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検索対象: SFマガジン 1976年3月号
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1. SFマガジン 1976年3月号

ゆっくりと物思いにふけりながら、簡易生命維持装置の方へ歩い時間後に惑星連合の水星大使が惑連総会で演説することになってい ていくと、電報を電気トイレに落しこんだ。シートカバーの下のひこ。 びから、レザー光線の輝く炎がちょっと見えて、秘密保持の要求は 公式にはミサイルなど存在していなかった。第一それはなんの識 満足されたと彼は思った。すべての問題がこんなに迅速に衛生的に別マトクもおびていず、また通常の信号周波数ではひとつも通信を 片づけられればなあ、と思わずひとり言が出てしまった。 おこなっていなかった。じつに悪質な宇宙法違反なのだが、スペー スガードもいまだに形式的抗議すらしていない。みんなが、じりじ りしながらも、水星がつぎに何をするのかじっと待っていた。 第三十七章ミサイル ミサイルの存在がーーー同時にその出所がーー言明されてから三日 ミサイルはまだ五万キロの余も遠方にある時から、その・フレーキもたっていた。その間ずっと、水星人たちは頑固に沈黙を守ってき 噴射の炎がはっきりとエンデヴァー号の主望遠鏡に見えてきていていた。しなければならない時は徹底的にやるタイ。フなのだ。 心理学者たちの中には水星に生まれ育った者の精神状態を完全に た。その時にはもう秘密でもなんでもなくなっており、ノートンは いやいやながらラーマからの二度めの、そして多分最後の撤退を命理解するのはほとんど不可能だ、とまで言いだすものがいた。水星 じた。しかし、いよいよほかに手段がなくなるぎりぎりまでラーマの三倍もの重力のために、永久に地球から追放されてしまった水星 から離れてしまうつもりはなかった。 人たちは、月に立ってほんの眼の先のかれらの祖先の惑星ーーー両親 ブレーキ運動が完了すると、水星からの招かれざる客はラーマかの惑星なのだーーーを眺めることはできても、けっしてそこへ訪れる らわずか五十キロのところへ来ており、テレビカメラでもって観察ことはできないのだ。それゆえにこそ、やりきれなくなって、行き をはじめたらしかった。それらははっきりと見えーー - ・ひとつは船首たくなんかないんだとかれらは主張しているのたった。 にーーーひとつは船尾に小型の無指向性アンテナがいくつかと、大型かれらは記録によってしか知ることのできぬすべてのものを の指向性パラボラアンテナが遠く離れた水星をいつでも指してい おだやかな雨、起伏のある草原、湖や海、青い空、といったものを た。ノートンはどんな情報が送られ、どんな指令が戻ってくるのか軽蔑しようとしていた。かれらの惑星があまりにどっぷりと太陽の と思っていた。 エネルギーに浸ってしまっているため、昼間帯ではしばしば六百度 にも温度が上昇するのだ。かれらはタフだと威張るのが好きだが、 水星人がすでに得た知識以外何も学んでいないとしたところで、 エンデヴァー号の発見したことはすべて全太陽系に放送されてしそのじつ、きつい運動など一分と耐えられないのだった。事実、か まっていた。ここにやってくるのに、あらゆるスピード記録を破っれらは肉体的には弱くなる傾向にあって、それも環境から完全に隔 たこの宇宙船こそ、その製作者の意志の延長であり、ある目的の離されていなければ生きていけないということを考えれば無理から ための道具に相違なかった。その目的もまもなくわかるのだ。三ぬことだった。だから重力を我慢できたとしても、水星人は地球の 0

