図 1 想い出の旧インデックス ) 英文のインデックス (o) 一九六八年の増補版 ( <) 一九六七年の初版 「顔つきは違っていても x x についてはわ 「あいつは感情を無視して論理ばかりふり そしてそのひとつの実例として、『 oo まわす。まるで機械みたいで人間味がない れわれと同じだ。彼らも日本人と同じ″人インデックス活動』について具体的に知っ 間″なんだなあ。ほっとしたよ : : : 」 ていただくことも、決して無益ではないだ と述べることがあるのは、私の感覚からろう。 これは、どちらも正しく、またどちらも いうとコッケイである。 間違っている。 という分析的理屈のもとに、編集部のお われわれと違うところがあるからこそ、 ただ、国際社会においては、前者の感想 許しも得て、今回は『 cn インデック をもつ人たちが圧倒的な多数派であること同じ人間として尊敬できるのだ。同じ部分ス』についてかなりのページを割かせてい を探すのではなくて、違う部分を探して は、よく認識しておく必要がある。 ただきたいと思う。 ″安心″するべきではないだろうか : 分析的であることが非人間的だーーとす 私としては、読者の大部分を占めると想 ると、地球人のほとんどの人は ( アジアを 男シャンプロウのアジテーション 含めて ) 人間ではないことになってしま像される情緒的な若い人たちに、分析的な 研究の遂行に″人間味″を感じてほし いと願うものである。 わが国の一部の文化人が、欧米の人たち いまから一六年ほどまえ、私は現代 の生活や行動の中に日本に似た個所を必死 また、この連載の底を流れている分析的というものを″発見″し、読みはじめた。 に探し、わずかでもそれを発見するととて文明への憧憬を理解してほしい と願うそして、読みはじめると同時に、その読ん ものである。 も喜び、 だの″カード化″をはじめた。それ 0 S-F マガジン」インデックス lndex to “を M a 云飛” (Japan) 、 0 , 1 局 . 1 開 VoI. 1 1 。、新 - い 物反 1 第 0 を ( な新・一“′煢 ネえ島正実ド第 0 響“ 4 い、面ド。面ュ 、、石藤人れー画第 SHAMBLEAU PRES ( 代表野田第一物”誂 E ト、′画一 TOKYO JAPAN lndex tO S-F Magazine" V ヨ設 1 ~ - VOI 、、 11 れい 1 一い Ex “第一“月川 Fo wo F 市 i 局 by F 社加 lshihara 「 S - F マガジン」インテックス lndex to "S-F Magazine" (Japan) 矼 1 、。 . ー V 物 .11 b. ー 0 0 はイ E ー tr 第一覊月健 1 序文福島正実ド“要・第 4 材・。第 編第石原藤大 comが髪4 れ物一 SHAMBLEAU PRFS ( 代ま新当ま一部い・、第第“ 0 、・ ) 10KY0 JAPAN ル第一侊 (. 6 プ をれト“」リし一 9
陽へ向けろ ! おまえたちはみんなを、これからの一生涯、暗闇のら、かえって荷が軽くなるというものさ」 中で這いまわらせたいのか ? 」 と、もう一人が冗談半分にいった。 火の番が、すねたように、親指をキューゲルのほうにしやくっ 「たれでも修行が肝心」三人目がキューゲルをさとした。「あんた は運がいいよ、グンダー最高の名人が三人、師匠になってやろうと いうんだから」 「この男から教えられたんですよ。こんな制度は不用で、われわれ の作業は無意味だとね」 キューゲルは驚いてあとずさった。 