「私は結婚してますからね。動く屠殺場に乗せて道路に送り出すな 五六号車は、・ ヘン・マーチン巡査部長、クレイ・ファーガソン巡 んて、できない相談ですよ」 査、ケリー・ ライトフット警察医が乗り組み、最初の十日間は北米 g 「はっきり言いやがる。で、出発許可は ? 」 高速一一六西をパトロールする。その間、食事も睡眠も仕事も、すべ マーチンが言った。 て車内で行なう。パトロールが終るロサンゼルスまで、市街地が見 配車係は肩をすくめて、カウンターの上のルーズリーフを開き、 えることはほとんどない。パトロールが終ると、補給と修理を五日 パネルの上のボタンを押した。配車係の後ろの壁の地図に明りがっ 間ですませ、その間に報告書を書き上げて、また高速道路を通って いて、ミシシッ。ヒ 川より東の合衆国の地図が浮びあがった。ファ戻ってくる。 ーガソンとマーチンは鉛筆を取って、紙ばさみの上に構えた。 今ロの。ハトロールでは、十の州境を越えるのだが、そんなものは 配車係は部屋の向うにある電光指令板に目をやった。そこにはパ存在しないに等しい。高速道路のパトロールにとって、州境も国境 トカーの番号と乗員の名前が示されていた。 もないのだ。昔の高速道路網やアラスカ高速道路が発達するにつれ 「五六号車、マーチン、ファーガソン、ライトフット」 て、交通安全のために、州や国ごとに違っていた交通法規が統一さ れてきた。 琥珀色の文字が輝いていた。その右側には、「二六ー西」 配車係は次のボタンを押した。フィラデルフィアからセントルイ大陸高速道路網が完成すると、二十年後には、州や国を越える単 / ースアメリカンコンチネンダルスルーウェイ スまで、北米高速道路二六号線の西半分が、幅の広い色彩の帯とな位の警察機構が生まれた。北米大陸高速道路パトロール、通 って、地図の上に示された。十本の帯は、真中の白い線によって五称ノーコンである。高速道路は幅八キロに達し、すべて関係三国の 本ずつに分けられ、高速道路を詳しく表わしていた。マーチンとフ国有地であるが、そこでの法律はすべて青のカーオールを着たノ コノの。ハトロール隊員によって守られている。高速道路法に違反 アーガソンは、北側の五本に注目していた。 Z (--* 二六西行きであ る。そこからは北に南に線が幾つも伸びていたが、それらには明りした者は、インターチェンジ近くの街にある / ーコン地方交通裁判 所に呼び出される。 がついていなかった。 これは、メキシコの南端からカナダを通りアラスカまで、北米大ノーコンの権威は絶対である。大衆は常にス。ヒードと馬力を要求 陸を東西南北に網羅する北米大陸高速道路網のごく一部にすぎなかし続け、自動車産業はそれに応えてきた。レシ。フロエンジンにかわ ってターポジェット : カ使われ、さらにラムジェットも使われ、その うえにエアクッションが加わった。二年前に原子力エンジン車が初 高速道路は幅八キロあり、それが大陸を端から端まで通ってい た。道路わきの建造物といったら、砲塔を思わせる。ハトロール中継めて道路を走った。一九六〇年代のホットなスポーッカーのフェラ ーリやジャガーでさえ、型フォード時代の一九二〇年代の道路を 局だけで、一六〇キロごとに、昔の航空母艦の艦橋のように聳えて 走れば、まるで自殺をするようなものであったが、現在のジェット
