人工惑星 - みる会図書館


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1. SFマガジン 1976年4月号

キ。にな「ている。地球から四億五千八百万キ - た。しかし、いずれも宇宙の声はキャッチできな 8 っこ 0 ・カ / ロ。すでに木星から土星への道のりの約三分の一 ■土星の環の内側をめざす 2 をこなした。 今度のサイクロ。フス計画は、これまでとは比較 にならぬ大作戦。幸運にも、どこかの星に住む高木星探査の任務を終え土星に向かって飛行中の土星に接近するためのコースチェンジは昨年暮 度文明生物とコンタクトできたとき、どのような 。 ( イオニアⅡ号は、このほどむずかしい軌道修正れに行われた。秒速で三十メートル分だけ加速し 言葉で会話するかーーも研究しておかなくてはなに成功。これによって、三年後の一九七九年九月、なければならない。はるかな地球と交信するため らない。 土星のリングと土星本体の間を地球にアンテナを向けていたⅡ号の姿勢を変え、 メ佑通過するか、リングの内側下方。ケ〉トを噴射、再びアンテナを地球に向ける。 それに備える試みー 図から外側上方に向かって通り抜もし地球にアンテナが向かなかったら、二度と地 として、すでに一昨・広 3 説 けるか、エキサイティングなコ球からコンタクトはできず、宇宙の迷い子となっ 径解 年、 , 」天文台、 - - ゝ、 ースを取ることになった。 てしまう。「うまく行くか」—Z<co< ェイム 直の への最初の電波メッ いずれのコースを取るにしてス・リサーチ・センターの科学者たちは、かって も、土星本体はもとより、リン経験したことのない超遠距離のリモートコントロ セージが送信され。′ グや衛星のクローズアツ。フ写真 レ ールに息を詰めた。三時間後、通信再開。成功 た。二三八〇メガへ ルツの電波に乗せ、 アメをとって地球に送ってくる予だ。どっと歓声が上がった。 千六百七十九回のゼ 定。コースからみて、土星にあところで宇宙探査機。 ( イオニア・シリーズの現 ロと 1 の信号をへラ 追左る十個の衛星中、最大の衛星で状を見てみると、号より一足早く木星に接近し クレス球状星団へ向 = をナ水星よりも大きい「タイタン」 た川号は、やはり木星の引力で加速され、第三宇 ジテの姿をキャッチできそうだとい宙速度に達し、太陽系外に向かって飛行中。号 けて発信した。この」 と同じように、裸の男女の姿などが金属板に刻ま セア 星団は二万光年のか (. 水星、金星、火星、木星へとれた宇宙人への手紙が積まれている。どこかの星 なた。宇宙人がいて第 メポ伸びた″人類の手″は、今度はヘたどりつき、宇宙人に読まれるのはいつの日か 解読できるだろう のラはるか土星へ。地球の兄弟星の か。できたとしても、 神秘のべールが、またまたはが 6 、 7 、 8 、 9 号は太陽を回って、太陽風など 返事が地球に届くの一〔 人の は、四万年も後にな 3 宙ルされるわけで、天文学者は大きの観測に活躍。なかでも 6 号は、一九六五年十二 る。 月十六日の打ち上げだから、昨年暮れで十年の宇 「宇宙人と互いに会話を交わすのは、われわれの Ⅱ号は、三年前の一九七三年四月五日打ち上げ宙観測生活を経過。宇宙探査機の長寿命記録だと られた。重さ二百六十キロ。超高成度パラボラア 世代ではほとんど無理だろう。しかし、やらない いう。重さ六十三キロの ″ミニ惑星″として、十 ンテナを中央にカメラ、磁カ計など十四の観測器年間に太陽を十二回も周回。コホーテクすい星の ことには、いつまでたっても、チャンスはゼロ だ」とのフレッチャー長官は意気盛んが積まれている。三方向にプルトニ・ウム電池と磁尾の観測にも成功した。 ) 0 いまでも六つの観測器中五つは作動。 Z<n< カ計の腕が長く伸びており、さながら宇宙を飛ぶ 科学陣は驚異的な耐久力とⅡを見張り「この調子 大宇宙の一つの″村″に過ぎない銀河系だけで三本足のクモ。 も、一千億個の恒星がある。その恒星のうち一割木星通過のさい、木星の引力で加速され、秒速ならさらに十年は活躍してくれそうだ」と期待を がわが太陽のように安定し、地球のような生命の四七・五キロをマーク。では光速に近い宇宙寄せている。 ある惑星を伴っているーーと計算すると、なんと船が登場するが、現実では、この速度が人に飛行 銀河系だけでも、宇宙人の住む星は百億個もある物体の記録した最高スビード。木星から遠ざかる という・ハラ色の答えが出てくるのだが : ・ につれ、スビードは再びダウン、いまは秒速十八

