されているもののーーある種の不可能性を含んでいるのである。基を独自の思索にすごした。ときにはそれはただ一冊のすぐれた書を 本的な原理は、宇宙船およびその内部のすべてのもののカの均衡し意味することもあった。 た停止の場を、ある相対的な地点から他へ移動させることにある。 しかも、彼らは囚人護送船を操縦するために選ばれた乗組員たっ たとえば、宇宙船が地球の表面に停まっているときは、それが停また。しかもその航路はほかのどんな宇宙航路よりも長かった。長い っている地表に対して相対的な均衡状態にある。その宇宙船を地球旅行中拘禁状態がつづけば危険であると考えられているのだが、し の中心に相対的な均衡力の中へ投入すれば、それはたちまち地球のかし彼らの記録はいまだかって前例のないほど正確な計測能力と、 表面の自転速度ー。ー毎時約一千マイルーーーに等しい実効速度を与え肉体的心理的な衰弱への抵抗を示した。惑星から惑星へと、飛行は られる。同時に太陽に相対的な均衡力は地球をその就道回転速度で順調につづけられ、各惑星への着陸もスケジュールどおりなんらの ガラクティック・ハプ 宇宙船からひき離す。また銀河の中心に相対的な均衡力は、宇宙船事故もなくくり返された。寄港地に降りると、ルーツはまっしぐら を太陽の角速度で銀河の中心の周囲を飛行させる。この広大な宇宙に歓楽街へ飛んで行って、出発の一時間前までにぎやかに悦楽にふ 間のどんな単純な、あるいは複雑な集団の中心も、宇宙船の飛行にけった。一方グランティはまっさきに連絡事務所へ行き、次に本屋 利用され、もちろん銀河の流動力も利用できる。合成運動もあり、 を探した。 乗法運動もあって、その実効速度は巨大なものになり得る。だが、 彼らはダー。ハヌへの飛行に選ばれたことを喜んでいた。ルーツは 宇宙船は一瞬のうちに力の平衡状態に入って停止するので、慣性の地球に一大センセーションを湧き起こした新奇な楽しみを運び去る 要素はまったくない。 ことを、惜しいとも思わなかった。なぜなら、彼はそれに無感覚な この宇宙船の一つの欠点は、ある起点からべつの場所へ移動数少ない者の一人だったからだ ( 彼ははじめて出会ったとき、「く する際に、精神生理的原因から乗組員をかならす一時的な意識喪失だらねえ」といった ) 。グランティはただうなっただけだったが、 状態にすることだった。この失神期間は多少の個人差があって、おおほかのあらゆる人がそうだった。ラヴァー・ハ ードの驚異の表情は前 よそ一時間から二時間半。ルーツの場合はつねに二時間以上意識をよりいっそう強まっていたが、地球上にいたときの彼らのはげしい 失っていたが、しかしグランティはその巨体に特異な回復力がひそ喜びは消え去っていた。その明白な事実をルーツは気づかなかった んでいて、失神期間を三十分ないし四十分に短縮させた。彼の内部し、グランティはそれについて何もいわなかった。ラヴァー・ ( ード に孤独の時間を絶対に必要とするものがあったのだ。人間はときど たちは後部キャビンの新たに取りつけられた透明なガラスの向う き独りになる必要があるのに、グランティはだれかがそばにいるに、厳重にしかし居心地よく監禁されていたので、メイン・キャビン と、そんなふうになれなかったからだ。しかし、宇宙船が飛行をはや操縦席から彼らの動きがよく見えた。彼らはたがいの体に腕をか じめると、彼の指揮者がプラックアウト台の上に大の字になってのらませ、びったりと寄り添って笑っていた。その触合いの喜びは依乃 びている間、一時間ほどの独りの時間を持っことができ、彼はそれ然として薄らぎはしなかったが、しかしそれは暗いかげりを帯びた
