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検索対象: SFマガジン 1976年2月号
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1. SFマガジン 1976年2月号

全部うごけるようにする。つかえるだけのリフト、移動機械も全部あなたがそれをナッシュ大佐に説明しようとするところを空想する と、楽しい気分になります」 「何をしようというのですか、フリツツ」 「事態に直面するのだ。ジャッコ。こんどの発掘現場までの四十キ「わかった」と、ナッシがついに言った。「必要なだけのケー・フ ロの往復に充分な輸送機関を提供することは、そう長いあいだつづ ルと人員とがそろいしだい、基地の移動を開始したまえ。念をおす けられはしない。もし本当に発見された遺跡が主要なものなら、「基までもないが、日没以前にすべての建物が安全に設置されなければ 地をこんな遠くにおいておくことの利点なんか、あまりないのだ。 ならない。そして、これは警告だが、もし万一何か手違いがおこっ 論理的に考えれば、おれたちがやらなければならないことは、現在たら : ・ : ・」 手持ちの資源を総動員してしまって基地全体を、こんどの発掘現場椅子の背に身をもたせかけ、ナッシュはしばらくのあいだ瞑想し こ 0 に移動することなのだ」 「気でもくるったんですか」ジャッコが言った。「基地全部をとり「フリツツ、きみにわたしは失望したことをうちあけなければなら こわして、あんなに遠くに輸送しようとしたら、何カ月もかかってよい。 異端技術にわたしは大きく期待をかけていたのだが、じっさ しまいます」 いにはきみは、最底の輸送手段を確保すらしようとしないのだ」 「とりこわそうなどと言っているんじゃない。 ニ、ードスン兵舎は「地獄においては」とフリツツは抗議した。「雪片がとどまろうと ュニット構造だ。まるごと移動できるようにつくられているのだ。 したら、とてつもなく巨大な冷蔵装置が必要です。地獄にいること それならなぜ、地上車やトラクターをそれそれの建物にくくりつけ がまちがいなのではなく、雪片であるということがこのばあい過ち てまるごと新しい現場に砂の上をひつばっていってはいけないんなのです。タズーにおいて、大ざっぱにいえば地上車は地獄の雪片 のようなものです。こういう状況に耐えうる地上車を設計するのは 「いけない理由はありますよ。二人だけあげれば、ナッシ = 大佐と簡単なことですが、それには地球の資源が必要で、ここまでもって 基地の精神病医が障害です。ニュードスン兵舎は、そんなふうにべくるとすればたいへんな手間がかかります。コストは天文学的な数 字に上るでしよう。輸送を地上車でおこなおうという考え方自体に ルトで一まとめにしてひつばったりはできないんです」 「ふつうのばあいならそうだ。だがここのばあいは、とてつもない限界があるのです」 「だからこ 「そのことは完全にわかっている」ナッシュが言った。 厚さに樹脂と砂とで交互にぬりかためられているのだ。ばかだよ、 ジャッコ、金属の上に砂のまじった樹脂がかぶせてあるのだから、そきみを呼びよせたのだ。ごく短い時間で不可能を可能にするとい うきみの世評を信じたのだ。よし、わかった。きみに不可能を可能 ふつうの兵舎にくらべれば、百五十倍も頑丈になっているんだ」 にすることを、わたしは要求する」 「たしかにそのとおりです」ジャッコが言った。「だがわたしは、 5