2. SFマガジン 1976年4月号

を正面から受け止めるのに必要なものは、気力よりもむしろ体力では銀色の中高の蓋のようなものだった。断層のふちに、奈落へ向っ ある。直径がたかだか二十キロメートルに満たない人工惑星ダリヤて降下してゆく一条の斜道が貼りついていた。 、。、ツチを出たとたんに目 トラクターはゆっくりと動きはじめ、その斜道にヘッドライトを 幻のこの地平線は、ほとんど半円に近しノ に入るものは、視野の四分の三を占める空間であり、まるで今にも向けた。 そこへ墜落してゆくかとばかり思える自分の位置の不安定さであ星々の光は、しだいに頭上にせばまり、暗黒が周囲を閉した。や がてふいに頭上の星々の光がかき消えた。そのとき、トラクターは る。それをたたきつけるように強調する星の海であった。 ここは、冥王星の就道と直角に、さらに十五光分の外周を回る人さっき断層の上から見おろした巨大な銀色の蓋のようなものの下へ 入りこんでいた。 工惑星だった。 イグルーの壁の下に、一台のトラクターがうずくまっている。 ッチからつぎつぎと姿をあらわした三個の人影は、トラクターのキ「三十分ほど前から、レーダー波が、この《ダリヤ幻》をとらえて ヤノ。ヒーにもぐりこんだ。 います。あきらかに船団のものです」 ヘッドライトが光を生むと、小山のような黒い影は音もなくすべ パイロット・ランプのほのかなかがやきを半顔に受けて、・ハルフ り出した。何の音も聞えない。電動にはちがいないが、ハイ・マンがふり向いた。 ガン・クロームのキャタビラが人工惑星の表面をはげしく噛んでい 「距離は ? 」 ・一八。〇七・四一。 るその轟音さえ、全くったわってはこない。この人工惑星は宇宙の「実距離三・三光秒。座標二一・三〇。六一一 真空の中に在った。人工重力だけが、この小さな球状の世界のぜい金星と木星の中間位置です」 たくな装飾だった。それを信するには、最初、非人間的ともいうべ「接近してくることもないと思うけれども、注意してください」 き勇気が必要だった。 リーミンとパルフの会話が、イアフォンから流れ出してくる。 トラクターは円 いドームのような地平線を越え、さらに球形の平 シンヤはひたいの汗を押しぬぐい、背にはね上げた宇宙ヘルメッ 原を進んだ。人工惑星は小型のものほど、球に近い。内部の容積を トをもとへもどすと、気密ファスナーを閉じた。ようやく、八千に 最大にし、しかも表面積を最小にして熱を逃さないようにするためおよぶ点検個所の最終チェックを終えた。 チェック・オフ ・こっこ 0 「点検終りだ。いつでも出発できるそ」 「シンヤ。船団がこちらをチェックしています。間に合ってよかっ やがてトラクターは停止した。 たわ。配置について」 コンクリートと鋼鉄の平滑な原野はそこで終っていた。 さいごに、この人工惑星の爆破装置を確認し、それから船内に入 星の光をあびて、目の前に巨大な断層が口を開いていた。 星の光は、断層の底にあるものをかすかに照し出していた。それる。 ス・ヘース 226

