世界 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1980年3月号
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1. SFマガジン 1980年3月号

しらのころは、昔から《貴き円筒》とい 0 てお 0 たこの内なる世界や。なにか特別の改良をや 0 たとでもいうのかな」 にしか関心をもっておらんかったが、今は新しい時代になりおっ 小チョーカーは、薄氷を踏むような自分の立場も、父親が眉をし た。みずから大巡遊と呼んでおる旅に出るものも多くおる。他世界かめ睨んでいることも知 0 ていたが、控え目に話し続けた。「他世 を見て来るのも悪くはなかろうてーー軽はずみで、日の光に包ま界人が重きをおいていることででしよう。自分には、こうした問題 れ、野飼の、美味礼賛のすべも知らぬ、満足な味蕾ももたぬ連中をを判断する資格がないような気がします」 見れば、昔から言う通り、長兄の有難みを知るようになるというも「や 0 らが重きをおいている問題とはのう。われらほど食品化学に のじゃ」 通暁しておる世界がどこにあるのじゃ」 ヴデオ・カセ , トでは聞く気になればいくらでも聞ける言い方「ありません、元老殿、たしかにその通り。他世界人は、わたしの だ 0 たが、チ = ーカーの知 0 ている人でガンのことを《長兄》と知るかぎりでは、その問題に関心をも「ておりません。すべて、わ 呼ぶ人は、実際には元老しかいなか 0 た。ガン「は二十一世紀の開たしたちの発見に頼 0 ております。自分でもは 0 きり認めておりま 拓者の時代に、月の戦道に建設された = 一番目の植民地だ 0 た。しかす。 し、最初の二 0 、ア ~ , , と・〈ータは 0 いに生態学的に居住不可能元老トー「ズの声は不機嫌そうにしわがれた。「数十万にのぼる であった。ガンマは居住可能だった。 分子の作用、副作用を諳じ、毎年数千種の分子の作用を新たに解明 小チ ' ーカーは細心の注意をはら 0 て話した。「他世界の人々はしておるわれらを、やつらはあてにするじやろう。栄養素やヴィタ ガンマでの経験が後から建設された世界にどれほど役立ったか、語 ミンの必要摂取量をくまなく算出しておるのもわれわれじゃ。なに 0 て惓むことがありません。すべてガ一から学んだと言 0 ていまにもまして、この上もなく微妙な風味にいたるまで計算しつくされ たわれらの味覚技術をあてにしているのじゃ。違いはあるまいそ」 トーマズの目が輝いた。 「おっしゃ 0 たことは、何のためらいもなく認めております」 「まことにのう、そのとおりじゃ」 「われらのものよりも、複雑で信頼度の高いコンピ = ーターがどこ チョーカーの話しぶりはいっそう細心になった。「彼らがガンマにあるというのじゃ」 流を改良していくつか新しい考えを手にしたと考えるのも、自己愛「風味に関するかぎり、どこにも」 からすればまことに無理もないとおわかりいただけますね」 「やつらはどんなプライムを出しおったかの」元老は重苦しい冗談 元老トーマズはばっと鼻から息を吐、こ。 しナ ( 元老の口癖。「避けをとばした。「それとも、若きガンマ人に野飼を食らわせようとで がたき時を除いて、ロから息をするものではない ~ 味を吟く舌が損もしたかな」 われようそ」 ) 雪のように白い眉がその青さをい 0 そうびき立てて「いいえ、元老殿、プライムはありました。わたしの訪ねた世界な いる濃い青い目が、チ ' 1 カーをみ 0 めた。「どのような改良じらどこでも、プライムはありました。その他の世界にもやはりある