2. SFマガジン 1976年2月号

。こった。ウイレ・、 ーンは体を楽にして考えた。 手短かにジョ 1 ジ・アンドリュースの経歴を辿り、人類が彼に負っ だが、坐り直したときに、もう答は出ていたのだ。ここで決断している負債、支払われないままになっている負債について述べた。 ーンは、本会議場の中でデスクからデス なければならないことは、実は何もないのだ。ただ前進あるのみ話を進めながら、ウイル・ハ だ。ただ一つの問題は、どういうふうにやるかだった。そして、動クへと飛びかっているにちがいない交信を思って、ひそかに微笑ん だ。「ジョナサンは、どうかしたんじゃないか ? 」「ウイル・、 議提出のタイミングに考えをめぐらせた彼は、いま、この場こそが チャンスだと気がついた。評議会が不愉快な重荷をおろした、まさは気でも狂ったのか ? 」「この件は気をつけろ。やつは何か企んで いるそ」 にその瞬間をおいて、ほかにこれにまさる時期があるだろうか ? ウ . イレく 議員たちの後味の悪さを救うためだけでも、動議をすり抜けさせら ーンは、このリクエストが技術的に可能な範疇に入るか れるかもしれないのだ。決まった ! ウイルく ーンは、椅子によりどうかさえ、保証のかぎりではないことを述べた。気象顧問会議に かかって表決を待った。十分のうちにそれは始まった。 しか判断はできないのである。そして、仮に可能だとしても、気象 そして、二十分でそれは終った。旱魃決議案の賛否票数は一九一一局が実行できないかもしれないのだ。だが、そのような懸念がある 対八だった。議長が休会を宣しようとして木槌をふりあげたとき、 からといって、評議会が努力を怠るべきではない。そして彼は、こ . ワ . イレく の人道的処置によって、評議会が一人一人の人間を忘れない人々で ーンは立上った。 「議長」彼はいった。「我々は、たった今、必要なことではあるが構成されていることを世界に示してほしいという、熱烈な訴えをも って弁論を締めくくった。 不愉快な務めを果しました。ここで私は、評議会が不必要ではある が気分のよい務めを果すように求める動議をしたいと思います。尊彼は、水を打ったような静けさの中で着席した。それからトンガ 敬する議員諸公に本日の気象リクエスト第一八号に御注意いただきレヴァが立って、静かな口調と穏やかな態度でこの決議案を支持 たい」 し、多くの者が評議会は苛酷すぎると思っているであろう今の時点 彼は言葉を切って、怪訝な顔をした議員たちがデスクのボタンをにおいて、この動議が持っ暖かさと人間性を強調した。彼が坐ると メイトランドが発言を求めて立った。思いがけないことに、メイト 押して、アンドリュースのリクエストを再現させるのを待った。ウ ーンは、ほとんどの顔がまさかという顔つきで自分の方を向ランドも決議案を支持したのである。だが、聞いているうちに、メ ーンにとって くまで待ち、また先を続けた。「すでに申しあげたように、この件イトランドが決議案を支持するのは、それがウイル・、 に関して我々が介入することは、必ずしも必要ではありません。し大きな失点になるだろうと思っているからにすぎないことがわかっ かし、より広い意味では、公正が行なわれるように計らう正義の務た。それは彼にとっては勇気を要することだった。彼にはウイル・、 めほど緊要なものは断じてないのであります。・ : : ・」そして、ウィ ーンの胸中を知るすべはなかったのである。だが、メイトランド 4 レく よ、これはウイレ・、 ーンは、アンドリュースを弁護する申立てを行なった。彼は、 ーンの勇み足だとする自分の判断に賭け、それ

3. SFマガジン 1976年2月号

くる。まるでタズー人は、とっぜん都市を閉鎖して、赤道に向かつみよう。事実をいくつかつなぎあわせてみるんだ。確実に判明して て隊列を組んで死の行進でもはじめたみたいなのだ」 いるところではまず、タズーの歴史上に何かがおこって、それはこ の惑星の上で文明をもっていた住民を二世紀の期間で減亡させた。 「飢饉におそわれたという考えはどうですか」ジャッコが言った。 「それもありうる。それはじっさいには、ネヴィルの説とおなじこおかしなことには、それ以後もある期間は、野生生物は生きのこっ とでーー・土壤の汚染が拡散したというわけだ。なんらかの理由によており、森林地帯ではそのなかのあるものはまだ生きつづけてい り、この地域一帯の大森林がとっぜん死に絶えてしまった。そのばる。そのばあい、文明生物と野生生物の基本的な差異は何かという あいはむしろ、日照りが長期にわたってつづいたようなことのほうと、前者は動力を必要とするのに、後者にはそれが不要だというこ が考えやすい。しかし、高度の技術文明が生存を賭けてたたかおうとだ。いいそ、ジャッコ、きみは何かをぶち当てたらしいそ」 「天からの贈り物ですよ」ジャッコはつつしみ深く言った。 と思えば、そのていどの災厄には対抗できたんじゃないだろうか。 とうせただなのだから、もうすこし先まで考えてくれない 海は無機物のひどい混合液だが、必要となればすばらしい農業地帯「では、・ か。タズー人が、われわれ人類と同様に、動力依存生物になったと をうるおすほどの水を蒸留することがきみにだってできるというほ うに賭けるよ」 いう仮定ですこしおしすすめてみよう。その動力がとっぜん壊減的 「しかし、原子力エネルギーがなかったとすれば、動力はどこからになくなってしまったのだとすれば、その基本的なエネルギー源は 調達できるのですか」ジャッコが言った。「それほど大規模に蒸留何だったのだろうか」 するためには、たいへんな動力が必要になります」 「石油か天然ガスでしよう」ジャッコが言った。 。オしタズー人はどう見ても、ひじように大量 「動力だって ! 」フリツツはすわりなおした。「いい線まできた「それほど確実性よよ、。 そ。そもそもタズー人は動力をどこから得ていたのかを、検討しての動力を使用していた。ネヴィルのつい最近の発見では、この地域 いま ) 去る アン一アルセン伝決定版ー・コペンハーゲン中の鐘が高く鳴りひびいた ハンス・クリスチャン・ こと百年、一八七五年八月四日、 アンデルセンの逝去を告げる鐘の音であった。澄明で、美 房 しく、ユーモアにあふれる童話作品群があとに遺された。 野生の白鳥 「ばくの強い空想癖はばくを精神病院へ導き、激しい感情 アンデルセンの生厓はばくを自殺へと駆りたてる。だが、この二つを結びつけ早 れば、ばくは偉大な詩人になれるかもしれないのだ」・ モニカ・スターリング / 福島正実訳 = = 昻揚と落胆の間を振子のように揺れながら、アンデルセン 一七〇〇円は一九世紀ヨーロッパのロマンと動乱を生き抜いた。 絶賛発売中 ! 9 5

