コップス - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1980年5月号
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1. SFマガジン 1980年5月号

ョ常ベルにある。だからおどろかせがいがあって実にいい気分。 神しそうになった。カッパのような : : : お皿が光っていて : カツ・ハ 「仲間か」・モドキがコップスを指して訊いた。そうだ、とお 灯じゃない、要注意ヒト型原住生物だよ。おれは失神する。 ほんの一瞬だったらしい。まだ夜は明けていないし、まだこの身れ。「死にそうだね ? 」大丈夫、応急処置カ 1 ドがある。「すごい」 はひき裂かれてはいない。おれは両手をあげた。犬にこうやると逆と・モドキ。「すごい物知り」 効果だった経験を思い出してすぐに手をおろし、いや、犬より高等「そうとも」とおれ。「地球人は、人間は、偉大なのだ。おれは人 かもしれないからとまたあげて、結局、・ハタ、・ハタ、・ハタと三、四 間だ。一だからおれも偉大なのだ。欲しければ売ってやってもよい 回空気をかき回した。コリキ、と歯ぎしりのような音。関節がどうぞ」あまり役には立たないだろうなあ。「この・ハルーン製造機なん にかなったのかな。ちがう、カッパがしゃ・ヘったんだ。翻訳機、万かどうだい。お祭りに花をそえるよ」祭りという言葉、翻訳不能。 能翻訳機はどこだ、ポケットだ、ふるえる手で取り出し、 6652 なんでもいい、客を相手にして、こんな王様のような気分になった 4 ・伐・Ⅲと押す。これで作動すればよし、だめだとかなり時間がのは初めてだ。「ヒャッホー」 かかる。「暴力反対」とおれ。翻訳機がいった、「コリキ」なに ? 「なんていった ? 」 ということは、彼も、殴らないでくれ、といっていたのかな。どう「いや、フフン、 しい天気だねえ ? 」 もそうらしい。これはめでたい。荷物の中から粉末シャンパンを出空を見上げたおれは視野が狭いのに気づく。これは心配ないの して、乾水が見あたらないから手のひらに振り出し、「あなたもどだ、対放射線保護剤の副作用だから。問題は狭い視野が正常になり うぞ」とすすめる。手を出したカッパにたつぶりやって、「乾杯」っつあることだつだ。 翻訳不能、と機械。乾杯の習慣はないんたろう。カッパは勝手に飲「薬が切れはじめた。きようはおひきとりねがおうかな」 み、というか、なめて、「うまい」といった。「もっとくれ」三本あいよ、と・モドキ。あまりこの薬を長く大量にとりつづける め、じゃ、三袋めにぶつ倒れる。おれも。 と失明のおそれがあるんだ。おれは去ってゆく放射線源のうしろ姿 を見送った。 ・モドキは毎日やってきた。毎日といっても、まだ三日しかた こわがることなんか・せんぜんなかったんだ、ばかみたいにおとな コップスはきのう意識をとりもどした。しかし飯は食 しい。おれは優越感にひたっていい気持だった。昼の光で見る彼はっていない。 えない。 さほどカッパには似ていない。背丈は低く、体はずんぐりしてい て、うすみどり色、裸だ。頭は大きく、目鼻ロは広い額に押し下げ「鼻はかむなよ、コップス。汚い指を鼻の穴に突っ込んだりしても いけない。脳膜炎になるおそれがあると、このカードに書いてあ られた位置に、ちまちまとまとまっている。醜くはなかった。けっ 。その顔でいちいちおどろくのだ、おれの荷の商品のる」弱々しく彼はうなずく。「ーーーああ、それね、マルガンセール こうかわいい ひとつひとつに。機器の機能説明を一応理解するから知能は ( イレ星人用のダッチ・ワイフだよ。なに、気分がわるくなった ? わか

