マセは、背を伸ばした。 がほとんど不可能になる ? 」 いよいよ、明白に挑戦しなければならないときが来たのだ。 「そうです」 今の今までは、すくなくとも今引きさがりさえすれば、これは、 「ひょっとするとあなたは : : : ああ、ツラツリ交通の工事の話を打 司政官の、司政官の手の届かぬ巨大組織へのいやがらせというだけ切ったことをいっておられるんじゃないですか ? あれは、植民者 で済むものであった。営社や営社につながりのある連邦経営機構高や先住者たちの、まだそれそれがあまり融和していない地域を結ぶ 官の機嫌を損しるかも知れないが、おのれの職務を信じ切り司政官路線でした。あの工事が遅れることで、司政がやりにくくなると、 のかっての誇りを取り返そうと焦ったひとりの自信家が、文句をつそうおっしやりたいのですか ? 」 けに来たのだという程度で終るものなのである。 いまや、司政官による司政などというものが実際に存在している いいたげな口調であった。 彼は、この間からきよう迄の、事態に気がっきだしてからこの支のかねーーーと 部へ来る迄に自分のやったことに、手抜かりがなかったかどうか考マセはそれを無視した。 えようとした。 : 、 力分らなかった。自分なりに万全をつくしたつも「パニックですよ」 と、マセはいっこ。 りだが、何か誤りをおかしているかも知れない。それでも仕方のな いことなのだ。第一、自分の計算が完全であったとしても : : : 責任「パニック ? 」 を問われかねないのである。それでもいいのだった。ここで、長い ボウダの目が光った。もう微笑は影さえなかった。「これはま あいだそうでありたかった司政官らしい司政官になるための、そのナ こ、妙なことをいわれますな。なぜ、パニックがおこるんですか ? 一歩を踏み出すには、その位の危険は覚悟しなければならないので何がはじまるんです ? 大地震ですか ? 惑星の衝突ですか ? 」 あった。 ボウダは知っているのだ。あきらかに知っているー、ー・・と、マセは 「申しあげますが、あなたがたのこの支部の閉鎖は、引金になるか確信した。ボウダの顔には、お前にはいえないはずだ、という表情 も分らないのです」 があった。お前はラクザーンの太陽が新星になるのを知っているだ 彼はいった。「あなたがたのこの支部の閉鎖によって、この世界ろうが、司政官として、それを口に出すことは出来ないのだ。司政 官みずからが。ハニックを引起すようなことを、やれるわけはないの の司政は、あるいはほとんど不可能になるかも知れないのです」 だ。連邦経営機構からの退避作業実施の要語が出る迄は、司政官、 「それは、どういうことですかね」 お前は沈黙を守らなければならないのだ。われわれもまた、それを ボウダは問い返した。ボウダにも、ようやく司政官が本気だとい 知っていることを言ったりはしない、お互いに知らぬ顔で通さなけ うことが分って来たらしかった。 ればならないのを : : : それを破ることは出来ないのだそ、という目引 それでもボウダは、まだ切り返そうと試みた。 「あなたのいわれることは、どうも私には理解出来ませんな。司政つきなのであった。
「いかなる団体・個人といえども、植民世界の存立がおびやかされ ボウダは、・ゆるやかに、大きく首を左右に振ってみせた。「それ る状況下、またはあきらかに存立がおびやかされると思われる状況は、経営上の秘密に関する事項です。私にはそれをお話しする権限 9 下では、植民世界の存立を維持するための司政官の指示に従わなけがありません。許可を貰わなければ洩らすことはできないのです ればならない」 よ。たとえ相手が司政官であってもね」 はなめらかな合成音で、条文を誦しはじめた。「これは「本当に、このラクザーンが平和で繁栄しているとお考えですか 連邦を構成するすべての、正規の手続きによって任命された司政官 ? 」 の置かれた植民世界で適用されるものでありーーー」 「さあ : : : そうなのではありませんか ? 外見的には、私どもには 「司政官」 そうとしか思えませんが : : : 。