ろ、小説どおりのセリフだからな」 俺は、そこのところがよく理解できすに博士にいった。 「いいわけがない。いい 博士がうなずく。なんという連中だ「蘭花ちゃんまでがいっしょ わけがないから、続きをやろうというので 8 になって、俺の立場を『ハチャハチャの方程式』どおりにしようとよよ、 : オし力なろん、わしらだって、きみだけが死ぬのなら、このま ワナを張っているのだ。 ま放っておくよ。ところが、蘭花ちゃんがいるから助けねばならな 「で、でも、惑星ガダルカナルなんて、どこにもないですよ」 いのだ。なにをかくそう。このシリーズ復活の真相はこの蘭花ちゃ 俺は、なんとしてでも宇宙に旅立ち酸素不足で気絶するのはごめん救出作戦にあるのだ」 んこうむりたいと思っていった。 博士が説明する。俺たけなら放っておくというのには腹がたっ 「いや、あるのことよ。ソロモン太陽系の惑星プーゲンビルのひとが、なるほど、それなら話がわかる。 っ内側の星が、惑星ガダルカナルのことね」 「ええっ ? そういうことだったのですか。なぜ、それならそう 陳さんが、じっと俺の目を見つめていった。 と、早くいってくれないのです。それをいってくれれば、ぼくはす 「そんな、太陽系聞いたことない " 】」 ぐにでも、宇宙に出発したのに」 俺が大声をだす。 俺は、すべてを納得していった。 「いや、たしかにある。陳さんのいうとおりだ」 「なにをいっておるのだ、雪之丞くん。きみよ、つこ、、 ーしナしなん作、 「そうよ。パ′し 、の、うとおりハイビスカスの花のきれいな惑星よ」 小説の主人公をやっておるのだね。そんな、かんたんに、わしが理 蘭花ちゃんが、もう、あきらめろといった表情で、ロからでまか由を説明してみたまえ。とうてい、枚数が埋まらんだろう ? 」 「わおーんリ」 せをいう。かってに惑星を作っていいのか 、わんわんわん " 】」 俺は、またしても、大声で吠えた。 俺が吠えた。 「おお、雪之丞くんもよろこんでおる」 そして、その日の夕方に、俺は宇宙飛行士となって、宇宙貨物船 博士がいった。誰がよろこぶかー こうなれば、も ″ゼロセン″ ( 実は、俺が居候をしているオンポロ二階家を松戸博 う、やけくそ以外にない。 士が改造した家型飛行物体 ) に乗って、宇宙に飛びだした。 「博士、いや、みんながどうしても、それほどまでにぼくを宇宙船 いくら天才松戸博士でも、そう早く木造家屋を宇宙船には改造で に乗せたいなら、乗ったっていいですよ。ですがね、この『 ( チャきないだろうとか、十万食のラーメンを、どこに積んだのだとか、 ハチャの方程式』を読むと、・ほく以外に蘭花ちゃんが密航してい その他、俺や作者が困って答につまるような質問をしてはいけな て、酸素が足りなくなり、終りのほうでは、ふたりとも死にそうに なってるじゃないですか ? それでも、 いいんですか ? 」 なにしろ、今回は作者のアイデアよりも、堀晃氏のアイデアの比 このー !