2. SFマガジン 1980年5月号

コップスは操縦桿を握りしめ、計器板に頭を突っ込んでいた。息いえば脾臓であってーー・冗談じゃないよ。 はあった。しかしなんとかしなくては、そのうちに止まるだろう、 コップスを静かに船倉内に移して、「鼻血は止血するな」という 7 見ればわかる、どうしよう、医者はいませんか、乗員は二人だけ、から垂れ流し、流れた血を ( ンカチでふく。 ( ンカチの上の血の周 おれは医者じゃない、ということは、絶望的。おれの心臓が高鳴っりにうすい透明な液、鼻水かな、でなければ「髄液かもしれない。 てもしようがない、彼に、強心剤でも打たなくては。だけどこんな血圧の上昇および脈搏数の低下の動きに注意せよ」ムムム、「専門 小さなポロ船になにがあるだろう : : : まてよ。ある。救急医薬品。 知識なしに、みだりに脳圧下降剤を投与してはならない」そんなも 船倉にひき返して、風船を追っ払い、おれの荷物を整理する。この、あるものか、「脳外科に連絡をとりーーー」できれば真っ先にや こにあるのはみんなおれの荷なんだが、その中に救急医薬品の薬品ってるよ。「感染に注意せよ。髄膜炎、脳炎の予防措置をとれ。二 別梱包がある。いつも宇宙のどこかでゲリラ戦は行われていて、反四九ページ参照」 政府側というのはたいがいこういった物資を必要としているーーお手足の傷を消毒し、救急ガーゼでぐるぐる巻きにする。頭には見 れもわるい商売をしているよなあ。悠長に梱包をながめて悦に入っ たところ大きな傷はないが、中味まではわからない。もしカードの てはいられない、アタッシ = ケースの中にたしか「応急手当の初指摘するように頭蓋底骨折があると、脳自体もいかれているかもし 歩」という本があった、あわてて開けたので中味の本全部が床にばれよ、。 オしともかく、半ばやけくそで、抗感染剤を静注した。大量 らまかれた、手帳型のプロジェクターをまず手にして、散らばった ドがそういったから。「静注の場合、血液脳関門および血 カードをかたつばしから取り上げ、応急処置のタイトルを捜す。あ液髄液関門により、投薬成分は一。、 ノーセント程度しか脳・髄液に有 った。プロジ = クターに入れるーー「そのときあなたは焦ってはい効作用しない」だからたつぶり使え、というのだ。リ 一。田作用で狼男か けない」フム、「リラックスして」なるほど、「どうしてもオーガズなんかに変身したとしても、おれのせいじゃないそ。 ムを得なければならない、などとは考えないことでーー」なんだ ? コップスの意識はもどらない。応急処置カードのいうとおりに瞳 間違えた、裏だ、裏。「どうしました ? 」という文字が出るから、 孔反射や痛覚反射を調べたが、その結果、彼の脳みそは大丈夫だと 墜落、とキーを押した。「外傷はあるか」どこもかしこもだろうカードは保証した。たた気管に痰がつまったりしないように注意 な、「出血はひどいか」いいや、鼻血程度だが、意識がない。「二〇し、気管支肺炎を予防せよ、とカード。 「患者を仰向けにしてはな 三ページを参照せよ」二〇三ページね、ほんとにわかっているのからない」ではどうするか、ちゃんと図が出る。腹ばいにして、胸の な。 下にやわらかいものを入れ、それを抱かせるようにする。マットも 脈と血圧を測れ、と手の上の応急処置カードが偉そうに指図し布団もないから風船で。どうもおさまりがわるい。なにか代用品が た。ショック症状にもかかわらず正常な値の場合は体内大出血の疑いる。「二時間おきに体位を変換せよ」いざとなったら気管を切開 いがある、といわれておれは焦った。もっとも破裂しやすい内臓とせよ、だと。たれがやるんだ ?

