シンヤ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年4月号
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1. SFマガジン 1976年4月号

だが、かれらがほんものの人間であり、朽ちかけた帆船もにせの シティ 造り物でないとすれば、この事態は、市を襲った派遣軍のもたらし たそれと全く同質のものであった。 何を考えているひまもなかった。幸い・ ( ルフの体が、弾丸よけに平原をほとんど半周を描いて走り、二人はもとの建物の壁の下に なってくれた。すでに・ハルフの体は穴だらけになっていた。シンヤ立った。地上車がなければ、脱出はとうてい不可能だった。 帆船の巨大な帆に陽が映え、戦士たちはふたたび陣形を整えて迫 は、その体をあまり破壊してしまいたくなかった。 シンヤは走った。重い。たちまち息が切れ、目がくらんだ。はげーってきた。弓や旧式な鉄砲を持ち、偃月刀や槍をふり回すかれらだ ったが、 - 戦いは長びけば長びくほど二人に不利になってゆくのは明 しい闘争の物音が前後左右から聞えていた ~ , 視野のすみで、真紅の 光条が閃いた。ほのおの塊になった戦士たちが、やみくもに走り回白だった。かれらには死への恐れは全くないようだった。ただ、痴 り、半狂乱になってシンヤの前へ飛び出してきた。それをたてに、呆のように射ち、走り、襲いかかる。生命はあるにちがいない。た だ「その生命が意志と不可分のものかどうかはわからなかった。か 偃月刀をふりかざした大男が、飢えたけもののように肉薄してき た。その三角のあごひげが、死神のしるしのようにシンヤの目に入れらは、かって地球上のあらゆる海に出没し、財宝をかすめ、女を 奪い、生命のやり取りを無上の娯しみとしたにちがいない。だが、 シンヤは背後をふりかえる余裕もなく絶叫した。「前だー たのそのときも、今のように機械のように動き、すでに定められている む ! 」 かのように、無意味に射ち、太刀をふりおろし、槍を投げただろう それは悲鳴に近かった。偃月刀が風をまいてシンヤの頭上にふり おろされた。 「やつらは、あやつられているんだ・せ ! 」 リーミンはシンヤの言葉には応えず、荒い息を吐いて、迫ってく その一瞬、何千分の一秒か早く、シンヤの背後からひらめいてき た真紅の光条が、男の顔面をとらえた。煙とじよう気と肉の焼けたる戦士たちのむれに視線を投げていた。 だれる強烈な匂いとともに、男は樽のように地に倒れた。 「地下に今は使われていない修理工場があります。そこへかくれま シンヤはすばやく男の体を調べた。しかし、これはたしかに人体しよう」 ・こっこ 0 二人は身をひるがえして、建物の内部に走りこんだ。建物の中に しかし、これが生身の人間だとすると、なぜこんな古代の服装を入ることは、極めて危険だったが、今はやむをえなかった。 二人が地下道を走りぬけ、修理工場にたどりついたとき、はげし して、錆と海草につつまれたポロ帆船などに乗っているのだろう ? シンヤは、最初、そのように作られ、その時代をあらわす大道具のい鳴動がこの地下室全体をどよもした。分厚いコンクリートの天井 が大きくたわみ、紙箱の底のように引き裂け、今にもそこから岩盤 中に配置されたロ・ホットたろうと思った。 2 け