「なんだと ! 」フラスカは威嚇的な巨体をくるりと振りむけて、キ「困るよ、一タース以上は損をしたくないんだ ! 」 「まあ、まあ。そう堅いことを言いなさんな ! 」 = ーゲルをにらみつけた。「グンダーへ足を踏み入れてまだ何時間 もたたぬというのに、きみはもうわれわれの生存体制を破壊しはじ「しかたがない」キューゲルはいった。「では、負けを承知でやろ めたのか ! 警告しておくが、われわれの忍耐にも限りがあるぞ ! う。しかし、そのカードはぼろ・ほろで、おまけに汚れているね。た 帰れ、二度と励起共鳴所に近づくでない ! 」 またま、この小物袋の中に新しいのが一組あるんだが」 「そりゃあいし では始めよう ! 」 怒りでロもきけずに、キーゲルはきびすを返し、広場を横切っ て歩み去った。 二時間後、三人のグンダー人はカードをほうりだし、キューゲル 幌馬車の発着所で、彼は南への便についてたずねた。たが、正午をじっとにらみつけてから、いっせいに立ち上って、酒場を出ていっ に着いた幌馬車隊は、明日の朝、東へ出発して、もときた道をひきた。キ = ーゲルは儲けを数えてみた。三十二タースと、銅貨の小銭 かえす、という返事だった。 が少々。ほがらかな気分になって、彼は自室にもどり、寝についた。 キ = 1 ゲルは宿にもどり、酒場に立ちょった。三人の男がカード 翌朝、ちょうど彼が朝食中に、フラスカ節度官がやってきて、さ ・ゲームを戦わせているのを見て、そばで見物することにした。ゲっそく宿の主人のマイアーとなにやら話しあいをはじめた。やが ームはザンポリオの簡単な一変形とわかったので、まもなくキュ】 て、フラスカはキューゲルのテープルに歩みより、なんとなく無気 ゲルは、自分も仲間入りさせてもらえないか、とたのんだ。 味な笑みをたたえて、彼を見おろした。マイアーは、二、三歩うし 「しかし、賭金があまり高くなければの話だがね」と彼は条件をつろから、心配そうにこの場を見まもっていた。 けた。「わたしはそれほど巧者ではないし、それに、一、 キュ 1 ゲルは、強いて丁重さを装った声でいった。 より多くは負けたくないから」 「はて、こんどはなんですかな ? 太陽は昇った。ご 調整光線の一件 「ばあっ」と相手の一人がいった。「金がなんだ ? 死んでなんのに関するわたしの無実は、これで証明されましたよ」 5 使い道がある ? 」 「こんどのは別の問題だ。きみは、詐欺に対するこの町の罰則を知 「もし、おまえさんが有金をすっかりわれわれに巻き上げられた っているか ? 」
猫は今にも倒れそうな様子だった。ラジェンドラ人が低く言っうやく湿ってきた黒い鼻先を舐めまわしながら葬式を見守ってい た。アクラ人のうしろには遠慮がちに三人が立っている。やがてラ ジェンドラ人が短気に何か言い、力強い腕がゆっくりとミイラの標 「するとこいつはミイラの標本か」 弓してゆく波がすっとそれを奪っていっ 沈黙がおとずれた。間断なく浜で波頭のくずれる音が心にしみ込本を海の方へ押し出した。ー、 た。白いシートはしばらくの間波間に見えっ隠れっしていたが、 んできた。 シートはそもそもある種の疑似生命構造をもっ複雑な装置であやがてまったく見えなくなった。朱色を基調とする非現実的なほど る。その認知排撃機能は一面で血液中の白血球によく似ている。自それは美しい一枚の絵だった。 己と非自己を見分け、非自己に対しては鋳型を造りそれと結合して猫は葬式に加わらなかったかわりに、コンビューターの保護容器 外へ追い出す。機能の狂ったシートは猫の吐瀉物を外へ追い出しを取りはずし、そこに水をためる作業をしていた。