3. SFマガジン 1980年5月号

操縦室へ行く。助けを呼ぼう。時空通信機は壊れているようだ。 こんな悪条件下では絶対に眠れるわけがない、という夢を見てい しかしうれしいことに救助信号自動発信機のパイロットランプが点たおれは、女房のヒステリーに似た声でとびおきた。警戒音らし 7 減していた。よく見ると、装置が働いていないという警告ラン。フら 。暗い。なんたかに ・まんやり青白く光っている物体がある。非常灯 しい。がつくりくる。となりの、確認というスイッチを押してみだろう。操縦室で警報の種類を調べる。ね・ほけまなこだからどれが る。小さなディスプレイ面に細かい文字が出た。 なにやらよくわからないが、鳴っているのはこれ、わっ、放射線警 「救難信号ミサイル発射ずみ」 報装置だ。要防護措置の警告。 頼みの糸はそれだけのようだ。船外は紅い。タ焼けかな。なんだ船倉にとって返す。「コップス、女を抱いている場合じゃないそ」 か心細い。船倉にもどり、荷から粉末の「ビールの素」を出してポ女 ? そうだ、風船の代わりにダッチ・ワイフを抱かせておいたん ウルに入れ、乾水をひとつぶ放り込む。ビールより水割りがよかっ だった。頭がまだもうろうとしている。救急医薬の梱包はどこだ、 たかな。どうも見た目がよくない。飲み干す。コップスは静かにな暗くてよく見えない、対放射線保護剤はどこだ、たしかあったはず っていた。彼の人さし指をぐいと曲げたら、ギャッというから心配だ、あるある、カプセル剤でも圧注射カートリッジでもなく、静注 ない。元気が出たところでもう一度操縦室に入り、航路データかな用のアンプルだ。使い捨ての注射器で、腕にゴムを巻いて、打つ。 んかないかと探す。あった。三次元ディス。フレイに星系図と跳躍終この薬はコップスの頭蓋内圧を危険なまでに高めるかもしれない。 点が出る。これによると、ここはエイセム・ナン・ハーで 6 6 5 2 4 応急処置カードを見るが、この薬の使用可否は載っていない。だが ・夜という太陽系だ。五桁ナイ ( ーとは、へき地なんたな。非常用迷っている暇はない、放っておけば被曝して確実に死ぬ。彼にはっ 回路以外の電気はみんな切って、番号を忘れないうちに急いで船倉いでに抗感染剤も静注した。 これで、瞬時に火傷をするほどの強烈な放射線でないかぎり大丈 にひき返す。照明は消えていたが、裂け目から入る光でけっこう明 るい。ェイセム・カタログを捜し出し、プロジェクターにセット、 夫なはずだ。もっとも、たとえば / 線の致死量は一〇〇〇レム以下 だが、これは熱くない。 / 線においては一レムは一ラドに等しく、 応急処置カードと入れ替えた。 66524 ・夜。愛想も愛称もない 星だ。惑星は六つ、 6 6 5 2 4 ・の :•-* からⅥ。ここは虹だ。 一ラドは一〇〇エルグ / グラム、これを熱に換算すると一グラムあ たり約百万分の二・四カロリーにすぎない。致死量をあびても体組 「Ⅱはもっとも大きく、ヒト型生物が生息する。人見知り的傾向が あり、単独で生きているらしい。惑星外からの侵略者には団結し、織の温度の上昇は千分の一度単位でしか測れないわけだ。火傷する 攻撃的になるといわれるが、詳細は不明。要注意」 わけがない。熱線とは異なり、電離放射線のおそろしさはエネルギ なんだかおそろしい星のようだ。読まなければよかった。あいま 1 ではなく効果にあるのであってーーー薬を売るための口上、まさか いな情報は恐怖を生む。 自分にいい聞かせるはめになろうとは。それにしてもなぜ放射線な んだろう。明りがほしい。非常灯をひきよせようとして、おれは失

