イルーヌ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年4月号
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1. SFマガジン 1976年4月号

くないとはいえないのである。なぜなら、東部には先住者たちの居「ええ。買収は完了しています。けれども : : : この路線におけるラ 住地区が数多くあり、その半数近くに植民者たちが入り込んでいるンプウェイをどこに設けるかについて、実は、厄介な事態がおきて 2 ものの、まだ相当な完全独立を保つ居住地区がたくさん存在してい来たのです」 るからだ。これらのーー人間たちが混住しているいないを問わず、 「ほう」 もとからの居住地区を根とする地域は、人口分布にそれ程差がな「地図を見て頂くとお分りでしようが、新路線は、このコースを走 一様に人々 ( 先住者、植民者両方とも ) が散らばっているのだることになります」 った。西部では逆に、過密地帯と過疎地帯の違いが顕著だという、 イルーヌは、指先で計画路線をたどりながらいう。「つまり、リ それだけのことなのである。 トリットを発した路線は、まずタ・フル地区、ついで第八地区、それ ともあれ。 からハイヤル地区を経て、第十地区、そののちニルニロ、レイトレ そうしたツラツリ大陸の中にあって、ツラツリ交通の自動管制車イのふたつの地区を通ったのち、第十三、第十四地区を抜けて、 路線、あるいはモノレールの路線というのが、西部に集中しているイヤツリットに至るーーーということになります」 のも、また本当であった。ッラツリットから南、南西へと、路線は「そうですね」 きめこまかく敷かれているのに、西部から東部へとなると、これは マセは肯定した。すでに熟知している事柄である。 ′イヤル、ニルニロ、 淋しいのである。ッラツリットから保養地として有名なリトリット イルーヌの列挙した地区のうち、タブル、、 へ、もうひとつはツラビス大陸へ渡る港を持っハイヤツリットへのレイトレイの四地区は、もともとからの先住者の居住地区であり、 二本があるだけであった。 第八、第十、第十三、第十四の四つは、植民者たちがある程度先住者 「以前に申しあげた通り、今度の新路線というのは、いわば東部外の居住地区を模して作りあげたものである。 ( 先住者たちの中に都 周線というべきものです。図面にあるように、これはリトリットか市に出て、もとからの居住地区を見捨てる者がすくなくないのと同 ら発して、東部海岸沿いにハイヤツリット迄円弧を描きながら、こ様、植民者のうちには、都市という形態に背を向けて、先住者的生 の二つの都市を結ぶわけです」 活を求める者も結構多かったのだ ) その先住者の居住地区のうち、 イルーヌは続ける。「しかしながら、この路線敷設のための交渉タブル、、 ′イヤルの二地区はかなり混住が進行しているけれども、 をはじめると、少々問題があることが判明して来ました」 いわば奥地といっていいニルニロ、レイトレイは、いまだに植民以 前の、先住者たちだけで成立していた時代の様相を、根強く持ち続 マセはかすかに眉をひそかた。 「この路線に必要な土地の買収けているーーーということも、マセはよく知っていた。 は、もう終っていたのではないのですか ? 」 「ところが、ランプウェイを置くという段になって、住民たちの意 ルーヌよ、一貝、こ。 向と、こちらの予定とが、どうしてもうまく噛み合わないというこ

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ツをに第九面会室へ案内させます」 ともあれ、イルーヌと会わなければならない。 そこ迄いってから、ØOb--4 はもうひとつの報告を行った。「ただ 今、在ラクザーン連邦軍星域群統合参謀本部から、要請が入りまし第九面会室で、イルーヌは立ったままもうテー・フルに地図をひろ た。連邦軍星域統合参謀本部の将校ふたりが司政庁へ来るとのことげて待っていた・。彼女を案内して来たは、壁ぎわへ行 です」 き、そこではじめから佇立していた一一体の系ロポットと並ん 「軍関係者が ? 何の用だ ? 」 で静止してる。 