2. SFマガジン 1976年4月号

通して、シンヤの体の輪郭を完全にとらえているはずだった。 「あたし、あれを見たのは、こんどで三回目なんです」 布は完全に透明であり、それをかぶってうずくまっているシンヤ「三回も ! ここでか ? 」 「一回はここで。、一回はオーストラリアででした」 の姿は、その物体の光学装置におさまっているはずであった。その 飛ッド 証拠には、大きなレンズのついた壺状の突起は、つねに正確にその 「オーストラリア ? 」 レンズをシンヤの体に向けつづけていた。触角はその動きに合わせ「メルポルンの郊外の草原でしたよ。あたしの車を追いかけてきた てはたらいているようだった。 んです」 恐怖と緊張の何秒かが過ぎた。 「今のと同じものか ? 」 シンヤは、さけび出したいのを必死にこらえた。 「ええ。全く同じものなのか、形が同じだけで別なものなのかはわ ふいにその物体は後退しはじめた。前後左右どちらへでも自由に かりませんけれども」 動くことができるらしい。それは、すでにシンヤに対する興味を失「いっ頃だ ? それは」 、すべるように離れてゆくと、もう一度、万力などがとりつけて 「五、六年前だったわ」 ある工作台の前で立ち止った。 - ・ふたたび万力を調べていたが、つい リーミンは言葉を濁した。 に思いきったように、万力を工作台からとりはずした。それをかか「さあ、行きましよう」 えると、すべるように破孔から出ていった。 「もうちょっと説明してくれ」 「いつまでもこんな所にいると、また、あれがもどってくるわよ。 もう歩けるでしよう」 三十分ほどたった頃、 リーミンが動いた。 シンヤは立ち上ろうとして、よろめき、床に膝をついた。全くカくそ ! シンヤは苦しい作業ののち、ようやく立ち上った。 が入っていなかった。体を支えているのも困難なほどの、はげしい 疲労が全身をおかしていた。 「それをかぶって」 「何だ ? 今のは」 透明なビニール布で、頭から爪先まですつにりとおおい、あまっ 「わかりません」 た分を後にずるずるとひきずりながら歩くのは、どう見てもこの場 にふさわしくなかった。 「あれは生物だろうか ? 」 「生物のような行動をしていたけれども」 「どうして、こんなかっこうをして歩かなければならないんだ ? 」 「この布は生物体のあらわす物理的、化学的特性を完全にしゃ断し 「宇宙生物か ? 」 てしまうんです。体温や、脈搏も感じさせないし、ひふ電流なども 「生物だとすれば、地球のものではありませんね」 検知させないんです。だから視覚にたよる生物いがいには、所在を 「おまえはあまりおどろいていないようだな」 2 20

3. SFマガジン 1976年4月号

その物体は、さっと体を起した。長い柄をいつばいにのばしたポ 胴体から突き出した何本かの棒が、ゆっくり動くと、その物は、た トが、びたりとシンヤに向けられた。ポッドの先端は、ふくれた めらうように、わずかに進んだ。そのとき、低い回転音が聞えた。 レンズになっていた。シンヤも目をそらすことができなかった。 ふたたびロッドが動き、その物体は融け残っているドアの下辺を、 ・て・は・だ・め」 たくみに乗り越え、室内に半身を入れた。その上部から何本もの円「う・ご・い リーミンが虫のようにささやいた。 管がっき出し、それが、ゴム管のようにぐにやりと曲ると、四方に それはふたたびゆっくりと動きはじめた。こんどはまっすぐにシ 分れて先端を突き出した。 ンヤへ向ってきた。 一分、二分、凍りついたような時間が過ぎた。 シンヤは逃げ出したいのを必死にこらえた。 それはふたたび動き出した。 胴体とも見える円盤の側面にならんだ無数のロッドは、多足類の十メートル、七メートル、五メートル。上部から突き出た管の束 をシンヤへ向ってさしの・ヘ、肢の動きも慎重に、迫ってきた。 肢のように、一定のリズムですばやく動いた。 それは部屋の壁に沿って移動しはじめた。体の後端から、長い柄接近してきたそれは、たとえようのない形態をしていた。しいて 似た物を探せば、・フラシの上に置かれたタイプライターといったよ のついた壺がせり上ると、室内をなめるように回転する。 うなものであった。上部から突き出した管や多数の関節より成る細 とっ・せん、それがびたりと二人の方に向けられた。 長い触角状のものは、あきらかに感覚器管であった。上部の、円筒 シンヤは息をのんだ。 部屋の壁に沿って移動しはじめた物体は、急に方向を変え、中央状の部分までの高さは、一メートル半ぐらいであり、円盤自体の直 の通路へ出てぎた。通路の左右には、ほこりだらけの工作台がすえ径は二メートルに足りなかった。表面は金属とも有機物ともっかな られていた。かま首をもたげたポッドは、その工作台にとりつけらい奇妙な暗緑色の光沢を放っていた。どこにも継目も溶接の跡もな リ / グ れたままになっている万力や、工具の基台などに向けられた。無数かった。そして円筒部の下方の輪状の部分が、脈でも打つように、 の関節を持った長い手がのび出し、くねくねと曲ってそれらをたんゆっくりと収縮と弛緩をくりかえしていた。 ねんに調べている。 生物だろうか ? しびれるような恐怖の中で、シンヤはただその脈動を見つめてい ふたたび、その物体は動き出した。天井に錆びついたままになっ た。 ているホイストに手をのばし、壁の配電盤にポッドを向けた。 床に落ちていた物でもひろい上げたらしく、急に背を低めて工作ふいに触角が動いてきた。釣竿のように、上方からゆらゆらと降 台のかげにかくれた。それをよく見ようと、シンヤはわずかに上体りてくると、シンヤの体に触れた。かぶっている布を通して、硬質 の感触が伝ってきた。 を動かした。足が工作機械に触れ、ガタリ、と大きな音がした。 しまった ! 全身を凝結させた。 触角は右に左に動き、布の上をすべった。それはやわらかい布を ・ハイプ 幻 9