3. SFマガジン 1976年4月号

う人工惑星は、直径二十キロメートルぐらいしかない。表面はども、暗黒の空を埋める星々を背景に、それはほとんど動くとも言え うにもならないだろうから、内部に何か、基地のようなものを設けないような動きだった。時だけが音もなく動く。一秒、また一秒。 3 2 ているのかもしれない。もう一度、偵察ドローンを飛ばしてみよう」それにしたがって、十一万四千キロメートル、つぎの十一万四千キ 「ヴァルハラ。もうよせ ! あと七十二時間で本船の後方二百キロ ロメートルが背後になってゆく。そして、いっかは何光年もの空間 メートルの位置につけろ ! 」 をわたることができるのだった。 ティクッスネは、はげしい口調で、ヴァルハラの言葉をさえぎつ ヴァルハラはいかつい顔に、はげしい怒りを浮かべた。手にした スクリーンの上半部には星の海。下半分はその星の海をゆるやか マイクを部下の一人の手に投げると、さけんだ。 な陵線で区切って、さえぎるものもない平原がひろがっていた。 「両舷前進強速 ! 本隊を追え ! 星々のかがやきを受けて、平原はかすかな鉄錆色に光っていた。 ヴァル ( ラはこの遠征には深い疑惑を抱いていた。かりにクフ報の海は、スクリーンの上方へ急速に追いつめられ、視野はほと 告書が正しいとして、それを確認するのみで何ひとっ具体的な対策んど暗黒となった。 が立てられているわけではなかった。このような遠征は、科学調査「レーダー、感応なし。大気なし。肉眼による情況変化なし : : : 」 ではあるけれども、一方武力遠征の性格が強い。失敗したら、それ観測室から、唄うような声が流れてくる。 は悲惨な結果しかまねかない。クフ報告書が根も葉もないものであ「偵察ドローン、高度三〇〇〇。対地速度五〇五ノット : るならば、むしろその方がよい。人類の他天体生物あるいは他天体その無人偵察ドローンは、今、『惑星サイクロップス 1 』の平原 生命との最初の出会いの当事者になるのは、誰でもごめんだった。上空を、ロケットの長いほのほをひいてすべっていった。 ティクッスネもキム・トウルクシも、そのへんのところがわかって惑星『サイクロップス 1 』は、地球の十番目の惑星として古くか いないようだ。と、ヴァルハラは思っていた。かれの知る一連の事ら知られていた。それは今から五百年ほど前、辺境星域の無人観測 件の深奥には、ひどく、無機的なものが感じられた。わなと知っ船がこの天体の写真撮影に成功してから、それまで数値的にのみ存 て、そこへとびこんでゆく愚か者があろうか。 在が説かれていたものが、にわかに太陽系の一員に加えられた。 しかし、船団はやがて完全に太陽系空間を脱し、果しない星の海太陽からの距離、一二〇億キロメートル。直径四十七キロメート へと乗り出した。数名の要員を残し、船団は深い眠りに入った。 ルという微小な天体は、ポーデの法則を完全に立証していた。 『ダフネ 1 』と『ダフネ 2 』は、雁行の隊形をたもったまま、『サ 秒速十一万四千キロメートルといっても、広大な宇宙空間ではそ・イクロツ。フス 1 』を周回する衛星軌道を慣性飛行していた。直径の れは動いていないにひとしい。白熱の尾を曳いて飛ぶ三個の流星 小さな天体は、衛星軌道を保つに必要な距離からは、その表面はと

