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検索対象: SFマガジン 1976年3月号
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1. SFマガジン 1976年3月号

「そうだな。やつらは解体してるんだーーーまるでーーまるで壊れた敵意を明らかに現わしているものがまだひとつもないとはいえ、慎 機械を解体するみたいに」 / ートンは鼻にしわをよせた。「だが、重な指揮官ならけっして無謀な真似をしないものなのだ。 壊れた機械がこんな匂いを出すとは思わなかった」 特別の安全対策として、〈軸端部〉からは常時一人が強力な望遠 そのとき別の考えが頭に浮かんだ。「神さまーーーやつらがこっち鏡によって監視を続けることになった。ここからなら、ラーマ内部 に向ってきたらどうなる ! ルビー、大急ぎで岸に戻してくれ ! 」 の全地点が見渡せるし、〈南極〉さえたった数百メートル先のよう レゾリューション号は動力電池の寿命などまるで無視して、岸にに見える。どの探険チームもその周囲はつねに一定の監視下に置か 突進した。後方では、あのお化けひとでーーーこれ以上びったりしたれることになるので、これでなんとか不意打ちを食う危険は避けら が、これはまったくの失敗 名前を思いっかなかったーーーの九本腕がどんどん短くちぎられてい れるように思えた。実に名案だった き、まもなくそのうす気味わるい光景は海の深みへと沈んでいっ だったのだ。 追ってくるものはなかったが、 レゾリューション号が上陸地点に その日の最後の食事がすみ、二二〇〇時の就寝時刻がもうすぐと 引き上げられ、無事上陸が完了してからやっと、かれらは胸をなで いうとき、ノートン、ロドリゴ、キャルヴァートとローラ・アーン おろした。神秘にみち、いまや邪悪な存在に急変した〈円筒海〉をストは、水星のインフェルノ基地の中継機から特別にかれらあてに 振りかえりながら、ノートンは二度とだれにもこの海を渡らすまい送信されてくるいつもの夕方のニュースに見入っていた。南半球を の映画がとりわけ興味を呼んでいたーーー〈円筒海〉を と固く決意した。そこにはあまりにもわからぬことが多すぎ、また写したジミー 危険も多すぎたからだ・ : 横切って帰ってくるエ。ヒソードなど観る者をすっかり興奮させたの かれはニューヨークの塔や塁壁に目をやり、その先の陸地の暗い だ。科学者やニュース解説者や〈ラーマ委員会〉のメイハーまで 断崖を眺めた。もうあそこへ好奇心の強い人間が行くことはない。 が、意見を述べ立てていたが、そのまたほとんどがたがいに対立して かれは二度とラーマの神々に逆らうつもりはなかった。 ーが出くわしたあのカニのような代物が、はたして生物 なのか、機械なのか、正真正銘のラーマ人なのか、それともそんな 分類にはまるであてはまらぬ何かなのか、意見がまったくまちまち 第三十三章くも であった。 とノートンは布れをまわしたーーーキャン。フ・アルファ 胸のむかっきを押さえながら、あのお化けひとでが襲撃者たちに には常時最低三人はいるようにし、うち一人はつねに見張りに立っ切り刻まれていくさまを見ているうちに、ふとかれらは何者かの気 こと。さらに、全探険チームにも同じ手順を守らせることにした。配に気づいた。キャン。フ内に侵入してきた者がいるのだ。 ラーマ内部でどんな危険生物が活動を開始しているかわからぬ今、 彼女は突然ショ 最初に気づいたのはローラ・アーンストだった。 / こ。 に 7

