可能性 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1980年4月号
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1. SFマガジン 1980年4月号

あそこでは、どういう生活が営まれているのであろう。 確には分っていません。今の話の具合では島群域全体ではなさそう 人類とどこでどうことなるかさえよくは知られていないかれらですが、ひとつの島を意味するのか、それとももっと限定された地 と、自分たちはこれから接触を持とうとしているのだ。それははた域なのか、何ともいいかねます」 してどういう展開になるのであろう。 「よろしい。それもいずれは判明することだろう。当面は、われわ だが、彼はそんな想念に長くは浸っていられなかった。 れの目的地がどこにあるかを把握するのが先決だ」 ロポットたちに連れられて、ふたりの原住者がやって来たのであ ヘンゼルはいも 、原住者たちに向き直った。「それで : : : こ こからタガノヤへはどう行けばいいか分っているのか ? 」 ロポットたち、というのはほかでもない。呼びに行ったのとそれはじめの原住者が答え、ロポットが説明した。 にもう一体、原住者の面倒を見、通訳の任にも当っているロポット 「かれらは分るといっています。ここの景色は何度か通りかかった も一緒だったのだ。例によっての非効率的なロポットの使いかただので覚えているそうです。これはナ・エ・サのダガで、ヤ・ゴ・デ が、彼の関知すべき事柄ではない。 のダガではない。ヤ・ゴ・デはこの右手むこうに見えているから、 ふたりの原住者は前方の島と集落を見て、あきらかに興奮したよそちらへ行けばタガノヤに着くとのことです」 うであった。集落を指さし、お互いに手をつかみ合ったりしなが「 : ら、早口に喋りだしたのだ。 いろんな名詞が飛び出して来たので、こちらの人々は戸惑って何 ヘンゼルは、かれらが少し落着くのを待って、シェド mo に秒間か沈黙した。 は自分でやるからという頷きかたをした上で、ロポットを介して質けれども、頭の中を整理してみると : : : それは案外簡単な図式だ 問した。 ったのだ。ャトウが文脈を考えてそのことに気づいたときには、シ 「あれは、タガノヤなのか ? 」 エドが声に出していた。 原住者たちは顔を見合わせ、一方が返事をした。 「そうか ! ダガというのは、多分、集落のことなんだわ。ナ・エ 「あれはタガノヤではないといっています」 ・サ : : : と、ヤ・ゴ・デ・ : ・ : だったかしら。どっちも島の名前なの ロポットが通訳する。「かれらの : : : ダガではないといっていまよ。そうじゃないでしようか ? 」 おしまいの部分をへンゼルにいってから、シェド O は考え 込む口調になった。「でも : : : この人たち、そうした固有名詞をな 「ダガ ? ダガというのは、故郷のことだったね ? 」 ヘンゼルが、シェド 0 を顧みてたずねた。 ・せ今までロにしなかったのかしら。それに、ダガというものにいや 「一応、そう解釈されております」 に執着しているみたいなのはなぜ と、シェド no 。「しかし、どの位の規模を指すのかは、まだ正「そういう分析はあとのことだ、シェドÄO 」 る。 2 幻

2. SFマガジン 1980年4月号

司政官と連邦軍の調査隊は、ミローゼンの閉鎖社会の一つタガノヤへ赴いた。 連載第 3 回 長い暁 眉村 .. , 、 , 第唹 , 00 , 0 物年 0 { きは、、んい 行可第 ' を辷ツンド , ミ = 0 。 , ミ 0 いを : ギ要 , 物 ~ 驀、、 1 、 34 、き」ミ - ・よ、読 -4 , メ宀 : り二・ン 、 3 リ , に冫を . こ : 卩、 ”当、 ' : ミッいッら、 : な . い・ , ・い電 " トまこ イラストレーション・佐治嘉隆 幻 8

