者 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年3月号
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1. SFマガジン 1976年3月号

んですか ? もう、ご用はお済み ? 」 のだ。それが先住者たちの、地球人に対する礼儀というか、調子を 「ええ」 合わせているというか、かれらの態度なのである。ランは純粋の善 マセは足をとめ、同時に、あらゆる外出に随行するロポットたち意でそうしたのであろうが、そしてそうしたことで満足しているの も停止した。停止はしたが、マセをかこむ隊形にはならなかった。 だろうが : : : 先住者たちがどういう気分でいたかは、誰にも分らな 科学センターの人々、ことにランが司政官に危害を加えるおそれは いのだった。 ないと判断したが、他の系ロポットたちに命じて、 ランは、つれのほうに顔を向け、マセに紹介しようとした。 そうさせたのである。とはいっても、ロポットたちが不測の事態に 「こちら、えーと、何ていったかしら。わたし、この人たちの名 そなえて、とっさに司政官を守れるだけの距離で待機しているのも前、なかなか覚えられないのよ。とにかくこちらは、司政官のマセ 事実だった。 さん、ご存しかしら」 「ほんとに : : : あなたの忠実な金属製の部下たちは、いつもあなた 三人の先住者たちは、静かな笑顔でマセに会釈した。 の周囲を離れないのね」 ふたりが男で、ひとりが女たった。三人とも、白と黒とのこまか ランは、おかしそうに笑い声を立てた。 い格子縞の、腰をしぼった服をまとっている。この種の柄が、先住 ランに対しては好意に似たものを感じているマセだが、このいい 者の中でもちゃんとした地位というか、仲間に尊敬されている人々 かたは、やはりあまりいい気分はしなかった。だが、そんなものかを示しているのを、マセは知っていた。それに、三人とも陶器の独 も知れない、 と、彼は思う。ランのような地球から来た若い女性に得の・ハッジをつけている。そのデザインがどのあたりの地域のもの 、バッジをつけているというのは、そ とっては、司政官というものは、目の前にいる彼のような存在なのなのか迄は分らないけれども であり、遠い昔の、権威と栄光に包まれた司政官像などは、知る由の居住地区で一人前の責任能力を認められているしるしなのだ。 もないのだ。彼女には、彼は、マセ司政官であって、司政官マセで「お名前は伺っております。一度、遠くから拝見したこともありま はないのである。そんな環境に育った、そんな世代の人間を責めてす」 も何にもなりはしないのだ。 男のひとりが、きれいな標準連邦語でマセに挨拶した。「私はチ 「そういえば : : : きようは、わたしもひとりじゃないのよ。わた ュン ~ ・・・ダ・ハダラードと申します」 し、海から帰りしな、科学センターへ行くんだという先住者の人ど「私は、チ = ン・ラ・トレンザと申します」 一緒になって、わたしの車に乗せてあげたの。だって : : : 三十キロ女がいった。 もある道を、徒歩で行こうとしていたんですもの」 「私は、チュン・ダ・ヤスル・ハと申します」 かなり若い男もいった、 おせつかいなことだ、と、マセは思った。先住者たちは、よほど もう 0 とりの最初に名乗ったのよりは、 のことがなければ、徒歩でいくらでも時間をかけて目的地に行くの 「そうだったわ。みんな、よく似た名前だった。どうしてこんなに が普通である。それが先住者の性格であり習慣らしいということ似ているのかしら」 ランが、屈託のない声を出す。 が、近頃、マセにも分りはじめていた。それでも先住者たちは、こ ういう風に便宜を供与されると、決して拒否したりはしないものな「チュンは敬称だよ」 203

