シェド - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1980年3月号
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1. SFマガジン 1980年3月号

ロポットが伝え、やや間をおいてつけ加えた。「それを、タガノものはこうしてみな貯えるといっています」 ヤに持って帰るつもりです」 原住者が再び発言し、ロポットが通訳した。 「貯えて・ . : ・ : 持って帰って、どうするのかしら」 「タガノヤへ ? 」 シェド O はかすかに眉をひそめた。 シェド O は呟いたが、仕方がないというようにいった。 わ。それが可能かどうか相談してみましよう」 彼も、原住者たちが指している魚に目をやった。 彼女がその場で応諾せず、そういう返答をしたのも無理のない話 そこにある大小とりまぜて二十尾あまりの魚は、ただ並べられてであった。シェドはたしかに原住者の担当ではあるが、魚をつ かまえるのはロポットたちの仕事であり、そちらに従来よりも多く いるだけではないのであった。いずれもはらわたをえぐり取られ、 魚の種類によっては開かれて、裏面にも風が通るようにいろんなもの作業を課すとなると、操船の責任者のハーケンダインの許可 が必要である。それにこの一件に関しては、当然団長のヘンゼル のを台にして : : : 日光にさらされているのだ。 の了解もとりつけねばならないからだ。 これは : けれども、原住者たちはその返事で一応満足したらしい。どうや 魚肉というものを単味では減多に食べたことがなく、食べたとし ても原形を失い加工されたものばかりであった彼にも、やっとそれらシェドはこれまでの接触を通じて、原住者たちのそれくらい の信用は得ているらしかった。 が何を意味しているか、分って来た。 と。 これは : あげた視線が、ちょうどシェド O のそれとぶつかった。 ふたりの原住者は顔を寄せ合って、ひそひそと相談をはじめたの である。 「千物ね」 先に言葉にしたのは、シェドであった。「この人たちは、魚それから、やおらひとりが、はじめと同じように無表情をつづけ たまま、こちらに向き直って、ゆっくりといいだした。 の千物を作ろうとしているのよ」 「こういう風に魚を干すには、並べるよりも紐でつるすほうがいい 「私もそう思います」 とのことです」 彼は肯定した。 ロポットが受けて、翻訳した。「このふたりはそうしたいけれど 千した魚ーー , ・干魚というのは、彼の知識のうちにあった。そうい も、紐と、紐を支える道具は持っていない。それらを貸してくれる う処理をすれば生のときよりも長く保存出来るのである。だが その形状も強烈な匂いも、彼にはとても好きになれそうもなかつならお礼をするがどうかといっています」 「お礼 ? 」 た。 シェド no は妙な声を出した。 「これまでよりも多く、魚が欲しいといっています。食べ切れない 227

2. SFマガジン 1980年3月号

るシェド mo の話によれば、それは太陽が出て来ては沈み、また出に用件を伝えなければならない、それらのあらゆる機会を利用し て来ては、という調子であり、ことによるとかれらは近海の一日やて、出来るだけ話し合うようにしている。話し合うばかりでなく、 二日の航海には馴れていても、大洋を渡る長期の船旅は不得意で、能う限り細心に観察するようにも努めている。そうしていること た効に日数を勘定するということも考えなか 0 たのではないか、とで、原住者について何らかのあたらしい知識が得られるかも知れな の想像も成立するのだそうである ) だが、これはあくまでも漂流といからであった。そしてたしかにシェドは、船内の交渉団員会 う異常事態なのであり、これからの、漂流などではないちゃんと議において、いくつかの報告はしていたのだが : : : 彼女としては、 した旅では、そんなことはさせられよ オい。たとえ原住者たちがみずそういうやりかたがいかにももどかしく、不満であり、もうちょっ から望んだとしても、容認しがたいところなのだ。それに、こちらとでも原住者たちが心を開いてくれたら、との愚痴になってしまう 側としても、目的地に着く前に原住者社会に関する予備知識を得てのであろう。ャトウにはその心情は理解出来た。 