2. SFマガジン 1976年3月号

「約四百だと思います。それが最大です。しかしあとで治療が必要のパイロット : 、、 力しまや日ごろの冷静さを完全になくしてしまった になると思います」 保守主義者の単純な心のうちを見すかしていることを読みとられな 「四百以下なんだな ? 」 いように、あまりにも無関心なふりをしていることがわかった。質 「わかりません。しかしたぶんそうではないと思います」 問の先をつづけたかったがーー・・ 間をおきすぎてすでに長くなりすぎ 「出身地は ? 」 てしまっていた沈黙が、かれに背をむけ、かれが手も足もでないで 「アリゾナです」 いることの証明になりかかっていたーーーー質問することがてんで思い 「病歴は ? 」 うかんでこなかった。とっくに分別をなくしゃぶれかぶれな気持か 「ありません。いずれにしましてもたいしたものではありません」ら、なにか意表をつくような、なかば気違いじみたことをやるべき 「視力は ? 良好か ? 」 だという気が心のどこかでしていた。だが、。ヒルクスは絶対に自分 「良好であります」 にはそんなことができないことはよくわかっていた。ひどく傷つけ ビルクスは、かれらがいうことにとくに注意して聞いてはいなかられた気分だったーーー会うのをことわるべきだったんだ。彼はマッ った。むしろ、声のひびき、その変化、声色、唇のうごき、顔の表クギールのほうを見た。 情のほうに関心があったが、ときどき、いま起っていることはみ「いっ乗船できるんですか ? 」 な、馬鹿げた冗談であり、はったりである、かれがなぐさみものに 「いつでもお好きなときに、今日にでもけっこうですよ」 され、技術万能にたいするかれの素朴な信仰がからかわれているの「検疫のほうは ? 」 だ、というわけのわからない感じにとらわれた。それとも、そうい 「そのことでしたらどうかご心配なく。とっくに全部かたづいてい う信仰のせいでかれは罰せられなきゃならんのだろうか ? これだますから」 ったらごく普通の人間じゃないか、秘書嬢のいっていたのは当って機関士が横柄ともとれるロぶりでーー、すくなくともビルクスには いるーーー偏見なんてこんなもんだ ! 彼女はマックギールのことをそう思えたーーー答えた。 連中の一人だととっていたんだ : ・ 『めんつにかけても引きさがることはできんそ』と思ったが、声に 主なる神についての思いっきがそれほど悪くないとしても、さしだしては別のことをいった。 あたっては話から成果はあがっていなかった。きっとあまりいいっ 「ではこれまで。・フラウンのほかは全員、乗組員に編入されたもの と思ってくれていい。 プラウン、きみはわたしの質問に明日答える きじゃなかったのだ。むしろ単純で悪趣味だったぐらいだ、と。ヒル クスははっきり感じ、自分が視野のせまいとんま野郎に思えた。間ように。マックギール、わたしが署名しなきゃならん書類は ? 」 抜けのせいにすぎないことはよくわかっていた : 「ええ、預っていますが、ここには持ってません。役員室において 全員がさっきからのまま彼を見ていたが、赤毛のトムソンと二人あります。そちらへ席を移しませんか ? 」

3. SFマガジン 1976年3月号

たわけではないが、その巨大な黒い正方形にまるで偶然でくわしたえさかる太陽やかそえきれないほどの惑星系と同じようには考えて いなかった ような感じがした。 というよりはむしろ、まだ宇宙空間にでたこともな 6 実際にかれは星にたいしてなにかはっきりした態度をもっていたければ、今のようにその星座になじんでもいなかった若いころのほ うがよくその星座のことを考えたものだ。だがいまではあの若いこ わけではない。たいていの宇宙飛行士は星に特別の気持をもってい たといわれている。むかし、それがロマンチックな〈宇宙屋の粋〉ろの幻想はどういうわけかいつのまにやら彼からなくなってしまっ なところをみせる特にかかせない構成部分だ、と思われていた時代ていた。 もある。だがちかごろは、たいていの宇宙飛行士があのキラキラ光。ヒルクスはゆっくりと冷たいガラスに顔を近づけると額をそれに るお星さまにたいするなにか親密な感情を自分のなかに見つけだす触れ、ところどころ白い光にとけあっている、まばたきしない明る い光点のおびただしい群にほとんど注意せす、まるで凍りついたよ のにえらく苦労していたーーーありそうな話だが、映画やテレビや小 説が地球外路線のパイットはなにか特別な〈宇宙的〉風格を身にうにじっとしていた。内側からみる銀河系はまるでカオスのように つけているという世論をでっちあげてしまったせいでもある。ビルみえた。だがやはり秩序はあったーーーしかし、それがみられるのは クスはいぜん心の底で仲間たちがだれもかれも自慢したり、大げさきわめて高度な、多銀河系レベルで、巨大な望遠鏡でとった写真で だけだ。そういう写真のネガでは、銀河はいろんな発達の段階にあ にしゃべりまくるのに疑問を感じていた。かれ個人はほとんど星に 興味を持っていなかったし、それを話題にして無駄話をするぐらい るアメー・ハのような、だ円体にみえる。ただ宇宙飛行士たちはそん なことにちっとも興味をもっていないだけの話だ、かれらにとって 馬鹿なことはないと思っていた。かれは立ちどまると、目にみえな いガラスに頭をぶつつけないよう防止のためにとりつけてある弾力はわれわれの銀河がすべてであって、他のは問題外だった。数千年 性のあるパイプによりかかったが、すぐに船のちょっと下のところもたてば、あるいは問題にするようになるかもしれん、とビルクス は思った。 に銀河の中央部が横たわっているのにきづいたーーー正確にいえば、 そっちの方向へ目を移して探さなければならなかった。視線はもっ誰か近づいてくる者がいた。発泡性プラスチックの通路は足音を とさきにある巨大な白っぽい射手座星雲の方をみていたからだ。そ消していたが、ビルクスは誰かがやってくるのを感じとっていた。 の星座は、わずかに形がくずれ、道標としてはあまり正確でなかっふりむくと、壁の天井が出会うあたりを教えているべルト状の明り たが、いつもなにかの役にたっていたーーー彼にはそれは哨戒勤務のを・ハックにして黒い人影が立っているのがわかった。 時代いらいいまでも変っていなかった。単座哨戒艇は視野がきわ「そこにいるのは誰だ ? 」かれは低い声でいった。 めてせまかったので星座で方位測定をするのがやっかいだったこと「わたしです、トムソンですよ」 がよくあったが射手座星雲は小さなスクリーンでもその位置をとら「当直は終ったのか ? 」ビルクスはなにかいわなくては、と思い えることができた。だがビルクスは射手座のことを、いく百万の燃聞かずもがなな質問をした。 ロケット