2. SFマガジン 1980年3月号

風味 シャポン玉の世界で ◇連載◇銀河旅行と特殊相対論 章 4 光世紀ハビタブル・ゾーンー地球型惑星の話ー 野田昌宏のセンス・オプ・ワンターランド⑤ ータース・ストーリイ ^ 豊田有恒選・評〉 題名未定新コラ乙@ 冐難波弘之のトラック・ダウン 巨匠アシモフの小味の利いた作品 ドイツ u- のクラシック スタジオぬえ ・スターシッフ・ライフラリイ⑩ 0 深見弾 ・スキャナーバンコク経由ポーランドの旅 池見照ニ ・サイエンス・トヒックレッド・アトム 鏡明 / 川又千秋 / 高千穂遙 / 中島梓 / 森下一仁 ・ ()n レピュウ - 相月象一 DIMENSION O 世界情報 ファンダム・スポット・ ◇連載◇メチル・メタフィジーク⑥ それゆけタイ乙マシン てれぽーと・ マガジン・アンケート・ アイサック・アシモフ 4 望月二郎訳 クルト・一フスウィッン 2 前川道介訳 石原藤夫 4 野田昌宏 。千穂遙 難波弘之 吾妻ひでお ン隆国郎責 ョ シ光井信武 一依深高宮 レ 侃達之ル隆 ス靖直嘉 ラ島森藤葉治 イ中金加千佐 加藤直之 表紙 宮武ー貴 目次カット 扉・目次レイアウト安藤三香子

3. SFマガジン 1980年3月号

ろうというお考えはまったくそのとおりで、我々はその一部を今や「今までに会ったことはないな」サラスは即座に答えた。「私をマ っと予感しはしめたところです。そして、その一つが、あなたの静ハライハからひきずり戻すほどり重要人物なんだろうな。我々は ″舎利室″を開ける直前だったんだそ」 かな小さな島を、善悪は知らず、世界の中心にしようとしているの トリマラン です。いやーーー世界だけではない。太陽系全体の中心にです。この「私だって、サラディン湖のレースが始まろうという時に、三胴船 繊維によって、タブロバニーは、すべての惑星への踏み石となるでを降りなけりゃならなかったのよ」とマクシーヌ・デュヴォール・、 しよう。そして、たぶん、いつの日にかーーー星への踏み石に」 いった。彼女の有名なコントラルトの声には、サラス教授ほど面の 皮の厚くない者なら、きれいに鼻っ柱をへし折るほどの苛立ちがこ もっていた。「それから「彼はもちろん知っているわ。タブロ・ハニ 最後の橋 ーからヒンドスタンへ橋をかけようっていうわけなの ? 」 ラージャシンゲは笑った。「いやーー・ーあそこには、もう二世紀も ポールとマクシーヌは彼の最も古くからの親友のうちの二人だっ たが、ラージャシンゲの知るかぎりでは、いまこの瞬間まで二人は何不足なく使われている道路が通っている。それから、君たち二人 会ったこともなかったし、通信を交したことさえなかった。そうすをここまでひきずってきたことは、すまないと思 0 ているーーもっ る理由も、あまりなかった。タブロ・ ( ニ 1 以外の土地の人間でサラとも、マクシーヌ、君は二十年もここに来るという約束を果さない ス教授の名を聞いたことのある者は誰もいなかったが、マクシーヌでいるんだがね」 「そうね」と彼女は、ため息をついた。「でも、私はあまり自分の ・デュヴォールの方は、太陽系内のどこへ行っても、姿か声かでた スタジオの中にばかりいたもんだから、外には本物の世界があっ ちまちそれと知られてしまうことだろう。 二人の客は図書室の坐り心地のよい寝椅子にもたれ、ラージャシて、およそ五千人の親友と五千万人の親しい知合いが住んでいるこ とを、ときどき忘れてしまうのよ」 ンゲは屋敷の中央コンソールに腰をおろしていた。彼らは揃って、 「モーガン博士は、どっちの部類に入るんだね」 動かずに立っている第四の人物を見つめていた。 まったく動かずに。この時代の日常の電子工学の奇蹟を何も知ら「彼には会ったことがあるわーーそう、三回か四回ね。″橋″が完 ない過去からの訪問者なら、ちょっと見ただけで、すばらしく精巧成したときに、特別インタビ = ーをやったの。とても印象的な人物 な鑞人形を見ているのだと決めこむかもしれない。しかし、もっとだったわ」 マクシーヌ・デュヴォールからすれば、これは賞め言葉というべ 注意深く観察すれば、とまどうような二つの事実が明らかになるだ ぎだな、とラージャシンゲは思った。彼女は、もう三十年余という ろう。″人形″は透明で向う側の明るい物がはっきり見えるくらい もの、この苦労の多い職業でおそらく最も尊敬されているメン・ハー だったし、足は絨毯の数センチ上で・ほやけていたのである。 であり、この世界でのありとあらゆる栄誉をかちとっていた。ビュ 「この男を知っているかね ? 」とラージャシンゲは訊ねた。 に 3