おきたいし、そのためにはかれらが同じ船上にいて、いろいろ話を してくれるほうが有難い・・ーーといった理由で、この二号調査船に乗彼がここで、そのシ = ドのひとりごとに対し、相槌を打った るように求めたのだが : : : 原住者たちは、意外にあっさりとそれをり意見を述べたりする立場にいないことも、また本当なのである。 承諾したのであった。 船上の原住者たちについては、彼は当事者ではなかった。原住者た ちとの接触・観察はあくまでも軍の、シェドの担当であり、今 そこまではよかった。 しかし、調査船に乗ったあとも、原住者たちは積極的に人間やロのところ彼は船の客みたいな存在なのである。なるほどカーマイン ポットらと交渉を持とうとはしなかった。問いかけられれば場合に n<< は彼を交渉団の一行に加えたが、交渉団長のヘンゼルの解 よってはきちんと答えてくれるし、かれらのほうで用があるときは釈によれば、彼が交渉団の一員としての役目を与えられるのは現地 要求するけれども、必要以上には接近もして来ず、喋りもしないのに到着してからであり、それまでは現地に運ばれる待機中の団員と いうことになるのだそうで : : : 軍が運航するこの船の上では、まだ である。ことに、シェド O などの交渉団のメン・ハーが原住者たち の社会形態や住んでいる土地のありさまをたずねたときにはそうで客、あるいは傍観者としての待遇しか受けていない。ャトウはこれ あった。呼びかけに対しては応答はするものの、かんじんの部分にがいささか強引な解釈であることを知ってはいたが、反駁を試みる ついてはロを閉ざしてしまうのだ。従って当初の、かれらとの会話ような真似はしなかった。ヘンゼルがそんなことをいうのは、 を通じてあらかじめ原住者の生活実態や社会の仕組をつかんでおこすくなくとも船上での原住者研究は、司政官などという夾雑物抜き うとのもくろみは、大幅に外れてしまった。とはいうものの、何もの、すっきりしたかたちでやりたいとの意図があるからだ。換言す 2 せずに手をつかねているよりはましたろうと、担当のシェド mro とると、ヘンゼルは、シェドÄO がもつばら受け持っているこの 2 ロポットたちは、原住者たちが何かを申し出たりこちらからかれら仕事に司政官を入れたところで、作業がややこしくなるばかりで何 ・、 0

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シェド O はちょっと考えてから、ロポットに小さく頷いてみせ とき、必要以上に完璧主義におちいり、作業が遅滞する例だってあ る。だから本来、こういうケースでは、もっとレベルの低い本物のた。「いいわ。行ってみましよう」 メッセンジャ 1 用ロポットを使うか、でなければ逆に上級ロポット 彼を見て、 にすべてをまかせ、その記録をあとで分析するかの、どちらかにす「一緒にどう ? 」 べきなのである。 彼は一瞬、ためらった。渡りに船と飛びつきたいところだが、待 けれども、それは彼の感想に過ぎなかった。軍が自分たちのロポち構えていたように受けるのは手の内を見すかされる感じで面白く ットをどう使用しようと、彼には関係のないことである。 という意識が働いたのだ。それに、あまりあっさりチャン それよりも、彼には、原住者たちがもっと魚を呉れといっているスが提供されたので、拍子抜けもしたのである。が : : : 当然返事は ということが、不思議であった。 決まっていた。 これまでのシェド no の会議での報告によれば、原住者たちは乗「よろしいんですか ? 」 船後しばらくのうちは、基地島で積み込んた原住者用 ( そのつもり「別に、問題はないでしよう ? 」 シェド O は微笑した。「ヘンゼルの話では、あなた、まだ で調製し、水で戻せるように加工した保存に耐えるもの ) の食物を 摂っていたが、丸一日もしないうちに海藻と魚類を欲しがるように原住者を近くから観察したことがないんですってね。そういうこと ・ハーになってもらってもいいんじゃ なったらしい。人間側は持って来た海藻に加えて海面を浮游する海なら、むしろときどきオ・フザー 藻を採取し、網を使ってこの海の魚類も捕獲した。原住者たちはそないかって : : : ヘンゼルもいっていたわ。ただし、あくまでも れらをあるいは生で、あるいは火を通して食べた。といっても甲板そばで立ち会ってもらうだけだけど」 「いえ。