思いだすのはサンフランシスコの坂道を這いの・ほってゆくおんぼろケー・フル・カー、そ 解説 いつにとび乗り、とび降りるたびに、顔をなでていった夏の風。おなじその風が、金門湾・ をホ・ハ 1 クラフトで渡るときには、狂ったように激しく背中を鞭打ったことも思いだす。 月日のたつのは早いものです。 ジェイムズ・ティ。フトリーやジーン・ウルフが オークランドの丘の連なり、チャイナタウン、そして、かたくなな突堤の下で、日ざしの 有望新人と騒がれたのは、ついこのあいだのこと , 針をいつばいにうがたれて眠っていた水も思いだす。 ~ のようなのに、よく考えてみるとあれが一九六〇 ~ だが、サンフランシスコは、一九八六年の大地震で壊減したという。だから、わたしが一年代の終わり。いまの彼らは、もう押しも押されも・ " 一九八四年にほこりっぽいヒ = 1 ストンで生まれたこのわたしが、一九八二年のサン〉せぬ第一線作家にのし上が 0 てしまいました。そ , 、れから一足か二足遅れて登場したエド・・フライア・ フランシスコの風や海や生活をお・ほえているはずはない、という。 ント、ヴォンダ・マッキンタイア、マイクル・ビ ショップ、ジョージ・・・マーティンといっ しかし、わたしはおぼえている。どの街並みも、どの看板も、どの瞬間も。 たところも、次代をになう若手として、もっか大ハ ちきしよう、嘘じゃないー - いに売り出し中。そして、層の厚いアメリカ 界のこと、そのあとにも後続部隊が目白押しに控 えています。昨年のジョン・・キャンベル賞新【 その両眼は、さしずめ鋳造の年代も忘れられた二枚のコイン。ほら、銘刻も見える 人部門の候補にも、長篇第一作で注目されたスー ・マッキー・チャーナス、心理学者で、重量 ( 〈すべてを神に託す〉と。あれはわれわれのことなんだ、とマクリンは思った。われわれ一ジー ・挙げ、。ヒアノ、作曲、絵と多彩な才能をもっフェ ~ が神なんだ。 ) リックス・ゴッツチョーク、ラリイ・ニーヴンを一 ロランス・マクリンは、麻酔係の看護婦の手から注射器をうけとった。すでに石護婦 ードを書くジョン・ - 思わせるユーモラスなハ そしてここにご紹介するアラン・プ . が、首根っこに近い一部分に、局部麻酔をほどこしている。マクリンは、手術台にすわっ ( ヴァーリー、 レナートなどが、受賞の候補にあがりました。い一 た男の脳の内部へ、ペプチドの溶液を注射した。そして、待ちうけた。 ずれもここ二、三年のあいだにデビューしたパリ 「デル、いまのを感じたか ? 」 リの新人です。 デル・パリッシ = は、かぶりを振 0 た。マクリンは効果の現われるのを待 0 て、相手を ~ その中でもいちばん年の若いのが、このアラン ・・フレナートでしよう。前記のプライアントやマ 見まもった。その男の瞳に輝きがないわけではない。この種の仕事にどうしても要求され ~ ッキンタイアを世に送りだした創作教室クラ、 る敏活な知性のきらめきが、そこにはある。しかし、そのぎらめきが、そして彼の全身 ~ リオン・ワークシ = ップの出身でカリフォル = ア【 州立大学の学生。二、三の短篇を発表したのち、 が、いわば傷痕に覆いかくされた感じなのだ。厚いかさぶたの奥にある瞳は、だれにもの & 誌七四年十一月号にこの『冬の記憶』が ) そきこめず、ただ目を合わすことしかできない。その男を打ちすえた年月はそれほど長く掲載されたのが、まだ二十歳のときでした。お読 ) みになっていただけばわかるとおり、その才能の 力とス。ヒードのこもっ ) はないのだが、ーー身上調査書では、たしか四十五歳だったか ? ーー ほどをうかがわせてくれる、みごとに引きしまっ 9 た打撃で、彼を痛めつけたのである。そのことに、マクリンは確信があった。ほかには : た作品です。 ( 訳者 ) サイキ・チャート ・ : なにがいえる ? 人好きのする男、話じようずな男、精神図表からすると独創性に富ん )
