そう呼びうるものならばーーのくしやくしゃな顔はじっと目をねむやら全部だった。魅入られたように、目をはなすこともできずに見 って、瞑想にでもふけるさまに見えたが、しかし、ルーたちのかく守りつづけながらルーは、毎夜たしかに違う一群に出くわしている れひそんでいる地下室の前を通りすぎようとしたとたんに、くわっということをしびれた頭で思っていた。 とその目が見開かれた。その目は大きく、そして赤く燃えていた。 してみると、かれらはいっこい、 このこちらがわの世界にどのぐ ルーは、その目がたしかにコンクリートの壁をつきぬけてこちらをらいの数、いるのだか、知れたものではない。しかし、ル 1 の心を 直視した、というそんな恐怖に、全身が冷たくふるえだすのを感じ痺らせているのはそのことよりはむしろ、それだけのあいだこうし て次々に別の一群をやりすごしてきて、その中に、まったく同じ症 この一隊の中で特に目をひいているのは、その水頭症のひとり状がほとんど見当たらない、という事実だった。 と、それから、列のあとの方を奇妙に傲然としたようすで大股につ 冫。いったい何通り ( 神よーーー人間のグロテスクな戯画の描き方こよ、 いてゆく大柄なひとりだったろう。そちらの方は、遠目でみて、たの方法があるといわれるのですか ) しかに右手の指が二、三本、左手に到ってはさらに通常よりも多そ まるでそれは、狂気に陥った神がそのルーの疑問に応えようとし うではあったものの他には別に、からだっきには変わった点も見らてみせたかのような光景だ。かれらはことさらに、同じ症状、ある れないように思われた。 いは同じ程度の症状のものが集って群をつくる、ということでもな だが、彼を瞠目させたそのひとりの顔はーーー丸く高い額の上に、 く、ただたまたま近くにいたどうしがいただけの数で、きわめて自 小さくひからびたもうひとつの顔がつみかさなっていたのである。 然に群がり、そしてあの目的もない行進と立ちどまったときのあの そして、その上のほうの顔には、額のまんなかに三つ目のきらきら合唱をしつづけているらしい と輝く眼がぼかりと開いていた。 いまルーの目の前を通りすぎてゆく黙示録の死者たちは、あの奇 その顔のおかげでかれはひどく長身に見えたのである。おお神妙な、・ハランスのとれた不均衡とでもいうべき足音をひきずりなが よ、再びルーは考えた。五つの目で見る世界よ、 をいったいどんなふら、角を曲がって消えてゆきつつあった。 うに見えるのだろう。一眼国では二眼が王様、という笑い話をいっ ルーはしばらく・ほんやりとしていた。その光景は何度みても彼を か田村が、まだ正気の方がつよく残っていたときに、教えてくれた魅了し、そして、云ってもしかたのないようなさまざまの思念をわ ことがあった。それならば、二つの頭に五つの目、あの生きものきあがらせた。しかし、また、彼はふいに目がさめたようにして目 は、この宇宙すべての王たりうるというのだろうか。 をまばたいた。 二頭児のあとに、一組のシャム双生児と三本足の、顔立ちは恐し「おい、先生、やつら、行っちまったそ」 7 いくらいにととのった男の子が腰から下のないほっそりした女の子・ほーっとしたようすで、暗がりの中で上体をゆらゆらさせている の腕を両側に天秤棒のようにかついで続き、それでこの一群はどう田村の肩をつかみ、あわただしくささやく。
ネル、ポイスコールサイン、航法支援、天候と視界、搭載武装 : 「攻撃しますか」 打ち合わせを終えるこゑ雪風の仕度も完了する。耐スーツを「対空戦闘用意」 つけ、後任のフライト・オフィサーと一緒に雪風の機体点検。乗り フライト・オフィサ 1 は電子妨害と対電子妨害除去の点検。 ' 零は 込み、 = ジ = クシ ' ン・シートとインテリア類のチ = ック。点検項ストア・コントロール・パネルを見る。 79 、 目は山ほどある。 エレベータで地表に出てプリスタート点検。キヤノピを下ろす。 ーーー対空兵装は完全装備。 = ンジン・マスタースイッチ・オン。地上支援機により = ンジン始上昇を始めた、と後席。