4. SFマガジン 1976年3月号

ゆっくりと物思いにふけりながら、簡易生命維持装置の方へ歩い時間後に惑星連合の水星大使が惑連総会で演説することになってい ていくと、電報を電気トイレに落しこんだ。シートカバーの下のひこ。 びから、レザー光線の輝く炎がちょっと見えて、秘密保持の要求は 公式にはミサイルなど存在していなかった。第一それはなんの識 満足されたと彼は思った。すべての問題がこんなに迅速に衛生的に別マトクもおびていず、また通常の信号周波数ではひとつも通信を 片づけられればなあ、と思わずひとり言が出てしまった。 おこなっていなかった。じつに悪質な宇宙法違反なのだが、スペー スガードもいまだに形式的抗議すらしていない。みんなが、じりじ りしながらも、水星がつぎに何をするのかじっと待っていた。 第三十七章ミサイル ミサイルの存在がーーー同時にその出所がーー言明されてから三日 ミサイルはまだ五万キロの余も遠方にある時から、その・フレーキもたっていた。その間ずっと、水星人たちは頑固に沈黙を守ってき 噴射の炎がはっきりとエンデヴァー号の主望遠鏡に見えてきていていた。しなければならない時は徹底的にやるタイ。フなのだ。 心理学者たちの中には水星に生まれ育った者の精神状態を完全に た。その時にはもう秘密でもなんでもなくなっており、ノートンは いやいやながらラーマからの二度めの、そして多分最後の撤退を命理解するのはほとんど不可能だ、とまで言いだすものがいた。水星 じた。しかし、いよいよほかに手段がなくなるぎりぎりまでラーマの三倍もの重力のために、永久に地球から追放されてしまった水星 から離れてしまうつもりはなかった。 人たちは、月に立ってほんの眼の先のかれらの祖先の惑星ーーー両親 ブレーキ運動が完了すると、水星からの招かれざる客はラーマかの惑星なのだーーーを眺めることはできても、けっしてそこへ訪れる らわずか五十キロのところへ来ており、テレビカメラでもって観察ことはできないのだ。それゆえにこそ、やりきれなくなって、行き をはじめたらしかった。それらははっきりと見えーー - ・ひとつは船首たくなんかないんだとかれらは主張しているのたった。 にーーーひとつは船尾に小型の無指向性アンテナがいくつかと、大型かれらは記録によってしか知ることのできぬすべてのものを の指向性パラボラアンテナが遠く離れた水星をいつでも指してい おだやかな雨、起伏のある草原、湖や海、青い空、といったものを た。ノートンはどんな情報が送られ、どんな指令が戻ってくるのか軽蔑しようとしていた。かれらの惑星があまりにどっぷりと太陽の と思っていた。 エネルギーに浸ってしまっているため、昼間帯ではしばしば六百度 にも温度が上昇するのだ。かれらはタフだと威張るのが好きだが、 水星人がすでに得た知識以外何も学んでいないとしたところで、 エンデヴァー号の発見したことはすべて全太陽系に放送されてしそのじつ、きつい運動など一分と耐えられないのだった。事実、か まっていた。ここにやってくるのに、あらゆるスピード記録を破っれらは肉体的には弱くなる傾向にあって、それも環境から完全に隔 たこの宇宙船こそ、その製作者の意志の延長であり、ある目的の離されていなければ生きていけないということを考えれば無理から ための道具に相違なかった。その目的もまもなくわかるのだ。三ぬことだった。だから重力を我慢できたとしても、水星人は地球の 0