俺、がい一つ 0 個できたって工場から連絡がきたところよ」 「ああ、そういえば、さっき、わたし、この家に入る前に、流しの蘭花ちゃんが、満面に微笑をたたえていう。 電報配達人から、荒熊さんにこれ渡してくれといって、電報あずか「ば、ばかな。こんな、めちやめちゃな話はない」 ったのことよ。さあ、なんと書いてあるのことかな ? 」 俺は、首を大きく左右にふりながらいった。 「でも、現にこうしてあるものは、しようがないでしよ」 陳さんが、舌なめすりをしながら、どこからか電報用紙をとりだ 「けど、 して俺に渡してよこした。 いくらなんでも、このご都合主義というか、しいかげんさ では読者が怒るよ」 「流しの電報配達人が電報を ? 」 俺は電報をもらう心あたりなどなかったので、ちょっと首をかし「いままでだって、怒ってたわ。たしかに、はじめて怒られる時は げながら、受けとると、急いで内容をたしかめた。 こわかったけど、一度怒られてしまったら、どうってことないわ 〈ゼロセンツブレタアスョリシュッシャスルヒッョウよ。それに減るもんじゃなし」 ナイシャチョウ〉 蘭花ちゃんがいう。減るもんじゃなしって、どういう意味だ。 そんな、いいかげんな 「これで、〈ゥーチューメン〉の問題も片づいた。残るに、宇宙飛 オッ 「よしよし、これで、まず第一の問題は解決した。次は零細貨物宇行士の訓練だが、これは自動操縦装置で解決できる」 宙船″ゼロセン″の建造じゃが、なに、わしは天才科学者じゃ。ジ 松戸博士が、手帳にひかえてある問題点を、ひとつひとっチェッ ェット・ロ 1 ラ ・タイムマシンや減速剤が作れたのだから、宇宙クしながらいう。 船の一隻や二隻。そうじゃ。めんどうくさいから、この家を宇宙船「そんな、解決なんかできませんよ」 に改造してしまおう」 俺がいった。 博士がめちゃくちやをいう。 「できるわよ。スペース・インペーダ 1 やってたじゃない」 「では、わたしも、〈ゥーチュ】メン〉を十万食もってくるのこと蘭花ちゃんがいう。 「インべーダーはやったけど、宇宙船は : : : 」 よ」 陳さんがいう。 いいかけて、はっとした。しかし、もう遅かった。蘭花ちゃん 「も、もってくるって、そんなもの陳さんの会社では作ってないじは、鬼の首でもとったような表情でいった。 ゃないですか」 「だいじようぶ、雪之丞さんくらいの点数なら、宇宙飛行士になれ るわよ」 俺が質問する。 「ううん、それが作ってたのよ。もう、半年も前からパパがね、 O 「うまいそ、蘭花ちゃん。よく、不自然でなく、そのセリフをいつ カップ・ヌ 1 ドルの次の商品として研究して。ちょうど昨日、十万てくれた。これで、雪之丞くんは、ぶじ宇宙飛行士になる。なにし
やさしいのだ。俺は蘭花ちゃんに説明しようと、目の前の超ポ 縦にふたつに割って、半分すつをくつつけてびとりにすれば、 インのふたつに手をのばしかけてパチン ! 酸素はひとり分ですむんだ」 「あっもっとたいへんなことを思い出した」俺はさけん 俺の胸の片方に蘭花ちゃんのポインがくつついているのを想 像して、俺は鼻の下をデレーとのばした。片手をのばせばいっ 「どうしたの」 でも好きな時にあの : 「宇宙船の密航者はすぐに船外へ放り出さなければいけない規 「いやよ」 則になっているんだ ! 」 蘭花ちゃんはさけんた。 そういえば、男どうしか女どう 「どうしてそんな規則があるのよ ! せつかく親切で乗ってあ しならともかく、男と女たと困った部分も出てくるな。 げてるのに」 そんなことをいっている間にも、だんだん枚数がなくなって 俺たって蘭花ちゃんとふたりで宇宙飛行できるのはうれし くる。 「やつばり : : : あれしかないか」 「宇宙船がガダルカナルへ着くまでの燃料と酸素はぼくひとり 「あれって ? 」 分しかないんだ」 蘭花ちゃんがきき返す声が遠くなっていった。 「たべものならパパの作った〈ゥーチューメン〉があるわよ」 酸素が早くも不足しはじめ、息ぐるしくなって、俺は目をま あっ、それを忘れていた。食料はだいじようぶだ。 わしてしまった。 「燃料が心配だ。蘭花ちゃんの分だけ積み荷が重くなっている 気絶 ! 