考え - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年3月号
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1. SFマガジン 1976年3月号

りしたもんです。その契約書を作成したのは、利害関係のある会社「きみの話はたいへんおもしろい」 が全部あつまって設立した共同法律部門なんですよ。いまわたしが「そんなことはとっくに考えておられたことにちがいありません。 やっているようなことはどんなことだってやらせまいと思えば、そところが、わたしはたったいま思いついたんです。どうやらわたし ういう条項を入れることだってできたはすですが、そんなものはあは、自分をあなたのアド・ハイザーとして売りこむべきかどうかとい う問題そのものにすこしとらわれすぎていたようです。策略という りませんでした」 面はわたしの視野からすつぼり抜け落ちていました。ええ、おろか 「手落ちだったのか ? 」 「わかりません。そうかもしれませんね。どうしてそんなことに関なことをしました。いずれにせよわたしに素直になっていただける はずがありません」 心を持たれるんですか ? わたしのいうことが信じていただけない 「かりにそうだということにしておこう。だが、またそれほどひど んですか ? 」 い状態でもないそ。たしかにわたしはなにも喋らんだろう。しかし 「きみの動機が知っておきたいんだよ」 きみはわたしになにか話せることがあるはずだ。たとえばきみの仲 トムソンはちょっとだまりこんだ。 間のこととか」 「そんなこと考えてもみませんでした」かれがやっと口にした声は 「しかし、それだって偽の情報であるかもしれないんですよ」 小》さかった。 しいだろう。なにかわかってる 「その判断はこっちにまかせとけば、 「そんなこと、とはなんのことだ ? 」 ことがあるんだろ ? 」 「わたしの行動にあなたが疑問をもたれるかもしれない、というこ ・ : そんな考えはすててください。もしそう「ええ。プラウンは人間じゃありません」 とです。とんでもない : だったら、そう、まえもってトリックを考えておきますよ。わたし「そう断言できるんだな ? 」 、つまうはあなた、もういつ。ほうはわれ「いいえ断言はできません。しかします間違いありません」 はてつきり、二組つまり、しを われ全員が参加する賭にあなたがでたと、そう理解しています。そ「それをたしかめるのにどんなデータをつかったんだ ? 」 こでですよ、もしあなたがわたしたちをためすための行動計画をた「誰もが自分以外の誰が人間で誰がそうでないか単純に好奇心をも てておいてーーーたとえば人間のほうが優秀であることを誇示するよっていることはおわかりいただけますね」 「うん、わかる」 うな実験のことをわたしは申しあげているんですがーーーわれわれの なかの誰かを味方だと思って、その計画を打ち明けるようなことを「出発の準備のとき反応炉のチェックをやりました。ディストリビ なされば、その男が実際には相手の陣営に属する人間だったら、戦 = ーション・センターへあなたとカルダー、・フラウンそして・ ( ーン ズがおりてきたときちょうどわたしは隔板の取替え作業をやってい 略的に重要な情報をあなたから手にいれることになるかもしれない ました。そこであなたがたの姿を見たしゅんかんある考えが頭にう んです」 8 8