上にマークが出ていゑ「第一 動。回転計が上がる。スロットルを入れ、点火。アイドルにもどし種射程距離。敵機八、距離二百五十、正面、接近中」 て各種点検。調節。外は雨。 パルス・ドップラー ・レーダーが高速移動するジャムをとらえて ミサイルシーカー点検、外部武装グランド・セイフティ・ビンが いる。零は外を見る。肉眼では機影は見えない。サイド・スティッ 引き抜かれる。安全装置解除。「グッド・ラック」・フッカー少佐が クにあるミサイル発射レリーズを押して、火器管制コンビュータに 機体に接続していた通話ジャックを外す。・ ( ーキングプレーキ・オ攻撃してよしのサインを入れる。の判断により六発の長距離 フ。滑走路へ向う。 ミサイルが全部同時に放たれた。振動。白い航跡が目に見えぬ敵に 発進してよし。プレーキをはなすと前縁スラットが伸びる、瞬向って伸びてゆく。妖精が見える、ふと零は思った。 間、スロットルを・アフター・ハーナに入れられた雪風は弾か : 3 、つ、 上の数字が減ってゆく。ミサイル到達時間。 れたように前に出る。 / ズル全開。離陸。 1 、 0 上はいつも晴れだ。プラッディ・ロード が暁の光に色を失うこ「命中四、不明二 : : : 敵機三、なお急速接近中。二手に分かれて攻 ろ、雪風は第一飛行戦隊と合流する。 撃態勢」 噌戒管制機の敵機発見の知らせで第一戦隊機はアフター・ ( 1 ナに敵のミサイル誘導波を感知した警戒レーダーが警報を鳴らしてい る。 点火して飛び去る。雪風は戦闘空域の外縁を大きく回る。 「敵機」フライト・オフィサーが告げた。「十時の方向。低空を高雪風は増槽を切り離す。 速で接近中」 零はレ 1 ダー・モードを空対空のルックダウンに入れ、探す。デ イスプレイ上にプリップが八、八機か、八機編隊。コンビュータが 目標データをはじき出す。敵、速度、高度、加速度、接近率、脅威 の度合ーー「足の長いミサイルは持ってないな」 4 5
それはルーに、アリの群やそんなものを思い出させた。かれらはているはずだ、というのも、数週間まえにルーたちが偶然その死に あたかも、それそれの意志によって全体の一部たることをたえず選行きあわせた普通人の男が云ったことにすぎなかった。 び直しつづけている集団、とでもいったようにみえた。それとも、 その男は三十ぐらいだったがもう頭はまっ白になり、そしてひど かれらを動かしていたのは、普通人には知りえない、何かの原初的い病気にかかっていた。ルーたちが行きあわせて彼にもっていた食 な本能だったのだろうか。だがそこには少なくとも意志があった べ物と酒をわけてやると、彼は神のみ恵みがかれらの上にあるよう それは奇妙なくらいに欠落の実感、何かが不足しているのだがまずに云い、そして、元気になったらすぐ東へむかって出発するのだ、 その何かとは何なのかを探さなくてはならない、という焦燥にあおと目を消える前のろうそくさながらにきらめかせて云ったのであ りたてられた意志であるように思われた。 る。それまで、絶望にかられてこの不具の世界をほっつき歩きなが ルーは田村の袋をもってやり、老科学者の腕をつかんで、空きビら、ルーたちは、すでにすべての場所、すべての国で秩序と平和は ルの地下室から忍び出た。いつの間にか、夜でさえその昏さを喪最終的に失われ、普通人たちはかれらによって一人づっ駆逐され、 、何がしかの寄形、異常、にその空を汚染されてきたような気がそしてルーたち二人の運命もまたそうなるのを待つばかりだと信じ する。華やかに夜を飾りたて、あるいは攻撃的に闇を駆逐しつづけていたのだった。 てきたイルミネーションと街々のあかりが消えはてたのちに、そこ「逃げ出しに間のあった連中はパスや船や、あらゆるものを仕立て て東へむかったんだ」 に生まれ出たのはふしぎな匂いのある白夜のたゆたいだった。 闇に身を隠させてもらうことはそれゆえ望み薄だ。ルーはかれら ルーたちが出会った男は説明した。