5. SFマガジン 1976年3月号

た生物学的機械の全システムに依っています。動くもの、作るももちろん、使わないですめばそれに越したことはありません。少く の、耕すものおまけに戦うものまでいます。とはいえ、ラーマに女とも今はもう、以前のように無力ではないのです。 われわれがなんら事前に協議することなく一方的に事を進めてし 王がいるかどうかまだわかっていません、ニュ 1 ヨークと名づけら れた島が同じような機能を果しているではないか、としか申し上げまったことについて文句をいわれる方があるかもしれません。われ われは甘んじてお受けします。しかし、この場の方でーーー議長には られません。 こうした類推をしつこく押しつけようとするなど馬鹿げた振舞い申し訳ないがーーそんなことに対する同意が時間に間に合うように と思われていることでしよう。たしかにいろんな点で不備はあると固められただろうと思われる方がいらっしやるでしようか ? われ 思います。それでもきいていただきたいのは、こう考えるからです。われは自分たちのためにだけやっているのではない、全人類のため 人類としろありの間でかって協力や相互理解がなされたことがわずなのだと考えたのです。未来の世代の者はいつの日かわれわれの深 かでもあったでしようか ? 利害がかち合わない時は、まあ大目に慮に感謝することでしよう。 とはいっても、ラーマのように素晴しい工作物を破壊してしまう みています。しかしひとたび、片方が他の領地や資源に手を伸ばし たときは、容赦なく攻撃しているではありませんか。 など悲劇ーーーむしろ犯罪ーーーでさえあると思っています。もしこの われわれの技術力と知性のおかげで、しつかり決意さえすれば常方法以外に、人類の危機を避ける道があるのならつつしんでお聞き にこちらの勝利となっています。ですが、時にはなかなか難しいこしたい。われわれもなにひとっ方法が見つからず、時間切れになっ いてしまったのです。 ともあり、最後の勝利はシロアリのところへいくだろうと信じて る人さえいるほどなのです。 ラーマが近日点に着く前の数日間のうちに決断は下されなければ なりません。もちろん、エンデヴァー号には十分余裕をみて警告を これを頭においた上で、ラーマが人類文明に与えるかもしれない 与えるにちがいない、とはいいませんーーすさまじい威嚇のこ発しますが、ノートン中佐にも一時間前の警告ですぐ退避できるよ とを考えてみて下さい。もし万一最悪の事態となったときのことをうに準備するよう忠告しておきましよう。ラーマがいつなんどきま た劇的な変化をするかもしれないと考えられるからです。 考えて、何か処置をこうじたでしようか ? なにもしていません。 わたしの発言は以上です、議長並びに親愛なる諸君。ご清聴に感 わたしたちはただ話し、考え、書類を読んだり書いたりしただけで す。 謝します。皆さんのご協力を期待します」 ( 以下次号 ) さて、親愛なる諸君、水星だけはちょっとやったのです。二〇五 七年締結された宇宙条約第三十四条の規定、太陽系の安全を守るた めならばどんな処置をも取れる権利を与えた規定ですが、に基づき 行われ、ラーマに向けて高エネルギー原子装置を急派したのです。