2. SFマガジン 1976年3月号

そっけなくそういったものの、そのいいかたには皮肉なニュアンス 「いいや。なにも非難なんかしておらん。きみは正しいと思ったと は消えていた。だがプラウンはたとえそれに気づいていたとしてもおり行動したんだ。きみのはいくつだ ? 」 うまくそれをかくしとおした。 「知能指数ですか ? 百二十です」 「この先、この航宙の全期間を通じてお役にたてるようにできるか「それだけあれば常識的に物事を理解するにはじゅうぶんだ。で ぎりやってみるつもりです : : : それから、必要だと思われることはは、バーンズについてのきみの推測をわたしに話して、正直にいっ どんなことでもわたしとしてはやるつもりでいますから」 ていったいわたしにどんな役にたっかいってみたまえ」 「なんのためにだね ? 」 若いパイロットは立ちあがった。 プラウンは驚いたように人形のように長いまっ毛をばちばちさせ「船長、失礼いたしました。そうお考えになっているとすれば、誤 こ 0 解がありました。そんなつもりではなかったんです。しかし、もし 「なんのため、とはどういうことですか ? 人間とそうでないやっ船長のお考えがそうであれば : : : お願いいたします、ここで申しあ をあなたが識別されるのを容易にしてさしあげるためじゃありませげたことはお忘れください : ・ : ただ忘れていただきたくないのは : んか」 「・フラウン、きみはその八千ドルをもう受取っているんだそ」 かれは、ビルクスの薄笑いがうかんだ表情をみて、ロをつぐん 「ええそうですよ。でもそれがどうかしたんですか ? として雇われたんですよ。わたしはパイロットでもあるんです。お「坐りたまえ。さあもう一度坐るんだ」 まけに、腕も悪くありませんー ・フラウンは腰を落した。 「帰還したらすぐに、二週間の乗務手当として残りの八千ドルを受「どうしていいかけてやめるんだ ? なにを忘れちゃいかんのだ ? 取るんだろ ? 船長だろうと、一級宇宙パイロットだろうと、ナヴここで話しあったことは誰にもいわん、と約東したってなんの保 イゲーターだろうとだ、この程度の航宙で一万六千ドルもの金を取障にもならんのだそ、そうだろ ? え、どうだ、もしこんどはこの るやつは誰もいない。 ということはだ、きみがもらう金はようするわたしが、ここでの話をほかでする権利がある番だと考えたらどう に口止め料だ。わたしにたいしても、ほかの連中にたいしても、せめするかね ? 落着きたまえ。船長の話をさえぎるもんじゃない。い いか、この問題はそう単純じゃないんだ。きみはわたしを信頼して て竸争相手の会社にたいするぐらいの配慮があってしかるべきだ、 という意味なんだそ。どんな誘惑だろうときみがそれにひっかからここへきた 0 その信頼はわたしも高く買わせてもらう。だが、信頼 ということと、まともな分別ということは、これはまったく別物だ んような手がうっておきたかったからだ」 : もしかりにいまきみが何者で、・ハ ートンが何者かということを ・フラウンは顔を赤くして、ひどく狼狽した。 たしかに知ったからといって、それがいったいわたしになんにな 「わたしがここへきて話をしたから、非難されるんですね ? 」 2 7

3. SFマガジン 1976年3月号

ってなきゃならんのか、と思いはじめたんです。そんな権利がわた「そうです」 しにはない、という結論にたっしました。そうお考えになりません「ではきみは神を信じるんだな ? 」 か ? 」 「信じます」 ビルクスは黙ったままだったので、・フラウンはまた話をはじめた「じゃ、ロポットは神を信じるはずがない、と思ったんだな ? 」 が、さっきまでの自信はなくなっていた。 「ええそうです」 「他の四人を誰も知りません。ずっと一人ずつ別々にされていまし「それじゃなんだな、〈信じます〉ときみがいえば、きみの正体が た。めいめいが個室をあてがわれていて、風呂も体育室も専用のが なんだか簡単に察しがつくわけだな ? 」 ありましたし、食事も、ヨーロッパへ発っ三日前になってからやっと「そうですよ。つまりそうだったんです」 一緒にするのを許されましたがそれまでは食事でも顔をあわせたこ 「ところが実はロポットだって神が信じられるんだがね」ちょっと とがありませんでした。ですから、だれが人間でだれがそうでない口をつぐんでいてから、ブラウンが思わず眼を見はったくらいあっ か、申しあげられません。はっきりしたことはわからないんです。さりと、たいしたことでもないような口振りでいってのけた。 でも推測ですが : : : 」 「どうしてそんなことがいえるんですか ? 」 「まちたまえ」ビルクスは話をさえぎった。「神についてわたしの 「ではきみはそんなことはありえんと考えてるんだな ? 」 質問に、なぜきみは、そんなことを考える義務はないなんて答えた「ちらっともそんなこと考えたこともありません」 んだ ? 」 「まあいまのところそのくらいにしておこう。すくなくともいまは ところでなにか推測とかなんとかいしカ ・フラウンは椅子の上で体をもじもじさせ足を動かして、床に線をそんなこと問題じゃない。 けていたが : : : 」 書いている靴の先をながめながら、低い声で答えた。 ーンズのことですが、かれは人間じゃな 「ええ。あの黒髪の : 「実はあのときすでになにもかも打明けるつもりでいたからです・ : いような気がします」 : 隠れたるより顕わるるはなし、と諺でもいうように、そういうこ とはよくあることだと思われませんか。マックギ 1 ルにわたしの決「な・せそう思うんた ? 」 「ほとんど目につかないぐらいつまらないことばかりですが、それ 心がけどられはしないかと心配だったんです。だから、質問された とき、わたしが、ちゃんと秘密を守り、自分が実際に何者かあなたでも全部つなぎあわせるとなんとなくわかってくるんです : : : まず 目につくのは、かれが立ってるか坐ってるかするとき全然身うごき に絶対見破られないようにしていると彼に思われるような答えかた しないことです。まるで銅像です。ごそんじのとおり、長いことま をしたんです」 「つまり、マックギールがいたからわざとあんな答えかたをしたんったく姿勢を変えないでいられる人間はいません。ぎゅうくつにな ってきたり、足がしびれてくれば、無憲識に体をうごかしたり、足 ・こ、というのか ? 」 0 7

