「タキさん、暗黒星団と呼ばれている、六個の・フラックホールが結に笑った。「二十七歳です。地球からは出たことがありませんか 晶状に集まった星団のことをご存知ですか」 ら、地球歴年齢と主観年齢は一致しています」あなたとは違いま 「聞いたことはあるな : す、とでもいいたげだった。「で、そんな調査ペースですから、ア : 。たしか内側に恒星があるとかいう」 「それです」ヤマモトは勢い込んだ口調になった。「アダマスと呼ダマスに関する情報もきわめて少ないのです。アルフア・ケンタウ ばれている、半径百万キロちょっと、スペクトル型 7 という、ご ルスへ亜光速の探査艇を往復させているような調子ですからね」 くありふれた星です。この恒星に惑星が二つあることも以前から確タキはヤマモトの話の意図が、お・ほろげながら察しがついた。 認されていました。その時点で無人探査艇が送り込まれたのですタキは窓外に目をやった。七階の窓からは構内がよく見渡せた。 天文学部の学舎の向う、林がとぎれたあたりから、高さ五メートル が、戻ってきたのは七機のうち一機だけです」 ほどの堤がゆるやかに彎曲してつづいていた。直径六キロのシンク 「 : : : あとの六機は ? 」タキは儀礼的に訊ねた。 「四機はプラックホールに吸い込まれたのが確認されています。あロトロンだ。もう使われていないかもしれないな。あの円形の堤の との二機も同様でしよう。・ ・ : ただ、原因が奇妙なのです。四機と中は原生林のままだ。野生の鹿が住んでいたな。夜、車で通りかか も帰還するまでに推進装置のエネルギーを使い切って失速しているると、堤の上にいるのが月光でシルエットになって見えたことがあ のです。帰着した一機は、もともとプラックホール近傍の空間調査る。 「もう一度無人探査艇を送るにしても、外部からの誘導が不可能と 用に使っていたもので、出力に三百倍も余裕があったからです。こ なると、たいした成果は期待できないのです」ヤマモトはタキの思 れも、調査隊の話では、外部からの誘導が全然きかなくなってい 惑に関係なくいった。 て、回収できたのは奇跡的だそうです」 「プラックホールの影響なのかな」 「跳躍装置は使えないのか」 「当然考えられるのですが、六個の・フラックホールはどれも約二百「とても無理です。超空間回路が星団の内部へはつながらないので す。六個のプラックホールの内部空間が互にからみ合った構造で、 太陽質量、重力潮汐の平衡点でも百五十億キロ離れています。 天体観測グループは今も調査を継続していますが、アダマス周辺の超空間の同じ位相で回路を内部へ連結させるのは無理だと聞いてい 空間の性質そのものが特異だというのです。重力の勾配が・フラックます」 ホールの重力から計算される値よりも遙かに急なのです。今回の無おれは野生の鹿だ・ 。タキは・ほんやりした頭で考えた。あの鹿 人探査機を発射してから回収するまで、どれくらいかかったと思い が決して直径六キロの円から出ようとしなかったように、おれは速 ます ? 観測時間で七千日ですよ」 度が加速度という実感を伴う領域でしか動かなかった。直径一光年 「きみはいくつだ」タキはからかうように説ねた。 にも満たない空間の中で充実した″加速度体験″を味わってきた。 「先月、一万日目の誕生日を迎えました」ヤマモトは照れくさそう いまさら何を望むことがある。三千万光年彼方に奇妙な重力傾斜の 幻 6