それで充分ですよ」 で焚火をされてはたまらないので、加熱用の道具を貸与し、使いか たも教えたのである。それだけあれば原住者たちは、あと、飲料水彼は応じた。 さえあればいいらしかった。 あのヘンゼルがそういっているのなら、何も考えることはな その海藻も魚も : : : シェド O とロポットたちは、ふたりの原住 者にはとても食べ切れないくらい、供与している。すくなくとも報裏を返せば、ヘンゼルがそんなことをいいだしたのも、そこ 告では、そういう話なのであった。 に多少の焦りがあったのかも知れなかった。原住者に関するデータ だから彼は、ロ出ししなくてもいいのだが、と心中で思いながらは、出発後三日めのきようになっても、依然として期待したほどは も、つ、 しいってしまっていた。 集まらず、それなら司政官にも何かさせてみよう、役に立たなくて ももともとだ という心理になって来たのに違いない。とはい 「魚ですか。かれら : : : ずいぶん大食いなんですね」 え、作業に直接関与させるところまでは踏み切れない、踏み切る必 「・ーーどういうことかしら」 223

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「ーーお礼には、干した魚を渡すといっています」 お礼を申し出たが、その必要はないといわれた・。代償は放棄してく シェド no の声に話の腰を折られたロポットは、ロポット特有のれたのだ、と、いう意味のことを告げています」 「ーーー妙な理屈ね」 辛抱強さで、おしまいまで喋り終えた。 「お礼だなんて : : : これまではそんなことをいおうとしなかったの シェド no は小首を傾けた。「この人たちがこんなに長く喋った のも意外だけど : ・ いっていることは、もっと変ってるわ」 シェド O は首をひねった。「そりや紐とかその他のことはどう「 : にでもなるけど : : : 今更お礼なんて、要らないわ。まして干した魚ャトウは何もいわず、その場にたたずんでいた。 なんかーー」 いうだけいってしまうと、原住者たちはまたすわり込んで、さっ ロポットが、その言葉をそのまま伝えようとするのを、彼女は急きの魚を干す作業にとりかかった。 いでさえぎった。 依然として無表情なのだ。表情に乏しいというべきなのか。 と、彼は思った。 「こういってちょうだい。魚を干すための道具は貸してあげるけ不思議なことだ ど、お礼の必要はないって」 この原住者たちは、どういう心境なのであろう。 ロポットが通訳すると、原住者たちはお互いに頷き合い、またも かれらが警戒的だった理由は、よく理解出来る。かれらにとって や問いかけて来た。 他の島群域が別世界であり、ヘンゼルのいうように人間たちも 「では、代償を放棄したと考えていいのか、といっています」 また別の島群域の連中だとしか信じていないにしても : : : 人間の身 と、ロポット。 長や顔かたちは、かれらとは随分ことなっているのだ。しかもかれ らは基地島で、これまで目にしたこともないような建物を眺め、異 「それは、どういうこと ? 」 返事はすぐに戻って来た。ふたりが競争するようにして、発言し様な大きい船に乗せられているのである。異様といえばかれらにと たのだ。 って、ロポットたちは怪物さながらの姿に見えるはずなのだ。だか らこそ、必要以外のことは何もいおうとせず、つとめて人間やロポ 「かれらは、こういっています」 ットたちと距離を置いて来たのだろう。ある意味ではそれが当然な ロポットは説明した。「かれらは漂流しているところを助けられ た。漂流者を助けるのはみんなの義務であり、それに対するお礼ものであった。 しかし、自分が今目撃したかれらの言動は、それとはまるで異質 いった。それから今度は、かれらがこの船をタガ / ャへ案内しタガ ノヤの人たちに会わせる代り、航海の間の生活と食・ヘものを保障さなのである。要求を持ち出し、それが容れられそうだとなると、次 れる権利を得た。だがその中には、道具を貸してもらう権利は含まに別の要求を出して、いわば取り引きに似たことをいいだすのは : ・ : そうした今のかれらには、おびえやおそれの色は徴塵もないので れていない。だから道具を借りるには代償が要る。そこでかれらは 228