怪絶また壮絶リ から、ガダルカナルへの着くのがそれだけ遅くなってしまう」 「わたしといっしょにいるのがいやなのね」 「冗、冗談ではないですよ。博士たちは、・ほくに、 この続きをや 蘭花ちゃんはたちまちむくれた。 れ、というのですかリ」 「そうじゃないんだよ。長、 し間いっしょにいられるのはうれし『ハチャハチャの方程式』を読み終えた俺は、顔をまっ赤にしてわ めいた。 いけど、その間に酸素がなくなってしまうんだ」 「どうしてもひとり出て行くんなら、雪之丞さんが出て行って「できんかね ? 」 よ。『スペース・インペーダ 1 ・』はわたしの方がうまかったの 松戸博士がいう。 「できませんよ。だって、これまでのシリーズと、まるで設定がち 俺はあわてていった。 がうもの。ばくの動務している零細宣伝広告プロダクションは、倒 「カジシンという友達が考えた方法があるんだ。ふたりの体を産なんかしていないですよ」
俺ーー・すなわち不出世の広告マンから足を洗い、宇宙飛行士 になったばかりの荒熊雪之丞は、零細貨物宇宙船″ゼロハン″ ではじめて単独の飛行に出発したところだったのだが、目的地 ・惑星ガダルカナルへの軌道に乗って〈オッ。ハイ〉ーー自動操 ′イロット 縦装置を略してそう呼んでいるーーーのポツンと飛び出したツマ ミをセットしているところで、メーターの針がぶるぶる震えて いるのを発見したのだ。 「まてよ ? これは貨物室のメーターだそ。その針が振れてい るということは、貨物室に熱を放つものがあることになる ! 」 俺はあわてて操縦席から立ち上がった。 「たいへんだリ」 貨物室に積んであるのは、新開発のカツ・フスードル〈ゥーチ ューメン〉十万食なのだ。これは、俺のとなりに住むカップス 1 ドル会社社長陳珍朕氏が開発した宇宙食で、が一本につな がっていて、カツ。フにお湯を注いで五分たっと、フタの中央に ある細い出口から麺がチュルチュルと出てくる仕掛けになって いる。宇宙服のヘルメットに設けられた専用のラーメン取り入 れ口にカップの先端を差し込なと、宇宙服を着たままでもラー メンが食べられるようになっている。 積み荷の十万食は、惑星ガダルカナルの開発に従事する人た ちにとって、なくてはならぬ貴重な食料なのだ。 その積み荷が熱を放っているとなると一大事だ。目的地に着 く前にお湯が注がれたのでは麭がのびてしまうし、十万食も俺 ひとりで食べきれない。食べられる分たけでも食べておかない ともったいない。麺は急げた。 俺は貨物室の扉を開け、中に走り込もうとした。とたんに、 目の前にカッゾがふたっ、なこうから飛び出してきたご どしんー 「わっ、なんだ ! 」 俺はメン食らって引っくり返った。 「雪之丞さ ~ ん」 聞きおぼえのある声が俺を呼んだ。陳珍朕氏のひとり娘で超 ポイン超グラマー超美人十八歳の蘭花ちゃんの声だ。 俺は目を開けた。俺が〈ゥーチューメン〉のカップと間 違えたのは、九十八センチの蘭花ちゃんの超ポインだったの 「蘭花ちゃん、たいへんだ。ラーメンが出来すぎているんだ。 すこしでも食べるのを手伝ってくれよ ! 」 俺は起き上がって、貨物室へ蘭花ちゃんの手を引いて行こう とした。 「ラーメンなんか出来てないわよ」 俺は積み荷を見て驚いた。十万食のカツ。フヌードルの荷は、 まったく開封された様子がない。俺はきつねにつつまれたよう な気分になった。たぬきの方程式ならあるが、これではきつね の方程式だ。 「何か熱いものがここにあるはずなんたがなあ」 俺はふり向いて、蘭花ちゃんの超ポインを見て、やっと気が ついた。 「あっー このカツ。フが熱かったのか ! 」 俺は、宇宙飛行士の任務としてそれを確かめようと手をのば しかけて、パチンー け 6