4. SFマガジン 1976年3月号

に喋ろうとしゃべるまいときみには関係ないというのはどういうわがあだになりかねませんからね。否定的な意味あいしかないような けなんだ ? 気にしてないんだろ、会社が : : : 」 情報だったら、間違っているよりむしろないほうがましです」 「ええ、ぜんぜん気になんかしてませんよ。なんにも」 ・ハーンズは「それもそうだが : ・ : ううん : ・・ : ま、理由はともあれ教えてくれな 落着いた講義口調でいった。「わたしはおそろしく高いものについ くともとにかく礼だけはいおう。感謝している。ところで、その件 てるんです、船長。ほらここに」かれは手で胸に触れた」。なん十に関連してきみじしんについてなにか話せることはないのか ? き 億ドルもつまってるんです。わたしを作った者が、どんなに頭に っとわたしに役立つようなことがありそうに思う : : : 」 きたからって、まさかわたしをネジをはずしてばらばらにぶつこわ「なにがお知りになりたいかだいたい見当はっきます。ですが、あ してしまうとは思われんでしよう ? もちろん比喩的な意味でいっ なたでも、すくなくともなんか生物学の教科書を読まなかったら、 てるんです。ネジなんか一本もないんですからね : : : 連中が腹をた人体の解剖学や生理学のことはなにもご存知なかったはずです。そ てることはまちがいないでしよう : : だからといってわたしの立場れとおなじで、わたしは自分の構造のことはなにも知らないんで はいっこう変りません。きっとその会社で働かされることになるにす。しかも、あなたに興味があるのは構造面じゃなさそうですね ? ちがいないとは思いますが、そんなことはべつだんたいしたことじ要するに精神面なんでしょ ? つまり : : : 弱点 ? 」 ゃありません。むしろ他で働かされるよりそのほうがいいくらいで「もちろん弱点もわかればそれにこしたことはない。しかし、いま ォルガニズム すーーそこだったら、まんがいち : : : その : : : 病気にでもかカナ 、つこ問題にしてるのは、要するにだれでも自分の体のことはなにか 場合いちばんよく世話をしてくれますからね。連中がぼくを隔離し知っているものだということだ : : : それが科学的な情報じゃないこ ておこうとはしないと思います。理由ですか ? 力を使えば、連中とは分っている。だが、体験とか自己観照は : : : 」 自身にとってもひどくみじめな結果になりかねませんからね。ご承「ええそりやむろん体は使いますから : : : 自己観照の可能性はあり 知のように、マスコミはたいへん効果があるし : : : 」 ますとも」 『この野郎、恐喝するつもりでいるそ』。ヒルクスはちらっとそう思 ・ハーンズはここでまたさっきみたいに、ととのった , ーーといって った。そんなことはかれには夢みたいなありえないことに思えた。 も不自然なほどでもないがーー歯をみせて笑った。 だが、なにもいわずにじっくり先の話を聞くことにした。 「じゃ質問してもいいんだな ? 」 「さてこれで、非線型体についてあなたに否定的な考え方をしてい 「どうぞ」 ただきたいとわたしが思っている理由が分っていただけますね ? 」 ビルクスは考えをまとめようとした。 「ああよくわかった。ところで、まだ他にも乗組員の中に誰がそう「厚かましい : : : ずばり遠慮のないことを聞いてもいいのか ? 」 なのか教えられるのなら : : : 」 「隠さなきゃならないことはなにもありません」ノ ・、ーンズがあっさ 5 「だめです。確信がないんです。当て推量でいえば、かえって親切りといった。

