るのだった。カ場の〈泡〉でできた家の中では、まるでまぶしい太「たぶん一つには普通しゃない親子関係ということもあったんたろ 陽の下、平らな台の上にすわっているようなものだった。〈泡〉は内うね」とぼく。カづけるように。「どういう意味かわかるだろ。実 側からだと見えないんだ。 の母親じゃなくて養母の下で大きくなるっていうのは、そんなにあ 彼女を悩ましているものが何かわかったとき、・ほくは偏光を強めりふれたことじゃない」それは死んだような沈黙によって迎えられ た。夕食の残り時間中ただ口をつぐんでいた方がいいんじゃないか にした。これで〈泡〉は淡色のガラスのように見える。 と思うほどたった。意味ありげな視線が行き交った。 「あら、かまわなかったのに」と、彼女がいった。元気をだして。 「ええ、一つにはあったかも知れないわね。とにかく、あなたが水 「わたし、慣れなくちゃいけないわ。ただ、目に見える壁がどこか 星へ行っちゃってから三年たたないうちに、もう耐えられないって にあったらいいのにと思っただけ」 何かがドロシーを混乱させているのたということがますます明確 , わかったの。わたしはいっしょに行くべきだったんだわ。ほんの子 になった。彼女はジ、ビラントの不安に気がついていなかった。こ供だったけど、その時にはもうあなたといっしょに行きたいと思っ いつは彼女らしくない。お客に保護壁の存在感を与えるために、カてた」そういって、訴えるようにドロシ 1 を見つめた。彼女はじっ とテー・フルを見ている。ジュビラントは食べるのをやめてしまって ーテンか何かを用意すべきだった。 テープルを囲んでの断続的な会話からやっといくつかのことがわ 「きっとそれについては話さない方がいいのね」 かった。ジュビラントは地球年で十歳のとき母親と絶縁していた。 こいつはおそろしく異常な年齢だ。こんな年で絶縁する唯一の動機驚いたことに、ドロシーは同意した。それが・ほくにとって確固と は、真に度はずれたこと、例えば狂気とか狂信的伝道運動のようなしたものになった。何かを・ほくから隠しているのだから、二人はそ ものだけである。・ほくはジュビラントの養母についてあまり知らなれについて話そうとしないのだ「 いーー名前もだーーーでも彼女とドロシ 1 がルナで仲のいい友だちだ ジュビラントは夕食の後、いねむりをした。・ほくといっしょに水 ったことは知っていた。とにかく、ドロシーがどのようにして、ま たなぜ、彼女の子を捨てぼくを、そっくりさんを、水星に連れて来銀洞へ行きたいけれど、重力のため休息をとらねばならないという ことだった。彼女が眠っている間、もう一度ドロシーに、月での生 たのかという問題は、その人間関係と結びついているのだ。「わた したち、一度も親密にはなれなかったわ、思い出せるかぎりずっと活のありのままの話をさせようとしてみた。 「だけど、そもそもどうしてぼくがいるんだい ? ジュビラント 昔から」と、ジュビラントが話していた。「彼女は気違いじみたこ とをいって、適応できるとは思えなかったの。本当のところは説明を、実の子を、三歳のときにルナで世話してくれる友だちのところ できないわ、でも法廷がわたしに味方してくれた。いい弁護士をもへ残して来たっていうけれど。連れて行きたくなかったの ? 」 っていたのがよかったのね」 彼女は疲れたように・ほくを見た。この話は以前にすませていたの
