しがちな日常感覚では、とうてい把握で んかなコントロールなど排除しても、あ学そのものの提灯持ちをするもの書きで きない〈現在〉だからこそ、さまざまの くなき前進をつづけていくだろう、とい はないからである。 しいかえれば作 8 2 多角的な分析や認識が必要になったので うことなのだ。 家は、現実を、科学的に つまり膨大 ある。 - 少なくとも、十年二十年の時間的 そして、こうした、いわば自律的不可 な年月にわたる人類史の中の一時期とし な幅をもって、その幅の中で座標を移し避的な科学・技術の進歩と革新の中で築て、さらには途方もない時空の広がりの かえながら考えなければならない。現在かれていく明日の世界をどうみるか。地中の一点として捉えようと試みる作家だ はそうした時代美意識すら、科学的予測上の天国〈ユ ート。ヒア〉とみるか人間疎からである。従って作家の姿勢に にもとづく現実認識と不可分のものとな外の〈反ュート。ヒア〉とみるか。人々の は、本来的には、オプチミズムも、ペシ った時代なのである。 関心の多くはこの点に集中し、議論の前 ミズムもありえないのだ。 もちろん、その科学的予測は、予測で に、その人が敵か味方かを識別しようと だからこそ、われわれは、未来の〈華 ある限りにおいて可変値である。それしているようである。 やかなイメージ〉を鼻で嗤う者が、じっ は、現在発表されているさまざまの予測 作家は、世間から、前者と見られ は未来に対して慎重なのでも、また、生 が、互いに食いちがい、大きな偏差を持がちである。それも、極端な楽観的ュー 来犀利なるがゆえに未来の可能性を信し っていて、 たとえばガン抑制の時期 トビア論者と見られているようだ。前述 ないのでもなく、じつは現実にがんじが とか核融合技術の完成の時期について の評論家なども、明らかにそれを意識し らめにされているために、たんに変化を は、予測は全くまちまちで、それをみな て発言している。事実、作家たちは恐れ、変革に辟易しているにすぎないこ 首肯すれば、二十年から五十年ほどの誤近頃、正月になると必すマスコミから動とを知っているのである。と同時にわれ 差を認めなければならなくなってしまう員されて明るい未来についての〈おめで われは、未来が、間違っても準天国風の 一般市民としては、むしろ未来ビジ たい話〉をさせられることが多くなって ュートビアではありえず、巨大で、複雑 ョンに混乱をきたすおそれがある、とい きた。だが、すこし熱心なの読者な で、一つ誤れば壮大な自壊作用を起こす う点を見てもわかる。 らばとっくに気がついているように、 怪物的エネルギーのかたまりでもあるこ だが、それは多分それでいいのだ。科クスリー とも、知っているのである。 オーウエルの時代から、英米 学・技術の分野にはつねに未知の領域が そして、あえていうなら、こうした および日本の現代作家たちの作品に モ / ストロシテ 広がっていて、だからこそ過去において は、そうしたマンガ的な科学的楽観主義独自の認識は、未来の怪物性を、コ も、予測しえない変数の発見から幾多の の、単純な肯定や謳歌はどこにも見あた ントロールして、社会的有用性へとフィ 科学的技術的突破が可能になったのであ らないはずなのである。 1 ド・ハックさせる作用をーーー未来の困難 る。それは今後も本質的には変わるま 奇妙なようだが奇妙でない。 さの中で、人間がよりよく自分の生を生 いずれにしろ、いま一番問題なの なぜなら、作家は、科学的方法を きていくためのビジョンを発明し創造し は、科学・技術が、もはや人間のなまは現実認識の手段として用いこそすれ、科ていくための作用をみちびきだす、一つ