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の得にもならないと考えているのである。そうした〈ンゼルの仕方がない。どうせそのときには、対象となる原住者は二名どころ 信念を口先だけでくつがえそうとしても現実には不可能であり、無か、うんとたくさんいるはずなのだ。それからだって遅れは取り返 2 2 用の摩擦や反目を生み出すのがおちであることを悟っている彼は、 せるに違いないし、取り返さなければならないのである。それでい だから何もいわなかった。司政官とその配下のロポットたちの実力いではないか・・ーーと、みずからにいい聞かせていたのであった。 を見せるつもりなら、もっと適当な、自然に到来するチャンスを待しかし。 たなければならない。それが彼がいつの間にか身につけた流儀なの そのきっかけは、思いのほか早くやって来たのだ。 であった。 というのは、そのとき、一体のロポットがシェドに近づいて そうはいうものの、ヘンゼル CQ のためにいっておくならば、ヤ来て、伝えたからである。 トウは完全に疎外されているのではなかった。船の原住者たちの担「連絡します。ふたりの原住者が、もっと魚が欲しいと要求してい 当に加えてもらえないとしても、彼は間違いなくこれから交渉団のます」 一員になる人間なのである。そのため、交渉の計画や準備のための「 : ・ 船上の団員会議にはいつも出席を求められたし、その会議がシェド 振り返ったシェド no に、ロポットはつづけた。「ご命令に従っ の報告中心のものであることも、すくなくなかった。彼が、原て、私は自分で返答はしませんでした。そのため原住者たちは、な 住者たちと直接接触を持ったわけでもないのに今のように何かと知るだけ早く、返答出来る者に会わせろといっています」 識を得ていたのは、そのためなのである。 横で聞いているヤトウには、なぜロポットがそんないいかたをす もちろん、彼は、原住者との接触を避けているのではない。なろるのか、分り過ぎるほどであった。シ = ド ( ではなく、他の誰 うことならば少しでも早く自分自身とそれにとで、原住者たちかかも知れないが ) は、原住者たちと直接折衝出来そうなあらゆる と話し合い、近くから観察してみたかった。それが当然の好奇心と場面を逃がしたくないので、面倒を見る係のロポットに、 1 」、つ - い、←ノ いうものであり、ことによれば自分たちだけしか気がっかなかった メッセンジャ 1 的な役目をさせているのである。こういう用の中に ようなことを発見出来るかも知れないとの、ひそかな自負もあるか は、ロポット自身で充分処理可能なものも多いだろうが、あえてそ らだ。・、 カ : : : 彼は、ヘンゼルやシ = ド mo に頼み込んでそうさの能力を使わせないようにしているのだ。ロポットの使用法として せてもらうことはもとより、自分がそれを望んでいるという態度をは拙劣な、無駄の多いやりかたである。それに、ある程度以上のレ あからさまに見せることもしないよう、努めて来たのだ。かれらのベルのロポットにとっては、しよっちゅうこんな制限された使われ 作業に割り込もうとして妙な警戒心を持たれるのは馬鹿げているかたをされていることで、欲求不満に似た感覚を抱きはじめる場合 し、いすれチャンスが到来するだろうからである。よしんば目的地も珍らしくないのだ。そして時として、そういう欲求不満を持った に着くまでついに機会が得られなかったとしても、それならそれでロポットが、次に全能力を発揮しなければならぬ仕事を与えられた

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つまりは、これはシ = ドもまた、連邦軍の一員であるという ことであろう。人類のまぎれもない先兵である連邦軍の、そのメン 2 ( 承前 ) ーである軍人たちが、人間中心、人間偏重の感覚を持つのはやむ 「そういう状態にあるとすれば、各島はお互いに刺激し合 0 て競争を得ぬたりゆきであるが : ・ = ・生え抜きの軍人ではないシ = ドも し、島群域全体が活気にみちた開明的なものになっているでしょまた、その影響から脱するわけには行かないのに違いなかった。 だからこそ、司政官制度などというものが必要になって来たのだ いいかえればそれは先進的でもあるということだから : : : わた と、彼は思う。