傾いた太陽が西の空に盛り上った雪雲の陰に隠れ、北米大陸高速ファーガソンはそう言って、駐車場の方へと歩きだした。マーチ 道路パトロール隊のフィラデルフィア分署の前で、落葉が冷たい風ンも彼と並んで歩きだした。 に舞った。雪になりそうな気配が感じられていたが、寒暖計の目盛「そのガラクタ、持ってやろうか」 「ガラクタだって」 はちょうど氷点あたりで、雪でなく氷雨になりそうでもあった。 ファーガソンはむっとしたように叫んだ。 パトロール隊のべン・マーチン巡査部長は、分署のドアから外に 「その薄汚ない手で、この山海の珍味に触らないでくれ、田舎者め 出て、寒風に吹かれて身震いした。彼は制服の青いカ・ハーオールの が。食事の時間になったら、ケリーと俺とでちゃんとした物を食わ ジッパーを引きあげ、西の空に盛り上る雪雲を見やった。 日焼けした幅広の顔に冷たい風が当ったが、彼はすぐに下を向せて、田舎警官を上品に仕込んでやらあな」 き、手にした板にとめた気象情報に目をやった。 マーチンはくすっと笑いを漏らした。彼がクレイ・ファーガソン ライトフット嬢と組んでパトロールに出るの 彼の後ろで、部下のパトロ 1 ル隊員クレイ・ファーガソンが、肩と警察医のケリー・ でドアを開けて出てきた。この背の高いカナダ生れの若者は、手には、今度で二年目にはいろうとしていた。一回に十日間、半装甲自 紙袋を山と抱えており、作業用へルメットを顎紐で腕から吊してい動車におしこめられて、二十二回もパトロールに出れば、相棒のこ とはずいぶんよくわかるようになる。そして、相棒が好きになる ファーガソンが風の中に歩きだした時、建物の向うから突風が吹か、顔を見るのも嫌になるかのどちらかだ。 いて、一番上に載っていた小さな紙袋が飛び、地面をころころと転マーチンの方が階級が上だったから、十一カ月のパトロールが終 がった。 った時点で、相棒とそのまま続けるか、それとも相棒を変えるか決 「・ヘン、その袋を押さえてくれ」 める権限を握っていた。マーチンはこの長身のカナダ人とずっと一 ファーガソンの声に、マーチンは自分のそばを転がりすぎようと緒にやっていくことに決めた。最後の。 ( トロールが終ってニューヨ する紙袋にとびついて、それをまえた。彼はファーガソンのとこ ーク分署に着いた時、彼は最終的にそう決めた。大陸高速道路を十 ろに歩みより、この金髪の警官の腕に抱えられた紙袋の山をしげし一カ月二十二回にわたってパトロールすると、三十日間の休暇が待 げと見た。 っていた。 パトロールが終って、山となった報告書の最後の一枚にサインを 「いったいそんなに何を持っているんだ ? 」 すると、マーチンとファーガソンは街に向った。それからの五日間 「食い物さ」 というもの、二人は夜となく昼となく酒を飲み続けた。一方警察医 若い警官がにやりと笑って答えた。 ライトフットはまっすぐコロンビア医大に向い、組織再 「もっと正確に言えば、人間らしい生活をするための高級な食料品のケリー・ 生のセミナーに出席した。六日目の朝、ファーガソンはべッドから に 0
色車線をとばして、遠い家路を急いでいた。高速道路を走る乗用車もしれないけど、結婚しようという気にはなれない仕事だよ」 が減ってトラックが増えると、 ハトカーの隊員に短い休息の時が訪「結婚しているパトロール隊員もいるわ」 れる。三〇〇 ~ 四〇〇トン積みのトラックを運転しているのは、高ライトフットが言った。 速道路のプロであり、注意深く、しかも速い パトカーはゆったり「でも数は多くないよー と落着いて、大惨事の原因となる酔っ払いに気をつけていればい マーチンが反論した。 「そのうちクルマから降ろされて、どこかの机に向って仕事をする マーチンはパトカーを警察用車線の中央に寄せて、再び自動操縦ようになる。そうしたら結婚のことを考えるさ」 に切りかえた。彼は椅子に寄りかかり、隣りではライトフットがう「そうなってからじゃ、歳をとりすぎているわ」 っとりと夜を眺めていた。 ライトフットが小さな声で言った。マーチンはにやりと笑った。 「ペン、あんたどうして結婚しないの ? 「心配してくれるみたいだね」 彼女が尋ねた。マーチンは驚いたように彼女を見た。 