第一、それは司政官、あなたが判断 ボウダがうんざりしたような声を出したので、マセは片手をあげなさることでしよう ? 」 て、の言葉を止めさせた。 そこ迄いってから、ボウダはちらりと目を向けた。「それとも司 「そんな、司政官の緊急指揮権の条項を引用して頂かなくても、わ政官、こんなことをいって失礼に当るなら、あらかじめお詫びして れわれはよく知っています」 おきますが : : : まさか、ご自身の判断に自信がなくなったと、そう ボウダは、まだ微笑を消さなかった。「だがそれはあく迄も緊急 いうわけではないのでしようね ? いや、そんなことは絶対にあり 指揮権です。そんなものを持ち出して、何をいいたいのですか ? ますまい。司政官が万能に近い能力を持っていることは、惑星司政 われわれに何を要求しようというのですか ? 」 にうとい私どもでもよく存じあげていますよ」 「だから、中上げているはずです」 マセは、その挑発にはひっかからなかった。 「支部の閉鎖をやめろと ? 」 「それじゃ、お聞きしたいのですが」 「ええ」 マセは、あく迄も紳士的にいった。「もしもですよ、あなたがた 「驚きましたな」 が今の支部を閉鎖することによって、このラクザーンの存立がおび ボウダは、軽く息をついた。「その必要はないと、今いったじややかされるとしたら、閉鎖は思いとどまって頂けますか ? 」 ありませんか。あなたはどういうつもりか、緊急指揮権などを持ち「これはまた大げさな。そんなことはあり得ませんよ。私どもの片 出された。しかし、今のラクザーンでそんなことが出来ますか ? 片たる支部のひとつやふたっ、オープンしようが閉鎖しようが、そ 緊急指揮権を発動するような何があるというんです ? こんなに平れ程の影響を与えるとは、とても思えませんな」 「もしも、そうだとしたら ? 」 和で、こんなに繁栄している世界なのに」 「それなら、なぜ支部を閉鎖しなければならないんです ? 」 「仮定の質問にはお答えできませんよ」 「それは、いえません」 「そうですか」
る。こんなところにも、現在の司政官の立場というものが象徴され - である ) 平穏無事な声明がなされるならば、一刻も早くラクザーン ているのかも分らなかった。往時、植民者がまだそれ程多くなく文を引き揚げたがっている連邦直轄事業体が、連邦経営機構に対し 8 2 明化もあまり進んでいなかった世界に君臨した司政官、それが辺境て、何らかの働きかけをするに違いない。 世界であったがゆえに最高権力者であり得た司政官も、時代がくだ要するに、今のような状態が続くよりは、マセとしては、ここの るにつれ、かっ、連邦経営機構に直属するメイ ( ーが多くの植民世人々に、危険が近づいていることを告げ、退避プログラムを実施す 界に入り込んで来るにつれて、いっかその世界の並び大名と化して , をるほうがずっと、 しいとしか思えなかったのであり、そうなるよう 行きつつある、その状態がここにも現出されているのである。ましに、工作するほかなかったのである。 て相手が、人間の司政制度などには通りいっぺんの常識しかない、 が : : : センターは、当初の約束とことなり、声明を出そうとする 連邦の手厚い庇護を受けるのに馴れて来た老学究ともなれば、マセ気配もなかった。そこには、司政官ごときに動かされて、あとで責 の、 いってみれば時代遅れの司政官理念といったものを感知してく任を問われたくはないというセンターの人々の心理も作用している れるはすもないのた。それを承知で、マセは所長との会談を続けるようであった。あるいはもう、連邦の何らかの手が、センター内に ほかないのだった。 も伸びていたのかも分らなかった。 だから、そのときも、マセは疲れていた。焦りも少しはあった。 むろん、マセは、直接の、正当な手順によって、連邦経営機構 所長と会う前の、副所長のグレイとの話し合いで、彼は、ことが自に、 一三二五番恒星の新星化に関する、最新の情報を求めてはい 分の期待しているようなス。ヒードでは運んでいないのを思い知らさる。それも、司政官に許される最大頻度で、最優先事項として求め れたばかりなのだ。 ているのた。けれども、いまだ返事はなかった。