を第羇 孕寺集 : 宇宙の工ロス クローン ! シスター 失われた世界 ハ・ミラ・サーシェント シオドア・スタジョ " ン ディ・べリオン もう一人のイヴ フレデリック・ボール ~ マリオン、ジマー・・フラッドリイ グループ ロバート : シルウアーノーグ ・ション・ J ・ウ工ルズ フォト / 佐治嘉隆 ミを
エルウッド、 にどこかで開かれているアメリカでは、公 歩め」 ( ロジャー 六名 ) マイクル・カーランド、ロ・ハート 式もくそもないものだが。 1 パネル「。フロトスターズ」 ( ハ ンルヴァーく ーグ ) ラン・エリスン、スティーヴン・ 予定。フログラムは次のとおり。 3 ハイヤーお茶の会 ( 推薦人のある ゴールディン、フレデリック・ポ 金曜日 ( ニ十九日 ) レ、・ / エリー・ もののみ ) 室 パーネル、ラリ Ⅱ基調演説 9 レデリック・ポール ) イ・ショウ、ウィリアム・チュ 4 討技実演 ( クリエイティヴ・アナ 1 女流作家パネル・ディスカッショ クロニズムの会 ) ン ( マリオン・ジマー・・フラッド ニングほか二名 ) 丿 1 、キャスリーン・スカイ、サ映画『悪魔の雨』 The Devil,s 2 オーストラリア世界大会レポ ラ・チェノく 、ノース ) 3 ファイアサイン・シアタ 3 講演「地球外の文化」 前 ー討論会、室 ( ジェリー・ ーネル ) 手 講演「星間探検の国家的 右ファッション・ショウ ート・フォ 計画」 ( ハ を ( 中ナスフィック賞授与晩餐 ワード博士 ) ン ス 映画『少年と犬』 A Boy 月曜日 ( 九月一日 ) and His Dog 、『いっか ・ライス・バ 工全日エドガー 時間の中で』 OnceUpon ウズ記念特別プログラム ン ( ただし、プログラムは諸般の事 土曜日 ( 三十日 ) 情によって変更されることもあ アメリカ作家協会会 る ) 合 ( 会員のみ ) 室 そして別室では、アート・ショ ウと書即売が四日間を通して行なわ Ⅱパネル「ドラキュラ伯爵ーーー昨 Rain メーキャツ。フ実演 ( スティ れ、さらに別に設けられた映写室では、二 日、今日、明日」ドナルド・・ ーヴ・ニール ) 室 リ . 1 ー・ト、ウ . ォル、・・トア 1 ・一アイほ 8 仮装コンテスト 十八日夕方六時から九月一日夕方六時まで か七名 ) 日曜日 ( 三十一日 ) 九十六時間ぶっとおし ( ! ) で、『禁断の 対談「家庭さまざまーーー事実と虚パネル「・幻想、恐怖映画ー惑星』『地底探検』『華氏 451 』『宇宙 ー昨日、今日、明日」・・戦争』『地球最後の日』『ドリアン・グレ 構、現在と過去」 ( プライアン・ ヴァン・ヴォクト、ドナルド・イの肖像』『たたり』その他アニメ、劇映 ハーリイ、ジュディ・、 ノロウ ) ・リード、ジョン・エイガーほか画、長篇、短篇とりまぜて数十本の映画が パネル「そして今、静かに火中を ー 50
識あふれる異星人と笑いあっているのを見て喜んだ。「あなたの言 スなどは、ありませんでした」 うのが、我々のーーー女性に、二本の手があり、足が二本あり、頭が フアヌーは実験室へと歩み去り、それを目で追うエヴァレットの 一つある、というようなことなら、ええ、たしかに男女は似ている心中では、一つの思いが音をたててこだましていた。「神よー と言えます。しかし・ーーー」 アヌーは理論として言っているだけではない ! 本気でーー言って フアヌーはジョンを見たが、その目つきには憐みがこめられてい るのだ ! 」 いた。「いや、そんなことを言っているわけではありません。つま り、我々の種族との比較では、あなたがたの性差は僅少なものだと 小さな物音に、彼は目をあげた。だれもはいってくる音は聞こえ いうことです。一方からもう一方へ転換するのは、比較的簡単なこ なかったが、目の前にコードの大きな図体が立っていた。 