4. SFマガジン 1980年5月号

一応コップスにはやれるだけのことはやった。ハッチを開けて外べージ = 色の苔はけっこう厚く、四、五十センチほどで、弾力性 に出る。森の中の広場という景色だった。船が進入した側の木々が がある。三メートル四方をひっぺがした。黒い、しっとりとした土 なぎ倒されている。木というか、白い巨大な珊瑚のように見える。 があらわれた。もしこの苔が苔なら土地はやせているだろう。あま そこから船はジャンプして、ポンと、この広場に墜ちたらしい。広りやせた苔には見えないから、きっと千倍麦もよく実るそ。 場はほぼ円形で、直径五、六百メ 1 トルくらいか、人工的な雰囲気なにか動いた。遠くで。森の方だ。作業に熱中する手を止め、顔 がある。しかし動く生き物の気配はない。滑走するには狭いからコをあげたときにはもうなにも見えなかった。森の方角といっても周 ップスはここを目ざして降りたわけではなさそうだ。偶然だろう。 囲みんな森だけど、船首の方向、たしかになにかいた。幻覚だと否 地面はべージ、色でふわふわしている。苔のような植物らしい。食定するよりは、実際になにかが動いたのだと考えるほうが自然だ。 なにが出てもおかしくない。願わくば、すごい美人でありますよう えそうにない やるべきことは多い。ここはどこの惑星なのか、救助信号はどう やって出すか、腹もへってきたし、コツ。フスの面倒もみなくてはな この世のものとは思えぬ叫び声におれは腰を抜かした。よく聞く らない。ます腹ごしらえといこう。船にもどり、船に備えつけのド ョとコップスだった。四つんばいでハッチまで行き、内に入った。コ 常食を出す。二人で二日分ある。乾パン、乾肉、乾野菜、それに乾ップスは意識はないようだった。鎮静剤でだまらすこともできた 水。乾水 ? ・説明書を読むに、つまり、水の素だな。水素と酸素かが、騒がしいほうが心強い。声をあげているうちは生きているわけ と思えばそうでもない、一種の吸湿剤で、外に出しておくと水を呼だし、自分で動いていてくれれば体位の変換も必要ない。薬を打っ ぶ。プラのボウルにその乾水の錠剤を入れて、それを船外に出した場合、薬が利いて眠っているのか、それとも容体が悪化して昏睡 乾。 ( ンを入れる、わ状態なのか、その区別に気をつかわなければならない、とカ 1 ドに た。しばらくすると水、なみなみ。味はな、。 ポッとふくれた。消ゴムくらいの大きさが煉瓦一個ほどになもあることだし。 オ冫カオしかな。「レディ・キラー入門」だめ った。この調子だと肉もきっと、と喜んだのだが、こちらはなんだ武器だ、武器、よこ、よ、 か惨め。 だ、武器らしいものはなにもない。その手の商品は、おれはあっか わない。良心がとがめる。実のところ、武器販売分野は大手グルー コップスに、食うかと訊いて、返事がないからひとりで食べた。 このパンをいきなり口にしていなくてよかった。ロの内でふくらんプが握っていて、おれのような一匹小物にはわり込めないんだ。ど だら頤が外れるかもしれない。なんとなく危うい。自分の荷物に食うしよう。襲われたらひとたまりもない。宇宙救難法を理解するよ 料はないかと探す。すぐにロにできる食品はなかった。が、「千倍うな原住民がいる星ならいいのだが。荷物をごそごそかき回し、万 麦の種」というのがあった。「条件がよければ二十時間、わるくて能翻訳機を手に取る。話せばわかるー・ーこれしかない。頼りになる 武器といえばセールスマンである自分のロしかなさそうだ。 も人間の生息可能な環境下であれば百時間で収穫できます」