されているもののーーある種の不可能性を含んでいるのである。基を独自の思索にすごした。ときにはそれはただ一冊のすぐれた書を 本的な原理は、宇宙船およびその内部のすべてのもののカの均衡し意味することもあった。 た停止の場を、ある相対的な地点から他へ移動させることにある。 しかも、彼らは囚人護送船を操縦するために選ばれた乗組員たっ たとえば、宇宙船が地球の表面に停まっているときは、それが停また。しかもその航路はほかのどんな宇宙航路よりも長かった。長い っている地表に対して相対的な均衡状態にある。その宇宙船を地球旅行中拘禁状態がつづけば危険であると考えられているのだが、し の中心に相対的な均衡力の中へ投入すれば、それはたちまち地球のかし彼らの記録はいまだかって前例のないほど正確な計測能力と、 表面の自転速度ー。ー毎時約一千マイルーーーに等しい実効速度を与え肉体的心理的な衰弱への抵抗を示した。惑星から惑星へと、飛行は られる。同時に太陽に相対的な均衡力は地球をその就道回転速度で順調につづけられ、各惑星への着陸もスケジュールどおりなんらの ガラクティック・ハプ 宇宙船からひき離す。また銀河の中心に相対的な均衡力は、宇宙船事故もなくくり返された。寄港地に降りると、ルーツはまっしぐら を太陽の角速度で銀河の中心の周囲を飛行させる。この広大な宇宙に歓楽街へ飛んで行って、出発の一時間前までにぎやかに悦楽にふ 間のどんな単純な、あるいは複雑な集団の中心も、宇宙船の飛行にけった。一方グランティはまっさきに連絡事務所へ行き、次に本屋 利用され、もちろん銀河の流動力も利用できる。合成運動もあり、 を探した。 乗法運動もあって、その実効速度は巨大なものになり得る。だが、 彼らはダー。ハヌへの飛行に選ばれたことを喜んでいた。ルーツは 宇宙船は一瞬のうちに力の平衡状態に入って停止するので、慣性の地球に一大センセーションを湧き起こした新奇な楽しみを運び去る 要素はまったくない。 ことを、惜しいとも思わなかった。なぜなら、彼はそれに無感覚な この宇宙船の一つの欠点は、ある起点からべつの場所へ移動数少ない者の一人だったからだ ( 彼ははじめて出会ったとき、「く する際に、精神生理的原因から乗組員をかならす一時的な意識喪失だらねえ」といった ) 。グランティはただうなっただけだったが、 状態にすることだった。この失神期間は多少の個人差があって、おおほかのあらゆる人がそうだった。ラヴァー・ハ ードの驚異の表情は前 よそ一時間から二時間半。ルーツの場合はつねに二時間以上意識をよりいっそう強まっていたが、地球上にいたときの彼らのはげしい 失っていたが、しかしグランティはその巨体に特異な回復力がひそ喜びは消え去っていた。その明白な事実をルーツは気づかなかった んでいて、失神期間を三十分ないし四十分に短縮させた。彼の内部し、グランティはそれについて何もいわなかった。ラヴァー・ ( ード に孤独の時間を絶対に必要とするものがあったのだ。人間はときど たちは後部キャビンの新たに取りつけられた透明なガラスの向う き独りになる必要があるのに、グランティはだれかがそばにいるに、厳重にしかし居心地よく監禁されていたので、メイン・キャビン と、そんなふうになれなかったからだ。しかし、宇宙船が飛行をはや操縦席から彼らの動きがよく見えた。彼らはたがいの体に腕をか じめると、彼の指揮者がプラックアウト台の上に大の字になってのらませ、びったりと寄り添って笑っていた。その触合いの喜びは依乃 びている間、一時間ほどの独りの時間を持っことができ、彼はそれ然として薄らぎはしなかったが、しかしそれは暗いかげりを帯びた
なして、ちょっと見渡しただけでも、海 ところで、この問題に関連 外のもの日本のものを合わせると十数冊して、最近興味ある論争が起 を数えるさまざまの未来論、ビジョン論 こった。例の、皇居前の堀ばた顰群懸物 が出版されている。それも今年は、従来の高層ビル是非論争である。 の未来論のほとんどが科学・技術の未来高層ビルが未来の美観をつ 予測だったのに対して、そうした科学・ くるか、それとも高さをそろ 技術の発展が、社会・文化・世界に対し えた標準ビルのシンメトリー てどんな影響を及ぼすかを問う綜合的未が永遠の美観の条件となるか 来論に変ってきたことに特徴がある。 