2. SFマガジン 1976年3月号

セグンヨ / る。そしてその内部からメッセージが届いた。事故調査のため上空私たちはさらに、その一部門であるーー超能力者工作員 コードネーム に滞空していた空軍のヘリコプターに、とっ・せん不可解な入電があ開発部ーー・、に属し、その責任者が、。 - 暗号名クロトンと呼ばれる男で ある。 ったのだ。 ルビー姉妹や私・ーー暗号名スリムーーは、全米から選りすぐられ 私はそこで言葉を切り、唇を湿らせたクロトンの表情をはっきり 覚えている。感情というものと生来無縁のような彼にはあるまじきた超能力者なのだった。正確にはそのポテンシャルを秘めていた存 べラサイコ戸一ンスト 「ヴェンデッタ」の超心理学者グループが 在だったといっていい。 ことに、そこには動揺が浮かんでいた。 たがや ちから それは、積んであった当の「荷」から発せられたものだった。そ練り上げた能力啓発プログラムが、その能力を極限にまで耕すこと う、「荷」は物体ではなかったーーー一人の男だったのだ。正確にはに成功したのだ。 ヒューマ / イド 私たち三人は最初から一つのチームとして育てられた。ルビー姉 亜人間というべきだろう。この地球で生を享けた人間ではなかった 妹は、前述したように百以下の白痴だが、おどろくべき力を持 のである。 サイコキネシス っている。念動力と呼ばれるカた。それは、空中から忽然と炎を出 彼が空軍とーーーひいてはアメリカ政府とどのようにかかわってい マキンマム たのかは、クロトンも知らされていない。判明していることは唯ひ現させ、発動の極限に達したときは、重戦車をも軽々と浮揚させる とつ、機の乗員がことごとく死亡したのは疑いないにもかかわらエネルギーを秘めているのだ。むろん、人間の肉体を二つに引き裂 くことなどは、朝めし前である。 ず、「彼」はかすり傷一つ負っていない様子だということである。 そのとてつもない力には、制禦弁が必要たった。その弁の役割を 彼の要求は単純だった。話し合いを要求していたのである。しか しその相手は、それまで彼が関心を持っていたとお・ほしい政府高官テレバスたる私がっとめる。心理的な条件づけによって、彼女たち ではなかった。彼は、この地上のごく少数派 , ーーすなわち超能力者は私のいうことしか諾かない。いいかえれば私が″脳″であり、彼 女らが″筋肉″だ。もっとも、制禦はまだ完璧ではない。私の気が を使者として要求していたのだ。 ゆるんでいる一瞬に、彼女たちが暴走してしまうさきほどのような 私たちに白羽の矢が立てられたのは当然というべきだったろう。 ともあれ、それが、私たちチームの機構である。 私たちは超能力者であり、同時に高度な軍事・工作訓練を受けたス場合もある。 ペシャリストだったからである。 任務を命ぜられ、私はいささか複雑な思いを味わっていた。むろ コマンド・フォー コードネーム 私たちは暗号名「ヴェンデッタ」ーー・・正式にいえば、「地球外ん偶然であったにちがいない。しかしおどろくべき暗合といえたー . インヴェイション・フロム・アウダーリールド ージェイスンは私の故郷だったのだ。 生物侵略対抗機関ーのメン・ハーである。これは O —と Z 、および、アメリカ三軍の極秘協力のもとに生まれた地下機関私は故郷を捨てた人間ーー・、石もて追われるように、そこを去った で、その存在は大統領を始めとする一握りの幹部官僚以外に知る者女である。その存在を忘れようと努力し、事実成功しかけてもい た。クロトンから目的地を聞かされたとき一瞬耳を疑った。同時に システム 2