「すくなくとも時間つぶしにはなるでしよう」 「ティモシー、あなたのお母さんについてのどんな質問にも答える ・ほくはため息をついた。その時には本当に重要じゃなかったん 3 わよ」 だ、知りたかったことを知ることは。 彼女が・ほくを怒らせたのはこれがはじめてたった。タンクをいっ 「よろしい。質問その一。な・せドロシーはこっちへ来たとき、きみ ばいにしておかなかったことについては腹が立たなかった。冷却にを置いて行ったのか ? 」そう説いたとたん、その質問が突然また重 ついてでさえそうだ。それはむしろぼくの失敗だった。冷却の強度要なものとなった。 について、生き残るための予備を確保しておくことがどんな大切な 「なぜなら、彼女はわたしたちの母親ではないから。わたしたちの ことか本当には告げないまま、軽く見ていたのだ。彼女はまじめに母親とは、わたしが十歳のときに絶縁したわ」 とらなかった。そして今・ほくらは、・ほくのささやかな冗談のつけを ・ほくは起き上が・つた、ひどくショックを受けて。 支払っているわけだ。彼女がルナの安全に関する専門家だというの 「ドロシーがちがうって : : : じゃ彼女は : : : 彼女は・ほくの養母 ? で、自分のことは自分でできるたろうと仮定したのがまちがいだっ今までずっと聞いてきた話ではーーー」 た。もし彼女に危険に対する現実的な推測がなかったとしたら、 「しいえ、彼女、あなたの養母じゃないわ。専門用語でいえば、彼 ったいどうしてそれができるというのか ? 女はあなたの父親よ」 「なんだって ? 」 しかし、この申し出には酸素に対する報償のようなニュアンスが あり、そしてきみは水星でそんなことをしてはいけないのだ。進退「あなたの父親なの」 きわまったようなとき、空気はいつでもタダで分かち合われるもの「誰がいったいーー父親 ? これはどういうたぐいの気違いじみた なんだ。感謝なんて礼儀知らすた。 冗談なんだ ? 自分の父親が誰かなんていったいどこの誰が知って 、るんだ ? 」 「ぼくに何か借りがあるなんて考えないでくれ。それはよくないこし とだ」 「わたしが知ってるわ」と、あっさりいった。「そして今じゃあな 「そのために申し出たんじゃないわ。もしわたしたちがこの地の底たもね」 で死ぬことになるのなら、秘密をもったままだなんて・ハカげている「はじめから話してくれた方がいいと思うな」 と思うの。これは筋が通ってるかしら ? 」 彼女はそうした。それはまったく説得力があり、実に奇怪だっ 「いいや。もしぼくらが死ぬのなら、・ほくに話して何になるんだ そうすることで・ほくに何の利益があるというんだ ? それに ドロシー、そしてジュビラントの母親 ( ・ほくの母親だ ! ) は、 筋も通っちゃいないよ。ぼくらには死が迫っているわけでさえな〈第一原理〉という宗教団体の一員だった。彼らはたくさんの おかしな考えを持っていたという話だが、中でも奇妙なのは″核家 ファースト・リンシプル
〈服〉が必要になるほど長い時間を外ですごしたりしない。そいつないよ。・ほくらは二人とも大人だ。きみは・ほくの母親に訊かなくた はずいぶんやっかいで、高くつくことになるだろう。特に、子供につて、いいたいことがいえるはずだ」 は。子供たちに〈服〉を着せておくのにどれだけかかるか信じられ「その話はやめにしましよう」 よ、あのほら穴までひとりで登るんだ 「誰もがそういうんだ。いい ないだろうな。ドロシーは二十年間かかっても借金を返しきれない な」すると彼女はそのとおりにした。・ほくは池の上にすわり、すべ んだ」 「ええ、でもそれだけの価値があるようね。あら、わたし、それがてのものをにらみつけていた。隠し事をされるのは楽しくなかった 冫しいくるめられるなんておことわりだった。 とっても高くつくってことについてはあなたのいうとおりだと思うし、だいたい身内こ、 けど、大きくなって着れなくなるということはないでしよ。どのく ・ほくは、ドロシーの水星行について、その真の物語を知ることが らいもつの ? 」 どんなに重要なことになるか気づくと、ちょっと目まいがした。十 「二、三年ごとに取り換えるべきだね」・ほくはひとっかみの水銀を七年間知らずに暮らしてきて、別に傷つきもしなかった。