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検索対象: SFマガジン 1980年4月号
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1. SFマガジン 1980年4月号

・前回のあらすじ 5 三つの小さな太陽をもっ荒れ果てた惑星に、首長フセウの治める 村があった。彼らは植物の機能を有し、単調だが静かな日々を過し ていた。そんなある朝、空を奇妙な白銀の雲が横切った。長老は祖 眼下の盆地は光の海だった。 先の予言した不幸の前兆だとフセウに語る。この惑星にかって栄え 強烈な光を放っ光点が不規則な形に盆地を取巻ぎ、その光の領域 た文明が減んだときと同じだというのだ。彼らが村の防備を固めて の中に、さらに無数の灯がちりばめられていた。 いるとき、巨大なものが村に飛来し、恐るべき衝撃波で村に打撃を 光は影を生み、影は周囲の闇とは異なる複雑な人工の暗黒を造り 与えて去った。その後、水汲みに行っていた者が戻り、谷に星が墜 ち、中から一一本足の生き物が出てきたと報告する。長老は何者かが 出していた。その光と影の交錯する地上に、異様な物の姿がうごめ 宇宙船で飛来したのだと語り、フセウに北へ逃げろと忠告する。し していた。 かしフセウは火油を汲みに行った者たちの身を気づかい、捜索に出 それらはしきりに動き回り、物を運んだり、灯をふやしたりして かける。そして南の空に、ひらめく青白い光をみとめたのだった。 フセウとビンドは、呼吸をするのも忘れて見つめていた。 尾を曳いて地平線の向うに墜ちていった。 盆地の底まで、数百メートルの距離があろう。真昼のような地上 どれほどの時間がたったのか、星々はその位置を大きくずらして で動き回っている物の姿や形は、はっきりと見定めることはできな かったが、水汲み作業から逃げ帰ってきた連中が告げたように、そ フセウとビンドは、ふとわれにかえった。 れらは円い頭部と円筒形の胴体を持ち、銀灰色に輝ゃいていた。 最初の驚愕のまま、凝直しつづけた全身は容易に弛まなかった。 それは砂漠の果にたむろしているロウホト族とよく似ていた。ロ見開いた集合眼は乾ききって白濁した被膜を貼り、伸しきった眼柄 ウホト族は土色だったが。 はひどい痙攣とともにはげしい苦痛をもたらした。 その光の海の上高く、盆地をおおって巨大な、奇妙な影がそびえ「首長。どうするんだ ? 」 ていた。地上の灯に映えて、それはするどくとがった三角形の翼と ドンドの声がとめどなく震えていた。 長大な牙を持「た幻想の翼手竜のようにも見えたし、黄金の甲胄に光の下を、長大な腕が回転してゆく。腕は大きな円蓋をつり下げ 身を固めた双頭の悪魔の兵士のようにも見えた。あるいは、まるでていた。腕が止り、円蓋はゆっくりと地上へおろされてゆく。そこ 違うもっと別なもののようにも見えた。 には、円形の保塁のようなものができていて、円蓋はそれをすっぽ それは盆地に近づこうとするいかなるものをも阻止し、その意図りとおおいかくした。 をむなしくさせてしまう圧倒的な拒否の形象であった。 「やつらはイグルーを造っているぞ」 平原の果から果へ、あるかないかの風が渡り、流れ星が長い長い フセウは、彼らの巧みなわざに見とれていた。その方法なら、ど 8