連邦直轄事業体に 何日か前、あのボウダにいったように、彼は科学センターに、 は流れ込んでいるはずの情報が、まだ入って来ないのであった。そ ″住民を安心させるため″の声明を要請していた。彼にしてみればの理由はマセにははっきりとはつかめなかった。単に、経営機構の その内容がどうころぼうと、差支えないのであった。彼には、科学官僚システムの動きの鈍さによるのか、経営機構内で、連邦直轄事 センターの連中が、このラクザ 1 ンの太陽の新星化ということを知業体の利益が確保される迄は司政官への通知を差し止めているの っているのかどうか、分らなかった。もっとも知っていたところか、それさえも不明であった。不明なままに、マセは要求を続けて いたのである。 で、それをストレートに出してくれるか否かは、何ともいえないの であるが : : : それを司政官の口からではなく、科学センターによっ センタ 1 の玄関へ出たマセは、そこで、ちょうど戻って来た顔な て予告されるのであれば、そこで発表を控えてくれるよう要求し、 じみの海洋研究者のラン・ 0 ・タルヌスと出会った。 要求する一方で、連邦に対して、すでに発表を押えるのは困難にな タルヌスは、ひとりではなかった。三人の : : : あきらかに先住者 って来ているということが出来る。逆に、政治的配慮かまたはセンと分るうす緑の髪の男女をともなっていた。 ターの能力不足で ( そうなるかも知れなかった。ここのセンターに 「あら、司政官」 は恒星の新星化を研究している部門はなかったし、彼はこの要請を と、ランは、いつものように花やかな顔だちの、大きな、むしろ 行ったさい、新星化などということは、おくびにも出さなかったの邪気のなさすぎる目を開いて叫んだ。「こちらへ来てらっしやった
用したという非難の声があがるのも、また明白なのだ。だから、本 当に対決しなければならない時以外には、減多にそんなものは出し 1 ( 承前 ) てはならず、出すとしても、その結果を覚悟しておく必要があり : ・ ・ : とどのつまりは、何もせず雑務に追われることで司政官としての 開発営社支部の大門 二つの高層ビルと四つの巨大な倉庫、そ れに物資の展示や即売や交渉を行うための簡易店舗を持っ広大な空職責をふさいでいるというつもりになってしまうーーーそれが無難な 地を取り囲む石塀の、その正面に構えている装飾過多ともいうべきやりかたというものなのだ。 正門は、報告を受けていた通り、閉ざされていた。司政官の来訪が マセは、ロ辺に薄ら笑いを浮べた。 前以て予告されていたはすにもかかわらす、そうなのである。それ はたしかに、今回のこのマセの訪問は非公式な、とにかく立入令状泣きごとはよそう。 を携行しないものであるのは事実だったし、それゆえに営社側が大自分は、自分自身に、そういい聞かせたのではなかったか ? 門を開いて待ち受ける義務もないのもたしかではあったから、これから、こうしてやって来たのではなかったか ? 置かれた立場でベストをつくす、それだけでいいのである。 は、やむを得ないことなのかも知れない。 だが : : : 本来、司政官というのは、担当惑星上のいかなる建造物彼は、正門から迂回し、三十メートルほどむこうの、もともとは ・地域であろうと、無条件に踏み込み、査察を行う権利を持ってい休日などに保守要員が出入りする小さな門へと向った。 その門には、警備員がいた。警備員は司政官に対する伝統的な敬 たものなのだ。それが原則であり、また、そうでなければ司政など ということは到底不可能たったからである。長い年月のうちにそれ礼を行い ( そこに、どれ程の敬意が含まれているのか、マセにも判 もいっか、一応の了解を得てからでないと踏み込まないような慣習断がっきかねた。こうした連中の敬礼というものは完璧なまでに形 が出来あがってしまったけれども、それはあくまでも司政官側の善式化されており、そこから相手の感情をくみとるすべはなかったの 意による権利留保として、そうなっていただけのことなのだ。そしである ) それから迎えの無人車を呼んだ。 