彼は警官で、それもごく忠実 の習慣からして、一夜の内には一定のコースをまわり、二度同じ道に民間人たちの避難の後そなえをつとめすぎたために、気づいたと を通ることはまず九割がたないことを一応知ってはいたが、周到にきには、かれらのまんなかに一人とりのこされてしまったのだっ あたりに足音も、人影もないことをたしかめてから、三日三晩をした。 「政府はさいごまでそうは発表すまいとしていたが、われわれはみ のいだビルの残骸を見すてた。 道を東にとる。むろん、はっきりとそちらが目的地であるとは断んな、これはベストやコレラみたいな伝染病で、しかも遺伝するら 言できない。そもそも、東に向かえば壁がきずかれ、常時銃をもっしいと噂していたよ。だからあの殺しあいがはじまったとき、目の た普通人たちが警戒してかれらを寄せつけないようにし、そしてそきくものは、連中を殺したり、始末するよりもまず、とにかく連中 の壁の向こうにこそ、これまでどおりの懐しい現実、災厄にも、破をしめ出してしまうことだと悟ったんだ。それで、みんなが一せい 滅にも、決してついえ去ることのない強固でささやかな日常、人びに逃げ出したーーあんたたちは、いったいなぜ、・ ( スに乗りおくれ とはオフィスに出かけ、デートや商取引の約束をし、そして五体満たんだ ? 」 「おらあ船に乗ってたんだ」 足な子を生んでそれを育てている、安定した平凡な世界がびろがっ 209
世→界 S F 情報 次点日マイケル・ウェールン ・その他の賞など ・ヒューゴー賞決定ー 〈ベスト・ エデイター〉ペン・ポーヴァ ヒューゴー、ネビュラほどの知名度はな この八月二三 ~ 二七日にかけイギリスの次点日エド・ファーマン いが、今年も恒例の賞がいくつか決まって プライトンで第三七回世界大会 ( 愛称〈ベスト・ファンジン〉レビュー いるのでお知らせしよう。 シーコン ) が開かれたが、今回は日本から次点日マヤ 〈ベスト・ファン・アーチスト〉ウィリア も柴野拓美氏が参加されたので恒例のヒュ まず前年の最優秀作品に贈られるとい 1 ゴー賞の結果も例年より早くお知らせすム・ロツッラー う″ジョン・キャンベル記念賞″ ( くり返 次点ジム・・ハーカー ることができそうだ。 〈ベスト・ファン・ライター〉ポプ・ショすが、これはヒューゴーと同時に発表され ウ 〈ベスト・ノヴェル〉「ドリームスネーク」 る最優秀新人賞 ( 前項参照 ) とは何の関係 もない ) だが、今回はマイクル・ムアコッ "Dreamsnake" ヴォンダ・マッキンタ次点 " ディック・ガイス ィア 〈ジョン・・キャンベル賞 ( 最優秀新人 ) 〉クの「グロリアナ」 "Gloriana" に決まっ た。この作品は発表時から非常に評判がよ スティ 1 ヴン・ドナルドスン 次点「白いドラゴン」 "The White Dra- く、ヒューゴー賞、ガンダルフ小説賞、英 gon" アン・マキャフリイ 次点ジェイムズ・ g-q ・ホーガン 〈ベスト・ノヴェラ〉「残像」 "The Pe ・〈ガンダルフ賞 ( 幻想小説巨匠 ) 〉アーシ国幻想文学賞、世界幻想文学賞、ガーディ rsistense Of ~ 「 ision" ジン・ヴァ ュラ・・ルグイン アン賞と軒なみ候補にあがっている。 リイ 次点いロジャー・ゼラズニイ 次点「ファイアシップ」 "Fires! 】ー望ジ 〈ガンダルフ小説賞 ( 幻想小説 ) 〉「白いド ヨーン・・ヴィンジ またオーストラリアの賞 ( デイトマ ラゴン」アン・マキャフリイ 〈ベスト・ノヴェレット〉「狩猟月」ま Hu ? 次点「混沌の宮殿」 "The Courts of ーズ ) も決った。長篇だけ述べると ter's Moon 当ポール・アンダースン Chaos" ロジャー・ゼラズニイ 国内長篇「愛する息子」 "Beloved So ・ンヨ 1 ジ・ターナー 次点「ミカルの歌鳥」 "Mikal's Song ・ bird" オースン・スコット・カード 一言でいって女性作家の健闘ぶりが目立海外長篇「白いドラゴン」アン・マキャ フリイ 〈ベスト・ショート・ ストーリイ〉「カサったということだろう。地元のイギリス陣 ンドラ」 "Cassandra" O ・・チ = リイはあまりふるわなかったようだ。