ラックス - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年4月号
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1. SFマガジン 1976年4月号

に課せられた矛盾が、こういうかたちで司政官に突きつけられたとこれは先住者たちがそれそれ独立した居住地区を有し、全体として の統一政府を持たない以上、やむを得ない現象であるが : : : それを 2 もいえるのである。 たねにして、あちこち渡り歩き、差益によって儲けている人間だっ つまり、今のような事態の中で、はたして司政庁を修理していし ものかどうか、それを司政官が決断しなければならないのだ。見積て結構いるのである。が、それでもまだラックスとチ = ンは交換可 りによれば、この工事には十八億ラックスが必要となっていた。ラ能なのに対し、クレジットとチェンとの交換は禁止されていた。そ クザーンでの貨幣単位はラックスと定められ、そのラックスは、連れが認められればラクザーン上の金がどんどん流出することになる 邦内版図での標準貨幣であるクレジットに対して、固定した交換レからだ。もっとも、それがひそかに、いや、ところによっては半ば 公然と交換されているというのを、マセは聞いていた。そして、そ ートを持っている。ラクザーンの、海藻を中心とする貿易によっ て、たいてい出超の状態にあるこのラックスは、実勢として、クレのことがラクザーンの経済機構にあまり好ましくない影響を与えだ ジットより強いのだ。実のところ、ラクザーンの貨幣単位は、ラッしているのも、また事実なのであった。 いずれにせよ、他ではともかく司政官や司政機構の立場として クスだけではない。先住者たちが以前から使っていたチェンという は、つねにラックスを単位とするのが建前である。そして、そのラ 単位もあるのだ。このチェンが先住者たちの間での敬称であるチェ ックスでの十八億というのは : : : きわめて巨額なのであった。現在 ンという言葉と語源的につながりがあるというのは、研究者たちに よって証明されていた。居住地区内での地位は、やはり財産と関連のラクザーンの統治方式の段階では、すでに、司政用の高技術水準 しているわけなのであろう。それはとにかくとして、チェンは秤量の物資機器の現物供与しか行われず、それ以外の補助はない。これは 貨幣であり、金の細片が使われていて、居住区によってはその金を植民惑星の自立を目的とする司政制度下では当然のことであって、 別に不思議ではないが : : : それゆえに、司政庁の歳入というのは、 本位とする紙幣を発行しているところもある。このチェンと、不換 紙幣であるラックスと、さらにクレジットとの交換比率がまたやや伝統的な植民者への人頭税と、人間による事業所への賦課金、連邦 こしかったのだ。クレジットとラックスとは定められた割合で ( ラ直轄事業体の惑星上事業税などで成り立っている。むろんそれだけ ックスのほうが実際には強いので、正式の取引きにおいては、ことでは足らず、ことに最近のようにもはや植民者数の把握が完全には に連邦直轄事業体との取引きでは、どうしてもラクザーン側が損に行われていない状態で、しかも脱税が要領の良さを意味するように なる。連邦直轄事業体はよくそのことを知っていながら、定めどお信じられている状況では、到底司政機構を維持することは出来ない りの交換比率以上に決して色をつけようとしなかった ) 代えられるのだけれども、幸いなことに、司政機構側から技術供与をし、出資 としても、ラックスとチ = ンの比率は、そのときそのときに、しかもしているいくつかの公社が好調で、その配当金によって、ようや もいろんな地域によって、決まるのである。ラックスのだぶついてく息をついているというのが現状であった。それにまた、こちらか ら協力要請をしている先住者の居住地区からしばしば献金があっ いる土地と、そうでない土地とでは、随分割合が違って来るのだ。