4. SFマガジン 1976年4月号

()5 シートの基台の内部で低い回転音が聞え、 c.5 シートは水平に倒いにズームさせたら、あるいは続航するその姿を、直接、肉眼で見 れた。同時に、天井が開いて、円筒形を水平に断ち切ったような形ることができるかもしれない。 の透明なカプセルが降下してきた。水平になったシートを、上方《ダフネ 3 》は三十万キロメートル、つまり一光秒ほど遅れてい からびたりととらえると、カプセルの内部に青白い放電が走った。 プリッジ その《ダフネ 3 》からの通信が、今、《ダフネ 1 》の船橋に立っ 一瞬、すさまじい衝撃が、キヤノ。ヒーをつらぬいた。金属とプラているサイ・ティクッスネ船長のもとにとどいた。 スチック、ゴムとガラス。その他何千種類もの物質が固有の震動に サイ船長は高声機のスイッチを押した。 狂気のような悲鳴を上げた。 《・・ヴァルハラだ。人工惑星ダリア幻を調査に向った偵察ド シートは、カノン砲の砲身のような長大な油圧シリンダーの外筒ローンは原因不明の爆発によって失われた。そのさい、ダリア幻よ に、一面に高圧油を結露させた。 り高速で飛び去る物体を観測した。偵察ドローンの爆発事故はドロ 宇宙船《セファラスビス 1 》は、すでに人工惑星《ダリア幻》よ ーン自体の機構に起因するものとは考えられぬため、この物体が関 り二十八万キロメートルも離れた宇宙空間にあった。一秒の十分の係するのではないかと思われる。この物体は現在、レ 1 ダーで追跡 一ごとに加速されていった。 中だが、徹底的に調査してみてはどうか ? 》 星々の海の中に、冥王星が黒い汚点となって浮いていた。 宇宙空間での観測、というよりも、宇宙探検とよばれる原始的か 十五分後、宇宙船《セファラス。ヒス 1 》は、太陽系を遠くへだたっ素朴な作業に精通しているべテラン旅行者は、ティクッスネ隊長 る一光日の距離を、はるかな星々の海へ向って流星のように突進しの許可がありしだい、《ダフネ 3 》の船首をたちまち反転させる意 ていった。 気ごみだった。 だがティクッスネ隊長はひややかに答えた。 すでに休眠装置は完全にはたらいていた。それがはたらき出すの を、シンヤはかすかにおのれの感覚でとらえていた。カプセルの内「いかん ! ( ツアルハラ。今は前途に、総力を集中しなければなら 部を、最初の , 低温が波紋のようにひろがり、シンヤの心をしびれさん。それに、《ダフネ 3 》は少し遅れ過ぎているそ。もっと接近す せ、かぎりない平穏に閉じこめていった。 るように」 「だめか ! 今なら追いつくことができるのだが。それなら、 4 。しかし、やつらは何者だろう ? 廃棄された人工惑星でいった い何をやっていたのだろう ? 飛び出していったのは、これは本当 《ダフネ 1 》の後方三十キロメートルの位置に、《ダフネ 2 》がびだ。こちらの偵察ドローンを破壊したのは、あきらかにわれわれに 2 たりとついていた。《ダフネ 1 》の船橋の航法スクリーンをいつば見られたくないものを残してあるからなのだろう。《ダリア幻》と

