ハール - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1980年3月号
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1. SFマガジン 1980年3月号

「それにしても、なぜ作戦は失敗したのですか ? 」 「四元数を重視しなかったからだ」 「ポスはとうに気づいておられたのでしよう ? 」 「むろんだ。提案書にはカッコづきで記入しておいた」 「では、なぜ 2: 」 「事務手続きの過程で忘れ去られたのだろう。わたしには、その欠 落を補足する力がなかったのだ : : : 」 老練にして老獪なハール司令室長は、コイズミの追放に賛成する ことによって、単独でコイズミの話をきくチャンスをつくったのた。 「ポスは力があります。いまに、かならず奴らを見かえすことにな そうでもしなければ、幾重もの組織の壁をつきぬけて、司令室長 りますよ」 「それはどうだか : いずれにせよ、わが宇宙船『オロモルフ号』が嫉妬の嵐の中にいる一介の戦闘技術部スタッフとさしで話すこと の正則性の崩壊だけはふせぎたいものだが : : : 」 など、とてもできる相談ではなかったのである。 コイズミは艇外の宇宙に眼をやった。舷窓から、″時空の涯″の コイズミはハールの小型船に乗りうつり、わけを話した。 ハールはゆっくりとうなずいてから、言った。 一部を望むことができた。 「このようなことは、二度とできることではない。もしきみの最後 そこには、無数の『オロモルフ号』を見ることができた。 正確にいえばそれは残像だったが、エネルギー・運動量テンソルのこの提案が成功したら、ガポール部長を介しての進言であったこ とにして、間接的にきみの成果を公けにしよう。しかし、そういう を有しているという意味においては、本物であるともいえた。 累々として横たわるそれは、″漸近級数法″の項と鞍部の数をあ手練手管は一回かぎりしか効果のないものであることを知っていて もらいたい」 らわしていた。 「わかっております」 おそるべき浪費である " ・ 「スタッフ会議以外の場所できみと話すことは、今後永遠にないだ そのとき、コイズミの哨戒艇のあとを追うようにして、一隻の小 「そうでないことを望んではおりますが : : : 」 型船が疾走してくるのがみとめられた。 ハールはそう言うコイズミをじろりと睨み、対話をうちきった。 「だれの船だろうか ? 」 そして、その船の装置を介して、必要とする各部に指示をくだした。 コイズミはガモフにチェックを命じた。 それは、誤りをおかすことを知らない二〇世紀末の大秀才、ダラ 「わかりません」 ン・ヘルト船長を、・せったいに傷つけることのない、巧妙きわまりな ガモフは茫然としていた。彼の。ハンクにはみあたらない船たった のだ。 しかし、船籍はすぐに判明した。先方から呼びかけてきたのだ。 「ハ 1 ルだ。コイズミと話がしたい・ 幻 5

2. SFマガジン 1980年3月号

フーリエは、黄色いしわの奥にある鋭い眼をほそめた。 ハール室長の閉じられていた眼がほんのすこし開かれた。憂鬱そ 「ただし、古典数学を物理的状態にあてはめるとぎ、″誤差の集 うな口もとにかすかな苦笑がうかんだ。 積″という問題がつねにひきおこされることを覚悟しなければなり そのとき、ジロウ・コイズミが到着した。 冫いません」 コイズミはかたい表情のまま、ぎくしやくと一礼し、席こっ フーリエは眠を見開いた。眼球は血の色だった。しかし、フーリ フーリエはそのコイズミを一警もせず、ハール室長にくいさがっ 、、ール室長が口をびらいた。 工が反論するまえに 「その誤差の定量的なみつもりは 「室長、室温の上昇は急です。はやくダラン・ヘルト船長におとりつ「ざんねんながら、未計算です。あまりにも項数が多いのです。な にしろ、無限を有限で類推するのですから : : : 」 工をたしなめるしぐ「わかった」 べイトマンが大げさに両腕をふって、フーリ さをした。そして陽気な声で、コイズミに話しかけた。 ハール室長はうなずいた。そして、後方にひかえていた事務係官 「会議の途中できみに来てもらうように提案したのはわたしなんだを手まねきした。 ・ : 問題は、きみの手もとにおいてあるフーリ 工の作戦提案書なの 工の作戦を実行にうっす意志をかためた ついにハールは、フーリ だ。きみの考古数学者としての見解をきかせてほしいのだ」 らしい べイトマンの口調は明るかったが、その言葉のはしはしに、フー フーリエは幽鬼のような眠で、一同を睥睨した。 リエの強引さに僻易しているようすが感しられた。 コイズミはかすかにため息をついた。 「分析装置を作動させかけていたところだったので、遅れて申しわ フー丿工の作戦は明らかに危険だが、そうかといって対案を出せ けありません。正式のスタッフでないにもかかわらず、このようなる段階にはない。また、最初の作戦を中止してから次の案を練るこ かならず、″よ 重要な会議にお招きいただいて、光栄です」 ともできない。ひとつの作戦を中止するためには、 コイズミは杓子定規にあいさっした。そして、あいさっしながり良いと仮定される作戦を提出しなければならない。そうしない ら、フーリ 工の提案書に目を通した。それは、案じていたとおりのと、前の作戦の最高責任者であるダランベルト船長が責任を問われ ることになってしまうのだ。 ものだった。 二個の発散級数の和をとり、項順を変更することによって、発散それは、巨大な組織の宿命であった。 ( その次の作戦までのつなぎとして、フーリエの案が時間をかせい 領域を収束領域に変えてしまおうーー・という内容たったのだ。 でくれるといいのだが : : : ) 「純古典数学的には誤りはないと思います」 コイズミは祈るような気持ちでいた。 コイズミは渇いた声で意見を述べた。 9