3. SFマガジン 1976年3月号

われわれよりすぐれたところがなにもなかったら、どうしてそんなるんじゃなかろうか ? 俺はいったいなんだ ? 宇宙飛行士なの ものを作ったりしますか ? 放射能覚という感覚がよけいにあった か、それともクイズの解答者なのか ? びとつだけはっきりしてい 9 ら、ことに船内ではえらく便利なんじゃありませんか。だから設計ることがある。俺がなにを考えているかほんの手がかりだけでもさ ぐりだせたやつが誰もいない、ということだ。だがそんなことは自 者がそう考えたってちっともおかしくありません」 「つまりきみがいいたいのは、プラウンはそういう感覚を持って慢にもなりやしない。腹にいちもつあってわざと誰にもなにも喋ら なかったんじゃなくて、どうしたらいいのか自分にもなにも分って る、ということだな ? 」 いなかったからだ。けつきよくは、やつらの正体を見きわめること 「もう一度くりかえしますが、確信はありません。かれが足を早め たのも、脇見をしたのもけつきよくは偶然だったかもしれませんが本当に一番重要なことなんだろうか ? そうじゃない、と思う。 ・、、しかしわたしにはあれが偶然だったとはとても信じられませそんなことはほっときゃいいんだ。どうせ連中のうちの誰かれじゃ なくて全員になにかのテストをしなくちゃならんのだ。それに関連 ん」 ある唯一の情報を・ハ 1 ンズからっかんだ。つまり非線型体は、勘に 「ほかになにか ? 」 「さしあたってはそれだけです。なにか気づいたことがあればお知関してはあんまりさえない、そうだ。それが本当かどうかは知らな い。だがためしてみる価値はある。テストはできるだけさりげな らせします、ご希望ならば」 く、ごく自然にみえるようにやらなきゃならん。生命にかかわる危 「ありがとう、礼を言う」 トムソンは立ちあがると闇の中へ姿を消した。。ヒルクスだけ一人険にさらされるような状況しか本物らしくは見えんだろう。ようす るに、命がけでやらなきゃならんということだ』 あとに残った。 ライラック色の薄闇をぬけて船室へ入ると、スイッチに手を伸ば つまりこういうことになるそーー・・。ヒルクスはいそいで考えを整理 したーープラウンは、自分は人間だと主張している。トムソンはそした。ボタンを押す必要はなかったーーー手を近づけるだけで明りが れは違うと言明しているが、こと自分に関しては率直に喋っていなっくようになっている。留守のあいだに誰かここへ入った者がい しかしどうやら話しぶりから察するに人間らしい。いすれにしる。机の上に、さっきまでそこにあった本のかわりに、タイプライ ても、それがかれの行動のいちばんもっともらしい説明なのかもしターで《ビルクス船長、親展》と宛書きした小型の白い封筒がのつ れん。人間でない者が、仲間の別の人間でない者を人間である船長ていた。ビルクスはドアをしめ、腰をおろすと封を切ったーー、・中か いささかこつらタイ。フした無署名の手紙がでてきた。かれは手でひたいをぬぐう に自分からすすんで売りわたすとは考えられない と読みはじめた。前文がなかった。 ちが精神分裂症ぎみらしいにしてもだ。先を考えてみよう。 、ートンとカル この貴殿宛の手紙を書いているのは、人間でない乗組員の一 ーンズは、自分は人間じゃないといっている。 ダーがまだ残っている。二人とも自分のことを火星人ぐらいに考え人です。こういう手段をとったのは、こうすれば小生の利益と貴殿

4. SFマガジン 1976年3月号

「人造人間戦車の機密」の掲載された「新青年」表紙 ここ数年、海室に、宇宙線の放射を避けて住んでいるのだが、ここ 野の作品が再は、よほど博士と親しい者でないと知らないし、留守に 評価され、リしていることが多いのだ。 ・ハイバル刊行南京路の雑踏の中を、紫紺色のすり切れかかった繍子 が相次ぐ中での服に身を包み、長いあごヒゲを生し、大きなウルトラ - ″金博士″はマリン色の色眼鏡 ( 決して、サングラスなどと呼ばない 一、 ~ 【第 ) ~ 取り残されてように ) で猫背をさらに丸めてウ。ウ。して」る姿を見 しる。 かけることはあっても、すぐに人混みにまぎれてしまい これでは、 声をかけられない。 あんまり金博また、金博士は国籍がはっきりしない。というより国 士が気の毒籍がないのだ。なぜ、国籍がないのか。それは、こうい た。帆村荘 ~ ハうわけだ。 だけが海野のすべてではない。せめて、マガジンの 「一体あの人は、支那人かね、それとも日本人かね」 読者にだけは、それを知ってもらわなければ : 「そのことだよ。一体、金という名前は、支那にもある 金博士は、その名を全世界にとどろかせた東洋人の大し、内地人にもある。それから朝鮮にもあるんだ。もち 科学者だ。科学と名のつくものに関しては万能で、他のろん満洲にもあることは、君も知っているだろう。とこ いかなる科学者も知らないような理論を完成しているろで博士は、その中のどこの人間だか知らないといって し、それにもとづいた実験や発明も、あれよあれよと見いる。博士は捨児だったんだ。たしかに東洋人にはちが るまにやってのける。 いないが、両親がわからないから、日本人だか支那人だ そんな、大天才科学者だから、世界中の国々が博士にか分からないといっている」 目をつけ、大東亜戦争直前という時機も時機で、なんと「赤ちゃんのときは、何語を話していたのかね」 か自分の国に招き、あるいは自分の国のために、敵をや「それは廣東語だ。もっとも、博士がまた片言もいえな つつける超強力科学兵器を作ってもらおうと博士を追っ いときに、廣東人の金氏が拾いあげて、博士を育てたん ている。 だからねえ、赤ちゃんのときに廣東語を喋ったのは、あ ところが、博士は自分の好きなことはやるが、他人のたり前だ」 注文にはなかなか応じない。まず、居どころがはっきり「ふしぎな人物だ。そして、あの穴倉の中でなにをして しないのだ。ふたんは中国上海の南京路繁華街の一膳飯いるのかね」 屋「馬環」という店の地下二〇〇メートルの住居兼実験「博士は、科学者だ。いや、もっと説明語を入れると、 208