2. SFマガジン 1980年4月号

レヒ三ウ 知ってる本だ、と喜び、「金星シリー 私は野田さンの全ェッセイから教えてもた。文庫で「大宇宙の魔女」が出たとき の嬉しさと興奮は今でも覚えている。そ ズ」ちゅうのもあるんか、読みたいな、らった。 「スペースオペラは素晴しい」でもいれだって、野田さンが教えてくれてこそ と思い、なんとネルスン・ポンドの「ラ 何だっていいのだ。本当のところだったのだ。 ンスロット・ビッグス」まで出ているの 私は野田さンから、レンズマンを教え は、素晴しいのは、野田さンの、そうい を見つけて、どんなに嬉しかったか ご存知でありますか。「宇宙人ビッグスったものをキャッキャッと喜び、めで、られ、ノースウエスト・スミスを教えら れ、キャプテン・フューチャーを教えら の冒険」と「幽霊衛星テミス」って、こ愛する、その心なのである。 れは、挿絵は武部本一郎さンが描いててもしもが、創生期の、はやく社会れただけではない。ものごとを、生き生 ね。はじめは武部さンの絵さえあれば何的に認められよう、という焦りのあまりきと感じとるやりかた、妙な権威主義か に、ひたすらハイプラウな、高邁な、そら心を自由に保って、おのれの感ずるま でも読んでたよ。タソッ高千穂遙め、 「異世界の勇士」で一足先に武部さンにして七難かしいものヘ - ばかり向かっていまに喜び、楽しむやりかた、そして「永 ったとしていたら、どうだったろう。お遠の少年」でいること・・ーー・おとなになり 描いてもらいおって : : : なあんて、とに かくこの本の話をしようとしても、たちそらく、私は、 ( そして他の沢山の人たたがらぬのではなく、ちゃんと「酸いも まち、思い出話になっちまって、どうしちも ) とは楽しいものである、とい甘いも」かみわけた苦みを持っていなが ても客観的になれない。今回はまったうことを、肌で感じとることができず、ら、ついにそれによってゆがめられるこ ヌーポーロマンだの、そういうものを敬となしに少年の激しいよろこびと激しい く、レビュアー失格だ。 感動とを持ちつづけることーーそれらは しかし、なんにも知らないまま、おずして遠ざけるのと同じ感情でもって、う おずと「面白いもの」を求めてに迷やうやしく棚の上にしまいこんでしまつみんな、この「英雄群像」や「レモ いこんでいった中学生が、さいしょにっただろう。世の中には、マンガも、探偵ン月夜の宇宙船」の中から、ごく自然に きあたったのが、この「英雄群像」小説も、時代小説も、楽しくてたまらぬ だった、というのは、今にして思ってみものがいくらでもあったのだから。 て、何という幸せなことだったろう。 野田さンがこの本で教えてくれたのペラは どれも、これも、ほんとに楽宏 ( 、 は、ジェイムスン教授や「シャンプロしそうだった。 雄昌 ウ」や、そういう歴史にのこる作品ばかそして、私は、とにかく楽しいものが・英 りではない。 好きでならなかったから、「ああシャン そういう作品にめぐりあうことよりプロウって読みたいな」「月世界ハリウ ッドってどんなんだろう」と、どれも、 も、さらに大切なことーーーっまりは、 「は素晴しい」ということ、それをこれも、すべて読んでしまいたく思っ

3. SFマガジン 1980年4月号

んなに大きなイグルーでも、簡単に組み立てることができるだろっているのだろう。何本かの突起物が折れ曲り、ねじり合わさって 硬直していた。そうなってかなり時間がたったものとみえ、流れ出 た液体で濡れた砂も、半ば乾いていた。 「首長。やつらはここに棲みつくつもりなんだ」 「火油を汲みにきた連中だ。誰だろう ? 」 ビンドの声に不安と恐怖がこめられていた。 ビンドが、かって生物だったのの残骸をたんねんに調べた。 「だが、彼らともうまくやってゆくことができるんじゃないかな」 フセウはつぶやいた。ナギやオルドたちともずっとうまくやって「カーサだろうか ? ジ・フだろうか ? 」 きたのだし、あの気難かし屋のロウホト族とも、これまで一度も争だがその残骸からはそれが誰であるかを判断することはできなか い事など起していなかった。あの新参者ともたぶんうまくやってゆった。 「向うにもあるぞ」 くことができるはずだ。そうにきまっていた。 それは完全に炭化した死体だった。 フセウは自分の考えに満足した。 「首長。やつらにここから出てゆくように言おう。水だって火油だ「どうしたんだろう ? 」 彼らが持っていた火油の壺に火がついたのでもあろうか。しか って、そう豊富ではないんだから」 し、これまでにそのような事故は無かった。 「まてよ。ビンド。なにもそう拒まなくともいいだろう。それに、 ふいにビンドがさけんだ。 彼らが水や火油をほしがるかどうか、まだわからないじゃないか」 ビンドはフセウの言葉に、はげしい拒否の身じろぎをした。 フセウがふりかえると、ビンドは光の海に向って手を打ち振って 「だめだ。首長。やつらをすぐここから追い出すんだ」 ビンドは執拗に言いつのった。ふだんから気の強いビンドだった「首長。ほら ! あれを見ろ」 が、な・せそれほど新参者に敵意をむき出しにするのかわからなかっ盆地の底に構築された保塁のようなもののかたわらから、細長い 塔とも柱ともっかぬものがせり上っていた。 それが中程で軽く折れ曲り、さらに先端部分が急角度に屈曲する 「もっとよく見よう」 フセウは丘の稜線を移動していった。これからのことを考えるたと、ねらいを定めるように二人の方へ向って静止した。 フセウは、そこに立っていてはいけないような気がした。 めにも、もう少し判断の材料がほしかった。 ビンドに語りかけようとした時、ふいにビンドがフセウを突き飛 「見ろ ! 首長 ! 」 ふいにビンドがさけんだ。 フセウは横ざまに斜面をころがり落ちた。その頭上を、目もくら 前方の稜線にまたがって、異様な物体が横たわっていた。盆地の 光の海に向いた側は、真黒に焼けただれていた。反対側は原形を保むような、あざやかな緑色の光球のむれが飛び過ぎた。