「そうじゃないわ」 「なぜって、そりや君がまだ一人でいるのと同じ理由さ。嬶持ちに彼女がやんわりと言った。 は向かない仕事をしているからさ」 「ちっとも心配なんかしていないわ。ただ、考えているだけよ」 ライトフットは頭を振って言った。 彼女はマーチンから目を外して、窓の外の夜を見た。 「それじや私とは理由が違うわ。少くともまったく同じとは言えな「ノーコンでは夫婦のチームってこと、どう考えるかしら」 いわ。私は結婚したらパトロールを辞めなきゃならないけど、あん彼女はひとりごとのように小さな声で言った。 たはそうじゃないもの。それに、あんたが本当の理由を知らないの マーチンは彼女を鋭い目で見て、眉をひそめた。 なら、私は訊きはしないわ」 「たぶん、二人を別々に配属するよ」 マーチンは考えごとをするような目付きで、赤銅色の髪をしたア 「なにを別々にするって ? 」 イルランドとインディアンの混血娘を見た。彼女が突然変身したよ運転室のドアの所に立って、ファーガソンが尋ねた。 うに思えた。彼は頭を振って、モニター・スクリーンへと目を転じ「クレイ・ファ 1 ガソンという名前の警官ぜんぶよ」 ライトフットが腹立たしそうに言った。 「ハトロール隊員てのはね、結婚して、三六〇日のうち三〇日だけ「そして薪にしてしまうわ。特に頭をね。堅い木は長い間燃えて、 家庭生活を送って、幸せな結婚生活を営なめるとは思えないよ。運 いい天ができるって言いますものね。あんたにはそれがちょうどい がよければパトロールの終点が自分の家のある街で、たまには楽し いのよ」 い週末をすごせるかもしれないけどね。人工抑制策としちゃいいか彼女は補助椅子の上にまっすぐ坐りなおして、不機嫌そうにファ かかあ 5
ふらふらと起き上り、宿酔いの薬をひと握りも飲み、シャワーを浴「パテドフォワグラと、シャープチーズと、料理用のワインが少し びて髭を剃ると、服を着て出発した。二十分後、彼はジェット機にと、香辛料がちょっぴり。な、必需品ばかりだろ」 ノ / ータ州のエドモントンに向っていた。マ 「必需品だって ? 」 乗り、両親の住むアレく マーチンは鼻を鳴らした。 チンはそれからさらに一週間ひとりで街をぶらぶらした。その後で 「おまえアル・ハータの娘っ子に、脳味噌をお土産にくれちまったん 彼はレンタカーを借りて、妹のキャロルが住むバーモント州のバー リントンまでとばした。キャロルの三人の子供たちを相手に、気前じゃないだろうな」 のよい叔父さんぶりを発揮し、妹の作る本物の料理を腹いつばい食「なあ、べン」 べるつもりであった。 ファーガソンが真顔で言った。 パトロール隊の警官たちと警察医が休暇を楽しんでいる間に、整「あの車輪のついた・フリキの棺桶の中で、十一カ月も我慢してきた 備要員たちは。ハトロールカーをフィラデルフィアまで回送して、次んだぜ、あんたが人間の食うものだと思っているのにさ。あんた も食い物の好みときたらビュ 1 ラ並みだぜ。俺は前の分まで取戻す の十一カ月間の酷使にそなえて、すっかりオーバーホールした。 二人の。ハトロール隊員は、フィラデルフィア分署に五日前に出頭んだ。ビューラだってジェット推進の時には、台所にいるあんたよ していた。マ 1 チンは妹の料理のおかげで何キロか重くなっており、ちっとはマシな匂いがする・せ。今度のパトロールじゃ、人間ら り、ファーガソンは制服姿に弱いお目々ばっちりのグラマ 1 娘三人しい物を食うつもりなんだ。それに、水を焦がさずに沸かす方法 を、あんたに教えてやるつもりさ」 のおかげで何キロか軽くなっていた。 二人は駐車場の入口に着き、守衛に頷いてみせた。