流れ山 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年4月号
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1. SFマガジン 1976年4月号

「その分、ポーリングで儲けたらええやないか」 「そううまくいくかいな」 「何やて ? 」 「いく、絶対いく。俺が保証してやる」 「これは本気で言うんやけど、あれは妻かった。お前さえその気に「保証なんかしてくれんでもええ。とにかく俺は迷惑してるんや。 なれば、俺が売り出して有名にしてやる。そうなれるだけの天分をどうしてくれるー 持ってる奴や、お前は。そうなってみ、いま月給いくらか知らんけ「いまさらどうにも仕方がない。お前は眼をつけられたんやから ど、その二倍三倍なんて軽いもんや」 な。しかし、まあ、それほど困るんなら、俺がマネジャーというこ 三月

2. SFマガジン 1976年4月号

銀次郎は弄り廻してゐた私の手錠をおとし、ルテウンべは声をあけるんだ。糞でもくらへ。、おれにや神武このかた親父なんざねえ げて半身起上った。 ョ ! 孫悟空とおなしこって石から飛出したんだ ! 」 「ば : : : 莫迦な ! 」 「さう言って怒るのは無理もない。が・ 「うるせえ ! 」 脱獄囚はそれまでの図太さと落付きをいちどに喪失したふうに、 無頼は左手に私の拳銃を掴むとどうじに、右でじぶんのを引出し 明らかな狼狽をみせて口籠った、「何を言ひだすんだお前さん : てクルリと一転さしながら私につきつけた。「よしんば本当にして 途方もねえ あやまち からが阿漕千万な話ちゃねえか ! 廿なん年打ッ遣らかしときやが 「そうだ。途方もない若気の過誤だったのだーーこ とゝ ってョ、弁慶のご上使みてえにニョコリと面出すてえとコレ伜、父 私はその彼の前へ両手をつく思ひで仔細をのべた " 「今から廿七年前のむかし、その月夜野の町で私は愛しあってゐたちやわい喃アワワのワーーーふざけるな ! そんな勝手な親にいまご 女をすてたーー・弁解の余地はない私の身勝手からだ。しかし銀次ろ現れて貰はなくてもいゝんだー・第一どこに証據がある。もう止 郎、誓って言ふが私はそのとき彼女の懐妊してゐたことを知らなかめろ。、出来星まがひの俄か親父なんそ欲しかアねえ。これ以上四 / ほざ ったのだ。知ってゐたらさうはしなかったらう。だからといって少五ノ吐くとぶっ放すゾ ! 」 を . オしが、とにかく女が世渡りに困り、赤「兄弟まて」とこのときアイヌが静かに言った。「乱暴なことを言 しでも罪が軽くなるとよ思よよ、 児を郷里の寺の門前へ捨てゝ諸方をさすらったあげく死んだことをふな。聞捨てにはならん話だ。おれがもっと良く尋いてみる」 私が知ったのは、ずっと後になってのことだったのだ。私はその後「てやんでえ ! 柄にもねえ分別づらこくな ! 」 の職業柄、人事・戸籍をしらべる便宜があった。そして銀次郎、お銀次郎はこれにも同じゃうな権幕で毒づいたが、顔付はまるで違 前が状況の一切に符号する出生の存在だことを確かめたのだ。伜 ! ってゐた。 どうかこの悪い父を恕してくれ。そして俺と一緒に・ : わしも警察は「黙って臥てろ、ばか ! 頼みもしねえのによけいな助ツ人に来や がってーーーみろ、豪さうにひとを見くびって庇ひだてしやがるから 辞職するから・ : 道庁へ自首 : : : 」 たわごと この態たイ ! 有難迷惑で世話がやけらアーーお前なんそ関係ねえ 「冗談ちゃねえャ ! 瞻言もいゝ加減にしろ ! 」 銀次郎は一瞬呆気にとられたやうな沈黙がすぎると、怒り心頭に 「イヤある ! お前に親父ができると俺にも義理のが一つ増えてう 発したといふ態で疳癪玉を破裂さした。 るさくなる」アイヌは負けてゐなかった。、「他人事ぢゃないんだー 「黙って聴いてれや飛んでもねえ三文講釈叩きだしやがって はっきり 小父さん、あんたその事はもっと明白した証據を出しなさい。そ 「伜」だ ? ヘン、若気のあやまちのヤソの罪の子が聞いて呆れら ア ! オイ小父さん、お前がいつどこで間男はたらかうと餓鬼をししてそんならなぜ銀次郎を逃がさないで逆に捕まへるんだ」 でかさうとご勝手だ。だが何で薮から棒にそのご勝手をおれに押付「職は投出す、と言ったらう。吾子の罪を法吏が捨てゝおくことは ひと ちゃ 99