4. SFマガジン 1980年3月号

れがその上に立っているこの小つぼけな世界がどういうふうにしてわれわれを支配している法則に従って、この球体を吹いてつくった できたかはお話しすることが出来ます。あなたがたの世界は、事だけです。彼はあなたたちについて知りませんし、あなたたちはわ 実、内部は空洞で空気がつまっていますし、その外皮はグラグリ氏れわれの世界について何にも知りません。私は人間で、あなたたち が述べられた厚みよりも薄いのです。もちろん、それはいっかは破れより一億倍も大きく、十兆年も年をとっているのです ! グラグリ るでしようが、そのためにはあなたがたの年でまだ何百万年かかるを釈放なさいー 自分らで正否を決定出来ないことで論争してなに プラー でしよう。 ( グラグリ派から大声で万歳が叫ばれた ) またほかにも になるんですか ? 」 住民がいるたくさんの世界が存在するという説も正しいのですが、 「グラグリを倒せ ! 人間というやつを倒せ ! そういうお前が小 しかし空洞の球ばかりではなく、私のような生物が棲んでいる何百指でこの世界をつぶせるか見たいもんだ。お前のせがれを呼んで来 かたまり 万倍もある石の塊もあります。脂肪とアルカリも唯一の元素でな ! 」こう周囲でわめきたてられている間に、グラグリと私はグリ いどころか、元素ですらないのです。それらはたまたま、この小さセリンの入った桶のところへひつばっていかれた。 なシャポン玉の世界で一役かっている複雑な物質にすぎません」 焼けつくような熱気が顔に吹きつけてきた。抵抗しようとした 「シャポン玉の世界だって ? 」と四方から猛烈な不満の声があげら が、どうにもならなかった。 れた。 「グラグリのやっといっしょにこの中へ入れ ! 」と大ぜいが叫ん 「そうです」とヴェンデルおじがしきりに袖をひつばるのを無視しだ。「どちらが先に破裂するか見てやる ! 」熱い湯気に包まれ、体 て私は勇敢に叫んだ。「そうです。みなさんの世界は、私の小さなに焼けるような痛みが走った。 息子がストローで吹いてつくったシャポン玉以外のなにものでもあ りません。だから子供の指で、あっという間につぶされることがあ私は庭のテー・フルのおじのそばに坐っていた。シャポン玉は、い り得ます。もちろん、この世界にくらべると、私の息子は巨人の大・せん、前と同じ場所に漂っていた。 きさがありますがーー」 「どうしたんだろう ? 」と私は身ぶるいしながら言った。 「前代未聞の話だ ! 大ぼらだ ! 気違いだ ! 」と怒号が飛び交「十万分の一秒の出来事さ ! 地球上では何ひとっ変ってやしない い、インキ壷が私の頭めがけて飛んできた。「あいつは狂っているー よ。間にあうように目盛りを動かしたのさ。そうしなかったら君は この世界がシャポン玉だって ? やつのせがれが吹いてつくったとグリセリンで煮られていたよ。フン ? これでもミクローゲンの発 いうのか ? やつが世界創造者の父親だというわけか ! やつを石見を公開すべきだと思うかい ? どうだい ? かれらが君の言うこ 責めにしろ ! 石責めにしろ ! 煮てしまえ ! 」 とを信しるたろうと思うかね ? まあ説明してみるんだな ! 」 「真理に名誉あれ ! 」と私は叫んだ。「両派とも間違っているんで ヴェンデルおじは笑った。するとあのシャポン玉がはじけた。息 す。この世界は私の息子がつくったものです。息子は世界の内部で子がもうひとつ新しい玉を吹き出した。