く最辛骭リ〉 白本目あ到達点を集夫成 石原藤夫 ストラルドプラグ惑星 文一今日泊亜蘭 ワ光の塔 近刊予定 十八時の音楽浴 地上のすべての電気が忽然と消えうせ、 なにものかの手によって大量の核物質が 盗まれたとき、人類は夢想だにしなかっ た大災厄に直面したのだ ! 記念碑的名作 行くえを断った学術用宇宙船の調査を命 しられたヒノとシオダは、愛用の調査艇 で現場に駆けつけたが : : : 彼らが垣間見 たものは ? 好評惑星探査膝栗毛第一一弾 価四〇〇円 価一一九〇円 海野十三 既刊七十ニ点 」松左京価ニ六〇円 結品星団 石原藤夫価ニ八〇円 ハイウェイ惑星 , 頁皀価ニニ〇円 復讐の道標 星新一各価ニ六〇円 進化した猿たち全三巻 田中光ニ価ニ九〇円 幻覚の地平線 眉村卓価三ニ〇円 奇妙な妻 半村良価三〇〇円 亜空間要寒 安部公房価ニニ〇円 人間そっくり 好評発売中
・ : 調査局の指示にしたがって行動すること。停電、火災、をこの平原に輸送するために移動中のいかなる航空機の編隊や輸送 銃撃等に動揺することなく、調査局の指示にしたがって : : : 》 船団も存在してはいなかった。救援を求める電波は大陸から大陸 ・ : 地上に出たら調査局員の指示にしたがって行動するこ へ、都市から都市へと狂気のように交錯したが、それに応じ得るよ と。食料、飲料水、医薬品、その他必要器材、物資はすべて用意さうな余力を持ったいかなる都市も機関ももはや残ってはいなかっ れている。安心して : 急設された有線のラウド・スビーカーの声が、回廊や居住区にう つろなこだまをひいて流れていった。その声にせき立てられるよう 遠く近く、時おり思い出したように銃声が聞えていた。回廊には に人々は黒い流れとなって階段を上へ上へと移動していった。ほと濃い火災の煙が立ちこめ、薄暗い照明はほとんどそのはたらきを失 んど話しをする者もいなかった。放心したようなまなざしを前の者っていた。その煙の層を縫ってシンヤの手の携帯用投光器の光の矢 の背に当て、ただ機械のように足を動かす。階段が各階層と交る階 がサーチライトのように動いた。回廊は破壊をまぬがれた所でも運 段室では、昇りつづける人々の動きと新たに加わってくる集団とのび出されたままそこにうち棄てられ、放置されたさまざまな物資や 間でつねに混乱が生じていたが、それでも人々は奇妙に無言のまま器材で足の踏み場もなかった。安全な場所へ運ぼうとしたものか、 押し合った。それはあたかも声を出すと、それを耳にした派遣軍のそれともバリケードをきずこうとしたものか、それは回廊の空間を 兵士たちがたちまちここへあらわれて市民たちをふたたび地の底へ三分の一にもせばめながらそれを運び出した者たちの姿もないま 追いやるのではないかとおそれているようだった。すでに電力の枯ま、岩礁のように黒々と静まりかえっていた。投光器の光芒が動く 渇した市内はわずかな非常灯で限られた明るさを保っていたが、そたびにかならずそこにほこりにまみれた人の形があらわれた。戦闘 れも目に見えて薄暗くなってくる。回廊のあちこちでは緊急用のポ がおこなわれた形跡のないところからみると、それはおそらく脱出 ータ・フル・ジーゼル発電機さえうなっていた。 に際してひき起されたすさまじい混乱のぎせい者であろう。シンヤ ・ : 食料、飲料水、医薬品、その他必要器材、物資はすべてはひとけの絶えた回廊を奥へ奥へと進んだ。すでにすべての住民が 用意されている。安心して : 逃れ去った広大な無人のプロックにつづいて、避難命令が全く伝わ その声はどこまでもシンヤを追ってきた。それは聞くものの確信っていない一角があった。そのとなりには武力衝突にまきこまれた を求めておそろしい執拗さでくりかえされた。十分に注意してそのらしく、住民の三分の二におよぶと思われるおびただしい死体で埋 言葉を聞けば、あるいはその執拗さの背後に願望の変貌した虚妄のまっているプロックがあった。その前方はいぜんとして市民委員会 シティ 設定を察知し得たかもしれない。事実、市をおおってひろがる荒 2 ハリケードで封鎖されていた。そのバリケードを避けるためには 7 れ果てた平原のどこにも、地上での市民の生活を支えるに必要ない 回廊から回廊をへてかなり遠回りしなければならなかった。・ハ丿ケ 5 リケード かなる種類の物資も堆積されてはいなかったし、またそれらの物資 1 ドに向って体をさらすことはおそろしく危険だった。バ こ 0