5. SFマガジン 1976年4月号

方へおとも致しましよう」 「ーーそうですか」 「ああ、そうだな」 いずれは、つきとめてみせる、と、マセは決心した。この惑星上 というの エリオルツ・・ナクダザインは、おうように頷いた。頷きな に、ああいう人物が来た。しかも何の目的かも分らない、 がら、ふと、シュレイン・・カルガイストを見て、 は、彼にはとても耐えがたいことだった。耐えなければならないの 「きみが、カルガイスト五世か ? 」 だが、どうにもすっきりしないのである。 「さて、マセ司政官」 シュレインは、姿勢を正して答える。 巡察官は、部屋の中を見渡した。「私は本来の任務にかかる前 「私は、きみのおじいさんをよく存じあげていた。何年か、お仕えに、あなたに通告するようにとの命令を受けて来ています。最重要 したこともある」 事項です。この部屋は大丈夫ですか ? 」 エリオルツ・・ナクダザインは懐しそうにいうのだった。 「すばらしい将軍だった。軍人の手本のような方だったよ」 マセは声を出した。 「私も、祖父を見習いたいと思っております」 壁ぎわにいたロポット官僚たちは、を除いて、すべて出 シュレインは、きちんとした口調で応した。 て行き、部屋のドアは閉じてロックされた。が、最重要事項 「じゃ、行こうか」 通告のさいにしなければならぬ状況を作りあげたのである。 ニリオルツ・・ナクダザインは、《 進察官とマセに、軽く会釈「よく聞いて下さい」 した。「ま、連邦のために、お互い、献身的に奉仕しよう」 巡察官はいった。「第一三一一五番恒星ーー・このラクザー それは、マセが引きとめることの出来ないような威圧感を持っンの太陽の新星化に関する情報を、貴官は、この瞬間より以後、 た、しかもあざやかな退場たった。 つでも貴官の適当と考える時期・方法で公表して、差支えがないこ それにしても : とになります。これは第一三二五番恒星の新星化の時期が、当初の エリオルツ・・ナクダザインとは何者なのだろう。閣下と呼予想より、はるかに早くなりそうだという結論が出たためで : : : 貴 ばれ、小カルガイストの下にいたこともあるというのは : 官は、本日ただ今から、ラクザーン上の植民者たちの退避計画に着 「あのエリオルツ氏は、退役の連邦軍でしてね」 手し実行する義務と権限を持っことになります」 巡察官が、静かに説明した。「今は連邦経営機構の参与といった 〈以下次号〉 職にある人です。経営機構からの要請を受けて、この惑星に来着し たそうですが : : : かんじんのことは、何ひとっ教えてはくれません でしたな。よほどの、秘密任務を帯びているのでしようよ」

6. SFマガジン 1976年4月号

「レーダーに反応なし」 うていうかがうことはできなかった。 「照明弾、つづいて投下 ! 」 「何か見えるか ? 」 新しい光点がつぎつぎと生れ、地上はさらに鮮明に浮き上った。 ティクッスネはほとんど一分おきにレーダー室に呼びかけた。 「いや。何も」 第十惑星『サイクロップス 1 』の表面は、ほとんど起伏のない、 『ダフネ 2 』のキムもいらいらしているらしく、そちらからも偵察圧延されたような平原だった。 「山も谷もないようだが : ドローンを出そうか、と言ってきた。しかし直径が四十七キロメー トルしかない小さな天体上で、二機の無人ドローンを操作するのは船長のティクッスネは舷窓からでものそくようにのび上った。主 席宙航士のクルス・プリートリーが、そのティクッスネをふりかえ 危険だった。 「まだ何も見えないか ? 」 「小惑星や惑星の小衛星でも岩石や氷塊でおおわれているのに、ど ティクッスネはとうとう、自分からレーダー室へ出向いた。 「はい。何も」 うしてここだけは、平らなのでしようね。まるで表面をそぎ取った レーダー観測班長はスクリーンに目を当てたまま肩をすくめた。 ように見える」 「照明弾投下」 「もっと高度を下げてみろ」 有視界偵察班長の声が、新しい何かを期待させた。 たしかにそれは溶融したガラス質でおおわれているように見え テレビ・スクリーンに強烈な光の点滴が湧いた。スクリーンが閃た。 高度を下げた偵察ドローンは、照明弾の光の下を、なめるように 光の壁となる。とたんに偵察ドローンが姿勢を変えたものとみえ、 ふたたび視野は暗黒となった。 平原をかすめて飛んだ。 はるか遠方の中空に、目のくらむ光輝が、時おり息をつくように 「あれは ! 」 明減しながらかかっていた。 その光輝がスクリーンの左上方へ移動してゆくと、急に画面の暗船橋に在る全員の口から、さけびがもれた。 スクリーンに一瞬、何か映って、後方の闇へ消え去った。 黒の奥底から、淡褐色の平原が、まぼろしのようにあらわれてき た。その表面の、掻き傷のような縞模様が、ぐんぐん目の前に迫っ「偵察ドローンをもどせ ! 今の地点をもう一度映すんだ ! 」 てきた。 偵察ドローンの操縦席のまわりに人がかけ集った。 偵察ドローンが高度を下げたらしい 照明弾の輝やきが画面の中をおそろしいス。ヒードで逆行した。 船橋の内部の人々の目が、それに集中した。 偵察ドローンの姿勢が変り、ふたたび平原が映りはじめた。 「もっと高度を下げろ」 条痕はさらに大きく回転した。 2 引