4. SFマガジン 1980年4月号

やった。黒子は頭のてつべんを両手でおさえ、よろめきながら後の妙な服のためだろう。え ? 」 ずさる。見事命中である。 小島は答えず寒そうに身をすくめる。 ・ハタリと黒子は頭をおさえたまま路上に倒れた。 「小島。おまえ、なんだって、こんな妙な物を着て俺のまわりを、 「ついにやったぜ : : : 」 うろちょろしていやがったんだ ? いっから俺に取りついていやが 俺はぎしぎしいう体を無理に起こして立ちあがった。右手には長った」 さ一メートルほどの金属バイプを握りしめていた。 : い、一カ月ぐらい前から。 : でも、普通は俺の姿は誰にも 黒子は気絶していた。そばまで行き、顔を被っている四角い布を見えないはずなんだ。なんで急にきさまだけに見え始めたのか不思 まくりあげる。 議だ。今まで、こんなことはなかった」 やはり小島だった。ー・ー俺が今の仕事、海外ミステリイの翻訳を どうなってるのか、さつばり理解できなかったが、とにかく俺 始める三年前に勤めていた会社にいた同僚だ。同僚といっても小島は、むかむかしてきた。一カ月ものあいだ、こいつに俺の私生活を は俺より三歳上で主任ではあったが。とにかく俺と小島は仲が悪かおもしろ半分に見られてきたのだ。 ふと、殺してしまえ。と悪 った。つかみあいこそしなかったが、毎日のように喧嘩をしていた。魔の声が俺に囁いた。 その小島が、なんでこんな妙な服を着て、俺のまわりをうろうろ そうだ。今、俺がこいつを殺したって、どうということはないん しているのか ? さつばり判らない。そういえば俺が会社をやめてだ。どうせ、こいつは行く方不明になっている。存在しない人間な から少したって、小島が行く方不明になったという話を誰かから聞のだからな。ーー会社時代の恨みが、心の底から、ふつふっと浮き いた覚えもある。 あがってきた。あのころ、なんどこいつを殺してやりたいと思った 考えるのをやめ、小島の身につけている黒子の服をはがし始めことか。俺が会社をやめたのは、こいつにも原因があるのだ。 た。着ているものはむろんのこと、顔を被う布のついた頭巾や、履 服を路面に放りなげ、右手に持っていたパイプを両手で握りしめ いている黒い足袋のようなものまではがしてしまった。 小島は下着姿になって天色の路面にころがっていた。痩せた男 小島は気配を察して俺をおびえながら見あげる。 だ。俺がこんな男にやられるわけがない。やつの着ていた黒子の服 「ま、待った。どうする気だ ? 」 はすべて俺の左手にある。 俺は無言でパイプを振りあげ、小島の顔面に叩きつけた。 小島が息を吹きかえした。パチリと目をあけて俺を見る。すぐに蛙の鳴き声をだして小島はのけそった。顔をおさえ、尻を路面に 自分の姿に気付いて、あわてた。 つけたまま、ずるずると、そのまま後ずさる。黒子の服を着ていな 「そ、その服をかえしてくれ ! 」 い今は、普通の人間だ。俺から逃げられない。 「だめだね。おまえが身軽にとびはねたり消えたりできるのは、こ もう一度パイプを顔に叩きつけてやった。真赤な血がとび散る。 28