その左手に修「この罰当りの若 : : : 」 マーチンが応酬をはじめたが、それまで面白がってじっと聴いて 理工場の大きなビルがあって、そこからボディを鈑金する音や、ジ いたパトカー配車係がカウンターから身をのりだした。 ェットエンジンの音が響いてきた。空が暗くなってきたので、修理 工場の中の明るい光が眩いばかりに見え、十数台のパトカ】の車体「さて料理の講義はそのくらいにして、楽しいドライ・フに出掛けて いただきましようか。ドライ・フにはうってつけの夜ですし、次のサ が整備士たちの上に黒々とした影をおとしていた。 ービスステーションまで、ちょうど四〇〇〇キロですから」 二人は配車係の事務所に入っていった。ファーガソンはカウンタ ー横の机の上に、紙袋をそっと置いた。マーチンは紙袋を一つ開け ファーガソンは顔を赤らめ、マーチンは苦虫を噛みつぶしたよう て中を覗きこんだ。 な顔で配車係を睨みつけた。 「このお宝袋の中には何が入・つているんだい ? 」 「そのうちパトロール隊員として推薦してやるからな」 「必需品が少々入っているだけさ」 「私なら駄目ですよ」 ファーガソンが答えた。 配車係が抗議した。
た。ファーガソンは彼女の曲線を目で追っていた。 ライトフットは手術台の端まで歩いた。 「言うことはおふくろみたいだけど、見てくれは全然ちがうよな」 「よかったわ。すごくよかったわ。若くてハンサムでお金持のドク 3 今度はライトフットが赤くなる番だった。このアイルランド人とタ 1 たちがあんなに集まったの、初めてだったわ」 チェロキー・インディアンの血をひく娘は、箱の中身を忙しそうに彼女は溜息をついて、虚ろに宙を見た。ファーガソンは鼻を鳴ら 調べはじめた。 した。 「べンはどこなの ? 」 「組織再生について、何か新しいことを勉強してたのかと思った」 「再生だって先生だって同じことよ。どうせ初めは同じですもの」 彼女はテー・フルに向ったまま、肩越しに説いた。 「外の点検をしている。ここはもうじき終る ? 」 ライトフットは笑った。ファーガソンは何か言いかけたが、頭が ライトフットは振り向いて、ゆっくりと病室を見廻した。机の上おかしくなりそうになって逃げだし、そのとたん、べン・マーチン と床の上に箱が散らばっているほかは、すべての物がロッカーの中の胸にもろにぶつかった。ファーガソンはロの中でもぐもぐと言 にしまいこまれていた。片隅には小型の診断器がしつかりと留めて い、マーチンを押しのけて通り抜けた。 あった。これは恋の病いと精神病以外なら、病気でも怪我でもほと マーチンはファーガソンを見送り、それから五六号車の警察医に んど診断できる万能タイプである。手術器具は薬品類と同様に、ロ向って言った。 ッカーに入っていた。パトカ 1 の最後部にあるドアの両側には、自「今度の。 ハトロールにも、またホステスが乗っててうれしいよ。と 走担架が三つ留められてあった。一方の壁には、病人用二段べッ ころでクレイになにをしたんだい、ケリー」 が三つ並んでいた。パトロール勤務中、ライトフットはこのうちの 一つを自分で使っていた。もちろん患者でいつばいの時は別だが、 ライトフットが一一 = ロった。 そんなことが長く続く筈もなかった。すぐに救急車や病院車がやつ「坊やのことなら気にしなくてもいいのよ。猥褻なことを口走った てくるからである。十日間のパトロールで使う私物は、小さなロッ ので、懲らしめてやっただけだから。休暇どうだった、ペン ? ず カーに入れていた。トイレは男子隊員と共用である。 いぶん太ったじゃない」 ライトフットは部屋を見渡して、手にした点検表を見た。 マーチンは腹を叩いた。 「五分で箱を片づけるわ。あとは済んでるわ」 「キャロルの料理は天下一品だ。ゆっくり骨休めしたよ。君の方は 彼女は手を挙げて敬礼の真似をした。 どうだった ? 勉強ばかりじゃなかったらしいな。よく日焼けした ね」 「病室は出発準備完了いたしました」 ファーガソンは笑って、紙ばさみに記入した。 「ええ。勉強ばかりなんて気持、これつぼっちもないわ。勉強もし 「セミナーはどうだった、ケリー」 たけど、プールにもよく行ったわ」 わいせつ