6. SFマガジン 1976年3月号

ィーンがなんとかわれわれを脱出させられたのも、実は偶然中の偶はすべて公正な : ・ : ・完全に金銭に関係のない、・・ ヒシネス用語には訳 然だったのだ。 せない宇宙航行のゲームについてのあいまいな理解から生れたもの カルダーがわたしに復讐したいという願望を抑えたとしても ( な だった。地球の、なにがし調査委員会を思いうかべていただくだけ にしろわたしのうすのろを明晰さとかれが勘ちがいしたとき、わたでいい。委任された任務は技術的には遂行可能に思えたが、 ~ やらな しは眼の前でかれを笑いものにしたんだから ) 、かれにしてみれば かった、しかも遂行しなかった理由は、乗組員の一部が適性に欠け たいして失うおそれのあるものがあったわけではない。まあいすれていると容易に判断せざるを得ないようなサポタージ = がおこなわ にしろわたしの思っていた通りになった。カルダーはかれのやりかれ、その責任が主任パイロットにあると疑ったからである、とわた たと服従にそむくことでわたしが正しかったことを証明してくれたしがその委員会に報告する : ・ : ・これではまるつきり無責任なたわご ようなものだ ~ だがかれにしてみればそんなことになるとは望んでととしか聞えないのではないだろうか ? もいなかったし、満足できるはずもなかった。なにもかもうまくい だからつまりわたしは、狼狽し、無力感と嫌悪感にとらわれたた ったが、ただそれだけではなかった : め遅れをとり、そのわたしが沈黙している間に名誉回復のチャンス いまではかれの行為が非常によく理解できるが、自分の行為を説を・・・ーーわたしにはそう思えたのだが カルダーにあたえたわけ 明しようとすると、あいかわらす手も足もでないというのはやはり だ。意図的なサポタージュだと思われている嫌疑が不当であると証 奇妙だ。かれの行動をひとつひとっ論理的に再現することはできる明することができたはずだーーーわたしの命令にしたがうだけでじゅ が、自分の沈黙に説明をつけることができない。・ とうしても解答が うぶんだったのだ : : : 人間がかれの立場だったらそうしたことは疑 でてこない、とはいえない そういえば嘘になる。だったらいっ問 の余地がないだろうが、そもそもかれの計画にははじめからそう たいどうしたんだ ? 直観がはたらいたのか ? 予感か ? まさか。 いう事態の変化は予想されていなか、ったのだ。だからこそきっとか ただ、事故が起る可能性が、インチキカードを使う賭けーーーきたなれにとってその計画はより純粋で優雅だったのだろう。かれのほう いゲームにあまりにもよく似ているように思えたのだ。そういうゲから一言もなくても、わたしは自分と部下にたいする判決を自分で ームも共犯者もわたしの好みじゃないが、もしわたしが命令をくだ執行しなければならなかったのだ。そればかりでなく、ある一定の し、そうすることで起った事態を受け入れていたなら、カルダーは行動に、しかもあらゆることに対するかれの深い認識と意志にさか わたしの共犯者になっていたはずである。ところがそれにたいするらってまでして、かれを無理やりかりたてざるをえなかったが、そ 答がどうしてもだせなかったし、帰還命令にせよ脱出命令にせよどのかわりわたしは沈黙を守り通したのだ。そういうわけで、とどの かれ つまりわたしのあいまいな態度としょ・ほくれた〈誠実さ〉 んな命令をくだすのもためらわれたーーーそれらの命令はあるいはい ちばん正しかったのかもしれないが、あとでどうしてその理由づけがとことん無視し、さげすんでいた人間の〈誠実さ〉がわれわれを をしたらいいかわからなかったのだ。なにしろわたしの疑問と異議救い、かれをほろ。ほした、というわけである。

