・前回までのあらすじ しかし、急がねばならなかった。レモの臨終の際の話では、彼ら オン・フリ族の祭祀場は、川の上流にあるという。チャレンジャー教 ロクストン卿、チャレンジャー教授、マローン記者の四人は、有 史以前の失われた世界を求めての新たな旅に出た。ロクストン卿が 授たちが、そこへ連れ込まれてしまえば、救出は手遅れになるかも 南米旅行のおりに、伝説の黄金都市″マノア″の実在を示す手がか 知れない ~ まくらには時間そのものも、敵となっていた。 りをつかんだのだ。しかし、今回の旅には多くの障害が待ち構えて しかし何事にも終わりはあるものだ。ロクストン卿の、狩猟家と いた。ロクストン卿の持ち帰った証拠品の所有権を主張し、探検の しての卓抜な方向感覚も、大いにものをいっていた筈だ。一時間ほ 妨害をするエスメラルダと名乗る女、ロクストン卿に恨みを抱く匪 ど進んだのち、目の前が明かるくなった。 賊の脅威ーーーだが、そうした危機を乗り越えて、いまは仲間となっ あし ふたたび、パビルスに似た葦の類が生い茂る湿地に、ばくらは出 たエスメラルダ、匪族にとらえられ、記憶を喪っていた金髪のイン よど みどり ディオ、レモらとともに一行はゴールに近づいた。だが、レモのか ていた。その切れ目ごしに、緑色に淀んで光る水面が見えた。・ほく おど って属していたインディオの一隊がキャンプを襲い、二人の教授と の心臓は跳り上がった。 ついに、目指す川へ出たのだ。 エスメラルダをさらっていった。さっそく口クストン卿らはその追 ぶあついスポンジのような足触りを示す草地を踏んで、川ふちに 跡に向かい、カヌーに乗るインディオを追って陸路を進む。だが、 近づいた。 川は、幅は五十メ 1 トルもあろうか、水量もかなり多 ″大地のへそ″と呼ばれる大陥没地へと下る途中で事故のためレモ く、緑褐色に濁りながらゆったりと流れている。対岸は、やはり草 は死亡する。そして、ついにたどりついた″大地のへそで、太古 せ 地をわずかに迫り出させた密林になっており、その樹冠ごしに、凹 の恐龍、テイラ / サウルスの足跡を発見するのだった。 地の東側に当たる大絶壁が、その上方の山々から雪崩れ落ちる斜面 をいただきながら、果しない衝立のようにひろがって見えた。 川はゆったりと蛇行しながら、音もなく流れている。三百メート 「この地形は、気に入らんな」 ルも進んだ頃、草地は低くなってひろがり、ちょっとした沼地の様 ロクストン卿は、川ふちに沿ってえんえんと続く草地を見はるか子を呈し始めた。森の縁は、二百メートルほども右手に遠のいてし しながら、呟いた。 まった。 「森の中にいた方が、はるかに安全だ。しかし、やむを得んな。早ここで迂回するのもむだに思われたので、まっすぐ沼地を突っ切 く進もうと思えば、この川ふちを行くしかない」 ることにした。ところどころ水面が光っているカ′ ・、、。、。ヒルスの密生 ぼくは頷いた。この際、わが身の危険など、構ってはいられなかした″島″を伝って行けば、足を取られることもなく行き着けるだ ろう。 つま ぼくらはなるべく、森の縁に沿うようにしながら川上へ しかし、いったん進み出すと、考えていたより容易ではないこと り、川ふちを右手に進み始めた。すでに陽は中天近く昇っており、 が分かった。しつかりした足場のように見えた″島″は、じつは無 あぶ こけ 強烈な陽光が容赦なくぼくらの頭を、焙っていた。 数の苔や水草類がからみ合って盛り上がっているにすぎず、踏み込 へり ついたて いまわ なだ へり 2 6