だが今 すくい取り、それが手の間から彼女の胸へしたたり落ちるのにまか度、子供のとき彼女が話したことについて考えてみると、つじつま せた。話をドロシーのことと、彼女についてジ = ビラントが知ってがあわないんだとわかった。ジ = ビラントの到着が・ほくにそのこと いることの方へもっていくような、遠まわしの方法を思いっこうとをもう一度考えさせたのだ。なぜ彼女はジビラントをルナに残し たのか ? なぜ代わりにクローンの幼な子を連れて行ったのか ? していた。何度かつまずいた後、どうして口を閉ざそうとするのか と、ずばりと説いた。 彼女は話にのろうとしなかった。 水銀洞は峡谷の入口にある洞窟で、その口からは水銀の流れが流 「あの上の洞窟には何があるの ? 」と、寝そべったまま体を転がしれ落ちている。昼年の間はいつでも起こることだが、夏のまっ盛 て訊いた。 りには流れがより豊かになるのだ。それは洞窟の中に集まる水銀蒸 「水銀洞さ」 気のおかげで、それがそこで凝結し、壁をつたってしたたり落ちる たま 「その中に何があるの ? 」 ためだ。ジュビラントは溜りのまん中にすわって、恍惚としてい た。洞窟内のイオンの輝きは外よりずっと明るく見える。外だと、 「話してくれたら見せてやるよ」 彼女はちらりとぼくを見た。「子供みたいなことはいわないで、太陽の光が競争相手となるからだ。それに加えて、何千ものしたた ティモシー。もしあなたのお母さんが月での暮らしのことをあなたり落ちる水銀の流れから反射が投げ返されている。入ってみなけれ に知ってほしいと思ったのなら、自分で話すでしよう。わたしの仕ば信じられないような場所なんだ。 「ちょっと聞いてくれ、きみをうるさがらせたのは済まなかった。 事じゃないわ」 「きみがに まくのことを子供扱いしなければ、子供じみたことはいわ・ほくがーー」 ライトイヤー 7 2
た。そんなことを法廷で話してごらん。現代の法制では、父権なん 族″と呼ばれるものに関するものだ。なぜそう呼んたのかわからな いが、たぶん核 = ネルギーが初めて利用された時代に考えられたもて観念さえ認めちゃいないのだ。国王の聖なる権利を認めない以上 のだからだろう。それを構成するのは、一人の母と一人の父、二人だ。グリッターには、よって立っぺき合法的根拠がなかった。その 子はグリームのものだった。 とも同一世帯に住んでいること、そして大勢の子供たちだった。 だが、母は ( 養母だ。まだ父と呼ぶ気にゃなれない ) 妥協策を見 〈第一原理〉はそこまで行き過ぎなかった。彼らは″一人の親日一 い出した。ジ = ビラントを連れて行けないという事実を悔んでみて 人の子供″の伝統に依然として固執しているーーーこれもまたけっこ うな偏見だけど、さもなきや彼らは嫌われながらも大目に見られるもしかたがない。それは受け入れなければならない。しかし彼は彼 かわりに、リンチされていただろうーーーしかし、生物学的両親がい女の片われを取ることができた。それがぼくだ。そういうわけで、 っしょに住んで二人の子供たちを育てる、という考えを好んだのだ彼はクローンの子供と共に水星へ渡り、性転換し、ぼくを大人にな るまで育てた。〈第一原理〉については一言も口にしないで。 これを全部聞かされたとき、・ほくの気分は落ち着いたが、しかし そこでドロシーとグリ 1 ム ( それが彼女の名前たった。ルナでの こいつは確かに暴露だった。疑問で頭がいつばいで、そのときは生 二人は″煌き″と″輝き″だった ) は″結婚″し、最初の子供のた 彼女は妊娠し、出産し、その存のことなど忘れた。 めにグリームが女性役を引き受けた。 , ジュピラント ドロシーはもうその教会のメン・ハーじゃないの。それも 子に″喜び″と名付けた。 それから物事がつまずきはじめた。まともな人なら誰でもそうな不和の原因の一つだ「たわ。