とでしよう。テープには、このような転換が自然におこったばあ「お邪魔してすみません、隊長」 、医学的におこなわれたばあいの例が数例紹介してありました」 ・。用は何かね」 エヴァレットは目をつりあげ、喉もとに怒りがこみあげてくるの おどおどと、大男は笑みを浮かべた。「これまでの習慣をやぶろ を感じた。しかし、その怒りをおしころした。フアヌーには理解でうというのは、むずかしいことです。そのつもりはないのです」そ きなかったにちがいない。しかし、他の種族におけるタブーについ の体驅と態度とから連想されるようには、コ 1 ドは頭は悪くなかっ て、フアヌーは、たとえ納得はいかないまでも、知識として知ってた。受けた教育が少なかったことと、巨大で不器用な体からくる限 いてもいいはすだった : : : 激昻しているにもかかわらず、エヴァレ界はあったが。ロごもりながら、今、居心地悪そうに体の重心を一 ットはむせ笑いした。「そうですか、言おうとしていることはわか方の足から他方の足へとうっしかえていた。「わたしはーーーわたし りました、フアヌー。理論としてはおもしろい。だが、もしそれがが代表にえらばれたと考えてください。そのーーー乗組員代表という 実際に可能だったにしても、いや、そううまくことははこびませことに」 んー 「不平委員会のかね。 ししかい、わたしはもう、本当はきみたちの 「なぜですか」 上官ではないのた、コード。我々はみんな同等なのだ」 「ええー」ーでも、あなたはいまたに隊長ですー 「いや、問題なのはーー隊員たちには耐えられないだろう。我々は モルモットではないのだから」怒りのこもった声音で、言いおえ エヴァレットはためいきをつき、大男が話をつづけるのを待っ こ 0 た。「何人かのーーー何人かの者たちが、私用の区画を建築したがっ ているのです。つまりーー喧嘩したとか、そんなことじゃありませ 「いや」フアヌーの声には、またもや憐むような調子がこもってい た。「あなたがたの種族は絶減の運命を強いられ、なおそこに逃げん、ただーーープライ・ハシーがちょっとほしいのですーーーっまり、な 道があるのです。わたしたちの種族には、そのような第二のチャンんというかーーー家にいたときと同じような・ーー」 4
「あなたがたは、勇敢な種族です」フアヌーの声音は一本調子だっ ってほしい」 たが、それでもなお驚きと畏怖とがこめられていた。「我々の種族「哺乳動物は・・ーー」と話しはじめたが、すぐに言いよどんだ。別の 9 であったら、あのような宣告をうけたら絶望に身をなげだし、何も適切な術語をさがしていることが明らかだった。 手につかないでしよう」 「ええ、わたしたちは、専門的なことばで言えば、哺乳動物です」 「そうしなかったと思うのですか」エヴァレットは、最初の数週間 エヴァレットは鼻を鳴らした。「たが哺乳動物は、我々の太陽系と のありさまを思いだし、歯をくいしばった。ギャレットま、 カ放心状ともに減亡してしまったのだ」 態で自分の手首を切り落とそうとするのを彼がとどめたのだ。背す「それは正しくはない。それが正しい必要はありません」 エヴァレットは、これまでも無数に思ったことだが、その意味不 じをのばした。「重労働は、絶望をいやす何よりの特効楽だという ことがわかりました。あるいは、いやさないまでも、絶望を防ぐた明な表現を読みとろうと、異星人をみつめた。フアヌーがつづけ めによく効くということが」 た。「わたしはあなたの種族の裸体を観察しました、それをあなた 「わかります」フアヌーが言った。「すくなくとも、そうかもしれがたの学術映画からえた知識とひきくらべてーーー映画というのは、 、ということは理解できます。しかし、あなたがたはいつまで宇宙船の積荷にあったものですー 1 ー・親切にもとどけていただきまし こーー・それには感謝のことばもーー」 はたらくことができるのですか。