5. SFマガジン 1980年4月号

登っていくではないか。ついに天井にまでたっし、ハエのように逆がしていったものと思われる、とぐろを巻いたホカホ力の大便が湯 さまになって天井をガサガサ這いまわる。 気をたてていたのである。 「な、なんてやつだ : : : 」 さすがに俺も度肝をぬかれ、ネックの折れたギターを持ったまま翌日、俺の右足の親指はみごとに腫れあがっていた。爪が紫色に 呆然と突っ立った。 なり、親指全体が二倍ほどの大きさになっている。ズキズキと痛み 「あいつは人間か : : : 」 が脳天まで登ってくる。 天井を這いまわっていた黒子が俺の方をむいた。そのひょうしに部屋はタベのまま。あれから、かたづける気力もなくなり、疲れ 顔にかかっていた四角い布が、はらりと半分まで、まくれあがってペッドにもぐりこんでしまったのだ。 いつを、いったいなんだったのだ : : : 」 「あの顔は : : : 」 夢でも見たような気がした。もしかしたら幻覚だったのかもしれ あわてて黒子は布をもとに戻す。 ない。あんな人間離れした泥棒がいるはずもないし、調べたが、な どこかで見た顔だと思ったが、思いだせない。 にも取られていない。 ・ハジャマ姿のまま顔も洗わずべッドに腰かけて、あらためて部屋 部屋のチャイムが執拗にピンポンビンポンと鳴っていた。迷った が、黒子を天井に張りつかせたままギターを床にほうり投げてドアを見まわす。ギターが無惨な姿をさらして、ころがっている。値段 にむかった。 を思いだして、げつそりした。視線をカー・ヘットの真中で止めた。 鉄製のドアを開けると五人ほどの人がいた。頭にカラーをいくっ俺は顔を歪めた。 タベ、これだけはかたづけたものの、まだ茶色の汚点が残ってい もつけたネグリジェ姿の女性、ガウンを着た男など、みな恐ろしい 形相で立っている。いちばん前にいる腹のでた男が吠えるように言たのだ。 「そうだ。やつばり、あいつは幻覚なんかじゃない。ふざけた野郎 「この真夜中に、なにやってんだ ! うるさくて眠れないぞ ! 」 この部屋は鉄筋アパートの三階だったのだ。俺は五分ほど、ひっ と、その時、目の前をなにか黒い影のようなものが、すっと横ぎ しになってあやまった。なぜか黒子のことは言う気になれなかっ ったような気がした。不思議に思い、キョロキョロと、もう一度部 屋を見まわすが、なにもいない。 「どうも変だ : : : 」 やっとみんなを追いかえして部屋に戻ると、黒子の姿は消えてい 目に見えないが、なんだか、まだあいつがこの部屋の中にいるよ引 た。部屋はメチャクチャであった。 しかも、あろうことかべージュ色のカーベットの真中には、黒子うな気がしてきた。そういえば、このごろ今みたいなことがよくあ