マセは、宙を滑るその無人車には乗らず、あとを、ロポットたち て、今では、連邦直轄の組織がはっきりと治外法権を認められてい るのである。むろん司政官はその治外法権区域であろうと、必要がとともに徒歩で進み、支部の中枢部に向った。 あるときには立入令状を発行してロポット官僚を差し向けたり、み ずから令状を携行して、任意にそうした場所へ入り込む権限を有し「お待ちしておりましたよ」 てはいる。が、それではたとえ形式上は依然として司政官の絶対権腰をあげて会釈したのは、支部長のボウダ・・ガルであ 3 力があるとしても、令状そのものに責任を持たねばならず、相手にる。支部長といっても、それは兼任であり、本来は十近い星系を受 うまく立廻られて思わしい成果をあげられなかった場合、権利を濫持っ連邦開発営社理事なのた。
んですか ? もう、ご用はお済み ? 」 のだ。それが先住者たちの、地球人に対する礼儀というか、調子を 「ええ」 合わせているというか、かれらの態度なのである。ランは純粋の善 マセは足をとめ、同時に、あらゆる外出に随行するロポットたち意でそうしたのであろうが、そしてそうしたことで満足しているの も停止した。停止はしたが、マセをかこむ隊形にはならなかった。 だろうが : : : 先住者たちがどういう気分でいたかは、誰にも分らな 科学センターの人々、ことにランが司政官に危害を加えるおそれは いのだった。 ないと判断したが、他の系ロポットたちに命じて、 ランは、つれのほうに顔を向け、マセに紹介しようとした。 そうさせたのである。とはいっても、ロポットたちが不測の事態に 「こちら、えーと、何ていったかしら。わたし、この人たちの名 そなえて、とっさに司政官を守れるだけの距離で待機しているのも前、なかなか覚えられないのよ。とにかくこちらは、司政官のマセ 事実だった。 さん、ご存しかしら」 「ほんとに : : : あなたの忠実な金属製の部下たちは、いつもあなた 三人の先住者たちは、静かな笑顔でマセに会釈した。 の周囲を離れないのね」 ふたりが男で、ひとりが女たった。三人とも、白と黒とのこまか ランは、おかしそうに笑い声を立てた。 い格子縞の、腰をしぼった服をまとっている。この種の柄が、先住 ランに対しては好意に似たものを感じているマセだが、このいい 者の中でもちゃんとした地位というか、仲間に尊敬されている人々 かたは、やはりあまりいい気分はしなかった。だが、そんなものかを示しているのを、マセは知っていた。それに、三人とも陶器の独 も知れない、 と、彼は思う。ランのような地球から来た若い女性に得の・ハッジをつけている。そのデザインがどのあたりの地域のもの 、バッジをつけているというのは、そ とっては、司政官というものは、目の前にいる彼のような存在なのなのか迄は分らないけれども であり、遠い昔の、権威と栄光に包まれた司政官像などは、知る由の居住地区で一人前の責任能力を認められているしるしなのだ。 もないのだ。彼女には、彼は、マセ司政官であって、司政官マセで「お名前は伺っております。一度、遠くから拝見したこともありま はないのである。そんな環境に育った、そんな世代の人間を責めてす」 も何にもなりはしないのだ。 男のひとりが、きれいな標準連邦語でマセに挨拶した。「私はチ 「そういえば : : : きようは、わたしもひとりじゃないのよ。わた ュン ~ ・・・ダ・ハダラードと申します」 し、海から帰りしな、科学センターへ行くんだという先住者の人ど「私は、チ = ン・ラ・トレンザと申します」 一緒になって、わたしの車に乗せてあげたの。だって : : : 三十キロ女がいった。 もある道を、徒歩で行こうとしていたんですもの」 「私は、チュン・ダ・ヤスル・ハと申します」 かなり若い男もいった、 おせつかいなことだ、と、マセは思った。先住者たちは、よほど もう 0 とりの最初に名乗ったのよりは、 のことがなければ、徒歩でいくらでも時間をかけて目的地に行くの 「そうだったわ。みんな、よく似た名前だった。どうしてこんなに が普通である。それが先住者の性格であり習慣らしいということ似ているのかしら」 ランが、屈託のない声を出す。 が、近頃、マセにも分りはじめていた。それでも先住者たちは、こ ういう風に便宜を供与されると、決して拒否したりはしないものな「チュンは敬称だよ」 203