5. SFマガジン 1976年3月号

のひとつだと : : : あのとき情報官は、そういったのであった。秘密ということも、充分にあり得るではないか。 事項と指定されていないというのは : : : そうなのだ、あるいは情報そう。 官はこのことをいおうとしたのかも知れなかった。いかなる支配体マセが知るずっと前から、ラクザーンに居を構えていた連邦直轄 制にも見られるあのかたち : : : 上部支配階級にとっては公然たる事事業体は、ラクザーンの太陽がいずれ新星化することを知っていた 実でも、下部へ行けば行く程、知らせてはならないという、あの一 のた。そう考えるのが、自然というものである。 例がこれではないのか ? 上部の公然事実は、だが、相手を選んで それが分りながら、各事業体はラクザーン上で業務を行っていた 伝えられる。上部に参加することを許された者、特定の、知らさな ければならぬ者だけに伝えられるという、被支配者には原則として そして、つい最近、順序や遅速は別としても、急速に業務を縮小 教えてはならないという、あの方法が、この一三二五番恒星新星ヒ イしはしめた : においてもなされていると : : : 情報官はそれを具体的にはいわずに しかも、特殊な条件下にあるため、ぎりぎり迄仕事を続けなけれ 告げようとしたのではなかったか ? その境界線が、つまり、司政ばならぬ交易事業団が、わすかではあるが扱い高を増加させにかか 官であり上級ロポット官僚だったのではないのか ? っている : それに : : 一三二五番恒星が新星化するであろうと予測している結論は、ひとつだった。 のは、何も連邦経営機構の研究者だけではないはすである。自然科ラクザーン上の、連邦直轄の事業体は、司政官のいまだ知らない 学の分野というものは、基本原理が知られ観測や測定が誰にでも出情報をつかんだのだ。その情報とは : : : 一三二五番恒星の新星化に 来る場合、秘密などというものは作れないのだ。有能な研究者が、関する情報であり : : : おそらくは、新星化の時期が早まった、それ それが連邦経営機構に関係あろうとなかろうと : : : 同じ結論を引きも、交渉中の商談を打ち切って迄も撤退しなければならない程早ま 出すはずなのである。だからこそ、情報官はマセに対して、こうも ったということを示しているのである。そうとしか、マセには考え いったのだ。ーーー連邦経営機構が住民退避作業の実施を要請する迄られなかった。 その問 は、連邦経営機構サイドからでない新星化の情報が入って来たとし それにしても、な。せそんなことをしなければならない ? ても、貴官はそれを出来るだけ抑え、よしんばラクザーン世界に話題に対する答ははっきりしていた。はっきりしすぎている程なの がひろがっても否定し、パニックがおこらぬように努めなければな だ。パニックがおこってしまえば : : : 全面退避がはじまってからで らないと : : : そういったのだ。 は : : : 思わぬ損害をこうむるのは確実なのだ。だから、そうなる以 と、なれば : ・ : よしんば、かりに連邦直轄事業体が、経営機構か前に、司政官が動き出す以前に、うまく回収できるだけ回収しよう ら新星化の話を聞いていなかったとしても ( そんなことは到底考えというのである。混乱の前に逃亡しようという肚なのである。そう られないが ) 独立でこのことを予測する、いやすでに予測していた としか思えないではないか。 8