をめぐ 0 て、喧《囂々の論争一 ( 中略 ) が展開されたのだが、その問鷙 最近の科学・技術の飛躍的な進歩が、 題の是非はとにかくとして、 もはやたんなる〈科学知識〉としてでな ぼくにとってもっとも興・味が く、また専門家のあいだの特殊な問題と あったのは、この論争がいわゆる未来派分はある。いや、たいていの人間が、意 してでもなく、一般市民のわれわれの社と現実派のあいだでたたかわれたことだ識的無意識的にこの種の心情に対するシ 会・生活に、大きなかかわりを持ちはじ った。現実派は采来派をーーある評論家ンパシーを持っているはずだ。だが・ほく めていることが意識されてきたからであ は同時に、これが、現実ーーーより正確に の言葉をかりれば・ーー「現在を確実に生 きよごう ろう。 いえば現状ーーーを、確固不動のものと き得ないで未来を論ずる倨傲の徒であ り、未来を楽観し現在に関心 み、未来を、はるか遠くにあって現在と の薄い啓蒙家である」ときめ は無関係なものとみようとする、日常感 つけた。 覚独得の保守性をあらわすものであるこ とにも、気づかざるをえないのだ。 だが、作家であり従っ 現在は、いかに拒否しようとも、つね て未来派に分類されるだろう 左ぼくにとって、この言葉は、 に未来に向かって動いている。しかもそ 」いわゆる現実派の現状維持的のテンポは想像以上に急速なのだ。この 心情を、いじらしいほどによ否応ない技術革新の世界にあっては、現 同 く表わしたものとしかとれな在は流動的可変的にしか捉え得ないもの なのだ。そしてそれこそ、最近の未来論 いのである。確かに、こうし の過熱的な流行の真の理由なのである。 た心情は、日常感覚としてな ら、ぼく自身共感を覚える部既成の。ハランス感覚、とくに現状に固執 同 , 石川喬司氏 203
れが神のみ心にそむいて虫歯を充填したときぐらい。補聴器をつけとを語った。「結婚してくれるかい ? 」と彼はきいた。「水曜日に るより、もっと問題はすくないこれでもまだ気味がわるい ? でね」彼女は小声でいった。その約束は愛撫に似ていた。 は、あなたが次に出会うかわいいポインちゃんをよくごらんになっ て、彼女をドラに見たててみるこ、とだ。遺伝学的には男性であって ドンは背が高く、筋骨たくましく、プロンズ色で、魅力的たっ も、肉体的には女性である人間は、われわれの時代においてもよく こ。ドラの名前がドラでないように、彼の名前もドンではない。し 知られている。子宮内での環境の異常が、遺伝の青写真を狂わせてかし、そのりりしい男性的な印象はアドニスそのものといってよい しまうのだ。違いは、われわれの時代には、それが偶然によってのから、略してドンと呼ぶことにする。オングストロ 1 ム単位による みおこり、よく調べなければほとんど知られることなく終ってしま彼の人格色彩コードは、五二九〇。いいかえれば、ドラの五三一四 うのに対し、ディ・ミリオンの時代には、それが計画的に行なわれよりわすかに青いだけ。ひと目見るなり、二人は直感的にそれを発 るという点である。彼らはそうしたいのだ。 見していた。ということは、二人の趣味や嗜好が多くの点で一致し ているのを意味する。 さて、ドラの話はこれくらいにしておく。彼女の身長が七フィ トで、体臭は。ヒーナツ・バターを思わせるなどといえば、かえって ドンが何をして暮しているかは説明に苦しむーー・どのように金を あなたは混乱するばかりだろう。物語を始めよう。 儲けているかではない、人生に目的と意味を与え、退屈のあまり発 その日、ディ・ミリオンに、自宅から泳ぎでたドラは、輸送チュ狂しないために何をしているかだ。たくさん旅行をしている、とだ ープの水流にのると、たちまち地表に吸いあげられ、水しぶきをあけは言える。彼は星間宇宙船で旅をするのだ。一隻の宇宙船を高速 サル・スタジオとでも呼・ほうか、その前で飛ばすためには、三十一人の男性と七人の遺伝的な意味での女性 げてーーーええとーーリハー にあるやわらかなプラットフォームにとびおりた。