「工作員。私も見ました。それに多連装のロケット砲や熱線砲らし「総局長。おれも手をかそう」 「工作員。この仕事は市内のすみずみまで知っていないと難しい。 いキャタビラーのついた車輛も」 コン′ートメント 個室から個室への非常用通路、通風ロのダクトや電路用ト 「すると一戦闘単位ぐらいの兵力が入ってきたのか ! 」 ンネル、ダストシュートなどあらゆる開口部や連絡路が迷路のよう ジュウゼンの削いだようなほほにさらに苦じゅうの色が深まっ に通じている。それをくわしく知っていないとかえってたいへん危 「総局長。かれらは何か巨大な器材を運んでいました。それを原子険なことになる」 「教えてくれ。いや、誰かの下に加えてくれればいい」 カ区へ持ちこんだようです」 「どんなものだ ? それは ? 」 「人手がほしいところたが、おまえは自分の仕事にもどれ。市の 「パワーシャベルか原子力ジャンポーのようにも見えましたが、あことはおれたちにまかせろ」 「しかし、総局長」 るいはレーダーか太陽電池かもしれません」 。パワーシャベルと原子力ジャン 「おいおい。しつかりしてくれよ 「いいからロを出すな ! 」 シンヤは肩をすくめてジュウゼンをとり囲んでいる男たちの間か ポーとレーダーと太陽電池ではちがいすぎやせんか ? その四つに 共通しているところがあるとすれば、まあ、食い物ではないというら身をひいた。 点ぐらいかな」 6 ジュウゼンのくちびるの端がひきつった。 「総局長。やつらはなにかえたいのしれぬおそろしく大きなものを シティ 中央原子力区へ運びこんだようだ。それがあるいはやつらの目的と《 : : 市は破壊活動武装勢力によって極めて深刻な事態に直 関係があるのかもしれない。それをたしかめてみよう。総局長」 面している。市民にこれ以上の損害が生するのを避けるため、連邦 シティ ジュウゼンはシンヤの言葉を押しとどめた。 調査局は独自の判断をもって全市民に一時、市を離れ、地上に避 「工作員。われわれにはもはや時間の余裕はない。これから市民を難するよう勧告する。これは強制的意味を持つ。市民委員会はすで 地上へ出す。ひどい混乱が起きるたろうが、すべての機能が停止しにその機能を停止した : ・ をしいたろう たこの都市にとどまっているよりよ、 ・現在、リフト・ ベルト、その他市内のあらゆる交通機関 「総局長。市民を地上へ出すにしても、今の支局の人数でできるのは停止している。地上へ向う市民は各階段を利用するように。目 下、各階段で調査局員が誘導に当っている : 「しなければなるまい。工作員、おまえはこの任務から除外する。 ・ : 市民は調査局の放送を信じて秩序正しく行動すること。 デマを信じてはいけない。デマを信じてはいけない : ただちに地上へ向え」 シティ 356
をたたいた。応急設備の電気分解装置に禁煙の表示がかかってお算になる。タズー人が、われわれのことばの概念の範囲をこえてな り、それに敬意を表したのである。それから助手たちに合図し、巨お異星的だということはわかっているが、それだけの数のものをた 5 大な物体を建物内にひきずりこみ、床におろさせた。フリツツはそだやみくもに理由もなくつくったとは、まさか思えない。それでは れを見やり、いぶかしげな顔付きになった。 まるで、サハラ砂漠を鉛筆けずりをつかって舗装してしまおうとい 「持って行く場所をまちがえたのではないですか。昔、巨大なじい うような運動みたいなものだ。