2. SFマガジン 1976年3月号

まだ一・六年つまり一レーンしか住んでいないそのせいだ、と、信ュースを聞かされたのだった。ニュースというのは、ツラツリ交通 じようとしていた。そしてこれは、彼の内側にある典型的司政官像があたらしく建設をもくろんでいる自動管制車路線の工事見積りを とは違背していないとも思っていた。滞在年月の積み重ねによる担連邦開発営社に依頼しており、営社側も乗り気で商談が進んでいた 当世界との同化が、本当の同化のはずだからである ) 二日前、にもかかわらず、最近、突然、交渉打切りを一方的に通告して来た 1 は、それ迄に収集したデータを総合し、分析して、そう結論を下というのである。 「それはまあ、われわれとしては、どうしても連邦開発営社にこの したのだ。 いうよ工事を委ねなければならないわけじゃありませんが」 この、結論を要請したのは、司政官のマセである。と、 と、ツラツリ交通代表のひとりであるバン・・リョウはいっ り、これは、と司政官の両者が一体となったひとつの例でも たのだ。「ただ : : : あれ程熱心に、うちにやらせろと : : : それも連 あった。 最初のうち、はいつものようにただのこまかい、司政官に邦直轄事業体であることで無言の圧力をかけながら要求して来てい た開発営社が、なぜ急に手を引いたのか、われわれにはさつばり分 別段報告する必要もないものとしての個々のデータを収集していた りませんな」 のだ。連邦軍の動きや、科学センターの連中の行動や、植民者たち やその経営する組織や、先住者たちの・ーーとるに足らない小さな事すると、同じ代表であるカワダ・・ケイも続けた。「たしか に、開発営社の技術水準が高く、工事も手際がいいのはたしかですが 実を集める、その中に、少しすっ、開発営社のしていることを蓄え : まあいいじゃないですか。われわれとしては、他に工事を依頼 ていたのである。そして、その結果として、それ程重要なことでは ないが、 . ラクザーンに居を構えている連邦直轄のほとんどの事業しても済む事柄なのだし : : : このさい、ことごとに不愉快な思いを 体、なかでも開発営社支部の活動が、それ迄の成長率から見て、こさせられる開発営社の手を借りなくても、その程度の工事はどうに かできるということを、証明するチャンスだとはいえないですかね」 の一、二カ月、急速に鈍化しているという報告をしたのである。こ もちろん、いきり立っている者もいた。・ハン・・リョウほど の報告を、二十日あまり前に受けとったマセは、その事実を念頭に とどめておいた。 古くはないが、ラクザーン植民者としては初期からいる家の、本人 それが十日前、にわかに対策を講じなければならぬ事態に追い込はまだ若いイルーヌ・・ハイツなどがそうであった。 まれたのだ。 「司政官を前にして、こんなことはいわないほうがよろしいんでし ようけど」 十日前、マセは、ツラツリ交通への定期訪問を行った。ッラツリ 交通は司政庁のあるこのツラツ・リ大陸の公共輸送企業体で、司政機と、イルーヌは、激した調子でいい放ったのである。「連邦直轄 5 8 構側からも技術供与をし、出資もしているラクザーンの公社のひと事業体である開発営社から見れば、こんな、一惑星上のそれも一大 つなのだが : : : そこでマセは、代表者たちから、あまり良くないニ陸に限定されたローカル公社など、どう扱っても構わないというこ