この魔法はトライデオ・で放映された、あらゆる人がトライデオをれは少しずつ自分をめくらにすることによってしか、仲間より上へ 持っていたので、」・またたくまに全地球がそれに魅了された。 昇れない体質になっているからだ。頂上の男は全体の福祉について 7 ラヴァーく / ードは二人だけだった。、、彼らは真鍮のような一条の光非常に強い関心を抱いている。なぜなら、彼はそれを自分の栄達の 芒を発して空からやってきて、丁重にたがいに道をゆずり合いなが源泉であり構造であるとみなしーーー実際そうなのだーー・同時に彼自 ら手をつないで彼らの宇宙船から地上に降り立った。それから驚異身の拡充であると考えているからた これは誤っているのだが。 のまなこで顔を見合わせ、そして、いっしょにあたりを見回した。 ともあれ、この不測の事態に直面して、ラヴァー・ハ ードに対する防 新発見の張りつめた緊張の一瞬が、彼らの全身を凍らせたようだっ御法を探し出そうとして、ラヴァー・ハ ートの映像のマトリクスや座 た。彼らは周囲をとりまいているすばらしい贈物を見たのだーー・・空標を世界最高の性能をほこるコンビューターにぶちこんだのは、そ の色、空気の匂い、さまざまな生物が成長し、会合し、変化するそんな男だった。 の生命力。彼らは一言もしゃべらなかった。ただ寄り添って立って その機械はそれらの記号を吸収し、あちこちを駆けめぐらせ、比 いるだけだった。彼らを見ればい彼らが小鳥の鳴き声の階段を驚異 . 較検討し、各細胞にぎっしりとつめこまれた記憶が沈黙をつづけて にしびれた心の中で登っていることも、太陽の光を静かにむさぼり いる間、様子を見守りながらじっと待った。やがて突然遠い隅の方 食っている相手の肌のぬくもりをたがいに感じ合っていることもわで共鳴音が響いた。機械はその共鳴音を数学で作られた鉗子でつか み、一心不乱に解訳しながらそれをつまみ出して、こうタイプされ 彼らは宇宙船から少し離れると、背の高い方が黄色い粉をそれに た熱気のこもった紙の舌をベろりとのばした 投げつけた。宇宙船は見るまにペ 1 ちゃんこにつぶれて小石の山に なり、それが細く砕けてきらきら光る砂の山になり、さらに目の細これでこの事件の様相は一変した。なぜなら地球の宇宙船はほと かな粉末状になり、ついにはプラウン運動そのものによって自壊すんど妨害を受けずに宇宙間を遠く広く巡航していたのだが、そのわ るほど微細な粒子となって、風に吹き散らされ、消えてしまった。ずかな妨害物の中で確認されているものはただ一つしかなく、それ 彼らが地球上にとどまろうとしていることは、だれの目にも明らか カター ・ハヌだったからだ。この銀河の向う側にある惑星は、地球の だった。それからまた、彼らがたがいの喜びの中にうっとりとひた宇宙船が近づくといつも強力な磁場で身をくるんで寄せつけなかっ った後、彼らの歓喜と驚異の目が周囲のあらゆるものに、地球それた。そのようなことのできる世界はほかにもいくつかあったが、い 自身に向けられたことも、それを見ていた者は一目でわかっただろずれの場合も飛行土たちは、なぜそうするのかを知らされた。とこ ろがダー・ハヌは発見された当初からーー使節が地球へ派遣されるま さて、もし地球人の文明がビラミッドであるとするなら、その頂では 一切を黙秘したまま地球の宇宙船の着陸を拒否しつづけ 上 ( 権力の座 ) にはめくらが坐っているだろう なぜならわれわた。やがて使節がやってきた ( その出来事を記憶している唯一の証
かの作業に従事していた。描写が不十分であり 、、かなる種類の作るぜ」 業をおこなっているのか、この絵から判然としなかったが、つぎの 「そのとおりだ。やつらは、おれたちと同じ目にあったのだ。そし 2 2 絵からある程度理解することができた。そのつぎの絵では、けわして、壊減的な打撃を受けた。その仇を討っために、はるばると遠征 い山のいただきを水平に断ち切ったようなものが描かれていた。下の旅に出たのだろう。たぶんそうだ。この想像は、そんなにはずれ 部には推進装置と思われるものがつけ加えられていた。その上下、てはいないはずだ」 左右に描かれているものは、どうやら星々らしく思われた。 「この島型宇宙船の乗組員のさいごの一人が死んでから、すでに二 問題は、パネルの中心に描かれた、たったひとつの絵がらだっ万五千年たったとしよう。