「おおっと危が、ある種の作業を行なわなければならない。ドンはその三十一人 ! 」そんなかわいい叫び声をあげ、バランスをとろうと空をつかのひとりなのだ。有体にいうと、彼は随意選択の考慮にあたってい んだが、たまたまそこにいた見知らぬ男にぶつかってしまった。彼る。これは、大量の流出放射線にさらされる役目であるーーー推進シ ステム内の彼の持場ではもちろんのこと、次の段階でのおこ・ほれま をドンと名付けることにしよう。 それは洒落た出会いだった。ドンは両脚を修理してもらいに行くである。そこでは、ひとりの遺伝的な意味での女性が、選択の評価 を行なっており、彼女の評価した選択を実行する素粒子が、量子の 途中、愛などは、そのときの心境からはいちばん遠いものたった。 ところが、何の気なく近道をしようと、海棲人用の到着プラットフ雨となって絶えまなく崩壊している。まあ、あなたにはちんぶんか オームをわたりかけたとき、とっぜん水をあびせられ、われに帰るんぶんだろう。しかし、とにかくそのために、ドンは四六時ちゅ う、軽く、柔軟で、しかもおそろしく強靱な銅色の金属皮膚をまと と腕の中には、今まで見たこともないほど愛らしい娘がいたという っていなければならないのだ。このことはもう前に話しているが わけである。ドンはすぐに、二人がいっしょになる運命にあったこ 0 9
ンネルは大幅にふえ七〇〇〇のチャンネ 。そしてそのひずみは社会そのものを いう小冊子を書き大ベストセラーとして、 ルを全世界に放送できるだろう。ただし破綻に導くのかもしれないのだ。近未来すでに始まっていた未来論出版を・フーム化 この時代の人々はこれたけのチャンネル が、オプチミズムのような安易な精神のしたのも、この頃のことだった。海外国内 を要求するほど退屈しているかもしれな手に負えない、困難で複雑怪奇な怪物でものの未来技術予測、ビジョン論が、毎月 いのだ。 あることは、今のうちにはっきり認識し書店の店頭をにぎわわせた。 ておいたほうがいいだろう。 の繁栄が、こうした傾向に促されて このようにアシモフの予想する二十一 日記マガジン一九六六年六月号 ) 起こったのか、それとも、の流行その 世紀世界は、かならずしも、技術至上主 ものがこうした傾向の一部であったのか 義的な学者や、それをムード的に利用し は、にわかには決めがたい。しかし、その この年が日本界の飛躍の年であった ようとする政治家や、それと気づかすことは石川喬司の指摘する通りだが、それいずれであるにしろ、作家たちが、そ に無邪気に喜んでいる一般大衆が想像すが、未来論プームの始まった年でもあった うした時代背景を敏感に感じとって、直 るほど輝かしくも素晴しくもなさそう ことは、決して偶然ではない。じっさい、 接、間接的に、その要請に応えるーーーある いまふりかえってみると、わが国の いは、その動きに有機的な反応を示す活動 アシモフ自身も、十年ほど前には、こ は、文学ジャンルとしての成長を、未来論をしはじめたことが、マーケットの拡 れとは違う意見を持っていた。その頃彼プームに象徴される、高度経済成長ムー大にもつながったことは確かである。 は、新技術の開発・革新が、人間社会と 未来ムードの中で果したといって過言 その意味では、筒井康隆の路線も、未来 のかかわりあいにおいて、もっと前むきではないだろう。しかも折りから、米ソ小説でないにしても、彼自身の現実認識の の役割を果すだろうと信じていた。それは、月をめざす宇宙開発の最終ゴールに入メトーデという意味で今日的であり、すく が、この十年間に、多くの反証によってって、はげしいデッドヒートを展開してい なくとも、この時期のを、未来ムー 裏切られ、こうした結論に達したのだろた。 ( 事実六七年早々、アメリカのアポロ 非現実ムードの方向へおしやる一つの 1 号と、ソ連のソューズ 1 号が事故を起こ力となったことも、確かだ。