二本足 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年3月号
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1. SFマガジン 1976年3月号

信号を送った。 作で動い ' てるんだろうか ? 』 かれらはあわててテレムタクをだまらせ、 Z はテレム ベルトのわきでアルドリホをかかえて様子をうかがっていた 3 タクとアルドリホを連れて、ねばねばする帯状のもののわきへ退がに・はさつばり理解できなかった。 生物はすぐそばまできていた。 り、めだたぬよう息をひそめて待ちかまえた。 こっちへ近づいてくるものがいた。それが二本足の知的生物たと腐りかけている柱のそばにいた Z e がそれに近づいてい いうことはすぐわかった。直線とまではいかないが体をたてて歩いき、テレバトを送信に切り替えた。 / が、それいじようは望めないく ていたからだ。その二本足の生物は、粘着性ベルトの上を一方の端「やあこんばんは、きみ。テレ。、ト から一方の端へ複雑きわまりない曲線を描きながら、しだいに姿をらい巧みに声を調整して二本足の生物の言語でソフトな発声をし はっきり現わしてきた。はその曲線を記録しにかかっ た。それにあわせて Z も中でス。フリングを操作してマネ たが、あまりやっかいで観察が混乱してしまった。どういうわけかキンの顔にあたりさわりのない微笑を巧みに表現した。これもまた さつばりげせなかったが、その生物は水にもぐるようなかっこうをアル一てハラン人たちのするがしこい悪魔的なトリックのひとつだっ してべちゃっと体を倒すと、不満そうなぶつぶついう音をだした。した。かれらは惑星征服の術になかなか長けていた。 ばらくそのまま四つん這いで前進してきたが、は、や「な・な・な・んだ・と ヒク ! 」と答えて、生物はゆらゆら体 がて様子から判断してそれがまた直立しようとしているらしいと思をゆらせて立ちどまった。ゆっくりと二本足の人形に近寄ってくる った。立ちあがったその生物はねばねばする・ヘルトの表面に波型をと、その顔をじっと目をこらして見つめた。は平然と 描きながら近づいてきた。しかもいまやそれは吠えるようなうめきして見返していた。 声をだしていた。 『さあいよいよ高度に組織された知性とのコンタクトがはじまるそ、 「記録しろ ! 記録して翻訳するんだ ! なにをぼんやりしてるんうまくやれよ』ベルト地帯のわきにひそんでいる ()5 はア だ」二本足の人形の中で、 Z がテレバトに腹をたてて、 ルドリホの脇腹をせかせかと抱きよせながら、腹の中でつぶやいた。 摩擦音を高くした。かれはといえば、二本足の生物が発するすさま縫いぐるみの中のは、テレ。ハトを同時通訳可能な ファースト・コンタクト じい咆哮がますます近づいてくるのをぼうぜんとして聞いているほ状態にすると、こそっとも音をたてないで最初の接触の戦略的な指 かなすすべがなかった。 示を触手で調整しにかかった 「ウワハ′′ ウワハハハ ! 」闇の中で力強くひびきわたった。 肩幅の広いがっしりした体が、二本足の人形にびったり目を近づ テレバトのスクリーンは熱にうかされたようにふるえたが、しかけると、意志伝達口から激音を噴出させた。 こん・こんちきしようー 「フ・フ・フラ・ネクじゃねえかー しなんの意味も伝えなかった。 『どうしてあんなまわりくどい歩きかたをするんだろう ? 遠隔操てめえ : : : てめえ : : : 」