それ以前に、どれだけの距離を飛行して きたものか、それこそ想像もっかんが。ヴァルハラ。その頃からあ それは、星々の間をゆく島のような宇宙船の上に、くしざしにしの《いん石状物質》は活動していたのだろうか ? 」 た二枚の皿のようなものが描かれていた。島ではヤスデがたくさん「同じものが二体描かれているというのは、複製があらわれた、と 肢をちゅうに上げて横たわっていた。かれらは死んだのだ。そし いう意味かもしれない。派遣軍の複製があらわれたようにな」 て、絵の片すみには、思い出したようにまた二体で一組のヤスデが「このパネルの中心の部分の絵よ、、 。しったい何だろう ? 」 描かれていた。 「このいただきの上に描かれている直立した二枚の皿のようなもの パネルは、その中央の絵がらに示された内容を伝えるために残さは、この部屋の中の装置を意味しているのではないだろうか ? こ れたもののようであった。その中央の絵が、結論であり、かれらのの二枚の皿には、外から線がのびている。最初見たときには、これ 意図が、なんらかの理由によって、ついにむなしく終ったことを、 は表面の傷たと思った。しかし、これは偶然にできた傷ではない。 さいごの記録にとどめたかったのだ。 この線は、二枚の皿を持った装置が、外部からやってきて、船内に 「ヴァルハラ。これは遭難の記録だ。この宇宙船は、何かをたずね出現したことをあらわしているのではないだろうか。それによっ て、どこかの遠い天体を出発してきたのだ」 て、乗組んでいた連中も、ついに全減したんだ。さいごまで残った 一人が、この記録を書き残したんだろうよ」 「そうらしいな。その天体では、このヤスデのような生物が、知能 を代表する存在だったのだろう。その生物が、減亡の危機におちい 「かれらは相当ちえのある生物たったようだ。この宇宙もそうだ ったのだ。そこで、探検隊をもって、その原因をさぐらせようとしが、どんな生物が見ることになるかもしれぬ記録だから、文字をさ た。ということだろう。探検隊は、あるいは攻撃隊たったのかもしけて絵にしたのだろう。これが文字だったら、コン。ヒューターを使 れない」 っても、解読するのにたいへんな日数がかかるだろうよ」 「そんなところだろう。ヴァルハラ。この二体で一組として描かれ「この宇宙船を占領した連中よ、、 をしったいどこへ行ってしまったの ているこれをよく見ろ ! この事件は似ているぜ。実によく似てい だろう ? この装置をとりつけると、またどこかへ行ってしまった こ 0
たらーーこ 「ここ」 グランティは首をふって、宇宙図を指さした。ダーパヌは最も近 6 いったいぜんたい何が起きたんだ」ルーツはいまに 「なんだと ? い惑星で、ほかに数千。ハーセク以内に生存できる星はなかった。 も泡を吹いて卒倒しそうだった。 「やつらはダー・ハヌへは行かなかったのか ? グランティは。ほんと胸をたたいた。 「まさかきみは、きみ自身がやつらを逃がしてやったといおうとし「そう」 「ちえつ、きみから何かを聞き出すのは、リヴェットを引っこ抜く ているのじゃあるまいね、えっ ? 」 よりも難しいぜ。やつらは救命ポートでダー・ハヌへ行くかーーそれ グランティはうなずいて待ったーーーそう長くはなかった。 が嫌だったら、何年もかかって辺境の星へ行く以外にないんだそ ルーツは憤然と叫んだ。「よーし、こってり焼きを入れてやる。 十二年間営倉にぶちこんで、腰が立たなくなるまで打ちのめしてや グランティはうなずいた。 るそ。おれの処罰が終わったら、きみを軍へ引き渡す。彼らはきみ 「ダー・ハヌはやつらを追跡して、連れもどすか、射ち殺すかもしれ をどうすると思う ? おい、彼らはおれをどうすると思うか、し ないぞ」 てみろ ! 」 「宇宙船を持っていないよ」 彼はグランティに飛びかかって、横っ面をしたたかに殴った。グ ランティは両手を下げたまま、それを避けようとしなかった。身動「いや、持ってるさ ! 」 「違う」 きもせずただじっと立って待っていた。 