5. SFマガジン 1976年3月号

「いかなる団体・個人といえども、植民世界の存立がおびやかされ ボウダは、・ゆるやかに、大きく首を左右に振ってみせた。「それ る状況下、またはあきらかに存立がおびやかされると思われる状況は、経営上の秘密に関する事項です。私にはそれをお話しする権限 9 下では、植民世界の存立を維持するための司政官の指示に従わなけがありません。許可を貰わなければ洩らすことはできないのです ればならない」 よ。たとえ相手が司政官であってもね」 はなめらかな合成音で、条文を誦しはじめた。「これは「本当に、このラクザーンが平和で繁栄しているとお考えですか 連邦を構成するすべての、正規の手続きによって任命された司政官 ? 」 の置かれた植民世界で適用されるものでありーーー」 「さあ : : : そうなのではありませんか ? 外見的には、私どもには 「司政官」 そうとしか思えませんが : : : 。第一、それは司政官、あなたが判断 ボウダがうんざりしたような声を出したので、マセは片手をあげなさることでしよう ? 」 て、の言葉を止めさせた。 そこ迄いってから、ボウダはちらりと目を向けた。「それとも司 「そんな、司政官の緊急指揮権の条項を引用して頂かなくても、わ政官、こんなことをいって失礼に当るなら、あらかじめお詫びして れわれはよく知っています」 おきますが : : : まさか、ご自身の判断に自信がなくなったと、そう ボウダは、まだ微笑を消さなかった。「だがそれはあく迄も緊急 いうわけではないのでしようね ? いや、そんなことは絶対にあり 指揮権です。そんなものを持ち出して、何をいいたいのですか ? ますまい。司政官が万能に近い能力を持っていることは、惑星司政 われわれに何を要求しようというのですか ? 」 にうとい私どもでもよく存じあげていますよ」 「だから、中上げているはずです」 マセは、その挑発にはひっかからなかった。 「支部の閉鎖をやめろと ? 」 「それじゃ、お聞きしたいのですが」 「ええ」 マセは、あく迄も紳士的にいった。「もしもですよ、あなたがた 「驚きましたな」 が今の支部を閉鎖することによって、このラクザーンの存立がおび ボウダは、軽く息をついた。「その必要はないと、今いったじややかされるとしたら、閉鎖は思いとどまって頂けますか ? 」 ありませんか。あなたはどういうつもりか、緊急指揮権などを持ち「これはまた大げさな。そんなことはあり得ませんよ。私どもの片 出された。しかし、今のラクザーンでそんなことが出来ますか ? 片たる支部のひとつやふたっ、オープンしようが閉鎖しようが、そ 緊急指揮権を発動するような何があるというんです ? こんなに平れ程の影響を与えるとは、とても思えませんな」 「もしも、そうだとしたら ? 」 和で、こんなに繁栄している世界なのに」 「それなら、なぜ支部を閉鎖しなければならないんです ? 」 「仮定の質問にはお答えできませんよ」 「それは、いえません」 「そうですか」