すばらしい建築でこの谷間を埋めナ つくしますか」 「いいです、いいです」エヴァレットはさえぎった。フアヌーのし 苦い表情で、エヴァレットは頭を振った。「それまで、わたしたやべりかたは馬鹿ていねいだった。彼はフアヌーが好きだったが、 ち生きていないでしよう。そうではなくて、自分たちがよりよい 地球人でフアヌーに対抗できるのはツェンだけであった。ツェンは 生活をできるようにはたらいているんです。ーーー行ってしまうまでいつでもいんぎんさ過剰のしゃべり方をする。 の生活を」 「すみません。つまり、あなたがたの : : : 二つの性はたがいに非常 「死ぬ必要はありません」 によく似ており : : : 」 「なんの エヴァレットは目を見ひらき、当惑して笑いはじめた。 フアヌーの顔を見ようと、エヴァレットはふりかえった。「この ことだかわからない。あなたが何を言おうとしているのか、さつば 二カ月のあいた、あなたがほのめかすのは、そのことばかりだー 絶望以上に悪いものが一つだけあるとすれば、それは誤りの希望でり理解できません」 す ! たとえあなたの種族が不死身で 「地球人の二つの性の型は、例外的と言えるほどのわずかな差異し かもっていないのです」 「おこらせるつもりではないのです、ジョン」 しいわけするよう 「なんてことを。差異ばんざい ! 」エヴァレットが声をあげて笑う に、小さな奇妙な形の手をあげた。 「それなら、謎をかけるばかりでなく、なにか意味のあることを言と、谷間の乗組員たちが何人かこちらを見あげ、隊長が、全能で知
「どうしても、そうでなければならないのですか、ジョン」 のものより優秀だが、すぐにこちらの計器でも観測できるようにな エヴァレットは、異星人の大きな緑色の瞳に目をやり、どうしよるはずだ」 うもない語義の差異をののしり声で説明しようとしたが、問題点は後列のどこからか、押しころしたすすり泣きの声が聞こえてき こ。残りの者の表情には、苦痛が浮かんでいた。未来ーーーもう未来 そう簡単に理解させることができなかった。とっ・せん、ショックとナ 無力感とが、純粋な恐怖に席をゆずった。親切なこの異星人にくどとも言えなくなった将来のことを考える苦痛であった。機関員のラ くどと人類と男性との二つのことばの意味のちがいを説明などしてティマ 1 ーー・皆にティップとよばれている若者が、身を屈して両手 いることに耐えられなくなった。今彼が知らされたことの : : : 知らに顔を埋めた。若い航宙士のツェンが、全員が心に抱いている疑問 されたことの : : : 窒息しそうな声でやっと言った。「言ったとおりを、ついにロにした。 「のこったのはーーーわたしたちだけなのですか」 の意味にうけとってください、フアヌー」だみ声になっていた。 「五十年後には、ホモ・サビエンスは、あなたの種族以上の程度に「我々だけだ」エヴァレットはそのまましばらく待ち、顔をそむ 減亡しているということです。わたしはもう行ってーーーみんなに伝け、そしてふりかえって全員を解散させた。訓示をおこなえるよう な類の話題ではなかった。最終的には、みな降参しなければならな えなければー、ーー」 い 9 全員が、それそれに。 盲人のようにあちこちにつまずきながらドアをまさぐったとき、 大きな緑色の目がずっと自分の背をあわれむように見つめているこ とを意識していた。 フアヌーの衣ずれの音が聞こえて、エヴァレットは歓迎の笑みを 平静に、静かな声で話そうと努力したが、一同は最前の彼とまっ浮かべた。一一人は丘の頂にならんで立ち、小さな谷間でたちはたら たくおなじに、ショックをうけ、まず恐怖に身をこわばらせて沈黙く隊員たちを見おろした。「何をつくっているのですか」フアヌー がしばらくしてたずねた。 し、そして仲間同士、団結心に心の平安をもとめるとでもいうよう 「あれはーー」と楽しい笑いをこらえられずにエヴァレットが言っ に、たがいに身を寄せあった。 