「ラヴァー・、 ードがきみにいったのか」 「あいつらは犯罪者かもしれんが、しかしダー・ハヌ国民なのだそ」 「これをダー・ハヌにどう説明すグランティはうなずいた。 ルーツは一息入れてまたどなった。 「すると、やつらが破壊したやつら自身の宇宙船と、使節が使った るつもりなんだ ? これは戦争になるかもしれないことを、きみは 宇宙船しかなかったのか」 知らんのか ! 」 「そう」 グランティは首をふった。 ルーツは大股で歩き回った。「わからん。さつばりわからん。グ 「どういう意味なんだ。何か知ってるんだな。しゃべることができ ランティ、きみはいったい何のためにそんなことをしたのだー るうちに、ちゃんと話した方がいいぜ。さあ、いえーーー・われわれは グランティはしばらくルーツの顔を見つめていたが、やがて机の ダー・ハヌにどう釈明すればいいんだ」 グランティは空つ。ほの囚房を指さして、「死んださ」といった。方へ行った。ルーツはその後をついて行くほかなかった。グランテ イは四枚の絵をひろげた。 「やつらが死んだといったって、うまくいくわけがない。やつらは だれが書いたんだ。やつらかい。きみは何を知 「何だ、これは ? 死んでないのだからな。いっかはまた姿を現わすだろう。そうなっ
青い光の環が、波をうってゆれ動くと、ふたつのレンズのようなまの線描があらわれてきた。 最初は何が何たか、全くわからなかった。やがてそれが幾つかの 物体の間に、白熱の光の波がはためいた。 「いったいこれは何の装置だろう ? この宇宙船のものだろうか絵がらでできていることがはっきりしてきた。絵は全部で十六の小 部分からなっていた。そのどの部分にも共通しているのは、多くの しかし、遠いむかしに減び去り、時の流れの中に朽ち果てたこの関節からなる細長い体を持ち、両側に十数本の肢を備えたヤスデの ような外形の、あきらかに生物と思われるものの姿だった。ある絵 リャーにつつまれ光の波を吐き、はげしく震動してい 宇宙船と、・ハ るこの物体とは、あきらかに異なった存在の様式と、それを作り出がらでは、それがただ一体たけ描かれ、ある絵がらではその大縦列 が描かれていた。 したものの思考の形態の違いをあきらかにしていた。 それはおそろしいまでの相違だった。生と死。存在と虚無。実質それらの絵は、全体としてあるまとまりを持ち、ひとつの流れを 示して配列されているようだった。 と形骸が、ひとつの時間と空間を共有しているのだった。 四すみにある同じ絵が、配列のはじまりと思われた。 「エネルギー源はなんだろう ? 」 「この内部で、ほかにはたらいている所など、どこにもないそ」 その絵には、たくさんのヤスデのような生物が描かれていた。あ 「船体が朽ち果てても、なおはたらきつづけている装置など考えらるものは右を、あるものは左を、そしてあるものは走り、あるもの れない。シンヤ、この部分は、本来の部分とは関係がないのではあは立ち上っているようだった。そこから受ける印象は、極めて雑然 るまいか ? 」 として無秩序ではあったが、活気であり、膨らみやはすみのような 「というと ? 」 ものが感じられた。つぎの絵は、その四すみの絵からななめに、中 心へ向って配置されていた。その絵には、奇妙なことに、ヤスデの 「これは、すっとあとから、もしかしたら、この宇宙船が、ほこり ような生物が、すべて、二体でひと組として、何組も描かれてい と塵の塊になってしまってから、新しくこの船のオーナーになった た。つぎの絵は、さらに中央部に配置されていた。その絵の中で、 連中の作ったものかもしれない」 ャスデのような生物たちは、大縦列を作って、どこかへ向って進ん 「なにものが、なんのためにだ ? 」 でゆくようだった。だが、よく見ると、かれらの体はひどく傷つ 「シンヤ。そのパネルを見せてくれ」 ヴァル ( ラは、シンヤがおびているパネルを手にすると、部屋かき、肢などをそこなわれていた。それは悲惨な負傷者の列であっ た。その行進の目的地はどこなのか ? その大縦列のはるか前方 らもれてくる強烈な光にかざした。 銀灰色の鈍い光沢を放っパネルの表面に掻き傷のように残されてに、一体のヤスデが、あお向けに倒れていた。それが、この傷つい いる白い線描が、強烈な光の直射に、くつきりと陰翳をあきらかにた大縦列のたどった運命を象徴しているものと思われた。 つぎの絵では、ふたたび何十体かのヤスデがあらわれ、熱心に何 した。パネルの角度を、いろいろに変えると、それにつれてさまざ 幻 9