陳さんがいった。俺は、あわてて九十一ページを開いた。『連立と思える」 方程式』というタイトルの小説を堀晃という人が書いている。″名松戸博士が説明する。 じゃっく 「むむむ、そんな勝手なリ」 作「冷たい方程式」に挑む異色パロディ″と惹句がついている。べ 俺がいった。 ティはどこへいったのだ。 「しかし、書かれてしまったものはしかたない。それで、この小説 「この小説がどうかしたんですか ? 」 を読んでみると、これが未完なのだ。そこで、続きを書こうとこう 俺には、まだ、なんのことかわからなかった。 いうことに決まった」 「次に九十九ページを見るいいよ」 陳さんがいう。俺が九十九ペ 1 ジを開くと、泡坂妻夫氏の『湖底「誰がそんなことを決めたんです ? 」 「作者だ」 のまつり』という本の広告が目にとびこんできた。 「ぐぐぐぐリ」 「この本がなにか ? 」 「というわけで、この小説の続きとなると、これは、どうしても、 「ちがうのことね。そこではなく、本文を見るよろし」 そうい 0 て陳さんは、俺が手にしている雑誌をのそきこむようにきみに宇宙旅行をしてもらわねばならんのだ。きみのいいぶんもあ るだろうが、ともかく、この『ハチャハチャの方程式』をひととお して、ゴジックの文字を指さした。 り読んでみたまえ」 「これ、読むいいよ」 「ああ、これをね。えーと 、 " ( チャ ( チャの方程式。『な、なん博士がいう。 「そおね。読んでみましよ。おもしろそうじゃない」 だ、こりやリ』俺ーーすなわち不出世の広告マンから足を洗い、宇 蘭花ちゃんが、うれしそうにいう。 ・ : んリなんだっ 宙飛行士になったばかりの荒熊雪之丞は : 「そうかなあ。どうせ、俺の役回り悪いに決まってるよ」 て、荒熊雪之丞こ、これは、俺のことじゃないかリ」 俺は、び 0 くりしてわめいた。それは、そうだ。ま「たく、本人俺はあまり読みたい心境ではなか 0 たが、読まないと話が進まな 、ので読むことにした。むろん、読者に読んでもらわねばならない が知らないうちに小説の主人公になっていれば、これは誰だっておし から、再録する。しかし、この場合、原稿料はどちらがもらうのた どろく。しかも、作者は俺の知らない名だ。 ろう。 「どういうことですか、これは ? 」 俺・かい、つ -0 「うむ。わしも、よくはわからんが、どうやら、雪之丞シリーズの 作者とこの堀晃というひとは友人らしい。それで、堀晃というひと が、きみというキャラクターを作者から借りて、パロディを書いた ハチャハチャの方程式 「な、なんだ、こりやリ」 ロ 5
「とはいうが、なんです ? 」 ておったかなそう蘭花ちゃんがそこに宇宙があるからだといったの 4 俺がたずねる。けれど、博士は俺の顔をじっと見つめたまま黙っをわしがえらいといったところまでじゃったねでこれがな・せえらい 7 ている。 かといえばだね」 「とはいうが、どうしたんですリ」 俺が休ますに話してくれといったので、松戸博士は句読点も入れ ずに、ぐちゃぐちゃとしやべる。文句をいおうかと思ったが、そん 俺は、いらいらして、少し大きな声をだした。 「だめよ、雪之丞さん。どうしてそんな大きな声をだすの。松戸博なことをしていると、また、話がややこしくなるので、俺はあきら め、質問だけにすることにした。 はかも休み休みいえっていったから、休み休みい 士は、あなたが、・ 「なぜ、えらいのです卩」 ってるのよ。そうでしよ、博士 ? 」 「もし万一そこに宇宙がなければ誰がどんなに宇宙旅行をしたいと 蘭花ちゃんが、・ハストを・ほよん、ぼよんさせながらいう。 思ってもそれは不可能じやろういかな天才的な頭脳の持ち主でも宇 「ま、まさか」 宙がないのに宇宙療行はできないそれを蘭花ちゃんは指摘したから 俺・かい、つ 0 えらいといったのだよなあえらいじやろう」 ( ちっとも、えらくもなんともない。この博士のぐぢやぐちやセリ 博士がいった。そして、三十秒が過ぎ去った。 フを聞くほうが、よほどえらいリ ) 「蘭花ちゃんの : : : 」 また、三十秒が過ぎる。 聞いてる俺は、まだ、いいとしても、これを読むことは大変だか ら、やはり、文句をいわなければならないかと口を開きかけた時、 「いったとおり : : : 」 博士がにやりと笑っていった。 博士が休み休みいう。 「あのねえ、博士リ」 「というのは冗談だ。雪之丞くん。きみに、宇宙旅行にいってもら ついに俺は、かっとなって、博士につかみかかろうとした。 わなければならない理由はここにある」 : よ」 そういいながら博士は、一冊の雑誌を俺の目の前に突きだした。 博士の話は、まだ終っていなかったのだ。俺は、ガクンと前につその雑誌は、『奇想天外』という専門誌たった。一九七九年五 んのめり、陳さんが食べかけていたちまきの上に、おでこを突っ込月号と書いてある。 んだ。おでこにちまきが貼りつき、ちまきが、はちまきになった。 「なんですか、これは ? これが、ぼくが宇宙旅行にいく理由と 「わかりました。わかりました。休み休みいってくれといったのは、どういうことです ? 」 は、・ほくのまちがいです。休まずに話してください」 俺は、皆目見当がっかずに、目をシロクロさせてたすねた。 「そうかそういってもらえるとありがたいそれで話はどこまでいっ 「その雑誌の九十一ペ】ジを見るよろしいあるのことよ」