7. SFマガジン 1976年3月号

彼はこぶしを掌にうちつけた。 ラウンはどういうことになるんだ ? やつは・ハーンズのことを疑っ 4 8 ていたし、・ハーンズはあのあとすぐに現われて、その疑いがあたっ 『だがまてよ、あれがやつの戦略的な作戦行動にすぎんとしたら ? だとすれば、自分で自分の首をしめるようなもんだ、そうなればほてるようなことをいっている。少し話がうまくできすぎちゃいない かの人間もいっしょに道づれにすることになる。ところが船は、よ だろうか ? みかたによれば、それが全部たくらんだんじゃなく にごとも起らず平然としてるロポットどもを地球へ運んでいくといて、つまりおたがいに相手とかかわりなく自分だけの考えでやった う筋書きになる。ううん、するとあの紳士づらしたやつらを大よろことだったら、はじめに。フラウンがきて・ハーンズのつげ口をしたこ こびさせることになるそーーーちょっとやそっとのことじややれんよとも、それを確認しに・ハーンズがやってきたことも、間違いなく偶 うな大宣伝だ。そういう乗組員がいる船がどんなに安全が保証され然たったといえるかもしれない。あれを連中が計画してやるんだっ ているか、さんざんふきまくるこったろう。そうじゃない、といし たら、ああいう幼稚なやりかたはしなかったはずたーーーこれはえら 切れるか ? つまりは、やつらの見かたからすれば、告白という釣く頭の痛いことになったもんだ。こんがらかりだしたそ。いやまて 針で俺をひっかけるという思いっきはおそろしく効果的たったのかよ。もしいままた誰かやってきて、ほかのやつは全部、作りものだ もしれん』 なんていいだすかもしれん。こうなると賭た。まず間違いなくもう 。ヒルクスはますます足を早めて歩きまわっていた。 誰もやってこんだろう。そうなるとこの賭は少し結果がはっきりし 『どんなことがあってもそいつをたしかめなきゃならん。俺がなにすぎてるかもしれない。やつらもそれほどあほうじゃない。それに もかも結局はっきとめてしまったと、仮定してみよう。船内にはひしてもあいつらが本当のことを喋っていたら、どうなんだ ? あり ととおり薬品がそろっている。アポモルヒネを食事に一滴すったらえんことじゃないし、まだほかに話したがってるやつがいないとも しこめるかもしれん。人間は薬にやられて眠りこむことになるが、 かぎらんそ : : : 』 す たぶんロポットはそうはならん。当然薬にやられるはずはな、。 。ヒルクスはまた、ひろげた掌をこぶしでばんとたたいた。つまり るとどういうことになるだろう ? ます最初に全員が俺のやったこ なんにもわかっちゃいないということだ。行動にうつるべきか ? とに気づくことはまずたしかだ。それから、プラウンが人間で、。ハ だがどう行動するんだ ? それともまだ待機していたほうがいいの ーンズがロポットということがたとえわかるにせよ、そのことでやか ? たぶん待機しているべきなんだろう。 つらの喋ったことがなにからなにまで本当のことだったということ共同船室で食事をしているとき話をする者は一人もいなかった。 にはまだならんそ。自分たちの出生については本当のことをいった ビルクスは、自分の船室で思いっき、どうしても決心がっかないで ・、、ほかの話はぜんぶ戦略的な作戦だったかもしれん。まてよ。・ハ いた〈化学的テスト〉を試みてみたいという誘惑とまだたたかって ーンズのやっ、たしか俺にはっきりしたやりかたーーーやつの表現で いたので、誰とも口をきかなかった。プラウンは操縦室にいたから いう勘がないことをそれとなくにおわせていた。ううん、すると・フ五人で食事をしていた。五人ともみな食べていたが、人間のふりを

8. SFマガジン 1976年3月号

装甲トラックに戻り始めた州兵たちの面前で、異変が起こった撃ーーーレーザービームや戦術核兵器をふくむ。ー・・も、その壁に穴を 当のトラックが、ふいにごうっとポンネットから火を吹いたのだ。 うがっことはかなわなかった。それは、あっさりとその爆発エネル 2 仕掛けられたテルミット 弾が爆発したような勢いだった。 ギーを吸収し、原始生物の体細胞が持っ卓抜した再生能力にも似た また私と向き合っていた軍曹は弾かれたように振り向き、おそらものを示して、瞬時にその傷口をふさいでしまうのだった。 くは直観にみちびかれて、再び私たちに向き直った。大きく見開か それがカ・ハーしていると計算される、直径約五キロ、高さ約一キ びと れたその目は、 : 信じられぬものを前にした驚愕で凍りついていた。 ロの真半球形のドームの内部には、今や何人も立ち入ることが不可 私は吐息をついた。彼が、たった今生じた異変の真相を論理的に能となっていたのだ。 しかし、もう手遅れだった。とことん 車から下り立ち、一メートルの近さにまで近寄って、一見高 つかみえたとは思わない までけりをつけねばおさまらぬ事態に立ち至ってしまったのだ。 分子で織られた不透明なカーテンに似たその湾曲した壁を私は見上 私は目を閉じて心を研ぎすまし、ルビーとサファイアの心にメッげた。その表面はかすかに脈動しているかのようでもある。向こう セージを送り込んだ、彼らすべてを殺せという指令を。その稀有な側の、ふかい森のたたずまいが、おぼろに暗緑色にかすんで見える。 どうすればこの壁をくぐり抜けることが出来るというの ? ーーー私 精神の持っ彼女たちの破壊力のすべてを、私は解き放ったのだ。 嬉々として彼女たちはその指令に従った。目をつぶったまま、自は呟いた。 しかし、クロトンは、出来るといったーーー私が彼らの唯一の希望 から深い谷底へ跳躍し続ける州兵たちの悲鳴を、私は聞いていた。 なのだと。それがすべての始まりだった。 やむをえぬ殺戮であるーーー私たちの正体を感づいたおそれのある目 よ、つこ 0 / 山中に、空軍のーが いや、より正確にいえば、サモンリくー 撃者を、残しておくわけこよ、 クロトンが私 墜落した瞬間からすべてが始まったのかも知れない。 に打ち明けた物語を綜合すると、そういうことになる。 その空軍機は、きわめて重要な「荷」を、日本からワシントンに たぎり立っ熱帯のスコール移送の途中であったのだと、彼はいった。最高軍機であり、すべて それは、ふいに目の前に現われた ・フ戸ジェクト に最優先する飛行計画でもあったのだ。 の壁のように。 しかし齟齬が来たされた。機は原因不明の事故により、ジェイス しかしどんな動きも示しておらず、うつろい易さを示すいかなる 徴候もなかった。それは、地上からドーム状の球面をえがいてそそンの近くに墜落した。らしき飛行物体の千渉によるものだと いう説もあるらしい。 り立つ、壮大な半透明の壁だった。 ドームが忽然 ともあれ、その直後から奇怪な事態が生じた。例の 人類にとっては未知の、想像を絶するエネルギーにみちびかれた リアー ある種の牽壁ーー・そう解釈すべきだったろう。いかなる物理的な攻と出現し、機の落下地点をすっぽりと覆いかくしてしまったのであ