2. SFマガジン 1976年3月号

から唸り声がしてきた。 テレムタク赤特殊な模造分泌腺を持っていたおかげで、斥候たち 「気をつけろ ! 」が摩擦音でいった。 はすば、やく粘土を集めると、二本足の生物の実物大の精巧な複製を 長く尾をひくような唸り声をたてて、ななめに降下したり上昇し作った。 その粘土をプラスチックに似た物質の薄膜でつつみこむと、マネ たりしながら迫ってきた。そいつは、はがれた皮膚が背中でばたば た風にはためいている、ずんぐりした大きな動物で、これと比較でキンは白っぽい・ハラ色を帯び、本物そっくりになった。テレムタク きる生物はちょっとほかにいなかった。 とテレバトの指示にしたがって、頭部と下肢の形をととのえた。っ 「おい、あれは多核体じゃないだろうか ? 」が興奮しぎに合成繊維を広げると、機械に乗っていた二本足の生物が着てい たものに似せて服を裁ち、マネキンにそれを着せた。 た声をだした。 その黒いかたまりが、かれらと肩を並べられそうになるくらいまはテレバトをかかえて、なかががらんどうになっているマネキンへ で低いところへ降りてきた。奇妙なはじめてみる機械のそばに近づ静かに這いこんだ。テレ。ハトの前方のスクリーン・ホールをマネキ いたときみたいに、かれらは猛烈な勢いで回転している車輪をよくンの口から外へ押しだした。こうしてはすっかり変装 見きわめようとしたが、泥をたつぶりあびせかけられるとさすがにし終ると、マネキンの下肢をこうごに動かしてぬかるみを前進しは じめた。アルドリホを背おったはその重さで腰がまが 逃げだしてしまった。 耳ががんがん鳴って、触手の上から下まで泥まみれになった斥候っていたが、すこし離れてあとからついていった。志向性索綱を解 いてもらって、自由になったテレムタクが先導していた。 たちはよごれを振いおとすと、機械がだしている唸り声と轟音が、 変装はかれらの典型的な作戦だった。アルデ・ハラン人はいままで ちゃんと区切りのついた音節音なのかどうか調べるためにテレバト もいく十もの惑星でこの手慣れたやりかたを使ってきたが、いつも のところへ駆寄った。 『あまりよく調整されているとはいえない状態で炭化水素と酸素で申しぶんない成果をおさめていた。マネキンはこの惑星の住民とび つくりするほどよく似ていて、途中で出会った二本足の生物もぜん 作動する原始的なエンジンが発する非律動音である』という意味の ・せん疑わなかった。 Z はマネキンの四肢と体の動きを自 コードを読み取ると、二人は顔を見あわせた。 「そんな馬鹿な ! 」がいった。それからちょっと考え由自在にあやつれたし、テレバトがいるので二本足の生物ともよど こんで、いささかせつかちな仮説のきらいはあったが、こいつは自みなく話ができた。 分たちが創った機械を虐待して、おのれの本能を満足させている潜暗い夜がやってきた。地平線のかなたに構造物らしいもののまば マネキン らな明りがちらちらまたたいていた。は鎧を着て闇 在的加虐性文明だ、とつけくわえた。 テレバトは、機械の上部にあるガラス箱の中の二本足の生物のみの中を橋とお・ほしきものに近づいていった。下の方で水が流れる音 がしている。先頭をテレムタクが這い進んでいく。とそのとき、危 ごとな映像をウルトラスコープで記録することにうまく成功した。

3. SFマガジン 1976年3月号

の鼻 0 ー見 トイク餮 k. その惑星に降りた 0 たアルデバラン人の前に 突然あらわれた知的生物はニ本足だ。た・ , ・ ,. これは、まあ現代といってもいいついさきごろあ った話だ。 あの三〇世紀のリンネイといわれたネイレアルフ が、ラルツ亜網メガロプテリギイ目の一種とみなし た、二六八五年に発見されることになっているアル デ・ハランの知的種族の代表が二人、わかりやすく うと、第六分割外縁空白区に植民可能な惑星が存在 シンシチウム・ア するかどうか調査するため、アルデ・ハラン多核体会 議 ( いわゆる最終代表者会議ともいわれる ) が派遣し たメガロプテリクス・アムビグア・フリルクス種の二 体が、そもそも木星にやってきたことからことはじま る。かれらはそこでアンドロメタクリャストルのサン プルを採取し、それがテレバト ( これについてはあと でふれる ) の飼育に使えることをたしかめると、この 太陽系の第三惑星ーー中央天体のまわりを面白くもな い円軌道をえがいているちつぼけな球体ーーもついで に調査していくことにした。 二人のアルデ・ハラン人は、宇宙船でたった一度超空 い / 、り、か 間転位をしただけで超空間を跳びこえると、 船は加熱したが、大気圏との境界ふきんにひょいと姿 を現わし、スビードを落して大気圏に入っていった。 宇宙船の下を海と陸がゆっくりと流れすぎていく。こ こでふれておくだけの意味があると思うが、アルデバラ ン人は人間とはちがって、ロケットの中に乗りこんで旅 行するのではなく、逆にロケットのほうがかれらの体の 2 中に入っているのだ。もっともロケットの尻はべつだ セソ・プリ