6. SFマガジン 1976年3月号

静寂が支配していた。 ですね、たぶんむしろはっきり否定的意見だと申しあげたほうがい 「きっとごそんじだと思いますが、ますます広い範囲で人間にとっ いでしよう。しかし、誰の意見であろうと本質的にはたいした意味 5 て代る装置を作れるようになってすでに数年たちます。そのうち、 を持っていないということが気にかかります。発明の結果というも 多くの分野で人間とすぐさま比較することができるものは、いまののはなかなか一筋繩ではいきませんからねーーせいぜいある期間そ ところ大きさと重量のせいもあって、動くことができませんでしれが現実化するのをおさえておけるぐらいのことです : : : 」 た。ところが、固体物理学が進歩したおかげで、その次の段階であ「ひとことでいえば、これは避けられない悪だとお考えなんですね るミクロミニチュア化を分子レベルで実現できる可能性がソ連とア ? メリカでほとんど同時に開発されました。人間の脳と全く同じ働き「そうあっさり申しあげたつもりはないんですが。人類は人間の型 をする結晶システムの実験用モデルが作られました。しかし、大きをした人工の生物があまり急に現われたのでまだそれにたいする準 さはやはりまだ人間の脳の一・五倍はありますが、そんなことはさ備ができていないのだと思います。むろん、いちばん重要なことは、 して重要視するような問題ではありません。すでに多くのアメリカかれらが本当に人間と同等かどうかということです。わたし個人と の企業がその構造を取り、現在、いわゆる究極非線型体といわれてしてはまだ一度も会ったことがありません。わたしはそちらの専門 いる人間型のオートマトンのシリーズ生産にのりだそうとしていま家ではありませんが、わたしの知っている専門家たちは、全く差が す。さしあたっては地球外宇宙船で使う目的でした」 なく、完璧であるなんてことは論外だと考えていますー 「その話は聞いたことがあります。しかし、労働組合がそれには反「偏見にとらわれておいでではありませんか ? たしかに多くの専 対してたようでしたが ? それに、そのごもそうするためには現行門家の意見がそうです、正確にいうとそういう意見でした。しかし の法律を相当大幅に改正しなければならないというようなことも聞いいですか : : : 企業は経済的要因にしたがうものです。つまり、生 産の採算性にうながされて動きます」 いています」 「それはだれかから聞かれたのですね ? マスコミではひとことも「いいかえると、利潤にたいする期待にしたがうわけですね ? 」 触れていないはずですから : : : 」 「そうです。つまりこんどの場合は、連邦政府はーーアメリカのこ 「ええ。しかし、やれ秘密会議た、裏交渉だとやっていたんですかとをいっているんですが・ー・ー・イギリスとフランスの政府と同じく、 ら、わたしたちの仲間うちではそのはひろまっていました。それ国家が資金を出している研究機関がおこなった研究成果をいまのと は当然だと思います」 ころまだ私企業に公開していなかったのです。しかし私企業にはそ 「もちろんおっしやるとおりです。しかし、もっと改善されれば、れそれ独自の研究所がありますから、自分たちのカで公開されてい せめて : : : ところであなたのご意見はいかがですか ? 」 る資料に欠けている部分を埋めることができます」 「その問題についてですか ? どちらかといえば否定的です。そう「《サイ・ハトロニクス》社ですか ? 」