きようぐう チャレンジャー教授は、苛酷な境遇にあり続けながらも、その明てしまったよ」 敏な頭脳と体力を失わなかったらしい。茫然としているサマリー教ぼくは驚嘆の念を押さえられなかった。それほどまでにやつを引 9 授の腕をひつつかむと、穴を目指して走り出した。 きつけておいて、射ったのか。すべてぼくらが逃げる時間を稼ぐた 高さ一・五メートル、幅一メートルほどの穴で、入口には石段のめだったのだ。 破片がころがっている。チャレンジャー教授は、サマリー教授の体外からはなおも、苦痛と怒りの混り合った唸り声と、石畳を踏み を押し込みながら、自分ももぐり込んだ。そのあとに、ぼくもエス鳴らす音が続いていた。テイラノサウルスは、どうすることも出来 メラルダとともに倒れ込んだ。 ぬまま、怒りと焦りに体を灼かれて、広場をうろついているらし 入口から二メートルほど這い込んだところで、振り返った。ふた たびニトロ・主クスプレスの轟音がしたと思うと、あわただしい足ロクストン卿は、そちらに顎をしやくると、すでに冷静になった 音が聞こえ、ロクストン卿が頭からころげ込んで来た。その手に、声でいった。 銃は持っていなかった。 「やつも、そのうち諦めるさ。 : ともかく、ここは安全だ。ゆっ くりと骨休めをすることだ」 「駄目だ ! やつに銃弾は役に立たん ! 何という怪物だ ! 」 やみ 息荒く罵りながら、体を入口にねじ向けた。ドカドカという地ひ 闇の中で、エスメラルダのか・ほそい声がひびいた。 びきが近づいたと思うと、虹色にきらめく体が、視野いつばいを充「ありがとう。 ・ : 来てくれて、ほんとうに助かったわ」 たした。 ぼくは黙って、彼女の体を抱きしめた。それは熱く、まだかすか だたみ エスメラルダが、ぼくの腕の中で悲鳴を上げた。石畳すれすれに慄えていた。 ャング・レイディ 「お嬢さんのいう通りだ。 に、テイラ / サウルスは頭をこすりつけたと思うと、その双頭の一 じつをいうと、わしもなかば諦めて あかり つが、ぎらりとぼくらを睨みつけたのだ。ーー頭は、とうてい入らおった。川で、銃声を聴いた時には、胸に灯火が点ったような思い ぬことをさとったらしい。次の瞬間、二又の爪を持つ前肢が、ぬつがしたよ」 と差し込まれて来た。 チャレンジャー教授が、しわがれた声でいった。 そのカづよい後肢に比べれば、こつけいなほどに未発達であった 「間に合って、よかった。卒直にいって、寄蹟ですな。・ にせよ、ぼくらの首をねじ切るには充分の大きさだった。だがきわすべて、忠実なレモのおかげです」 どいところでロクストン卿に届かず、引っ込んでいった。 「そうか。 : : : 彼の姿が見えんが、どうしたのかね ? 」 「銃を、どうしたんです ? 」 戸クストン卿は、かいつまんで、追跡行のこと、絶壁を下りるに ・ほくは叫んだ。 当たって、レモを失ったことを話した。 なんぎ 「やつが、引ったくった。マッチ棒みたいに、ばりばりと噛み砕し 「なるほど。むしろ、君たちの方が難儀な旅だったわけだ」 ののし : これも
はうちょう わしていた。肉切り包丁を植え並べたようなおそるべき顎、どっしひと跳びで、階段の最上段へと跳び下りると、ニトロ・エクスプレ りとした脚、太い尾、そして寄妙に小さな前足。 : メイプル・ホスに弾を充填しながら、振り向きもせず叫んだ。 ワイト・ランドでの人類の仇敵、肉食恐龍の中の王、あのテイラ / 「三人のロー。フを切れ ! どこか狭い場所にかくれるんだ ! 」 サウルスだった。 ・ほくも、その叫びを聴きながら跳び下りていた。ウインチェスタ 身の丈は、たつぶり八メートルはあったろう。・こがに ナまくらを真に ーを投げ出し、腰のベルトからナイフを抜いた。ロクストン卿と肩 を並べて、石段を走り下った。 三人は、すでに目を張り裂ける 戦慄させたのは、その夢魔にも似た頭部だった。 : : : そいつには、 何と頭が二つあったのだ。 ばかりにみひらいてぼくらを見つめていた。歓喜と恐怖の表情が、 たとう ゆが ヘラクレスが倒したという地獄の多頭犬ケルべロスを目のあたりめまぐるしく入れかわりながらその顔を歪ませていた。 にするような思いだった。