5. SFマガジン 1980年5月号

と。 ま 0 たく、くそ 0 たれ、だ。放射線は彼らの排泄物だぞ、き「イヤシ = , ク症だよ。おれなんか初めてルガンセール星人に会 0 たとき、ひどかったよ、毎晩悪夢を見た。そのうちに自分の体の形 おれは船内にあ 0 た水素ポンべを・ ( ルーン製造機に 0 ないでスイまでが奇妙に思えてきてね、手を広げ、指を動かす、その動きに吐 , チを入れた。色とりどりの風船が舞い上がる。こうすりゃあ、早き気を覚えたものさ。それと同じなんだ。十日もたてば不安は消え く見つけてもらえそうじゃないか。話をおれから聞いた = ツ。フスはるさ。気をたしかにもて」 「うん」 ひざまずいて祈りはじめた。 「自分に価値がないなんて思っちゃいけない、おれはあんたに感謝 している。うまく手当してくれたよ。鼻水も止まったし」 間一髪だった。 66524 ・夜・虹星人たちの攻撃というのは、 すさまじいものだ 0 た。武器は頭だ。あたま。救助船内で見た、 e 「鼻水でなくて髄液だとしたら = = = 早く専門医に診せたほうがいい 、、よ。脳〈ル = アで髄液の流出が妨げられているのかもしれない」と レンズのとらえた大爆発の一瞬前の光景は忘れられない。七ノ 「カードにそう書いてあった」 人の・モドキの仲間たちが八方からけてくると、お互いの頭おれはい 0 た。 を、ガチン。まさに火が出た。たぶん臨男質量に達したんだろう。 といっていたから。 ・モドキはいなかったと思う。頭がわるい、 考えてみれば、ああいわれてみると、たしかにおれはなにも創造 していない。人間が生んだものは山ほどある、でもおれが創ったも のはなにもない。船やコンビュータやレ 1 ーザー発振器や本や医薬品 や風船製造機や千倍麦やパンはだれが発明した、人間だ、しかしお れじゃない。数えあげれば星の数ほどあるだろう、使って食って利 用する、その中に、おれの創造物はひとつもない。ひとつも。 「安心したらカが抜けたかい」とコツ。フス。 をいかに自分が非創造的な人間か、それに気づいて愕然と おれよ、 しているところだと、心をうちあけた。 「物だけじゃないよ、知識にしてもさ。おれのカでは黄金どころ か、せつけん一個、造れやしないんだ ! 「思いつめるなよ」コップスは同情してくれた。「だれだって、未 知の異星人に会うと衝撃を受けるものさ。宇宙精神医学でいう、ダ

6. SFマガジン 1980年5月号

隊がきてもいいんだがと彼はいった。「時空通信機がだめだって ? のなんだが、「おまえが創ったといった」とがんとして受けつけな それしゃあ、そうだな、なにか代わりの手段でこの位置を知らせる んだ」 彼とおれとのこの行き違いをナンセンスだと笑ってかたづけるわ もう見捨てられたかもしれん、などと病人は悲観的につぶやいけこよ、 冫。しかなかった。相手は人間じゃない。翻訳不能の言葉がある た。必死で看護してきたおれの気持なんかてんでわかっちゃいない ように、絶対にわかりあえない領域がたしかにあるんだ。えらいこ んだからな。代用通信機を持って外に出る。 とになったよ、これは。おれは嘘をついていたように・モドキに 「それはなんだ」と・モドキが尋ねた。 は見えてきたらしい。おれがうろたえたからだろう。平気でいられ るものか。 「代用の信号発射機だ」 船外に電源ケープルをひき出し、小型紫外線レーザー発振器に接「どこへ行くんだ ? まさかーーこ 続した。これは売り物の測定機の発振部。通信機ではないけど、目「おまえは非創造者だ」 じるしにはなるだろう。むろん目には見えないが、スイッチを入れ放射線源は背をむけて森へ歩きはじめた。頭がオレンジ色に光っ ている。 て、あとは救助隊がこのビームを感知してくれるよう祈ろう。 「この船、壊れているのか ? 」がいった。 「おおい、話せばわかるよ、人間はひとり単位では生きてはいな 「そう」 い、おたくたちのように独立生物ではなく、協調型・社会的生物な 「再生すればいい」 んだよ。もどってこい、きてくれ、行くなーー」 できない、とこたえてしまってから、おれは非常にまずい言葉を無駄だ。翻訳機の音声出力が小さすぎて、彼のところまで声がと 口にしたらしいことに気づいた。おそるおそるさぐりを入れてみるどかない。なんてこった。おれはむしように腹が立った。 6652 と、彼の理屈はこうだった。「船はおまえが創ったのだろう、なら 4 ・夜・Ⅱ星人のすべてを呪った。 ば再創造すれまよ、 。し ~ くが純金を創ったごとく」 物音に振り返るとコップスがハッチからおりてくる。「大丈夫か」 どうやら彼は、おれ自身がこれらすべての道具、機器類、そして大男に手をかす。 船を、独力で創造したのだと信じていたようだった。おれは人間の 「ばかだな、通信機、生きていたそ。どうしてマ = 、アルを見なか 代表として「人間が創出した」といっていたつもりだったのだが。 ったんだ。いや、もういいんだ、怒るなよ、もうすぐ助けがくる」 あたりまえだけど、どんな天才的頭脳の持ち主にしたって、紙もペ 「間に合うかね」 ンもなしではろくな仕事はできない。それに、アイデアを形にする「どうしたんだ、髪を逆立てて」 には、たとえば現場監督やセールスマンなどのパートナーが必要「くそ、くそ、くそったれ ! こんな星、ぶち割れてしまえばいし だ。だから、人間の創ったものは人間という共同体がこしらえたもんだ」 6