まだ一・六年つまり一レーンしか住んでいないそのせいだ、と、信ュースを聞かされたのだった。ニュースというのは、ツラツリ交通 じようとしていた。そしてこれは、彼の内側にある典型的司政官像があたらしく建設をもくろんでいる自動管制車路線の工事見積りを とは違背していないとも思っていた。滞在年月の積み重ねによる担連邦開発営社に依頼しており、営社側も乗り気で商談が進んでいた 当世界との同化が、本当の同化のはずだからである ) 二日前、にもかかわらず、最近、突然、交渉打切りを一方的に通告して来た 1 は、それ迄に収集したデータを総合し、分析して、そう結論を下というのである。 「それはまあ、われわれとしては、どうしても連邦開発営社にこの したのだ。 いうよ工事を委ねなければならないわけじゃありませんが」 この、結論を要請したのは、司政官のマセである。と、 と、ツラツリ交通代表のひとりであるバン・・リョウはいっ り、これは、と司政官の両者が一体となったひとつの例でも たのだ。「ただ : : : あれ程熱心に、うちにやらせろと : : : それも連 あった。 最初のうち、はいつものようにただのこまかい、司政官に邦直轄事業体であることで無言の圧力をかけながら要求して来てい た開発営社が、なぜ急に手を引いたのか、われわれにはさつばり分 別段報告する必要もないものとしての個々のデータを収集していた りませんな」 のだ。連邦軍の動きや、科学センターの連中の行動や、植民者たち やその経営する組織や、先住者たちの・ーーとるに足らない小さな事すると、同じ代表であるカワダ・・ケイも続けた。「たしか に、開発営社の技術水準が高く、工事も手際がいいのはたしかですが 実を集める、その中に、少しすっ、開発営社のしていることを蓄え : まあいいじゃないですか。われわれとしては、他に工事を依頼 ていたのである。そして、その結果として、それ程重要なことでは ないが、 . ラクザーンに居を構えている連邦直轄のほとんどの事業しても済む事柄なのだし : : : このさい、ことごとに不愉快な思いを 体、なかでも開発営社支部の活動が、それ迄の成長率から見て、こさせられる開発営社の手を借りなくても、その程度の工事はどうに かできるということを、証明するチャンスだとはいえないですかね」 の一、二カ月、急速に鈍化しているという報告をしたのである。こ もちろん、いきり立っている者もいた。・ハン・・リョウほど の報告を、二十日あまり前に受けとったマセは、その事実を念頭に とどめておいた。 古くはないが、ラクザーン植民者としては初期からいる家の、本人 それが十日前、にわかに対策を講じなければならぬ事態に追い込はまだ若いイルーヌ・・ハイツなどがそうであった。 まれたのだ。 「司政官を前にして、こんなことはいわないほうがよろしいんでし ようけど」 十日前、マセは、ツラツリ交通への定期訪問を行った。ッラツリ 交通は司政庁のあるこのツラツ・リ大陸の公共輸送企業体で、司政機と、イルーヌは、激した調子でいい放ったのである。「連邦直轄 5 8 構側からも技術供与をし、出資もしているラクザーンの公社のひと事業体である開発営社から見れば、こんな、一惑星上のそれも一大 つなのだが : : : そこでマセは、代表者たちから、あまり良くないニ陸に限定されたローカル公社など、どう扱っても構わないというこ