7. SFマガジン 1976年4月号

も変ってしまい、自分がずうずうしくも侵入してきて心の平和を乱すわった。 したこの世界に対しまったく何の関心も持っていないという最後の「惑星間の危機がどうあろうと、火星の官僚制度はびくともしない らしいわ。ラーマのお蔭もあったと思うんだけど。まあとにかく、 いささか人をこばかにしたような証拠を見せてくれた。 ラーマは黄道を飛び越してしまうと、惑星が公転している平面の水星人の許可がいる、なんていわれなくて幸運だったわ」 ばっと目の前が明るくなった。「ああーーローウエル宇宙港から ずっと下、南方星域へと向い始めた。それが最終目的でないことは 確実だったが、いまは大マゼラン雲をびったりと正面にとらえ、そ許可がおりたんだな ! 」 してまた銀河をはるかに越えた大宇宙の深淵を目指しているのであ「もっとすごいのよ。もうちゃんとやっちゃったんだから」ローラ は手にした書類に眠をやると、「ただちに入港せよ」と読んだ。 「なお、ただ今現在をもって貴下の新らしい御子息が懐妊された。 お祝い申し上げる」 第四十六章間奏曲 「ありがとう。待たされたのを気にしないでくれるといいんだが」 アストロ / ート 「入れ」 / ートン中佐。は心ここにあらずといったふうで、戸口の静宇宙飛行士の常で、ノートンも軍務についたときに断種してしま かなノックに答えた。 っていた。宇宙で長年月をすごすものにとって、放射線による突然 「ちょっとしたニュースよ、ビル。最初に知らせたときたかった変異は可能性ではなく、確実に起るものだった。火星に着いたかれ の、乗組のみんなが騒ぎ出す前にね。それにどうせ、わたしの専門の精子は遺伝子を運んではるか二億キロを飛び、さらに三十年間も 冷凍にされて、この運命の日を待ち続けていたのだ。 分野のことだし」 ノートンはまだ・ほんやりしているようだった。横になり、頭の下ノートンは出産日までに家にもどれるかなとった。かれももう アスト戸 / で手を組み、眼は開いているのかつぶっているのか、部屋の明りも休みをとり、リラックスして、宇宙飛行士として知り得たかぎりの 暗くしているーー・本当にうとうとしているわけではなく、空想か物平凡な家庭生活を送ってもいいころだった。すでにこの作戦も本質 思いにふけるといった様子だ。 的に終了していて、かれは緊張をとき始め、もう一度自身の将来の ちょっと眼をばちくりさせると、突然正気づいた。 こと、二つの家族のことを考えていた。そうだ、しばらくの間家に いるのもいい 「すまない、ローラ、気がっかなかった。なんだって ? 」 、そして失われた時間の埋め合せをするんだ んな方法で。 「まさか忘れちゃったんじゃないでしうよね ! 」 「いじめんでくれよ、かわいい顔して。少し考えごとをしていたん「ここに来たのは」とローラはいやに弱々しくいし 、はった。「純粋 ど、いまね」 に職務上の理由からですからね」 アーンスト軍医少佐は、はめ込み式の椅子を引き出すと、そばに「長いっき合いじゃないか」と、ノートンは答えた。「お互いによ 幻 2