「巡察官搭載宇宙船に同乗している人物を迎えに来るとのことで マセは、とともに、第九面会室に入った。 「こんにちは」 は、淡々と続ける。「当該人物についての身許照会は、宙イ ルーヌは親しげな、それでいて礼儀を失しない態度で挨拶し 港到着時におけるチェックであきらかになるであろう、それ迄は伏た。「この間は大変ご苦労様でした。きようはまた、お忙しいのに せておきたいという理由で拒否されました。私は、宙港到着時に当時間をとって頂いて : : : 有難うございます」 該人物のチェックを正確に行うつもりです。よろしいですか ? 」 「いいえ。それが私のっとめですから。 どうそお掛け下さい」 「結構」 「失礼します」 マセは、あぶなく徴笑するところだった。巡察官と同行している イルーヌは腰をおろし、マセも向い合ってすわった。 cn は 人物についての、司政機構への非協力的態度で、が少し意地テー・フルの空いた側へ行ミそこで会議にいつでも参加できるよう、 になっているような気がしたからである。むろん、そういうことは待機の姿勢をとる。いう迄もなくが見聞きするものは、そ あり得ない。ロ・ホットにはその種の感覚はないものだ。そして : のまま r-nar-* にデータとして送り込まれる。その意味でが いかにのチェックが厳重を極めていても、巡察官と同行してつねに司政官と同行するということは、がいつもそこに控え 来るクラスの人物のラクザーン来訪を、司政官程度の権限でストッ ているということにもなるのだった。司政庁の地下に巨大な機構と プすることは出来ないであろう。それはマセにはよく分っていた。 して鎮座するには、そうした手足、それも独自の判断力をそ マセは、もう一度、手許の書類に視線を落した。 なえた高度の手足がいくつも必要なのである。もっともこの場合、 司政庁の修理についての決裁は : : : 彼は今直ちに行うのをやめるこの面会は司政庁内で行われているのだから、は部屋にとり ことにした。今はまだあまりにも問題がからみ合い過ぎている。何つけられた装置によっても様子をつかむことが出来るのだが : : : 情 時間か何日か : : : 状況の変化なりあたらしいデータの入る迄、決定報ルートはにとって、多ければ多い程良いのであった。同時 は延ばすことにしよう。いわゆる待ちの政治をやることになるが : に百や二百の情報が入って来ても、にとっては何ということ ・ : それしかないのだった。 はないのである。現に今だっては、他のロポット官僚たちと 2 2

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りしていたら、多分、イルーヌの目には軽蔑の色が浮び、その色は もなくなってくるわけでしよう ? 」 今後ずっと消えることはない、そんなことになっていたのかも知れ そうなのだ。 マセと、彼は自分に呟いた。マセ、お前がうまくやれば、補償金なかった。 だから、イルーヌは、このことを、腹芸としての言外に要請する の必要はなくなる。すると、公社債も発行せずに済むし、司政庁へ の利益配当も従前通りに得られるという寸法だ。つまり、ツラツリような真似をしなかったのではあるまいか ? いや : : : このすべてが、実は、手のうちを全部あかしたと見せ 交通は、誘いをかけて来ているのである。司政官が乗ってくること る、高度の誘いなのかも分らない。 を期待しているのである。 「お話し中、失礼します」 そうすれば、司政庁は楽になる、それはたしかだ。たしかだが : 会話の絶えた、その沈黙を、が破った。「面会予定時刻 ・ : そんな行為は許されないのであった。それをやれば、司政官とい うのはついに、ただの惑星上の有力者、おのれの利害に従って動くを終了して二分経過していますが、このまま面会を続けられるかど うか、がおたずねしたいそうです」 存在に堕してしまうのである。 「あら、もうそんな時間 ? 」 「残念ですが」 イルーヌは時計を見、地図をたたみはじめた。「どうも失礼しま と、彼はいった。「私は、今のお話は聞かなかったことにしてお きます。たしかに私は近く大がかりな巡回の旅に出ますが : : : そしした。