もちろん、 科学・技術そのものは、確かに、予想し四人の宇宙飛行士の命が失われるという松左京や、眉村卓たちは、より直接的に、 この傾向に反応して : : : というより、先行 以上の急カープを描いて発達し、進歩し悲劇をさえ生んだのだ。 ) ていくだろう。だがそれが、かならずし政府は明治百年 ( 一九六七年 ) を記念すして、近未来を扱った小説を発表してい もー・ー、オプチミストたちが考えるほど明るため、二十一世紀の日本のビジョンづく た。この時期、小松左京がマガジンに るく輝かしい いわば準天国なみの未りの一環として、一般から賞金総額二〇 0 発表した『極冠作戦』や『計 来世界を創造するとは限らない。むし〇万円の小説・論文を募集するという〈劃画』その他、また他のメディアに書きまく ろ、その異様なまでの発達は、グロテス期的〉な企画を発表した。当時経済企画庁っていた戯画的文明批評コメディーの類は R クなアンパランスを生ずるかもしれな にいた林雄二郎氏が『二十年後の日本』とそれらの端的なあらわれである。
視線を病室のドアへとさまよわせていた。「化学的には、もちろんかり身をすくめると、フアヌーが言った。「ジョン、やらなければ それほど確実なことは言えません。ホルモンは合成的につくられな ならないのです。あなたたちの種族を生きのこらすためにはーー」 ければならないし、脳下垂体の刺激は、かなりの部分が運しだいで「多分、我々は生きのこるべきではないのです ! 」うなるような声 すから。幸運なことに、人間の両性がつくりだすホルモンの量は大で言った。「死んでしまったほうが、きれいに、人間として、そう 量で、わたしが合成のためにテストすることができます。失敗するあるべきものとして死ぬほうが、見苦しくないでしよう。何か、何 という理由はありません」 か偽物のみだらなものになって生存をつづけるよりーーー・それが自然 エヴァレットは異星人をにらみつけ、相手の声の科学的な冷静さではないのだろうかー に怒って、感情を爆発させた。「別のことばで言えば、彼らはただ 「あなたの種族がこの惑星上にいること自体、すでに自然ではあり の実験動物だ ! モルモットじゃあないですか ! 」 ません」 「全然ちがいます。成功するのですから。腺の体系を調整するのに 「それとは話がちがいます」弱々しく反撃した。 は時間がかかり、しかも、その調整は体が自然におこなうのを待っ 「それは、機械の問題です。それに対して、こちらはーーー」 ことになるでしよう。だから、もっと若い、できれば思春期前の被「あなたがたは、自分たちの利用のために、家畜を飼い本来とちが 験者が得られたならばーーー」 う形に繁殖させました。また、結婚を制限し、欠陥のある血筋を断 「なぜティップを使うのですか ? 」胸の悪くなる医学上の問題から種することによって、人類をある一定の範囲に繁殖させてきました 話をそらせ、自分の正気にしがみつこうと、フアヌーのことばをさ えぎって詰問した。「わたしが思うには、ずっと体格のいいコード 「わたしはそれには反対しました ! 」エヴァレットが言いかえし をつかえば、そのほうがーーー」 た。「それとは話がちがいますーーー」 「そのほうカ月ノ : 、台旧しを成長させるのこ 冫ししというのですか ? 「そして、あなたがたの現在の状況もちがいますーーー今までにあな や、とんでもない。残念ながら、骨盤の成長の問題があります。コ たの種族におこったどんなこととも、状況がちがうのです」イキが ードは非常に男性的すぎ、彼の骨盤はせまくて、とても順応するこ 言った。エヴァレットは何も言えずにみつめるばかりだった。偏見 と知性とが心のなかで闘っていた。「部下の方たちにったえてくれ エヴァレットはヒステリー気味の笑いを爆発させた。「男性的するようお願いしました、ジョン。あなたはそうしてくださった。み ぎるって ? これはおどろいた。男性的すぎるなどとは ! 」 んながみずからの意志で決定をくだすのが正しいとあなたは考えた 「鎮静剤があります」異星人の口調は一本調子だった。「鎮静剤をのです 9 ところが、今あなたはそれに反対しています . 必要とするような笑いかたですーだが、エヴァレット の肩におかれ「二人をつれてきたじゃないですかー た手にはかすかに慰めがこめられていた。エヴァレットがすこしば「そう、そのことに感謝しています。いっかあなたは、自分自身に 5 ・ 4