3. SFマガジン 1980年3月号

しようーーーというものです。発散をむりやり収束に直すよりは、発はぬきにしてのことだった。 散を許したまま近似してしまったほうが、″自然″なのではないで 前戯をぬきにしても意見はまとまるだろうーーと老獪なハール司 。しよ、つ、か : 令室長が判断したのだろう。 「わたしはきみの方法に賭けよう。どうやら、他の部門での万策は なにしろ、これまでの作戦実行で、どの部も痛いめにあってい つきているようだから : : : 」 る。多少なりとも優れた案が出れば、賛成せざるをえない状況に追 「ありがとうございます」 いこまれているのである。 隣にいたゲ・ゴルヒが口惜しそうに言った。 ジロウ・コイズミは、息をのんで、ガポール部長室の近くに待機 「コイズミくんが何かを提案することは、それがどういう内容であしていた。やがて、ガポールは足どりも軽く帰室してきた。あいか ろうと自由だ。しかし、採択されるかどうかは、またべつの問題でわらず、かん高い声でしゃべりまくっている。 あると考えていただきたい」 「コイズミ、見ていなさい。こんどこそはやってみせる。″時空の そのゴルヒのがんこな顔つきを見て、ケラーは苦笑し、そして、涯″とやらを完膚なきがまでに崩壊させてみせる。微分不可能な宙 意を決したように言った。 域をこの宇宙の中に許してたまるものか ! 」 シンセシス 「この件については、わたしカノ : 、ール司令室長に話そう」 「構成の担当はきまったのですか ? 」 コイズミはほっとして天文学部を退出した。 コイズミはたずねた。心配だったからだ。 ハール室長まで 帰路のロケットから眺める船内のそこかしこで、暴動がおこって「天文学部長のケラーが直接のりだしてくれた。 けんこんいってき が、コン。ヒュータをチェックされている。まさに乾坤一擲の大勝負 茫然としてその光学に視線をやりながら、コイズミの心に、新た な不安がわきおこってきた。 ガポール部長の気負いこんだおしゃべりをききながら、コイズミ テトラクテエス 四元数についての認識を、部長連中はどれだけもってくれるであは、べつのことに思いをめぐらした。 ろうか : 四元数が無視されて、もっと多い数字・ーー一一とか一三とかの不 吉な数字ーーが採用されてしまわないだろうか 0 コイズミは自分の研究室の総力をあげて、『オロモルフ号』が採 用するであろう作戦の構成の骨格を探ることにした。 、、ール室長もガ ケラーにはそのことはよく伝えてあるわけだし ・ケラーとハール司令室長との要談は、短時間ですんだようだ はずなのであるが、長年の経験 ポール部長もよく知っている じきに、部長たちが船長室に呼びだされた。むろんスタッフ会議で、重要事と些細事の転倒がこのようなケースではかならずおこる 2 に