なお、念ターナーの作品は今年英米でも出版され 次点「時を告げる時計を数えよ」 "Cou ・のためつけ加えておくと向うのファン・ラ話題を呼んでいるもの。 nt the Clock that Tells the Time" イター ( アーチスト ) というのは、″ファ ーラン・エリスン ンダムに関係した者すべて″を含む。だか ら、ファンジンにプロ作家がコラム・小説もう一つ、評論書関係に贈られる″ビル 〈ベスト・ドラマ〉「スー。ハ 次点「ヒッチハイカーの銀河ガイド」類を書けば当然その作家はファン・ライテグリム賞″というものがあり、これはダル "The Hitchiker ・ s Guide to the Ga- イングしたことになり、今回のようにプロ コ・スーヴィンの「のメタモルフォシ 作家のポプ・ショウが受賞しても全然おかス」 "Metamorphoses of Science Ficti ・ laxy 。に決っている。 ( 安田均 ) 〈ベスト・プロ・アーチスト〉ヴィンセンしくないわけである。 ト・ディフェイト
ト梁恵子 諸君は一つの先入観を捨てねばならない。 どになる。しかし、農業をはじめ様々な面にと雨がもたらされるはずだ。医学呪術では、 世界はめったに変化しない、と感じるのは錯影響を及ぼす気象庁には、エー 丿ト中のエリ 泥人形を手術する事で病人を治す方法が、い 覚だ。この錯覚に、ニセ予言者やデマがづけ ートでなければ入れない。 くつかできていると言うのに、天気予報をし 込む。異変が起こるという予言は、はずれる うらやまれてしかるべき私の地位。だが、 ているなど、時代遅れもはなはだしい。 ことがないからだ。それ故、呪術者に求めらここでやらされた事ときたら。ナマズやカエ ところが、気負って気象管理研究を申し出 れるのは正確さ、どのような異変がいつどこ ルや三毛猫の世話、蜂の巣を突っき、骨を焼ると、上司はあっさり拒否してくれた。 で起こるのかだ。 いてひびを調べ、棒を倒し、ゲタを放り上「わからんかね。大きな対象を調べる事が大 予知自体は観察に基づく消極的呪術だが、げ、即ち、観察と記録と肉体労働だ。神経も切なんだ。我々は多くの細部を手に取って見 積極的呪術をどう介入させるかの判断に、重体もぐだぐだに酷使されている。 られる。それに対して、模型で大ぎな対象を 要な情報を提供する。注意しておくが、積極この献身は報われない。予報は当って当操作するには、危険が伴なう。常に予期せぬ 的呪術が働いている間は、予知の正確さが低然、はずれようものなら世間様が怖い。知っ細部が問題となる。君は必要な細部を全て把 下する。細部の解釈を、最も慎重にやる時だ。 ているだろうか。「気象庁気象庁気象庁」とんでいると、確信できるのかね」 呪術大学予知学講義より 唱えると、悪い物を食べても中毒しない、つ「今はまだ研究を始めてもいませんから、確 まり、当らない、と言われている。ひどい中信はできません。しかし、予知には限界が多 私は五年前、卒論「模型共感呪術における傷だ。横丁の雨が何時何分に始まるかまでをすぎます。いずれ気象管理の時代に : : : 」 現在の限界と可能性」で高い評価を受けて呪詮索しては、非難するのだから。 「ああ、君の論文は読ませてもらった。だ 術大学を卒業し、気象庁へ入った。呪術革命こんなつもりで気象庁へ入ったのではなか が、現実は理論より複雑だ。呪術は万能でな によって、科学の上を行く技術となった呪術った。天気予報だけなら、呪術的才能に乏しい事を忘れてはいかん」 だが、呪術的才能は少数に限られ、呪術大くとも観察力があればよい。気象修正も、長「そこで研究が必要なのだと思います」 卒、それも優等生となると、どの職場でも歓雨の雲を払ったり、旱魃に雨乞いをするだけ「今はだめだ。もっと多くの基礎を積み重ね 迎される。呪術者は、肉体と精神の治療、過とは情けない。な・せ気象管理をやらないのだ。てからだ。君は若い。待ちたまえ」 去の追跡、小規模の予知、隠れた物の発見な土地の模型を作り、呪文をかけて本物との間 尊大な石頭め。呪術革命以来、保守的にな どができ、呪医、警察等の捜査官、資源調に共感をさせ、日光の代りに電燈の光、雨の ったと言われている社会だが、この時、お前 査、各界の顧問、またおそらく産業スパイな代りに如雨露で水をやる。これで、本物の光もか、という激しい反発を感じた。自信がな ・今月の入選作・ 「気象庁予報呪術官」 2 9