3. SFマガジン 1976年3月号

シルヴェスターは死にかけていた。体重三百五十キロで、歩くこにすむかもしれないのだ。彼は何度も何度も博士に懇願した。しか とが不可能となった。五百五十キロで、起きあがることができなくし、博士は完全に狂っていて、もうどうしようもなかったーー手も 4 なった。現在の体重は九百キロ。呆然、息をのむばかりの皮下脂足もでない。彼はいまや、その一トン足らずの体重のせいで、身動 肪。全裸ーーーただし、マッコウクジラのような腰まわりに、古・ほけきがとれない。。 ヒンでとめられた虫同然であった。彼は、しめつけ た毛布がかけてある。昼も夜も、あおむけにべタッと横たわってい られるように痛む肺から、ちいさなうめき声をし・ほりだした。 るだけだった。動きといえば、時折からだを左右に揺することだ「八時の給食は何がいいの、おデ・フちゃん ? け。彼は自己嫌悪におちいっていた。フレッチャ 1 博士が鏡を頭上 ここ数カ月、彼女の精神状態がおかしくなって以来、その口調も うきうきしているような、めそめそしてい にかざしていてくれるその間に、彼は泣きながら、髪をとかすのだおかしくなっていた っこ 0 るような声なのた。彼の豚のような眼には、三方の壁の上部と、く 博士の地下研究室の一隅におかれたタイル張りの桶の中に、彼はすんだオリーヴ色の天井のほぼ全部しか見えないけれど、博士の声 横たわっている。桶は二・四メートルに一 トル、かなり深の方向から、彼女がデスクに坐っているのがわかる。昨夜あつめた 、、、リ . リ . ッ , 「レ 1 し一ま . り・ . ・こ 、蛇ロと排水口がついていた。髪を梳きおわったら、その蛇口にキべリタテハチョウからロウェニシリンを数 シャワーのホースをつないで、彼の排泄物を洗い流す。それがフレしているのだろう。カチカチという音 ( 博士はチョウをひとつひと ッチャー博士の朝の日課であった。 っ板の上でつぶしているのだ ) がやむまで彼は待ち、それから、一 わら 「おお臭い、臭い」と、彼女は嘲った。「臭いよ、臭いよ、鼻がま語一語、喉からしぼりだすようにして、答えた。 がりそう」 「フレッチャー先生、もう食べたくないんです」 そう言いながら、この博士は、彼が涙を流して、もうやめてくれ「なに言ってるのよ、おバカさんね。次の給食は八時ですよ」 とうめき声をあげるまで、冷たい水を彼の身体にたたきつけるので 「ええ、でも、わたしは肥りすぎちゃって、そのため死にそうなん ある。やがて博士は、ふいに水道をとめると、震え、歯をカチカチです」 ならし、おびえている彼をのこし、研究室をでていった。 「そんなことないわ。あなたは食べなくちゃいけないのよ。その身 シルヴェスターは死にかけていた。自分の心臓がその重荷に耐え体だったら一日に一万五千カロリーは必要なんですよ」 かねてうなり声をあげているのを、感じとることができた。このち「でも : : : 」 っちゃなポンプは、あとどれくらいもつだろう ? ひと月か ? そ突然、彼女の姿が桶の縁からあらわれた。かがみこむと、彼にむ れとも、もう数日で寿命がくるのか ? けて指を振ってみせ、チッと舌をならした。 フレッチャー博士がいますぐにこの実験を中止してくれればいし 「おばかさんねえーー食べたくても食べたくなくても、八時の給食 のだが : ・ 。断食療法をすればまだ間にあうかもしれない。死なすはとらなくっちゃいけないのよ

4. SFマガジン 1976年3月号

「そうだな。やつらは解体してるんだーーーまるでーーまるで壊れた敵意を明らかに現わしているものがまだひとつもないとはいえ、慎 機械を解体するみたいに」 / ートンは鼻にしわをよせた。「だが、重な指揮官ならけっして無謀な真似をしないものなのだ。 壊れた機械がこんな匂いを出すとは思わなかった」 特別の安全対策として、〈軸端部〉からは常時一人が強力な望遠 そのとき別の考えが頭に浮かんだ。「神さまーーーやつらがこっち鏡によって監視を続けることになった。ここからなら、ラーマ内部 に向ってきたらどうなる ! ルビー、大急ぎで岸に戻してくれ ! 」 の全地点が見渡せるし、〈南極〉さえたった数百メートル先のよう レゾリューション号は動力電池の寿命などまるで無視して、岸にに見える。どの探険チームもその周囲はつねに一定の監視下に置か 突進した。後方では、あのお化けひとでーーーこれ以上びったりしたれることになるので、これでなんとか不意打ちを食う危険は避けら が、これはまったくの失敗 名前を思いっかなかったーーーの九本腕がどんどん短くちぎられてい れるように思えた。実に名案だった き、まもなくそのうす気味わるい光景は海の深みへと沈んでいっ だったのだ。 追ってくるものはなかったが、 レゾリューション号が上陸地点に その日の最後の食事がすみ、二二〇〇時の就寝時刻がもうすぐと 引き上げられ、無事上陸が完了してからやっと、かれらは胸をなで いうとき、ノートン、ロドリゴ、キャルヴァートとローラ・アーン おろした。神秘にみち、いまや邪悪な存在に急変した〈円筒海〉をストは、水星のインフェルノ基地の中継機から特別にかれらあてに 振りかえりながら、ノートンは二度とだれにもこの海を渡らすまい送信されてくるいつもの夕方のニュースに見入っていた。南半球を の映画がとりわけ興味を呼んでいたーーー〈円筒海〉を と固く決意した。そこにはあまりにもわからぬことが多すぎ、また写したジミー 危険も多すぎたからだ・ : 横切って帰ってくるエ。ヒソードなど観る者をすっかり興奮させたの かれはニューヨークの塔や塁壁に目をやり、その先の陸地の暗い だ。科学者やニュース解説者や〈ラーマ委員会〉のメイハーまで 断崖を眺めた。もうあそこへ好奇心の強い人間が行くことはない。 が、意見を述べ立てていたが、そのまたほとんどがたがいに対立して かれは二度とラーマの神々に逆らうつもりはなかった。 ーが出くわしたあのカニのような代物が、はたして生物 なのか、機械なのか、正真正銘のラーマ人なのか、それともそんな 分類にはまるであてはまらぬ何かなのか、意見がまったくまちまち 第三十三章くも であった。 とノートンは布れをまわしたーーーキャン。フ・アルファ 胸のむかっきを押さえながら、あのお化けひとでが襲撃者たちに には常時最低三人はいるようにし、うち一人はつねに見張りに立っ切り刻まれていくさまを見ているうちに、ふとかれらは何者かの気 こと。さらに、全探険チームにも同じ手順を守らせることにした。配に気づいた。キャン。フ内に侵入してきた者がいるのだ。 ラーマ内部でどんな危険生物が活動を開始しているかわからぬ今、 彼女は突然ショ 最初に気づいたのはローラ・アーンストだった。 / こ。 に 7