3. SFマガジン 1976年4月号

よった生まじめの憂い含みのものだったからである。私の背後を視「イ、エ、さつばり」 に視っゞけたのは此奴だったのではあるまいか。 「さうだらう。おれにも解らん」と迦楼羅はまじめ気な様子で首を 9 入口には、あひ変らす錫杖の棒をついて迦楼羅が立ってゐた。 ふった。、「そしてこの場処は東京の新宿だし、そちらのその洞は俵 「何しに来た」 / 藤太がはいる少し前の富士の人穴だと聞かされたと聞かされたと と彼は言った。 おれの前のやつが聞かされたさうだーーーもう何にも訓くな」 私が霧太郎城主の募りに応じて手伝ひ働きに来たと、用意の辞を「承知しました」 のべると鳥面は頷いた。 掲荼鳥はさらにいくつかの明るい洞窟と坑道を通りぬけて、人 「よし。はいれ」 工の運動場のやうな無趣味な平地がひらけた所へ案内した。そこで は頭上は曇った空のやうに不透明に不在で、周囲はなにか沙漠地の 街のやうな岩屋どもが、不規則に点在した数十の・扉のない出入り 〔第五章〕妖怪城 迦楼羅すがたの衛兵 ? に道びかれた森のなかの洞窟は、岩石やロの切穴をあて、同じゃうに不統一な起伏をみせて散開しながら中 土壌といふ当然な材質の形跡が見あたらない、ふしぎな穹窿性の広心を取巻いてゐた。そしてそこをーあゝ又しても ! ーおかめ、ひょ べし っとこ、神楽の痣、狐、狸に烏天狗といふ妖異・道化の面々が、百 間だった。隋円にちかい竪よこ数十メートルの拡がりをもってゐな がらどこにも柱と窓がなく、それでゐて奇妙にタ方のやうな柔い白鬼夜行ならぬ不明な昼の白光のしたで、あちこちの出入り口から他 のそれへと、ひとり又は二人がゝりで、何やら得体の知れぬ箱や行 光が、洞全体にみちわたってゐるのであった。 「ふしぎか ? 」と迦楼羅王が、笑ってゐるやうな ( 状況上・とても李の荷や品物をはこびながら、忙しげに横切って往来してゐた。鳥 さうは思へなかったが ) 声をだして、これもこの場合にはまるきりは私をその裡のひとつの岩屋へ誘導した。 「こゝがおぬしの居場所だ」 似付はしくない案内人めいた説明をしてくれた " 「おぬしは今から六十年の余も後になる・昭和といふ世のそれも末とかれは十畳ばかりの広さの部屋をさし示して言った " 「机、椅 期の建物のなかを通ってゐるのだから、建材や照明の正体がわから子、仕事台と寝床・戸棚、すべて見るとほり揃ってゐる。こゝでお まが ないのは当り前だ、と、おれも来たとき言はれたものだョ。それはぬしは運びこまれる地金を鎔かして小さな勾玉を作るのだ。仕事は 一たいどういふ事ですと説いたら、そのときの俺の案内者は自分に簡単で、覚えるのも雑作はない。道具はみなその向ふの棚に並んで も分らん " たゞ自分が来たときの案内人から、彼が来たとき案内しゐる。新入りの世話をする者がきて教へるから、万事その吩ふとほ てくれた者が来たとき、云ふなればそれは時の墜道のやうなものだ りにすればよい。仕事は辰の下刻翁 ) から酉の上刻翁 ) まで。、昼食 と先任の者が説明した、と聞かされた、と聞かされたと答へたがネの前後一ときと四ッ八ツの半は息休みで、勤めのあとは山塞を出ぬ かぎり何をしようと自由だ。分ったか。分ったら之を着ろ」 解るか ? 」 トンネル ガルダ