ひとつひとつの惑星世界は、それそれ別の歴 したちが訪ねて行っても、これまでのようにむげに拒絶されないで 済むかも分らない。その点、わたしたちが救助した原住者たちが史、別のルールを持った存在である。そこではその世界のための見 海域Ⅱグループの、ーーかれらのいうタガノヤの人々だったのは、幸方や考えかたややりかたがあるのだ 9 その世界ごとにその世界用の 運だったといえるわ」 生きかたがある。人類本位のままでは、結局は行きづまるはずなの シ = ド gao はつづける。「でもまあ、考えようによっては、これで : : : それゆえに司政官とロポットたちが送り込まれて、その世界 に所属して仕事をしなければならないのである。 は逆に厄介なのかも知れないわね。なぜって、かりにそこがそうい もっとも・ : ・ : だからといって彼は、シェドÄO に反論したり文句 う気風だったとすれば、かれらは商業的駈け引きにも長じているに しいようにあしらわれる可能性もをつけたりするつもりも持たなかった。彼女の発言は現在ではちゃ 違いないから : ・ : ・ヘたをすると、 んと筋が通った正統的なものなのである。というより、司政官的な あるもの。そうじゃない ? 」 思考ーーー人類側からその惑星世界を眺めるのではなく、惑星世界側 「あり得ることですな」 からの目を持たねばならぬという発想が、まだ発想としてもお先走 彼は応じた。 りであり、一般的に認められるところまで行っていない、というだ が : : : もちろん彼は、シェドの言葉を全面的に肯定する気は なかった。シ = ド no の推測というのは、所詮、人間が人間自身をけの話なのであった。 それに、受け取りようによっては、シェド式の推測は、決し 基準にして作った公式の応用である。よその生物にもあてはまると はいえないのであった。いや、あてはまらないのがむしろ自然であて無駄でもお遊びでもなくなるのである。つまり、そうした予想が ろう。姿かたちが似ているからとい 0 て、それが人間と同様の特性くつがえ 0 たとき、くつがえりかたを分析することで、逆に、原住 なり考えかたを持っているとは限らないのだ。これまでの多くの惑者たちの特徴を把握出来るという面があるのだ。 と : : : 彼がそんなことを考えた間に、みじかい沈黙が生れてい 星でそうであったように、今回もまた、人間には予想出来なかった ような先方の条件というものがあって、ために人間側の想像や仮定た。 「ま、でも : : : 正直なところ、実際に目的地に到着してみるまで は完全に的外れであったという結果になることも考えられる。 幻 9

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復元しようという試みは、専門の学者にとってはおそろしく誘惑的るはずよ」 なテーマであろうが、今のミローゼンにはまだそんな専門家は来て ロポットが、それを伝える。 おらず、その種の研究は他の多くの命題と同様、だいぶ先の話なの しかし、原住者たちは、納得出来ないという表情で、しばらく黙 であった ) そんなわけで、このときロポットが喋ったのも、かねてったままであった。 から集めある程度のかたちまで体系づけようとしていた基本型に、 ャトウは、そうしたやりとりを横から見ているほかはない。 漂流していた原住者の言葉を繰り入れた、この二名との会話専用と彼の目には、ふたりの原住者は同じようにしか映らなか 0 た。一 もいうべき言語だったのである。だが、それさえも、はじめはもっ メートル十か十五という背格好も似ているし、顔つきも同様なので ばら言語構成分析装置の助けを借りなければならなかった。現在である。彼はシ = ドから、ふたりの名前を聞いてはいた。ひとり はだいぶ進歩したとはいえ、ロポットが何とか会話らしいものが出がネケテーヤで、もうひとりがドロヤンニなのだそうだ。本当をい 来るようになった段階であり、人間のほうは担当のシェド mo でさうと、これは正確ではなく、正しくは、かたやネクエ・テ・ウィャ え、身振りまじりの片言で意志を伝え合うという状況である。