しかもその頭は、いずれも活動してい 巨龍は、外壁の割れ目から、体を押し込もうとしていた。通路 たけ た。獲物の匂いを嗅ぎ取って、牙をむき出し、咆え猛っていた。 が、やつの巨体にとってはいささか狭すぎるのが救いだった。さも もちろん、これは奇型の個体だったのだろう。奇型の動物は、た なければ、巨体に似合わぬ敏捷さで、たちまち祭壇へと近づいてい いていの場合生命力は弱く、育たないものだが、どんな環境条件がたろう。 テイラ / サウルス はたらいたのか、彼は生き残った。″暴君龍と呼ばれるにふさ ロクストン卿は、祭壇の右手へ走り出ると同時に、ニトロ・エク わしい巨に成長したのだ。 スプレスを肩に投げ当てて、発砲した。二発の銃声が一発に重なっ いぎよう そして彼こそ、オン・フリ族にとって神だった。その異形が、原始て聞こえ、苦痛にみちた咆哮が湧き起こった。象の突進をも一発で 阻止するという衝撃力を持っ弾を二発も浴びて、さすがにこたえた インディオの目に、神によってなされた奇蹟だと映ったとしても、 無理はなかった。このテイラ / こそ、″大地のへそ″に住み、黄金らしい 都市の址を護る守護神だと信じた。三人は、彼に捧げられるべくは だがどのていどの効果があったのか、見定めている余裕はなかっ るばると連れて来られたにちがいなかった。 た。ぼくは祭壇におどり上がると、エスメラルダを最初に、すばや あのドラムは、・ほくらをおびき寄せるためではなく、彼を呼ぶた く三人のいましめを切った。緊張から解放され、崩れかかるエスメ めのものだったのだ。 ラルダの体を抱き止めながら、回りを見回した。 祭壇の右手 に、石段の下へつながる通路らしい円形の穴が、くちを開けている 4 のが目についた。 とっさに決心した。エスメラルダの体を抱き上げると、教授たち だがそれらの考えは、すべてあとで整理されたものだ。やつに叫んだ。 の姿を認めると同時に、ロクストン卿は次の行動を起こしていた。 「早く ! あのトンネルへ逃げ込むんです ! 」 むま 8 8
裂け目の上までよじ登り、内側のふちまで這い進むと、生い茂るら吹き矢で狙われれば身動きが出来ない。血の引く思いとともに、 蔓ごしにのぞいた。 そこは、英国のラグビー・グラウンドの半ぼくは全身の反射神経を失った。 分ほどはある長円形の、広場になっていた。しかし底は平坦ではな だがさすがに、ロクストン卿の反応はすばやかった。体を入れか ひざ すりばち ニトロ・エクスプレスを膝射ちの姿勢でぶつばな く、なぜか擂鉢状にえぐられている。石壁の内側は、ぐるりと階段えたと見る間に、 ・ロクス 状になっているところを見ると、建造物というよりも、何かの儀式した。すさまじい発射音に、ばくの耳は一瞬しびれた。・ トン卿の叫びがようやく聞こえた。 の場か、あるいは集会場なのだろう。 だが・ほくの目は何よりも、その擂鉢の穴の底に、吸いつけられて「射て、マローン君。射ちまくるんだ ! 」 いた。そこには低い台形の石壇がしつらえられてあり、三本の、 ・ほくは夢中で動いた。ロクストン卿とともに、裂け目の外側まで ーテムボールを思わせる石柱が立っていた。 そのそれそれの石這い戻るとともに、正面の茂みめがけて、盲射ちに射ち始めた。こ 柱に、エスメラルダを真ん中に、二人の教授が蔓でしつかりとしばのような時は、ウインチェスター銃は有利だ。何しろ弾倉には十五 りつけられていたのだ。苦痛の呻きは、どちらかの教授が発したも発もの弾が詰まっているのである。 のにちがいない。 ヒュウヒュウと、一「三本の矢が、頭上をかすめて飛んだ。狙い は、思ったより不正確だった。始めて聴くニトロ・エクスプレスの 石壇の前にはーー・、祭壇といっていいと思うが・ーー、木で作ったド ラムが、放置されてある。それを叩いていた筈のオン・フリ族の姿轟音におそれをなしたのかも知れない。 は、どこにもなかった。 