相手のクルマは無線を切り、手を振って右の方へ進路を変えた。 たんでしよう」 高速道路の入口が迫っていた。マーチンは二六西と書かれた明るい マーチンは笑いだし、ファーガソンまで笑った。 入口にビューラを向けた。。 ( トカーは電燈のついた狭いトンネルに無線が入った。 滑りこみ、一キロ半ほど進んで登り坂にかかった。三分後、ビュー 「フィラデルフィア管制室から、五六号車へ」 ラはトンネルから出て、大陸高速一一六西の赤のパトロール車線に姿ファーガソンは送信ボタンを押した。 を現わした。 「こちら、五六号車。どうぞー 午後の遅い空は灰色の雲ですっかり覆われ、運転室の天蓋のガラ 「八二地点で事故発生。白車線で側面接触」 スに、一つ二つと雨が当った。パトロール車線の両側一キロ半ずつに 「白車線ならたいしたことはないでしよう」 わたって、クルマは西に向って速いス。ヒードで流れていた。マーチ マーチンは白車線の一六〇キロの制限を思って言った。 ンは空を見上げ、クルマの流れを見、そして外気温度計を読んだ。 「それは問題じゃないんだ」 ちょうど摂氏〇度であった。気象庁は六時間もすれば雪予報を取り 管制室が答えた。 消すだろう、と彼は思った。。ハーモント育ちの彼は、一時間もしな「そのうちの一台が、はね返って緑車線にとび込んだのだ。問題な スリー いうちに風が吹き荒れることを感じていた・ のはそっちの方だ。コード 3 でやってくれ」 彼はス。ヒードを上げ、時速一六〇キロびったりで走り続けた。こ 「五六号車、了解」 のス。ヒードでは、音も静かで気も遣わないですむ。ファーガソンは マーチンが言った。 運転室からクルマの流れを眺めていた。緑と青の車線を走る乗用車「行くぞ」 とトラック。すべてパトカーよりス。ヒ 1 ドが速し 彼はアクセルペダルを床まで踏みつけた。・フザーが車内に鳴り響 ファーガソンは椅子に坐りなおして、マーチンの方を向いた。 き、ケリー・ライトフットは病室の繭の中に、巡査たちは座席につ 「なあ、べン」 いたままボディ・クッションに包みこまれた。五六号車はエアクッ 彼は考えこんだ調子で言った。 ションに乗って地上三〇センチに浮き上がり、時速四〇〇キロにス 「時々思うんだが、他のクルマの排気管を眺めている俺たちのよう。ヒ 1 ドを上げた。 パトカーの強力な赤い燈火が、車体の前後で明減しはじめた。そ に、昔のカウポーイも牛の尻尾をこんなふうに見て退屈していたん じゃないかな」 れせ祠時に、車体に組込まれた特殊送信機から、サイレンの音が電 車内通話装置のスビーカーから、大きな笑い声が流れた。病室に波となって発信され、高速道路を走る自動車に必す装備されている いるライトフットであった。 緊急用受信機のアンテナに吸い込まれていった。 。ハトロールの仕事が始まったのだ。 「その言葉から察すると、カワイ子ちゃんのお尻のことを考えてい リヤエド ロ 9