4. SFマガジン 1976年2月号

マセは聞いた。 司政官であり得た時代の記憶を継承し、良き司政官になろうと志向 している者も、幾分かの比率で存在してはいた。巡察官を経て連邦ラクザーンの公転周期は、地球年に直して一・六年。自転周期一一 経営機構に食い込もうという連中ほど、オポチ、 = ストではなかっ十八時間。これをラクザーンの原住民であるラクザー ( は、一 年を一レーンと称し、一日を一ルーヌ、一ルーヌを十四ルーヌルに たのだ。 マセもまた、連邦高官になるよりは、まだ僅かではあるが生きて分けているというのだった。 こよれば、このルーヌルというのは、ルーヌから派生 いる司政制度の理念に賭け、司政官としての仕事をやりとげたい人「何人かの説冫 間であった。それゆえに、司政官たるための訓練に耐えて来たのでした言葉と推測される。そうなれば、ラクザー ( たちにとって、一 時間一一時間という単位よりも、一日のほうが基本的な感覚というこ ある。 とになるのかも知れないが : : : まあこれは余談だ」 彼は、待命司政官で終ゑあるいは待命司政官からの転身などは 情報官はいった。 考えていなかった。 と、マセはそのとき漠然と 担当惑星に赴任し、そこで、おのれに恥じない司政官になりたか それが余談などであるはずはない 考えていた。余談のかたちをとっているものの、情報官にとっては 連邦情報官 ( それは、上級情報官ではなかった。上級情報官と呼これも話しておくべき必要性を持ったデータなのであろう。司政官 ばれた階層の人々は、連邦経営機構の枢要な部分の柱となっておの必須知識としてではなく、今後、起り得るかも知れない事態に対 り、司政官に赴任惑星の情報を与えるのは、一般情報官の作業になする予備知識として、優先度は低いが、一応伝えておかなければな らないものなのであろう。 っていたのである ) は、執務標準に従って、説明を開始していた。 マセは黙って傾聴した。 「お手もとのデータでお分りのように、ラクザーンは植民世界とし 「このラクザーンは、一二三五星系の唯一の惑星でね」 ては、もっとも古いものというわけではない。比較的新しい 情報官は、・ かだか五十年かそこらしか経由していないところだ」 テータを渡し、ときには立体映像を投写しながらいう のだった。「この一二三五番にあたる恒星は型。これでラクザー 情報官は続けた。「それにもかかわらずこのラクザーンは、最古 ンとの平均距離が一億五千万キロとかそんな程度だったら、人間のの植民世界に匹敵するか、見方によってはそれ以上の発展を遂げて 住み得るーー植民用世界としては、暑すぎるところだったろう。け いる。こんな連邦辺縁部に位置する星系にしては、不思議なくらい れども天の配剤というか偶然というか、彡クザーンはもっと離れてにね。だが、これは不思議でも何でもない。れつきとした理由があ いる。そのため、ここは人間にとって居住可能だし、人間に酷似しるんだ」 た高等生命体もいる」 情報官は、そこでちょっと息をついだ。 マセは、目顔で次の言葉を促した。一応のことはあらかじめ与え こ 5 2