つるべ射ちに十発近い弾をばらまいた時、三十メートルほど向こ 祭壇のちょうど向かい側に、石づくりの階段の切れ目があり、そうのシダの茂みの蔭から、悲鳴が上がった。全裸に近いオン・フリ族 が一人、顔をおさえながらよろめき出ると、草むらに倒れ込んだ。 の向こうの石壁も大きく割れ落ちている。祭壇まで続く、幅三メー トルほどの通路になっている。彼らは、そこから姿を消したのだろその悲鳴に呼応するかのように、・ほくらの背後で、すさまじい咆 哮がとどろいた。同時に、エスメラルダのものと思われる悲鳴もひ ロクストン卿の気配を感じて、振り返った。合図を送らない・ほくびいてきた。 ぼくは凍りついた。十人近いオン・フリ族が、かくれ処から姿を現 に業を煮やして、這い上がって来たのだろう。並んで、広場を見下 ろした。 その瞬間、ヒッとかるく空気を切る音がして、何かわし、木立から木立へと伝いながら蜘蛛の子を散らすように逃け去 が・ほくの傍の石壁に当たってはね返った。日にきらめきながら広場って行くのを、茫然と見つめていた。 へ落ちていった。長さ二十センチほどの、先端が黒くなった吹き矢ふたたび咆哮がとどろいた。ぼくらははじかれたように体をひる がえし、祭儀場へと目を向けた。 ・ほくらはやはり罠に落ちたのだ。このように狭い場所で、背後か虹色にかがやく皮膚を持っ怪物が、正面の通路の向こうに姿を現 つる つる 7 8
あのガルシア・デ・ルイスの黄金仮面に刻まれていた龍回りの森からは、得体の知れぬけものや虫の息吹きや鳴き声が奏 だ。わしはここがマノアであることを疑っておらん。 でる交響曲が聞こえて来た。・ほくは、過去からの声に引きずり込ま 9 物的証拠が必要だというのなら、探すまでだ。ここで黄金を発見れるのを感じた。この地底では、数千万年、いや、数億年の過去 すれば、君も納得するだろうな」 が、そのままに残されているのだ。 こここそは、時に忘れられ 「今後どうすべきかは、明日決めましよう。今は、休息が必要な時た世界だった。 です」 三時間後に、チャレンジャ 1 教授が交替に来た。 ロクストン卿がきつばりと割り込んだ。 「どうかな、マローン君 ? 」 「間もなく、日も暮れる。今夜は、ここで寝ることにしましよう。 「しずかなものです。昼間の騒ぎが、嘘のようだ」 ・ : 快適とはいえないが、どうやら安全な場所だ」 「だが、世界は生きている」 ・ほくはあらためて、トンネルの中を見回した。湿 0 ていてかび臭チャレンジャー教授は、ぼくの前に膝を折「て坐り、月光にかが く、コウモリの排泄物を思わせる刺激的な匂いがした。トンネルのやく広場に顔を向けながらいった。 奥は、ところどころ上の石段に亀裂が生じているらしく、光が幾条「森が奏でるあの歌声を聴きたまえ。森は生きて、呼吸している。 か射し込み、それがまっすぐ続いていることを示していた。 生命に、みちみちているのだ。太古の森林が、そうであったように ロクストン卿のいう通り、快適とはいえないが、大型動物の襲撃な。 からはふせいでくれるだろう。 教授は自分にいい聞かせるように呟いた。 「このような世界が残されていたとは、まさに奇蹟だ。地球は、化 教授たちも異議を唱えなか 0 たので、草むらにかくしておいた荷石ばかりではなく、生きた歴史の証人さえも残しておいてくれたの と、最前放り投げた・ほくのウインチ = スター銃を、ロクストン卿と ・ : わしらは、それをないがしろにしてはならない」 しさく ともに取りにいった。幸いオンプリ族は姿を見せず、テイラノサウ 一人で思索にふけるのが、教授の望みだと思われたので、ぼくは ルスの気配もなかった。 お休みをいし 、トンネルの奥へ戻った。胎児のように体を丸めて眠 水筒の水を分け合 0 て飲み、乏しい保存食糧から乾し肉とビスケ「ている = スメラルダの傍で横になりながら、入口をふりかえっ ットを出して、少しずつ食べた。 