3. SFマガジン 1980年4月号

わの 仕 私ちいがちを 。い追り こ返 彼身 のう のら 中に か消 SF 緑の星のオデッセイ フィリップ・ホセ・ファーマー 340 地底世界のターサン 工ドガー・ライス・バロウズ 380 ニ重人問スポック ! ジェイムズ第プリッシュ \ 280 地獄のハイウェイ ロジャー・ゼラズニイ \ 320 時のロスト・ワールド 工ドモンド・ハミルトン \ 320 ゾンガーと魔道師の王 リン・カーター \ 300 銀河の果ての惑星 アンドレ・ノートン \ 380 スいそれにの 異世界の門 トししを フィリップ・ホセ・ファーマー \ 340 大宇宙の守護者 クリフォード・ D ・シマック \ 340 多元宇宙の王子 のたと人 キース・ローマー \ 360 い間 突繋 ! かぶと虫部隊 に続 キース・ローマー Y340 はけ 見た 火星人ゴーホーム フレドリック・プラウン Y340 なだ オッド・ジョン っ複 かが オラフ・ステープルドン Y360 にレゃな ついし急 た私 星屑のかなたへ ジイムズ・・プリッシ・ユ Y240 プは 小惑星回避作戦 ジェイムズ・プリッシュ Y 360 口を 琴座の死の園 め君 が離 工ルンスト・ヴルチェク Y340 ンかだ増 た当き い人 東京神田多町 2 ー 2 早川書房 振替東京 6 ー 47799 らて 版情報 / ) ャカワ文庫 M/S F)JA/ NV /Jr/ FT€ 幻 5 方プメう ラ ン カ ; 力、 ナこ だ レい なウデうウ球 ィこ つがンとス居う 旨はよ の 。そ私だそ は 、地ナ イにも トる ・一 1 身まあイ え の 、分 。分おあウおウ 、ス は ま え 言を蹴 し、 イ つ 。の人す 身クめとし の、つ身話 たは見分を ならをのて 。あ彼顔間べ らがのす出け の 会い 話るか 体 か ら ン 生 ま の れ よ た 本地 当球 のに 分住 身む な者 る言て つや たろ 方う 正彼 確ら たは が オ 2 来 の に 割 り 込 ん だ も ス ウ し や り た ほ ど さ 地が 球言 か の に な ん そた がっ ナど 球 オよ 、最だだな れ てウ や べ て る し、 しイた 。た だ 力、 秘 、密 し 話てをこ つはをれカ ン けた入だ民 、と を め 付ィるたる 、つ も だ つ えカ : 、私ウ 。そ後けけい子父人たイ 。供た間ちス つはたて 、奴 やの 。に ウそ ンれ ち追 で ロ間いらま ク期なか産の数父は 、短はだがちののト 、他父る よ い輸れ植ち よがた 、れうちつ な伊はぶ は尸のよ も少手界に らだる 真 相メ 気デ きン はが のすけ星 、がこ人も間 冫こ メ ので人 ロやをそだ ょ と っ 、て う 製はた 、数 っ て と 〕塞誰 、地し し人球ミ ・を言 開っ 拓た す ・つ り で や じ た と う わ 0 ) レだ イおの はい ロロ そめ れら 友ナこ 出た け会ち代 。た と私ちでアるが時ナ ァ 。た ク ) れのて シわ ョけなさオ