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まだ一・六年つまり一レーンしか住んでいないそのせいだ、と、信ュースを聞かされたのだった。ニュースというのは、ツラツリ交通 じようとしていた。そしてこれは、彼の内側にある典型的司政官像があたらしく建設をもくろんでいる自動管制車路線の工事見積りを とは違背していないとも思っていた。滞在年月の積み重ねによる担連邦開発営社に依頼しており、営社側も乗り気で商談が進んでいた 当世界との同化が、本当の同化のはずだからである ) 二日前、にもかかわらず、最近、突然、交渉打切りを一方的に通告して来た 1 は、それ迄に収集したデータを総合し、分析して、そう結論を下というのである。 「それはまあ、われわれとしては、どうしても連邦開発営社にこの したのだ。 いうよ工事を委ねなければならないわけじゃありませんが」 この、結論を要請したのは、司政官のマセである。と、 と、ツラツリ交通代表のひとりであるバン・・リョウはいっ り、これは、と司政官の両者が一体となったひとつの例でも たのだ。「ただ : : : あれ程熱心に、うちにやらせろと : : : それも連 あった。 最初のうち、はいつものようにただのこまかい、司政官に邦直轄事業体であることで無言の圧力をかけながら要求して来てい た開発営社が、なぜ急に手を引いたのか、われわれにはさつばり分 別段報告する必要もないものとしての個々のデータを収集していた りませんな」 のだ。連邦軍の動きや、科学センターの連中の行動や、植民者たち やその経営する組織や、先住者たちの・ーーとるに足らない小さな事すると、同じ代表であるカワダ・・ケイも続けた。「たしか に、開発営社の技術水準が高く、工事も手際がいいのはたしかですが 実を集める、その中に、少しすっ、開発営社のしていることを蓄え : まあいいじゃないですか。われわれとしては、他に工事を依頼 ていたのである。そして、その結果として、それ程重要なことでは ないが、 . ラクザーンに居を構えている連邦直轄のほとんどの事業しても済む事柄なのだし : : : このさい、ことごとに不愉快な思いを 体、なかでも開発営社支部の活動が、それ迄の成長率から見て、こさせられる開発営社の手を借りなくても、その程度の工事はどうに かできるということを、証明するチャンスだとはいえないですかね」 の一、二カ月、急速に鈍化しているという報告をしたのである。こ もちろん、いきり立っている者もいた。・ハン・・リョウほど の報告を、二十日あまり前に受けとったマセは、その事実を念頭に とどめておいた。 古くはないが、ラクザーン植民者としては初期からいる家の、本人 それが十日前、にわかに対策を講じなければならぬ事態に追い込はまだ若いイルーヌ・・ハイツなどがそうであった。 まれたのだ。 「司政官を前にして、こんなことはいわないほうがよろしいんでし ようけど」 十日前、マセは、ツラツリ交通への定期訪問を行った。ッラツリ 交通は司政庁のあるこのツラツ・リ大陸の公共輸送企業体で、司政機と、イルーヌは、激した調子でいい放ったのである。「連邦直轄 5 8 構側からも技術供与をし、出資もしているラクザーンの公社のひと事業体である開発営社から見れば、こんな、一惑星上のそれも一大 つなのだが : : : そこでマセは、代表者たちから、あまり良くないニ陸に限定されたローカル公社など、どう扱っても構わないというこ