5. SFマガジン 1976年3月号

いえ、じつはね、あの金魚鉢のなかの た感じだったわ。そして、頭の上の電灯が、一瞬、チカチカッとし「え、べつになんにも : かたつむり たと思ったら、その感じが急に止まってしまったの。それでも、あ蝸牛のことを考えていたところなの」 かたつむり たしはまだ、鉢をかかえたままだった。それから、大いそぎで床に「蝸牛 ? 」 おいたの。そうしてみると、べつに変わったことなんかなかったみ「そうよ。ほれ、ポビーは、魚をぜんぶ新しいほうの鉢へ移しかえ でも、あのとき、あた 。ところが、そうじゃないの。ふっと下をみると、金魚鉢が三 たのをひどく得意になっていたでしょ ? かたつむり つあるのよ」 し、蝸牛を移すのを忘れているって、ポビーに教えてやったの。だ かたつむり って、蝸牛は、古いほうの金魚鉢の底の城にかくれたまま、まだ残 「そうなの」というと、ジョーンはなにか遠くにいる相手を眺めるっていたんですもの」 かたつむり ような目つきで、夫の顔をみつめた。夫はあとの言葉を待ってい 「うん、そういえば、ポビーのやっ、あの蝸牛には手こずっている た。「それから、こんどは、きようの午後、あの掃除用の黄色い手ようだったな。でも、『あれはちょっとした実験だったんだよ』と かたつむり 袋をはめて、ここの居間の掃除をしていると、不意に、また、例の いっていた。それから、蝸牛を新しいほうの鉢へ移してやるかわり 全身をゆさぶられるような感じがしたの。で、この手袋をしまおう に、すでに移した魚を、また・せんぶ、もとの古いほうの鉢へもどし と思って、掃除道具をいれてある戸棚のところへいったら : : : そし たんだ」 たら、なんと、手袋は、もうそこへちゃんとはいってるじゃない 「そうなの。魚たちはこっちのほうが気に入ってるようだから、こ しってね」 うするんだと、、 「べつの手袋か」 スプルーアンスは、どこかにある、そのもう一つの世界をのそき から ジョーンはひきつったような笑い声をもらして、「そう、おんな こんでいた。実験が成功しないままに、ふたたび空つぼのまま見捨 じものが二た組あるのよ。そこで、ちょっと考えてから、もう一てられてしまったその世界を。そこには、いま、金魚鉢が三つある 度、屋根裏の部屋へいってみたの。そしたら、こんどは、金魚鉢がのに、掃除用の黄色い手袋はないのだ。しかし、その実験の主を思 ひとつになっていたわ」 いうかべることは、あえてしなかった。 スプル 1 アンスはすっと立ちあがって、窓のそばへ歩みよった。 「そうだ、ここにこうしていられるのが、なによりだ」と彼はつぶ 澄んだ夜空に輝く星が妙に近く見えた。 ゃいて、ひとりうなずくと、やさしく励ましてくれるような妻の手 「おまえも、ほかの連中も、みんな、どこかへ姿を消した。そし をそっと握りしめた。 て、またもどってきた。しかし、このおれだけは、どうして姿を消 さなかったんだろう ? 」 ジョーンは無言だった。不意に、彼はこちらをふりむいた。妻は まだ目のまえにいた。はるか彼方にきらめく星をじっと見つめたま まで。 「なにを考えているんだ ? 」と彼はきいてみた。