4. SFマガジン 1976年4月号

くなることとは知りながら、やむにやまれぬ回転魂ーー・という、没「今度は僕がやるよ」 我的決意のもとに走り、飛び、まわっておるのでありまして。そし項介さんもまわった。それから、げらげら笑いながら三人は店に てまた、まさにその点こそが、このぬるま湯的子宮羊水的現代への戻り、あらためて飲みだした。いつのまにか店内は満員になってお り、マスターが。ヒアノを弾いていた。 厳しいアンチテーゼとしての、この遊びの存在理由でもあるわけな 「名前をつけようよ、この遊びに」 んですね。以上をもちまして講義を終ります。ご静聴感謝します」 項介さんが言った。 俺はウイスキーを飲みほした。 「何とまあ、よう喋る男ゃなあ」 「そうですね。標識柱だから、標識ゲームなんてどうですか」 桑原が眼を丸くした。 もう完全に、項介さんに対する人見しりを無くした俺はこたえ こ 0 「いつひつひつひっ、これは凄い」 「いや、もっとスポーツ的な、軽い感じの、親しみやすい。うん、 項介さんが立ちあがって、俺の腕をとった。 「どうです、あなた、見せてくれませんか。早速、その実技篇をや柱はポールだからポール・ゲーム。いやポーリング、そうだ、ポー ってくれませんか」 、よ」 リングがいし 「いいですとも、やりましよう。わはははは、おい桑原、お前もや「なるほど、それは言いやすくていい」 れ。わははは」 「じゃあ、そう決めましよう。あれをポーリングと命名します」 項介さんが俺の腕をひつばり、俺が桑原の腕をひつばり、三人が俺達は乾盃した。 「ひろまれば、この店がポーリング発祥の地として有名になるよ」 片腕ずつでつながって、店の外へまろび出た。ちょうど店の前に、 「あれで飯くう奴が出れば、プロ・ボウラーですね」と桑原。 駐車禁止の標識が立っている。俺は距離をはかり、呼吸をととのえ 「十ール・ニュ 1 マン、ポール・マッカートニー、 ツ、、ツ ス、みんなやってるポーリングだ」と項介さん。 「それでは、ヨー 駆け出して、気合とともにジャンプ。しつかり把んでグルグルま「ポーらない、ポーります、ポーる、ポーるとき : : : 」 マスターまでが、。ヒアノを弾きながら、活用形を作り始めた。 「ヘイへイ、ポーラ。今日はポーらないの」 「ホイツ」 それを受けて桑原が懐かしい歌をうたいだした。マスターがすば トンとみごとに着地した。二人が笑いころげながら、パチパチと やく。ヒアノをそのメロディにチェンジし、俺がつづけた。 拍手をしてくれた。 「ヘイ、ポール。勿論ポーるわよ」 「さあ桑原、お前もやれ」 項介さんも加わって、合唱になった。 桑原がまわった。 に 5