7. SFマガジン 1980年5月号

るよ、でもがまんしろ、他に適当な代用クッションがなかったん ・モドキは説明したのだが、翻訳機は沈黙している。しばらく だ」 たってから、「わかった ? 」 意識の回復したコップスには・モドキを近づけなかった。 66 「いいや」 524 ・・Ⅲ星人はマルガンセール星人よりはず 0 とまともな形・モドキは実 0 ている千倍麦の方を向いた。と、おれは目を疑 態をしているとはいえ、放射線にはまいってしまう。 った。穂がひとつばさりと落ちたんだ。なにもしないのに。念カか 千倍麦もきのう穂をつけた。「すごい、おとといはなかったのに」オ よ。翻訳機は錯乱していたが、やがて、遅れて申し訳ないというサ ・モドキは何度もびつくりする。「これもあなたが ? 」 インを出して、こたえた。「日 EÖ」なんだ、これ。 「そうだよ、おれが作った」にこやかにうなすいてみせる。「自然・モドキの説明はさつばりわからなかったが、ようするに彼 の麦はまずいし、少量しか穫れない」でも、これはうまい。ポップは、熱線や電磁波や、それから、精神念カ線とでもいえるエネルギ ーを自在に発射できるらしかった。 コーン製造機でポップコーンもどきにしたらすごくうまかった。こ の麦の二世代目の発芽率はゼロではないが低い。だから食べてしま「精神の集中によって、できるのか ? 」 うにかぎる。まだ種は沢山あり、これが千倍になり、ポップすれば精神というものを・モドキは理解しなかった。手を伸ばしても すごくふくれる。半年くらいは食えそう。「種麦をくれ 0 て ? だとどかないから、精神力をちょいと使う、これは当然のことと考え めだよ、環境系を乱さないように繁殖力をおさえてあるんだ。周りていた。精神と肉体の区別など存在しないのだ。念力も精神力もエ が麦一色にならないようにさ」 ネルギーの一種ならば質量と等価だから、わからないでもないけ ハン造り機に麦を入れる。ミルが作動して粉にひき、完全自動でど。彼の体内には、人間のような化学的・生体的エネルギー発生機 翌日にはパンになる。うまそうな香り。きのう仕込んだやつが焼け構とは異なる、質量から直接エネルギーを取り出す核レベルでの反 ている。 応炉ともいえるメカニズムがあるらしい。あの森の木々の実の中に 「うまい」と焼きたてのパンを食った・モドキは感心する。「う は、あるいはこのパンの中にも、その反応に必要ななにかが含まれ まい、う - まい、うまい」 ているのかしれない。 人間にもエスパーらしき者はいるけど、彼ら 「おたくはいつもなにを食しているのか」とおれは説いた。 もまたこのような働きをするメカニズムを生体中にもっているのか ・モドキは森を指した。木の高いところに実る果実を食べる、 も、すると、たぶん、そのカの作用伝播は光速を超えないだろう。 と彼。「うまくない。創る能力、ぼくにはない。能力がないのだかいずれにせよ、おれにはそんな能力はない。 ら不満はいえない」 「たいしたパワーはないんだ」と・モドキ。「あなたのようにい 「失礼ながら、木登りが得意なようには見えないけど、どうや 0 てろいろ創れるわけでもない。せいぜいこの程度だ」両手をあげてふ 穫るのか」 るわすと、きらめきが生まれた。キラキラと輝く微小粉末が風に吹 4