4. SFマガジン 1980年4月号

私は答えた。プラウンは、かすかな笑みを見せた。奇妙に、白っ「私には、何もわからないが、今は、メレディンよりも、ウイスト 。ほく感じられる。けれども、どこか、女を感じさせるところがあっ が正しいような気がしてくるな、君たちの様子からすれば」 「そうじゃないわ」 「変ったわね」 ・フラウンが、一一 = ロう。 「変った ? 」 「私にわかるように、説明してくれないか ? 」 「そう、逞しくなったみたい。ますます、メレディンに似てきた ・フラウンは、男たちを見上げた。軽く、うなずいてみせる。 わ」 「いいわ。このウイストという男は、アショ力の人々を管理してい 「そいつを連れて、戻るそ、プラウン」 る側の人間だと思ってちょうだい。メレディンは、それに反対する 男の一人が、いらだったように言う。 側にいる。それだけじゃないわ。地球の東縛からも、アショ力を解 「行くな」 き放とうとしているのよ」 床の上から、ウイストが言う。顔が、冷汗で濡れている。私は、 「地球の束縛 ? 」 ウイストの横にひざまずいた。 「そうよ、すべての宇宙船を地球が、圧えこんでいるのだから、そ 「行くんじゃない。奴らは、危険だ」 ういうことになるわ。メレディンたちは、外に出たくても、出られ 「わたしたちは、あなたを救い出しに来たのよ」 ないのよ。知ってた ? 宇宙を飛んでいるのは、ほんの僅かの例外 ・フラウンが、私の肩に手をかけて、言った。ウイストが、半身をを除いて、地球人だけなんだわ」 起こす。苦痛に、顔が歪んだ。 それで、ウイストの言ったことと、話がつながった。 「メレディンは危険だ。奴は、君を殺すかもしれない。奴は、自分「で、メレディンたちは、宇宙船を襲って、自分たちのものにしょ の計画のためなら、どんなことでもやる人間だ」 うと考えているわけか ? 」 「あなたと、同じようにね」 「それしかないじゃないの。ウイストたちは、それに気付いそ、メ プラウンが、吐き捨てるように言った。 レディンを殺そうとしているんだわ。おおっぴらにはできないか 「そうかもしれない。だが、私は、このアショ力のためを考えて、 ら、あなたを利用してね」 行動してぎた」 「ちがう」 「メレディンだって、そうだわ」 ウイストが言った。 ウイストが、奇妙な声をあげた。笑ったつもりかもしれない。 「それはちがう。私たちも、今の状態が正しいと思っているわけで 「暴力で、地球の宇宙船を襲うことが、か。それから、どうするつはない。私たちは、待っことを知っているというだけだ。まだまだ もりなのだ ? 地球に復讐しに行くのか ? それとも、自分たちの地球は強力だ。おまえたちのやり方でも、一時的には成功するかも 魂の兄弟を探しに行くつもりなのか ? 彼のように」 しれない。だが、それだけのことだ」 男たちの一人が、無言で、ウイストを蹴りつけた。私は、その男「あんたの言い分は、もう聞き飽きたんだよ。おれたちは、今す に飛びかかろうとしたが、プラウンがしがみついてくる。 ぐ、地球に思い知らせてやりたいんだ」 2 脚

5. SFマガジン 1980年4月号

は、ポケットの中から、銃を掴み出し、ウイストに向けた。ウイスかすかな呻きがする。やがて、ドアの鍵がきしむ音がした。ドアを トは、顔色一つ、変えない。 ぶち破ってでも、入ってくるかと思ったのだが、そうでもないらし 「どうするつもりたね ? 」 鍵が、はじけるかすかな音がして、ドアが開きはじめた。一 「私にも、よくわからない。だが、この全体が、どうにも、気に入人、二人、三人、シルエットが、私の横をすり抜けていく。四人目 らないのだ。ここから、出たい」 のシルエットが、私の心臓を跳びはねさせた。それは女だった。 「プラウン ? 」 今度は、ウイストも、驚いた。 「出る ? よすんだ。何度、言えば、わかる。君の生命の安全は保ほんの僅かだけ、息をつかったつもりだったが、それは、部屋中 障できない」 に響いた。幾つかの場所で、銃の操作をする音がした。 「わかっている。だが、私が殺されれば、逆に、メレディンは、も女のシルエットが、私の方を振り向き、低い声で言った。私の名 う殺されずに済む筈だ」 前だ。 ウイストが頭を振った。 「そうだ、私さ」 「なるほど、君の考えていることは、わかった。君が死んだこと私は壁際の明りのスイッチを入れた。侵入者たちは、片手で目を を、私たちが、新聞で扱えば、そうなるだろう。だが、私たちは、 おおう。私の知った顔はプラウンだけだった。メレディンが居るの 無視することだって、できるのだよ。とにかく今は、メレディンがではないかと思ったが、残念ながら、来なかったらしい。プラウン 死ぬか、少なくとも、彼の行動の自由を奪うことが必要なのだ。君たちは、私を見、床のウイストを見た。男たちの一人が、憎しみを は、ここにとどまって欲しいね」 こめた目付きで、ウイストをにらむ。銃口が、そろそろと、ウイス トに向けられていく。 ウイストは、立ち上がり、私の銃を無視して、ドアに向かった。 「撃つな ! 」 私は、彼の足を狙って、引金を引いた。轟音が、部屋を満たした。 ウイストの右足が、無格好に、前方に蹴り上げられ、その勢いで一 私は、その男に銃を向けて、言った。もちろん、それが何かの役 に立っと思っていたわけではない。残りの二人の銃が、私に向けら 回転しながらウイストは倒れた。 「馬鹿なことを。今の銃声が、人に聞きっかれたら、どうするんれていたからだ。 「無事だったのね ? 」 どうする ? それを考えつく前に、家の外で、人の駆ける音が聞 ・フラウンが言った。たったそれだけの言葉だったが、彼女の口か こえてきた。私は、明りを消し、分厚い窓のカーテンの脇から、外ら出たとは思えぬほど、よそよそしく思えた。まるで、他人のよう を見た。暗がりの中を、何人かの人間が近寄ってくる。私は、銃をだった。 握り直した。ドアの横に、へばりつく。ウイストの苦痛をこらえる「君の方こそ」 幻 3