5. SFマガジン 1976年4月号

では私は何を失ふこともなかった代り大した得物もなく、や & 無駄と戻ってきた彼はちょっと苦笑めいたロ許をほころばしながら言 しも 足に近い結着をみたにすぎない。私が富良野より名寄を先にしたのつこ ナ " 「一里ばかり川下の宗谷牛内といふ所や、ビトシリの山へ入 コタ / は、もちろんそこが銀次郎たちの話合いの第一合流点だからで、富 った所にはかなりの村落があるさうですが、こゝらにゃないさうで 良野で居るかゐないか分らぬ吾妻くんを訪ねて「大利根絮二郎といす。近くに四五軒ちょっと集った形で住んでるのがあるきりだとか おなかま ふ少し変った御同業を知りませんか」抔と訓くのは此方が無収穫だで」 った後の話でよかったからである。 「それで良いが・ーーーそこは ? 」 雨竜川そひに上下する深名線なども影と形のない頃である。 ( 実「それが、来るときに通ってぎた所なんでしてーーー戻りますか ? 」 さいには多度志まで支線があった ) シュマリナイの工事場へゆくに私も笑って、さうして貰った。此処では人々はまったく和人式の は、馬車か冬なら馬橇によるほかはなかった。早朝着いた私は乗合掘立小屋をたて & 住んでゐた。私は一ばん始めに目に入った一軒を の出るのを待ってゐられなかったので、自動車をたのんだ。このこ訪ねてケウシといふ老人に会いたいと申入れた。勘ははづれてゐな かったが相手は不在だった。 ろの所謂る「貸切り」は今日のやうに距離制の料金ではないので、 のり 五六里以上の道程になると、物価の安い時代ではあるし、貧乏官吏「ケウシ ? 年中山へ行ってしまふから、いま居ないのではないで の私でもできる驕りだったのである。もちろん役人の月給も安かっせうか」 たが、いまの私は官費で動いてゐるのだったから。 といふのがその家の返事だった。「家はこの外れの , ーーあそこに 道の両側は鬱蒼たる厚始林で、これは今日ダム湖の完成した観光見える向ふの林の中ですが、一緒にゐるキムラつう若いのが居れば 地区となっても変りはない。いまにも熊に出遇ひはしまいかと心配大たい様子は判ると思ひます」 してゐるうちに、前方に予定地の池と、樹林の切開かれた工事場が「ありがたう」 見えてきた。 車に待 0 て貰「て私はほとんどのない森の中をすゝんだ。ケウ シはやはり居なかった。 どこへ着けますかと問ふ運転手は、私の答へが工事々務所ではな 、附近のアイヌ部落を知らぬかといふ反問なのに驚いたやうだつ「爺つつアん山が好きだからネ」 と木村青年は、アイヌらしさが眉の濃さぐらゐしか残ってゐない 「村ーーといふほどのものは聞きませんネ」と彼は言った。、「が住シャモ風の言語風果で笑った。、「出ると三四日帰りませんよ。何の ご用ですか ? せつかく見えたのに」 んでる連中はあるやうですョ。尋ねてみませう」 自分が聞いておいて伝へるのではどうかと言ふ彼のまへで、私は 東北人らしい無愛想な深切でかれは長いこと事務所や飯場をきゝ どう一一 = ロへばいゝの 7 とっさの考へを纒めなければならなかった。 廻ってくれた。 か。銀次郎のことを尋きにきたことは、本人の反応を見い / \ 切出 「お待たしました」