りは大きな屋根だ。射し込む日がまぶしい。電源車、動力用地上支 えの名だ、零」 「おれは余計者として生まれたんだ」コーヒーメーカーの前に立っ援機、消火車が静かだ。 二人は滑走路へ通ずる側ではなく、裏手へ出た。草原が青い。か たまま、零は振り返らなかった。「おれが生まれてすぐ両親は別 れた。育ての親は。フロだったよ。同じような子供が何人もいた。実なり向うに、とはいえたいした距離ではない、せいぜい五百メート ル、のところから深い原生林がはじまっている。フェアリイが正式 に幸せな毎日だった」 な陸軍を持たないのはその森があまりに頑固だからだと零は聞かさ 「気の減人る話だな。何時だーー五時か」 上に出てみないか、ジャッれていた。もっともだと零は思う。 「一六五八時であります、少佐。 三機の空中哨戒任務の迎撃機が轟音をひきつれて編隊発進してい ク。もう三週間も日の光にあたってない」 った。少尉と少佐は収容庫屋根の作る影から逃がれて日のあたる所 「よかろう」少佐は言った。「許可する」 に出ると、草の上に腰を下ろした。フェアリイの小植物たちはやわ プリーフィング・ルームを出た二人は、対面壁にあいている大き らかく、弾力があり、ちくちくしたところがまったくなかった。色 なエレベータ坑口に向った。エレベータは四基ある。いちばん近い 三号基まで、牽引車や整備用タラ , プなどをさけて、百メートルはは緑だが青みが強く、中には紺色のものもあ 0 た。折ると菖蒲のよ うに香った。 ある。二人とも黙って歩いた。ここには人間専用の地表行はない。 「風がうまい」零は深呼吸する。「フィルターを通した空気とは違 少佐は・フーメランを手に持っていた。 零は壁にかかっている三機のリモコン・ポックスのうちの一つをう」 ・フラッディ・ロードが見えんからな。・どうも不吉で好 「昼はいし 取り、その箱の上部にカードを差し入れて作動状態にし、広い エレベータ・フロアに入った。さあ行こうと少佐が言った。奥行一一一きになれん」 「あんたとは思えん言葉だな」 十、幅十八メートルの大きな床が上がり始めた。見上げれば垂直に ・フッカー少佐は腰の大きなナイフを抜き、手にした・フーメランの 伸びる帯状のパネル照明が美しい。床は途中で一旦停止し、天井の 隔離壁が開くのを待つ。地上までにこんな扉が三枚あり、各々のレ翼形を測るように見ると慎重に削り始めた。「人間の直観は」と手 ベルを気密に保っている。 = レベータの動力システムもそこで切りを休めず少佐は言った、「精密ではないが正確だよ。めったに故障 : ・、ツクアツ。フする。階しない」 換った。故障時には他のレベルのシステムカノ の中間には独立動力系統を持っ緊急用シャッターもある。対火、対飛ばしてみろと零はうながした。少佐は削りくずを吹くと、立 爆、対汚染防御壁である。最後のレベルでは床とともに周りの厚いち、慣れたきれいな動ぎで・フーメランを投げた。わずかに雲のかか 壁も同時に押し上げられる。動きが止まり、巨大なコンクリート直った午後の晴天に、かすかな風切音をたてて・フーメランが舞った。 方体の穴から出ると、そこが地表だった。収容庫の内。庫というよ・「返ってこない」大きく輪を描いた木片は十四、五メートル先に落 5 4