では : : : 第二の件はなかったことにして、公社債発行につい ては、よろしくお願い致します」 て、場合によってはあなたのおっしやった地方を通るかも知れない し、ことと次第では、今あなたのいわれたような結果が生じる可能イルーヌは席を立った。が送って行く。 性たって絶無とはいえないでしよう。けれども、それは私の : : : 司「報告します」 「ただ今、連 政官が司政官としての判断のもとになされる行動なのです。ーーそが、の言葉をスビーカーにのせた。 邦軍星域群統合参謀本部から、二名の将校が到着しました。二名の れでよろしいですか ? 」 将校の名および階級を申し上げます。ャン・ (-•0 ・タイツ " 「ごめんなさい」 、および、シュレイン・・カルガイスト日 O です」 イルーヌは目を伏せた。不意に、彼女は女っぽくなっていた。 「わたし : : : あなたが拒否なさると、はじめから思っていましたわ」「分った」 マセは、その二人と面識があった。ャンは、もうだいぶ年配の、 それなら、なぜそんな提案をしたのだーーー・といおうとして、マセ はやめた。イルーヌは一応、立場としていうべきことをいっただけ古参のである。対外折衝の・ヘテランで、軍人というよりむしろ なのだ。イル 1 ヌの個人的感情では、司政官がことわることを望ん外交官を思わせるところのある男だった。 シュレインは : : : マセはこのシュレインという青年に、いわば野 でいたのかも知れない。もしもこのとき、マセが簡単に引き受けた

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のを拒否する構えを見せています」 とが、はっきりして来たのですよ」 とイルーヌ。「当初の計画では、われわれは、タ・フル地区と第マセは、それらの書類をばらばらと繰ってみた。 「たしかに。それにしても南と北とで、随分はっきりと違って来た 八地区の中間、 ハイヤル地区と第十地区の中間、それにニルニロ、 レイトレイと、第十三、第十四地区の間の、この三つに、完全誘導ものですね」 マセはいっこ。 システムを有するラン。フウェイを作ることになっていました。その 他の半自動ラン。フウェイは随所 : : : 出来ることなら、リトリット、 それは、充分に考えられることだったのである。ニルニロ、レイ あるいはハイヤツリットと完全誘導ランプウェイの間、それに完全 トレイといった昔ながらの居住地区のありかたを守りつづけている 誘導ランプウェイどうしの途中に、それそれふたつずつ設置することころはむろんそのはずだし、第十三、第十四の地区は、植民者た とを、もくろんでいたわけです。そうお話ししましたわね ? 」 ちだけで作られたというものの、その成員は概して積極性に乏し 「ええ」 く、いわゆる晴耕雨読の生活をするために、わざわざ交通不便なそ 「でも、それが到底不可能たということが、次第にあきらかになつんな土地に赴き、住みついた人々ばかりなのである。 「このままでは、新路線建設の意味の大半は失われてしまいます て来ました」 レ、ーヌよ、、 さく溜息をついた。「なぜなら、北部の地方でわ」 と、イルーヌ。「もともとこの路線は、まだあまり融和していな は、もっとランプウェイを増やしてくれという要求があるのにひき い植民者たちと先住者たちの地域を結びつけるために計画されたの かえ、南のほうでは、線路が通るのは認めるけれども、ランプウェ イは完全誘導タイプであろうと半自動タイ。フであろうと、一切ことですから : : : 南の方が素通りでは、何のために建設するのか分らな くなってしまうし : : : また、そんな路線を路線とは呼べないはすで わるといいだしたのです」 マセは、低い声を出した。 「それでは : 北部地方ではラン。フウェイが数多く出来るのに、南「そうですね。それに、昔ながらの姿をとどめている先住者の居住 部には全く作られないということになりますね」 地区への観光者も来ないわけで : : : 路線使用料収入見込みが大幅に 「そうなんです」 狂うことになりますからね」 イルーヌは、別の、綴じた書類をいくつか取り出した。「これ マセは指摘し、イルーヌはかすかに苦笑した。ありていにいえ が、その、各地区の要望書あるいは請願書の写しです。ご覧頂ければ、ツラツリ交通が困るのは、そのことだったのである。 ばお分りでしようが、タブル、、 ノイヤル、第八、第十の地区は、出「そこで、公社としては、この打開策を考えざるを得ないのです」 来るたけたくさんランプウェイを設けろと要求しているのに、 イルーヌの話は、核心に入って来た。「われわれは二日前に幹部 い、この新路線計画を中止するか、あく迄やりとげるかに ニロ、レイトレイ、第十三、第十四の地区は、ラン。フウェイそのも会議を行