路上に存在しているんだ。つまり、『いん石状物質』のたど「てきそれらの漠々たる星の海を背景に、目標だけは、今や目の前に迫 た軌道上に在るわけだ」 ってきた。 「どうするつもりだ ? 」 「シンヤ。見えてきたそ ! 」 「シンヤ。リーミンならどうするだろう ? 」 ヴァル ( ラは、スクリーンを超現実的な曲線模様で飾っている航 「あいっか ? あいつのことが、そんなに気になるのか ? よかろ星図のパターンを消した。 う。あいつならきまってら。ヴァルハラー ゴー・ア・ヘッドー 「距離二十八万七千八百キロだ。もう少し拡大してみよう」 さ」 スクリーンの映像全体が目の中へ飛びこんでくるように跳躍し ・フル・ア・ヘッド 両舷前進強速 ! 《セファラス。ヒス 1 》は猛然と加速しはじめた。 スクリーンの中央に黒い影が湧いた。 「あれだ」 「小惑星か ? 」 最初の二十四時間が過ぎ、つぎの二十四時間がたった。 「もっと拡大してみよう」 レーダーの反応はいつの間にか正常な = コーにもどっていた。そ急にそれはスクリーンの半分を占める大きさにふくれ上った。 して、少しすっ確実なものになっていった。 「なんだ ? これは ? 」 リーミンからの連絡は全くなかった。かの女を内部に封じこめた けわしい峰のつらなりを、いただきに近い部分で水平に断ち切っ まま漂流をつづけている《ダフネ 3 》の位置も、つかめなかった。 たようなものだった。そして、その下面には巨大な円筒や球、幾つ とくにその方向に、銀河系中心部からの強い電波の輻射があり、ほ かのドームのようなものが複雑な影を形作っていた。それは星々の とんど走査不能だった。 海を背景に、ゆっくりと旋転していた。長径の方向をこちらへ向け ふなべり 船内時間で二十七日が過ぎた。 たとき、それは舷の高いガリア船の如く、い つきに突っかけてく しかし、スクリーンに映し出された航星図上の星々の位置には、 るのではないかと思われた。そのシルエットは、天体としてはおそ 何の変化もなかった。星々の海をゆく宇宙船の航跡は、地球上の大ろしく作為的であり、宇宙船としては悪夢の如く、ヨ ド現実的だっ こ 0 洋をゆく一隻の小舟の曳く水尾よりもはかなく、かすかであった。 光の速さの何分の一かに達するような超高速で、約ひと月もの間、 「ヴァルハラ。宇宙船だろうか ? そうだとしか思えないが」 突進をつづけても、はるかな遠い星々との関係位置も、また、それ「着陸してみよう」 らの星々との間の距離も、全く変らない、と言った方が事実に近「大丈夫か ? 」 「くわしく調べてみたい。こんなものが、太陽系のごく近くに浮游 こ 0 幻 4
うに目白押しにならんでいた。長大な熱線砲をふり立てた。古代のしているのは、派遣軍の兵士たちだった。 恐竜のような戦車は、連合の宇宙兵団のものであろう。ロートダイ シンヤは透明な円筒に宇宙帽を押しつけ、兵士の顔を見つめた。 ンがあった。原子力ジャンポーがあった。宇宙船が横たわり、その かれのひふは色つやがあり、目にもいきいきした光があったが、円 上にカントリークレーンが積み重ねられていた。その種類も量もた筒の中で石像のように直立したその姿は、奇妙に生物とは異なった しかめることができないほどのおびただしい量の器材が、広いホー ものであった。 ルの内部を、足を踏み入れるすき間もないほど、埋めていた。 シンヤは熱線銃をぬき、円筒に向って引金をし・ほった。透明な材 シンヤはその間をすりぬけ、くぐりぬけて走った。 質を溶融した火箭は、内部の兵士の腹を貫いた。