9. SFマガジン 1976年3月号

えに、われらの高名なる同僚の水星大使がおられぬことがことさらます。そのいくつかはいささか驚嘆すべきものであります」 に残念に思われます」 ペレラ博士はびつくりしたようだったが、すぐにちょっとすまし 6 最後のひとことはどうも正確ではなかった 0 ポース博士は水星大顔に戻った。彼としてはデヴィッドスンが驚くようなことはなんで 使閣下が欠席していてとくに残念だなどと思っていなかった。どちも興味があるのだ。 らかといえば心配しているといった方がよい。外交官としての直観「最初に、注意すべきできごとがいくつか、あの若い中尉が」 では何かが起りつつあるのは確かだったが、優秀な情報網をもって かれは陸軍風の中尉という発音をしたーーー「南半球へ飛んでいっ してもそれが何なのか、かれにはヒントすらっかめなかった。 た時に起きています。あの大放電それ自体は、壮観ではありました 大使閣下の欠席届はいんぎんなものだったが、実のない手紙だっ が、さほど重要ではありません。むしろ、あのエネルギー量は相対 た。閣下は緊急でやむをえぬ用事のためビデオでも出席できぬこと的にはわずかなものだったとも言えるのです。しかし、それはラー を遺憾に思うというのだ。 : ホース博士にはラーマより緊急で重要な マの回転周期の変化および飛行姿勢ーー・ースペ 1 スにおける飛行方位 ことなどなにひとっ思いつけなかった。 の変化と同時に起きたのです。これには莫大なエネルギ 1 が必要だ 「委員のお二人が発言を希望されています。デヴィッドスン教授かったのです。放電であやうく命を失くしかけた、パック氏には申し らどうそ」 訳ないが、あの放電も単なる副産物にすぎずーー南極の大避雷針群 委員会の科学者たちが興奮してざわざわしはじめた。騒ぎはじめによって最小限にされながらも発生してしまう公害のようなものな たのは、あんな宇宙観にしばられた天文学者が、″宇宙諮問会″ののです。 会長になるのはよくないと思っている者がほとんどだった。かれは わたしはここから二つの断案を下しました。ある宇宙船がーーーわ しばしば、知的生物の活動など星ぼしや銀河に満ちみちたこの荘厳れわれはラーマをそのファンタスティックなサイズにもかかわらす なる大宇宙にとってまるで取るにたりず、あまりにそうした事柄を宇宙船と呼ばなければなりませんーーー飛行姿勢を変えたときは、そ 問題にするのはよくない 、といった印象を与えていた。当然、まつれは通常就道の修正が近いことを意味しています。それゆえわれわ たく逆の立場に立っぺレラ博士のような宇宙生物学者たちに好かれれはラーマがただ通り過ぎてまた星ぼしの世界に戻っていくのだと るわけがなかった。彼らにとっては、宇宙の唯一の意味は知性体を いう考え方のかわりに、わが太陽系のもうひとつの惑星になろうと 生み出すところにあるので、えてして純粋な天文学的現象をばかにしているのだと信じている人々の見方を真剣に考えてみなければな したしゃべり方をするのだった。″単なる無機物″というのが得意らないのです。 の捨て台詞たった。 もしそうとするなら、エンデヴァー号はただちにもやいをとかな 「大使」天文学者が話しはじめた。「わたしはここ数日のラーマのければならないのです。そういうんですね ? ラーマ上にこのまま 奇妙な活動を分析し、ここでわたしが達した結論を述べたいと思い いれば大変な危険に見舞われるでしよう。ノートン中佐はこの点に レフテナント ルテナノ