もつであり、もう一方がドウル・オヤン・ニであって、それをふつうに ともシ = ドÄO にいわせると、単語のイメージや使用法に制限のあ発音するとネケテ 1 ヤとドロヤン = になってしまうので : : : しか るロポットの論理的な会話よりも、人間の片言でのほうがしばしばし、どちらがどうだと教えられたところで、原住者たちが少し動き 原住者とのコミ = = ケーションには有効な場面があるとのことなの廻り、位置が変化してしまえば、もう識別は困難になりそうだっ で : : : 彼にはそれもありそうなことだという気がしていた。 た。ふたりとも基地島で支給した同じ色の同じ形態の、前で合わせ ロポットの声に応じて、原住者たちは立ちあがり、仕切りへ寄って紐で締める上衣と太いズボンを着用しているのが、その感じを一 て来て、内側の留め金を外した。 層強めている。 ロポットとシェド O 、それに彼は中へ入った。 原住者のひとりが、やっと返事をした。 原住者たちは、立ったままで : : : すぐにロポットに、何か話しか「もっと欲しいそうです」 けて来た。 と、ロポット。 「もっと魚を呉れといっています」 「な・せ ? 」 ロポットが通訳する。 シェド no がまたたずねる。 シ = ドには、原住者が使った単語によって、その前に分って原住者たちは顔を見合わせ、どちらからともなく、先刻かれらが いたらしい。彼女は小さく頷くと、原住者を向いたまま、問いかけすわり込んでいた場所へと歩きだした。そこへ来ると、かれらは交 こ。 互に甲板に並べた魚を指して、喋りはじめたのだ。 「どうしてそんなにたくさん要るの ? われわれは充分供給してい 「太陽のカで水を抜いて : : : 干して、貯えるといっています」 226

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要もない、と、そういう制限をつけているのがヘンゼルの徴妙いうところであり、身体に比較して大きな頭を持っていて : : : その 表情も顔をしかめた小鬼という印象だったから、どうしてもおとぎ 2 な本音というものであろう。 2 彼はロポットとシェド O につづいて、細い階段を降り、せまい話の世界を想起してしまうのである。しかも、おとぎ話それだけで 短い廊下を抜けて、いったん外へ出てから舷側づたいに後尾甲板へはなく、当然ながらそこには奇妙な現実感もあるので : : : かれらが 長く伸びた髪を振の立て、無心に作業に熱中しているのをしばらく 来た。 甲板の一角が仕切られて、原住者たちはその中と、 . それにつづくみつめていると三・ : 異様な、一種形容しがたい混合した気分に襲わ 部屋を与えられているのだ。仕切りといっても、それは原住者の胸れてしまうのであった。 ぐらいの高さであり、一部は舷側になっているのだから、原住者と「呼んで」 しては囲われ隔離された気分にはならないであろう。そう計算して シェド O が短くいうと、こちらのロポットがビー 作られたのだが : ・ ・ : かれらがその措置をよろこんでいるのか不満なや高い音を二回っづけて鳴らした。 原住者たちは顔をあげて、手をとめる。 のかは、何の意志表明もしないので、人間側にはいまだに分らなか った。けれども、囲いの外からあまり長い間じろじろと内部を眺め しかし、ロポットが発したその音は、単に注意を惹くためのもの るのは、どうしても動物園の動物を見るような感じになってしまうであったらしい。ロポットは次に ( 」単音節の多い言葉で、また何か ので、ヘンゼルは、とりたてて用のないときにはそんな真似ををいった。その言葉はむろん原住者語ーー人間側の一方的な呼び名 しないよう、みんなに申し渡していた。シェドもそれと同意見に従えばミローゼア語である。が、実は調査をかなりの期間やって だったし : : : で、 , ・こうした、観察しようとすれば必ずしも無理では いる連邦軍の人々も、正確な意味でのミローゼア語というものは、 ない状況に原住者たちが置かれているにもかかわらず、ヤトウがそまだ発見していないのだ。原住者たちの言語というのは基本構造は んなに詳しく眺めたことがなかったのは、そういう事情も手伝ってほ・ほ同一でも、島群域によって随分ことなっていることが、これま いたのである。 でにたしかめられているので : : : それがまた、原住者たちが元は大 一体とふたりは、その仕切りの外側へ近づいた。 陸に住む共通の文明を持っていたのが、海進によって分化孤立し、 仕切りのこちらから眺めると、原住者たちは中央部にうずくま以後相当な歳月が経っているに違いない、との有力な論拠になって り、せっせと手を動かしている。 