すぐ全身に火が回 地球から運ばれてきたものもあった。金星からのものもあった。 った。肉の焼け焦げるけむりが円筒の内部に充満し、熔融した円孔 ゴントロール・ルーム ルナ・シティの原子力発電所の管制室が、そのままごっそりとからはげしく噴き出してきた。内臓が破裂し、筋肉がはじけた。し 運びこまれていた。辺境の大型宇宙船の後半部だけが、大きな魚のかし兵士の表情は少しも変らなかった。その次の円筒も、その次の 死骸のように投げ出されていた。その宇宙船や管制室だけではな円筒も同じだった。広間を埋める円筒の数は、万に近く、さらにと く、ここにならべられ、積み重ねられている器材のどれもが、多少なりの広間も、それに接する広間も、すべて兵士を収めた円筒がす なりとも傷つき、折れ曲り、没孔を生していた。中には黒焦げになき間もなく林立していた。全体でどれぐらいあるのか、見当もっか っているものもあった。それは使用できるものだけをえらんで運んなった。 できたというものではなく、手当りしだいに運んできてそこへ積み かれらはみな、それそれの居た場所とこの惑星をひとつにつない 上げたというだけのものであった。横転しているものもあれば、さだ重力場空間を通って、ここへ運ばれたのだ。 かさまにな 0 ているものもあった。下積みになった地上車は、完全円筒の林を通り過ぎると、シンヤはとっぜん、これまで通ってき につぶれていた。 た広間の何倍もあるような広壮なホールへ出た。 これを運んできたものには、選別する能力はなかったのだ。こと この都が、かって生命を持っていたころ、大会議場か、市民の集 によったら、これらが何であるのか、いかなる用途を持ったものな会場に使われていた場所であろう。中央部へ向「て、すり鉢型に傾 のかも知らないのかもしれない。 斜した床は、その頃、階段座席で埋められていたものにちがいな シンヤは、さらに奥へ進んだ。 入ってきたときと同じようなドアがあり、すでに半壊していた。 その床の中央部に、大きな破孔が開いていた。そこから下層の一 シンヤは、予期していたものをそこに見た。 部がのそいていた。 全身の血が凝結し、血管が張り裂けるばかりに膨隆した。 そこは、この天体の内部たった。 チュー・フ その広間には、無数の透明な円筒がならんでいた。その中に直立眼下の青い薄明の中に、異様な形象の物体が充満していた。ある 227
目も同じ色で鋭い。一方のグランティはのろまで、手はやさしく大るのが原則だった。ところがルーツはグランティ以外のだれとも組 きく、がっしりとした肩はルーツの身長の半分ほどの幅がある。彼もうとしなかったし、組めなかった。グランティにとってはそこが 7 は頭布と繩帯のついた修道僧衣を着るべきであったかもしれない。 つけ目だった。彼はこの連帯関係を理解していたし、二人の間のき あるいは、アラ・フ人のバーヌースが似合っていただろう。彼はそのすなを断ち切る唯一の方法はそれをルーツに説明することだという どちらも着ていなかったが、しかし見るからにそんな感じを与えこともわかっていた。しかし、彼はそんなことをしようとは思わな た。彼しか知らないことだが、言葉や絵や概念や比喩が彼の内面でかったし、また先天的にそんな能力はなかったので、たとえやろう はてしなく渦を巻いて荒れ狂う大吹雪のような状態にあった。まとしても失敗しただろう。二人の独特な連帯は彼にとっては生存の た、彼とルーツしか知らないことたが、彼は書物をどっさり持って問題であることを、彼はよく知っていたのだ。ルーツはそんなこと 、こ。ルーツはそんなことはまったく気にもとめなかった。グランは知らなかった。たとえたれかに指摘されても、そんな考えは頭か ティははじめて話すことを習いお・ほえたころからその名前で呼ばれらはねつけたたろう。 てぎた ( ぶうぶう言うという意味のこの名蔔よ、、、 月をし力にも彼にふさ そんなわけでルーツはグランティに対して寛容な態度を取り、多 わしかった ) 。なぜなら、彼の頭の中の言葉は長い間をおいて一度少甘やかしていた。