4. SFマガジン 1976年4月号

がなだれ落ちてくるのではないかと思われた。地下室は土ほこりでをたんねんにおさえてすき間をつぶす。 一メートル先も見えなくなった。 「あたしのとおりにして ! 何があっても声を出してはだめ。この もう一度、鳴動がとどろき、あとは物音がとだえた。二人は床に材質は音は通すからね。それからすき間を作らないように」 身を投げ、石のように動かなかった。十分、二十分。思い出したよ リーミンは沈黙し、まゆの中のさなぎのように動かなくなった。 どこかで石塊が崩れ落ちる音がひびいた。 透明な布を通して、目だけが、別な生き物のように見開かれていた。 「地上部分は完全にやられたようだぜ」 シンヤもたんねんに体の周囲をおさえ、それから息を殺して待っ 「だまって ! 動いてはだめ ! 」 た。リーミンが恐怖におびえるようなことが、今はじまろうとして リーミンか低く鬧した。 いるのだった。 さらに二十分、三十分と経過した。 一時間近い時間が過ぎたと思われる頃、ふいに、ドアの向う側 「どうしたんだ ? 」 で、かすかな物音が聞えた。 リーミンの緊張が伝ってきた。 また石塊が崩れる音が聞えた。 回転音に似た、低いくぐもった金属音が流れてきた。話し声聞 「調べにきたのか ? 」 えない。人の気配もない。伝って v る音響以外には、奇妙な静寂が 「声を出さないで ! 」 ひろがっていた。 その語尾に、濃い不安と恐れがあった。 とっぜん、境の分厚い金属のドアが、暗いオレンジ色にかがやき そのとき、どこかで、かすかな物音が聞えた。それは金属と石塊はしめた。何者かが、ドアを焼き切ろうとしているらしい が触れ合う音だった。 シンヤは思わす立ち上った。リーミンが透明な布の下から腕をの 「こっちへ来て。音を出さないように」 ばし、シンヤの脛をスパナで打った。 「わからないの ! 」 厚く立ちこめている土・ほこりの中で、リーミンの携帯用投光器の 光が、細い縞となって動いた。 それでシンヤは、ふたたび地虫のようにうずくまった。 、、ンは透明 地下室の片すみの工具入れらしいロッカーから、 ドアはみるみる白熱にかがやいた。やがて、その白熱の部分の中 なビニール布地のようなものをとり出した。ばさばさとひろげる。央が、煮えたぎるように下方へ流れはしめると、その部分がぼっか りと開いた。 二枚になった。一枚をシンヤの手に投げてよこした。それはビニー ルとも、セロファンとも異った非常に軽い材質だった。 鋼鉄のドアは完全に融けさり、ゆらめく熱気とじよう気のむこう 「早く、それをかぶって ! 」 に、暗い空間がひらいた。 リ】ミンはその透明な布を頭からかぶり床にうずくまった。周囲そこに、異様なものがうすくまっていた。平たい、円盤のような 幻 8