7. SFマガジン 1976年3月号

ののどもとに突出しており、発進装置の金属のシールドで遮蔽されればならんのなら、もとのプログラムのままでは航路の計算なんか たままでした。およそ数分、土星から離れていきましたから、これだせない、と彼にいいました。なにしろとっくにプログラムどおり でカルダーも帰る気になったな、と思いました。彼は、一連の操作にはやれなくなっていました。どのくらいの高度からロケットを軌 はしみち をして、いわゆる《星道》といわれている操船方法をおこないまし道に持ちこむつもりか分りませんでしたから、彼に補足データを要 た。それは船首をしかるべき星に向け、推力を一定に維持するやり求しましたが、しかしかれはそれに答えませんでした。たぶん、そ かたです。コントロールが順調であれば、その星はスクリーンに静ういうやりかたで自分の意図を船長に伝えるためにわたしに話しか 止状態で映ることになっています。もちろん、われわれの場合そうけただけのことでしよう」 「それはきみの想像なんだろ ? しかし、カルダーは直接船長に話 はいきませんでしたし、航行の力学的特性が変りますから、カルダ ーはそれの定量媒介変数をはっきりさせようとしました。なんどかすことだってできたはすだ」 やってみたすえ、けつきよく舷側モーメントの・ハランスをとる推力「そうしたくなかったのかもしれません。かれがどう行動すべきか 値を割りだすことに成功し、そこで船の向きを変え、また引きかえ分らないでいると誰にも思われたくないと、考えていたのかもしれ ませんし。ナヴィゲーターでさえ、つまりわたしのことですが、彼 しました」 「そのときのカルダーの本当の意図がどこにあるのかきみには分っを助けられないような問題にただちにとりかかって、自分がどんな にすぐれたパイロットであるか示したかったことにます間違いはあ ていたのか ? 」 「ええ分っていました。正確にいいますと、船内に残っていた三号りません。しかし、船長はそれになんの反応もしめされませんでし ロケットを軌道に乗せたかったんだと思います。われわれは、太陽たが、カルダーはすでに環に接近をはしめていました。これはわた 側から黄道面の上空にふたたび下りました。そのさいカルダーの働しには気に入りませんでした」 きぶりはそれはもうたいしたもんでした。自分の目で見たのでなけ「もうすこし具体的に話してもらえないだろうか」 れば、舷側にもうひとっエンジンがふえるなどと設計のときには予「わかりました。そのやりかたに危険な匂いがすると思ったので 測もしていなかった、そんな船をあれほど思うままにコントロールす」 できるとはとても想像できなかったと思います。カルダーはわたし「本法廷の注意をうながすことをお許しいただきたいのですが、証 に、航路の修正と三号ロケット用の軌道と修正インパルスを一緒に人は無意識に、起った事態に積極的に介入するのが船長としての義 計算するように命令しました。そうなると、もはやなんの疑問もあ務であるという点をはじめから認めたがっていないことをはからず もただいま認めました。したがいまして、船長は意識して、よく考 りませんでした」 「きみはその命令にしたがったのだね ? 」 えたうえでわざと自分の義務を怠り、まさにそのことにより船と乗 5 いえちがいます 7 。つまり、いますぐちがったやりかたをしなけ組員をあらかじめ予想することがむつかしい危険にさらしたことに

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光景をスクリーンで眺めていたのだ。夜明けの太陽が大気をその光「わたしは人間です」といっておいてから、いったん言葉を切り、 線ですみまですっかり梳き、まるで巨人の虹の鎌のように美しい色自分のいったことがどんな効果をあらわすかためしたいらしく、。ヒ に染まっていくさまは、実に壮麗な眺めだった。もうなんども見てルクスの眼を見つめていた。 いるのだが、けっしてあきるということがなかった。数分後、最後の だが、。ヒルクスは、まぶたをなかば閉し、白い発泡性スチロール 管制衛星のそばを通過し、その作動中の情報マシーン ( 。ヒルクスはを張った壁に頭をもたせかけたまま、みじろぎひとっしなかった。 それのことを〈電子宇宙官僚〉と呼んでいた ) にぎっしりつまって ( 「手助けがしたくてそう申しあけているんです」前もって考えてお いる信号が切れめなく。ヒーピーさえずる中をやっと通り抜けると、 いたことを話すようないいかたでふたたびしゃべりだした。「こん 黄道面のうえに出ていた。そこで。ヒルクスは主任パイロットに操縦どの仕事を引きうけたとき、なにが問題なのか知りませんでした円 席に残るようにいって、自分は船室に引きあげた。ドアをノックすたぶんほかの者も同じだったと思います。しかし、知りあったりた る音がしたのはそれから十分もたっていなかった。 だ顔をあわせたりするようなことがないように、一人ひとり個別に 「入りたまえ」 採用されました。実は、わたしがなにをやることになっているかと プラウンが入ってきた。ドアを閉めるのにひと苦労してから、べ いうことも、テスト飛行や検査や試験が終って最終的に選抜される ッドに腰掛けていたピルクスのところへきて、小さい声でいった。 ことがきまってからやっと知ったようなしだいです。そのときいっ 「お話したいことがあるんですが」 しょに絶対他言しないと約束させられました。わたしは結婚したい 「かまわんよ。坐りたまえ」 と思っている恋人がいるんですが、とても経済的な理由でできそう ・フラウンはいったん椅子に坐ったが、二人の間の距離があきすぎもなかったんです。そこへこんどの仕事の話があったんです。その ていたらしく、騎子を引き寄せてから、しばらくうつむいたまま話場で八千ドル手にはいり、ひと航宙やって帰れば、成果のいかんを を切りださなかった。だがすぐ。ヒルクスの眼をまともに見つめて、 問わす他に八千ドル受取れるようなうまい話はめったにあるもんじ 口を切った。 ゃありません。おかげで助かりました。嘘をいってるんでないこと 「お知らせしときたいことがあります。でもぜひ秘密にしといてい を知っていただくために、いきさつを全部お話します。正直いっ ただきたいんです。他言しないと約東していただけませんか」 て、こんどのこのゲームがどんな賭けかはしめはわかっていません 。ヒルクスの眉が。ヒクッと動いた。 でした。せいぜい風変りな実験だろう、ぐらいにしかはじめは考え 「秘密 ? 」 ていませんでした。そのご、どうもそれだけの説明では面白くなく かれはしばらく考えこんだ。 なりだしました。けつきよくだれにでもわかるような全人類のなん 「いいだろう。絶対だれにも他言はせん、と約東しよう。話してみか団結にかかわることにちがいないと、気がついたんです。だから、 9 たまえ」 いったいどうすればいいんだ、人間の利益に反することを承知で黙