た。「病院をつくっているのですーーーあなたと、薬剤師の助手のギ 「絶対に・・ーーまちがいだったということはないのですか、隊長」コ ードが、おずおずと質問した。そんなに大男であるにもそぐわず、ヤレットのために」 「それはそれは」フアヌーは笑い顔をすることがでぎなかったが、 彼はいつもおずおずとしゃべる。 その目は急速に喜びに輝いた。「それはご親切に、どうもありがと 「わたしが自分で図表をしらべ、座標もたしかめたのだ、コード。 それに、フアヌー あの異星人のことだが、彼のデータを疑うべう」 き理由は何一つない。知りえたかぎりでは、わたしたちの出発の六 「なんでもないことです。それでも、問題が一つ解決されるだけで カ月ばかりのちの出来事にちがいあるまい。フアヌーの計器は我々す。あなたがたは二人で、わたしたちの健康を保ってくれますね」
ジムは、すわりこんだタカムラ博士のほうを見た。かれはまだ大な顔をした。茶色の豊かな髪をかきあげるようにして前にのりだし 学にいる、クロ 1 ンをつくったあの研究センターで研究をつづけ、た。「それがね」とタカムラ博士は言葉をついだ。「ポールがきみ 2 キーラはかれのもとで勉強している。ジムは身震いした。あの実験の年ごろに逢っていた娘とそっくりなんだよ。シカゴこ 冫いたころだ の関係者たちにあうといつも不安がわいてくるのだった。かれらが が、ローダとかいう名前だったな。二年後にイスラエルに帰ってし 自分を実験材料として眺めているのか、それともポールとの友情をまった。かれはしばらく悩んでいたよ」 とりもどそうとしているのかよくわからないからだ。 ジムはいたたまれぬ不安を感じた。キーラはそんなかれの気持を 「どうかね、ジム ? 」とタカムラ博士はいった。七十を越したとい感じとったらしい。「よく降りますね」といって話題を変えようと した。「もう百ミリぐらい降ったんじゃないかしら」 「しばらく逢わなかったが」 うのに若々しさを失っていない。 「あまり家にいませんでしたからね」とかれはいった。 ジムはタカムラ博士のほうへのりだした。「彼女はどんなひとで 「遠くで見かけたことはあるよ、大学でとても魅力的な娘さんと歩したか ? 」とかれはきいた。手が汗ばんでいる。キ】ラはかれを見 つめた。 いているところを」 「よくは知らないんだが」と老博士はいった。「なんとなくよそよ 「ああ、モイラだ」とジムはいった。もっと話すべきなのだろうか とかれはおもった。「去年の冬、知りあったんです。家にいて文学そしい感じがした。愛想もいいし、よく喋りもしたんだが、いつも なにかを隠しているようで自分のことは決してしゃべらなかった。 講座のビドスクリーンをつけていたんですがディスカッションにな ポールはいつも彼女といっしょだった。彼女のアパートで暮してい ったんです。ディスカッションがおわっても、・ほくたち、スクリー ンをつけつばなしにしていました。ただなんとなくおしゃべりをしたといってもいい、二人は自分たちの家をもとうと考えていた」 て、それから、彼女に住んでいるところをきいて、それから寮の部空気が冷えこんできたらしい。キーラが軽い咳をした。「思い出 をしナ「こんなことは 屋をたずねました。八月まで家に帰っています」かれはぎごちなく話になってしまったな」とタカムラ博士よ、つこ。 口をつぐんだ。 ずっとおもいだしもしなかったんだが」 「どうなったんです ? 」とジムはつぶやくようにいった。「それで キーラが戻ってきてタカムラ博士のとなりにすわった。「お茶は エドが運んできてくれますって」と彼女はいった。ジムは彼女の顔どうなったんですか ? 」こんどははっきりといった。 タカムラ博士は芝生のほうに目をやった。「彼女のほうが去って かれの顔をただ女性的にしただけのーーー顔を、高い頬骨と大き いったんだよ。理由は話さなかったんだろう。ポールはしばらく沈 な緑色の目を見た。彼女は見返した。その眠はこう訓いている。だ みこんでいた、ひどく無気力になってしまってね、だが立ちなおっ いじようぶなの、ジム ? かれはほほえみかえそうとした。 「ジムといっしょの娘さんを見かけてね、そのひとのことを話してたよ。ジョン・アシェイハッハとわたしがなんとか手をかしてね」 ジムは震えた。ますます冷えこんできた。「昔むかしのことだ いたんだよ」とタカムラ博士はいった。キーラはびつくりしたよう