5. SFマガジン 1980年3月号

ある。それも理由のあることで、科学の育成は大いに盛んだった部が空洞ならば、とっくの昔にこわれてしまっているだろう。賢者 し、科学上の論争には全国民が熱心な関心を寄せるのだった。しかエムソ ( サポニール人にとって、アリストテレスにあたる人物 ) の 6 しそのために・ほくたちはひどいめに会うことになったのである。 著書には「世界は中がつまっていて、永久に破裂しないだろう」と 観察の結果について、私は丹念にメモをとり、たくさんの材料を書かれているというのだった。 収集した。私はそれを地球に還ったとき、シャポン玉の国の文化史第二にグラグリの主張によれば、世界は脂肪とアルカリというた を書ぐのに役立てるつもりだった。だが残念なことに私はある状況った二種類の基本的構成分子から成っており、これら二種類しかな を考慮に入れていなかった。というのは突然、緊急状態に迫られい元素は太古より存在するものである。この二つのものから世界は て、われわれ二人がまた大きくなったとき、そのメモを携えていな力学的な方法で発展してきたし、脂肪とアルカリが混りあったもの かったので、それがミクローゲンの作用を蒙れなかったのだ。かけ以外のものは存在し得ない。空気はこの二つの元素が浸出したもの がえのないメモが再び見つからなかったことは言うまでもなく、そと考えられるとなっているが、これに対して旧派の連中は、脂肪と れは再発見不可能な粉末と化して、どこかへ飛び散ってしまい、あアルカリだけではなく、グリセリンと水も元素である。これらは自 われ、私のシャポン玉滞在の証拠はなくなってしまったのである。 力で球形をなすことは出来ない。しかしこの国の最古の文書には 私たちが約二年間、サポニール人の間で暮したと思われる頃、こ「世界はルディ。フディという名の巨人のロによってふくらまされた の国で二大学説の間の緊張が高まった。世界の構造に関する旧派のものである」と書かれていると主張した。 伝統的学説が、最近の進歩的傾向に活漫な関心を寄せる自然科学界第三にグラグリの説では、この世界は唯一のものではなくて、ま の重鎮グラグリという名をもっ男にはげしく攻撃されたのである。 だほかに無数の世界が存在する。それらはみな脂肪とアルカリとか こうした場合の常として、グラグリは考える人々のアカデミ 1 の法らできている空洞のもので、空中を浮遊しており、そこには同じよ 廷に召喫された。彼の理念と発見とが国家秩序にとってがまん出来 うに思考能力がある生物が棲んでいるという。この説は誤っている るものか判決するためである。グラグリの敵は、彼の新説が考えるのみならず、国家を危機におとしいれるものである。もしわれわれ 人々に不可侵とされる原則に矛盾することをとくに取り上けて攻撃の知らない世界が多く存在するならば、考える人々の主はそれを支 の足がかりとした。そしてグラグリが自説を撤回するか、それとも配し得ないことになるからだ。憲法には「考える人々の主にまつろ 誤った説を唱えたことに対する罪に服することを望んだ。すなわちわぬようなものが存在するという説をたてた者はやわらかくなるま かれらはグラグリ説から次の三点を致命的な誤りとしたのである。 でグリセリン鍋で煮られるものとする」とある旧派の連中は述べた 第一に世界は内部が空洞で、空気に満たされており、その外皮のてた。 厚さはわずか三百 = レ ( = ら八五セ , チの間、地方異 ) である。この説に この集まりにおいて、グラグリは弁解のために立ち上がり、とく 対するかれらの主張は、考える人々がその上で動いている地面の内に世界の内部がつまっているという説。 よ、ふくらまされてできたと