わたしの確信では、一」の又骨はかな さん一一ワトリのものだった異星一一ワトリの叉骨みたいに見えます。・、らすなんらかの用途があったものにちがいない。これが何であり、 生物学者先生に「なぜ寄付してやらないんですか」 何のためにつかわれたものかということを、みつけだしてほしいの 「もっていったのた」ネヴ材ルが言った。「そうしたら即座におく りかえしてきて、機械装置の調査はきみの責任範囲内だからと言っ フリツツはうなすいた。「途中の報告書は、一日かそこらでおわ てよこしたのだ」 たししましよう。・だが、それが機械だとすれば、タズー人のニワト 「機械装置ですって ? 」フリツツは、不機嫌な口調でその獲物をな リの概念については、知りたくもないです」 がめまわした。「食料班にもっていきましたか。やつらきっとそれ ネヴィルがたちさったのち、一時間のあいだだまってフリツツ をス 1 プにしてくれるでしよう」 は、その又骨をすべての角度から検査し、その用途をしめすような 「機械なのだ」断固とした口調でネヴィルが言った。・「理由を説明手がかりはないかと、全表面を拡大鏡でのそいた。そしてジャッコ しよう。これは、動物ではなくて植物だ。 が、より徹底的な検査のために、実験室にはこびこんだ。・作業が完 つまり正確に言えば タズー惑星産の鉄の木でできているのだ。そして、その植物が成長了したとき、彼は報告した。 の過程でこのかたちになったわけではない。人手によって製作され「フリツツ、何かなかにあります。枝になった内側の表面に小さな たもの、あるいは、かたちをととえるのに人工が加わっているもの隆起がいくつも見えますね。線スコープで、その小隆起それそれ であることは、道具跡がついているのを見れば明らかだ。そのうのなかに種類のことなる暗色のかたまりがあるのが見えます。よろ え、タズー人はこれにひじように執着心をとっていて、向こうの南しければひとっ切断して何がはいっているのかを見たいです」 部平野では、これが平方キロ当たり五十万個近くも存在すると見つ 「切断しろ」フリツツが言った。「もしこれが本当にタズー科学技 もられているのだ」 術の標本だとしたら、一刻も早くそれに近づきたい」 丸三十秒も、フリツツは息をつめた。「五十万個ですって ? 」 帯ノコギリよ、、 。しゃいやながらというように古代の鉄の木にくい ネヴィルがうなずいた。「そして、その平野は広大なのだ ~ われこんでいった。半分行ったところで、刃が何か固い物体に当たり、 われのおこなったナンプル調査がその全地域にあてはまると - すれうったえるような悲鳴をあげはじめた。それから隆起が分離され、 ば、そのひとつの平野だけで、それが五十億個も存在するという計ジャッコがそのなかからかがやく大きな結品を、机の上にふり出し
種の保存則にかなった本能的な求餌打動です。 : : : ところが、この 押し寄せる動物で覆われ、沖には見渡す限りの死体が浮遊してい フィルムの場合、事情はまったく異ります。分類上異なるすべての る。海岸線には、海中から現われる魚類が、長い堤防を形成しつつ 種が同時に集団死しているのです。アダマス第二惑星の動物は、生 あった。 煙を吸い込んでいるように見える火山が映った。それは、地平線態系そのものを死減させようとしていることになるのです。つま り、自殺という言葉が正確に当てはまる訳です」 の彼方からわき上がり、火口へ飛び込んでゆく無数の鳥類の姿だっ 「それじゃ、この星は今は完全に死減している訳か ? 」 た。火口付近で、鳥の大群は竜巻が逆流するような激しさで渦まい ていた。 「わかりません。まったくわかりません」ヤマモトは語気を強め 崖から滝のようになだれ落ちる群れがあった。地中に棲息する生た。