4. SFマガジン 1980年3月号

のだ。だからわたしは、ひょっとしたら、成功するかもしれないと「わたしの部の被験者のひとりが、空間に記号を描出しました。そ テトラクテュス 考えていた。だが″時空の涯″は、総和法というカッコでくくるにれは四元数でした。これは何を意味するでしようか ? むろん偶然 は、あまりにもその発散性が強力すぎたのだ : : : 」 とは考えられません。被験者の超心理はすみずみまでメロモルフィ 「たしかに、″チ = ザロ・ロポット″は地球の応用数学の成果であックであることが験証されています。すべては徴分可能なのですよ」 ったらしい。地球上のチマチマした数学が宇宙の涯で役に立つはずプール ( ーヴ = は身をのりだした。この予言工学部長は大柄な = はないんだ。死んだザビエルには悪いが : : : 」 グ戸イドで、眠球が異様に大きい 「いや、そうとはかぎらない」 = イズミは、なげやりになったべイ「それはわたしの部の最近のデータと、まったく一致しています。 トマンをはげました。「わが『オロモルフ号』の正則性を信ずるか コン。ヒュータの出力の、四元数のタイプアウトの頻度が指数関数的 ぎり、地球文明の理性と狂気による問題の解決法はかならず存在すに上昇してきているのです。とくべつの心あたりはないのですが : る。そしてその解決法は、これまでの方法のすぐ近くにあると思 う」 ハン・サイコウは坐りなおした。 「きみは、なにか発見したのか ? 」 「すると、やはり、今回の事件″時空の涯の解決法になにか関係 べイトマンはコイズミの自信にみちた声に、おどろいてたずねがあるのでしようか : ・フールハーヴェは白い歯をみせた。 「あるいはしからん・ー・ーというところだ」 「おそらく、予言コンビュータの論理機能が、なにかを探りあてた コイズミはべイトマンをそこにおいたまま、大またで部長室を出のでしよう。そして、まだ、それが何であるかは、コンビータ自 身にもわかっていない。そのため、暗示的な出力を、とりあえず表 愛すべき部下ガモフを相手に、最終的方法のパターン化の最後の示しているのでしよう」 ツメを推進するために : 「やはり、そうお考えですか : : : では、さっそくにでも ハール司令 室長にお伝えしたほうがよろしいでしような」 その翌日、コイズミの属する戦闘技術部とはまったく異種の領域「うむーーこ・フールハーヴェは漆黒の掌をにぎりしめた。 に居をかまえている予言工学部の部長室で、予言工学部長の・フール れはそうだが、わたしは、ダランベルト船長に直接報告したほうが ーヴェが、ひとりの来客と話しこんでいた。 よいと思う」 客は、超心理学部長のハン・サイコウだった。 「では ? 」と、ハン・サイコウは首をかしげた。「 ハール室長 ハン・サイコウは、行者のような風貌で、瞳をらんらんと輝かせをぬきにして ? 」 ていた。 「いや、そうはいかん。あの老獪なハール室長が、そんなことを許 幻 0