6. SFマガジン 1980年3月号

彼はつつましく返事を待ったが、彼女たちは過去二十世紀間の讃受けとめるように思えたのである。 美者たちに対してと同じように、知らん顔をしていた。ラージャシ 「ああ、カルーナ ! お前にそんな質問をするのは気の毒だった ソゲは驚きもしなかった。彼女らの冷淡さには慣れつこになってい な。空の向うに現実にある世界とか、人間がそこへ到達しようとす た。それどころか、魅力が増しさえしたのである。 る欲望とかが、お前たちにどうしてわかるだろう。お前たちもかっ 「困ったことがあるのだよ、お前たち」と彼は続けた。「お前たちては女神だったとはいえ、カーリダーサの天界は所詮は幻影だった いい、お前たちがどんな不思議な未来を見るにせ は、カーリダーサの時代から、さまざまなタブロ、パニーの侵略者たのだからな。まあ ちが来ては去るのを眺めてきた。ジャングルがヤッカガラのまわりよ、私はそこにはいないだろう。私たちは長いっきあいだった に潮のようにあふれ、それから斧や鋤の前に退いていったのを見てお前たちの尺度ではそうでないとしても、私の尺度でいえばそうだ きた。だが、その歳月の間に、ほんとうに変ったものは、何もなかった。私に許されるかぎり、屋敷からお前たちを眺めつづけること づたのだ。自然は小さなタブロニーに思いやりがあづたし、歴史にしよう。だが、私たちが会うのは、これが最後になるだろう。ご だってそうだった。我々をそっとしておいてくれたのだ : きげんようーーーそして、美女たち、長いこと私に喜びを与えてくれ いま、何世紀にもおよんだ静けさは終ろうとしている。我々の国てありがとう。後から来る者たちに、よろしく伝えておくれ」 王は世界の , ーー多数の惑星のーーー中心になるかもしれんのだ。お前それでも、エレベーターを無視してラセン階段を下ってゆくラー たちがずっと眺めてきたあの南の大ぎな山が、宇宙への鍵になるかジャシソゲには、別れの気分はまったくなかった。それどころか、 もしれぬ。もしそうなれば、我々の知っていたタブロ・ハニ 1 、我々自分がかなり若返ったような気持だった ( それに、何といっても七 の愛したタブロ・ハニーは消減するだろう。 十二歳ぐらいでは、ほんとうの老人ではないのだ ) 。ドラヴィンド たぶん、私にできることは、大してないのかもしれんーーーだが、 ラとジャヤが彼の足どりの軽さに気づいたことは、二人が顔を輝や それを援助したり妨害したりする力は、私にも少しはあるのだ。私かせた様子からわかった。 にはまだ多くの友人があるし、その気にさえなれば、この夢を ことによると、自分は隠遁生活が少々退屈になってきているのか それとも悪夢をーー少なくとも私の死後にまで遅らせることはできもしれない。ことによると、自分もタブロ・ハ一一ーも、もやもやを吹 ちょう る。そうすべきだろうか ? それとも、この男の真の目的が何であきとばす新鮮な空気が必要になっているのかもしれない どモンスーンが、数カ月も重く垂れこめた空の後で、生命を蘇らせ れ、それを助けてやるべきだろうか ? 」 彼は自分の好きな一人ーー・まともに見つめても眼をそらせない唯るように。 一の相手の方に向いた。他の乙女たちは、遠くに眼をこらしている モーガンが成功すると否とにかかわらず、彼の事業は想像をかき か、自分が手にした花をじっと眺めているのだった。だが、若い時たて、魂をゆりうごかすものだ。カーリダーサならば、きっと羨や ( 以下次号 ) 分から好きだったその乙女は、ある角度から見ると、自分の視線をみーーそして賛同することだろう。