6. SFマガジン 1976年4月号

「レーダーに反応なし」 うていうかがうことはできなかった。 「照明弾、つづいて投下 ! 」 「何か見えるか ? 」 新しい光点がつぎつぎと生れ、地上はさらに鮮明に浮き上った。 ティクッスネはほとんど一分おきにレーダー室に呼びかけた。 「いや。何も」 第十惑星『サイクロップス 1 』の表面は、ほとんど起伏のない、 『ダフネ 2 』のキムもいらいらしているらしく、そちらからも偵察圧延されたような平原だった。 「山も谷もないようだが : ドローンを出そうか、と言ってきた。しかし直径が四十七キロメー トルしかない小さな天体上で、二機の無人ドローンを操作するのは船長のティクッスネは舷窓からでものそくようにのび上った。主 席宙航士のクルス・プリートリーが、そのティクッスネをふりかえ 危険だった。 「まだ何も見えないか ? 」 「小惑星や惑星の小衛星でも岩石や氷塊でおおわれているのに、ど ティクッスネはとうとう、自分からレーダー室へ出向いた。 「はい。何も」 うしてここだけは、平らなのでしようね。まるで表面をそぎ取った レーダー観測班長はスクリーンに目を当てたまま肩をすくめた。 ように見える」 「照明弾投下」 「もっと高度を下げてみろ」 有視界偵察班長の声が、新しい何かを期待させた。 たしかにそれは溶融したガラス質でおおわれているように見え テレビ・スクリーンに強烈な光の点滴が湧いた。スクリーンが閃た。 高度を下げた偵察ドローンは、照明弾の光の下を、なめるように 光の壁となる。とたんに偵察ドローンが姿勢を変えたものとみえ、 ふたたび視野は暗黒となった。 平原をかすめて飛んだ。 はるか遠方の中空に、目のくらむ光輝が、時おり息をつくように 「あれは ! 」 明減しながらかかっていた。 その光輝がスクリーンの左上方へ移動してゆくと、急に画面の暗船橋に在る全員の口から、さけびがもれた。 スクリーンに一瞬、何か映って、後方の闇へ消え去った。 黒の奥底から、淡褐色の平原が、まぼろしのようにあらわれてき た。その表面の、掻き傷のような縞模様が、ぐんぐん目の前に迫っ「偵察ドローンをもどせ ! 今の地点をもう一度映すんだ ! 」 てきた。 偵察ドローンの操縦席のまわりに人がかけ集った。 偵察ドローンが高度を下げたらしい 照明弾の輝やきが画面の中をおそろしいス。ヒードで逆行した。 船橋の内部の人々の目が、それに集中した。 偵察ドローンの姿勢が変り、ふたたび平原が映りはじめた。 「もっと高度を下げろ」 条痕はさらに大きく回転した。 2 引

7. SFマガジン 1976年4月号

ガルダはもいちど、小さく笑ふ声をたてた。 と渡された仕事着は見たことのない材質と形の一ト仕立のものだ ったが、佩いてみると着心地も活動性も良かった。 「そんな事はかまはん。些細な末梢だ。霧太郎主は小さな事は問題 「たいへん見事に出来てゐますが、やはり昭和末年とやらのものでにせぬだけの器量と力を持ってゐる。反対や抵抗は意味をなさんの せうか」 「ちゃあの連中は勝手に出歩いていたのですか ? お吩付の條とす 「知らんョそんな事ーーおぬし一ト言多いゾ」 こし食違ひますがー 鳥王は「フッ」と笑ふやうな声をたてゝ「もっとも無理はねえが「おぬしの見たのはたぶんご城主の放たれた斥候だョ。命令で動い ナ」と言ひながら、「その次は之だ」と面を差出した。「之をかぶてゐるんだ」 おほやけ れ。城主霧太郎さまから吩はれぬかぎり公式には脱いではならん」 「マ、そんな事はだん / \ 分ってくる成行きにまかせろ。一度に何 もかも聞かうとしたって、知らん奴らのはうが多い。お頭はなにも 渡された面は , ーー犬の顔だった。私はイヤな気がした。 つら 隠しだてはなさらんが、規模が大きすぎてこちとらには把みかねる のだー 「、、 000 《 0 。 00 0 《 0 = 0 、、 00 〈「」 「面は規則として皆付けることになってゐる。したがってどれも同「富良野の連中はまるで魔法のやうに出没しましたが : : : 」 ものみ じでは困るだらう。犬もあれば猿・雉子・兎・亀もある。独りのと「それもお頭のカでだ。大たい斥候連中はみんな亡者だ。生人では もう止めろ。あまりそんな事を詮鑿しはじめると怖くて夜 きは脱がうとぶら下げようと勝手だ。、べつに疝気がおやかるほどのない 寝られなくなるそ」 事でもあるまい」 たしかに此上もなく気味のわるい話だった " 霧太郎は妖術を 「さいはひその持病はございませんが、一寸だけお尋ねして宜しけ びと ゅぎゃう つかって死人をあやつってゐる。、それも自由自在に飛空游行させ ・ : なぜなのです ? 皆が面を付けるといふ訳は」 れ・は、ソノ : る、といふのだ。この目で証據を見届けるまでは信じ難い事だっ 「互ひが互ひを見分けぬためだ。識った誰がこゝへ来てゐようと、 た。私は質問をやめ、示されたとほりの法にしたがって仕事をはじ 出てからもこの中ででも、おぬしは知りも知られもせぬのが良いー めた。 ー違ふか ? 」 作業はやさしい、楽なものだった。虎の面をかぶった指導員が教 「仰言るとほりですが、小生、じつはそとの、とほい富良野の町で もこゝと同じ面の連中を見ました。めい / \ 各自が、自由時間や外へていってからは、毎日あさ・どれと一定してゐない面の配付係か がわ むだ 出のときに面を脱って見知りあってしまったら、その用心も徒になら定量の地金をうけとって火を起し、一日ちゅうそれを鎔かしては 水槽の中へ大匙に一杯づ & 落しこんでゐればよいのだった。水槽の って了ひはしませんか ? 」 のみ ぬし