たのか見当もっかなかった。三人は六〇メートル以上も飛ばされて送られた。記録部門の大きなコン。ヒーターが、。 ( トロール誕生以 来四五年間に北アメリカ大陸で交通違反をしたかどうか、すぐに調 ファーガソンは現在の情況を考えた。 べた。 「書類を作って下さい」 免許証と車検証についての問合せは、。、 / トロール中継所を介して 彼は静かな口調でマ】チンに言った。マーチンは満足そうに頷、 行なわれていた。。ハ トカ 1 のカード差入口の上には、二つの小さな て、書類に戻った。 ライトがついていた。初めのライトが緑色に光った。「免許証は有 コライ ( ス出口にあたる四一二地点で、パトロール・レッカ 1 が効」である。次のライトも緑であった。「違反歴なし」である。マ 待っていた。巨大なレッカーは作業燈と警告燈をつけ、エンジンを ーチンは差入口からカードを引抜いた。もし初めのライトが赤だっ かけたまま駐っていた。ファーガソンはパトカーを並べて停めた。 たら、運転者をその場で逮捕しなければならない。次のライトが琥 彼は牽引装置を外し、マーチンと二人で冷たい夜の外気の中に出て珀色なら、小さな違反の前歴があるのだ。これは新しく召奐状を作 いった。二人は十代の若者たちの自動車に戻った。ファーガソンはるにあたって考慮に入れることになる。二つ目のライトが赤なら、 故障車の後部に廻って、警告燈を外し、マーチンは運転席の窓の所大きな違反の前歴があるか、小さな違反を何回か重ねていることを に行った。彼は召喚状の綴りを持っていた。運転席にいた若者がそ示している。この場合も運転者はその場で逮捕される。法律は強力 れを見て青くなった。 であった。ストライクを一発くらえばアウト、ファウルチップ二つ 「免許証」 でも同じこと。そして″アウト″は文字どおりアウトであり、罰金 マーチンの言葉に、少年は尻のポケットを探って、免許証を出し か禁固、そして高速道路を運転することは一生できなくなる。 た。氏名、年齢、住所、免許証番号が刻みこまれた薄い金属製のカ マーチンは車検証差入口を待機の状態に切りかえ、若者の自動車 かいざん ートで、壊したり改竄したりできないものだ。 に戻った。警察用車線の作業車線に駐っていて、他の交通からは遮 「車検証」 断されていたが、若者たちは自動車の中に入ったままだった。この 少年はダッシ = ポードから同じような金属カードを外してよこし点に関しては、若者たちもよく承知していた。超高速で走る高速道 た。マーチンは二枚のカードを持って、 。 ( トカーの後部に廻った。路上で故障すれば、生残るチャンスはごく少ししかない。たいした 彼がパネルを開くと、車体に二つのカ 1 ド差入口が開いていた。彼防護効果が期待できないとはいえ、自動車から出てしまえば、この は運転免許証を差入口に入れ、車検証をもう一つの差入口に入れ少ないチャンスさえゼロになってしまうのだ。 た。それから差入口の下のボタンを一つずつ押した。パ トカーの中 マーチンは書類を書きあげて、書類ばさみの後ろのポケットに免 で、自動送信機がカードに記入された磁気符号を読みとった。この許証のカードを入れ、鉄筆といっしょに窓から運転者に渡した。少 符号は瞬時にしてコロラドス。フリングスにある大陸中央記録部門に年はロ許をひきつらせ、震える手でサインをした。
ハ・ハーストロー、年齢五分、現住所、北米大陸高速道路二六西六一一一それをばくつきながら、深夜点検をするために、エンジンルームへ 一一地点。 行った。五六号車はもう八時間もパトロールしているのだ。残るは 6 十五分後、母親と赤ん坊は救急車に乗って病院に向った。ハバー 僅か二三二時間、距離にして三二〇〇キロにすぎない。 ライトフットは振り向いて、エンジンルームへ行くファーガソン ストローはライトフットの処方した鎮静剤ですっかり落着き、別れ ぎわに揉み手をして礼を言った。 の背中に向って言った。 「家に帰ったら、葉巻を送りますよ」 「ノーコンのパトカーの中で、二十日分も食料品を積んでいるの は、このクルマ位のもんでしようよ」 彼は手を振って自動車に乗りこんだ。 マーチンが笑った。 救急車が警察用車線を走り、新しく父親になった男がスムーズに 「あいつはまだ大きな赤ん坊なんだ」 交通の流れに乗っていくのを、ビューラの三人が見送っていた。