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ついて、討議をしました」 「正式な許可願は、話が決ってから提出しますけれども、その前に 「で : : : 中止ですか ? 」 司政官、発行許可権を持っ司政責任者として、また、出資者代表と 2 いえ。ラクザーンの発展のためには多少の無理をしてでも、建して、あなたの内諾を得ておきたいのですが : : : 」 設すべきだという結論に達しました。ただ : : : 」 好ましい事態ではない と、マセは思った。債券というからに 「ただ ? 」 は、またツラツリ交通の内部事情を考えるならば、償還期間はかな 「そのためには、われわれは、司政官にふたつばかりのお願いをしり長いものになるであろう。それが高利率だとすれば : なければなりません。そのひとつは許可であり、もうひとつはご助「それで、経営内容悪化を来すことはないのですか ? 」 力が欲しいのです」 「当面は負担になるでしよう」 イルーヌは、当然のように答えた。「しかし、新路線建設が完了 「許可というのは、公社債を発行することです」 する三レーン後からは使用料が寄与しはじめるし、数期の間、利益 イルーヌは、じっとマセの顔をみつめていう。「われわれは、南がすくなくなる程度で済むと思われます」 方の四つの地区に対し、補償金をーーそれもラックスでではなくチ マセにすれば、出来ることならそれは避けたかった。ひとつでも エンで支払うことで、何とか相手を説得出来るのではないかという公社の利益が低下することは、そのまま司政庁の歳入減につながっ 確信を抱きはじめています。非常に多額の補償金になるでしようがてくる。がだからといって、司政庁みずからが経営に当っているわ ・ : 現金収入のすくないあの地方では、最近の物価上昇傾向に先行けではない公社のツラツリ交通に、それを強制は出来ないのだ。せ き不安感を抱いており、この際、まとまった金額が入ることになれ いぜいが、圧力をかけて、もう少し打撃を軽減するようなかたちに ば、ランプウェイ設置を呑む可能性が大きいのです。ただ、あの地変更させる程度である。だが、それが具体的にどうす・ヘきかとなる 方の財産に対する感覚から推して、この支払いは幾分割損でも、金と、今のマセには対案はなかった。 属としての金を渡さなければ、効果は減殺されるでしよう。ーーーけそれでも、何かの方法を講じる以外にはない。 れども、現在の公社が余剰金をほとんど持たず、というのも、司政「お話はよく分りました」 庁への利益配当支払いに据置きが認められず当期納入しなければな マセは答えた。「ただ、この件については即答は出来ません。そ らないせいもありまして ( ここでイルーヌは、ちらりと皮肉つま、 をしの計画案を検討させますから、詳細な資料を出して頂けますか ? 」 自になった ) この補償金は借金でまかなう他ないのです。有利な条「それは、持参しております」 件の公社債を発行するのを許して頂かなければ、どうにもならない イルーヌは、分厚い資料を出した。 のが現状なんですよ」 マセは、それを預った。とりあえす tnar-q にデータを検討させ、 「ーーー成程」 何らかの代替手段を考えなければならない。代替手段がみつからな