2. SFマガジン 1976年4月号

ついて、討議をしました」 「正式な許可願は、話が決ってから提出しますけれども、その前に 「で : : : 中止ですか ? 」 司政官、発行許可権を持っ司政責任者として、また、出資者代表と 2 いえ。ラクザーンの発展のためには多少の無理をしてでも、建して、あなたの内諾を得ておきたいのですが : : : 」 設すべきだという結論に達しました。ただ : : : 」 好ましい事態ではない と、マセは思った。債券というからに 「ただ ? 」 は、またツラツリ交通の内部事情を考えるならば、償還期間はかな 「そのためには、われわれは、司政官にふたつばかりのお願いをしり長いものになるであろう。それが高利率だとすれば : なければなりません。そのひとつは許可であり、もうひとつはご助「それで、経営内容悪化を来すことはないのですか ? 」 力が欲しいのです」 「当面は負担になるでしよう」 イルーヌは、当然のように答えた。「しかし、新路線建設が完了 「許可というのは、公社債を発行することです」 する三レーン後からは使用料が寄与しはじめるし、数期の間、利益 イルーヌは、じっとマセの顔をみつめていう。「われわれは、南がすくなくなる程度で済むと思われます」 方の四つの地区に対し、補償金をーーそれもラックスでではなくチ マセにすれば、出来ることならそれは避けたかった。ひとつでも エンで支払うことで、何とか相手を説得出来るのではないかという公社の利益が低下することは、そのまま司政庁の歳入減につながっ 確信を抱きはじめています。非常に多額の補償金になるでしようがてくる。がだからといって、司政庁みずからが経営に当っているわ ・ : 現金収入のすくないあの地方では、最近の物価上昇傾向に先行けではない公社のツラツリ交通に、それを強制は出来ないのだ。せ き不安感を抱いており、この際、まとまった金額が入ることになれ いぜいが、圧力をかけて、もう少し打撃を軽減するようなかたちに ば、ランプウェイ設置を呑む可能性が大きいのです。ただ、あの地変更させる程度である。だが、それが具体的にどうす・ヘきかとなる 方の財産に対する感覚から推して、この支払いは幾分割損でも、金と、今のマセには対案はなかった。 属としての金を渡さなければ、効果は減殺されるでしよう。ーーーけそれでも、何かの方法を講じる以外にはない。 れども、現在の公社が余剰金をほとんど持たず、というのも、司政「お話はよく分りました」 庁への利益配当支払いに据置きが認められず当期納入しなければな マセは答えた。「ただ、この件については即答は出来ません。そ らないせいもありまして ( ここでイルーヌは、ちらりと皮肉つま、 をしの計画案を検討させますから、詳細な資料を出して頂けますか ? 」 自になった ) この補償金は借金でまかなう他ないのです。有利な条「それは、持参しております」 件の公社債を発行するのを許して頂かなければ、どうにもならない イルーヌは、分厚い資料を出した。 のが現状なんですよ」 マセは、それを預った。とりあえす tnar-q にデータを検討させ、 「ーーー成程」 何らかの代替手段を考えなければならない。代替手段がみつからな