8. SFマガジン 1980年5月号

あんまり平和な音だったので、まさか墜落の警告チャイムだとはチを入れていた。目から火花が散るように風船玉が次から次へと吐 き出され、船倉はそれでいつばいになり、空気が風船に食われてお 夢にも思わなかった。 「なんだかボコボコという音がするけど」とおれはパイロットに説れは窒息しそうになり、ほんとに頭がもうろうとてき、上下左右 いた。彼は両手を組んで祈っていた。「午後のお祈りの時間かい ? 」風船だらけ、両手両足をおっぴろげた大の字で、足もっかない、た 「おまえもこの世にさよならをいったほうがいいそ」と彼。「確率すけてくれ ! 九十三パーセントでおさらばだ。エンジンが発作をおこした」 たすかった。風船のおかげだ。もっとも、墜落がもう少し遅れた 「なんだかリアルな冗談だね」 「命の保障はしない、といったじゃないか。勝手に乗船したのがわら鼻と口をふさいでいた風船に殺されていたろうが。おれは両手に しつかりと握っていた二つの風船を放した。不時着の衝撃はひどか るい」 ったらしい。船倉の壁が裂けて、風船が外にこ。ほれている。内臓が 自動乗船保険は 「宣伝文句だと思ったんだよ、ほんとなの ? ー・ とびだしているように見え、おれの腹でないことを感謝した。裂け 目からさし込む日の光がさわやかだ。深呼吸をすると気持がいい 「そんなものないよ、闇航路を飛ぶ、闇宇宙船だ」 自動・ハルーン製造機も息を吹き返した。またまたまたおれは風船 「女房子供がいるんだよ、どーしてくれる」 におし流されそうになる。かきわけ、かきわけ、元凶にたどりつ 「あんたのあっかっている商品には『より魅力的な夫』とか『新し き、スイッチを切った。こいつは暗殺用新兵器ではなかろうか。密 い。ハバ』というのはないのか」 室では決して使用しないこと、という注意書きなしでは、いずれ事 「そんなのがあれば『理想の妻』というやつをおれが買ってるよー 故がおこり、メーカーは莫大な損害賠償を払わされるそ、きっと。 ーわっ、だめみたい」 どこのばかがこんなものを造ったのかね。しかし、まあ、これなし 「うしろへ行ってろ ! 」 べしゃんこになっ ガラクタが山と積まれている船倉に入ると = ンジンのしやっくりではおれの身はどうなっていたかわからない がよく聞こえる。ワ 1 プのやりそこないは仕方がないとしても、よて死ぬのと、風船に窒息死させられるのと、どっちが格好いい最期 りによって見知らぬ惑星の重力圏内に実体化しなくたっていいじやかな。死に方にいいもくそもあるものか。たすかる方法にしても同 しのであってーーーパイロットー ないか。おれはできるだけやわらかそうな箱を集めて、衝撃にそなじさ、ようするにたすかればい、 彼は営業用航宙ライセンスは持っていなかった。かわりに一級の えた。たぶん気休めだろうけど。空中分解するかもしれないからパ ラシュートの代わりでもないかと見回したとき、ついに船が断末魔度胸を持っていた。名前はたしかコップスだ、本名ではないかもし の叫びをあげはじめた。なんたか別の音も加わっていた。よくよく れないが。それ以外、彼についてはなにも知らない。 この船を利用 聞くとおれ自身の声だった。無意識に自動・ハルーン製造機のスイツしたのは初めてなんだ。