6. SFマガジン 1976年3月号

上に、油でよごれた書類やカタログ、小さな貰 ~ 工具などが、い つばいに散らかっている。そ一【一第 ~ の机の上の、わかりやすい場所に紙幣をおい・、一を気 て、重しがわりにペンチをひとつ、その上に のせておくことにした。 車を走らせてから、ものの数分もすると、 この街道で、まただれにも会わないことが ひどく気になりはじめた。たしかに、 この道 。 ( イウェイではないがいちおう完全な舗、」 装路たし、ふだんは、かなり交通量の多いと、を ころなのだ。 途方に暮れると同時に、むしように心細く ) なってきたので、ラジオのスイッチをひねっ た。ところが、どのボタンを押しても、きこ えるのは、ブーンという機械の音だけだっ た。これもおかしい。ふつうだ 0 たら、たと - 【年 え他の局は入らなくても、「」だけ、発、 はかならす入るはずだ 0 た。ホイーリング市気 北部、オ ( →オ河沿岸 0 都市・ ) にある 0 ーカル放《 ) , , , , 送局では、夜間、東部の海岸地方一帯に強力 な電波を流して、ヒルビリー音楽のレコード 演奏と、特許薬品や解説つき聖書の o> 番組 を放送しているのだから。 運転台の夜光時計は三時十分をさしてい る。ラジオを消すと、不安をまぎらすため . ~ 朝 に、彼は鼻歌を歌いだした。 やがて、とある町にさしかかった。道路の 両側には街燈が立ち並び、一軒の家には、明 りがともっている。道路ぎわには、車が数台 、ユ とめてあった。これをみて、ほっと救われた ような気がした。 交又点の信号が青から黄色、ついで、赤に 変わったので、彼は停車した。みると、一・フ ロックほど前方に、終夜営業のドラッグ・ス トアらしきものがある。信号が青になったの ツで、ゆっくり前進して、すぐにまた停車し た。やはりドラッグ・ストアで、店はあいて 1 富 入口のドアを押して店内にはいると、彼は ~ ・カウンターをたたいた。手持ちはまだ充分に 気ッ第一い尋新、 あったが、ともかくタ・ハコを一と箱買ってか 、つ 夜勤の店員にむかって、なんたか、この に自分だけひとり取り残されたみたいな気 がすると、冗談をいってみるつもりだった。 カら みあの空つ。ほの食堂と係員のいないガソリン・ スタンドのことを話してみよう。そうすれ ば、店員はなにか説明してくれるかもしれな っこ 0 、刀ュ / だが、カウンターをたたいても、なんの返 事もない : 店内には、煌々と明りがともり、雑誌や文 、 ~ ご , ・房具、キャンデー、タ・ ( コ、清凉飲料などが 、、雑然と並んでいた。彼は、白いつや消しガラ スの仕切りごしに、なかの調剤室をのそいて みた。そこも無人だった。 いまの彼は人が恋しかった。相手は、だれ でもよかった。 それまで気がっかなかったが、店内には公 1 5

7. SFマガジン 1976年3月号

できな 既定の事実 だからだ それがどうだ 公開実験で 成功した例が ひとつでも ↓のるか ? ・ 実験以前に 発明家自身が ゆくえを / 、、り↓ます・ こレ J : ん めすらしく 子′ーし なせなら : 一 P 0 できる のだ これこそが 既定の事実だ そ、つ 十午 時前 お電話 / レ」・も ばくの家で ・ 0 、つ 4 に・カい ぶかいやつだ・、・ どなたか しやるの あすに なれば わかる きみはいつも その調子なんだ 0