6. SFマガジン 1980年4月号

ディンも。おそらく、彼も、外を歩くことはできなくなっているに 「君たち、地球人にはわからぬ事情というものが、ある。君は、彼 ちがいない。そう思った途端、メレディンに、今まで以上の親近感の片が付くまで、ここにいればいいのだ」 を覚えた。 よっぽど、不満な顔をしたのだろう。再び苦笑を浮かべて、ウィ そして私が、自分が巻き込まれたこの一連の出来事が、見かけ以ストは言った。 上に複雑なものであるのではないかと、疑問を感じるようになった 「メレディンのことを、どうして、そんなに気にする。奴は、君の のは、そのメレディンのことが、きっかけだった。メレディンが、生命を奪おうとしたんだ。君の魂の兄弟の女性を、連れ去ったの 私に似ているのは、確かだった。そのメレディンのことが、新聞にも、メレディンたち、だ」 プラウン ! プラウンは、どうしているのだろう。だが、私のロ まったく出てこないというのは、どういうわけだ。これでは、メレ ディンが、私と間違えられて、生命を奪われるように、新聞が仕向から出たのは、メレディンのことだった。 けているとしか思えない。ウイストは、メレディンの存在を知って「メレディンが、私の生命を奪う ? 」 いるのだし、何よりも、メレディン自身が、私と似ていることに気「あのホテルの男を殺し、君を罠にかけようとしたのは、誰だと思 付いている筈だ。だが、その両方とも、メレディンの存在を人々に っていたのだ ? まさか、私だと思っていたわけじゃあるまい ? 」 知らせようとはしていない。奇妙なことだ。 「メレディンがやったのか ? 」 「確証はないが、な。私には、そうとしか思えない」 私は、その疑問をウイストにぶつけてみた。 「私の魂の兄弟が、か ? 」 「どうして、メレディンのことに、新聞は触れないんだ ? 」 ウイストは、黙って、私を見つめた。 ウイストが顔を歪めた。 「このままじゃ、メレディンが殺されるのを待っているみたいじゃ 「それは、地球だけの話だ。私たちには通用しないことを、忘れる な」 憎しみが、あふれていた。私は、思わず身を引いた。 そう言った途端、私の中で、考えが固まりはじめた。そいつが、 最初からの狙いだったというのは、どうだ。生命を狙われていたの「魂の兄弟などという言葉は、もう聞きたくない」 は、私ではなく、メレディンの方だったというのは、どうだ ? ウイストが、そのような反応を示したことは、私には驚きだっ 「メレディンが狙いだったのか ? 」 た。だが、それでも、メレディンが私を罠にかけようとしたとは思 ウイストは、あきらめたように、苦い笑みを浮かべた。それまでえなかった。単純なことだ。どうして、そんな必要がある。それ . ぐー」し・カ十 / が、わからぬかぎり、ウイストの言うことを信じるわけこよ、 の人当りの良い初老の男という印象が吹き飛んだ。 。それどころか、逆に、メレディンを救ってやりたいという気持 「そういうことになるな」 は、強まるばかりだった。その気持が、行動に現われた。私の手 「どうしてだ ? 」 幻 2