4. SFマガジン 1976年3月号

険をつげるかれの甲高い声と爪をたてるばりばりという音がひびきに侵食されたセルローズ物質でできている」はその場 わたったが、たちまち重い水音がしてすべてがやんだ。 でたちまち分析結果をだすとそういった。 Z が橋の下へ降りていくのは具合が悪かった。だから かれらが柱の下部を照らすと、柱の根元のところに、文字を書い }-< がそこへ這い降りていき、じゅうぶん警戒しなければ たセルローズ物質の薄片が泥にまみれて落ちているのがみつかっ いけないのに敷石のすきまから転がり落ちてしまったテレムタクをこ。 さんざん苦労したあけく川からひつばりあげた。二本足の生物が乗 われわれの町 : ・ った機械が、ついさっき橋を通り抜けたばかりだったから、まさか 今朝スプート : 穴があるとは思ってもみなかったのだ。 七時四・ : 「こいつは罠だ ! われわれが来たことを知られてしまったにちが と、それには書かれていた。 いない ! 」 > が断定した。 テレバトが普通の文字に翻訳した。それを見て斥候たちはきっぬ Z はそいつは疑問だと思った。斥候たちはゆっくりとにつつまれたような顔をした。 警戒して前進をつづけ、橋をわたりきった。そこで黒い茂みの群の 「わかったそ。この標識は空を指してるんた。低地ムイチスカとい 間を貫通していた泥沼のような帯がここでふたてに分れていることうのはきっと、永久衛星のことにちがいない」 > rs.5 がいっ にすぐ気づいた。分岐点のところに、板のきれつばしが打ちつけてた。 あるかたむきかかった柱が立っていた。それはやっと地面に立って 「ばかばかしい。どこにそんな衛星がみえる ! 」 Z ()0 が二 いた。板のとがったほうの先が夜の地平線の西を指していた。 本足のマネキンの中からいった。 しばらくかれらはあれこれその問題を検討していたが、柱の裏側 斥候たちが命令すると、テレムタクは六個の眼から放ったみどり がかった光で柱を照らした。アルデ・ ( ラン人たちは《低地ムイチスも照らしてみた。よく見ないと気づかなかったくらい薄くなってし ・ : 〉という文字が刻んであ まっている、〈すてつきなマルイシャ : カまで 5 》とある標識があるのを認めた。 かれらにはその意味がさつばり解読できなかった、腐りかかったるのをみつけた。 「これは衛星の軌道テータを省略した記号らしい」 > が 木に書かれている文字はやっと読めるぐらいに消えかかっていた。 「こいつは古代文明の遺物だ」が推理した。 ztex 意見をのべた。 は外皮の中からその標識にテレバトのスクリーンをむけた。 かれが消えてしまって読みとれないそのあとの文句を復元しよう 「これは方角を示す標識だ。それにしても奇妙な代物だ」かれは後と、燐酸のようなものをふくんだロで柱をこすっていると、暗闇で 部スクリーンで解読するとにいった。 テレムタクが警告を伝える弱い超摩擦音を発した。 「この柱状物は、アル・ハケトニア型のかびパ。ヒラツィアト・ガルグ「気をつけろ ! かくれるんだ ! 」 Z が > に マネキン ロ 3