博士が陳さんの顔を見て、にこにこしながらうなずく。だれが、 のだ。 すんなり宇宙旅行を引き受けたというのだー 。雪之丞さんが旅にでるって、なんのこと ? 」 「ねえ、 「いや、いやー 蘭花ちゃんがたずねた。俺もそいつを聞きたい。 いや、ちがうんです″と 「うむ、宇宙旅行にいってもらわねばならなくなった。別れはつら いがしかたない」 「いやー、ほんとによかった」 松戸博士が、こみあげてくるうれしさをこらえきれないといった 表情でいう。見えすいたうそをいうところが腹がたつ。とはいうも , 博士が、ぼんと俺の肩をたたいた。冗談ではない。ちっともよく のの、いまそんなことをとがめている場合ではない。それよりも、 「なんで、・ほくが宇宙旅行にいかなくてはならないんですか」 俺が宇宙旅行にいくとはどういうことか、詳しく聞かねばならな 俺はようやく、舌がもつれないように、ゆっくりと慎重にいった。 「それは、そこに宇宙があるからでしよ」 「は、はははは」 脇から、蘭花ちゃんが口をはさんだ。 俺がいった。″博士″といおうとするのだが、舌がもつれてドモ 「え、えらい ! 蘭花ちゃんは実にえらい ! 」 ってしまうのだ。すると、博士がいった。 「おお、さすがは雪之丞くん。いい度胸だ。笑っておるね。宇宙旅博士がいう。この蘭花ちゃんのことばのどこがえらいというの だ。これは、相手がいくら蘭花ちゃんだといっても、黙っているわ 行にいけるのが、そんなにうれしいかね」 けこよ、 「そ、そそそう」 なんだかしらないけど、ひとが楽しくちまき 今度は、″そうじゃなくてといおうとしたのだが、また、うま「そんな、ばかな 口をばくばくさせていると、蘭花ちゃんがいった。 2 、しカーし を食べているところにいきなりあがりこんできて、そこに宇宙があ 「すてきだわ、雪之丞さん。宇宙飛行士になるのね。ガガーリン小 るから宇宙旅行にいけといわれて、はい、そうですか、と答えられ ますか。ばかも休み休みいってくださいよ」 佐みたい」 俺は、柏もちを葉っぱごとかぶりつきながらいった。かぶりつき いうことが古いのだ。 ながら、こんな長いセリフをしゃべるのは、ほんとうはむりだけ 「よかったのことある。雪之丞さん、宇宙旅行するの、いやいわな ど、これは小説、しかも ( チャハチャだから、その程度のことは、 いか、心配のことあったよ」 どうにでもなる。 陳さんもうれしそうだ。 「とはいうが」 「まったく、こうすんなり、宇宙旅行を引き受けてくれるとは思い 博士がいった。 ませんでしたな」 いいたいのだが、まだ、舌はつってい け 3
「うん。あの柱の傷はおととしの、五月五日の : : : 」 続いて、たどたどしい日本語が聞こえた。蘭花ちゃんのお父さん ズの主役級四 俺の説明が終らないうちに、蘭花ちゃんがことばを割りこませの陳さんだ。いよいよ、事態はやばくなった。シリー 人が全員、わずか原稿枚数五枚半のうちに集結してしまったのだ。 これは、必ず事件が起こる。いくら、マガジンが実験小説に好意 「背くらべね ? 」 「ちがう。おととしの五月五日にでてきたゴキ・フリを取ろうとし的だとはいっても、この後、原稿用紙四十五枚ぶん、ただ、ちまき て、テープルにけつつまずいて、倒れた拍子に、ぼくのおでこが柱と柏もちを四人で食べているだけの小説なんて許してはくれつこな にぶつかって、それで」 ( どうしたのだろう ? ) 「まあ、かわいそう。痛かったでしようね」 蘭花ちゃんが、じっと俺の顔を見つめた。 思っているうちにも、松戸博士と陳さんは「あがっていいかね」 ともいわず、家にあがりこみ、俺の部屋に乗りこんできた。 「うん。血がいつばいでてね。