二人はマリをつかまえ、床に投げ倒した。 くまちがっていたけど、でも愛情からしていたことなんだわ」彼女 「治療はうまくいかないようだ」とネイトは言った。 は彼の方へ歩み寄ってきて、彼の頬と鼻の頭と唇に、そっと接吻し 「あとの手順は省くことにしよう」ダークが応じる。「治してやろた。彼は動かなかった。・彼女はにつこりとして、彼の腕にさわっ こ 0 うとしても無駄だ。望みはない。立たせようじゃないか」 「とてもざんねんだわ」彼女はささやいた。「さよなら、マ マリは注意深く立ち上がった。ダークは言った。「マリ、投票の リ」ドアを通るとき、彼女はふり向いて、言った。「まったくざん 結果、満場一致で、きみを " グループ。から追放する。理由は非グねんだわ。だ 0 てほら、あたしはあなたを愛することができたん、だ ループ的な態度と、とくにケイの装置を破壊するという非グループから。ほんとうに、愛することはできたはずなんだわ」 的行為だ。きみの″グループ″の特権はすべて取り消される」ダー 涙を流すなら、みんなが出て行ってしまってからだ、それまで我 クの合図で、ネイトはマリの装置を容れものから取り出し、修理不慢するんだそ、と彼は自分に言い聞かせていた。だがケイの背後で 可能なところまで減茶苦茶に毀してしまった。ダークは言った。 ドアが閉まったとき、気がつくと、彼の目は乾いたままだった。涙 「友人として忠告するんだが、マリ、性格の全面的再形成治療を受なんか出ていなかった。彼は完全に冷静たった。麻痺していたの けることを真剣に考えてみたらどうだい ? きみは厄介なことにな だ。燃えっきてしまっていたのだ。 っているんだ、わかっているのか。きみは大いに助けが必要なん しばらくしてから、彼は新しい服に着換えて出かけた。まずロン だ。完全にいかれちまっているんだ」 ドンにとび、雨が降っているのを見て、プラーグにとび移った。そ 「ほかにまだ、言いたいことあるか」とマリは訊いた。 こも何か欝陶しく、さらにソウルにとんで、焼肉とキムチでタ食を 「もうない。さよならだ、マリ」 したためた。そしてニューヨークにとんだ。レキシントン街のある 彼らは出て行きはしめた。ダーク、フィン、ネイト、・フルース、 画廊の前で、彼は長い黒髪をもった、おとなしそうな若い娘を拾っ コンラド、クラウス、ヴァン、ジョンヨ、 ニッキ、セリーナ、マた。「ホテルに行こうじゃないか」ともちかけると、娘はにつこり リア ( ラネル、マインディ、 ロイス。そして最後にケイが出て行っとして頷いた。彼は六時間だけ滞在することにして、宿帳に記入し た。出て行きしな、彼女は戸口で立ちどまった。衣類をちいさくまた。二階に上がると、彼女は彼に求められないさきに、さっさと服 るめて、ひっ・つかんでいた。彼女は彼をいささかも恐れていないよを脱いだ。皮膚の青白い、しなやかな体をしている、腹は平たく、 うだった。その顔にはーー・愛情だろうか、憐みの情だろうかーーー奇その上に肉づきのいい豊かな乳房をもり上げていた。一緒に横にな 妙な表情があった。小声で、しずかに、彼女は言った。「こんなると、彼は何も言わずに予備行為ぬきで、いきなり彼女を抱いた。 ことになって気の毒だと思うわ、マリ。あなたのことを思うと、と彼女は燃えて、敏感に反応した。ケイ、と彼は心の中で呼びかけ ても悲しくなるわ。あなたのしたことが敵意から出た行為でないこた。ケイ。ケイ。おまえはケイだ。最高潮の痙攣が予期しないカで とはわかっているの。あれは愛情からしたこ・とよ。あなたはまった彼を揺すぶった。 8 6