5. SFマガジン 1976年3月号

きないが、もちろん、宇宙服をぬがせるわけにはい "The F War の掲載された り、骨盤は一メートル近くあった。肩とか首という かない。では、どうすればいいのか ? そのトラブ アナログ誌 ( 七一一年六月号 ) 表紙 ものはなく、二つの眼は魚の卵のよう。ま、そんな ルをなんとかきりぬけた時、地平近くに、一隻の宇 やつらだった。 宙船があらわれ、みるみるうちに近づいてきた。敵 の ~ 彼らの基地を攻撃したのは、そのあとである。屋 か味方か ? なんておどろかしてもしようがない。 上からアンテナをだした建物があり、それが目標だ 味方たった。ターゲット用のロポットを百台ばかり った。おれたちは、榴散弾をもって突撃した。やが 運んできたのだ。基地を設営し、ロポットを相手に て、あたりが静まり、おれは、自分の宇宙服が血だ 攻撃訓練も終「したおれたちは、さっそく、最初の らけなのに気づいた。しかし、その血はトーランの 任務についた。 , 御者座エプシロンをめぐるある惑星 ものだった。今回は、こっちの一方的な勝利だっ につくられた敵の基地を破壊するのだ。 た。しかし、次はもっと激戦になるだろう、とおれ おれたちは、その星の海岸近くに着陸した。ジャ は円いった。それは正しかった。 ングルの中を黙々と進む。と、先頭から連絡がはい った。動くものがいる、というのだ。敵、トーラン か ? そうではないようだった。四つ足の動物で、 これで第一部は終わり。こんなったない紹介で 三つ足で移動し、残る一本は手として使われていく照っている。地球時間で夜、ということである。も、おわかりの方はあるだろう・ー・本篇は、ロく る。ただの動物のように見えた。しかし、指揮官はそのキャン。フのまわりの茂みをかきわけて出てきたト・ ・ハインラインの『宇宙の戦士』の影響下に 攻撃を命じた。トーランってのはどんな格好をしてのは、さきほどの動物、ーー・ ( 力でかいテディ・ペアかかれた作品なのだ。『宇宙の戦士』は一九五九年 いるのか、まだ誰も知らない。だから、この無害そみたいなやつらだった。それが、おれたちのキャンに発表され、その思想ゆえに物議をかもした長篇だ うな動物がトーランかもしれないのである。おれたプをぐるっと取り囲んだのだ。今回は、指揮官も攻が、その影響下にうまれた作品が少なくとも三篇あ ちは攻撃し、その数体の動物をレーザーで殺した。撃しろとは言えなかった。 る。ひとつは、、 ノリイ・ハリスンの『宇宙兵プルー 奇妙なことがおこったのはそのあとだった。中国人歩哨に立っていた時のことだ。おれは人類としてス』、そして、ゴードン・・ディクスンの Naked のホーが倒れた。脳内出血だ。ほかにも数人、ひど初めて、トーランを見た。東の空をゆっくりと飛ん ( 0 the sta 「もう一冊が、この ( ルドマンの作品 言 ) 0 い頭痛を訴える者がでた。みな精神的に感じやすいでいくものが見えた。魔女の乗るホーキみたいだ。 タイプだった。この動物は、死ぬ時になにかの念波それに乗っているのは、例のテディ・べアよりはち実は、これを書いている途中で、いいタイミング をだし、それにしてホーは死んだのだろうか。 よっと人間に似ている。手と足は二本ずつだったで〈ルナ・マンスリイ〉というアメリカのファンジ おれたちは夜営をした。といっても、太陽は明るが、その腰は両手でつかめるほど細く、そのかわンが送られてきた。そのなかで、ポール・ウォーカ 0 0 0 0 0 1 3

6. SFマガジン 1976年3月号

先日、久しぶりに古書店巡りをやっていたら、「二人日本人になり舞台が日本に移されているようなケースが 女王」という本があった。大正七年刊行の本で、作者は非常に多いのだ。 硯友社の江見水蔭。明治の冒険雑誌「探検世界」の主筆ウエルズのタコ型火星人が大森海岸から、川崎競馬場 を務めたこともある人で、以前このページで紹介したのほうへ攻めてきたり、「洞窟の女王」の恋人が東京の ・ウ 「三千年前」などの冒険小説をいくつか書いている。麹町に住んでいたり、ジャック・ロンドンの「シー ばらばらっとページをめくってみると、箱根の山中に ルフ」の活躍舞台が南洋になっていたり、うつかりする ふしぎな石室があって、絶世の二人の美人とその育てのと、貴重な ( ? ) 資料たと気づかすに、買い逃がしてし 親が住んでいる、という話のはじまりた。 まうケースも少なくない。 価格は千と五〇〇円二ほくは、これは掘出しものとば そんなわけだから、明治の冒険小説作家である江見水 かり、喜び勇んでその本を買った。説明の要はないと思蔭の名前と「二人女王」のタイトルを見た・ほくが、これ う・、、・ほくはてつきり、その本を、あのイギリスの文豪をハガードの作品と思いこんだのもむりはない。 ・・ハガードの「二人女王」だと思ったのだ。 ところが、この「二人女王」、読み進んでいくうちに たしかに、話のはじまりはハガードの作品とは異なっ どうも話の運びがおかしいことに気がついた。アラン・ ている。でも、当時の翻案とよばれる翻訳は登場人物がクオーターメンに相当する主人公が、いつまでたっても ( 一第第三十三回海野十三の世界、その三 : 205