7. SFマガジン 1980年4月号

ぽい匂いがしたが、部屋は小ぎれいだった。 なるほど、それで、警察が、まったく活動していない理由がわか るというものだ。 「私の友人の使っていた家た。ここに、しばらく隠れていた方がい 「君の部屋で、人が殺されたと聞いたときに、私は、てつぎり、君い」 「しばらくって、どれ位だ ? 」 が殺されたのかと思ったよ。だから、みんなについていったのだ。 だが、死んでいたのは、君ではなかったし、君の姿はなかった。仲「君の潔白が証明されるまで、さ」 間たちは、犯人は君だと決めていたが、私は、そうじゃないと思っ私は、肩をすくめた。では、何日かかるかわからない。あまりぞ っとしない話だが、たしかに、今は、身を隠していた方がいいだろ ていたよ。地球人に、そんなことができるとは思えなかったのだ よ。だが、今は、できるかもしれないという気がしてきたね」 「私が殺したんじゃない」 「食料は、あとで、私が運んでくる。ま、自分の家にいるつもり 「それは疑ってはいない。でなければ、君を助けになど来ない。だで、気楽に構えていてくれ」 ウイストは、そう言うと、出ていこうとした。ドアのところで振 が、今となっては同じことだよ。ああやって、新聞に写真まで載せ られたということは、君は、すでに死刑を宣告された殺人犯と同じり返る。 。もち 「君にもわかっているだろうが、窓には近付かない方がいし ということになる」 ろん、外に出たりするのは、論外だ」 「馬鹿な ! 何て星なんだ、ここは」 「わかっている。あとで来るときには、新聞も持ってきてくれない ウイストは身を固くした。声まで硬くなる。 か。自分が、どんな凶悪な犯人か、たしかめたいから」 「君にとっては、馬鹿なことかもしれないが、私たちにとっては、 ウイストは、軽く、笑い声をあげると、出ていった。 正しいやり方なんだよ。それは、忘れないで欲しいね。たまには、 今度のようなことが起こるかもしれない。けれども、たとえば、私私は、じっくりと、家の中を見て回った。平凡な二階建ての家。 だが、地球での狭苦しさに比べれば、天国だ。むきだしの床も、む のような人間が必ずいて、それが間違いのまま進行することを防ぐ きだしのべッドも、気にならなかった。 ことになっているんだから」 どうやら、この星の人間に向かって、批判的なことを言うのは、 結局、私は、一週間以上、その家で過ごすことになった。楽しみ やめておいた方が無難ということらしい。で、私は、黙ることにしは、二日置きにやってくるウイストとのおしゃべりと、彼の持って くる新聞だけだった。新聞には、いつも私の写真が載っていた。ま だ、捕まらないらしい。これだけ、大々的に扱われては、身動きで ウイストが、地上車を止めたのは、街並が切れかかっているあた りだった。ほんの少し歩けば、一面の大草原が広がっている。ウィきない。一歩でも、外に出たら、あっという間に見つかってしまう ストは、私の先に立って、一軒の家の中に入っていった。やや埃つだろう。・フラウンも、この写真を見ているのだろうか。そしてメレ

8. SFマガジン 1980年4月号

何でもないとしても、人目を引くに決まっている。だが、私が、い 人、銃を構えているのが見えた。 くら腕をねじ上げても、男は、意欲を失おうとしなかった。男の頭ウイストは妻まじい勢いで、車を発進させ、ステアリング・ホイ 越しに、ウイストが駆け寄ってくるのが見えた。手に、工具のよう ールをカまかせに回す。私の身体は、ドアに押しつけられ、次に、 なものを持っている。あの年にしては、かなりの速さだ。ウイストウイストの方に振り回された。車輪が、嫌な音をたて、車体が・ハラ は、近付くにつれ、工具を振り上げた。畜生、そういうことだった ンスを失いかけたが、それでも、何とか持ち直した。何台かの車 のか ! それに気を取られた瞬間、男は、私の手を振り払い、両手 が、私たちをよけようとして、あわてて、方向を変えるのが見え で、しがみついてきた。失敗ったと思ったが、もう遅い。男は必死た。だが、ウイストは、それに目もくれず、スピードを上げる。前 だった。私の胴を抱え込み、大声でわめく。今度は、私が自由にな方の車が、急速に近付き、脇をすり抜けていく。 何度も、角を回 ろうともがく番だった。ウイストが、銀色に鈍く光る工具を振り上り、細い道を抜け、再び、広い道路に戻ったとき、ようやく、ウィ げ、振りおろそうとしてくる。そいつを食らったら、たまったものストはスビードを緩めた。私も、全身の力を抜いた。 ではない。 「どうして、あそこにいなかったんだ ? 」 「動くな ! 」 ウイストが、前を見つめたまま言った。私は、黙っていた。ウィ ウイストがわめく。私は、逃げようと必死だった。次の瞬間、ウストは、自分で答えを見つけた。 イストの手が振りおろされた。私は、思わず、目を閉じた。だが、 「驚いたよ。君が、そんなに用心深いとは。地球人は、もっとひ弱 激痛もショックもなかった。逆に、私の胴に回されていた男の腕かだと思っていた。一人じゃ、何もできない人間たちだと、思ってい らカが抜け、急に、私の身が軽くなった。目を開けてみると、ウィた。君が、あんなに見事に、ホテルから逃げ出したときにも、びつ ストが肩で息をしながら、私を見つめていた。男は、路上に崩れ落くりさせられたしね」 ち、その、頭から血が吹き出ていた。放り出された男の右手の近くに私は、ポケットの中の銃を握った。 落ちている新聞が、私の目をひいた。というよりも、そこに大きく「大丈夫だ。私は、君の味方だ」 出ている写真に目が行ったのだ。それは、私の写真だった。見出し私の動きに気付くと、ウイストは、あわてて言った。 には、大きく、「殺人者」としてある。 「君の部屋で、人が殺されたという連絡があった」 「急げ ! 」 「連絡 ? 誰から ? 」 ウイストは、私の腕をむと、走り出そうとした。それに引きず「わからない。よくあることだ、このアショ力では、ね、何かが起 られて、私も駆け出す。何かが、耳元をかすめた。銃声が、それをきると、私たちに、連絡してくる。私たちは、飛んでいって、それ 追ってくる。二発目の銃声がしたときには、私とウイストは、地上が事実であれば、みんなに知らせる。そして、みんなが、その処理 車にたどりつき、乗り込んでいた。道路のはずれの方で、男が一に手を貸すってわけだ。 幻 0