7. SFマガジン 1976年3月号

して、喊声をあげてかわいそうな若者に銀の盆から太い骨をつかんまかしゃ詭計それ自体が、かれらの最大かっ共通の情熱の対象なの でぶつつけだした。だが残りの半数は、これはタウドリツツがいつだ : も好んでやる出席者にしかけた罠であって、ひょっとしたら皇子も ベルトランはしだいにこの気狂い宮廷のハムレットになっていく 共謀してやっているんではなかろうかとあやぶみ、用心ぶかく沈黙 それは、この若者のもうひとつの功績ともいえるのだが。かれ を守っていた。 は、ここで最後のまともな人間は自分たけだということを本能的に かれらがごまかしの舞台装置で本当の戦闘行為を行なったり、計感じとっている ( かれはいちども『ハムレット』を読んだことはな 略をめぐらし国王の寵臣をおとしいれ、密告し、密かにご主人様の寵い ) 。だからこのままだと自分も気が狂ってしまうにちがいないと そうす 愛を得んがために小細工を弄するようなとどまるところを知らぬ奸思う。かれは人を破廉恥だと責めるようなことはしない 策と相互不信で神経をびりびりさせているのは、演技のまずさや、そるためにはあまりにも知的大胆さがなさすぎたからだ。ベルトラン してもともとは〈まあまあ〉のつもりで始めたことが、どうにもやは、自分ではそうと気がっかず、やりたいことがひとつだけあった。 められなくなり、また、やめられないが故にやめたくなくなり、やつまりそれは、かれの舌を刺激し、ロにしたくてうずうずしているこ とを率直に話すことだった。だが、そうすればまともな者であるな むにやまれずはじめた役柄であったが、今となってはそれをやめた らあとになにも残らないために ( かれらは、国王がそうしたいと望ら罰をうけずにはすまないこともよくわかっている。しかし、かれ んだにせよもはや元の集団指揮官タウドリツツにふたたび戻れが気がふれているということになればまた話はべつだ。そこで、べ ないと同様に、ゲシュタボの運転手にも火葬場の監督にも収容所長ルトランは冷静に計算して、素朴でいささかヒステリックなあほう の地位にも戻る術はなかったから、もはや主教や由緒ある公爵や侯ではなく、シェイクスピアのハムレットのような気狂いのふりをす 爵をやめるわけこよ、 冫をしかなかった ) やめたくないという演出の俗悪ることにする。いやそうではない。自分も精神錯乱におちいる必要 ただそう さ、つまり、くり返し強調するが、演出上のこの国家や宮廷の月並みがあると心から信じて自ら気狂いになろうというのだ ! さとグロテスクな俗悪さ掫である、とここで断言するのはむつかしなれてはじめて自分を悩ませていた真実の言葉を口にすることがで : だが、若い男とみれば見さかいなくよだれをたらし いところである。だが、枢機卿の礼帽や騎士のリポンや、レース胸のきるからた : 襞飾りや甲胄そのものが実はこのモグラどもの陰険な陰謀や術策のてべッドに引き入れ、まだ公爵夫人になっていなかったころ、なん 目的であった。いく百回とくり返された戦闘の参加者や、虚構の栄とかいうやりて婆から仕こまれ、今も忘れていない情事の秘技をじ 誉を得んがために行なわれたいく千の殺人を牛耳った者たちにどんつくり教え込むリオの淫売婦であったクリコ公爵夫人が、かれの人 な利益があるというのだ ? なにもありはしない。つまるところそ生を価値あらしめることを間違ってもかれがロ走らないようきびし れは国王の前で竸争相手の信用を失墜させ、身にまとっているものく警告する。なにしろ、精神異常者の無責任な放言にたいする寛容 を引っぱがすことにきゅうきゅうとすることそのことが、奸計やごさなどここにはそれらしきかけらもないことを、かの女ほどよく心