その甘やかしはグランティの絶対的な信頼性を に一つしか外へ出ようとしなかったからだ。したがって彼はぶうぶ認めていることの暗黙の表示でもあった。一方グランティは、いっ うと鼻を鳴らす声に口頭の表現を濃縮させるやり方をお・ほえなけれてみれば心の中のたえまない無言の言葉の突風にさらされながら、 ルーツを見ていた。 ばならなかった。それがどうしても濃縮しない場合は、何もいわな ・カ / こうした機能の調和やグランテイだけが理解している連帯関係の 彼らは二人とも原始人だったーー言いかえれば、現代人は思索家ほかに、彼らをすぐれた宇宙飛行士にしている第三の付属的な要素 ないしは知覚家であるのに対して、彼らは行動家であった。思索家があった。それは器質的なものであり、宇宙旅行に必然的な関係の は快楽の新しい変化や交換を考え、知覚家は思索家の発明物に対しあることだった。 て反応する役割を演じた。宇宙船はそんな現代人の占めるべき場所反動エンジンはとっくの昔に忘れられていた。いわゆる反動推進 がなかったし、現代人はめったに宇宙船を利用しなかった。 力は運転費を度外視したある種の自爆攻撃用の軍用機などで実験的 行動家はのこぎり歯車装置のラチェットとポールのように緊密にに使用されるだけだった。スターマイト四三九はたいがいの宇宙船 協力し合い、そのような連繋が強力な結合力を発揮するのだった。 がそうであるように、レファレンシアルスティシス ( 相対性均衡 しかし、ルーツとグランティという組合わせは、いわば両者の機械カ ) 装置によって動力を供給されていた。この装置はトランジ 部品が交換できない点において、独特な関係にあった。船長は同等スターのように組み立てるのはごく簡単だが、説明はきわめて難し な条件の下においてはいかなる船員をも指揮できる能力を備えてい い。その数学はほとんど神秘論に近く、その理論はーーー実際は無視
アイザック・アシモフが 最近ニューヨーク科学アカ マガジン七周年記念増大号をお贈 紀予測の講演のニュースが りします。 届いた。ここにその大要を この七年間、界にも大きな変化が紹介しよう。 ありましたが、それを受け入れる側の意 1 宇宙開発について 識にもまたかなりの変化があったように 二〇〇〇年までには、月に 思います。社会全体が、未来を意識しは大規模な恒久的基地が建設な評、 ~ 餮靉・第 じめたことです。 され、火星には有人宇宙船 ( 一第 ~ 〔第 ~ 一第、 ~ 顳挙 それは去年から今年にかけて、科学・ が着陸している。 ) そのほか 技術の未来展望や、それによって否応な 多数の無人観測宇宙船が太 く影響を受ける社会と人間のありかたに 陽から冥王星にいたる全太陽系の探測を れる。また、精神障碍が二十一世紀病と ついてのビジョン論がにわかに盛んにな 行なっているだろう。 なるかもしれない。 ってきたことを見ても明らかです。社会 2 エネルギーについて 4 社会および個人生活について はいま〈現実〉を認識するためには〈未原子炉の建設がすすみ、石炭、石油、水人口増加のため大都会では地下の開発が 来〉という可変要素を組み入れなければ カその他すべての発電所の供給する電力かっての高層ビル建設のようなハイスビ ならないということに気づきつつある。 に匹敵する電気工ネルギーを生みだして 1 ドで進むだろう。日用品は増産とイノ いるだろう。 という、いわば可変要素の文学にた ーベーションによって使い棄てシステム ずさわっているわれわれにとってこれ 3 医学について がより普及するだろう。しかし進歩は同 は、のありかたについて再考するま 人工血管、人工心臓、人工肝臓などほと時に危険をともなう。過密化した大都会 たとない機会でもあるはずです。 んどあらゆる人工臓器が完成しその移植では停電のような事故によってする大災 ( 中略 ) はエンタティンメントでは 手術が実用化している。ただし癌につい 害を起こすかもしれない。また食料問題 ある。