夕食がすむと、交替で見張り そぞう を立て、眠ることにした。最初の見張りには、ぼくが志願した。 ばくがその日最後に見たものは、月光を背景に塑像のようにうず ライフルを抱き、トンネルの入口にうずくま 0 て、三時間をすごくま 0 ている教授のシル = ットだ「た。 = スメラルダと同じように した。 ・ : 日が暮れてしばらくすると、この世界のの地底にも、体を丸めると、たちまち泥のような眠りにおち込んでい 0 た。 月が昇り、銀色の光で祭壇を染めた。 ( 以下次号 ) マスク シ / フォニー
むと同時に、ずぶずぶと膝近くまで沈んだ。 的に水面を叩く音だ。ぼくらは反射的に、体をパビルスの茂みの蔭 につちさっち たちまちぼくらは二進も三進も行かなくなっている自分を発見しにひそめた。 なんじゅう やがて、茂みの合間から見える水面に、一艘のカヌーが現われ たが、今さら引き返すこともならず、難渋しながらも、前進するほ 、まよ、つこ。 こ。・ハルサをくりぬいて作ったと思われる長大なもので、オンプリ カ一 . を事 / ・カ / アマゾンでは、こういう湿地は、毒蛇のすみか として知られる。ジャラカカと呼ばれる猛毒蛇も、このような沼地族が四人と、彼らにはさまれた三人の白人が見えた。 ・ほくは思わず跳び上がりそうになった。チャレンジャー教授のす を好むのだ。しかし幸いなことに、おそるべき爬虫類の歯は、今の そう ひげづら ところ見当らなかった。 さまじい髭面と、サマリー教授の痩身にはさまれて、エスメラルダ ・デ・ルイスの白い横顔が、その狭い視野をよぎって行ったからで ちょうど沼地の半ばまで来た時、先頭を行く口クストン卿がぎく りと足を止めた。沈着な彼にしては珍らしいことだ。・ほくはようやある。 しようすい 三人はいずれも、手を前で縛られているようだった。憔悴してい く肩を並べると、ロクストン卿をおどろかせたものをのそき込ん ることは疑いないが、それでもさほど痛めつけられているようには 全身の血がいちどに退くのを感じた。 目の前のパビルスの茂見えなかった。ロクストン卿が察した通り、オンプリ族は今のとこ まつり ろ捕虜を虐待するつもりはないらしい。しかしいざ祭祀の場につけ みが、幅二メートル以上にわたって、揉みくだかれ、倒れ伏してい ば、どんな扱いを三人のために用意しているのか、知れたものでは る。何か巨大な動物。ーーおそらく蛇かワニだろう が、通った跡 のように思われた。 あんど しかし、その大きさはとほうもないものだった。アマゾンの水に熱い安堵が、熱湯のように・ほくの胸に泌み通って行った。ともあ 住む蛇アナコンダが這った跡を今まで幾度と見ているが、形状が似れ、三人はぶじだった。・ほくらはオン・フリ族に、遅れを取っていた てこそすれ、これほど目覚ましかったものはない。すさまじい重量わけではなかったのだ。おそらく、流れをさかの・ほる旅のため、時 間がかかったのだろう。 が、草を押しひしいで通ったのだ。 しかし問題は、どちらの側へ向かったのかだ。・ほくはまず川べり「ーーー行こう、マローン君」 を見、つづいて森の方角をうかがったが、何かがひそむ気配はうか ロクストン卿が囁いた。 がい取れなかった。もっとも、彼ら爬虫類の、身をひそめる術には「先回りして、連中を待つんだ」 驚嘆すべきものがある。ちょっとした草むらにも、おどろくような ぼくらが体を起こそうとした時、森の方角から、シュシュッとい 大物がひそんでいたりするのだ。 う蒸気が洩れるような音がひびいて来た。そっとするような不吉な 怪物の息吹きは感じ取れなかった。だが、さらに興味ぶかい 音だ。 ・ほくはそちらに顔を向け、信じられないようなものを見 物音が、川の下流から聞こえて来た。ビチャピチャと、何かが規則た。三十メートルほど先のパビルスの盛り上がりの向こうから、巨 スチーム