わたしの知るかぎり、今ではグリーム ーよ。そんなに長つづきしなかったのね。教会 るだろうといってやれただろうように。ぼくはあんまり歴史に詳しがただ一人のメン・ ( くないが、でも母なる地球でどうだったか、少しは知っている。夫をつく「たカップルたちは、夫婦間の争いによ 0 てお互いに引き離 が妻を殺し、妻が夫を殺し、親が子供をなぐり、戦争、飢え , ー・・そされてい「たわ。それが法廷がわたしの絶縁を認めてくれた理由。 つまり、グリームは彼女の宗教をわたしに押しつけようとするのを ういったことを。そのどれくらいが核家族のせいなのかは知らな でも、誰かと " 結婚。したあげく、手遅れとなってから相手がやめず、わたしが友だちにそのことをいったら、彼らは笑ったの。 まずかったとわかるなんて、ひどいことに違いない。そこで子供にそんなことがイヤで、ほんの十歳だったけど、わたしの母は頭がお かしいと思うって裁判所に訴えたの。裁判所は同意したわ」 あたることになる。社会学者じゃないが、それくらいわかる。 ワン・チャイル・ト きらめ 「それじゃ : : : それじやドロシーは、まだ彼女の〈一人の子供〉を 彼らの関係は、初めのうちこそ煌き輝くものだったかもしれない が、三年の間に着実に悪化してい「た。ついにグリッターが、彼の持「てないんだね。まだ持てると思う ? それについて合法性はど というところまで進んだ。しかしうなんだろう ? 」 配偶者とは惑星を共にできない、 「まったく陳腐な話よ、ドロシ 1 にいわせると。判事にはそれが気 彼は子供を愛しており、その子を彼自身のものだと思うまでになっ ・クリッタ 3 3
に入らなくても、それは彼女の生まれながらの権利であって、彼ら「もちろんわたしが正しいのよ」 には否定できないの。彼女がなんとかあなたを育てる許可を手にし 三時間後、鳴動がして、紫色の輝きがふたたびぼくらを包んだ。 たのは、法律の抜け穴のおかげだわ。水星へ行ってルナの裁判所の 司法権から脱するという理由でね。抜け穴はあなたたちが去ったすばくたちは手に手をとって太陽の光の中へと歩み出した。救助隊 ぐ後でふさがれたわ。、だから、あなたとわたしはま 0 たく = = ーク員がそこで待 0 ていて、笑いながらぼくらの背中をたたいた。彼ら な存在ってわけね。どう思う ? 」 がタンクを満たすと、ぼくらは酸素を使って汗をひかせるというぜ 「わからない。むしろあたりまえの家族だったらと思うよ。だけいたくを楽しんだ。 ど、ドロシーになんていったらいいんだろう ? 」 「どのくらいひどかったんですか ? 」と、救助隊長に訓いた。 彼女が・ほくを抱き締め、・ほくはそうする彼女を愛した。・ほくは幼「中ぐらいだ。きみたち二人は掘り出される人間の最後の部類に含 、孤独な気がした。彼女の話が依然として心に沈潜しつづけておまれる。あの中で苦しかったかね」 り、それが消化されたとき果してどんな反応をするだろうと心配に ぼくがジビラントを見ると、彼女はまるでたった今死からよみ よっこ 0 がえったばかりだというようにふるまっていた。 , 気が狂ったみたい 「わたしは何もいわないわよ。どうしてあなたがいうの ? たぶんに、にやにや笑って。ぼくはそれを考慮に入れた。 あなたが彗星帯へ行ってしまうまでには、彼女も告白する気になる「いえ。どういたしまして」 わよ。もしそうならなくても、それがどうだっていうの ? なんの ぼくたちは岩だらけの坂を登り、ふり返った。 , 地震が何トンもの 問題があるの ? 彼女はあなたのお母さんじゃなかった ? 何か不岩を水銀の谷へ落とし込んでいた。さらに悪いことに、低い方の端 満があるわけ ? 母親であるという生物学的事実がそんなに重要なにあった天然ダムが破壊されていた。水銀の大部分は下方のより広 の ? そうは思わないわ。