8. SFマガジン 1976年3月号

いっしか姿を消してしまいました。しかし、われわれは、この奇妙シンヤをひどく憶病にした。さめることのない悪夢のつづきの中に な物体を忘れることはできませんでした」 いるような気がした。 あかと脂で汚れきった連合正規軍の制服をまとった老人が、ぬけ「幾つかの質問に答えてほしい。先ず・ : た歯の間から息をもらしながら声に力をこめた。 シンヤは迷った。たずねたいことは山のようにあった。 「おまえの名は ? 「この戦争は、貴重な時間を実にむたに浪費しました。もう間に合 わないかもしれない」 「ハルフ。二〇八・・ハルフだ」 「ここで何をしている ? 」 「間に合わない ? それはどういうことだ ? 」 「それはすでに説明した」 「われわれは、ほとんど一世紀もの間、あらゆる資料を検討し、デ ータを集め、綜合調査をおこなった結果、ひとつの結論に達しまし「この組織は何というのか ? 」 「名などない。この組織について知っている者は誰もいないから、 た」 名など必要がない」 「これまでの調査でも、結論というのは出なかったのではないか ? 「組織をひきいているのは誰だ ? 」 この資料でも、物体の内部を調査することはできなかったようだ」 「そうです。できませんでした。かれらには」 「組織をひきいている者の名は ? 」 「かれらには ? 」 「当時、動員された研究機関、調査組織のすべてです。われわれ「・ : スルフは黙ってシンヤの顔を見つめていた。 は、かれらとは全く関係ありません。独自な調査と研究をつづけて 「組織をひきいている者の名は何というのか きました」 老人がうそやでたらめを言っているとも思えない。しかし、かれだ」 らが、いかなる組織に属しているのかしらないが、連邦を上げての 「どうした ? 急に耳が聞えなくなったのか ? 」 調査、研究でもあきらかにされなかったものが、かれらに成功した ・ハルフの表情には、何の変化もあらわれなかった。呼吸さえして とは思えない。 いないかのように、ほんのわずかも動かなかった。 「おれは、ここがどこなのか、何をする所なのか、また、おまえが 「どこから来たんだ ? おまえは ? 」 誰なのか、何ひとっ聞かされていない。おれは、ある人物によっ 「ペイルート」 て、ここへ連れてこられた。わからないことばかりだ」 シンヤは厖大な資料を押しやり、椅子に身を沈めた。ひとつを信「そこで何をしていた ? 」 用してしまえば、あとのすべてを信用しなければならない危惧が、 「工科大学でエレクトロニクスに関する講座を持っていた」 ? と聞いているの 226

9. SFマガジン 1976年3月号

だ。返信はそれほど安全でないかもしれぬから、もし必要なら慎重も月だった。そのうえ、かって地球と月はどんなことにも意見の合 に暗号でもって通信するように。惑連総会の討議が済み次第また連ったことがなく、とうてい危険なプロックを作れそうもなかった。 絡する。通信終り。司令長官。以上」 アステロイドは火星の保護領となっており、例外はイカロスグル ー。フのみ ( 水星に属している ) 、近日点が土星軌道外のものもいく 第三十八章惑連総会 つかあって、タイタンに権利を要求されている。近い将来には、ア ステロイドでも比較的大きなパラスやベスタやジ、ーノーやセレス 歴史書によればーー本気で信じられる人はほとんどなかったがー がその重要性をまして大使を出すようになり、惑星連合のメイハー ー昔の国際連合は一七二カ国からなっていたことがあったという。数も二桁になることだろう。 惑星連合はわずかに七の構成メイ ( ーしかない。それでも時には十ガニメデはただ木星代表というのではなくーー・他の全惑星の質量 アステロイドベルト 分すぎるほどだ。太陽からの距離によって順に、水星、地球、月、を合算してもかなわないのだ が小惑星帯から引っぱられてき 火星、ガニメデ、タイタン、トリトンとなっていた。 て一時的に木星の衛星となっている五十ほどの世界をも代表してい このリスト自体が数多くの脱落とあいまいさからなっており、多た。もっとも後者については、法律家は異議をとなえていた。おな 分将来直されることになるだろう。評論家連はあきもせず、惑星連じようにタイタンも土星をその輪と三十ほどの衛星群をまとめてい 合の多くは惑星などではなく、ただの衛星にしかすぎない、などとる。 わめいていた。実際のところ、四巨大惑星の木星、土星、天王星、 トリトンの立場となるとなおいっそうことが込みいっていた。海 海王星が含まれていないなどおかしな話なのだ。 王星の大きな衛星は恒久的に人類が居住する最外縁にあって、当 しかしガス惑星には誰も住んでおらず、将来ともにその見込みはのことながら、その大使はものすごい数の肩書を背負っていた。天 なかった。同じことがもうひとつの重要な欠席者にもいえた、金星王星とその八つの衛星 ( どれにも人は住んでいない ) 、海王星とほ である。もっとも熱狂的な惑星技術者でさえ金星を服従させるには かの三つの衛星、冥王星とその唯一の衛星、そしてひとりぼっちで 何世紀という時間がいるという点では意見の一致をみていた。 : カま月を持たぬベルセポネ。もしもベルセポネより外側に惑星があれ た一方では、水星人たちはこの惑星に注目して非常に長期にわたるば、それもトリトンの管轄となるだろう。なおまだたらぬとでもい 計画をもくろんでいるのだった。 うのだろうか、外周暗黒世界 ( ときどき自分でそう呼ぶのだ ) の大 地球と月がそれそれに代表を出しているのも、常に争因となって使は悲しげにこう尋いたことがあった。「彗星はどうするんです いた。ほかのメイ ( ーはそれでは太陽系の一部にあまりに権力が集 ? 」この問題はその解決を将来にまかせようということになったよ 中してしまうと主張していた。しかし地球以外の諸惑星全部を合わうだ。 せたより多くの人が月には住んでおり、また惑星連合がおかれたの だが、その将来がもうきてしまっているのだ。ある定義によれ