ハ ・ハーストローは次の交叉点まで行ってから北へ向い、インディアナ「そうだとしたら、頭の中だけよ。一年間いっしょに居てわかった ポリスへ行く。救急車に乗った家族の方が先に着いているだろう。 んだけど、あの頭の中にはどうやっても入りこめないわ。時々ひど 緑車線を走る彼の運転は、注意深い模範的なものであった。 く腹がたって、レディであることを忘れたくなることがあるわ」 「私が喫う葉巻の銘柄を、彼は知っているのかしら」 彼女は考えるように口をつぐんだ。 ライトフット嬢がおかしそうに笑った。 「私がレデイだからって悪いことはないわよね」 五六号車が・ハトロールに戻ったのは、二三三五時であった。ライ「恋ですなあ」 トフットはマーチンの隣りにどすんと坐った。ファーガソンはキッ マーチンが笑った。 チンでぶらぶらしていた。 彼女は補助椅子に腰かけ、膝の上に両肘をついて、顎を手に埋め た。そして横目でマーチンを見た。 「寝に行かないのかい ? 」 マーチンが声をかけた。 マーチンはモニター・スクリーンを見ていたので、彼女の視線に 「あと二五分しかないというのにか」 は気づかなかった。ライトフットは溜息をついて、ヘッドライトの ファーガンンが答えた。 光が流れる夜の高速道路に目をやった。フットボールの試合帰りの 「あんたがすっとばすまでは、 いい気持で眠っていたんだ。それ自動車の群は、流れの中に散らばっており、交通量こそ多かった に、今は腹がへっているんだ。誰か軽いものを食べるか ? 」 が、渋滞の兆候は見られなかった。真夜中に近づいたので、高速道 マーチンは頭を振った。 路を走っているのは、乗用車からトラックに変っていた。フットボ 「いらないわ」 ール試合帰りの乗用車は、交叉点や出口があるたびに数が減って行 ライトフットが言った。ファーガソンはサンドイッチを作って、 き、カリフォルニアのファンは青車線か黄色車線・・ーーほとんどが黄
ーの一台が現われた。 スヒード が一五〇キロまでおちた。繭が再び引込んだ。マ 1 チン ハヤカワ文庫重版出来 は前方に倒れかかって身体を支えた。彼は苦痛に声をあけ、後ろに 寄りかかった。それとほとんど同時に、ライトフットがドアから運 銀河大戦 04 7 0 転室に飛び込んできて、彼の額を押さえると、頭を背もたれに押し シェール & ・タールトン 3 0 0 大宇宙を継ぐ者 つけた。 松左京 イ \ 00 8 0 突然、逃走車が雪とぬかるみに足をとられて、横滑りして停っ O —l ・ム「ア 大宇宙の魔女 \ っ 4 6 0 た。ファーガソンはそれをめがけて突込んでいった。二〇〇メート (-) ・・フリッシュ ルほどに近づいた時、乗用車の天蓋が開いて、自動小銃の弾丸が。 ( \ 3 0 0 地球上陸命令 トロール隊員が無事だったのは、巨 トカーに向って飛んできた。パ 狼の怨歌平井和 \ 3 正 (•) ・・フリッシュ 大な。 ( トカーに対して、低い位置から射ってきたおかげであった。 04 5 0 二重人間スポック 炸薬の入った弾丸がパトカーの天蓋を射ち抜き、プラスティグラス 決戦 ! ヴェガ星域ショルス & シェール の破片が三人の上に降りそそいだ。 平井和正 死霊狩り 一瞬の後、前方に来ていたパトカーの前部の砲が火を吹き、トラ フランク・ デューン砂の惑星 2 00 0 0 べレアの前部が黄色と赤の煙と火に包まれたかと思うと、大きな炎 平井和正 狠よ故郷を見よ 04 「ー 0 となった。男が一人、燃える自動車からよろめき出た。頭と衣服か ート フランク・ ら火を吹きながら、男は四歩ほど歩いて、雪の上にうつぶせに倒れデューン砂の惑星 3 4 ? 4 0 平井和正 た。