「本当のところ、再度、調査艇を送り込まない限りわかりませ ん。が、私はアダマス第二惑星の集団死も、種の保存のための行動 物が、うじゃうじゃと地表にわき出している地帯があった。 アダマス第二惑星には、あらゆる種族を死減に誘う嵐が吹き荒れと考えているのです。遺伝情報と進化に関するある仮説を、われわ れは今、検討中です。これは汎宇宙生物まで適用できる可能性があ ているようだった。 探査球は夜の地帯を抜け、再び昼の地帯を飛んだ。死減の風景はるのですが、アダマス第一一惑星の動物の遺伝子は、それを実証する 依然つづいていた。死体で地表が変色してゆくのではないかと思え可能性があるのです。 : : : 今度の調査計画を宇宙生物学部門が中心 になって進めているのもそのためです」 るほどだった。 ヤマモトは言葉を切って、タキを見つめた。タ陽が顔を紅潮した プイルムは唐突に終った。赤道を一回転したらしかった。 悪夢からさめたように、タキは肩の力を抜いた。毒気を抜かれたように染めている。黒い眼が、求愛にも似た光を放っていた。 ようにソフアにもたれ込んだ。「何て星だ : : : 」タキはつぶやい わかったよ。タキは内心つぶやいた。二十年の時間収差を気にせ た。「一体、ありや何だ」 ず、地獄みたいな高に好きで耐えられる宇宙飛行士なんて、他に いる訳ないからな。 ヤマモトはプロジ土クタ 1 をもとに戻し、窓のゾラインドを開い た。タ陽が縞模様をつくって射し込み、部屋は血の色に染った。 「おれは飛行士の資格を剥奪されている身分なんだ。その点はいし 「集団自殺とおっしゃいましたね。この場合、そうとしか考えられのか ? 」 ないのです」ヤマモトはタキの向いに坐り込んだ。「たとえば地球「え ! 」ヤマキトはほとんど声にならない感嘆を発した。 では、レミングにその言葉が使われます。しかし、あれは自殺では「おれが探査艇に乗るよ」タキはわざと無愛想にいい放った。 ない。増殖能力が高いため、個体群の密度が・ヒ 1 クを越えた時、大こうしてタキは、魔女の笛に誘われるレミングのように孤立した 集団をつくって餌を求めて移動する訳です。行進の進路が海にぶつ星団の、奇妙な重力の谷間へ降りてゆくことになった。 かった場合、レミングの大量死が起るのです。レミソグの集団死は 幻 8
ほら、今回の調査行で見聞してきたように、われわれ生命ある存在 には常に生老病死がある。宇宙人だって例外ではない。四苦という 9 やつだね。さらにわれわれには、ほしいものがもらえない苦しみ、 いやなものに直面しなければならない苦しみ、気に入ったものを手 「やれやれ、これでようやく地球の本社へご帰還ってわけだな : ・ 放さなきゃならん苦しみ、そしてそのような苦しみがあるというこ せまい調査艇内のパイロット席で、ヒノは、ひとっ背のびをしと自体の苦しみ : : : というあと四つの苦しみがある。先の四つと合 わせてこれを八苦という。″四苦八苦″というのはここからきてい た。シートのクッションが、ゆらり とゆらいだ。 る」 そのとなりで、データ整理をしていたコンビのシオダが、ゆっく りとうなずいた。 「おまえのようになんでも物事を疑ってかかるのはよくないぜ。お 「ぶじに目的をはたし、しかも帰りには慰安旅行もやってきた。調れたちは、今、若くて活動的で社内でも大いに認められている。こ んなときに、四苦八苦の語源なんてもちだす必要はなかろう」 査員冥利につきるっていうものだ」 ヒノは頬をあかくして、不満そうにいった。 「たしかにおれたちはめぐまれているな。仕事と人生の目的とがま あまあ一致しているし、上役だって悪いャッばかりじゃない」ヒノ 「ほくだって、べつにすべて悪い方にとっているわけじゃないさ : はのびをしたままの姿勢で話をつづけた。