7. SFマガジン 1976年3月号

『この生物は攻撃的状態にある ! いったいなぜだ ? 』 Z しぼって闇にむかってアルドリホの狙いをさだめた。 はとっさにそれに気づき、テレ。 ( トの惑星間ヴァコココムの分泌ふるえる触手でかれは発射突起を押した。すると、静かなうなり 腺に圧迫を加え、相手のいっている意味を知ろうとした。 声をたてて一群のサーガが死と破滅を運んで夜の闇にむかって突進 「べつになにも意味はない」と、テレバトのスクリーンが自信なさしていった。だが、すぐにサーガは引き返してきて、円を描きなが そうに信号をだした。 らアルドリホの装弾腔に這いこんでしまった。は息を 「それはどういうことだ ? 音が聞えてるじゃよ オいか ! 」のんでふるえあがった。あの生物が、絶対貫通できないアルコール は音にならない摩擦音でいった。とその瞬間、この惑星の住民蒸気の防御幕を張 0 たことがわかったからだ。かれはいまや無防備 は根元が腐っている柱を両手でつかむとものすごい音をたてて地面の状態におかれた。 から引き抜き、いきなりそれをふりかざし二本足の人形の頭めがけ麻痺していうことをきかない触手でアルデ・ ( ラン人はもう一度砲 ては 0 しと打ちおろした。プラスチックに似た物質でできている火を開こうとしてみたが、サーガはただ装弾嚢の中でぐずぐず這い マネキン 鎧はそのおそるべき打撃にたえられなかった。マネキンの頭が。ほまわっているだけで、死をもたらす針をふりたてて飛びだすやつは ろっと黒い怩の上に落ちた。敵が勝利を宣言する長く尾をひく怒号一匹もいなかった。二本足の生物がびたびた音をたてかれのほうへ はもはやの耳にはとどかなかった。棍棒の端がちょっやってくる気配と音がした。ふたたびするどく空気を切る音が地面 と触れただけで、テレバトはおそろしい勢いで空中に跳ねとばされを打った。こんどはテレムタクが怩の中にたたきのめされた。 てしまっていた。だが、不幸中の幸か、偶然恐怖が麻痺したように動はアルドリホをほうりだすと、テレバトを触手でひつつか けないでいたのすぐそばへ四肢を拡げて落ちてきた。 み藪の中へ跳びこんだ。 こんちくしよう 「攻撃してくる ! 」はうめき声をあげると、力をふり「おふくろとやりやがれ ! ・ : 」おそろしい轟音がかれのあとを追 いまを去る アン一アルセン一ム決定版ー・コペンハーゲン中の鐘が高く鳴りひびいた ハンス・クリスチャン・ こと百年、一八七五年八月四日、 アンデルセンの逝去を告げる鐘の音であった。澄明で、美 房 しく、ユーモアにあふれる童話作品群があとに遺された。 「ばくの強い空想癖はばくを精神病院へ導き、激しい感情 アン一アルセンの生厓はばくを自殺へと駆りたてる。だが、この二つを結びつけ れば、ばくは偉大な詩人になれるかもしれないのだ」 モニカ・スターリング / 福島正実訳 号昻揚と落胆の間を振子のように揺れながら、アンデルセン 一七〇〇円は一九世紀ヨーロッパのロマンと動乱を生き抜いた。 絶賛発売中 ! 野生の白鳥 5