話してくれなかったんだ ? 」 名なファニタ・クールスンの変名 ) 共作の『もう一人のイヴ』は、性 転換をテーマにした意欲的な作品で、 r-k & 誌の六三年六月号に掲 「前にはわからなかったのよ」 載されました。 ( 余談ですが、同誌のこの号には、星新一の『ポッコ 「いや、前からわかっていたんだ。きみの母さんは、一カ月ものあ ちゃん』が斎藤伯好訳で掲載されています。日本の最初の紹介で いだ、きみに手伝えとうるさくいってきたじゃないか。手伝いの人 あったわけです ) さて、『恋人たち』から十年を経た一九六〇年代の状況はどうだっ 間は見つかったってきみはいったじゃないか。それなのにだしぬけ たかというと、もちろん前に比べていくらか締めつけはゆるんだもの に家に帰るっていう」 の、厚い壁は依然として存在していました。この二つのすぐれた作品 が、その後アンソロジイにも再録されなかったという事実からも、そ モイラは塀からとびおりて、かれの前を行ったり来たりしはじめ れはうかがえます。ことに、最大の発行部数を誇るアナログ誌では、 る。「すると、一から説明しなくちゃならないわけね」と彼女はい アスタウンディング誌時代からのジョン・・キャンベルの忠実な副 編集長である、ケイ・タラントというこわいおばさんが、青鉛筆片手 に、目を皿にして、いかがわしい表現 ( と彼女に思えるもの ) を、片 「いいやーとかれはいった。もちろん彼女は説明するたろうとかれ つばしから削除していました。そこで作家たちは、もっと自由に書け はおもった。 る舞台を求めて、当時全盛期を迎えはじめた。フレイボーイ誌をはじめ とする男性雑誌に目を向けはじめました。 「いいわ」と彼女はいう。「しばらく前に、家に帰ることにきめた フレデリック・ポールの『ディ・ミリオン』もそうした男性雑誌の の。前もって話しておこうとおもったけれど、でもーーー」 一つであるローグ誌に、一九六六年に発表されました。「いまから千 年後の時代の人間が読んでも意味のあるようなラ・フ・ストーリイを書 「なぜ話さなかった ? どうして ? 」 こうと思い、長篇一冊分のアイデアを二千語につめこんだ」というこⅧ モイラは急に笑顔になった。「わかってないのね ? 前もって話 の短篇は、作者みずからが会心作と呼んでいるのにふさわしい出来ば えです。 したら、あなた、気ちがいみたいになって止めるだろうし、じゃな ・ウ ちょうどこの作品が発表された時期と前後して起こったニュー かったら、まるであたしがひどく悪いことしたみたいな顔をする エープ運動がきっかけになって、さしもの厚い壁も、ついにうち破ら わ。だからいまいうの、そうすれば止める時間もないし。あなたの れるときがきました。七〇年代にはいったいま、アメリカはそれ までの立ち遅れを一気に挽回すべく、性の解放をさけんでいます。 ためをおもってそうしたのよ。でもどっちにしても、同じことだっ ート・ン ハミラ・サージェントの『クローン・シスター』と、ロ・、 たわね」 ルヴァー・、 ーグの『グループ』は、どちらも七二年に出たオリジナル ・アンソロジー『エロス・イン・オー・ヒット』に収録された作品です 「きみといっしょこ 冫いたいんだよ、それがそんなに悪いことなの が、一昔前とは比較にならぬほど表現が自由になったことを物語って ? 」ジムは唾をのみこんだ、哀れつ。ほい声を出したのではないかと います。 ともあれ、における性の探求はまだ始まったばかり。その題材 怖れながら。「きみとはなれるのがいやなだけなんだ」とかれは小 の拡大と内容の深化は、これからの課題でしよう 声でいった。 ( 浅倉久志 ) しいえ、あなたはいつだって逃げ腰だったわ」と彼女はいう。 2