8. SFマガジン 1976年4月号

「寝たのは風邪のせゐよ」と従姪はすっかり打込んでしまひ、「そ 娘を愛してくれる良人がはやく見付からないものかと私は思った。 はんか もう一度お断りするがこれは勿論、週刊紙とテレビ・ラヂオの普及れがたんだ莫迦くさくて , ーーその日はどしたがさ一ざんも病み付 まいな でいかにも情緒と抑揚のない国内エスペラント " 東西ごちゃ混ぜのきで不快かったかして、一ざんのはうから手出したちもネ、そん ぶたら 『標準語』とやらが全国を風靡して方言の美を蹂躙する以前のことでつい、皆して打叩いたんだど。妾、いがく多勢して宿舎のはうで ちなってるしけ : : : 」とまで言って「やアだ ! 」とはじめて笑っ ゝご承知ありたい。 「フーム、暴力関係でないことで「ヤ・ハイ」となると : : : さしづめた。 刑事犯罪だナ」私はわざと警吏めかした用語をつかって嫌がらせ「こんな言葉ちゃ叔父さまに解らないわネ」 た、その実たんにこの変な風来坊の話に好奇心をもっただけである「イヤ解るよ。よく解った」と私はぎやくに真面目に頷いた。「そ が。「集団生活にはよくあるやつで、チョイとこう、仲間の私有物れややつばり、こゝに長居したくない理由があったんだーーーまさ を : ・ ( ト指を曲げてみせ ) ー一種の病気なんだがナ。どうしても嫌か、おれが来ることを耳にしたからちゃあるまいナ」 「やアだ、叔父さまったら ! 真面目な顔してーー・」 はれる」 実直女史はこんどは冗談が解ったらしく、かさねて笑顔をみせた 「いゝ加減にしてョ ! 」 が、すぐ「でもそれだったら自分でこゝへ出てくる筈ないちゃない 従姪は果して本気になって怒りだし、みごと此方の術策にかゝっ これや、もう、度しがたい哩。 ? 」と仰せになった てぶちまけ始めた。 話題はそこで吾妻くんを離れ、私達自身のことになった。 「違ひますったら ! どうしてそんなに一ざんのこと嫉妬するの ? 〔ャレャレ、何たる純真さだ ! 〕一ぎんが何となく好かれないのは「今度はどういふご用でござしたの ? 」 と従姪はきいた。 インテリだからなのよ。それに何かほんとにヤ・ハイ事があるのかし て、人目につくことを嫌ふから、遊ぶはうの交際が悪くなるちゃな「出張なんだョ」私が答へる「おれの個人用があるんで、ほんとは い。そのうへ此地にゐても、いつもへんにソワ / \ して長居しない休暇をとって来たかったんだが、それを嗅ぎつけたのかいろんな会 一たい我らのはうちや民間の委嘱 の。それで皆がそったら空ッぼ病み感じわるいちて胆やくのよ。社がものを頼んできやがって おとっ ネハいたしマ ( ト熱中のほどを道産語の頻度で示し ) そんで一昨日だか、いつもは : ・ : ・」 ( 従姪が「ソラまた ! 」と苦り、私は「失しヲ・ とりいれ シタ」と続ける " ) 「 : ・一般の依頼では、法定の条項に該当しない は畠のはうやって貰ふんだけド今年は収穫前なので牧場へ行っ てもらってたらア、牧の男衆は気が荒いので喧嘩になっちゃったのかぎり動けないことになってゐるんだが、とにかくこの『全道不 穏』だとか、贋せ金横行だとかいふは、たゞの流言にしても物産 よ」 「なるほど。それや牧の連中のはうが悪いナ。もしそんな他処者会社や銀行には聞捨てにならないんだナーーーマ、情報のかき集めだ 9 ネ、こんどの仕事は」 を、変屈だといふだけで寝込むほど袋叩きにしたとすれば」 めりはり つきあひ おほ