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このイルーヌのように、いつも炎を持続させることが出来るなら、 応対を続けているのだ。 どんなにいいだろう などと思うときがあるのだった。 「早速ですが、用談に入ってよろしいですか ? 」 「どうぞ」 イルーヌはやわらかな、しかも無駄のない調子でいった。 レーヌは中腰に このイル 1 ヌには、マセは時々感嘆することがある。彼女は有能そんなことをふっと考えながらマセが頷くと、イノ だった。それはもちろんこの年で一大陸の主要公共輸送企業体の幹なり、地図を示していいはじめた。 「これは、先日見て頂いた新路線図の、さらに新しい詳細なもので 部になる位だから、当然といえば当然である。たしかに彼女がこの ラクザーン入植者たちの中では初期からいる家の人間だという事実す」 も、彼女に有利に作用したであろうことは否めない。ラクザーンで「そのようですね」 マセは応じる。 は植民者は最初の一群から、次の時期に入植して来た人々を 地図は、イルーヌの言葉通り、くわしかった。 という符号であらわしているのだから、彼女の >A O というのは、 かなり古い一家であるのを示している。たた、その符号がそれぞれどこか半月か、あるいは膨れた胃を連想させる形状のツラツリ大 の子供にもやはりついて廻るところに、マセとしては納得しがたい陸の、その中央部西海岸に、ツラツリットがある。ラクザーンの赤 ものをおぼえるのだが : : : 彼女 . のというのは、だから、本来彼道と 0 度の経線は、このツラツリットで交又していた。正確にいえ ば、これは、先住者たちの優者赤道占拠の感覚を尊重して、司政庁 女の父母が持っていた符号なのである。その余光が彼女を包んでい るともいえるのだった。 : カ : : : そういった事柄を割引いても、彼女を赤道線上に建設し、この司政庁を通る経線を本初子午線と定め がいつぶう変った、というか、一典型というか : : : 有能な経営者でた、ということなのだ。 あることは間違いない。それは成程、名実ともにツラツリ交通の顔そのツラツリ大陸の中央を南北に、ゆるくカ 1 プしながら縦貫す といっていい老・ハン・・リョウの風格とか、他惑星からッラッる大山脈がある。メルタ山脈だ。このメルタ山脈によってッラツリ リ交通にスカウトされて来た、切れるという評判のカワダ・・ は西部と東部に分れ、気候にはさして差がないが、様相はかなりこ ケイなどとくらべると、あまり目立たない存在ではあるが、彼女のとなっているのであった。ラクザーン最大の都市であるツラツリッ 仕事のしぶりには、一種情熱をエネルギーとして、カ尽きる迄、そ トをはじめとして、西部の海岸ぞいには数個の都市があるのに対 れも息長く頑張りつづけるというところがあるのだった。マセは、 し、東部にはわずかにふたっ メルタ山脈の北端近くから分れて 自分とあまり変らない年代のこのイルーヌの、そうした長続きのす東へ伸びるカルタ山脈との、その間に出来た小さな高原にあるリト るはげしさが、自分のうちにあるだろうかと、自問するときがあリットと、東部のほとんど南端にあるハイマツリットがあるだけだ る。自分の内部のはげしさとは、瞬間的爆発の連続に過ぎないのでった。 はあるまいか、ある日ある時、絶えてしまうのではあるまいか : ・ : だからといって、東部が西部に比べて人口がはるかにす 3 2

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て、その好意によりかかっているのも本当である。とはいえ、そののだった。 と、彼は、ふっと思った。 ただ、方法はないわけではない 献金にしたって、過去のように司政官とつながることでそれだけの それは、一三二五番恒星ーーーラクザーンの太陽が新星化するのを 見返りがあった時代とことなり、メリットがあったとしてもたいし たことのない昨今、しかも、植民者がそうした居住区に混住して行正式に発表し、それゆえの司政庁の放置であるとすれば : : : 。 くことで、独立性を失った居住地区が多くなっている現況 ( このこ駄目だ。 そんな司政庁内で、退避計画が : : : その実行が出来るだろうか ? とにそれ程神経質にならず植民者が入ってくるのを許すところに、 先住者の不思議さのひとつがある ) では : ・ : かっその上、自己の居第一、へたに ( それもまだ連邦からの許しが出ていないのだ ) 発表 住地区を捨てて都市に住む先住者が増える一方の現在では、これもしたりして、パニックを招いたらどうする ? この事実は、慎重な 先細りの一途をたどっているのであった。