10. SFマガジン 1976年3月号

んでは人間だというし、トムソンはそうではないと主張している。 に分かれるようにするんだ。分割して統治しろーーーこれはどうだ ? だが、けつきよくトムソンの間違いだということだってありえない状況のこまかい分析が必要だそ。まずなんかとんでもないことを引 9 ・ハーンズは ? 非線型体なんだろうか ? かりにき起すべきだ、さもなきやけつきよくなにもわからずにすんじま 話じゃない。じゃ そうだとしておこう。五人の乗組員のうちすくなくとも二人は非線う。しかしどうやってそれをしかけるかが問題だ。だれかが急に失 型体だ、ということになるんだろうか ? ううん。これにからんで踪した、と仮定してみよう。だめだ、それじゃまるでばかばかしい や いる会社の数のことを考慮すれば、三人じゃなきゃならんはずだが探偵ごっこじゃないか。俺がだれかを殺ったりゅうかいしたりする : ・連中はあちらで、つまり会社でどう判断したんたろうか ? やわけにはいかん。相手が俺とぐるになって馴れあいでやらなきゃな つらの製品をだめにしてでも、この俺がどんなことでもやる、とふらんということだ。ところではたして誰が信用がおけるだろう ? 1 ンズ、トムソンそれと んだんだろうか。それは俺にはできないが、船がなにかトラブルに味方らしいのは四人いるーーープラウン、 この手紙をよこしたやつだ。しかし、どいつもこいつも当にはでき まきこまれると考えたんだろうか。たとえば、過負荷とかポイラー このゲ 1 カんーーーやつらが本音をはいてるかどうかわからんのだ の事故とかなんかそんなことだ。そんな事態が起ってパイロット、、、 ムを台なしにしてしまうようなやつを相棒にしてしまったら、えら 二人とも役にたたなくなったうえ、この俺もごどうようだったら、 い目にあうことになる。たぶん手紙を書いたやつがいちばん当にで 船は一巻の終りた。しかしそれじや連中には都合が悪いはすた。と をしささか精神異常者じみたところがないでも なると、すくなくともどっちか一人、パイロットが非線型体だってきそうだーーーやつよ、、 ないカ、いちばんこの件に関心を持っているようだ。だが、だいい ことになるそ。しかも核機関士もいる。ふつうこの二人がいなきや 着陸の操船がやれないはずだ。ということは、最少限二人、むしろちに誰なのか俺は知らないし、当人もそれを明かしたがらない。第 、・ハーンズ、プラウンそして二に、そういうことじゃいい関係はもてつこない、ということだ。 三人いると思ったほうがいい。すると パ 1 トンかほかの誰かだ。かってにしろ、もうこれいじようせんさたしかにこいつは不可能なことだ。じや船をタイタンにぶつつけて くするのはやめだ。今かんじんなことはなにか考えることだ。畜みるというのはどうだろう ? やつらの肉体ならまちがいなくたえ られるだろうが、まずこっちが先に首の骨を折ることになりかね 生、考えなきゃならん。考えろ』 ん。知力という意味でもやつらが劣ってるとはとても考えられんと 彼は明りを消すと着がえもしないでべッドにごろっと横になり、 そのまま、ひとつひとっ考えを検討していき、一番ありそうもないすれば、あとはあの勘だけということになる : : : 創造力の欠如とい ってもいいが : : : しかし、人間だってたいていのやつはそんなもの のからつぎつぎとすてていった。 『なんとか挑発して連中をつつきだす必要があるそ。たがいに挑発はありやしないんだ。すると残るのは ? 知力で張りあえんのなら、 いわゆるヒューマニズムという しあって消耗するのがいいが、この俺には関係なく自然に起ったみ情緒で張りあってみたらどうだ ? たいになるのがいちばんだ。必然的に人間とそうでないのがふたてやつだ。人間性かな ? 思いっきは悪くない、だがどうやるんだ ?