7. SFマガジン 1980年3月号

いう説に矛盾することを強調し、もしほかの世爨か存在しないなとはサポニール人にとっては、いずれにせよ、命にかかわることだ なったのを見たとき、もう自分を押えられず、飛び出して ら、ルデイプディという巨人よ、、 どこに立ったのかと尋った ねた。旧派の学者たちは学識を誇っていたのにもかかわらず、この発言する許しを乞うた。 理由を説明することが出来ず、もし第三のテーゼがうさん臭く思わ「ハ力な真似はよせよ」とヴェンデルおじが私に飛びついて低い声 れなかったなら、グラグリは最初の二つのテーゼでも勝っていただで言った。「喋ったらたいへんなめに会うぞ ! やつらには分りつ ろう。しかしこの第三のテ 1 ゼが政治的に評判が悪いことは、あまこないんだ ! ひどいめに会うそ。じっとしていたまえ ! 」 りにも明白で、グラグリの友人たちでさえ、このテーゼでは彼を援だが私はひるまずに話し始めた。 助しようとはしなかった。なぜならほかに世界が存在するという主「みなさん ! 私はみなさんの世界の由来を本当に知っております 張は反国家的であり反民族的なものと見なされていたのである。しので、どうか説明させて下さい」 「なんだ ? どうしてなんだ ? み かしグラグリはどうしても自説を撤回しようとしなかったので、ア ここで一座は駈然となった。 カデミーの大半が彼の敵になって、なかでもひどく敵意を抱いた連なさんの世界だって ? ひょっとしたらお前は別の世界を知ってい おい、聞けよ、あの未開人、野蛮人のや 中は、はやくも彼がやわらかくなるまで煮るために、グリセリンのるとでも言うのかい ? 鍋をひつばってきた。 っ ? やつは世界の成りたちについて知っているんたとさ」 私はこのナンセンスな賛否両論の一部始終を聞かされたが、せが「世界がどのようにして成立したかということは」と私は声をはり れが約六秒前にストローで庭に面した窓から吹き出したシャポン玉あげてつづけた。「あなたがたも私も誰も分りません。というのも あなたがた、考かる人々も私たち二人同様、無限の形態をとる無限 の上にいることを確信していたから、この二重に間違った論争が、 まっとうな考え方をする人物の命にかかわることにーー煮られるこの精神のほんの微光のようなものにすぎないからです。だがわれわ 梶尾真治 地球はプレイン・ヨーグルト 甘いラブ・ロマンスから奇想天外なユーモアまで、達者な筆が展 開する世界ー・久々に登場した本格短篇作家の作品集。 好評発売中 ! 三ニ 0 円ハヤカワ文庫 < 早川書房 9

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つまりは、これはシ = ドもまた、連邦軍の一員であるという ことであろう。人類のまぎれもない先兵である連邦軍の、そのメン 2 ( 承前 ) ーである軍人たちが、人間中心、人間偏重の感覚を持つのはやむ 「そういう状態にあるとすれば、各島はお互いに刺激し合 0 て競争を得ぬたりゆきであるが : ・ = ・生え抜きの軍人ではないシ = ドも し、島群域全体が活気にみちた開明的なものになっているでしょまた、その影響から脱するわけには行かないのに違いなかった。 だからこそ、司政官制度などというものが必要になって来たのだ いいかえればそれは先進的でもあるということだから : : : わた と、彼は思う。ひとつひとつの惑星世界は、それそれ別の歴 したちが訪ねて行っても、これまでのようにむげに拒絶されないで 済むかも分らない。その点、わたしたちが救助した原住者たちが史、別のルールを持った存在である。そこではその世界のための見 海域Ⅱグループの、ーーかれらのいうタガノヤの人々だったのは、幸方や考えかたややりかたがあるのだ 9 その世界ごとにその世界用の 運だったといえるわ」 生きかたがある。人類本位のままでは、結局は行きづまるはずなの シ = ド gao はつづける。「でもまあ、考えようによっては、これで : : : それゆえに司政官とロポットたちが送り込まれて、その世界 に所属して仕事をしなければならないのである。 は逆に厄介なのかも知れないわね。なぜって、かりにそこがそうい もっとも・ : ・ : だからといって彼は、シェドÄO に反論したり文句 う気風だったとすれば、かれらは商業的駈け引きにも長じているに しいようにあしらわれる可能性もをつけたりするつもりも持たなかった。彼女の発言は現在ではちゃ 違いないから : ・ : ・ヘたをすると、 んと筋が通った正統的なものなのである。というより、司政官的な あるもの。そうじゃない ? 」 思考ーーー人類側からその惑星世界を眺めるのではなく、惑星世界側 「あり得ることですな」 からの目を持たねばならぬという発想が、まだ発想としてもお先走 彼は応じた。 りであり、一般的に認められるところまで行っていない、というだ が : : : もちろん彼は、シェドの言葉を全面的に肯定する気は なかった。シ = ド no の推測というのは、所詮、人間が人間自身をけの話なのであった。 それに、受け取りようによっては、シェド式の推測は、決し 基準にして作った公式の応用である。よその生物にもあてはまると はいえないのであった。いや、あてはまらないのがむしろ自然であて無駄でもお遊びでもなくなるのである。つまり、そうした予想が ろう。姿かたちが似ているからとい 0 て、それが人間と同様の特性くつがえ 0 たとき、くつがえりかたを分析することで、逆に、原住 なり考えかたを持っているとは限らないのだ。これまでの多くの惑者たちの特徴を把握出来るという面があるのだ。 と : : : 彼がそんなことを考えた間に、みじかい沈黙が生れてい 星でそうであったように、今回もまた、人間には予想出来なかった ような先方の条件というものがあって、ために人間側の想像や仮定た。 「ま、でも : : : 正直なところ、実際に目的地に到着してみるまで は完全に的外れであったという結果になることも考えられる。 幻 9