5. SFマガジン 1976年4月号

へ、灼けた錐を突き通すような高周波がひろがった。 「船団は秒速五二〇〇〇キロメートルで、座標二一・三二。 「うるせえ ! 」 二三。〇七・九一を通過した。実距離三・二九八光秒、視線方向、 シンヤははね起きた。 鯨座タウ」 船室の円天井に、全天星図が浮き出している。無数の光の点刻と「あなたが目を覚まさないからいけないのです」 赤や青、白、黄などの線条の束で描かれた星図は、巨大な年輪の木「もっと小さい声で言ってもわかる」 目のようだった。そのアラベスクの上を、あかるいオレンジ色のゆ「でも、それでは目を覚ましませんでした」 ・ハルフは、がんとして引かなかった。 るやかな曲線がのびていた。 「太陽系惑星面に対して三十二度の角度で、太陽を真後にしていま「わかった ! わかった ! 」 シンヤは座席をもとの位置にもどすと、コンソールに灯を入れ す。水平方向からの位置だと、木星と天王星の就道の中間ですね」 た。目の前にならんでいる無数のメーターの針が、生命を吹きこま 「このままだと、発進は ? 」 「船団が冥王星の軌道から外へ出るのが、三十二時間後だから、それたように起き上った。たちまち作動のパイロット・ランプが ともった。すでに一時間たっていた。 の頃になるでしようね」 「ようしー いつでもいいそ ! 」 リーミンが答えたとき、・ハルフが顔を上げた。 シンヤは、自分の右方にならんでいるシートに向ってさけん 「新しい目標。位置座標二一・三〇。六二・一九。〇七・四三」 「・ハルフ。それは船団の進路の前か後か ? 」 答えはない。 「通過後の船団コ 1 ス上です」 「どうした ? 」 「故障したのかな ? 」 「静かに : ・ 「いや。船団位置には三隻からの反応があります」 リーミンの声が流れ、星図に新しい光の矢がのびた。 「どちらへ向っているのかな ? 」 「船団から遊離した目標の現在位置。二〇・一九。六九・九二。〇 「まだわかりません。一時間ぐらいたたないと」 四・四一。速度、毎秒八七〇〇キロメートル」 シンヤは座席を深く倒すと目をつぶった。五十時間近く眠ってい ・ハルフがデーターを読み上げた。 なかったことを思い出した。 「どこへ行くんだ ? そいつは」 たちまち深い眠りに落ちた。 「現在、キャッチされている電波がその誘導電波であろうと思いま 「エンジン ! 起きてください ! 」 ・ ( ルフが、耳もとでさけびつづけていた。鼓膜から頭蓋の深奥「すると、そいつはミサイルか何かか ? 」 227

6. SFマガジン 1976年4月号

「わかりません」 「そいつはもうできてる。あとは・ハルフがはじいた数字をコンソー ・ハルフが沈黙したあとをリーミンが引き取った。 ルに突込んでやるたけでいい」 「ただの偵察艇でしよう。おそらく無人のドロ 1 ンだと思います三十秒が過ぎたと思われる頃、シンヤの前のエンジン・コントロ ール用のコッソールの片すみに緑色の小さな灯がともった。・ハルフ 「破壊できないのか ? 」 のあやつる航法用電子頭脳からデーターが流入しはじめたのだ。た 「こっちのことを知られたくないもの」 ちまち、・・ O ・がこの宇宙船《セファラス。ヒス 1 》を完全 「どうする気だ ? 」 に支配する。 「しかたがないわ。逃げ出しましよう」 デジタル表示の秒読みがはじまった。 最初の計画では、船団が完全に太陽系外に出てから追尾にかかる《 : 予定だった。しかし、偵察ロケットなどが飛んでくるようでは、ぐ その間に、 rs.5 シートをセットし、冬眠カプセルをオン・ウェイす ずぐずしてはいられない。 る。 この人工惑星《ダリア幻》は、五百年ほど前、太陽系外を航行す「励起装置を腕に巻いて ! 電極は水平に当るように「回路を開い る宇宙船のために作られた標位星だった。その後、船自体の航法装たら、スイッチをいったん切って : シグナル 置が発達するにつれて、この種の小型の標位星は用をなさなくなっ リーミンが早口に指示する。 た。やがて、内部に収められていた電子装置だけがとりはずされ、 「セット・よろしい。回路 0 。スイッチ・オフ。 0 : あとにはただ人工惑星の本体だけが暗黒の空間に放置された。 それを見のがすことなく、チェックしようとする探検隊の細心な 々と迫ってくる。こういうときに「、ちばんいやなのは、何か 注意と意気ごみは、さすがと言うべきだったが、シンヤたちにとつやり残したことがあったのではなかろうか ? という不安だ。それ て、これは予期しない危険だった。 は大圏航路を飛ぶ三万トンの定期貨物船でも、小さな観測ポートで 偵察ドローンは四十二時間後には、近傍に達するであろうと思わも同じことだ。 れた。 休眠カプセルは今さら点検する、というようなわけのものでもな 今なら、《ダリア幻》のエコーのかげにかくれて、星々のかがや いし、またその必要もない。シートをセットしてしまうと、事実 きの中にまぎれこむことも容易だった。 何もすることはないのだ。 -4 ワ 1 「・ハルフ。針路を算定してください。シンヤ、いつでも発進できる 百二十秒前で、キヤノビー内部の照明が消え、微光灯たけがかす かな星のように影を落した。 用意を」 228