垢だらけの両手 たようにアクラ人の血に攻撃をかけ、どんどん吸い出して排斥処理が杓子がわりだった。しばらくしてゼナ人が仕事を手伝いにきた。 してしまったのだ。 ラジェンドラ人とトレポロはどこへともなく姿を消した。二人のア クラ人はびったりくつつき合ったまま波打ち際にひっそりと佇んで 遠くでトレポロ人と折衝者が別のウサギを引っぱり出していた。 いた。そのすぐそばには枯木のように折衝者が立ちつくしていた。 午後のけだるいオレンジ色の光が、斜めからその光景を照らしてい る。まるで波打ち際で子供が戯れている童画のようだ。しかしこの何かしきりに彼らの言葉で慰めているようすだ。 事態がおとぎ話でないことに、胃がしめつけられるように痛い。鼻迫りくるタ闇の気配がして、しだいに人の顔が定かにならなくな ってきた。 が暑い。腹が空いているのだ。それに水が欲しい 「調停者は我々を殺す気は毛頭なかったんだ」 「どうやら食糧は豊富にありそうだな」 指揮官の口調でラジェンドラ人が言う。猫は答えなかった。砂浜ゼナ人が隣りで囁いた。 「ゼナン、・ほくらはどうなるんだろうな ? 」 はすっかり雨水を吸収してしまっていた。 猫は一人で岩場の方に歩いて行った。そして石のく・ほみにたまっ猫が気弱にたずねた。 た雨水を残らず舐めた。もちろん翼にも飲ませてやった。すると全「天使の翼にでもきいてみたらどうだい ? 」 身に愉悦の感情が拡がった。 ゼナ人は邪慳に答え、作業をつづけた。海鳥が一羽、好奇心にか られて頭上をかすめていった。ゼナ人は頭を抱え込んで悲鳴を上げ 二匹のウサギが丸い背をこちらに向けてキイキイ悲鳴を上けてい るのが目に入った。まるで儀式のように呼応して、片方が鳴き終わた。鳥の方がびつくりして空高く舞い上がっていった。 ると片方が叫び始める。一方が鳴いている間、もう一方は長い耳で 即席の水瓶が一杯になった頃、折衝者がやってきて今夜のキャン 自分の両眼を覆い隠すのだった。実際これは儀式のようだ。猫はよゾ場所に案内した。見晴らしのいい高台で、彼らが超高度の文明世
の脇のひさしの下を、未練たらしく見る。・ハイクは無い。乾いた地「はい ? 」 「あのオ : 面にスタンドの跡が残っている。 ・ハイクを盗まれたんですが : : : 」 「盗難届ね ? 」 歩きながら、ぼくは物質文明の不幸について考える。 人は自らの作り出した物資によって収奪されている。豊かさが逆「はい」 に、不幸の原因となっているのだ。 「山口君ーーー」 そもそもぼくがしょん・ほりしてしまったのも、・ほくの私有してい 青いうわっぱりは振り向いてもう一人の人物を呼ぶ。その巡査と た財産のせいなのだ。最初からそんなものが無かったのなら、しょは顔を合わせたくなかったから、わざわざこっちへ来たのに : ・ ん・ほりすることもなかったのた。 「はい ? 」と、山口君。 人間はなんと不幸なのだろう ! 「忙しい ? 」と、うわっぱり。 「今、出るところですが」 本来なら自分自身とは何の関係もなかったはずの物質を手にし、 それがまた無くなったからといって嘆くのだ。たかが運搬手段のひ「そ。じゃあ、このボクを刑事課へ連れていってやってよ。盗難届よ」 とつのことで、こんなにも感情を揺すぶられるのは馬鹿らしいこと「はい」 ではないか。 というようなやりとりで、少年 << は身柄を巡査に預けられ、広い 違う、違う。・ハイク・はぼくと無関係の物質ではなかったのだ。そ背中を見ながら署内の階段をのぼった。 れは・ほくの一部分になっていたのだ。 顔を覚えられてないようなので、ばくはほっとした。