わたしは愛のほうがもっと重要だと思うい谷間へ流れ出してしまっている。水銀洞が、もう二度と若いころ し、それがあったと思うわ」 と同じ魔法の場所に戻らないのは明白だった。これは悲しいことだ 「でも彼女は、・ほくの父親なんだ ! どうやってそのことに適応しった。ぼくはそこを愛し、そして多くのものをそこに捨て去ったの たらいいんだ ? 」 だという気がした。 「する必要もないわ。父親が子供を愛するのは母親とまったく同じ ぼくはそれに背を向け、ドロシーの待っ家へと向かって歩きはじ ことじゃなかったかと思うの。父親というものが単なる授精以上のめた。 存在だった時代にはね」 「たぶんきみが正しいんだろう。きみが正しいんだと思う」彼女は 暗闇の中でぼくをしつかり抱き締めた。
ししカぐらいはわかっていた。 と、つまらないことをいい続けた。ぼくらを並んで立たせ、二人が 当時、それはいらいらする事実だった。ぼくがそれを取り巻く謎 お互いにとってもよく似ていると指摘した。それは事実だった。当 然だ。遺伝子的には等しいんだから。彼女は・ほくより五センチ背がについてほとんど知らないってことは。どうしてぼくは水星で育て 高かったが、でも水星の重力の下で何カ月かすごすうちにはその差られることになったのか、ルナではなくて。そしてなぜ・ほくにはク ローンの姉がいるのか。クローンのふたごがいるっていうのは大変 もなくなるだろう。 まれなことで、どうしてそうなったのか探ってみようとしたのも無 「二年前のおまえとそっくりだよ、この前〈変身〉する前の」と、 ・ほくにいった。そいつはちょっと怪しかった。前回ぼくが女性だっ理もないことだ。社会的に問題があるというわけじゃない。実の兄 たときには、性的に成熟しきっていたとはいえないんだから。でも弟をもっとか、そういったスキャンダラスなこととはわけが違う。 要点は正しい。ジビラントもぼくも遺伝子的には男性だったんだでもぼくは小さいころからそれを友だちにもらしてはいけないんだ こっち ・ : はじめて水星に来たとき、ママがに まくの性を変えてしまったのと思い知らされた。連中は知りたがる。どうしてそうなったのか、 ・こ。・ほくが二、三カ月のときだ。ぼくは人生の最初の十五年間を女どうやってばくの母はそういう良くない趣味を禁止している法律か らまぬがれたのか。″一人の人間には一人の子供″それが子供たち 性としてすごした。また〈変身〉して戻ろうと考えているんだが、 の最初に学ぶモラルの教えだ。″汝命を奪うなかれ″より先なの でも急ぐことじゃない。 「お元気そうでよかったわ、グリッター」と、ジ = ビラントがいつだ。ママが投獄されたことはない。だから、合法には違いなかった のだろうが。でも、どうして ? それから、なぜ ? 彼女は話そう ママは一瞬眉をしかめた。「今じやドロシーよ、おまえ。こっちとしなかった、でもおそらくジ = ・ヒラントなら。 に移ったとき名前を変えたの。水星ではオールド・アースの名前を 使うのよ」 夕食はビリビリするような沈黙の中で行なわれ、時おり会話しょ 「ごめんなさい。忘れてたわ。わたしの母があなたのことをいうとうとするぎごちない試みで中断された。ジ = ビラントはカルチャー ・ショックと神経の疲れで参っていた。ぼくにはそれがわかった。 き、いつもグリッターっていってたものだから。あのこと以前には ルー - 一イ ルナリアン ぼくを見まわすその目つきから。月人はーー・失礼、ルナ人はーー一 彼女が、つまり、わたしがーー」 ぎごちない沈黙があった。何かが隠されているように感じ、ばく生岩の中のウサギ穴で暮らし、堅く物質的な壁の存在をまわりに必 要とするようになる。彼らはあまり外に出ない。出るときにはスチ は聞き耳を立てた。ジュビラントから何か聞き出せるんじゃないか ールとプラスチックの繭で身を包み、それがまわりにあることを感 と大いに期待した。ドロシーがどうしても話してくれなかったこと じ、外を見るときには窓を通して見るのだ。ジュピラントはひどく 3 について。いくらいっしようけんめい催促してもだめだったんだ。 少なくとも、ジュビラントから聞き出すのにどこから手をつけたらむき出しにされたような気分になり、それに耐えようと努力してい チェンジ