3. SFマガジン 1976年4月号

て、その好意によりかかっているのも本当である。とはいえ、そののだった。 と、彼は、ふっと思った。 ただ、方法はないわけではない 献金にしたって、過去のように司政官とつながることでそれだけの それは、一三二五番恒星ーーーラクザーンの太陽が新星化するのを 見返りがあった時代とことなり、メリットがあったとしてもたいし たことのない昨今、しかも、植民者がそうした居住区に混住して行正式に発表し、それゆえの司政庁の放置であるとすれば : : : 。 くことで、独立性を失った居住地区が多くなっている現況 ( このこ駄目だ。 そんな司政庁内で、退避計画が : : : その実行が出来るだろうか ? とにそれ程神経質にならず植民者が入ってくるのを許すところに、 先住者の不思議さのひとつがある ) では : ・ : かっその上、自己の居第一、へたに ( それもまだ連邦からの許しが出ていないのだ ) 発表 住地区を捨てて都市に住む先住者が増える一方の現在では、これもしたりして、パニックを招いたらどうする ? この事実は、慎重な 先細りの一途をたどっているのであった。そんな財政状態の中で、配慮のもとにあきらかにされなければならないのだ。司政庁の修理 十八億ラックスの支出をすれば、司政そのものに支障を来すおそれをやめるための便法として公表するーーーなどというのは、苦しまぎ があるし、いっかは不要になり太陽の新星化とともに消え失せるのれの、下の下策なのである。 が分っている司政庁に、》それだけの大金を使って迄修理する必要が彼は、時計を見た。 あるか否か、ということなのである。 あの二時間もすれば、巡察官を乗せた宇宙船が、ツラツリ第一宙 けれども、もしも、司政庁が朽ち果てるにまかせておけば : : : そ港に着く時間になっていた。 もう、こんな時間か。 れはそれで、重大な結果を招くのも、目に見えていた。それはその まま、司政官の権勢の凋落を認めさせることになるし、今後、司政と、すれば、約束していた来訪者が、そろそろ来るはずだ。この 官がいわゆる退避計画に着手したとしても、もはや誰も唯々諾々と時間、例のツラツリ交通の幹部 : : : 連絡によればイルーヌ・・ 従おうとはしないであろう。人々にそんな印象を与えるのは、どう ハイツが訪ねて来ることになっていた。あの、開発営社が手を引い しても避けねばならなかった。 た新路線に関する用件である。 マセは、溜息をついた。 彼がそのことを思い出した。ちょうど同じときに、軽くプザーが 鳴って、壁のス。ヒーカーからの合成音が聞えて来た。 何か、いい方法はないものであろうか ? 今の司政庁をそのままにして、もっとコンパクトな安くあがるも「報告します。来訪者です」と、はいった。「会見予定通 のを別に建てるという方法は : : : それがかりに大修理よりもずっとり、ツラツリ交通代表委員のイルーヌ・・ハイツが司政庁玄関 安く済むとしても : : : 問題にならなかった。司政庁の規格・最低要に到着しました。予定通り会見をなさいますか ? 」 「ああ、する」 件というのは、ちゃんと定められているのである。それに違背しな いようにいくら節約したとしても、修理の方が安いのに決っている「第九面会室に、面会準備をしております。イルーヌ・・ハイ 2

4. SFマガジン 1976年4月号

くわかってるのさ。それに、君はもう非番だよ」こんな調子で、とはできなかった。かれらは太陽系をただの再給油地点、増速ステー かれは思った、艦内中恋人たちばかりにちがいない。・ とっちにしションーーーなんとでもいうがいしーーーとして使っただけで、まるで ろ、家までまだ数週間もあり、作戦終了時の″軌道祭″はいつだっ鼻にもひっかけずに、より重要なことがあるとばかりに行ってしま てドンチャン騒ぎになるものなのだ。 ったのだ。人類が存在していたということすら知ることがないかも ナ「センしれない。こんな徹底した無関心というの - は、故意に侮辱されるよ 「何を考えてるの ? 」ずっと経ってから、ローラが迫っこ。 チになったりしないでね」 りずっとこたえる。 ノートンは最後にラーマをちらりと見て、金星の向うへずんずん 「ぼくらのことじゃないさ。ラーマだ。行ってしまったかと思うと 寂しくなってきた」 飛んでいく姿に、なぜか自分の人生の一部分が終ってしまったとい 「へええ、そうですか」 う思いがした。まだ五十五歳だが、かれは、もう人類の手の届かぬ ノートンは身体にまわしていた手に力をいれた。重さがなくてい無情なまでの彼方に遠ざかってしまった神秘と驚異に満ちたあの中 ちばんいいのは、一晩中誰かを抱いていてもしびれたりしないこと央平原に、かれの若さを取り残してきてしまったように感じてい だと、かれはしよっちゅう思っていた。一下のセックスは重苦した 0 どれほどの名誉と成功がもたらされようと、これからの一生、 くて、ちっとも楽しめないと文句をいう人間も多かった。 かれの脳裏を、龍頭蛇尾に終ってしまったという思いと、機会を逃 、ー・トラックしてしまったという考えが、去りはしないだろう。 「よくいうだろ、ローラ、男は女と違ってね、心がソ かれは心の中でそうつぶやいた。しかしそれにしても、かれはも になってるんだ。それに本気でーーーい やずっと真剣にーーー・行ってし う少し利口になるべきだったのだ。遠く離れた地球では、カーライ まって寂しいと思ってるんだよ」 「よおーく、 わかるわ」 ル・ペレラ博士が、どうして寝苦しい眠りからさめたのか、まだだ 「臨床医みたいだそ。それだけじゃないんだ。いや、よそう」かれれにも打ち明けないでいた。潜在意識からのメッセージが、まだな は諦めてしまった。説明しやすいことではなかったし、かれ自身はお頭の中でこだまをくり返していた。 つきりわからなかったのだ。 かれは今度の作戦で予想以上の成果を上げていた。ラーマでかれ ラーマ人はなにごとも、三つ一組にするのだ。 らが発見したことは、科学者たちを何十年も忙しくさせるだろう。 そして、それ以上に、ひとりの死傷者も出さずにやり遂げたのだっ しかし反面、失敗もあった。果てしなく推測することはできるか もしれないが、ラ 1 マ人の性質も目的もついになにひとっ知ること プースター ( 完 ) 幻 3