・ほくちゃん、とっても痛かった」 「しばらくだったね、雪之丞くん」 俺は蘭花ちゃんの母性本能を、くすぐるのは、この時とばかり、 松戸博士が、俺の顔を見るなりいった。 できるだけ、甘ったれた口調でいった。 「はあ、お久しぶりです。それで、今日はどういう事件が起こるの 「ううん、そうじゃなくて、あの柱、痛かったでしようね」 ですか ? 」 俺、だから、このシリーズの再開には反対だったのだリ 俺は、どうせ事件が起こるなら、その内容を博士に聞かされてび ほほにかかる涙を、ちまきでぬぐい、塩味がついてちょうどいし わいと、ロにほうりこんだ時、玄関のチャイムが鳴り、ドアの開くつくりするより、自分から聞いてしまったほうがおどろかないです 音がした。これまでのシリーズ同様、むろん、階下に兄一家はいなむだろうと思ってたずねた。 「そのことよ。えらいことが起こったある」 い。イトーヨーカ堂の子供の日福袋セールに、でかけているのだ。 「はーし 松戸博士にかわって、陳さんがいった。愛しい蘭花ちゃんのお父 。どなたですか」 俺は部屋から首だけだして、階下に向かって叫んだ。尻をだしてさんだから、がまんするしかないのだけど、この人の説明を聞いて いると、いらいらして消化がわるくなる。 も、下は見えないからだ。 「大事件のことよ。松戸博士、たいへんなもの見つけた。それで、 「おお、おったな。わしじゃ、わしじゃ」 〈松戸栽園テスト研究所〉長のマッドサイエンティスト、松戸歳円雪之丞さん、旅にでるあるよろしのことね。これ、えらいことよ。 博士の姿が見えた。〔もうだめだ。この博士が、俺の家にやってきちがうか ? 」 ちがうか、といわれても、俺も答えようがない。なんだかしらな て、俺が安泰でいられたためしがない。 いが、陳さんは俺に旅にでろといっているらしい。どういうことな 「わたしも、いっしょに、きたあるのことよ」
実極の方稼式 無課にもく方程式〉に挑む雪之丞。どんなことになるのやら 横田順彌 イラストレーション・畑田国男 ぎ、彡を 0
こ。大打撃をこおむった地球文明は相当長期間にわたって足踏みし た。さまざまな部品が飛び散ったが、その中の一つに次のような言ナ たが、一度はずみのつき始めた歯車はとどまるところを知らなかっ 葉が刻み込まれていた。 た。歴史の女神クーリオは確かに微笑んでいた。大いなる危機はい く度も訪れたが、かって調停者が僥倖でかわしていったそれらを、 あなたを守るあなたのべット「銀の翼」 今、地球人たちは自らの天賦の才でもって上手に切り抜けてゆく。 登録番号。 0 ー六四三三 歴史の転換期には必ず赤毛で琥珀色の目の持ち主が何人か活躍し た。そして歴史という複雑な織物は、小さな裂け目を包含しつつ この商品に関するご意見・ご希望・苦情等がございまし も、次から次へと多彩で華麗な別の模様を描いていった。 五千年後、二つの強大な勢力が竸合して、太陽系からの人類の飛 武器製造業スミス & ウェッソン社 翔が危ぶまれた時、「われわれには発展する義務がある」とイリヤ 市民の声係まで ・ヘス・ ( カリスト連邦最高軍事司令官 ) は演説した。 そのとおりだ。 猫族がかって地球を治療したように、地球人もまた銀河文明の ″治療者たる運命を担っているのだから。 その後、地球をめぐる第四次銀河戦争の一触即発の危機は、この 宙域への五千年間にわたる両者の不可侵条約をもってどうやら平和 裡に回避され、銀河系各地では新聞、テレニ、ース、あるいはそれ にかわるものが飛ぶように売れた。 ぎん 一方、地球の王の娘は十月十日で黄金の目をした男の子を生ん だ。その子は六本指で、背中にまでびっしり毛が生えていたが、一 カ月目に両方とも抜け落ちた。比類なき知性と意志力を備えていた 彼は後年大帝国を築き、偉大なる赤毛の獅子王と呼ばれた。だがこ れはまた別の武勇伝説となる。 一方海は、怪物化した c.5 シートのせいでフェリンス狼どものねぐ らとなり、恐怖の領域と化した。だがそのおかげで人々は海のかわ おおぞら りに大宇宙へと目を向けた。しかし四百年後、ずいぶん長い間行末 不明になっていた迷い子彗星ヘルメスが、突如として大西洋に落下 して大津波を引き起こし、文明の最も高度な部分を損壊してしまっ ク戸ーンスリ 9