9. SFマガジン 1980年4月号

ウイストの声は、逆に、低くなった。それが、昨夜、エレベータてしまった。 ーの扉越しに聞いた声に似ているのに気付いた。その途端、私の咽「わかった。そこなら、十分ぐらいで行ける筈だ。動かないでく 0 2 喉が急に詰まった。言葉が出なくなる。 れ。それから、くれぐれも用心してくれよ。私が着いてみたら、君 「どこにいるんだ ? 無事か ? 」 の死体と対面なんてのは、ごめんだから」 私は、受話器を置こうとした。ウイストは、その気配を感じたの私は、教えた場所から、一プロックほど歩き、路地に身を隠し か、続けざまにしゃべった。 た。いくら、わけがわからないといっても、黙って、言ったとおり 「待て、切るな ! いいか、君は、今、とても危険な状態にあるんの場所で待っているほど、馬鹿になったわけじゃない。そこは、倉 庫街のはずれだったから、歩いている人間は、まだ少ない。だが、 だ。人に顔を見られないようにしろ。殺されるぞ」 「殺される ? 」 道路を走る運搬用の地上車の数が増えはじめた。 突然、声が出た。ウイストが、ほっとしたように言う。 ほどなく、一台の地上車が、凄まじいスビードでやってくると、 「聞いていたのか、そうだ、殺される。殺人犯は、殺されても仕方さきほどまで、私のいたあたりで止まった。中から、ウイストが出 がないのだ」 てきた。周りを見回している。地上車の中には、他に誰もいないよ 「誰に ? 」 うだったし、うしろから尾けてきた車もない 0- 私は、隠れ場所から 「誰にでも、だ。君を見かけた者は、誰でも、君を殺す権利がある出て、ウイストの方に歩きはじめた。私とウイストの間を、男が一 人歩いていた。 んだ」 ウイストが、私に気付いたときには、男は私のすぐそばに近付い 「私は、殺人犯じゃない」 「わかっている。だから、気をつけろと言っているんだ。今、どにていた。そして、ウイストの顔に驚きが走ったように思えた。その ときまで、私は、ウイストの方だけを見ていたのだが、彼の表情に にいる ? 」 私の頭は、少し、混乱しはじめていた。私自身の置かれている位気付き、男の方に目を移した。男の顔には、驚きと興奮が刻み込ま れ、目が見開かれていた。私の顔を見つめている。小脇にはさんだ 置と、ウイストの居る位置の両方が、わからなくなってきたのだ。 ウイストの口調が感じさせる切迫した雰囲気は、演技のもたらすも新聞に、一瞬、目をやると、上衣の中に右手を突込んだ。その手が のではないように思えた。ウイストの声が、あのエレベーターの中出てくるまで、私は待たなかった。男に飛びかかり、その手を招ん で聞いたものと似ていると思った瞬間、私の心に浮かんだのは、ウで、ねじあげる。小型の銃が、男の手を離れて、路上に、転がっ イストが、私を罠にはめようとした人間たちの仲間にちがいないとた。私は、それを蹴り飛ばした。男の新聞が、落ちる。男は悲鳴を いう考えだった。だが、ウイストの言葉を聞いている内に、それあげた。私にしがみつこうとする。 が、わからなくなってきた。そして、私は、自分がいる場所を告げ冗談ではない。こんなところで、もみあっていたら、たとえ私が