マセは、この自分の推論を、に対しては当面伏せておくこ可及的速かに閉鎖し、資産を処分した上でラクザーンから去ると とにした。 (-DOb-«が同じ結論に達していることは考えられる。それいうものである。 どころか、マセよりも早くそうなっていたに違いないだろうが : 予想通りであった。マセは折返しそのことに異議のある旨を伝え ロポット官僚に、連邦からの指令の出る迄は太陽の新星化というさせ、きよう、予告の上でこの開発営社支部を訪れたのだった。 条件をしまい込んでおくようにとの命令があり、依然としてそれが 働いている以上、マセが受取るの結論は、 (-nc•b-«の本当の結「ふむ」 論ではなく、歪んたものになるはすである。新星化という条件を外マセがそうした経緯を瞬間的に頭の中に生き返らせ、自己の決意 したものにしかならないはずなのだ。すくなくとも司政官にはそうを確認したとき、ボウダ・・ガルがいった。 マセは相手を注視した。 いうものしか提出しないはずである。が司政官経由であろう となかろうと連邦の解禁指令に接したとき、または、連邦の禁止に相手はやはりにこやかであった。 かかわらす行動要因に組み入れなければならぬ緊急事態が発生した「しかし、司政官」 ボウダは椅子に背中をあずけていうのである。「これは、そうい とが認めたとき、そのときには、 ()0 のほうから司政官に 告げるであろう。それ迄はこちらからいいだすことはないのだつうことをいわれる筋合のものではないでしよう ? 営社としては、 こ 0 ある惑星上の支部を閉鎖し、その惑星から引揚げるというのは、単 全体的なその結論をに突ぎつける代りに、マセは、個々なる通告事項だと解釈しておりますよ。司政官に裁決を委ねる必要 の、がストレートに答えてくれる事項をたずねることにしはないと思いますがね」 マセは頷いた。 た。その手はしめが、開発営社の今後についてである。 OI* はさ らに多くのデータを下僚を駆使して収集した。開発営社がこれから「たしかにその通りです。連邦直轄事業体はどの植民世界上でで も、連邦経営機構の認可を得るだけで、自由に業務をいとなみ、自 もラクザーンにとどまるか、でなくてもまた戻って来るかについ て、はその可能性のないこと、このまま支部を閉鎖しラクザ由にやめることが出来ます。連邦直轄事業体の特権ですからね」 ーンから撤退する以外には考えられないことを、推断した。その推「その通り。そして、この件に関しては、連邦の認可を得てありま すしね」 断がーーー二日前だったのだ。 その推断を待っていたマセは、即座に、開発営社一三二五星系支「だが、その世界の担当司政官は、定められた状況、あるいは条件 問い合せさせたので下では、その特権を制限できるのをお忘れではありませんか ? 」 部に対し、事実支部を閉鎖するのかどうかを、 ある。 マセは、横に佇立しているに向って促した。「この方 8 に、それをお話してくれないか ? 」 一日たった、つまり昨日、開発営社から回答があった。
故意に古典的なスタイルにした感じの部屋で、ボウダはひとりデ成行に影響を及・ほすことになる。問題をややこしくしないように適 スクにむかっていた。視野の中にいるのはボウダだけだが : : だか当に妥協するか、それともあえて困難な考えようによっては不毛の 8 らといって彼が本当にひとりとはいえない ~ この部屋が営社の連中道をとるか : ・ : ・しかし、彼の心は最初から決っていた。後者をとる によって守られており、かれらの目があちこちから監視しているこ ほかないのだ。自分の信条に従う限り、そうせざるを得ないのであ とはマセには分りすぎる程分っていた。 る。言葉を切ったのは、単に、効果を強めるためにやったのに過ぎ 「ま、どうそ。おかけ下さい」 なかった。「ーーそうして頂かなければ、私は司政官として、あな ボウダはマセに椅子をすすめた。すでに二度ばかり来たことのあたがたに許可を与えるわけには行かないのです」 る部屋の、その椅子にマセは身を沈めた。 ボウダの柔和な目が、大きくなった。 「ご用件は、お聞きしていますよ」 「許可を ? 」 ボウダは、やわらかく微笑しながら、ゆっくりといった。「私ど と、ボウダは反問した。どこか、面白がっている響きさえあった。 もの経営方針について納得して頂けないということで : : : 私どもも「そうです。許可しかねるのです」 少し困惑しているのですがね」 マセは繰返した。 その、かすかに高圧的な調子を帯びたいんぎんな態度は、そのま今、自分は賽を投げたのだ。もう引返すことは出来ないのだ ま、営社理事と司政官の関係を反映していた。ともに、連邦直属のと、彼は、意識の隅で思った。 