8. SFマガジン 1976年3月号

ックに身をかたくして、ささやいた。 向を逆にし、一方三本のムチを進行につれて稲妻のように地上に叩 きつけているようだった。その最高速度は これまた見つもるの 5 「動いちゃだめ、ビル。そっと右側を見てちょうだい」 ノートンは頭をめぐらせた。十メートル先に、サッカ 1 ポール大はきわめて難しかったがーー・時速三十キロは少くとも出せそうだ。 の球形の胴体をのせた細い三本の足をもつものがいた。胴体のまわそれはキャンプ中を猛烈なスビードで駆けまわって、ありとあら りには、表情に欠けた三個の大きな眼がついていて、明らかに四方どゆる物品に用心深くさわりながら調べまわっている。簡易べッ こでも見渡せるようになっており、その下からムチを思わせる三本簡易椅子とテー一フル、通信装置、食料コンテナ、電子処理トイレ、 の触手が出ている。そいつは人間ほどの背たけもなく、とても危険カメラ、飲用水タンク、道具類ーーーそれこそ何ひとつ見のがさなか と思えないほど弱々しげであ ? たが、だからといって、そいつに不っこ : 、 ナカなぜか見守る四人はまったく無視されていた。明らかに、 意をうたれるまで全然気づかなかった不注意の弁解にはならなかつ人間とその無生命の所有物との区別をするだけの知性をそなえてい た。三本足ではくもやガガンボに似ているはずもなかったが、ノー たし、その行動には、組織的な好奇心と探究心とが見まちがいよう トンが気になったのは、それが地球上のいかなる生物も経験したこもなくうかがえた。 とのない問題をどう解決したのかということであった。つまり、三「あれを調べてみたいわ ! 」ローラはそれがす早い旋回を続けるさ 本足でどうやって動くのかという問題である。 まを見て、どうにも我慢できないというふうに声をあげた。「捕ま 「あれは何だと思う、先生 ? 」彼はテレビのニュース解説者の声をえてみましようよ ? 」 「どうやって ? 」キャルヴァート が至極もっともな質問をした。 切って、ささやいた。 「例によってラーマ特有の三重スタイルね。わたしの目には害もな「ほらーー原始人のハンターがロー。フの一端に重りをつけたのを投 いように見えるけれど、あのムチみたいなのが不愉快ねー・・・・クラゲげて足の早い動物を倒すって方法があるでしよ。あれなら傷つけす の刺肢のように毒があるかもよ。坐ったまま何をするか見ていましにすむわ」 「それはどうかな」と、ノートンは答えた。「もしうまくいくとし よう」 数分間おとなしく注視していると、それは急に動き出したーーそても、そんな危険なことはやれない。第一、この生物がどれほどの いつが現われたときになぜ見落してしまったのか、やっと理由が判知性を持っているかわからないし、その方法ではあの細い足は簡単 に折れてしまうだろう。そうなるとわれわれはとんでもない悶着に 明した。動きのなんとす早いこと。とても人間の五感ではついてい けないほど異様な回転運動をしながら地表を走っていくのだ。高速まきこまれることになる。ラーマや地球はもちろんあらゆる連中か 度カメラでも持ちださぬ限り断定はできなかったが、ノートンの判ら非難されるよ」 断したところでは、一本ずつ順番に足を旋回軸にして身体を回して「でも、なんとか見本の一つぐらいは手に入れたいわ ! 」 行くらしい。それに確信はなかったが、どうやら数歩ごとに回転方「ジミーが取ってきた花で我慢しなけりゃならないだろうな

9. SFマガジン 1976年3月号

′ ( ~ 第登場してこな いのだ。 囹海野の傑作、幻の金博士シリーズ そのうち、 一人の娘は華海野十三は、約二十年間の作家生活のあいだに長短四 族の嫁さんに百余の作品を書いている。作品数の多い作家は、たいて な ? てしまうい幾つかのシリーズ作品を持っているものだが、海野も し、もう一人例外ではなく、ざっと数えても五指を超える数のシリー はドサ回りのズものを著わしている。第三十回で紹介した「怪塔王」 手品師になっ ほかの青年理学士探偵帆村荘六の登場する一連の作品 は、その海野のシリーズものの代表作だが、これ以外に 4 てしまった。 ・ : 早い話も「謎の透明世界」ほかの蜂矢十六探偵、「怪盗女王蜂」 が、この小説ほかの女流探偵風間光子、その他、赤星探偵、蜂矢風子 はハガードの「二人女王」とは、なんの縁もゆかりもな探偵などのシリーズがある。 い物語たったのだ。どうも、・ほくはハガードとは相性が だが、これらの人物を主人公としたシリーズは、残念 よくない。以前にも通信販売で「双子美人」という本をながらいずれも帆村ものの亜流の域を脱していない。蜂 新 買ったことがある。これも、「二人女王」ではないかと矢探偵も赤星探偵も、どこが帆村とちがうのかわからな 思ったのだ。届いた本を読んでみたら、かわいそうなか いくらい個性を持っていない。 わいそうな双子の芸者のおはなしだった。 しかし、その中にたったひとりだけ、帆村荘六に優る でも、ぼくのまちがいなんかまだいい ~ まうで、ある友とも劣らない個性的なキャラクターの主人公の活躍する 人など「月の宮殿」という本を月世界テーマのファンタ シリーズがある。しかも、帆村のように、 co とミステ ジイだと信じて注文したら、女性の生理の神秘を解説しリーと二股かけた主人公ではなく、にだけ活躍す た本だった。 る。それが、今回紹介する″金博士″シリーズだ。 昭和五十一年の古本集めも、また苦難の道となりそう海野の作品を比較的数多く読んでいるファンにも、金 だ。・この「日本 cn こてん古典」回によっては、・ すいぶ博士の名はあまりなじみがないのではないかと思う。前 同 ん評判の悪いこともあるけれど、こんな悲劇的なできご号で、海野の代表的作品は、現在、そうむずかしくなく 下 とにもめげず努力だけはしている。 読めると書いた。 以 なんたかグチつ。ほくなってきたけど、今後ともョロシ だが、この金博士シリーズは、ぼくの評価では海野十 ク。それにしても、「二人女王」は損したなあ。 三の最高作であるにもかかわらず、大東亜戦争直前から 戦中にかけて雑誌に連載されたのみで、これまでに一度 2 2