8. SFマガジン 1976年4月号

「わかりません」 「そいつはもうできてる。あとは・ハルフがはじいた数字をコンソー ・ハルフが沈黙したあとをリーミンが引き取った。 ルに突込んでやるたけでいい」 「ただの偵察艇でしよう。おそらく無人のドロ 1 ンだと思います三十秒が過ぎたと思われる頃、シンヤの前のエンジン・コントロ ール用のコッソールの片すみに緑色の小さな灯がともった。・ハルフ 「破壊できないのか ? 」 のあやつる航法用電子頭脳からデーターが流入しはじめたのだ。た 「こっちのことを知られたくないもの」 ちまち、・・ O ・がこの宇宙船《セファラス。ヒス 1 》を完全 「どうする気だ ? 」 に支配する。 「しかたがないわ。逃げ出しましよう」 デジタル表示の秒読みがはじまった。 最初の計画では、船団が完全に太陽系外に出てから追尾にかかる《 : 予定だった。しかし、偵察ロケットなどが飛んでくるようでは、ぐ その間に、 rs.5 シートをセットし、冬眠カプセルをオン・ウェイす ずぐずしてはいられない。 る。 この人工惑星《ダリア幻》は、五百年ほど前、太陽系外を航行す「励起装置を腕に巻いて ! 電極は水平に当るように「回路を開い る宇宙船のために作られた標位星だった。その後、船自体の航法装たら、スイッチをいったん切って : シグナル 置が発達するにつれて、この種の小型の標位星は用をなさなくなっ リーミンが早口に指示する。 た。やがて、内部に収められていた電子装置だけがとりはずされ、 「セット・よろしい。回路 0 。スイッチ・オフ。 0 : あとにはただ人工惑星の本体だけが暗黒の空間に放置された。 それを見のがすことなく、チェックしようとする探検隊の細心な 々と迫ってくる。こういうときに「、ちばんいやなのは、何か 注意と意気ごみは、さすがと言うべきだったが、シンヤたちにとつやり残したことがあったのではなかろうか ? という不安だ。それ て、これは予期しない危険だった。 は大圏航路を飛ぶ三万トンの定期貨物船でも、小さな観測ポートで 偵察ドローンは四十二時間後には、近傍に達するであろうと思わも同じことだ。 れた。 休眠カプセルは今さら点検する、というようなわけのものでもな 今なら、《ダリア幻》のエコーのかげにかくれて、星々のかがや いし、またその必要もない。シートをセットしてしまうと、事実 きの中にまぎれこむことも容易だった。 何もすることはないのだ。 -4 ワ 1 「・ハルフ。針路を算定してください。シンヤ、いつでも発進できる 百二十秒前で、キヤノビー内部の照明が消え、微光灯たけがかす かな星のように影を落した。 用意を」 228

9. SFマガジン 1976年4月号

いや、先住者 た。人間たちがまだこの惑星に来ていない頃から・ : ・ : 司政庁に、どこか淋しげな感じがあることは否めないのだ。 よせ。 たちもいなかった昔、それ以前の太古から、ひたひたと揺れ、波を マセは、かすかにロ辺を歪めた。 寄せては返していた海なのだ。それは今後もずっと マセは、そこでわれに返った。 また、それを考えようというのか ? そうではない。 それよりも。 そうなのだ。そんなことよりも、自分には問題が山程あるのだ。 今後もずっと、ということはあり得ないのである。この海、海の みならずこの世界、この惑星には、未来はないのだ。この瞬間もこ 連邦直轄事業体との駆け引きや、科学センターへの働きかけや・ : こを照らしているあの太陽が新星になるとき、すべては終るのであ そして、来るべき時期ではないのにやって来る巡察官のことや : ・ る。 その、新星化に関する連邦経営機構からの情報はまだ入っていな 彼は、こまかく波を光らせているダイスラの川面から、随行の ポット官僚たちへ、ついで、晴れ渡った空へと、視線を移した。 と、怒りがこみあげてくるのを抑えながら、彼は そうなのだ そういえば、もう午後に入っているはずである。 彼はかすかに空腹を感じ、いつの間にかゆるんでいた歩行速度をデスクに再び目を落した。そこには、彼が今、決裁を行わなければ あげた。 ならぬ書類があるのだった。 それは、司政庁修理工事の許可を求める申請書である。すでに老 朽化してあちこちに不都合を来している司政庁の建物は、全面的な 疲れている。 手直しをしなければならないところ迄来ていた。だから司政庁並び 彼は仕事の手をとめ、窓から外を見おろした・ 司政庁のこの公務室の下は、海である。司政庁が海に面した岩壁に司政関連施設保守の任にあるロポットは、規程に従って修理工事 に建っているからだ。司政庁の最頂部は灯台になっていて、担当のを禀議し、が司政官に廻して来たのである。が ロポットが守っていた。その灯台は、ここから北にある旧港が栄え自体の判断によって、この請求を何度か却下したということは、充 分考えられる。何年も前から請求は出され、それをその都度 ていた頃、ツラツリットの象徴でもあったのである。 / ツリの、左にツララスの、ふたつの大陸が見えてが相応の理由によってしりぞけて来たのであろう。だが、もはや司 遠く、右にハ・、 政庁のいたみかたは、のみの判断ではどうにもならぬところ 迄来ていた。来ていて : : : しかも、ラクザーンの太陽の新星化をデ それから眼下。 眼下 : : : 傾きかけた陽を受けて、海は、どこかなっかしい、それータとして保有しながら、それを表面に出すことなく、通常の、定 められた統治方式によって任務を遂行するーーーという、たち でいて時間の流れを想起させるような、微妙な色合いを帯びてい