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も、天然ガスも、石炭も豊富にある。しかし、 偏在しているから困るんだ」という。 石油、石炭、天然ガスといった資源の八〇 % が、シベリアなど東部の辺地にある。ところ が、それを消費するのは東部の工業地帯で、東 部での消費量は全体の七五 % にの・ほる。つまり 「ほしいところになくて、いらないところにあ る」わけである。広大な国土であるソ連だけ に、東から西へ、これらの資源を陸路によって 運ふのは大変だ。そこで原子力ということにな 池見照二 ったわけだ。 カット / 島津義晴 「ウランなら少量だから、運ぶのが簡単であ る。それに一度核燃料を原子炉に入れれば一年 赤い国「ソ連」の原子力開発が最近注目を集て、運転中の原発は一一十三基で約一千万キロワ 間は入れ替えなくてももっ」 ベトロシャン めている。それというのも、日本、アメリカをット。アメリカの七十二基、五千五百万キロワッ議長は、原子力重視の理由をこう説明してい はじめ西側諸国の原子力開発が、米ス リーマイットよりはるかに少なく、二位の日本の二十一る。 ルアイランド原発事故をきっかけに高まった反基、千五百万キロワットを下回り、西ドイツ、 安全性については、強い自信を持っており、 原発運動により、デッドロックに乗り上げてい フランスに次いで世界第五位にとどまって いスリーマイルアイランドのような事故はソ連で るのに対し、そんなスリーマイル・ショックはる。 は起こりえないとしている。また社会主義国だ どこ吹く風、マイベースの壮大な開発計画を推ところが、最近になって原発建設のスピ 1 ド けに、西側諸国のように反原発運動で原発建設 し進めているからである。鉄のカーテンは昔語を加速。一九八〇年で終わる現在の五カ年計画が進まないということはない。もっとも、原発 りになったとはいえ、 : しせんとしてペールに包で千一二百万キロワットにしたうえ、次の五カ年を建設しようとすると、ソホーズ ( 国営農場 ) まれた部分の多いソ連の原子力開発だが、その計画終了時の一九八五年には二倍強の一一千八百やコルホーズ ( 集団農場 ) の農民から「放射能 概要を紹介しよう。 万キロワットとする。さらに一九九〇年には一は大丈夫か」との素朴な不安の声が出るが、建 ソ連は世界で初めて原子力発電所を運転した億キロワットの大台に乗せることを目指してい設当局者の説明や説得で、納得する。それだか 国である。一九五四年、モスクワ郊外のオプ = る。なんと十年で十倍にしようというのであら、十年に十倍というスロ 1 ガンが掲げられる ンスクで運転を始めた五千キロワットの黒鉛チる。日本では、十年後の目標が五千一一一百万キロわけである。 ャンネル型炉がそれである。以来、ソ連は東側 ワット。ソ連はこの日本の目標の二倍近くの原寒い国ソ連ならではの計画もいくつかある。 のリーダーとして、独自の原子力開発を着実に発規模に拡大しようというのだ。 北極に近い気象観測点や灯台などで使う原子力 進め、アメリカと肩を並べるもう一つの原子力このように原発建設に力を入れるのはなぜだ電池もその一つ。ストロンチウム囲の崩壊熱に 大国となっている。 ろうか。ソ連は原油生産は世界一位、天然ガスよって電力を発生、十ワットの電力を生む。す しかし、原子力発電については、これまでのは世界一一位、しかも石炭など莫大な資源が地下でに三百台が使われているという。 ところ、な・せか建設のテンポは遅かった。ソ連に眠る資源大国た。日本やヨーロッパ諸国のよ都市の集中暖房に原子炉を使う計画も実現し は、ロシア型と呼ばれる独特の黒鉛チャンネル うに、石油など資源がないから原子力へーーとつつある。ソ連の冬は寒く、暖房が切れれば、 型炉のほか、西側諸国でおなじみの加圧水型軽いうのとわけが違う。 氷点下三〇 ~ 四〇度の寒さで、死につながる。 水炉の二タイプを開発、原発建設はこの二本立この点について国家原子力利用委員会のベト都市では地域集中暖房で、給湯所からパイ。フで て路線を走っている。現在、両タイ。フ合わせロシャンツ議長は「確かにソ連には資源は石油お湯が各家庭に送られ、ラジ = ーターで暖房し サイエンス・トピック レッド・アトム ロ 4