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イロットが自分の考えどおり行動するのを認めておられたからにほまだ任務を遂行するつもりでいるんだな、と思いました。ロシェ圏 かなりません」 ・から出ると、十六時ごろだったと思います、カルダーは最大の信号 「法廷に申しあげます。証人は、船内服務規定第二十二項の意味ををだすと、そこでロケットを射ち出そうとしました」 間違って解釈しています。本件では緊急事態について言及している「というと ? 第二十六項を適用をするのが至当だからです」 「ええ、最大信号のスイッチを入れ、そのあとすぐ『全速後退』 「裁判長、《ゴリアテ》で起ったことは船にも、乗組員の健康や生の信号をだし「つづいて『全速前進』にしました。ロケットの重量 は三トンです。最大加速で、重量が約二十倍になるはすです。だか 命にもなんら危険が及ぶようなことはありませんでした」 「法廷に申しあけたい。 ; 証人はごらんのように明らかに一片の誠意ら、弾丸みたいに発進装置から飛びだしてくれるはずでした。およ すらみせておりません。客観的な真実を明らかにしようと努力をすそ一万マイル離れてからカルダーは二度連続してそういう推力によ るかわりこ、、、 冫し力なる犠牲をはらっても船長だったビルクスの行為る衝撃を加えました。しかし、効果はありませんでした。ただ回転 を正当化する証言をして、被告をかばおうとしています。船がおかモーメントを前よりさらに増大させただけの結果に終りました。ど れていた状況は、疑いなく第二十六項が言及している件に関係があうやら急激な加速の結果、ロケットは、前よりもっとしつかり発進 ります」 装置に釘づけになっていましたが、位置が変り、噴射気流がそっく 「裁判長、申しあげます。検事が物事の事実関係を立証する鑑定官り外部ハッチの開いている蓋にまともに激しい勢いで吹きつけ、は の役割をかねることはできないはずです」 ねかえり、空間に散っていました。推力による衝撃は乗組員にとっ 「証人の申したては却下する。本法廷は、この審理とは別におこなてもけっして楽しいものではありませんし、船にも相当危険なこと う審査結果がでるまで、第二十二項あるいは第二十六項のいずれをです。かりにロケットが首尾よく出てくれたにしても、外板の破片 適用すべきかに関する問題の決定を見合せる。証人、その先、船内がぶつかって自分で自分を傷つけることははっきりしていましたか で起ったことを述べなさい」 ら。どうやら、宇宙服を着けて道具を持った者を外板におくりだす 「たしかにカルダーは船長になにもききませんでしたが、なんどか か、あのくそいまいましい : : : 失礼しました : : : その釘づけになっ 船長のほうに視線を走らせたことには気がついていました。そのあているロケットを引きすって帰還するかどっちかにせざるをえない いだ、釘づけになっていたロケットの推力はパランスがとれてきま破目になったようです」 したし、船を安定させるのはもうそれほどやっかいでなくなってき「カルダーはロケットのエンジンを切ろうとしたのかね ? 」 ました。どうにかしつかり安定させると、カルダーは環から離脱さ「ロケットと本船をつないでいる制御ケー・フルがとっくに切断して せはじめました。しかしわたしに地球への航路を書きこんだ航宙図しまっていまたから、それはできませんでした。だから、残る手 をわたすようにはいいませんでした。たからわたしは、やはり彼は段はラジコンしかありませんでした。しかし、ロケットは発進装置