5. SFマガジン 1976年2月号

クザーンが繁栄しているのは、実に、この海藻のおかげなんだ」 かも、それは観賞用にもなるし、食糧の得られに。くい地では、食品 「そのへんが分らない」 としても利用できる : : : となれば、需要が大きいのも当然なんた。 マセま、つこ。 。しナ「こちらに貰った資料では、それらの海藻類の活ただ、それがそう有名でないのは、このラクザーンの海藻の使用に 動力がきわめて高いので大きな需要があるというが : : : それだけのは相当な注意が必要なのと、もうひとつ、この交易権が連邦の手に ことで、つまり、優美だとか食料になるからとか : : : ギギというのあるせいなんだ。分るか ? 」 についてはな・せ需要があるのかさえ見当がっかないが : : : そんなこ そこで情報官は、マセを見やった。 ぐ「分るつもりだ」 とが、他の世界の需要をひきおこすのか ? どの世界にも、海藻 らいはあるだろうし、ラクザーンのものが多少活動力が高いという マセは答えた。「そんな風にどんどん増えて行くラクザーンの海 だけで、そんな結果を生むものだろうか ? 」 藻を、増えるままにまかせておくと、収拾がっかなくなる : : : 極端 「いかにも」 な場合には、海全体にひろがって、今度は惑星大気の酸素含有量を、 「な・せ ? 」 人間には生きて行けない程多くしてしまう、そのためじゃないの 「貴官のいうとおり、ラクザ 1 ンの藻類が求められるのは、活動力か ? そうか : : : それを抑えるのが、この三番目のギギの役割なん が高いという、それだけの理由からだ。ただ、その活動力のはげし だな ? 炭酸同化作用をおこなう品種のお役が済めば、・・ キキを使っ さが、たいていの惑星上のものからは想像もっかないくらいだとい て、駆除しようというわけか」 うことだな」 情報官は頷いた。 「その通り。ギギは寄生すべき対象がなくなってしまうと、もはや 「誤解のないようにいっておくが、この、ラクザーンの藻類の驚く自力ででは生きて行けないから、ひとりで死減してしまう。しばら ・ヘき活動力は、ラクザ 1 ン以外の世界で発揮されるのだ。ラクザー くたっと、そこは、はじめからラクザーンの海藻などなかった海な ンの海では、これらはただの藻に過ぎないんだよ」 り水槽なりに還ってしまうという仕組みだ。だが : : この取合せの コントロールが意外に難しい作業なので : : : 専門家が計算し、実施 情報官は首を振った。この、他世界へ持ち出されたときの、ラク ザーンの海藻がどう役に立っと思う ? それらは、与えられた環境するのでなければ、とんだ結果になりかねない」 「そのための、連邦の交易権の独占ということか ? 」 どこかの海、どこかの水槽、どこかの培養所で、猛烈な勢いで 増えはじめ、さかんに炭酸同化作用をやってのける。それは、酸素が「ああ。ゆえに連邦は、ラクザーンの海藻の取扱いに注意を払って 不足しがちなところや、炭酸ガスに満ち満ちた世界で、酸素を供給おり、やたらな者が無鉄砲に環境改善をはかったりしないよう、こ しつづけるんだよ。ふつうなら考えられないほどのス。ヒ】ドでた。 の海藻交易を監督し管理している。おかげで連邦が莫大な利潤を得 この特質を活用すれば、、 しろんなことが可能になるじゃないか。しているのも、またたしかだがね。従って、というか、そうなれば必 0 3