5. SFマガジン 1980年3月号

ゲ・ゴルヒ部長は、同室していた・・フーリ 工の制止の手を念していたのだ。 コイズミは舌うちしながら準備した。準備といっても戦争や格闘 ふりはらうと、自分の部に帰るための自家用ロケットに向かおうと した。 の準備をするわけではない。 ガモフが操作させてくれていた分析装置から、構成理論部の歴史 しかしそのまえに、両部の戦闘部員たちの間でこぜりあいがはじ をあらわすアウトブットだけを選別して、ファイルの形にしたの まっていた。 混乱はしだいに大きくなった。へたをすると、死者までが出そうだ。 な雲ゆきである。 コイズミはそれをわしづかみにすると、 ・・フーリエはゲ・ゴルヒ部長の後を追っていったんは応接「分析をつづけていてくれ、ガモフ」 とだけ言い残して、不満そうにぼやくガモフをふりむきもせず、 室の外へ出ていたが、さすがに他部の部長をどなりつけるわけにも いかず、血の色の眼をむいたまま、応接室にもどり、チュオンリ船内ロケットにとび乗った。 コイズミの所属する戦闘技術部の部長室の作戦塔からは、ニュー ン部長と何事かをささやきだした。 ヨーク・シティほどもある部内の全景が見渡せるようになってい どうやら、強引な手段を相談しているらしい ガポール部長はそこから戦闘を指揮するのだが、いまはまだその そのころ、自分の研究室にもどって分析を再開したばかりのジロ ウ・コイズミのところへ、ガリレオ・ガポール戦闘技術部長からの時期でないので、手もちぶたさのようだった。″収東半径増大法″ あわただしい呼び出しが入っていた。 というのは単なるエネルギーの放射だから、単純すぎて部長として ガポール部長はヴィジプレートに全身をさらし、ロからあわをとの活躍の余地がないのである。 ばした。 ガポール部長はコイズミの顔をみるなり、しゃべりだした。そし ま、ハール司令室長から依頼があった。窮理学部と構成理論部てしゃべりながらロケットにのり、窮理学部へと向かった。 とが戦争をはじめないよう、睨みをきかせてほしいというんだ。理動いていることの好きなこの部長は、とにかく事件があると嬉し 由はコイズミにきけばわかるということだった。わたしはすぐに行くてしかたがないのだ。 「ハール司令室長は、きみに聞けばわかるーーと言っていたが、な くが、きみもついてきてほしい」 話の途中で、コイズミはもうヴィジプレートの前をはなれ、出発にがおこりそうなのかね ? 」 「窮理学部と構成理論部とは、昔から仲がわるいので有名です」 の準備をしていた。彼は内心、 「それは部長であるわたしがいちばんよく知っている」 ( しまったリ ) と思っていた。とうぜん予想しなければならないことを、つい失「こんどフーリエが提案した″収束級数化法″という作戦は、むろ

6. SFマガジン 1980年3月号

ことを、認識していたからである。 複素空間の鞍部数がふえればふえるほど、″時空の涯″の嘲笑 自室にもどってガモフの分析結果を見るコイズミの顔は、しだい は、驕り高ぶったものとなった。 に蒼白なものとなっていった。 『オロモルフ号』の船内では、ジロウ・コイズミががつくりと肩を おとしていた。 だが、なんとかしなければならない ! ふくれあが 0 た " 時空の涯の前で、世紀末地球文明の象徴であ る宇宙船『オロモルフ号』は苦闘を再開していた。 コイズミは意を決して、ハール司令室長への面会を求めることに 球型にちちこまった船体の前半分から、エネルギー・運動量テンした。むろん通例では許可されるようなことではないが、いまは罰 則を考えているような時ではないのだ。 ソルが奔流となって噴出し、″時空の涯″にむかった。 肥大した″時空の涯″の境界に接して、複素空間が形成された。 コイズミが司令室に連絡をとろうとしたとき、ガポール部長のあ その複素空間に、巨大な鞍部がきずかれた。 わてふためいた姿がヴィジプレートに映った。 ″漸近級数法″がはじまったのだ。 「ざんねんなことになった」 ガポール部長は人の良い顔をゆがめた。 テンソルのビームが、その鞍部にそそがれた。鞍部は脈うった。 積分が近似されている証左である。その脈うちとともに、″時空の 涯″がいくぶんか後退したようにみえた。 『オロモルフ号』の船壁にへばりつくようにしてただよう哨戒艇の 『オロモルフ号』は勝ちほこった。 内部で、ロポットのガモフが口をとがらせた。 ひとつの鞍部の向こうに、べつの鞍部がきずかれた。それを、ま「こんなバカなことってありますか ! 」 たもテンソルのビームが照射した。 「殺されないだけでも運がよかったと思わなければならん」 鞍部の構築はつづいた。 コイズミは自分に言いきかせるようにつぶやいた。 鞍部の数はふえた。 「でもーーー」とガモフは言った。「 , ーーチュオンリンやゲ・ゴル ヒがポスを憎むのは推量できますが、ケラー部長やハール司令室長 その数が″一〇″をこえたとき、いったんは鞍部の群の向こうにまでが、ポスの船外追放を支持するとよ、、 。しったいどういうわけな 後退しているようにみえた″時空の涯″が、ふたたびせりだしてきんでしよう ? 」 た。『オロモルフ号』は船体を球形にちちこまらせたまま、狂気の コイズミは苦笑した。 ようにエネルギー・運動量テンソルを噴出しつづけた。 「宇宙船『オロモルフ号』のようなビラミッド組織の意志決定機構 だが、肥大を再開した″時空の涯″は、その狂態を嘲笑するかのがもつ、これは宿命だ。ガポール部長としても、 いったんはわたし ように座標をゆがめ、『オロモルフ号』を圧迫した。 を外へ出したほうが、被害が少ないと判断したのだろう」 サドル 幻 4