「かってにしなよ。きみは環境の専門家だろ」 たようだ。もしそれが起こったときジ、ビラントが悲鳴を上げなか 彼女はぼくを見た。でも彼女が鏡のような顔から表情を読みとるったら、ばくは全然気にもとめなか「たろうが。 のに慣れていたとは思えない。彼女が左胸の上に突き出た / ズルを まわすと、そこから流れ出す蒸気が増した。 当時ぼくらの家は丘のてつべんにあった。七夜年前に襲った大 「それでだいたい二十度まで下がるだろうな。およそ = 一十時間の酸地震で以前住んでいた崖の斜面が崩れてしま「た後、ぼくらがそこ 素が残る。理想的な状態での話だよ、もちろん。じ 0 とすわ 0 たま〈運び上げたのだ。そのときぼくは十時間のあいだ埋ま 0 ていたー までいるとしてだ。動けば動くほど、〈服〉はきみを涼しくするたー掘り出してもらわなければならなか 0 たはじめての経験だ。水星 めによけいに酸素を浪費する」 人は谷間に住むのをいやがる。大地震のとき岩屑で埋まってしまう 彼女は腕を腰に置いた。「ティモシー、あなた、わたしが涼しく ことがよくあるからだ。もし丘のてつべんに住むなら、崩れたとき しない方がいい 0 てい 0 てるの ? わたし、あなたのいうとおりにでも、土砂の頂上近くになるチャンスが大きくなる。そのうえ、母 するわよ」 もぼくもそこの景色が好きだったんだ。 「いや、きみは大丈夫だと思う。ぼくの家まで三十分ほどだから。 ジビラントもそれが気に入った。彼女が景色について最初の感 それにきみが重力についてい 0 たことには一理ある。たぶん休息が想を口にしたのは、家の外で立ちどまり、今渡 0 て来た谷間をはる 必要なんだ。でも手ごろな妥協としては、二十五度に上げたいね」かに見渡したときだ。三十キロ離れた山脈の頂上にーキリー 彼女は黙って・ハルプを再調節した。 ポートがある。この距離からは一番大きい建物の半球状の形がやっ と見わけられる。 ジ、ビラントは二キロメートルごとのセクションに分かれて動く ところがジュビラントは、われわれの後方にある山々の方により 交通 = ン・〈ヤなんて・ ( カげていると考えたようだ 0 た。はじめの興味をいだいた。彼女は山すその丘のひとつの背後から立ちのぼる 三、四回、ぼくらがひとつの端から降りてもうひとつのへ乗り換え輝く紫色の雲を指さし、何かと説ねた。 るたびに不平をい 0 ていた。彼女が口をつぐんたのは、地震でやら「あれは水銀洞だよ。〈逆行の夏〉のはじめにはいつもああいう風 れたセクシ , ンまで来た時だ 0 た。・ほくらはセクシ , ン間に仮設さに見えるんだ。あとで連れて 0 てあげる。きみも気に入ると思う れた滑降路をしばらく歩き、彼女は作業員が古いそれの下にひらい よ」 た二十メートルの空隙に橋を架けようと働いているのを見た。 壁を通り抜けて入ると、ドロシーが・ほくらを迎えてくれた。 家に帰り着くまでに地震は一度しかなか 0 た。たいしたものじゃ何がママを悩ませていたのか、ぼくにはは 0 きりとわからなか 0 なか 0 たが、ただ足をすべらさないよう、ちょ 0 とドタ・ ( タしなけた。彼女は十七年ぶりでジ = ビラントと会 0 て、充分幸せそうに見 ればならなかった。ジ = ビラントにはそれがあまり気に入らなかっ えた。ずいぶん大きくなったのね、ずいぶんきれいになったわね スライウェイ ′ークイヤー 2 2