6. SFマガジン 1976年2月号

にまぎれこませるでしよう」 なだけの空気が、マイクロ・リンデでつくりだせないんじゃないで 「もういい」フリツツが言った。「珪土がペアリングをどうするかしようか」 は、もうつづけなくていい。 つまり、地上車の車体の大部分をすく「そうだ」フリツツが言った。「だから、改装する地上車は二台だ おうとすると、エンジンがだめになってしまうというわけだな。不けにしろと言ったんだ。ほかにもいくらでもためす方法がある。た 活性の気体でエンジンをつつみこむシステムを設計することならでだこれがもっともわかりやすいということで、大規模に窒素固定を きる。だがそれも、恒久的な仕事をするだけの設備がここにはない はじめるには、時間もなければてだてもないというわけだ」窓辺に だろう。それに、その内部で消費するための、が調節され湿気寄り、シャッターをあけて彼は、かたちもお・ほろな赤色の荒地を、 もふくんでいない酸素をどう供給するかも、考えなければならな不機嫌な顔つきで見やった。 。電気分解でつくるにはつくれるが、役に立つだけの量は手には 「砂だ」そう言った。「侵食した砂だけが、きれいな粒になって一 いらないんじゃないだろうか」 面に広がっている。ジャッコ、おれたちにはいま、タズーにおける 「等々と、問題は無限につづくわけです」ジャッコがあわれつぼい 交通機関について、まったく新しい考え方が必要だよ。まったく、 表情で言った。 タズー人はいったいどんな交通機関をもっていたのだろうか」 フリツツがうなずきかえした。「どちらにしても、ためしてみよ う。地上車を二台改装してくれ。可能なかぎりの表面に可塑剤をふ 三日後、地上車の改装がたけなわとなって進行しているとき、電 きつけ、エンジン部は密閉して不燃性の配合で窒素と水素をつめる話が鳴った。 んだ。窒素はあのマイクロ・リンデをつかい、水素は電解装置を利「ヴァン・ヌーンです」 用する。エンジン稼動に必要なだけの酸素は、リンデと電解装置の 「フリツツ、こちらは、ネヴィルです。おねがいしたい仕事がある 両方が必要になるだろう。それに、酸素濃度はつかえるだけの窒素のだ」 でうすめるほうがいいから、それに合うように、タービンのほうを「もってきてください」フリツツはこたえた。「多少仕事がふえて 調節しなければならない」 もおなじことです」 「で、酸素の供給はどうやって継続するのですか」ジャッコがたず「わかった。十分でそちらに着きます。いままでさがしもとめてい ねた。 たあの、タズーの機械装置のひとつなのだ」 ポリポリマ 「基地の建物に吹きつけるための重・重合体がたつぶりある。そこ 「それはおもしろそうです」フリツツは言った。「いったい何なの から気嚢に吹きこむのは、われわれに手が出ないほどむずかしい仕ですか」 事じゃあるまい」 「それを発見してほしいのだ」 「もっともらしくは聞こえます」ジャッコが言った。「ただ、必要十分後にフリツツはあらわれ、入口で儀式的な仕草でパイプの灰 5

7. SFマガジン 1976年2月号

めた。十分たっと彼女は指をくわえ、さらに二十分たっとメモ用紙ッフの能力を総動員しても、六時間を必要とした。アンナとクロバ と鉛筆をひつばりだしてメモを走り書きしはじめた。それからは速が必要な基礎方程式をなおも組立てるにつれて、それそれを別々に かった。小さな紙切れに最初の方程式を書き終ると、彼女は自分の導きだすには時間がかかりすぎることが明白になった。アンナは作 部屋を出て、レジデントの数理気象学者を一人、見つけにいった。業を中断して、各々の回帰解析に必要な因子を調べるように / アンナは、デスクのス。ヒーカーを使って彼らを呼ぶことは、断じて大型コン。ヒューターをプログラミングする方法を、二時間かかって しないのだった。 案出した。コンビューターは、必要な方程式を十分ごとに一個の速 レジデントたちは、全員、大部屋の中でデスクに坐っていたが、 さで生みたしはじめたので、アンナとクロバは、各解析が終了すれ アンナが入って行くと、いっせいに身をかがめて、さも仕事で忙しば押しよせてくることになるデータの山を相関させる方法に頭脳を いふりをした。アンナは彼らの挙動には目もくれずに、べティー 集中した。三十分後には、データが入ってきはじめる前にこの段階 ジェブソンのデスクへ行くと、その上に例の紙切れを置いた。アンを仕上げることは不可能であることが明白となった。二人は要請 ナは前おき抜きで、「これの回帰解析をしてちょうだい」とい し、正規の数理気象学者を二人割当てられた , 指で日十十・ : 十 4 という形式の方程式をたどった。 彼ら四人は、、 しっしょに作業できるように、気象室へ移動した。 「この場合、れは菊であることを念頭においてね。観測値は八三号相関の数式が展開されはじめると、残りのレジデントが全員、応援 コンビ、ーターのパンクから取りなさい。九〇パーセント以上の適に呼びこまれた。一時間のうちに使える炻 / 大型コン。ヒ = ーター 合度がほしいわ」そして、彼女はくるりと向きを変えると、自分のはすっかり塞がってしまい、グリーンベルグはストックホルム大学 部屋へ戻った。 に電話して、そこのコンピーターを使うことにした。これで二十 三十分すると、彼女は別の方程式を持ってチャールス・ ハンクへ分はもったが、それからグリーンベルグは市内の半ダースの工業用 ッドのところに、さらに続いてジョセフ・ペチオのところに戻ってコンビ = 1 ターに援助を求めた。だが、これでも十分ではなかっ きた。パターンが確定すると、彼女は正規の数理気象学者の応援をた。コンビ = ーターの網の目は絶えず大陸へ拡がりはじめ、次の二 要請し、グリーン・ヘルグはアル・ハ ート・クロバを彼女に割当てた。時間のうちに、合衆国東海岸の都市に達した。気象の問題を解く場 クロバは、何が狙いかという彼女のやや支離減裂な説明に耳を傾合に、顧問会議の優先権は絶対だったのである。 け、それからレジデントたちが何をやっているかを肩ごしに覗きま アプトンがグルー。フに加わることが必要になり、そしてグリーン わった。事態がだんだんのみこめてくると、彼は急いで自分の部屋ベルグ御大が気象室の大きな輪の中の椅子に腰をおろしたときに へ行き、自分で独自に多項式を作りはじめた。 は、作業が一時中断して弥次と親しみのこもった皮肉が飛んだもの 一つ一つの方程式は、予備的な適合度を得るだけでさえ、一人のだった。顧問会議は全力投球に入ったのである。 レジデントの指揮下で一台の / 大型コンピューターとそのスタ アンナ・プラックニーは何も気がっかない様子だった。′ 彼女は夢 2