十八世紀の仏爾納を飛び立った飛行艇飛行艇が到着したのは一九九四年の五月四れの階が電梯でつながっているその鉄塔 の頂上には電視用のアンテナが設置されて は、二十世紀の北京までの四十二時間の航日であった。 おり、最上階は気象台、商店、レストラン 青く澄みわたった空からは明るい太陽の 程を開始した。この暇な時間を利用して、 私は一九九〇年代の社会主義中国を理解す光が降り注ぎ、穏やかな春風は限りない生となっているようだ。私は北京の街を歩き るのに役立ちそうな本を読んでおくことに気をまき上げているようだ。見慣れた竜潭回るのはやめてこの塔に登ることにした。 頂上から一望した北京の街は昔の面影を 湖の周囲には湖に沿って曲がりくねった周 した。 飛行艇の中にある広々とした閲覧室で書遊散歩道が作られ、その両側に植えられたす「かり失 0 ていた。北京よ、いつの間に エンゲルス こんなに美しく変ってしまったのか。故宮 庫から探し出してきた恩格斯の『反杜林ビロードのような芝生と深紅の花が鮮やか 建築や天安門広場は三十階建や四十階建の なコントラストを描き出している。 論』を読み進むうちにふと重大な事に気が 高層建築に取り囲まれ、深い谷間のように さざ波を立てる湖面ではたくさんのポー ついた。恩格斯はこの本で法国の啓蒙時代 なっているではないか : トが舳をそろえて疾走している。そうかこ を次のように説明していたからである。 高層建築の建物の間にはまるで緑色のし 法国の革命の為に人々を啓蒙した人れは北京市の共青団のみんながポート大会 ( 訳註 2 ) ゅうたんを敷きつめたように都市公園が広 物たちは根本のところで非常に革命的であを開いているところだ。観客は散歩道にも った。彼らは外界の権威を認めようとせ溢れ、応援の喚声や拍手そして笑い声が大がっている。すっかり変貌した北京のこの 壮麗な姿に私は心から魅了されてしまい、 空一杯に響きわたっている。 ず、宗教、社会、国家制度を理性の法廷に ひきすり出し批判を試みた しかしなんといっても大きく変化したのもう少しで今回の北京来訪の任務を忘れる ところだった。実践法廷の取材を始めなけ 国際航空局の電脳は間違ってはいなか は皆の服装である。かっての標準化、系列 った。理性法廷はほかでもない、専制主義化といったものはどこにも見当らず、スタればならない。 ( 註 ) ヴナルテール 地上に降りた私は自動街道伝送帯に乗 や宗教に非情な批判を加えていた伏爾泰やイルは新鮮味溢れ、色彩も豊かになってい モンテスキュー 孟徳期鳩たちの心の中にしつかりと存在し ゑ特に若者や子供達の格好ときたらそれり、前三門大街と正義路の交差するところ にある北京市人民法院を訪れた。ところが ていたのだ。 それ個性的に着飾っており、満開の花のよ うなその華やかさは山の緑や湖のきらめき入口で光明日報の記者証を提示された法官 私は閲覧室の椅子の背に寄りかかりなが は怪訝そうな顔をして私の顔と記者証を繰 と良く似合い、輝いているかのようだ。 ら気分が落ち着いてくるのがわかった。こ り返して見ながら言った。 れでもう十八世紀の法国に戻って理性法廷 湖の南側を見ると天安門から殆遠くない 「現在、光明日報はありません。これは昔 を探して歩き回る必要はなくなった。四十あたりに三百五十メ 1 トルはあろうかとい 一一時間の航程が終り、北京市内の竜潭湖に う九層の鉄塔がそびえ立っている。それその記者証です。これを御覧なさい」 フランス エンゲルス フランス フランス はんデュー リング エレ・ヘーター テレビ
うちに、彼らの屋敷の前までやってきた。 二十二年の時間路程も跨越しなければなら は、真理は宗教に扼殺され、科学は神学に 周囲は落ち着いた緑に囲まれ、涼しげな ない。この飛行艇がいくら想像を絶するよ 屈服せざるを得ない。 音をたてながら山から流れてくる渓流は屋 うな高速飛行が可能たといっても、今回の 法廷を出ようとしてふと頭上を見上げる 敷の池に注がれ、庭の花壇からはうっとり と、正門の上に大きく黒い字で文字が刻ま路程は二十四時間たつぶりかかる。 させるような甘い香りがただよってくる。 れていた。 何という静けさだろう。陰欝で何もかも 国際航空局の電脳は理性法廷を訪れる 《聖書、これこそ我々の法廷の真理》 ためには法国の首都・巴黎ではなしに仏爾が抑圧された羅馬の宗教法廷から、一足飛 フランス びにこんな馥郁たる香りに満ちあふれる世 納へ行かねばならないと指示していた。 