そんな財政状態の中で、配慮のもとにあきらかにされなければならないのだ。司政庁の修理 十八億ラックスの支出をすれば、司政そのものに支障を来すおそれをやめるための便法として公表するーーーなどというのは、苦しまぎ があるし、いっかは不要になり太陽の新星化とともに消え失せるのれの、下の下策なのである。 が分っている司政庁に、》それだけの大金を使って迄修理する必要が彼は、時計を見た。 あるか否か、ということなのである。 あの二時間もすれば、巡察官を乗せた宇宙船が、ツラツリ第一宙 けれども、もしも、司政庁が朽ち果てるにまかせておけば : : : そ港に着く時間になっていた。 もう、こんな時間か。 れはそれで、重大な結果を招くのも、目に見えていた。それはその まま、司政官の権勢の凋落を認めさせることになるし、今後、司政と、すれば、約束していた来訪者が、そろそろ来るはずだ。この 官がいわゆる退避計画に着手したとしても、もはや誰も唯々諾々と時間、例のツラツリ交通の幹部 : : : 連絡によればイルーヌ・・ 従おうとはしないであろう。人々にそんな印象を与えるのは、どう ハイツが訪ねて来ることになっていた。あの、開発営社が手を引い しても避けねばならなかった。 た新路線に関する用件である。 マセは、溜息をついた。 彼がそのことを思い出した。ちょうど同じときに、軽くプザーが 鳴って、壁のス。ヒーカーからの合成音が聞えて来た。 何か、いい方法はないものであろうか ? 今の司政庁をそのままにして、もっとコンパクトな安くあがるも「報告します。来訪者です」と、はいった。「会見予定通 のを別に建てるという方法は : : : それがかりに大修理よりもずっとり、ツラツリ交通代表委員のイルーヌ・・ハイツが司政庁玄関 安く済むとしても : : : 問題にならなかった。司政庁の規格・最低要に到着しました。予定通り会見をなさいますか ? 」 「ああ、する」 件というのは、ちゃんと定められているのである。それに違背しな いようにいくら節約したとしても、修理の方が安いのに決っている「第九面会室に、面会準備をしております。イルーヌ・・ハイ 2

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ければ : : : 司政庁の減収を承知の上で、この計画に着手する許可を 与えなければならないだろう。 「で、もうひとっというのは ? 」 「側面的協力をして頂きたいのですわ」 イルーヌは、小さな溜息をついた。「われわれのこの計画は、か りに公社債を発行し、補償金の用意が出来たとしても、必ずしも成 功するとは限らないのです。ですから、司政官、あなたは毎レーン 定期的にラクザーンの四大陸巡回をなさるわけで、その日はもうじ きだと聞いておりますが : : : そのさい、スケジュールの中に、この 地方への巡回を含めて欲しいのです」 「これが、ある意味では司政への干渉になると、わたしには分って います」 イルーヌはためらいがちに、しかし笑顔を見せた。「第一、司政 官が、一公社の便宜のための行動をとるわけがありませんわね。そ れも承知しています。承知の上でお願いしたいのですが : : : この地 方にかりに行かれることがあったら、それそれの地区で、新路線の 必要性を、 全面的にではありません、わずかでも効果があがれ ばいいのです。新路線の必要性を、そこの人たちに考えさせるよう に持って行って頂きたいのです」 「なぜ、あなたがたがやらないのです ? 」 「われわれの言葉は、先入観のもとに、否定的に聞かれるからです わ。司政官がいう場合は、そうではないはずです。司政官は : : : 依 然として司政官ですもの」 「それに、もしもその説得が望外の効果をあげれば : : : 補償の必要 進化した 猿たち 星新一 く好評発売中〉 たのしいアメリカ漫画と、工ッセイストと しても名高い著者との絶妙なコンビネーシ ョンで、すべてのホモサピエンスに捧げる 進化した猿たちの、進化した猿たちによる、 進化した猿たちのための本 ! 全三巻各 260 円 7 2