8. SFマガジン 1976年2月号

が。気象局の男の風上にもおけん体たらくだ。気の迷いや日和見なぐしながらいった。「あと一時間で勤務の番がまたまわってくるん そ、くそくらえだーーそのとき、彼は打開の道を思いついたのだつですが。あまり休んではいられない、というわけですな」 そのとき、ヘクマーは、エデンが気象局に残る決心をしてよかっ たと思うようなことをいったのである。「うーん、そのとおりだ」 一周を終ると、彼は航路図を調べて、手近かの黒点を見つけた。 それは一時間の行程だった。再び船を受信可能範囲に入れると、彼と〈クマーは、クロノメーターに眼をやりながらいった。「こうい はドプジャンスキーに、これから黒点に向い、その地点で太陽面にうことになるな。君は一時間遅れて勤務に戻れなかったんだ」 出ると告げた。そういいおくと、彼は黒点に向った。細心の注意を ジョージ・アンドリュースはすっかり弱っていて、空気を肺に吸 払った操縦により、その場所までの時間は五十分に短縮された。そ いこむのにも精いつばいの努力をしなければならなかった。彼は、 + ートの速度を可能なかぎり最大にするこ の間の最後の十分間は、 : とに費やされた。太陽表面下千ャードの深さで、彼らは太陽黒点の暑いカリフォルニアの太陽のもとで、柔いべッドの上に上体をおき あがらせ、その指は体を覆った薄い上掛けをむしっていた。そこは 境を画する磁場の不連続に突入したのである。 彼らはそこへ、黒点の回転と反対方向から乗り入れ、ポートの巨丘の上だった。そのとき、彼は、奇妙な円柱形の雲が、まるで地面 大なコイルは強大な磁カ線を横切った。この運動はエネルギーを生から湧きでたかのように立ち昇り、青空に点々と散らばる高積雲の トーラスへ流れて、ポートは上昇しはじめ 間を抜けて上ってゆくのに気がついた。ジョージ・アンドリュース み、その余分の電力が 。しまやそれが、こちらに向ってくるのが、は た」それは差渡し五千マイルという強力な黒点で、しかもまだ最盛は微笑んだ。彼によ、、 つきりわかったのである。その泡立った雲の垂直な円柱は彼の方へ + ートはその回転方向と逆に進み、それにつれてラセ 期にあった。 : ンを描きながら徐々に昇っていった。ポートが確かに上昇している動いてゆき、その先の方が体に触れるにつれて冷たさが感じられ た。白いものがちらちらと降りはしめたとき、彼は上掛けを押しゃ ことを確かめるには長い時間が必要たったが、彼らは何時間もかか って昇りつめてゆき、遂に境界のぼやけた表面に躍り出た。彼らはって、雪が体の上に落ちるようにした。顔を上げて雪を受けると、 それは冷たく心地よかった。だが、それ以上に、彼は満足だった。 黒点の縁を航行しながら基地がやってくるのを待ち、それからポー それは、子供の頃あれほど夢中になった雪だった。そして、それ トをドックに入れて下船した。 がいま眼の前にあるという事実そのものが、人間はやはり大して変 エデンはヘクマーに報告し、彼らは全部のコイルの比較的とがっ た隅を丸めるように手配した。何よりも重要なことは、この深部潜「ていないのたということを教えていた。なぜなら、これは子供じ 航法が成功と判断されたことだ 0 た。それは使用可能な技術の列にみたことだ「たからだ。もう呼吸が困難ではなか 0 た。呼吸は必要 なかったのだ。彼は雪の毛布に覆われて身を横たえていた。それ 加えられたのである。 は、すばらしい毛布だった。 「ところで」と、エデンは報告を終りかけて、凝った筋肉を揉みほ 258