一「十八世紀法国の理性法廷 しかし、一七五五年の仏爾納には豪壮で界にやってきた私は心が段々と穏やかにな ってくるのが解った。不合理な裁判に立ち 羅馬宗教法廷の野蛮な行為を眼のあたり威圧的な理性法延の建物があるわけではな デイドロ かった。そのかわりここには六十一歳になあい神経が高ぶっていた私は、狄徳羅の勧 にして、私はしばらくの間平静に戻れなか フェルネー ギイドは ヴォルテール ウル・ハズス めもあり二日間のんびりと晩春の仏爾納の る伏爾泰を長老として、狄徳羅や盧梭とい った。目が醒めると教会の尖塔や烏爾班八 自然の中で休養をとらせてもらった。 った数多くの高名な″理性法廷″の判事が 世の肖象画が無遠慮に目に飛び込んでく モンテスキュー ガリレイ 三日目にやってきた狄徳羅は私を午後か る。眠りについたら夢の中に伽利略の姿が集まっていた。あの人望の高い孟徳期鳩男 現れる。私はこの宗教専制主義の汚れ切 0 爵もこの時丁度伏爾泰の招待を受けてこのらの哲学談話に一緒に参加しないかと誘 0 た空気に徐々に窒息させられていくのがわ仏爾納に滞在していた。そこで私はしばらてくれた。 フランス その日の午後、案内された羅可可式の大 くこの地に逗留して法国の理性法廷の実情 かり、一刻も早くこの羅馬を離れることに ヴォルテール 広間ではちょうど伏爾泰と盧梭が頬を紅潮 を取材してみることに決めた。 した。 学イサルスガルリー 飛行艇が仏爾納に到着したのは一七五五させて論争しているところだったが、私達 顧問の狄薩路斯と格魯利主教に別れを告 が入ってきたので議論は一時中止となっ 年の晩春であった。私が着陸した飛行艇の げた私は国際航空局の大型飛行艇 R101 に乗り込むと、法国と瑞士の国境地帯にあ梯子を降りきらないうちに迎えにやってき 狄徳羅により皆の紹介がすむと、早速伏 た狄徳羅は情熱を込めて私を抱擁すると、 る仏爾納へ進路をとった。 先に立 0 て彼らの屋敷の方〈案内してくれ爾泰は私に意太利での見聞を披露してくれ 羅馬と仏爾納は千キロも離れていない。 ないかと頼んできた。百数十年前の羅馬宗 がリレイ 今日の超音速飛行機に乗れば二時間ほどのた。 狄徳羅から伏爾泰がこの仏爾納に移り住教法廷の伽利略裁判の様子を黙って聞いて 距離でしかないが、飛行艇 R101 は千キ ヴォルテール いた伏爾泰は、話が終ったのを確認して静 ロの空間路程を飛ぶだけでなく、同時に百むようにな 0 たいきさつを聞かぜてもらう フェルネー フェルネー ロ スイス マ ヴォルテール コ / どュータ フェルネー ディロ イタリア ディ・トロ ルソー ヴォ
驪 ( れ 0 0 ′・ アをィーゅークル盟 - 第 0 ルを盟秘な W 0 ー 0 ア 0. 勉 0- 調 宿 / 5 朝第をの / 0 Ⅳ内を 3 r ル戸′ Ⅱ・ STEEL 「 OD 5 IN CONCRETE ・ A を 00 川轗アき体 ( 一一ー & 0 を レんドにルア を物こ 0 を一なⅣーー 0 0 0 などどんアり 0 を ! ( 准 0 / 0 彬戸ルびなを 0 新メをのん 0 ~ ~ ーど・ よ / 庁 0 0 を ー内解ーィー 0 1 ・エンジンの作り方・ : ・ : 。テレメ しいのだ : まあ、コ。ヒー代くらいはこっちもちでも ( ータリング用送受信機の作り方、打ち上けとしよう。 いいのだが、もはや、ロケットを自分達で 、一実験場と観測基地、観測の方法、事故発生 打ちあげよう などという了見はやめに 時の心得 : ・ こんなことを書くと、すぐにどっと手紙した方力しし : 、、。もはや、そんな時代ではな とにかくどの一章をとりあげてみても胸が来る。″ボクたちもロケットを打ちあげ いのだ。淋しいけれどね工 : がワクワクするような内容なのである。な たいので、すぐその本を送って下さい。コ なにしろあのライト兄弟だって、一九七 にしろ、液体燃料を使った多段式ロケット 。ヒーでもかまいませんが、当方は中学生に九年だったら空は飛べなかっただろうとい を旋盤程度の工具で作ろうというのたか うのである。 