7. SFマガジン 1980年3月号

べイトマンは緊張して答えた。 「フアドル・ザビエルが不幸な死にかたをしたいま、問題解決のカ ギをにぎる″チェザロ・ロポット″を操作することのできるのは、 「一種類のみです。発散級数の発散を強引におさえて " 総和。を可 考古数学者のドクター しくつもの種類が知られていますが、このロポ ・コイズミと、現代数学を専攻するわたくし能にする方法には、、 と、この二人しかおりません」 ットが地球からたずさえてきたのは、″チェザロの総和法″一種類 フ 1 リエが不快そうにせきばらいをした。 のみです。したがってわれわれは、ただひとつの方法に賭けなけれ ばなりません」 ・ヘイトマンは無視してつづけた。 この説明に対して案の定、・・フーリエがかみついた。 「ゲ・ゴルヒ構成理論部長は、わたしとコイズミとに、その操作を 依頼されました。わたしは了承しました。コイズミくんも協力を約「総和法はたしかに一法だが、あの″時空の涯〃が″チェザロの総 しました。しかし、真に実行にうっすためには、スタッフ会議を介和法〃を受け入れるものかどうか、まったく証明がない。もし、ち がっていたらどうする」 して、ダランベルト船長の命令をひき出していただかなければなり ません・ : : ・」 フー丿工の病的な黄色い顔は、くやしさでみにくくゆがんでい 「作戦の要点を ! 」 「それについては若干の検討をしてみましたがーー」・ヘイトマンは 情報総合学者のアーベルが、小賢しげな態度で、うながした。 口調を変えずに答えた。 「ーーーすくなくとも逆の効果はないと判断 べイトマンは一瞬、眉間にしわをよせたが、気をとりなおして、 できます」 話した。 「″チェザロ 「逆の効果とは卩」 ロポット″はここにあるとおりのものですがー・ーー」 べイトマンは後方に置かれている仏像のような金色の小さなロポッ 「もし、″チェザロの総和可能化法″が失敗におわったとしても、 トを指さした。ロポットは小さく一礼した。「 このロポットをそのために『オロモルフ号』が被害をこうむることはない 工の提案された″収東級数化法″と決 探索して得た情報は、このロポットが、″総和可能化法んとでも呼うことです。その点はフーリ ぶ・ヘき作戦を構成する能力をもっているということでした」 定的にちがっています」 「発散級数を総和してしまうのかね ? 」 「あれはちがう ! 」フーリエはしわがれた声で絶叫した。「ーーあ コールドウエルが蒼白い小柄な身体をのりだした。 れは構成理論部の非協力が原因たったのだ。窮理学部に責任はな 「そうだ」 。まして作戦自体がわるかったわけではない ! 」 一同、眉をしかめた。 べイトマンはうなずいた。 アー・ヘルがハ 1 ル司令室長をうかがった。 「方法は一種類なのかね ? 」 ハール室長は言った。 ハール室長が、核心にふれた質問をした。 ネクシャ