9. SFマガジン 1976年4月号

水は特殊で、鎔鉱は落ちて底にたまるときは、一種の水滴のやうな って無理だョ」 しづく 雫型の塊りになるのだった。作業の退屈きはまる単調さは、つぎ「しかし葉っぱをみれば何の木かぐらゐは分るゾ」 / \ と涌いてくるいろんな疑問や好奇心の答をさがすことで補はれ と私は言った。「自分が何をやってるのか判らないよりは判るは た , 、ーーっまり、一かうに酷しくない稼働の割当てが、充分にその余うがいゝに決ってゐるーーーお頭の霧太郎さんを見たことあるかい 裕をもたせるのである。 私はまづ、自分が何を造らされてゐるのかを知りたく思った。資「どっちとも言へないナ」 もと 材・仕上りや食膳を集配してくれる仲間にきくと、まだ食堂・娯楽犬張子は行儀よく、といふことは規律どほり面を脱らず、ロ許だ 室へ出してもらへない新入りには教へられぬ、と言ふ。私は「娯楽け押上げたところへ挽肉のたつぶり入ったガランテをはこびながら 室」とある所なら「図書室」だってあるだらう、と見込みをつけもぐ / \ いった。、「なぜかてえとお頭も面をかぶるらしいからさ。 た。そして来る者ごとに退屈だから本を貸してくれ、そして早く食だがもしあの般若の面がさうなら・ : 見たナ」 堂でたべられるやうにしてくれとせがみ始めた。 「般若はそこらにもよくゐる・せ。あのって、どのあのなんだ」 大利根絮二郎くんが言ったといふとほり、こゝでは給食は悪くな「只のと違ふんだョ。総体銀でナ、角は象牙、金眼がほんとに光っ かった。量はけして多いとは云へないのが、何なのか盛付けられててやがるんだ。見られるとゾッとするゼ。班長どもも丁寧にしてや くる物ことごとくが美味で、しかもてきめんに満腹しカづくのであがるし、さうちゃないかと思ふんだ」 る。食堂ではもっと品数が多様たといふ。私はたゞの意地汚なから「班長・ : なんてどうして分る ? 」 も食堂ゆきを待焦れた。 「獅子だの虎や鷲のやうな強いもんの面をかぶって豪さうにしてや ばけ がるのが班長で、般若だの天狗みたいな怪物になってるのが係長 本は借りられなかったが食堂でその若干の選好みが許されるやう ど。兵隊の位でいへば伍長と下士官だナーー訊くなら奴等にきいて になったのは間もなくだった。こゝで私はいっともなく互ひに近づナ きあった同じ犬の面の仲間と親しくなった。もっとも同じといってみなョ。こゝちや大たい古参順で役付きになるらしいから。やつら も私のは桃太郎の大の顔で、先方は犬張子人形のやゝ図案化したもは確かに何か知ってやがるゼ。そんな風だ。おれや興味ねえけど のなのだった。私はかれに、こゝでは一たい何が行はれてゐるのださ」 らうと尋いてみた。 と答へた大張子はかれ自身私より多少先輩に当るやうで、私は奴 「分るもんか、そんな事」 さんの思はせぶりな物言ひに躍気になり、なんとか一ト足さきに奴 と彼は答へた 3 , 「一本のネヂからどうして全体の器械が判る ? の知らない事を掴んで鼻をあかしてやりたくなった。そして、その おれ達がやらされてる事は樹でいへば梢の先ッポみたいなもんなんためかそのうち妙な事に気がっきはじめた。 みきね だゾ。そういふ仕組になってるんだ。幹根のはうのことを知らうた 毎晩、寝てから微かな音がしだすのである。注意してゐる むかふ 3 9