6. SFマガジン 1980年4月号

モ ) といった魅力的な怪物が登場するは全く異なったから ) こうした幾通りもまごろなんて、読んでいなかったん が、それらを引っくるめて山田の想像力の読み方が可能な話が書けるまでに我がですもの。えい、やめだ、やめだ。宇能 があくまで東洋的範疇に停まることに気山田正紀は成長したのである。全く、本鴻一郎ごっこなんかして、貴重なス。ヘー が付かれただろうか。怪物のネーミング気でぶつかるに値する作家ではないか。 スを浪費している場合か。 に漢字を多用し、その舞台を稲作地帯に ( 『宝石泥棒』 / 著者山田正紀 / 四六 しかし、本当に、冷静沈着にして非情 置く、という工夫により、彼は欧米先輩判上製 / 450 頁 / Y1400 / 早川書なるレビュアーとしたことが、今回はい てつ " ヒ ささか取り乱してしまった。ムリもな 作家たちが陥った轍を踏まず、想像力に房 ) い。だって、これが届いて、ややや、 歯止めをかけることに成功した。過剰な 「英雄群像」・が文庫になっちゃっ 想像力が単なる思い付きに堕することを野田昌宏著 た、と、嬉しいような、口惜しいよう この賢明な作家は知り抜いているのであ る。 な、なンとも複雑な気持ちで。ヘラベラ中 そして山田が本書で企てたもう一つの をめくって、さいごに「文庫化に寄せ て」を読みはじめたら、ワッ ! あ、あ 挑戦は、この東洋的世界に神話というフ 中島梓たいの名前が書いてあるじゃないかー レームワークを当てはめることであっ た。それは例えば、ルドンの絵であり、 あの「英雄群像」のあとがきに、あたし スフィンクス伝説であり、″白鯨のイ ただいま、私、いささか興奮しておりの名前が・ ( ジーンジーン ) たちま メージであったりするのだが、そのどれます。 ち、ジワーンとしたものが胸にこみあげ よりも作者が執着したのが、何とビート だ、だって、だって : : : 今月、私がレてきて、最初にこの本を手にした中学生 ルズ神話なのである。今やスタンダードビューするのは、あの、「英雄群像」のときからの、過ぎ去りし十数年間が、 グループサウンズ となったこのの歌詞 ( ミッシなのだよ。 走馬灯のようにまぶたの裏をかけめぐっ エルや第ヘイ・ジュードなど ) を随所にあたし、だめ。 たのであった。 散りばめながら、山田はそこに人類の未野田、とか、スペースオ。ヘラ、とか、 それほど、私はこの本に愛着を持って 来への鍵があるとさえ称揚する。ここにきいただけで。 ピートし 至って、主人公ジローの守護神が甲虫でとっても、感じてしまうんです。 なんだかもう、めちゃくちゃに懐しい ある理由も判明しよう。彼こそビートルあたし、どこかおかしいのかしら。 のね。だって、この本を最初に読んだと でも。 ズの誇り高き末裔なのである。 き、私はホントに、 「レンズマン」も 最後に一言。以上はあくまで一つの解しかたないんです。 「コナン」も、「キャプテン・フューチ 釈に過ぎない ( というのも評者はこの本だって、あたし。 ャー」さえほとんど読んじゃいなかった よ。「火星シリーズ」が出てきて、ワア を二度読んだが、一回目と二回目の印象野田サンのエッセイがなかったら、 『英雄群像』 0