いた。そう考えて来ると、あるいはもう、全島群域に通用するミロ どうやら、魚を並べているらしいのだ。 ーゼア語というのは存在しない可能性もある。強いてそれを求める はたのことには一切目をくれず、そうした作業に熱中している原とすれば過去の、原住者たちの共通標準語しかないわけだが、それ 住者は、ヤトウに、昔どこかで見た戯画や、古い物語を連想させが原型で残っているかどうか : : : 残っていたとしても、すでに局地 た。それというのもふたりの原住者は、身長一メートル十か十五と的な言語に転落している公算が強い。 ( この、元の共通語を探索し ビーと、や

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は、はっきりしたことは何もいえないわね」 ・前回のあらすじ シェド 0 がまたロを開き、小さな溜息をついた。「それにして 司政制度の黎明期、司政官ャトウ・ P--{A-'X ・キーンは惑星ミロー も : : : あのふたりがもう少し協力的で開放的なら、いろんな手がか ゼンに赴く。連邦軍の惑星駐屯部隊と協力して、該惑星への植民の りもっかめるし、それなりの準備も出来るのに : : : 」 適否を調査するのが任務であった。しかし、居住可能惑星の多くが いまだ軍政下にあり、司政制度への移行が緒に就いたばかりのこの シェド mo のその言葉は、彼に向けられたのではない。どちらか 時期、駐屯隊に対するヤトウの立場には微妙なものがあった。一 といえば、ひとりごとであった。 方、ミローゼンには数万の島々が散在し、各島群域ごとに閉鎖社会 彼女のいう、あのふたりとは、船に乗っている二名の原住者たち を形成しているため、調査は容易に進展しない。そんな矢先、漂流 である。 していた二名の原住者を救助した駐屯隊は、彼らを故郷に送り届け 原住者たちは、船尾の一室をあてがわれて、そこで起居してい ることで、原住者との交流を計ろうとする。その調査行に、形式的 る。といって、いつも部屋の中にいるのではないので、しばしば甲 にではあるがヤトウも同行を依頼される。そして今、ヤトウを乗せ た船は原住者たちの故郷タガノヤへ向けて航行しつつあった。 板に出て来ては、やりたいことをしていた。やりたいこととはいし 条、どうやらそれは原住者たちにとっては、そうしなければならぬ 義務か習慣のように見えるため、人間側では作業の支障にならない ころか、かれらをタガ / ヤと称するその故郷へ送り返すには、船を 限りは、何もいわないことにしていた。そこには、かれらがこれだ持ち帰るのが前提条件にな 0 ているような趣きさえあ 0 た。かれら けの大きさの、しかも推進機関を備えた金属船に乗るのはおそらく にとって自分たちの船はそれほど大切なのであり、また、それだけ はじめてだろうから、戸惑いもあるだろうし、すぐには船内の様子の事情もあるのだろう ( そのことはあるいは、原住者たちが船一隻 に順応出米ないだろうとの、同情に似た心理もはたらいていたのでも重大であるというような乏しい生活を送 0 ているのを示してい は、たしかである。 るのかも分らなかった ) ーーーと、そう判断した上での、妥当と思わ かれらが漂流していた船は、この二号船に曳かれている。小柄なれる措置だったのである。 原住者をふたり乗せて幾何かの荷を積めばそれでもう一杯の、屋根もっとも、だからといって今度の航海中、かれらを元の船に乗せ もない小さな帆かけ船なのだ。漂流を発見したときにはその帆柱もるわけには行かなか 0 た。もともとその小船が日帰りか、長くても 折れており、船体もぼろ・ほろになっていたが、それらは基地島で修せいぜい二日間ぐらいの出航のためのものであるのはあきらかであ 理され、今ではまた使用に耐えるようになっていた。人間側としてり、それ以上の日数を船上で過ごすには無理があるのである。漂流 はそんなに傷んだ船に手を入れるよりも、廃棄処分にして、原住者の何日か十何日かを原住者たちが乗っていたのは事実であるけれど だけを送り届けるほうが経済的だったけれども、当人たちが自分らも ( かれらが何日波間に浮かんでいたかについては、かれら自身に の船に執着して、どうしてもうんといわなかったのである。それども確とした記憶がないようであった。話し合いの担当者になってい 2 20