しかし、この際エンタティンメン てはまた根本的な治療あるいは予防の技もそうかんたんに解決できない二十一世 トの意味そのものについても、考えずに 術は完成していない。寿命も飛躍的な延紀の難問の一つとなるだろう。唯一の方 はいられないのです。 長はのそまれないが生理的な若さをたも法は人口増加を食いとめることである。 巻頭言 ( 一九六七年一一月号 ) っ期間がのびる結果、人生はより充実し 5 コミュニケーションの発達について たものになる。他方、世界はその当然の 二十一世紀はレーザー技術の開発によっ 帰結として現在以上の人口増加に悩まさ てテレビが飛躍的な発達を遂げる。チャ 眉村卓氏 円 2
牲にしてでも、それを失いたくなかった。 怒った背中に哀願のまなざしを投げた。 しかし、もしだれかがそのことを知ったら、彼はそれを失うだろ 8 グランティの指の間から地球のマトリックス・テープが滑り落ち ードに知られてしまったのだ。 た。彼は不意にそれをずたずたに引き裂いた。地球なんかくそ食えう。ところがいまラヴァー・ハ だ。自由の保守主義綱領みたいに、何もありはしない。機械的な快彼は大きな手を、指の関節がぼきぼき鳴るまで強く握りしめた。 / 1 ドの烈しい心の動きからそれを読むかもし 楽のはてしない選択による奢侈逸楽の文化を支えているものは、、一ダー・ハヌはラヴァー・、 定不変の偏屈な形式を固守する人々や、頑迷なタブーにとらわれてれない。そして宇宙間にそのニュースを流すかもしれない。大きな いる人々や規則に固執し、たとえ計算された堕落の規則であっても反響がまき起こるだろう。そしたらルーツはあまりにも烈しい苛酷 それに従い、上品ぶった言動をひけらかそうとする小心で偏狭な、ロなショックに耐えかねて こうなったら、ダー・ハヌがどんなに腹を立てようと知っちゃいな うるさい人々だ。それらの連中の間には、笑い者にされることを恐 。地球はこの宇宙船がへまをやったことを、裏切ったことを、 れて使わない言葉があり、着てはならない色があり、たとえ身を裂 とにか / 、ラヴァー・、 かれる思いがしても決してやってはならぬ身ぶりや言葉づかいがあ難するだろうが、それもやむを得ない る。規則は複雑かっ絶対で、そんな世界では人間の心は、自由なのに盗み聞きされた致命的な情報を、なんとかしてもみ消すことが先 びのびとした楽しみにひたることが自分をさらけ出してしまうこと決問題なのだ。 を恐れて、決して歌おうとはしないのだ。 もしあなたがそのような楽しみにひたり、抑圧された自己を解放また新たな均衡力の中へ移った。やがてグランティが静まり返っ た船内で意識を回復したとき、まっ先に頭に浮かんだのは「早く決 したければ、宇宙ヘーーー星のきらめく真暗な孤独の世界へーー出か ける以外にないだろう。そしてそこで時の過ぎゅくままに何日かを着をつけなければならないということだった。 ートを見た。まっ 彼は寝台から降りて、失神しているラヴァー・ハ すごし、あなたの堅い殻の中にじっとうずくまったまま待つのだ。 だれもあたりにいないときにーー孤たく無力なラヴァー・、 待っているうちにいっかは こいつらの頭をたたきつぶしてしまえ。 独の意識の目覚める瞬間がやってくるだろう。それは花のようにば で、ルーツにはなんという ? ・ っと開いて、あなたは踊り出すだろう。叫ぶだろう。あるいは目玉 ラヴァーく ードが宇宙船を乗っ取ろうとして、おれを襲ったとい から火が出るまで髪をかきむしるか、あるいはあなたの反時代的な 、つ : カ ? ・ 性格が渇望していた何かほかのことをするだろう。 グランティはそのような自由を発見するのに、生涯の半分かかっ彼はミツ・ハチの巣箱の中の熊みたいに首をふった、ルーツはそん / ードたちがドアを開けること なことは信じまい。たとえラヴァー・、 たのだ。どんな犠牲を払ってもそれを守り抜かなければならない。 たとえ人命を、あるいは・宇宙間外交を、あるいは地球そのものを犠ができたとしてもーーーそんなことはできるわけがないけれども