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()5 シートの基台の内部で低い回転音が聞え、 c.5 シートは水平に倒いにズームさせたら、あるいは続航するその姿を、直接、肉眼で見 れた。同時に、天井が開いて、円筒形を水平に断ち切ったような形ることができるかもしれない。 の透明なカプセルが降下してきた。水平になったシートを、上方《ダフネ 3 》は三十万キロメートル、つまり一光秒ほど遅れてい からびたりととらえると、カプセルの内部に青白い放電が走った。 プリッジ その《ダフネ 3 》からの通信が、今、《ダフネ 1 》の船橋に立っ 一瞬、すさまじい衝撃が、キヤノ。ヒーをつらぬいた。金属とプラているサイ・ティクッスネ船長のもとにとどいた。 スチック、ゴムとガラス。その他何千種類もの物質が固有の震動に サイ船長は高声機のスイッチを押した。 狂気のような悲鳴を上げた。 《・・ヴァルハラだ。人工惑星ダリア幻を調査に向った偵察ド シートは、カノン砲の砲身のような長大な油圧シリンダーの外筒ローンは原因不明の爆発によって失われた。そのさい、ダリア幻よ に、一面に高圧油を結露させた。 り高速で飛び去る物体を観測した。偵察ドローンの爆発事故はドロ 宇宙船《セファラスビス 1 》は、すでに人工惑星《ダリア幻》よ ーン自体の機構に起因するものとは考えられぬため、この物体が関 り二十八万キロメートルも離れた宇宙空間にあった。一秒の十分の係するのではないかと思われる。この物体は現在、レ 1 ダーで追跡 一ごとに加速されていった。 中だが、徹底的に調査してみてはどうか ? 》 星々の海の中に、冥王星が黒い汚点となって浮いていた。 宇宙空間での観測、というよりも、宇宙探検とよばれる原始的か 十五分後、宇宙船《セファラス。ヒス 1 》は、太陽系を遠くへだたっ素朴な作業に精通しているべテラン旅行者は、ティクッスネ隊長 る一光日の距離を、はるかな星々の海へ向って流星のように突進しの許可がありしだい、《ダフネ 3 》の船首をたちまち反転させる意 ていった。 気ごみだった。 だがティクッスネ隊長はひややかに答えた。 すでに休眠装置は完全にはたらいていた。それがはたらき出すの を、シンヤはかすかにおのれの感覚でとらえていた。カプセルの内「いかん ! ( ツアルハラ。今は前途に、総力を集中しなければなら 部を、最初の , 低温が波紋のようにひろがり、シンヤの心をしびれさん。それに、《ダフネ 3 》は少し遅れ過ぎているそ。もっと接近す せ、かぎりない平穏に閉じこめていった。 るように」 「だめか ! 今なら追いつくことができるのだが。それなら、 4 。しかし、やつらは何者だろう ? 廃棄された人工惑星でいった い何をやっていたのだろう ? 飛び出していったのは、これは本当 《ダフネ 1 》の後方三十キロメートルの位置に、《ダフネ 2 》がびだ。こちらの偵察ドローンを破壊したのは、あきらかにわれわれに 2 たりとついていた。《ダフネ 1 》の船橋の航法スクリーンをいつば見られたくないものを残してあるからなのだろう。《ダリア幻》と