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タキはカリフォルニアに帰った。そこで初めて地球上の時間経過ヤマモトという男は、およそ学者とは縁のない格好をしていた。 から二十年あまり遅れたことを実感した。タキは地球歴の年齢は五古いジーンズの上下に濃いナス型のサングラスをかけて現われ、タ キの名前を確認するや、強引とも思える仕種でタキを車に押し込ん 十一一歳になるはずだ。が、主観時間で三十歳になったばかりだった。 しかし、要するに加速を伴う推進機関の時代は終ったのだ。そのだのだ。昔の映画のやくざ刑事が麻薬患者を連行するシーンをタキ は連想した。 気で見れば、地球は潤いはじめていた。福祉社会のありがたさで、 ヤマモトはタキを遺伝情報研究室と標示された建物に案内した。 自家用宇宙船は無理としても、酩町できる程度の酒には不自由しな かった。地上のどの交通機関の加減速よりも、酔いから生じる空間「無理やりお連れして申し訳ありません」サングラスを外すと意外 彼よスプリングの弛んだ古いソフアをすす に優しい顔付きだった。 / 。 のゆらぎの方が、はるかに宇宙での充実に近かった。 もう宇宙の前線からは身を引こう。平穏な一の重力加速度の中めて、「ここで自慢できるのは情報端末機器だけです。遺伝子の分 タヤは、さわやかな五月の風の中析機器は、異星生物の分析が主力になった関係で、月にある″晴れ で酩酊飛行をつづけよう の海″の分析センターへ大部分が移設されており、情報の処理は大 で、そんな決意を固めていた。 カリフォルニア工科大の生物学部の助手と名乗る若い日本人が訪学共通の演算装置がありますから : : : 」 ねてきたのは、その頃だった。 「おれには生物学なんて関係ないよ」タキはソフアに寝そべるよう にもたれて、気のない返事をした。 「そのことなんですが : : : 」ヤマモトは話の順序をしばらく頭の中 カリフォルニア工大のたたずまいは、この二百年、ほとんど変っ ていないといってよかった。大学の研究機関としての機能は解体しで整理しているようだったが、やがてタキの顔を覗き込むように身 ていて、特定の施設を一ヶ所に集める必要性がなくなっている。タを乗り出した。「前もってお断りしておきますけれど、私はこの研 キは核推進機関の研究で一一年ここに在籍したことがあるが、その頃究室の助手にすぎません、が、今日の話は生物学部長・ハワード教 から主要な実験設備は衛星軌道上のラボに移されていた。ほとんど授の代理ということで説明させていただきます。と申しますのが、 の研究部門でも同様だった。だから、構内は、芝生の緑と楡や樫や大規模な臨時の探査計画が実行に移されまして、ハワード教授は準 ポプラの繁りの中に古風な建物が点在する、昔ながらの雰囲気をと備のため月に飛んでおります。必要な場合は映像回線で呼び出しま どめていた。 す。ご承知とは思いますが、ハワード教授の専門は宇宙生物学です。 車のシートに頭を埋めて構内の風景をながめながら、しかしタキ現在われわれの研究が直面している問題から説明するのが順序なの には何の感慨もわいてこなかった。パ ーポンがまだ頭の芯に分解しですが、先に、今回の調査計画について説明します」 どうでもいいことだ、とタキは思った。宇宙生物の調査がおれに ないまま残っている。鈍い感受性で、どこか見たようなことのある 何の関係があるのか : 場所へ運・はれているな、と思った程度だ。 幻 5