10. SFマガジン 1980年4月号

げずに、前のめりに床に突込んだ。 一階のロビーは、閑散としていた。どうやら、賭けに勝ったらし 私は、旧式のエレベーターのボタンを押した。アショ力に対する異 い。私は、ロビーを駆け抜け、外に飛び出した。冷気が全身を包 8 2 和感は、そこで使用されている機械や物から生まれてくるのかもしむ。コートを置いてきてしまったのは、失敗だったかもしれない れない。地球では、すでに、使用されていないものに、ひんばんにしかも、あれは、私の最も気に入っていたものの一つだった。だ 出会う。四基のエレベーターの内の一台が上がりはじめた。少し間 が、もちろん、取りに戻るわけにはいかない。とにかく、今は、ホ を置いて、もう一台が上昇してくる。その両方が、私の呼び出しにテルから離れることが先だ。私は、暗く寒い街路を駆けた。路地か 応じてきたのではないらしい。ということは、どちらかに、人間がら路地へと、方向を変え、すっかり息が切れるまで、走り続けた。 乗っていることになる。無関係な人間なら、問題はない。だが、こ気が付くと、私は、倉庫街にいた。片端から、扉に鍵がかかって の階に止まるようであれば、用心に越したことはない。私は、銃を いるか、どうか、試してみる。幾つの倉庫をためしただろうか、よ 構えて待った。 うやく、鍵のかかっていない倉庫にぶつかった。扉の隙間から、中 最初に着いたエレベーターの扉が開く。中には誰も乗っていなに入り込む。扉を閉めると、完全な闇になる。私は、扉の脇の壁に 。もう一基のエレ・ヘーターが、下の階を通過した。私は、エレベよりかかってうずくまった。腰から、冷気が這い上がってくる。だ ーターに飛び込み、一階のボタンに触れた。こちらの扉が閉まるのが、外にいることを考えれば、まだましだろう。夜が明けるまで と、到着したエレベーターの扉が開くのは、ほとんど同時だった。 は、ここで過すつもりだった。 何人かの男たちの罵声だけが、密閉された空間の中に残った。その今の私に残されたものと言えば、二丁のプースト・ガンと、両方 中の一人の声は、どこかで耳にしたことがあるように思えた。だ 合わせて、九発の弾丸、全財産の金と、自分が地球人であることを それに時間だけだった。だが、その時間も、限り が、それを考えている時間はない。私は、ちょっと、ためらった示すパスポート、 がある。私を追っている者たちが、私に追いつくまで、だ。地球の が、二階のボタンにも触れてみた。 エレベータ 1 は、急速にスビードを落とし、二階で止まる。こい大使館に飛び込む手もあることに、気付いた。だが、それは、私が つは賭けだ。本当に、ここで降りてしまうという手もある。だが、 ここまでやってきた目的を、完全に放棄することだ。私は地球に戻 一階にも、私を待ち受けている者たちがいれば、私が二階で止まっされるだろう。メレディンだけならまたしも、プラウンまで置き去 たと気付けば、すぐに上がってくるだろう。たぶん、上に行った者りにして、ここを発つなどということはできない。少なくとも、・フ たちも降りてくる。最高は、下にいる者たちが、二階に上がってきラウンを取り戻してからでなければ、私はここを出るわけこよ、 てしまい、下には誰も待っていないという状態だ。で、私は、そのないのだ。 大穴に賭けた。 しかし、あのホテルの男が最後に言った言葉の意味は、どういう 扉が閉まり、体重が減り、増え、また扉が開いた。 ことだ。プラウンが、自分の意志で、私を置き去りにし、それを私