10. SFマガジン 1980年3月号

「では、なぜポスはフーリエと一緒になって現作戦に反対しないの 宇宙船『オロモルフ号』の乗組員のだれが、このような接近不可 ですか ? 」 能な宇宙の境界を予想しただろうか 「ことはそれほど単純ではない 」コイズミは、デスクの横にあそれは、あらゆる種類の宇宙の理論をこえていた。文字どおり想 るコン。ヒュータのターミナルのランプを消した。「 フーリ = は像を絶する存在たった。しかし、それはたしかにそこに存在してい 明らかに何か新しい提案をして自分の立場を強化しようとしている らしいが、それが最善の策である可能性はすくない」 世紀末の地球人類の驕慢なる文明を象徴して虚空を飛翔する『オ 「ポスは最適解を発見されたのですか ? 」 ロモルフ号』にとって、それは許しがたい存在たった。 = イズミは眉をしかめた。そして、室内の感知機に視線をはしら正則性を唯一絶対のよりどころとする宇宙船『オ。モルフ号』 せながら言った。 にとって、″極点〃でないにもかかわらず、″微分不可能〃なその 「分析して欠陥を見出すのは容易だが、構成はむずかしい。まだ情 " 涯。の存在は、とうてい許容しえない奇怪な攻撃目標だったので 報が不足なのだよ、ガモフ : ある。 プリフニラル しかしガモフはその答を聞いていなか 0 た。ガモフはまるで舞踊その " 涯。は、横方向にだけは無限にひろが 0 ていた。その前面 家のように装置類の間をとびまわりはじめていた。彼は叫んた。 には、幾百億の星々と星雲とが、光りかがやく存在をきそってい 「ポス、たいへんです。室温が異常に上昇しはじめました。このま た。超新星が輝き、クエーサーが異様なエネルギーを放っていた。 ますすむと熔解してしまいます ! 」 『オロモルフ号』が航跡を描いてきたその世界は、まさに、光と自 ハ / ゲット 「予期されていたことだ。作戦本部が気づいていないはずはない」由との饗宴だった。 コイズミは重い足どりで居室を出、狂ったようなガモフの動きを だが、あらゆるエネルギーと運動とは、その″時空の涯″にあっ 一臀すると、装置類の間隙を大股で歩きだした。 て終端されていた。 その歩きかたは、生身の人間とアンドロイドとの稀有な混血児で その先に行くことは、たとえ光線のひとつひとつが不退転の意志 あるジロウ・コイズミの精神が、なにものかに感応しはじめたことをもっていたとしても、不可能だっただろう。 を物語っていた。 まさにそれは時間と空間の終点だったのである。 広い研究室のあらゆる無機物が、コイズミを中心に動きだしたよ あらゆる種類のエネルギーと運動とは、その″涯の直前で前進 うにみえた。 をあきらめ、ひきかえしていた。 ただ、その万物のなかで唯一、宇宙船『オロモルフ号』のみが、 太陽系をはなれること、五〇〇億光年の世界の涯ーーーそこは文字諦観をもっていないようにみえた。 どおり涯だった。 けしつぶのようにしか見えない『オロモルフ号』は、この数百時 ・フリフェラル シ / セシス こ 0 オロモルフィック 6