10. SFマガジン 1976年2月号

トと違って、小松は、いま自ら屑鉄にお どこして、何事もなかった顔をすることは ・佐野洋の『透明受胎』 ( 最初のラインナッ としめてしまった日本をこよなく愛してい 8 冖ゾの『海底樹林』が途中で『交換染色体』できないからである。 2 に変り最終的にはこの表題になった ) 筒井その後数年たって、出版社を辞めてからた。踏みにじり泥にまみれさせながら、も ・ほくは、この当時を振りかえってはじめう一人の彼は「わいかて好きやった : : : ち ・康隆の『四十八億の妄想』とつづいていく っこうて、かわいいて、やさしいて : : : 」 ことになる。 て、小松左京の処女長篇が、『復活の日』 ) 光文社の『日本ア。 ( ッチ族』は、ぼくのでなく『日本アパッチ族』であったことと呟かずにはいられなかったのだ。 が、小松個人のみならず、日本界全体そうした寓話であるこの作品は、い ~ 記憶に間違いなければ、六万数千部とい ・う、出版では空前の部数を出し、はじにとっても、なかなかに意味のあることだわゆるプロ 1 パの枠を、最初から大 きくはみだしていた。というより、小松の めての大型として、大いに注目を集めったのではないか、と思いはじめた。 、う通りだったとすれば、ずっと以前、意 た。このときの企画担当者は、当時の同社『復活の日』は、そのなかに、小松一流のし、 〔編集長の伊賀弘三良氏 ( 現在祥伝社重役・精緻で周到でアップ・トウ・デートな科識的にとしてでなく書きはじめられた ノンゾックス担当 ) だったはずだ。・ほく 学理論の展開をもつ、きわめてモダンな破この作品には、もともと、コンヴェンショ ~ は、この時点で、小松左京の才能に賭け、減で、その意味でも、日本ではじめてナルな的結構の中におさまりきれない 0 、 であった。これに種々雑多な、だが一つ一つが彼にとってい ) 彼を神吉社長 ( 当時 ) に売り込んだ伊賀氏の本格的プロ 1 の慧眠と勇気とに敬意を表したい。念のた対して、『日本アパッチ族』は、そうしたとおしく、それ故にきわめて重要な彼自身 リアリスティックのアクチ、アリティの断片が、ぎゅう詰めになっていたはずだ めいっておくが、これは皮肉でも何でもな った。その断片は、戦争によってゆがめら 。編集者の編集者に対する純粋の賛辞でを捨ててかかった、いわば徹底した寓話 ある。それに、いまのぼくには、編集者時であった。しかもその寓意には、ありきれ、戦後によって傷つけられ、安保によっ たりなフェー・フルの持っ弱味である曖昧さて破粋された、小松左京という作家の魂の 代のたいていの思い出は、好い思い出とな っている。 や、弛緩したムード的自己満足は、かけら断片であり、作品はそれを嵜せ集めること によって生まれたアラベスクなモザイクだ 例外は、もちろんある。いまでも、決しほどもなかった。そこには、苦いーー文字 て処理しきれない黒く苦い思い出はある。通り、鉄を食うような、強烈な現状否定が 小松左京論は、また別の機会を得て語ろ だが、この件に関しては、文字通り、さっ横溢していた。少し誇張したいいかたを敢 う。ここでは、彼が、いわゆるプロ 1 。ハ えてするなら、・ほくがこの小説を読みなが ばりとしている。さつばりしているから、 こんな風に書けるのだ。もしそうでなけれら感じていたどうにもならない嫌味のようではなく、彼の文学的必要性が、必然 なものは、じつはジョナサン・スウイフト的に求めたかたちの広義のから長篇を いば、感情を処理するのが不器用な・ほくは、 、決してこうは書けない。書いては危険な結が『ガリヴァー旅行記』に書きこんだのと書きだしたかった。そしてそれを、決してそ しっそ書かな同じ種類の、怒りと憎しみと蔑みとをこめのために好都合ではなかった状況の中で、 果を招きそうなことならば、、 。書きだしたら、ロを拭って、粉飾をほ た諷刺の嫌味だったのだ。しかもスウイフやってのけたという点に注目したい。