8. SFマガジン 1976年3月号

「そうだな。やつらは解体してるんだーーーまるでーーまるで壊れた敵意を明らかに現わしているものがまだひとつもないとはいえ、慎 機械を解体するみたいに」 / ートンは鼻にしわをよせた。「だが、重な指揮官ならけっして無謀な真似をしないものなのだ。 壊れた機械がこんな匂いを出すとは思わなかった」 特別の安全対策として、〈軸端部〉からは常時一人が強力な望遠 そのとき別の考えが頭に浮かんだ。「神さまーーーやつらがこっち鏡によって監視を続けることになった。ここからなら、ラーマ内部 に向ってきたらどうなる ! ルビー、大急ぎで岸に戻してくれ ! 」 の全地点が見渡せるし、〈南極〉さえたった数百メートル先のよう レゾリューション号は動力電池の寿命などまるで無視して、岸にに見える。どの探険チームもその周囲はつねに一定の監視下に置か 突進した。後方では、あのお化けひとでーーーこれ以上びったりしたれることになるので、これでなんとか不意打ちを食う危険は避けら が、これはまったくの失敗 名前を思いっかなかったーーーの九本腕がどんどん短くちぎられてい れるように思えた。実に名案だった き、まもなくそのうす気味わるい光景は海の深みへと沈んでいっ だったのだ。 追ってくるものはなかったが、 レゾリューション号が上陸地点に その日の最後の食事がすみ、二二〇〇時の就寝時刻がもうすぐと 引き上げられ、無事上陸が完了してからやっと、かれらは胸をなで いうとき、ノートン、ロドリゴ、キャルヴァートとローラ・アーン おろした。神秘にみち、いまや邪悪な存在に急変した〈円筒海〉をストは、水星のインフェルノ基地の中継機から特別にかれらあてに 振りかえりながら、ノートンは二度とだれにもこの海を渡らすまい送信されてくるいつもの夕方のニュースに見入っていた。南半球を の映画がとりわけ興味を呼んでいたーーー〈円筒海〉を と固く決意した。そこにはあまりにもわからぬことが多すぎ、また写したジミー 危険も多すぎたからだ・ : 横切って帰ってくるエ。ヒソードなど観る者をすっかり興奮させたの かれはニューヨークの塔や塁壁に目をやり、その先の陸地の暗い だ。科学者やニュース解説者や〈ラーマ委員会〉のメイハーまで 断崖を眺めた。もうあそこへ好奇心の強い人間が行くことはない。 が、意見を述べ立てていたが、そのまたほとんどがたがいに対立して かれは二度とラーマの神々に逆らうつもりはなかった。 ーが出くわしたあのカニのような代物が、はたして生物 なのか、機械なのか、正真正銘のラーマ人なのか、それともそんな 分類にはまるであてはまらぬ何かなのか、意見がまったくまちまち 第三十三章くも であった。 とノートンは布れをまわしたーーーキャン。フ・アルファ 胸のむかっきを押さえながら、あのお化けひとでが襲撃者たちに には常時最低三人はいるようにし、うち一人はつねに見張りに立っ切り刻まれていくさまを見ているうちに、ふとかれらは何者かの気 こと。さらに、全探険チームにも同じ手順を守らせることにした。配に気づいた。キャン。フ内に侵入してきた者がいるのだ。 ラーマ内部でどんな危険生物が活動を開始しているかわからぬ今、 彼女は突然ショ 最初に気づいたのはローラ・アーンストだった。 / こ。 に 7

9. SFマガジン 1976年3月号

いっしか姿を消してしまいました。しかし、われわれは、この奇妙シンヤをひどく憶病にした。さめることのない悪夢のつづきの中に な物体を忘れることはできませんでした」 いるような気がした。 あかと脂で汚れきった連合正規軍の制服をまとった老人が、ぬけ「幾つかの質問に答えてほしい。先ず・ : た歯の間から息をもらしながら声に力をこめた。 シンヤは迷った。たずねたいことは山のようにあった。 「おまえの名は ? 「この戦争は、貴重な時間を実にむたに浪費しました。もう間に合 わないかもしれない」 「ハルフ。二〇八・・ハルフだ」 「ここで何をしている ? 」 「間に合わない ? それはどういうことだ ? 」 「それはすでに説明した」 「われわれは、ほとんど一世紀もの間、あらゆる資料を検討し、デ ータを集め、綜合調査をおこなった結果、ひとつの結論に達しまし「この組織は何というのか ? 」 「名などない。この組織について知っている者は誰もいないから、 た」 名など必要がない」 「これまでの調査でも、結論というのは出なかったのではないか ? 「組織をひきいているのは誰だ ? 」 この資料でも、物体の内部を調査することはできなかったようだ」 「そうです。できませんでした。かれらには」 「組織をひきいている者の名は ? 」 「かれらには ? 」 「当時、動員された研究機関、調査組織のすべてです。われわれ「・ : スルフは黙ってシンヤの顔を見つめていた。 は、かれらとは全く関係ありません。独自な調査と研究をつづけて 「組織をひきいている者の名は何というのか きました」 老人がうそやでたらめを言っているとも思えない。しかし、かれだ」 らが、いかなる組織に属しているのかしらないが、連邦を上げての 「どうした ? 急に耳が聞えなくなったのか ? 」 調査、研究でもあきらかにされなかったものが、かれらに成功した ・ハルフの表情には、何の変化もあらわれなかった。呼吸さえして とは思えない。 いないかのように、ほんのわずかも動かなかった。 「おれは、ここがどこなのか、何をする所なのか、また、おまえが 「どこから来たんだ ? おまえは ? 」 誰なのか、何ひとっ聞かされていない。おれは、ある人物によっ 「ペイルート」 て、ここへ連れてこられた。わからないことばかりだ」 シンヤは厖大な資料を押しやり、椅子に身を沈めた。ひとつを信「そこで何をしていた ? 」 用してしまえば、あとのすべてを信用しなければならない危惧が、 「工科大学でエレクトロニクスに関する講座を持っていた」 ? と聞いているの 226