メンバーであり ( それは、という略号でいやおうなしに明らかな のだ ) 連邦経営機構に座を持つ人間ではあるものの、ボウダのほう が、連邦開発営社はあきらかに一三二五星系を閉鎖しつつ がマセよりもずっと年長であり、ずっと大きな仕事をしているとい あるーーーという推断を下したのは、二日前であった。 ( これがな。せ うゆとりを有し、有しながら、とにもかくにもこの世界にいる以上 いまだに日という単位で表現されなければならないのかについて、 ここの担当司政官には、司政官として応対しなければならない マセがややうしろめたさを覚えているのはたしかである。ここでの それを、きわめて微妙な言動であきらかにしているのである。 一日は一ルーヌなのであり、ルーヌはルーヌそのものであるのだ マセは、指を組み合せた。 が、そして司政官はその世界の単位感覚をおのれ自身のものにしな 「たしかに、仰言る通りです」 ければならないのだ : : : 彼にとっては依然として惑星の一自転は一 彼はいいだした。「司政機構としては、あなたがたが、なぜこう日なのであった。十九時間であろうが二十四時間であろうが、二十 短時日で支部を閉鎖し、ラクザーンから引揚げるのかについて、納八時間であろうが、一日は一日なのだ。公式には一ルーヌでなけれ 得が出来ません。もう少し明確にご説明を頂かなければ」 ばならぬものが、おのれの内部では依然として一日であるというこ そこで彼は一瞬、語を切った。ここでのおのれの表現が、今後ののことを、彼は、自分の、ラクザーンへ来てからの年月の浅さ
とになるのでしようね。かれらは、かれらの都合で動くだけで、少のだ。 し風向きが変ると、それ迄もみ手をしていた相手を簡単に蹴飛ばすしかも、それとともに、一見奇妙な事実も浮びあがって来た。そ のよ。蹴飛ばしても、 いっこうに影響のない特権大組織なんですかれは、今もいったようにほとんどすべての連邦直轄事業体が活動を ら : : : でも、真に連邦を支えているのは、かれらじゃないわ。かれ落しはじめている中で、たたひとつ、ラクザーンの海藻を扱ってい らは、わたしたちのような自分自身の世界に根をおろして生きて いる連邦交易事業団だけが、事業を縮小するどころか、ごく僅かでは る人間や組織を利用して、おいしいところを吸い取っている、それあるが、扱い高を増加させているというのである。 だけのことじゃありませんか。そんな開発営社が手を引くというの これは、むろん、単なる偶然かも分らなかった。一惑星世界の視 なら、むしろ大歓迎だわ ! 」 点から眺めれば説明がっかない現象でも、連邦の版図全体から見れ ッラツリ交通幹部たちのいろんな思惑もさることながら、これは ばきわめてはっきりした流れがあり、その余波がこうした一惑星上 マセにとっても意外といえる話だった。植民者たちよりも ( 当然なでは異様なかたちをとるという可能性も充分あり得る。いや、むし がら ) 連邦経営機構に関する知識を多く持っている司政官として、 ろそれが普通だと考えるほうが正しい態度なのだ。 彼は、開発営社が他の連邦直轄事業体と同様、マンモスでありなが それにもかかわらず、彼は懸念を消すことが出来なかった。懸念 ら、業績をあげるためには抜け目なく立ち廻ること、ことに今度のというより、直観的な警戒心というべきかも知れない。彼は ように確実に利益のあがる話は決して見逃さないのを知っていたか に、ラクザーン外の、すくなくとも星域単位のマクロ的な視野から らだ。その営社が手を引くというには、そこにそれ相応の事情がな見た全般的傾向と、ラクザーン上のこの現象とを対比させた。もっ ければならないのだった。 ともその作業が、惑星司政機構を運営するロポット官僚チーフの (-0 彼は司政庁に戻るその前に、随行のを通じて、ににとっては、入って来る情報そのものがフィルターにかけられ このことを連絡させ、それが何を意味しているかを分析するようにていることでもあり、かっ、限られたものであることから、そうた 命じた。 01 はそれ迄に蓄積していたデータを動員し、さらに新やすい作業ではないことがマセには分っていたけれども : : : マセが しいデータを上乗せして、帰って来た司政官に知らせた。