10. SFマガジン 1976年4月号

隙に銀次郎は飛掛ったが、それと同時に田代はドスを擂んで女の胸と、分け前を余分によこして言ひました。 『連れだってると、二度も殺人をやっちまった以上おれがいくら庇 へ突立てました。 ってもおめえも共犯にされる。船からあとはみんな・ハラ / \ に散っ 「ビルシカが始めてすさまじい声をたてた・ーー銀が射撃ったのはこ の為です。やつは仲間を射って女から引離しましたが : : : もうだめたことにするはうが得だ。半年経ったら名寄で会はう。それまで之 でした。私とルテウンべが駆付けたときには、。ヒルシカははや銀次で凌ぎねえ。田代はもう要らねえ訳だから』 郎に抱へられて息を引取りかけてゐました。田代のはうは、目 = 剥「あっしが捕まったのは自分のへまで町へ近づいた為ですが、銀の 言ったとほり三人が後まで組んでゐなかった様相が、いまのところ いてひっくり返ってやがるのを私があらためてみましたが、どうい ぶち ふもんだか脳天を横から射抜かれて之もあの世ゆき。銀は胴を射っ私のお白洲にや倖ひしてます。ご参考までに付足しますと、あっし はず たんでせうが、どうしてもこの拳銃といふやっ、打ッ放すと弾みでが 『でお前はどうするんだ』 先が上るんだヨネ。 と別れ際にやつの今後の考へをきいた返事では、 「三人とも黙ってたー・ーわきから妹の手首をとって脈をみてゐたル 『うん、前言ったやうに鬼の宝のはうへ行ってみる』 テウンべが、静かにそれを下へおくと、銀次郎に わた といふ事でした " 『それから何とかして大利根の絮公にもう一ど 『妹はあんたを : : : 』 会って、鬼の棲家のこともっとよく聞かねえといけねえナア』 とポツンと言ひかけ、それきりふつつり黙りこみました。いろい 「さう話して別れたきり、奴にはそのご会ってゐませんが、私はど ろな立場や事情がからみあひ、やつ自身も言ふに言へない気持だっ うも、奴よりジャマッケでルテウンべと別れたとき、この髭の濃い たんでせう。 ら 「それを聞くと銀次郎は、これも黙ってビルシカの躰を抱上げ、む若いアイヌが、妹の亡骸をだいて持ちながら岩の上へ仁王立ちに立 かふの茂みの中へはいっていったと思ふと、十分か十五分でまた抱っていつまでも見送り、やつに 『兄弟 ! おれの命の要るときは呼んでくれ ! 宙を飛んでも駈付 いて出て兄貴に渡しやがったもんです。 けるぞ ! 』 へんな野郎だヨネ、まったく とどなったのが耳に残って忘れられません」 あとで訊いたら、『供養』のつもりでやったんだと吐したがネ、 いくら供養でも死躰は抱けねえナア、あっしには。 くっ 〔第三章〕傀儡師 「ーーお話はまアこれだけです。それから三人は善後策を相談し て、ルテウンべが後始末に残り、我々は道筋をおそはるだけで別れ銀次郎が巷でいはれてゐるやうには「共和国」に単なる興味以上 て先を急ぐことにしました。ビヤシリへはいったかと思ふころ、銀のものをもたず、むしろ伝説の魔人の財宝をねらふ慾と冒険の徒党乃 に加はってゐること、したがってその行動半径はそれの在り所を中 が『おめえはこゝから別になりねえ』 十ロクジ れつ わかし みてくれ