「調査艇はポンコツだ ・ : 」シオダはマイベースで話した。 が、銀河系内に関するかぎり、出張中の操縦には自由が許されてい 「ただ、万物すべてウラとオモテがあるってことをいいたかっただ る。惑星についてからの仕事のしかたにしてもそうだ。なんとまけだよ」 「それなら、まあ、、、 あ、幸福なことか ! 」 ししけどな : : : 」 しかし、うかれるタチのヒノとは対照的に慎重な性格のシオダ ヒノは、伸ばしていたからだをちちめ、前こごみになると、パネ は、この同僚の幸福論に異論をさしはさんだ。 ルに並ぶ計器類のチェックをはじめた。 「きみは単純に喜んでいるようだがねーー」彼は小首をかしげて話ふたりは、″惑星開発コンサルタント社″の若手調査員であり、 した。「ーーー世の中、そう良いことづくめじゃあないと思うよ」 いま、球状星団 MN-009 にある星系 OOXY ー 81 ー 3 ー 401 ー 1967 「どうしてだ ? 」 についての困難な異星人調査を終えての、帰り路だった。 ヒノはロをとがらせた。 調査艇は、星団から地球へ向かうためのワー。フ航法に入っていた シオダはいっこ。 から、宇宙を翔んでいるといっても、星空はまったく見ることがで 「われわれに与えられた自由は、あくまでも、制限された範囲内できず、舷窓の外は灰色の虚無がひろがっているだけだった。 のものだ。決して無制限の自由ではない。さらに哲学的にいえば、 ワープ航法とは、三次元の宇宙を四次元的にこまかく折りたたむ
すぐに、スイッチ回廊から下の地下鉄と通話のできる通信装置がてみるかだ」 とりつけられた。線がつながると、ジャッコがまず呼出しをかけて「あなたのことばを、わたしが誤解しているのならいいとおもいま きた。 す、ジャッコが言った。「一瞬あなたが、どのようにうごくかもわ 「フリツツ、こちらの列車調査は暗礁にのりあげています。このば からないこのタズーの地下鉄を、うごかしてみようと言っているの かげた機械は分解できません。おのそみならわたしの気が狂ったとかと思ってドキッとしましたよ」 言ってくれてもいいですけれど、誓って言いますがこの列車ははじ「おれが言っているのはそのとおりのことだ。どのようにうごくか めから全体がまるごと鋳造されたものであって、可動部分までふくを知るには、うごかしてみるより簡単な方法が何かあるか」 めて、部品でくみたてられたものじゃあないんです」 「この計画を抜けることはゆるされているのですか」ジャッコがた 「そんな複雑なかたちのものが、鉄で鋳造されているんだって ? 」ずねた。「それとも、自殺以外に逃れる方法はないんですか」 フリツツがうたがいぶかい口調で問いかえした。 「逃避主義的に本当に死にたいというのなら、上官にたたきのめさ 「鉄じゃありません」ジャッコが言った。「わたしのまちがいでなれて死にいたるという方法もある。この回廊の動力線がっきとめら ければ、チタン製です」 れたようだし、主要な入力線がどれであるかも確実にわかったと思 う」 「なおさら事態がややこしくなる」フリツツが言った。「いいか 二百万年も前に絶減した文明の遺物が、ハンマーやパイプレンチで「で ? 」 簡単に分解できると考えているなら甘すぎるそ。望みは・せんぜんな「で、それを源まで追跡しようと思う。そうすれば本来の動力製造 いのか」 プラントを再稼動させられるかさせられないか、調査がはじめられ 「原子水素トーチか、カッティングレーザーをつかって二インチのる。調達できる人員全員に入力線を追跡させるんだ。ジャッコ、き スライスに切りきざむことならできますが、ネヴィルがこの案をよみが監督してくれ。おもいだすんだ。もしナッシ = の期限にまにあ ろこんでみとめるとは思えないです」 わせるつもりなら、三カ月以内に全部のものを稼動させなければな 「そんなことは」フリツツが言った。