10. SFマガジン 1976年3月号

のひとつだと : : : あのとき情報官は、そういったのであった。秘密ということも、充分にあり得るではないか。 事項と指定されていないというのは : : : そうなのだ、あるいは情報そう。 官はこのことをいおうとしたのかも知れなかった。いかなる支配体マセが知るずっと前から、ラクザーンに居を構えていた連邦直轄 制にも見られるあのかたち : : : 上部支配階級にとっては公然たる事事業体は、ラクザーンの太陽がいずれ新星化することを知っていた 実でも、下部へ行けば行く程、知らせてはならないという、あの一 のた。そう考えるのが、自然というものである。 例がこれではないのか ? 上部の公然事実は、だが、相手を選んで それが分りながら、各事業体はラクザーン上で業務を行っていた 伝えられる。上部に参加することを許された者、特定の、知らさな ければならぬ者だけに伝えられるという、被支配者には原則として そして、つい最近、順序や遅速は別としても、急速に業務を縮小 教えてはならないという、あの方法が、この一三二五番恒星新星ヒ イしはしめた : においてもなされていると : : : 情報官はそれを具体的にはいわずに しかも、特殊な条件下にあるため、ぎりぎり迄仕事を続けなけれ 告げようとしたのではなかったか ? その境界線が、つまり、司政ばならぬ交易事業団が、わすかではあるが扱い高を増加させにかか 官であり上級ロポット官僚だったのではないのか ? っている : それに : : 一三二五番恒星が新星化するであろうと予測している結論は、ひとつだった。 のは、何も連邦経営機構の研究者だけではないはすである。自然科ラクザーン上の、連邦直轄の事業体は、司政官のいまだ知らない 学の分野というものは、基本原理が知られ観測や測定が誰にでも出情報をつかんだのだ。その情報とは : : : 一三二五番恒星の新星化に 来る場合、秘密などというものは作れないのだ。有能な研究者が、関する情報であり : : : おそらくは、新星化の時期が早まった、それ それが連邦経営機構に関係あろうとなかろうと : : : 同じ結論を引きも、交渉中の商談を打ち切って迄も撤退しなければならない程早ま 出すはずなのである。だからこそ、情報官はマセに対して、こうも ったということを示しているのである。そうとしか、マセには考え いったのだ。ーーー連邦経営機構が住民退避作業の実施を要請する迄られなかった。 その問 は、連邦経営機構サイドからでない新星化の情報が入って来たとし それにしても、な。せそんなことをしなければならない ? ても、貴官はそれを出来るだけ抑え、よしんばラクザーン世界に話題に対する答ははっきりしていた。はっきりしすぎている程なの がひろがっても否定し、パニックがおこらぬように努めなければな だ。パニックがおこってしまえば : : : 全面退避がはじまってからで らないと : : : そういったのだ。 は : : : 思わぬ損害をこうむるのは確実なのだ。だから、そうなる以 と、なれば : ・ : よしんば、かりに連邦直轄事業体が、経営機構か前に、司政官が動き出す以前に、うまく回収できるだけ回収しよう ら新星化の話を聞いていなかったとしても ( そんなことは到底考えというのである。混乱の前に逃亡しようという肚なのである。そう られないが ) 独立でこのことを予測する、いやすでに予測していた としか思えないではないか。 8