それによ これはラクザーンの司政そのものを左右する重大事項だと納得させ ると、前に報告した連邦直轄事業体のラクザーン上における活動のることで、は人工頭脳の本領を発揮して、とにもかくにもや 縮小傾向はなおも続いており、特に開発営社においては加速化されりとげたのである。のその報告によれば、だが、今ラクザ 1 ン上におこっている連邦直轄事業体のそうした動向は、ラクザーン ているとのことでーーーツラツリ交通の事例はたまたま規模が大きい 工事だったため表面に出たものの、それと同様の小口のケースは何でだけのものであり、ラクザーン上以外にそうなる条件はない 件もおきているというのだった。これらのことからは、開発いうのだった。つまり、これはラクザーン上の特別な条件によって 営社がラクザ 1 ン上から撤退する可能性のあることをも仄めかしたおきている現象としか考えられないというわけである。 6
だが、それでいいのだ。 然の災厄としてではなく、あらかじめ知っていて手を打っこともで きるではありませんか」 これで、ともかくも、自分は、連邦開発営社一三二五星系支部の 「ーー馬鹿な」 閉鎖を、ほんのしばらくの間かも分らないが、食いとめるのに成功 : ラクザーンの ボウダは呟いたがいもちろんそれは司政官に向けられたものではしそうなのだ。これが他の事業体にも及ぶならば : 破減以前に、うまい汁だけを吸って先に逃け出そうという者たち 「だからですよ」 に、多少でも打撃を与えることが出来るだろう。この世界、自分が マセは、また笑った。今度もうまく笑うことが出来た。「だから司政官として担当したこの世界では、そんな抜け駈けは許されては ・ : 支部の閉鎖など、とにかく今はして欲しくないのです。せめてならないのだ。ここの先住者、ここの植民者たちをたぶらかすこと になる、そんな真似を許してはならないのだ。そして、その第一ラ ・ : 連邦直轄事業体の活動がある程度常態に復し、人々の不安がな ウンドは ( 彼自身の感じでは ) どうやら相手を制することになりそ くなってからにして欲しいんです・でないと : : : あなたのところが 引金になって、住民の不安がたかまり、爆発するかも知れません」うであった。 それからマセはつけ加えた。「ご協力頂けないでしようか。すく 2 なくともこれは、あなたのところも含めて、連邦直轄事業体が招き 寄せたことなのですから」 が、巡察官を乗せた宇宙船がラクザーンに近接しつつある 「いかがでしよう ? 」 ことを報じて来たとき、マセは科学センターにいた。 センターの所長のハルツ・»-Ä・リードとの会談を終って、帰ろ 「あなたは : : : 」 うとしていたところである。 ボウダは、鋭い目を向けた。「あなたはその妙な注釈とやらをつ ハルツは所長とはいうものの、自己の専攻分野以外にはおよそ関 けた統計資料をばらまくことで、余計に住民の不安をかきたてたと 心のない老学究で、センターの管理にはもつばら副長所のグレイ・ : そうは思わないのですかな ? 」 *-Ä・ドーンがあたっていた。マセはセンタ 1 との折衝をグレイ 「まさか」 マセは肩をすくめてみせた。演技としてはそう拙くはないと彼はとするのが常であったが、それでも所長がハルツである以上、形式 だけでも立てておかなければならず、そのため、グレイと会ったあ 田 5 った。 「失礼だが : : : 司政官 : : : 後悔されたことになるかも知れませんとには、必す所長とも顔を合せて、何がしかの雑談をしてから戻る のであった。あまり他人とは会いたがらないこの老所長が、マセの ぞ」 来訪を必ずしも迷惑がってはいず、機嫌のいいときなどはむしろ引 ボウダの声を聞きながら、マセは立ちあがった。 きとめるようにしてでも話をしようとするのは、所長の専攻が宇宙 結果がどう出るかは分らない。 へたをすると、ーーというより、かなりの高い確率で、自分は責任生物学であり、マセが司政官として当然学ばなければならなかった R 地球人以外の生物の社会形態の知識に興味を持っていたからであ を追及されることになるかも知れない。