「おれだってみとめられならないんだそ」 い。ジャッコ、計画を放棄して上にもどってこい。し 、ずれにしろも「わたしはまだ、時間の無駄のように思えます」ジャッコが言っ っといい案をおもいついた」 た。「いままでの研究結果が正しいとすれば、タズー文明は動力不 「こんどは何を計画しているんですか、フリツツ」 足のために減亡したのです。その二百万年ばかり後に、動力源が発 「こういうふうに考えてみた。あるひとつの機械装置の機能を知ろ足できるはずはないです」 うと思ったら、方法は二通りある。つまり分解してその部品の性質「量の問題がからんでいるのだ」フリツツが言った。「タズー人が から機能を一生懸命考えるか、それとも単純にその機械をうごかし必要とした動力は文明全体をうごかすための動力だったが、われわ 8 6
った。「工場ならば、何をつくっているんだろう ? 原料の仕入先か確認できなかった。 「ラビ」と隊長は最後にいった。「きみの理論は気狂いじみている はどこなんだ ? 「こう思うんですが、艦長」はるかかなたの岸辺にいるカール・ が、核心をついている : : : テストされてると思いたくない : : : 少く マーサーがいった。「原料は〈海〉からとっているのだと思いまとも本土に戻れるまでは」 す。軍医の話ですと、艦長のお考えになっているものは全部〈海〉 天上のニューヨークは広さはマンハッタン島とほ・ほ同じだが、平 にふくまれているそうです」 面図形はまったく違っていた。直線道路はほとんどなく、短い同心 もっともらしい答えである。だが、そのことはノートンは考えすの弧とそれをつなぐ放射状の輻が迷路のように入り組んでいた。さ いわい、ラーマの内部では、自分のいる場所がわからなくなること みだった。〈海〉に通じるパイプが埋設されている可能性もあるー はない。空を一贅すれば、北ー南軸がすぐにわかるのだから。 ー事実埋設されているにちがいない。なにしろ想像上の化学工場は かれらはほとんど各交差点に立ちどまっては、全景精査をした。 厖大な海水を必要とするのだから。しかし、間違いがあまりにも多 いので、かれはもっともらしい答えには信をおいていなかった。 何千とあるこれらの写真が区分されたとき、都市の雛型をつくる仕 ール。だが、ニューヨークは海水で何をするんだ事は、退屈であるが、興味をひくものだろう。ノートンは、このジ 「考えはいし グソ ろう ? 」 ーパズルが科学者を走りまわらせるのではないかと思った。 長い時間、船からも〈軸端〉か〈北方〉平原からも答えがなかっ ラーマの平原にいたときよりも、ここの静けさに慣れるほうが耐 た。それから思いもよらない声が話した。 えがたい。市の機械は音をたてるべきものなのに、電気のかすかな うなりも機械の動くけはいすらなかった。ノートンは何度となく地 「わけないことです、艦長。だけど、みんな笑うでしようね」 「いや、笑わない、 ラビ。話してみたまえ」用度係主任でシンプの面や建物の壁に耳をあて、一心に音を聞きとろうとしたが、血液の 調教師のラビ・マッカンドリュース軍曹は、技術的な議論となると脈動以外は何も聞こえなかった。 いつも話をこじらせる、この船内最後の一人である。知能指数は機械は眠りについている、ほそ・ほそと動いてすらいないのだ。ふ たたびめざめるのだろうか ? とすれば何のために ? すべては順 中、科学的知識は無いに等しいが、馬鹿ではないし、人に一目おか 調なのだ。どこかにわるいところがあれば、コン。ヒュータ内蔵の閉 れる生来の敏腕さがあった。 スキツ・ハー 「まちがいなくエ場です、艦長。たぶん、〈海〉が原料を提供し回路が、この迷路のすべてに生命を甦えらせるのだろう。 