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を正面から受け止めるのに必要なものは、気力よりもむしろ体力では銀色の中高の蓋のようなものだった。断層のふちに、奈落へ向っ ある。直径がたかだか二十キロメートルに満たない人工惑星ダリヤて降下してゆく一条の斜道が貼りついていた。 、。、ツチを出たとたんに目 トラクターはゆっくりと動きはじめ、その斜道にヘッドライトを 幻のこの地平線は、ほとんど半円に近しノ に入るものは、視野の四分の三を占める空間であり、まるで今にも向けた。 そこへ墜落してゆくかとばかり思える自分の位置の不安定さであ星々の光は、しだいに頭上にせばまり、暗黒が周囲を閉した。や がてふいに頭上の星々の光がかき消えた。そのとき、トラクターは る。それをたたきつけるように強調する星の海であった。 ここは、冥王星の就道と直角に、さらに十五光分の外周を回る人さっき断層の上から見おろした巨大な銀色の蓋のようなものの下へ 入りこんでいた。 工惑星だった。 イグルーの壁の下に、一台のトラクターがうずくまっている。 ッチからつぎつぎと姿をあらわした三個の人影は、トラクターのキ「三十分ほど前から、レーダー波が、この《ダリヤ幻》をとらえて ヤノ。ヒーにもぐりこんだ。 います。あきらかに船団のものです」 ヘッドライトが光を生むと、小山のような黒い影は音もなくすべ パイロット・ランプのほのかなかがやきを半顔に受けて、・ハルフ り出した。何の音も聞えない。電動にはちがいないが、ハイ・マンがふり向いた。 ガン・クロームのキャタビラが人工惑星の表面をはげしく噛んでい 「距離は ? 」 ・一八。〇七・四一。 るその轟音さえ、全くったわってはこない。この人工惑星は宇宙の「実距離三・三光秒。座標二一・三〇。六一一 真空の中に在った。人工重力だけが、この小さな球状の世界のぜい金星と木星の中間位置です」 たくな装飾だった。それを信するには、最初、非人間的ともいうべ「接近してくることもないと思うけれども、注意してください」 き勇気が必要だった。 リーミンとパルフの会話が、イアフォンから流れ出してくる。 トラクターは円 いドームのような地平線を越え、さらに球形の平 シンヤはひたいの汗を押しぬぐい、背にはね上げた宇宙ヘルメッ 原を進んだ。人工惑星は小型のものほど、球に近い。内部の容積を トをもとへもどすと、気密ファスナーを閉じた。ようやく、八千に 最大にし、しかも表面積を最小にして熱を逃さないようにするためおよぶ点検個所の最終チェックを終えた。 チェック・オフ ・こっこ 0 「点検終りだ。いつでも出発できるそ」 「シンヤ。船団がこちらをチェックしています。間に合ってよかっ やがてトラクターは停止した。 たわ。配置について」 コンクリートと鋼鉄の平滑な原野はそこで終っていた。 さいごに、この人工惑星の爆破装置を確認し、それから船内に入 星の光をあびて、目の前に巨大な断層が口を開いていた。 星の光は、断層の底にあるものをかすかに照し出していた。それる。 ス・ヘース 226