10. SFマガジン 1976年3月号

とっぜん、空も大地も地上車の風防も、濃い緑色に染った。そのを失って突進した。 中を、白熱の電光が投網を打ったようにひろがった。それが地上に 「あぶない ! 」 コンクリート ならぶ建物のひとつをすっぽりと押しつつんだ。目のくらむような の壁が目の前に迫ってきた。タイヤがきしり、車輪 閃光がひらめき、天地は一瞬、影を失った。空がふたたびもとの青は完全に停止したまま、凍土の上をとめどなくすべった。 さをとりもどしたとき、すでに地上の建物は完全に姿を消してい すさまじい衝撃とともに、シンヤは一瞬、目の前が暗くなった。 た。その建物は鉄筋コンクリート で、地上部分こそ二階建てだった はずれた部品やポルトが、操縦室の内部をカラカラと走り回った。 が、地下の部分は、十数層あった。地上には横が二百メートル。縦 リーミンがおそろしい目でシンヤをにらんだ。 が五十メートルほどの深い穴があいていた。穴の大きさは、十数層「すまない。大丈夫だったか ? 」 の地下部分が占めていた空間そのものであった。 ウイング・ドアをはね上げて、シンヤは車外へとび出した。作業 また空が緑色に染まった。建物と建物の間から、投網のようにひ員たちが、い っせいに顔を上げ、撃突した地上車を見つめていた。 ろがった電光が見えた。大地が波のようにゆれた。 だが、その目は魚類のように無表情だった。 その頃になって、ようやく地上車がスタートした。 「あぶない ! 早く待避しろ ! 」 「おいー やつらはあんな所で何をやっているんだ ? 」 シンヤは走り寄った。 シンヤは声をふりし・ほった。 「・ハルフ ! どうした ? こんな所にいたらやられるそ。かくれる ならんだ建物と建物の間の、せまいあき地に、十数人の人影が見んだ ! 」 えた。 ・ハルフはその言葉の意味をたしかめようとするかのように、じっ と聞きいった。 「・ハルフもいるそ。このままでは、やつらはやられてしまうそ」 壁によりかかっている者もあった。しやがみこんでひざをかかえ 「どうしたんだ ? 」 ている者もあった。ぼんやりと空を見上げている者もあった。公園建物のかげにかくれて姿が見えなかった船が、ふたたび大空に大 でも散歩するかのように、両手を後に組んで、ゆったりと歩き回っきくせり出してきた。目もくらむ閃光がはしった。 ている者もあった。 「あぶない ! 」 異様だった。かれらには頭上を旋回する奇妙な船も、天地を引き シンヤは・ハルフの体を突きとばした。大きなコンクリートの破片 ・、ツグを 裂く緑の光も、全く目に入らないかのようだった。それとも、かれが飛んできた。それが作業員の一人の体に当り、サンド・ らの心は迫る危険にしびれてしまったのだろうか ? 緊急待避の合たたきつけるような音がした。シンヤは倒れている作業員をかかえ 図とともに、かれらも部屋を走り出た。しかし、そのあと、こんな起した。 所で痴呆のように時間を過しているのだった。 「しつかりしろ ! 」 「止めろ ! 」 肩から背中にかけて大きくくぼみ、その底が長く裂けていた。こ シンヤはリーミンの腕をおさえた。 れではとうてい助からないだろう。 リーミンが短くさけび、スビードを上げはじめた地上車は、方向 シンヤは作業員の体を地面にもどした。シンヤの手の動きが止っ 2 引