かれらが市の遠部についに着いたとき、市をとりかこむ堤防の頂 ているのでしよう。 ・ : 方法のちがいはあるものの、地球の工法と ニューヨークは工場だと思いますーー・、それも上にの・ほり、〈海〉の南方岐のかなたをながめた。ノ 1 トンは、ラ 結局は同じです・ : 1 マの半分をかくし、行くてをはばむ五百メートルの壁をみつめた ラーマ人を作るための」 望遠鏡による調査によれば、いちばん難物で半分は埋まってい 誰かが、どこかでくすくす笑ったが、すぐに静かになり、誰なの スキッパ スキツ・ハ 引 0
ひざを落し、水面に流紋を描いて浮いている血や油を手でおしのけ下った。ゆくてをふさいで・ ( リケードが築かれていた。・ ( リ ドの間から幾つかの顔がのそき、携帯用の発電機のうなりとともに け、顔をひたしてのどをならして水を飲んだ。胃に水がたまるとに わかに活力がよみがえってきた。とにかく、支局へ帰ろう。シンヤ黄白色の光芒が動いた。 「おい ! 通してくれ ! 」 は立ち上った。さらに階段を下へ下へと降る。照明がふっと消え シンヤはさけんだ。 た。一瞬、底知れない暗黒がシンヤを押しつつんだ。つめたい汗が 顔にも胸にも腹にもとめどなく湧いては流れた。石のように凝縮「誰か降りて来るそー し、硬直した筋肉や神経のいたるところで心臓の鼓動が極限の高鳴声が聞え、光芒が流れて正面からシンヤをとらえた。 「止れ ! こちらの質問に答えろ。動くと熱線銃で黒焦げにしてや りをとどろかせていた。非常灯の淡い光に目が馴れるまでの二、三 秒の間、シンヤを恐慌から守り通したのはすでに恐怖に麻痺したそるー の心だった。小さな文字などほとんど読み取ることも不可能な薄明 ほんとうにそうするだろう。シンヤは足を止め、両手を肩まで上 がシンヤにまだ生きていることの実感を与えた。それは湯のようにげた。 手足のすみずみまで浸透していった。地下数百メートルの深さまで 「上はひどいことになっている。ようやく逃げ出してきたんだ」 シンヤはとっさにいつわった。調査局の工作員たなどと言った 迷路のようにひろがった地下都市で、いっさいの照明が失われた 時、そこにあるすべての人々の生命は断たれる。手さぐりで地上まら、たちまち黒焦げにされてしまうだろう。それに逃げ出してきた でたどり着くことはほとんど不可能であろう。ことにそれが照明だ というのもほんとうだ。 けでなく、電力の源が機能を失った場合は、都市は二十四時間を経「どんなことになっている ? 上は」 ずに死減するであろう。何よりも換気装置の停止がそれを決定づけ「たくさん死んでいる。方々で火災が起きているし回廊はめちゃく る。さらに温度や湿度の調整、通信の途絶、下水道の排水不能、 ちゃだ」 フトの停止などが併行して都市の死に加担する。その為、いずれの「委員会のやつらは何か強力な武器を使っているそうだな」 地下都市も電源には幾重にもわたる保護システムを設けていた。 「委員会が ? 」 シンヤはふたたび階段を降りはじめた。階段はおれては降り、降「装甲車までくり出してきたそうじゃないか。おまえは見なかった ってはおれ、果は奈落の底につづいているのではないかと思われ た。すでに三十層ほど降っているはすだった。銃声も遠のき、今は「委員会が装甲車を使っているのは見なかったが : : : 」 全く聞えなくなっていた。破壊も殺りくもまだそのあたりには及ん「やつらは連邦と結たくしたんだ。おれたちを売りやがった。さも なければ市内に連邦警察軍が入ってこられるわけがない」 でいないようだった。下方から人々のざわめきがったわってきた。 かれらの言葉の内容は急角度にそれていった。ここまではまだ破 重い物を引きずるような音がする。シンヤは二、三段ずつ階段をか 347