つき、コビー代・送料の請求は御遠慮下さ ら、その創意工夫のユニークさがまたたの アメリカ空軍戦史協会の機関誌 "Aero- Space Historian'Y の六月号に載っている 記事なのだが、今や、保安規準や環境条例 を無視して、危険防止の柵もないところ で、数十メートルおきに保安要員もおか ず、地元住民の許可もとりつけす、これが 科学実験である旨の承認を政府からとらず に、あの飛行機を飛ばそうものならたちま ちその筋にパクられただろう というわ 3 けである。 ラ構造的にも、あのささやかなエンジンに ~ 一のちゃんと当局の認めた排気ガス浄化装置を つけず、翼の羽布が不燃性であることを証 。明せす、。フロペラにガードをつけず、動力 伝達系にカ・ ( ーをかけず、騒音が基準を下 0 回っていることの証明をとらす、パイロッ ト保護機構もなしに : : ヒコーキを飛ばし たら : ・ーを 0 0 今や、ロケットも同じことなのだよ、明 7 智くン。 OR B ′ 0 : 応ア を / 0 5 0 龜戸を 0 0 なん 0 の - 0 ′ア′な 5 ん 0 & 0.202 / 5473 0N0 ( 円〒 TWO OTHER TYPES of SMOKE GENERATORS T 町 5 0 、ーー DE 引 0 、 & 0 、一 ED YO レ 1 ! ト 0 0 0 8 「一 0 、洋 EDAT ーおー に、ー 1 第一一 NO 興、 ・ーー一 TAX ー 0 碑 、 [ 0.0 、洋 ! OF V 、 RY 、 0 い材引ー OR ド EN に 0 をに CAN 日日いし 1 50 ^ 5 了 0 ( 0 、一第、 R A 引 0 、「 0 N 、・ R に〒 0 ′ 〒 0 曜げ & ー材 0 無を CHARGÉ 0 ( 民い 00 ES 0 、 : 、 4 【 'RON ( RO 、物み 0 第 ( 、・れ「洋 ( TO に、一 1 : : 、、ア A を「 0 「を 5 はを 0 「 C"AMBE R 0 ー T を R 、 ! 0 BY 'LJRN'NG TIME OF 、 0 10 ー A にドい 0 物ー 1 ー当を A 、一一 CIPA ーこ 0 日 ATTER 5- をし、い ( TYP OR PENC.L なー ー A 物第一 0 をを ( ー第 P しじ ( / 鉄トマ 0 只 1 ョ 0 ノ STEEL ~ を oy イ 0 をイ 0 ′レー宿ーを 炉を 00 暦厚 / Ⅳ 0 0 0 ん ( をアを OC イ 4000 OR C なレ、 ( を 00 4 ′ GE QUARD TE 0 い R 円 0 0 ( : い 3 SMOKE POWDER TAMPED 0 をドを T み SMOK 「 C.*AYBGR MAY 0 をし u 一 Nu を 4 、しド 0 、 E 匹 DS ・ SMOXE POWDER CHING Launcher... ADdUSTA ) は APS 旧・・ . 窺 R 鶯評 91E ( 馴 0 ー ELEVAT 「〔 VAT ー 0 、 、、、当ー 0 ー 0 5 当 、を ! をを L W00 し PAD 、当 ! をを、 POR' - 0 ト A を E ( 材を E 良 F 、 00 気 10 、、、、 第一了 10 p 、 00 ( 0 を 0 ST ー、 ( 0 005 ー ( イ、 8 、 R CR 人 T 齢セ , i D ~ 耘・ 新 1 レ i れ合 A } ツ。 i 。 Jack 町 5 ー 5 CAPABLE ア E 、物 ~ 0 ー講 0E0 黛 0 : ー 5. し、 00 、 ~ 、、一 05 ア BE 0 、・ 000 龜′・ 10 を を 0 ーーー・一をにま ′ル 0 を 0 ( イア物 0 レルアーⅣ 00M を講ア アをレにイ 0 ( を广 00 ビ なーをを一第 0 とにかく図で見ていたたく み ( をア 0 をルよ 人一 0 第 0 ーを′を 0 ″′ 0 「をををん - 30 ア工 0 をを 0 ′を一 5 ! レをを 0 0