10. SFマガジン 1976年3月号

「わたしもそれを考えているところだ」ノートンはそう答えながら いまひと握りの人間しかおらず、し・かも世界中を探検しなくてはな 緊急ボタンを押した。「こちらキャンプ・アルフア、全員へ告ぐ。 らないのに、時間はごく短く限られているのだ。意気込みだけで疲 たった今三本足のくものような生物が現われた。足は細く、背は二労を克服できるものではないし、かれはやりすぎて大変な危険をし メートル強、球形をしており、非常に早い回転で移動する。無害の よい . こんでしまったのではと怪しんでいた。もしかすると、広大な ようだが、われわれのことを調べまわっていを 9 気づかぬうちに近地域をカバーするために乗組員を小さなグループに分けたりすべき づいてくるかもしれない。調査次第報告せよ」 ではなかったのかもしれない。だがかれは、情容赦もなく過ぎて行 最初の答えは十五キロ東のロンドンから来た 9 く一日一日とまわりの手もつけていない秘密の数々を忘れなかっ 「とくに異状はありません、艦長」 た。何かが起ろうとしているんだ、とかれはいよいよ確信を持ち、 同距離西へいったローマからも、眠そうな声で返事がきた。 軌道変更が行なわれるにちがいない近日点に到着する前にラーマを 「ここも同じです、艦長。えーと : : : ちょっと、お待ちください : 去らなければならなくなるにちがいないとも思いはじめた。 「軸端、ローマ、ロンドン、全員に告げる」とかれは言った。「夜 「どうしたんだ ? 」 間は三十分ごとに報告せよ。今後は、どんな時でもあの巡視官がの 「今さっきペンを置いといたんですがー 1 失くなってるんですー そきにくる可能性があることを忘れるな。そのうちのいくらかは危 険かもしれないが、われわれはぜひとも不測の事態を避けなければ 「はっきり言うんだ ! 」 ならない。この件にかんしては全員が指令を忘れていないことと思 「信じていただけないでしよう、艦長。ご存知でしようが、わたしう」 はちょっとした覚え書きをする習慣がありましてね、書くのが好き そのとおりだった。それは基礎訓練の一部だった。誰一人として なんです、誰の邪魔にもなりませんし・ーー愛用のポールペンを使っ ″知性ある異星人との肉体的接触〃に関する長大な理論などが一生 ていました、こいつはもう二百年近くにもなる年代物なんです。そのうちに現われるなど信じもしなかっただろうし、ましてや経験す れが五メートルもはなれた地面に落っこちているじゃないですか。 ることになるなどとは夢にも思わなかっただろう。 どうなっちゃっているんでしよう。傷んでいないんで、ほっとしま 訓練はあくまでそれだけのことで、現実となれば話は別で、土壇 したがね」 場になった時に身にしみついた人類古来の生存本能で行動しないと 「どうしてそんな所へころがって行ったんだ ? 」 は誰もいえはしなかった。それでもなお、ラーマの内部で出合うも 「あの : : : わたしは少しばかり居眠りしていたのかもしれません。 のすべてを好意的に受け取るのが大切なのだ、最後の瞬間まで ずいぶんしんどい一日だったですから」 そしてそれ以上さえも。 ノートンはため息をついたが、叱ろうとはしなかった。ここには ノートン中佐は願うことなら、最初に星間戦争を引き起した男と スキツ・ハー