乗用車は灰色の空にどす黒い煙をあげ、音をたてて燃えてい アンドロイドお雪 \ 3 り 0 た。雪の降りが激しくなっていた。パトロールの警官たちが倒れた マール & ・タールトン 核戦争回避せよ ! >• - っ 40 》 0 男の所まで歩いて行かないうちに、焼け焦げた男の身体はうっすら 人狠地獄篇平井和正 と雪に覆われていた。 ヒュプノの呪縛ダールトン & シェール 一時間後、五六号車は再び北米高速二六西を走っていた。今度は ・タールトン & プ - フント 燃える氷惑星 >• 3 0 0 修理のためにウイチタ支署に向ってであった。病院ではべン・マー < ・・チャンド一フー チンが首に副木を当てられてへ ・ツドに寝たまま首を引張られてお銀河辺境への道 っ 4 、 0 ート・マイアル り、その脇でライトフットがぶつぶつ文句を言っていた。 謎の円盤 0 囮ロバ >• ? 編 4 0 運転室では、ラアーガソンが吹雪になった道路を見ようと目を凝 け 3
らしていた。火焔式除雪車が大活躍していたにもかかわらず、交通して病院を壊しそうにな 0 た頃には、ビ = ーラの天蓋は新しくな 0 量はゼロであった。ファーガソンはカ・ ( ーオールの上に厚い上衣をて、車体の塗装も手直しされていた。 着ていたが、それでも震えていた。ビ = ーラの天蓋の弾丸の穴から三人が揃 0 てビ = ーラに乗り込む時、「ーチンは幸せそうに言っ 冷たい風が吹きこみ、雪が後ろの隔壁に当っていた。室内通話装置はた。「すっかりきれいになったなあ」 壊されていた。ファーガソンは作業用へルメットを被っていたが、 彼はカンサス支署の駐車場に駐められたビ = ーラの雪化粧を眺め こ 0 これは通話のためであると同時に、寒さを防ぐためでもあった。 キッチンのドアが開いて、ライトフットが頭を出した。 「ビューラはきれいだ」 「あとどの位、クレイ」 彼は言った。彼はライトフットに微笑みかけた。 「あと一一〇分で支署に着く」 「君もきれいだよ。おまえもいくらかマシに見える」 ファーガソンが震えながら答えた。 彼はファーガソンにも言った。 「熱いコーヒーをいれてくるわね」 「さあ、行こうか。冬の天気は飽きあきだ。ここから出よう」 ライトフットが言った。 十分後、五六号車は再び西へ向って走っていた。 ヘルメットのス。ヒーカーから、彼女がキッチンで物をどかしてい 午後遅くなった頃、高速道路はカンサス平野からロッキー山脈の る音が聞こえた。 麓にあるデン・ハー管制局に向ってゆるい登りになっていた。車線の 「ひどいこと、メチャメチャじゃない。 = ーヒーがどこにあるかも両側に雪が高く積もり、中央分離帯は高い雪の壁になっていた。黒 わからないわ。障害物競争はやめてもらわなくちゃ」 い雪が厚くたれこめ、新しい雪が降りそうな気配だった。 彼女の声がしばらく途切れた。 ラジオが怒鳴った。「五六号室、こちらデイハー管制室」 「クレイ、ここで飲んでたの ? ・ヒール工場みたいな匂いがするわ「こちら五六号車」マーチンが答えた。「どうそ」 よ」 「五六号車、カンサスシティ管制室から、貴車が五日間パトロール ファーガソンは悲しそうに目を上げて、壊れた天蓋を見た。 から外れ、今勤務に戻ったと報告があった。すでにパトロールを行 「俺の料理用のワインだ ! 」 なえる状態にあるなら、デン・ハーで北米高速八五北に移り、アンカ 彼は溜息をついた。 レッジまでパトロールを行なえ。確認せよ」 「こいつはひどいことになった」 マーチンは溜息をついた。「了解した、デン・ハ マーチンが病院に入っている一週間のあいだに、ファーガソンは彼は言った。「あんたは冬の天気に飽きあきしたって言ってたな」 ビューラをすっかり修理させた。マーチンが退院させろと喚きちら ファ 1 ガソンが言った。 4