7. SFマガジン 1980年4月号

モーガンは切符を買って、ざっと勘定し ( 三回目か四回目には乗ったのだろう。 れるだろうと見当をつけた。サラスに教わったとおり、ポケットに 四キロの高さまで昇ると乗換えになって、乗客はもう一つのケー 保温外套をつつこんできてよかったと思った。高度二キロしかないプルカー駅まで、ちょっと歩かねばならなかったが、そのための時 というのに、もうひどく寒かったのである。ここより三キロ高い頂間は僅かなものだった。ここまでくると、モーガンは心から外套を 上では、凍えそうになるにちがいなかった。 持ってきてよかったと思い、その金属被覆した生地で体をしつかり ひっそりして眠そうな訪問者の列に加わって少しすつ前へ進みなくるんだ。足もとには霜がおりていて、彼は早くも稀薄な空気の中 がら、モーガンは、カメラを持っていないのは自分だけだという興で呼吸をはずませていた。小さな駅には酸素ポンべが棚に並び、そ 味深い事実に気がついた。ほんものの参詣者たちは、どこにいるのの使用法が目につくように掲示されているのを見ても、彼は少しも だろう ? そのとき、彼らがこんなところに来るわけがないことを驚かなかった。 思いだした。天国だか涅槃だか、ともかく信者たちが求めているもそしていま、彼らが最後の昇りを始めたとき、近づいてくる昼の のに達するには、安易な道はないのである。功徳は、機械の助けに光の最初の気配が、遂に見えてきた。東天の星の光はまだ少しも衰 よってではなく、もつばら自分の努力によってのみ得られるのだ。 えを見せず、とくに金星はいちだんと明るく光っていたが、いくっ 興味深い教義だし、多くの真理を含んでもいる。だが、同時に機械かの薄く高い雲が、近寄る暁の光に微かに光りはじめていたのであ だけが目的を達成できる場合もあるのだ。 る。モーガンは心配そうに時計を見て、時間に間にあうだろうかと やっと座席の番がまわってくると、彼らはケープルがひどくきし思った。日の出にはまだ三十分もあることを知って、彼はほっとし む音を聞きながら出発した。モーガンは、ここでも予知というよう な不可思議な感覚に襲われた。自分が計画しているエレベーターは、 乗客の一人が、果てしなく続く階段を急に指さした。今や急速に おそらく二〇世紀に溯ると思われるこの原始的なシステムの一万倍嶮しくなってゆく山の斜面を右へ左へ折れ曲りながら続く階段の一 以上の高さに、積荷を持ちあげることになるだろう。それでも、基部が、時々下の方に見えていた。今はそこにも人の姿があった。数 本的な原理は、とにかく似たようなものなのだ。 十人の男女が、夢を見ているようなゆっくりした足どりで、果てし 揺れる車の外は、灯のついた階段の一部が見えてくるとき以外のない階段を喘ぎ喘ぎ登っていた。眼に入ってぐるその数は刻々と は、真暗闇だった。階段にはまったく人けがなく、過去三千年にわ増していった。彼らは何時間登りつづけているのだろうか、とモー たってこの山を営々と登ってい「た無数の人々の後を継ぐ者は、誰ガンは思った。きっと夜どおしだろうし、ことによるともっと前か もいないかのようだった。だが、ここでモーガンは、足で登ってゆらだろうーー参詣者の多くは相当な年配で、一日に登りきることは く者は、明け方に間にあうように、もうず 0 と上の方にいるにちが無理だろうと思われたのだ。これほど多数の者が今も信仰をもって いないと、気がついた。下部の斜面などは何時間も前に通ってしま いることに、彼は驚いたのだった。 ロ 4

8. SFマガジン 1980年4月号

全長三メートルはある、怪物じみたアルマジロだった。 ではあったが、ライフルの引金に添えた指に、緊張をくわえている ・ほくらに気づいたのかどうか、にぶい視線をちらりとこちらに向様子だった。無害ではあったが、ともかく大型動物が棲息している 9 けただけで、悠々と倒木の間に生えた若草をむさ・ほり食っている。 ことが立証されたのだ。彼らを狩るさらに大型の動物が徘徊してい たいじん ろどん よくいえば大人の風格を持ち、わるくいえば魯鈍そのものの姿だつることも充分考えられる。何よりも、最前、森のふちで耳にした咆 哮は、あのグリプトドンのものではない筈だ。 「グリプトドンだー もっとも、素人考えで考えても、大型肉食動物がこの凹地にそれ ぼくは呟いた。 ほど生き残っている筈はない。たかだか数百平方キロの広さでは、 「チャレンジャー教授の書斎にあった、古生物学の本で見たことが メイプル・ホワイト・ランドで遭遇したテイラノサウルスのような ある。新生代の、鮮新世と洪積世に棲息していた哺乳類で、アルマ大型肉食龍は、そう多くは養なえないだろう。たちまち餌を捕食し きんえん ジロの近縁ですよ」 尽して、餓死してしまうにちがいないからだ。だがたとえ一頭で 一一人の教授が居合わせれば、どれほど目をかがやかせ、幸福けなも、移動スビードが早ければ、おそるべき脅威となることは疑いな かった。 様子を見せたろう。しかしロクストン卿は、狩猟家の醒めた鋭い目 で、鎧におおわれた巨大なけものを見つめていた。 さらに小一時間進んだ頃、木立が次第に浅くなって来た。足元が 「残念ながら、狩猟のゲームとしては、冴えんな。動かない標的をじめつくようになり、やがて、木立が切れ、パビルスに似た草が密 あー′くさ 射っても、狩猟家の名誉にはならん。 ・ : しかし、こんな大型動物生する湿地に出た。その葦草の茂みにふち取られて、入り組んだか けもの が生き残っているところを見ると、この盆地は未知の動物の宝庫とたちをした水面が光って見えた。浅い沼のようである。 いえるかも知れんな」 その湿地を、南へと迂回し始めた。時間の損失になるが、やむを グリプトドンは、のろまではあろうが、身を守る能力は持った動得なかった。ーーー慎重な足取りで、足元に目を配りながら進んでい たわ ・ほくはそう思っ 物だ。それがために生き残ったかも知れない。 たロクストン卿が、とっぜん立ち止まった。全身が撓められた剣の たが、ロには出さなかった。探検が進めば、いずれ分かることだ。 ように緊張している。 こけ その頃になると、グリ。フトドンはさすがに不安になったらしい ・ほくは、前方の泥土の上に注がれた彼の視線を辿った。 : : : 苔に 草を詰め込むのを止めて、凝っとこちらを見つめていた。 似た草におおわれた泥地に、くつきりと巨大な足跡が刻まれてい きん 「・ーー失礼するよ、大亀君」 る。猛禽のそれを思わせる、おそるべき三本の爪を持っことを示す 足跡だった。 ロクストン卿は快活にいうと、空き地の蝌をよぎり始めた。 りゅうばん 「お前さんの昼食の邪魔を、するつもりはないんだ」 すなわちぼくらには先刻お馴染みのもの : : : 龍盤類の、大型肉食 ふたたび、木立の間を進んだ。ロクストン卿は、さりげなく恐龍の足跡に、紛れもなかった。 ( 以下次号 ) おおがめ しよさい しっち