ヨーロッパに見られるような国際作家 会議は持たれたことがなかった。 しかし今日わが国の置かれた特殊な 立場と、わが国文化に対するヨーロッ 、アメリカ文化の複雑な影響等を考 えるとこうした国際的範囲での作家会 議の必要は、とくに昻まっているもの と思われる。 この意味で、そうした国際作家会議 の先駆的あるいは準備的行事として、 この国際作家会議を計画したもの である。 現代は科学・技術を除外しては理解 し得ない科学時代であり、あと三十数 年にして二十一世紀を迎えようとして いる。この時にあたって、文学の未来 を、すぐれた未来ビジョンを持つ一流 の作家たちと共に論することは、 きわめて有意義であるといってよいだ ろう。 この会議によって、ここ数年間とみ に上昇気運にあるの、文学ジャン ルでの確立をはかり、また、ひろい、 国際的視野に立った未来論の、より一 層の実り多い展開を期待することがで きるだろう。 また、東西両陣営の作家と、日本作 家とが一堂に会することによって、こ の会議を、平和問題の足がかりにする ことも、決して不可能ではなく、そうし たすべての点で、ジャーナリズムをふ くむマスコミに、大きな刺戟をあたえ るきっかけになることが予想される。 八月中 ( 下旬 ) 一、期日 一、行事 講演会一回 討論会二回 他に小規模な懇親会・テ レビ・ラジオのインター ビュー等 一、講演・討論のテーマ ( 例 ) 明日の文学としてのの 可能性 未来に対応する思想として の未来論 平和と未来について ー ( 招待者 ) 一、メン・ハ ート・ << ハインライン ( 米 ) アーサー・ 0 ・クラーク ( 英 ) アルカージイ・ストルガッキー ( ソ ) スタニスラフ・レム ( ポ ) ( 全員、出席可能の返あり ) ( 註 ) ート・・ハインラインは、現 〇ロ・ハ 在アメリカ界を代表する作家 で、その作品は読者のみならず 一般読書人にもアビールする。わが 8 っ 4 でもすでに十冊ちかい著書が翻訳 出版され、その知名度はかなり高い。 〇アーサー・ O ・クラークは同じくイ ギリス界の代表的作家であるば かりでなく、すぐれた科学解説者と して世界的に有名であり、その最近 の著書『未来のプロフィル』はわが 国の未来論の重要な資料として広く 読まれている。およびノン・フ イクション ( 未来技術論、天文学書ほ か ) 十冊ほどが翻訳出版されている。 〇アルカージイ・ストルガッキーは、 ソ連界の若い作家層を代表する 作家であるとともに、日本文学の研 究家・紹介者としてよく知られてい る。『源氏物語』などの古典、芥川 龍之介、野間宏、宮本百合子、安部 公房などの現代文学の翻訳がある。 またモスクワの国立出版社のファン タジー部問の編集顧問として、 の普及に努めている。 ホーランド 〇スタニスラフ・レムは、 : 作家というよりも、東独からバルカ ン諸国、ポーランド、ソ連をふくむ 共産圏全域で、現在もっとも高く評 価されている作家で、彼の作品 はつねにベストセラーにランクされ