5. SFマガジン 1976年4月号

全艦が待機していた。シン。フたちまでが、何かが起りつつあるの 「むろんそうですーーーでも、ご自分でご覧になって下さい」 を感じとったのだろう、気がかりそうに。ヒービー騒ぎ出し、マッカすべての計器が駄目となったら、人間は自らの視覚に頼るしかな ンドルーズがすばやい手話で安心させてやるまで落ち着かなかっ い。ノートンにも、星天が実際にゆっくり回転しているとしか思え た。ノートンは座席にすべり込むと、シートベルトを締めながら、 なかった。シリウスが左舷の縁に消えていく。コペルニクス以前の こいつもまた虚報ではないだろうかと思った。 宇宙観に逆戻りしたみたいに、全宇宙が突然、エンデヴァー号を中 ラーマは遠くにずんぐりとしたシリンダーのように見え、太陽の心に回り始めたのか、それとも星々が動かないというのなら、艦が 灼熱の外縁が、その縁からわずかに顔を出していた。ノートンはエ回っているのかのどちらかだ。 ンデヴァー号を操って、人工の日食本影部分に入れなおし、明るい 第二の説明の方がありそうだったが、それもまた解決不能のパラ 星々を背景に、コロナが真珠のような光彩となって現われてくるのドックスを含んでいた。艦がもしこの回転角速度で、事実回ってい を見ていた。ひとつだけ非常に巨大な、少なくとも五十万キロの高るのなら、身体で感じるはすなのだーーー昔通りのいい方をすれば、 さはありそうな紅炎が見えたが、その先端部など、まるで深紅の樹無計器飛行は身体で覚えろといったところだ。それにジャイロとい 木のように思われた。 うジャイロが、すべて同時に、しかも独立したまま故障することな あとはただ待たなければならない、とノートンはひとりごちた。 どあり得なかった。 大切なのは惓むことなく、瞬時に対処できるように、すべての計器残された回答は唯ひとつである。エンデヴァー号の全原子がある を整えて完璧な記録をとれるように、どれほど長くかかろうと待っ種のカ場に捕まっているーーー・それも強力な重力場ででもなければ、 ことなのだ。 このような影響は出てこないだろう。少なくとも、既知のカ場では どこかおかしい。星が動いていく、まるでかれが姿勢制御ジェッ あり得ない一」とだ : トを噴かしたように。しかし、かれはボタンひとっ触れていない 突然、星が消えた。燃える太陽がラーマの影から現われて、その し、実際に動いているのなら、身体で感じていいはずであった。 輝きのために星々がかき消されてしまったのだ。 「艦長」と、航宙士席のキャルヴァ 1 トが切迫した様子で叫ん「レーダーには映っているか ? ドップラーはどうだ ? 」 だ。「横転していますーーー星を見て下さいー それなのに計器には ノートンはこれもまた作動不能かもしれないと覚悟していたが、 なにも出てこないんです ! 」 それは思いすごしだった。 「角速度ジャイロは動いてるか ? 」 ラーマはついに航行を始めていたが、その加速は〇・〇一五と 「異状ありません。ゼロ表示で徴動していますでも、われわれは いう穏やかなものだった。ペレラ博士はさそ喜ぶことだろう、とノ 一秒に数度は横転しているはずです ! 」 ートンは思った。 - かれは最大加速を〇・〇二と予言していたから 「そんなことはあり得ない ! 」 だそしてエンデヴァー号はなにかの拍子で、高速船の跡にできる スキツ・、 209