10. SFマガジン 1976年3月号

リーミンのロもとがふとゆるんだ。わずかに歯がこ・ほれると、と は、もちろん、私のなかまではありません。かれらは、あなたの生 命を奪うつもりでした。でも、かれらはあのようなことの専門家でたんに若い娘の表情がのそいた。 はないし、徹底さを欠いたためにあなたを逃してしまいました。そすでにパルフや他の男たちの姿は消えていた。テープルの上のマ イクロ・フィルム拡大装置の作動ランプだけが、オレンジ色の点減 のつど」 をくりかえしていた。 「かれらは辺境の工作員でもないし、市民の反乱グループでもあり「そのうちに私は、あなたがつけねらわれているのは、偶然でもま ちがいでもないことに気がっきました。おそろしい敵です。私はそ ません。かれらは、ごくふつうの市民の一人です」 のとき、はじめて敵の持っ力のおそろしさを知りました」 「それがなぜおれをねらったのだ ? 」 「つづけろ」 「指示されたからです」 「私があなたに接触しようとするのを、さまたげたのです」 「誰に ? 」 「何のことだ ? 」 「わかりません」 「それみろ ! 肝心なところになると、わかりませんなどとぬかし「あなたが、東キャナル市からこの地球へ来ることになったのは : やがる。結局、それがわからなければ、なんにもわかっていねえの とっぜん、けたたましく・フザーが鳴った。 と同じじゃねえか ! 」 リーミンは声を呑んで、それまで見せなかった不安の色を浮か 「私たちは、あなたをつけねらう一味の一人を捕え、いろいろなテ ストをおこないました。その結果、わかったのは、その男はただのべ、視線をちゅうに遊ばせた。 市民で何ものかに心理的にあやつられていた、ということだけでし「どうした ? 」 た。いかなる方法で、誰がそのようなことをしているのかはわかり 壁のス 4 ーカーにパワーが入った。 シティ ・ : 方向、南南 ませんが、その者は、市の中に手先がほしかったのです」 ・ : 所属不明の飛行物体が接近してくる : かの女の言葉には、秘められたもののひびきがあった。もっとも西微西。高度十六キロ。距離八二キロ。速度、マッハ四 : ・高度 重要な点は、なにひとっ説明していない。 属不明の飛行物体が接近してくる。方向、南南西微西 「で、おれをつけねらわせた、というわけか ? 何のためにだ ? 十六キロ : おれは調査局員といったところで、すでにおまえも知っているよう男性の声とも、、女性の声ともしれぬ乾いたよくようのない声がス に、ただの兵隊だからな。おれの生命を奪ったところで、メダルひビーカーから流れ出した。 とつもらえやしないだろう」 その声が、ふつつりととぎれ、かわってひびきのない老いた男の 「私も、はじめはなぜかわかりませんでした。あなたがねらわれる声になった。何を言っているのかわからない単語と頭文字の羅列ら のは、偶然か、まちがいだろうと思っていました。実際、あなたのしい言葉がつらなり、何度もくりかえされた。 「何を言っているんだ ? 」 生命を奪ったところで、メダルひとつもらえないでしようからね」 「ほんとうのことを、そう、ずけずけ言うな」 リーミンは身をひるがえして、壁にとりつけられた電話機に走っ 229