前列がデヴィッドスン氏と御子息、後ろ は、どうお思いですか ~ いう満足を感じませんか ? 矢それは、もちろんですよ。でも、美は 9 うーん、そうですね、何人かの非常は当社・早川浩副社長 に立派な作家がいる、とは言えます。で 人それぞれによって異なっているもんで す。 も、かなりひどいものだと思いますね。そ うーん、そうですねえ : : : ともかく ーれに私は、前ほど読書をしていなくて、 また″断片″のことをもちだしますけど、 も昔ほど多くは読んでいないんです。そ、 導 自分をさっき言った考古学者になそらえ ーういうことなので、このことに関する意見 とか : : : 御質問に対するお答えはあまりで て、その観点に立つなら、掘り出したかけ らを見ればつなぎ合わせて形にし″美″を 皿きないんです。 町ところで、一般にやファンタ 。 ~ ・ . 、。 ) を ~ 得ようとするでしようね。 あなたの初期の小説のいくつか ジーの作品をお書きになることから、どの は、″スペース・オペラ″といわれるもの ーような美学的満足が得られるのでしよう 、でしたね。そしてに関して言えば、あ なたは真に科学的なものに導かれて作品を それは、自分の書いているものを、 お書きになっているわけではないとおっし 〕どれだけ気に入っているかにかかってきま やっていますが。 叫すね。私がその作品を好きなのは、それが そうです。でも、何か私の解決でき 美しくできあがっているからだし、審美的 ない科学的な疑問にぶつかったときには、 な満足を得るのは、それが好きだからなん 科学者か、その疑問の分野を研究している 皿どちらが先に来るんでしようね、矢″美″は自然の中にもあるし、また、誰かに聞くというのが私の習慣です。昔、 家が建てられていく過程や、女性の姿態に科学的な事柄でアイザック・アシモフに質 に、わ一り・カ - カ : 問したことを思い出しましたよ。私の質問 血そうですね、たぶん : : : 作家も、他もあるんですよ : ・ 町の芸術家と同様、自然の中でのみ完璧な姿そうです、そのとおりです矢野さに答える前に言った彼の言葉が非常におも 皿で見い出される″美″の断片を集めることん。でも・ : : ・あなたは翻訳家ですね、それしろかったので今だに憶えています。彼は ならきっと、非常にむずかしい翻訳の箇所こう言ったんです。「ぼくは君のような科 によって、美を創造あるいは再創造しよう Ⅷとしているように思えるんです。 にぶつかって、最適な言葉を見つけたと学的素養のない人にでもわかるように説明 矢野徹でも、それが全部しゃないでしき、「やあ、あったあった、ほかのどんなしてあげよう」とね ( 笑 ) 。もちろん、彼 よう。そうとだけは言えませんよ。 言葉でもないたった一つの言葉が」とは思が正しいんです。そして注意深く説明して いませんか ? そういう時、やり遂げたとくれました。 どういうことかな : 3
1 てはいささか徴妙な問題なんだ。彼らはその価値を論争の余地あるものと 見なしている、もしわたしのいう意味がきみにわかるならね。もしも彼ら が、社会学の教授連がそれに助言と指導を与えていると考えたらーーー駄目 だ駄目だ、やはりわれわれは実際の問題だけに議論を絞って、ワシントン は考慮の外に置くことにしなきゃならん。そこで訊くが、具体的にいっ て、いままできみの学部は、金をーー・そう、たとえば心臓病研究基金のよ うな金を受け取るに価いする、どんな業績を挙げているかね ? 」 彼はわたしを見つめたまま、放心したように手にした本の角でデスクを 叩きはじめた。 「基礎的な学問というものは、直接の効果をあらわすものではありません ハロウェイさん。ですがその価値は認められています」 わたしは徴笑して、。 ( イプを取りだした。 「よろしい、ではそれを話して貰おうじゃないか。そうすれば、わたしに もその価値が認められるかもしれん」 カスウ = ル教授はこわばった笑みを返した。彼は自分の学部が危機に瀕 していることを知っていた。他の学部は、金主たちに受けがよく、奨学金 かいった形で寄付金を吸いあげる一方、政府や企業と : 一とか特別研究基金と 一 ( 簽研究契約を結んで、それて多くの教授や大学院生を養 0 ている。カスウ = : 一ルは、自分の学部を俗受けのするものにする方法を示さねばならない。さ 、もないと もちろんわたしは、彼を直接には解雇できない。だが、間接 的にそれを行なう方法はあるのた。 彼は本を置き、片手で乱れた髪をかきあげた。 インスティテューショ / 「団 体はーーーっまり組織はですーーー」彼の声はだんだん朗々たる 響きを帯びてきた。多くの大学教授とおなじに、彼もまたなにかを説明し ようとすると、本能的に教壇に立って講義するときの癖が出てくるのだ。 4