っても静か。北側のあそこをみんなが開拓してからっていうもの、 歩くたびにだれかの体につまずくんだものね。どうかした、モイ 特集 " 宇宙のエロス解説 ラ ? 」 「サイエンス・フィクションの最も異常で重要な特色の一つは、そこ 「ううん」とモイラは小声でいう。 Ⅷにほとんどまったくセックスが欠けていることである」 「三十分まってよ」とイリアサはつづける、「そうしたら食べさし これは・レグマンという人が、性的民間伝承の研究書に書いてい てあげるから」 る一節です。もっとも、レグマン氏は一九四九年以後、どうやらサイ エンス・フィクションとの接触を失ってしまったらしいのですが、そ ジムはその意味をさとった。「いいとも」とかれはいう。ィリア れ以前の状況に関するかぎりでは、たしかにこの見解はあたっている といえるでしよう。アメリカで発達したジャンルは、当初から青 サは木立の蔭に消えた。あの黒人娘はいまだに厳格なマホメット教 少年向きの読物を目ざしていたために、セックスは長いあいだ厳重な の教義の遺物をふるいおとせすにいるので、ウォルトといっしょに タブーでした。スケスケのドレスをまとった美女が醜怪なペムにさら いるところをだれにも見られたくないのだった。いっかの晩モイラ われる、といった類の扇情的な表紙を売り物にしたパルプ雑誌でさ え、本文の中では、あわやべムがけしからぬ振舞に ( その生理学的可 はジムと少し早目に寮の部屋に帰ったことがあった。二人は静かに 能性はさておき ) およ・ほうとする寸前に、殺されてしまうのがつねだ 失礼といって談話室へ出ていったのだが、イリアサはそれからしば ったのです。このタブー意識は、出版社や編集者だけでなく、読者の 側にも強かったようで、マーヴェル・サイエンス・ストーリーズとい らくきまりわるそうにしていた。 うパルプ雑誌などは、エロとサディズムを売り物にする方針で創刊し 「あの道を見張っていたほうがよさそうだね」とかれはモイラにい たところ、読者からの抗議がすさまじく、ついに三号から路線変更の っこ 0 「だれかがきみのルームメートを困らせるのは見るにしのび やむなきにいたったというエ。ヒソードがあります。 こんな閉鎖状況に一つの突破口を開いた作品が、有名なフィリップ ないからね」モイラは肩をすくめ、壁の上にすわりつづけた。彼女 ・ホセ・ファーマーの『恋人たち』です。アスタウンディング、ギャ はまたしりそいてしまった。 ラクシイなどの大雑誌からつつ返されたあげく、ようやくスタートリ ング誌で日の目を見たこの作品が、当時どれだけの衝撃と反響を生ん かれは腹の中のしこりを、ふたたびかれを包みこんでしまった孤 だかは、想像するにあまりがあります。とにかく、大げさにいえば、 独感をのけようとあがいた。なにかいってくれ、モイラ、・ほくをい その年、一九五二年は、セックス・テーマのの紀元元年だったわ けで、それから数えて今年はちょうど二十五年目にあたります。この たずらに悩ませないでくれ。 特集で、その二十五年間の歩みをふりかえっていただくのも、またお 黒い眼がかれを見つめる。「来週、出かけるわ」と彼女は早口に もしろいでしよう。 シオドア・スタージョンの『失われた世界』は、ホモセクシュアル 、った。「八月には戻ってくるつもり、でも母さんが新しいアトリ な愛を描いた最も温かく人間的な作品、といわれていますが、やはり 工を作っているので手伝いがいるの」それだけいってだまりこむ。 その題材の問題であっちこっちの雑誌から敬遠され、ようやく一九五 反応はいかにと眼が見つめる。 ース・サイエンス・フィクション誌に発表されました。 三年にユ一二ハ マリオン・ジマー・プラッドリーとジョン・ジェイ・ウエルズ ( 男 「どうして ? 」とかれはさけびながら、それが悲鳴のようなのに不 名前になっているが、実は『ャンドロ』というファンジンを出して有 意に気づく。「どうして」とこんどはややおちついて、「前もって 0 2