9. SFマガジン 1980年4月号

訪問者たちは、少しずつ散っていった。ある者はケー・フルカーの 終端駅に戻ってゆき、もっと元気のいい者たちは、登りよりも降り の方が楽だとばかり思いこんで、階段の方へ向っていった。彼らの 大部分は、下の方の駅でまたケー・フルカーに乗ることができれば、 それでほっとすることだろう。麓まで全部歩きとおす者は、まずあ るまい モーガンだけは、多数の好奇心に満ちた視線を浴びながら、僧院 と山の絶頂に通じる短い石段を登りつづけた。滑らかに漆喰を塗っ た外壁 ( それはいま太陽の最初の光線に柔かく映えはじめていた ) に達した頃にはひどい息切れで、しばらくは厚い板戸にほっとして 寄りかかっていた。 誰かが見張っていたにちがいない。自分の到着を知らせる呼び鈴 か何かの合図を探し当てる前に、戸は音もなく開き、そこへ出迎え た黄衣の僧は手を合わせて彼に挨拶した。 ・ウワン 「こんにちは、モーガン博士。マハナャケ・テーロがお待ちしてい ます」 スターグライダーの教育 ( 『スターグライダー事項索引』初版 ( 二〇七一年 ) からの抜粋 ) 今日の我々は、一般にスターグライダーと呼ばれる恒星間宇 宙探測機が、五万年前にプログラミングされた一般的命令に従 って作動しながら、完全な自律性を持っていることを知ってい る。それは、恒星間を巡航しながら、五百キロメートルのアン テナを使って比較的ゆっくりした速度で基地へ情報を送り、 4 ( 詩人リューエリン・アプ・キムルーの造語した美しい名前を 採用すれば ) 〈スターホルム〉から折々の最新情報を受取るの 3 である。 しかし、一つの太陽系を通過している間は、太陽のエネルギ 1 を利用できるので、その情報伝達速度は桁はずれに増大す る。同時に、たぶん幼稚な表現だろうが、″電池の充電みも行 なうのである。そして、恒星から恒星への方向転換には ( 我々 の初期の〈。ハイオニア〉や〈ポイジャー〉のように ) 天体の重 カ場を利用するので、機械の故障や宇宙での事故によって機能 停止しないかぎり、いつまでも作動しつづけることになる。ケ ンタウルス座は十一番目の寄港地だった。我々の太陽を彗星の ようにまわった後、その新しいコースは十二光年先の鯨座タウ 星にびったり向いていた。もしそこに誰かがいるとすれば、そ れは紀元八一〇〇年を過ぎた頃に、次の会話を開始しようとし ているたろう : ・ : なぜなら、〈スターグライダー〉は使節と探検者との両 方の機能を兼ねそなえているのである。千年がかりの旅路の一 つの終りに工学的な文化が発見されると、それは原住民と親し くなり、恒星間交易の唯一可能な形態である情報交換を始める のだ。そして、スターグライダーは、彼らの太陽系を短期間で 通過して再び終りなき旅へ向う前に、銀河系電話交換局の新加 入者から直接の通話がかかるのを今や遅しと待ちかまえている 故郷の惑星の位置を教えるのである。 我々の場合は、相手から星図などを送信される前にその親太 陽をつきとめ、そこへ最初の送信を送ってさえいたという点 で、いささかの誇りをもっていいたろう。あとは、返事がくる