Ⅲ平不満を持っているくせに、なかなか腰をする愛好は、明らかに、低級なマンガやマ中国旅行 ( 折から中国大陸では、文化大革 ~ あげて正面きって論争しようとしない相手ンガ的怪獣読みものへの執着とは、質を異命が着々進行中だった ) に出かけ、さらに を、無理にも共通のリングに引っ張りあけにするものだった。・ほくは、現実の日常生九月には、・ほく自身が、西ドイツのフラン るための、最も手つ取り早い作戦行動だっ活の中に、空想の大きなキャ。 ( シティを持クフルトで行なわれる恒例のワールド・プ ック・フェアに、海外出版事情視察団の早 っている、ヴァイタリティに富んだ子供た こ、といってもしし 川書房メイハーの一人として出張を命じら 当の評論家氏は、・ほくの〈メモ〉を読んちには、は、最良の読みものたりうる、 れたため、実現がむすかしくなってしまっ で激怒し、ぼくに速達のハガキをよこしと信じーーじっさい、その信念にもとづい ・て、その中で、・ほくの無礼をなじり、いまて、十数年、ジュヴナイルに打ちこんたのたった。 ~ 知人の弁護士に相談して、・ほくを名誉毀損できたはすだった。ぼくらのそうした信念そしてけつきよく、この問題は、さらに 後をひくことになる。 や努力は、権威主義の児童文学者たちの、 “で訴える準備をしている、と書いてきた。 このほか、この年末には、一九七〇年に ・ほくは大いに笑ったが、これだけではしか偏見にみちた攻撃などで、たやすく潰えて たがない。この評論家一人などどうでもよしまうようなものではなかった。・ほくは、大阪で開催されるこ . とが決定した日本万国 かった。その背後で息をころしている、児この問題を、積極的に拡大する方針をかた博の、さまざまの影響が、界にもおし よせてきつつあった。小松左京は、政府の 童文学界の権威主義者たちが本当の相手だめた。 ぼくは、少年文芸作家クラブにこの問題万国博テーマ委員の一人となっていたが、 ったからである。 ぼくは三菱グループのパビリオンのプロデ 前にも触れたが、じっさい、児童文学界をはかり、日本児童文学者協会とのあいだ ュースを依頼された東宝の田中友幸氏の依 には、以前から、に対する批判ーーーとで、正式の討論会を開くことを提案した。 いうよりは頭ごなしの軽蔑と、非難攻撃のその結果、少年文芸作家クラブからは、メ嘱を受け、その基礎的なアイデアづくりの ムードがあった。それは、一つには、嘗てイハーである北川幸比古、光瀬龍、協会側ためのプロジェクト・チームを編成した。 日本文学全体を蝕んだ明治自然主義が、つからは、古田足日、今江祥智がそれそれ交星新一、矢野徹、真鍋博、それにぼくがメ ねに一歩おくれの児童文学界に、まだ色濃渉委員として、討論の具体的な方法や日時ン・ ( ーとなったこのチームは、すでにこの 年、何回かの会合を重ねて、アイデアを練 Ⅲく残っているためで、およそ日常性や現実などを協議することになった。 だが、これは、けつきよく、さまざまのりつつあった。 性に背反すると思われるあらゆる傾向 こうした雰囲気にも如実に反映している 理由から、ついに実現の運びには至らなか ~ 冒険、空想、科学的思考のようなものに、 ・生理的嫌悪感に近いものを持っていたためった。討論についての話し合いが、専ら協ように、この年から翌六七年にかけては、 会側の意見の調整がっかないで遅延したこわが国にも、世界の先進国で高まりつつあ ・の、一種のアレルギー症状であった。 にもかかわらず、現実には、読者ーー・つとが第一の理由だが、そうこうするうちった未来論プームが、押し寄せてきたので まり子供たちは、を、事大主義的な大に、この夏から秋にかけて、クラブ側委員ある。 人の妨害を排して好んだ。良質のに対の一人だった光瀬龍が前から予定していた