10. SFマガジン 1976年4月号

( 一九六五年十一月号巻頭言 ) きである。しかし、石原のこの小説には、 も引きつづき新らしい試みの多くが、この そうした従来の日本作家のユーモアに時期になされている。たとえば野田宏一郎 はない そしてアメリカによくあるの新連載『実験室』は、一九二〇 ~ 三〇 タイプの何かがあった。それは、陽気で、年代の古く懐かしい時代のに現われた この年、マガジンはもう一人の思い からっとしていて、明快なーーーしかもなかさまざまの宇宙船の考証『宇宙船風物誌』 がけない新人を発見する。工学者で、なかにスタイリッシ = な作風で、いうなれや、アポロ計画の接近によ 0 て世間がしき 界でただ二人の博士号を持っ作家の一人石ば、プラウンと、シ = クリイとレナルズをりと話題にしつつあった月テーマの、過去 原藤夫である。 ( もう一人は医学博士手塚かけあわせたような味を持っていた。さらを探る『月世界冒険飛行史』や『月人冒険 治虫 ) 彼は同人雑誌〈宇宙塵〉に『 ( イウに重要なのは、そうした = ンタティナーぶ譚』に現われるさまざまの奇想天外なイラ = イ惑星』を発表していた。森優 ( 南山りの背後に、いかにも理科系出身の作家らストレーションを扱った『宇宙戯画事始』 宏 ) のすすめでそれを一読したぼくは、すしい明快なロジックと、サイエンティフィ などを、毎号例の面白おかしい口調で語っ ぐにこの作品のマガジンへの転載を決ックな稠密さと、周到さとがかたちよく用て好評だった。また科学解説畑にこの頃か め、石原藤夫に連絡をとるようこ 冫いった。意されている点だった。 ら頭角を現わしはじめた異色の科学評論家 この作品は、それだけの新鮮で、軽快で、 この小説はやがて、好評に応えて〈惑星謝世輝が、日本人の月探険というュニーク リラックスした知的な魅力を持っていた。開発 0 ンサルタントシリーズ〉として、書なアイデアで書いた『日本月探険隊一九九 日本作家にも、すでに、コミックなきつがれていくことになる。 〇年』も、連載された。 を得意とするものはいた。というよりも、 十二月号からは、光瀬龍の新作『百億の そういえばこの頃、アメリカやソ連の無 たいていの作家は、ユーモラスな昼と千億の夜』の連載が始まっている。 人探測器による惑星探険が成果をあげつつ を書く能力を持っているし、書くことが好 小説のほか、ノン・フィクション部門であったが、その結果、たとえば火星が生命 房 スフィンクスを殺せ 評田中光ニ 日本、 ~ 」第一ウ 2 ュをル、ス \ 8 -0 0 スピーディな文体がイマジナリ不・ランドに展開する冒険者の群像 ! 一四六判上製