10. SFマガジン 1980年4月号

が駄目なら降りて探すまでだ。この場合、大きい島に着陸するのが捜索の方針を決めることができて、・ほくは気嫌よく艇に帰 0 た。 間もなく日が暮れてきた。ここの一日は地球よりかなり短い 良いか、それとも小さい島が良いかという問題がある。悩んだ挙 ・ほくは暗視スクリーンに切り換えて、艇の中で監視を続けた。暗 句、・ほくが選んだのは中くらいの島だった。 くなった空地には色々な小動物が這い出してきた。一匹出てくるご 高度を下げてゆくと、島を覆っている植物は丸味をおびた、ちょ っとサポテンに似たものであることがわかった。そして、その植物とに拡大して姿を確認してみる。平たい蛇のようなのや、コロコロ と転がってゆくゥニに似た動物、二本足ではねるビーナツツ : : : お の森のところどころに小さな庭ぐらいの丸い空地が散らばってい 目当ての毛むくじゃらの卵はなかなか姿を現わしそうにない。役立 る。・ほくは海岸線からさほど離れていない空地のひとつにロポット たずのケダモノのくせに、ずいぶん手間をとらせるものだ。本来な 艇を着陸させた。 空地にはダルの主星からの光がさんさんと降り注いでいる。赤道ら誰もわざわざこんな所まで来てお話を伺ったりしやしないところ 直下といっても気温は人間にとってはやや寒いが、陽の光のおかげを前途有望な青年が特別に来てやったんだから、もったいぶらずに でつらくはない。地軸の傾きがほとんどないこの星では、年中こう早く出てくればいいものを : いった気候なのだろう。 目が覚めるとスクリーンは真っ白だった。眠っているうちに夜が とりあえず空地の端から森の中を覗いてみようと思って、・ほくは明けたらしい。足の先で昼光用に切り換える。 ヌクヌクが居た。空地のまん中に一匹、鎮座ましましている。ホ 歩いていった。土はフカフカとクッションがあって快い ログラフで見たのと同じだ。卵型の胴体。びっしり生えた茶色の 森の中はサポテンがウチワのような葉を広げているので薄暗い。 おまけに地面には針のような草が生えていて、地上に動物が棲める毛。てつべんには薄桃色の二本のヒゲ、生えぎわから少し上がった ような感じじゃない。よく見るとサポテンの幹の上を這ったり、枝ところで水平に曲がっている。その付け根の周囲には丸い斑点がい の間を飛び回ったりしている動物はいるけれど、ヌクヌクとは似てくつかある。身体を支えている足は三本が見えている。 も似つかない。あのホログラフでは、地面にちょこんと坐っていた 一応の観察を終えると、・ほくはコンタクトの方法を考えた。まず ではないか。森の中にいる可能性は無視してよさそうだ。 彼らがどういう言語を使っているのか知る必要がある。それにはヌ クヌク同士が会話しているところを観察するのが一番だ。あいにく だとすると、スクヌクはいったいどこに棲んでいるのだろう ? ・ほくは頭をひねりながら艇へ引きかえした。おかげで空地の中央今は一匹しかいない。・ほくは待っことにした。 ヌクスクはじっと動かない。人間の動作にたとえれば、坐ってい 付近で足をとられて、ひっくりかえってしまった。その時に気付い たりだけど、この島で地面が見えるところといえば、こういった空るということなんだろうか ? 7 3 いつまでたっても他のヌクヌクが現れないので、・ほくはイライラ 地しかないのだ。だったら、この空地を見張っていれば、そのうち してきた。空地にいるやつも、一「・三度、身体の向きを変えただけ ヌクヌクにお目にかかれるに違いない・