8. SFマガジン 1980年3月号

間というもの、強大きわまりない″時空の涯。にむかって、たよりようにみえた。 なげな攻撃をしかけていた。 むろん″涯はびくともしなかった。 『オロモルフ号』がしかける攻撃のエネルギー・運動量テンソル は、しだいに増大していった。 司令室長室におけるスタッフ会議は、びらかれたばかりだった やがてそれは、ひとつの星雲の誕生にも匹敵するほどのものとな が、はやくも活気を失っていた。 ハールが、太し 広い会議卓の中央には、司令室長のエドモンド・ 『オロモルフ号』の周辺で時空がはげしくゆがんだ。そのゆがみが腕を組み、半ば眼を閉じたままで、どっかと腰をおろしていた。 伸びて、″涯〃の手前がわを強打した。 浅黒い大きな顔が憂鬱そうにみえる。 ″時空の涯んは、はじめて、かすかなひずみをみせた。座標がゆ しかし、焦っているようすはうかがえなかった。 4 わ - 、・こ 0 ハールに向かって右がわのテーブルには、情報総合学者のニール 横方向には果てしなく延長されているその見えない壁面に見えたス・ヘンリック・アーベルと、現代数学者のポール・トレビア・べ エネルギー・運動量テンソルのゆがみは、そっとするほど醜悪だっ イトマンとが腰をおろしている。 一方、左がわのテープルには、右がわの二人と向かいあう形で、 まさに、天界の邪悪が、その顔をのそかせたのだ。 古典文学者の・・コールドウエルと数理人類学者の・・フ たが、それだけだった。 1 リエが坐っている。 いま、しゃべっているのは、右がわのアーベルだった。 宇宙船『オロモルフ号』は寸余も前進することができず、逆に、 「収東半径を強大なエネルギーの流れによって押しひろげようとす 自己の発するエネルギーで灼熱した。 紡錘型だったその巨大な船体は、熱の侵入をさけるために球状にる考えは、たしかに、オーソドックスなものではありますーーー」ア ーベルの色白な顔に表情はなかった。この秀才の発言は、まるで法 変形した。 それでも熱は船体を襲い、『オロモルフ号』はポルツマンの輻射律書でも朗読しているようである。「ーー - ・・しかし、かって地球の専 で一個の天体と化した。 門家たちが立案した本船の就航技術書は、対象を、宇宙における孤 破減から身を守るためには、後退しかないでよよ、 立した有限の障害としてしかとらえてはいません。だが、今回の対 象はちがう。それは、おそるべき″無限″の存在です。たしかに技 ″時空の涯″は座標をゆがませて嘲笑していた。 術書は技術書だから、第一回の作戦としては″収束半径増大法″を それは、冷たい邪悪な嘲笑だった。 その嘲笑のまえにあっては、幾百億の星々のすべてが、凍結した試みる必要性はあったでしようが、結果がこのように明瞭になった こ 0 コーディネイト 2 テク

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い方法だった。 窮理学部長のチュオンⅱリンですら、自分の提案の作戦が予備作 すべてが自然のうちに処理され、宇宙船『オロモルフ号』の機能業として重要であったことを誇った。 は活気をとりもどした。 予言工学部長のプールハ 1 ヴェは眼球をさらに拡大させて、宇宙 の正確さを強調した。 これまでとはべつの形で、エネルギー・運動量テンソルが船壁か構成理論部のゲ・ゴルヒ部長は、チュオン = リンに対するやんわ ら奔流し、複素空間に鞍部ができた。 りとした皮肉をまじえながら、″チェザロ・ロポット″の効用を説 鞍部は″時空の涯″にへばりつくようにして、四重につくられ いた。これらに対する、天文学部長の・ケラーや精神学部長のキ た。さらに、その横に、三重の鞍部、二重の鞍部、そして一重の鞍ヨシ・イグサの演説はあっさりとしたものだった。 部がつくられた。 やがて、戦闘技術部長の番がまわってきた。 ガポール部長はとくいの早ロで、自分の部があらゆる種類の作戦 テンソルのビームは急流となってその鞍部の群にそそがれた。ビ テトラクテュス に貢献したことを強調した。 ールの積分値がますにしたがって、四元数型の鞍部と″時空の涯 との境界があいまいなものになっていった。 話がおわりそうになったとき 、ハール司令室長がガポール部長に 『オロモルフ号』は号泣した。 さりげなく耳うちした。 ビームはさいごの脈動をみせた。 ガポール部長はあっさりとうなずいて、コイズミを指名した。 テトラクテュス 「さいごの作戦である。″漸近級数法″の立案者のひとりであるド そしてついに、四元数型の鞍部と″時空の涯″とは融合した。 ・コイズミが、技術的諸問題について簡単にご説明いたしま 融合部は一瞬のうちに、消散した。″時空の涯″に巨大な亀裂がクター 入り、みるみる拡大した。 その亀裂から、七彩の光線が踊り出た。 コイズミはガポール部長と並ぶと、渇いた声で話した。 ひとつのまばたきののちに、″時空の涯″は消失していた。 会場がはしめて静かになった。 横方向無限の彼方にいたるまで : コイズミに声をかけてくる人物はひとりもいなかったが、全員が 彼をつよく意識していた、それは証左だった。 「それまでの方法は、″時空の涯″を発散する無限級数としてとら しばしの休息ののち、ダランベルト船長の主催する晩餐会がひらえ、それを強引に収東化して崩壊させようとするものでした。 かれた。 収東半径増大法 ハール司令室長の司会によって、各部の部長がそれそれ祝意を述 収東級数化法 べた。そして、自部の業績をそれにつけ加えた。 総和可能化法 幻 6

