどんをいつでも持参も、ゴールデン・ラングールは一九四五年に発 かった。原猿たちは鼻ロ部が突き出ているなどしているという次第。それほど、アジア・アフ見されたものであり、インドの人々が尊んでい ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ 26