9. SFマガジン 1976年4月号

の資料はことごとく焼失した。 「われわれが一任されているわけです」 なお調査継続の要ありや否や、連絡されたし。 「クフ科学調査委員会の代表を召奐してはどうですか ? 」 地球連邦公安局調査第一一部》 「同委員会は、報告書貼付の別紙をもって、ロ述説明の必要もない し、いかなる意味での召奐にも応じない。と言っています」 「しかるべき予算を与えて、調査させてみてはどうですか ? ただ《調査局火星東キャナル市支局連邦駐在員シンヤなる者が、リーミ ンと名のる人物と接触していたという情報があった。これは時期的 し、その管理は、学術協議会の手でおこなわなければなりませんが」 「この報告書の要求は、この問題を連合学術協議会の緊急課題とすに派遣軍事件のあとと思われる。調査局員シンヤは調査局東キャナ ル支局からの報告によれば、派遣軍事件以後、行方不明とのことで ることによって、人類全体の問題にしようとするものです」 「しかし、それは無理だ。今、連合は疲れきっている。それに、たある。おそらく死亡したものと調査局では考えている。リーミンと とえ報告書の内容の真びよう性がたしかめられたからといって、クの接触の時期および場所については、派遣軍事件の直後、地球上の フ科学調査委員会などという正体不明な団体の要求を連合の方針におそらくは東洋地方の列島地区のどこかと考えられる。もしそれが 事実とすれば、調査局連邦駐在員である人物が、なぜ所在をあきら することはできない」 リーミンなる人物と接触をはかったのか、が謎とされる かにせず、 連合学術協議会常任幹事会議事録より 公安局調査第一一部より連邦主席情報官へ 《クフ科学調査委員会なる組織については、現在、何も判明してい メモ・七三九一 リーミンなる名前は、連合および辺境のいずれにもかって登 録されたことはない。仮空のものであろうと考えられる。 宇宙省調査局連邦支局に一時期関係した人物にその名の者がいた《派遣軍事件とクフ科学調査委員会報告の内容とは重大なつながり とする情報に関して、公安当局は調査局の協力を得て、広範な調査があるであろうことは、関係者の広く認めるところである。これだ を行ったが、確実な情報は何も得られなかった。ただ、金星ビーナけの調査は、われわれ連邦においてもまた辺境側においても、かっ ス・クリーグ支局の三百年ほど前の局員名簿に、同じ名前と思われてなされていなかった。それだけにこのクフ科学調査委員会なる無 るものが記載されていた。しかしこれは消去されたものを紫外線判名の団体は、ある種の脅威をわれわれに感しさせる。かれらが、情 報を宇宙に求めているという点について、ある一部の者たちは、か 読器にて読みとったものであり、ルミンあるいはルメイの間違いか 3 2 2 もしれない。その人物に関しては、調査の方法はない。金星ビ 1 ナれらが他天体生物となんらかの関係があるのではないか、と憶測し ス・クリーク市民局資料保管所は、ミサイルの直撃を受け、保管中ている。むろん、これは極めて非現実的な考え方であり、考慮の余

10. SFマガジン 1976年4月号

リーミンの本に触れ の関心も払わなかった。かれらの一人の腕が、 くらますことができるんです」 「さっきのあれは、目でおれたちを探していたのではないのか ? 」たほどだった。そのまま、二人の前を一団になって、かれらの船の 「たぶん。目のようなものはあっても、それは補助手段でしよう下へいそいでいった。 かれらが直接、自分たちの目で見て、自分 ね。あなたのことを、しきりに触っていたもの。それでも、わから「わかったでしよう ? たちで判断して行動しているのではないということが。かれらを指 なかったわ。それは生物体ではないと判断したからなのでしよう 図している何かには、今、あたしたちの姿が見えていない、という ことでしようねー シンヤはうなった。 「指図している、というのがさっきの : : : 」 「この妙な布は、その目的のために作ったものか ? 」 「いえ。あれではないでしようね。あれも、またただ命じられたま 「これは完全なエネルギー絶縁体なのよ」 熱エネルギ 1 、電気工ネルギー、化学工ネルギーの伝導を完全にまに作業をしているだけでしよう」 しくら厳重なチェックをくりかえし「すると、命令を与えている存在が別にいるというわけか ? 」 さえぎってしまう物質ならば、、 リーミンは強くうなずいた。 ても、それにつつまれた人体を、生命体と判断することは不可能か もしれない。 「かくれみのか ! 」 やがて、戦士たちを収容し終った帆船は、なわばしごを巻き上げ ると、ゆっくりと上昇しはじめた。推進機関らしいものは何も見え 「でも、相手に目があってはだめね」 二人は階段を上り、地上へ出た。地上施設はすべて完全に廃墟とオし よ、。空中から目に見えないカでつり下げられているように、水平 化していた。 に船体を保ったまま、音もなく上昇してゆく。やがて豆粒ほどにな り、数十秒後には青い空へ溶けこんでいった。 破壊された建物の角を回ったとき、巨大な帆船の船尾が見えた。 舷側から垂らされた何本ものなわばしごを伝って、戦士たちが乗船 してゆく。 そのとき、二人の背後から、足音が近づいてきた。 ふりかえると、数名の戦士たちだった。一個のコンテナーをにな《連邦宇宙省学術協議会常任幹事会は、クフ科学調査委員会より送 付された報告の扱いに苦慮している。同幹事会は、その報告の内容 っている。 かくれるひまはなかった。シン、ヤはこぶしを固めた。そのひじをについては固く口を閉しながらも、その重大さと社会に与える影響 について、検討をめぐらせている、と説明している》 リーミンがと《つ、えた。 戦士たちは、完全に二人を目におさめているにもかかわらず、何 2 幻