10. SFマガジン 1980年3月号

の所有していた他の雑誌も含まれると来をどのように展望しておられるか ? 数 二吋・「ガリレオ」が「ギャラクシイ」を買収 のこと。場合によれば少し前に廃刊となっ年、数十年先ではなく、数百年、数千年と いう単位で」という作家らしいもの。 ここ数年やや乱立気味だったアメリカのた姉妹誌「イフ」が再び息を吹きかえすか もちろん簡単に答えられるものではなく、 雑誌界で、ついに再編劇の第一弾とももしれない。大いに期待してよさそうだ。 副首相の返答も政治経済面の原則的発言と 言える契約が昨年末にかわされた。「アシ ・オールディス、中国に行く なったようだ。 モフ」「オムニ」と並んで近年の三大 中国では現在が典型的な自由主義世 成功誌といわれる「ガリレオ」が、マネジ昨年暮、イギリスの文化友好使節団の一 メント面の失敗で破産寸前にある社員として中国を訪問していたプライアン・界の産物として興味をもたれだしているら の「ギャラクシイ」買取りに成功したのでオールディスのレポートがローカス誌 ( 二しい。ただ翻訳作品はシェリーの「フラン ケンシュタインの怪物」や、ヴェルヌ、ウェ ある。今後「ギャラクシイ」はの手二八号 ) に掲載された。 ルズらのクラシックを除けばほとんどない を離れ、「ガリレオ」が新たに設立する別それによると一行は六人のグループで、 メン・ハーは作家のアイリス・マードックを状態で、作家名にしてもオールディスの他 会社のもとから大判になって発行される。 新編集長は未定。「ガリレオ」の出版人ヴはじめ、社会学者、ジャーナリストなど各はアシモフくらいしか知られていない ( も インセント・マカフリイによると、これか方面にわたっている。三週間の滞在で、さっともこの部分はオールディス本人が言っ ら「ギャラクシイ」はやや若年層向きの冒まざまな地を観たあと、鄧小平副首相とのているのであまり当てにはできないが ) 。 中国の作家は数名活躍中だそうだ 険中心路線とし、「ガリレオ」とは傾会談が今回のハイライトとなった模様だ。 向を区別していきたい考えらしい オールディスのそこでの質問は「中国の未が、テーマとしては宇宙飛行などまだプリ ミテイプな段階のようだ。いずれにして 「ギャラクシイ」は一九五〇年創刊。今年 も、オールディスの講演 ( もちろんに で三〇周年を迎えるという老舗であり、一 ついて ) はかなり熱狂的な聴衆をひきつけ 九五〇年代には、「アメリカの黄金時 代」を支える代表雑誌だった。たとえば、 たらしく、「鑪」治療の見学ともあわせて アシモフ「鋼鉄都市」、・ヘスター「破壊さ 相彼は″ファンタスティックな国″だという 馗表現でレポートをしめくくっている。 れた男」、ポール & コーンプル】ス「宇宙 商人」、スタージョン「人間以上」などが ・ヴェリコフスキー死す わずか一年の間に立て続けに掲載されたこ ではないが、その著書「衝突する宇 と とは、いまも語り草となって残っているく 強ス宙」 "Worlds in Collision" ( 1950 ) でか らいである。 デ って大論争をひき起したイマヌエル・ヴェ 一方、「ガリレオ」は一九七七年創刊。 リコフスキーが八十四歳でなくなってい 第一号はわずか五千部というセミプロ誌だ オる。同書は太古、地球と金星がニアミスを ったが、一 ~ 二年のうちに急成長。いまで ひき起こし、その結果世界各地に残るノア は発行部数一〇万部を越え、「ガリレオ」 の箱舟等、洪水伝説の原因となる大災害が の″奇跡″とまでいわれている。 起ったと説くもので、おもに一九五〇年代 なお、マカフリイによると買取られたの を中心に論議された。 は「ギャラクシイ」だけではなく、 世堺 S F 情報 4