ゅうべ、 警察署の門をくぐると、たちまちぼくは「少年 << 」になってしまのおまわりとは会っているのだ。住吉神社の祭りで 悪太郎と宮内とばくは、午後七時に大鳥居の下で会う約束をして っていた。・ほくは被害者であって、断じて犯罪者ではないのだから 「少年 << 」になる必然性はないのだけれど、小学校一年の時、お菓いた。期末試験が終わり、次の日からは夏休みだというので、少し 子屋の婆さんが向こうをむいているすきに、チュ 1 インガムを一箇羽根を伸ばすつもりだった。 黙って持って来たのが原罪となって、ぼくを「少年 << 」にしてしま ・ほくは二週間近く手を触れてなかった・ハイクで出かけた。 うのだ。 神社の近くは人出がすごかった。セコでトロトロ走りながら、降 少年はガラス戸を押して中に入る。カウンターの内側には二人りて押した方がいいかなと迷っていた。その時、突然、ものすごい の人間がいる。一人は男、おまわりさん。一人は事務員らしい女の笛の音が鳴り響いた。いったい何ごとだろうと首を回したら、 人、青いうわっぱりを着ている。 「こらあツ、そこのパイクリ」 少年は青いうわっぱりに接近する。 怒鳴ったのが、山口君。 208
で床にころがり、この世の終わりのような悲鳴をあげる。ラジェン 「破局ーー・原始ーー発達ーー文明ーー戦争ーー破局ーー原始ーー発ドラ人が丸太のような両腕を振りまわしながら、調停者に襲いかか ったのだ。アクラ人の一人が踏みつぶされて鋭く鳴き、仲間が駆け 達ーー文明ー・ー・戦争ーー破局 : : : 」 猫がぶつきらぼうな口調でとなえた。ゼナ人のまるい大きな耳が寄った。調停者は紙のように白い顔のまま立ちすくんでいる。背後 初めて気づいたように猫を見る。そして珍奇の顔で微笑しながらっから、警備兵が手慣れた動作で麻酔銃をかまえた。 づけた。 次の瞬間、小さな矢がラジェンドラ人の左肩につき刺さって震え 「あんたたちの策略は明らかだ。地球人を救うのさ、しかも金も人た。ディオスが机にすがりつくと同時に巨驅が前のめりに倒れ、ま わりの者があわてて飛びのいた。騒ぎがひろがった。 手もさほど使わすにね」 「しかし我々の大部分は戦犯や政治犯で非常に知的だ」 ゼナ人の言葉はデルファイ神殿の御託宣ほどの威力があった。デ 興奮がいまださめぬ内にトレポロ人が口を開いた。 イオスの顔が紙のように白くなっていく。猫もゼナ人を見る。 「その点は重要だな」 「ばかばかしい、これは単なる犯罪者の流刑なんだぞ」 ゼナ人は何事もなかったかのように言うと、俯せに倒れているラ 顔色がどんなにさえなくても、調停者は公正という最大の美徳を ジェンドラ人に目をやってつけ加えた。 身につけたつつましやかな紳士だった。包容力あふれる愛想のよい 「なんで殺さなかったんです ? 」 笑顔。 猫は目を細めると発言者をじっくり観察しなおした。灰色の貧相 ふいに微笑むのをやめてゼナ人が言った。 「はあ、それじゃあ無意図的なものなのか。だけどおそらく地球人な身体とねずみのような顔。 マ / イ・・ト - 銀河連邦の人間型生命の中でも最も共感しにくいのがこのゼナ人 は・ほくたちのカで迷路を抜け出すだろう」 「知らんはずはないさ。おかかえのゼナ人たちみんなに尋ねてまわの思考といえるだろう。形態論理学などという半分以上直観に頼っ ているような科学を信仰しているためなのか ? たとえば彼らは銀 ったろうからな ! 」 河一の臆病者であると同時に銀河一冷酷な決定者でもある。まだ記 猫が辛辣につけ加えた。 調停者は虫も殺さぬような優しい声を出して首を振った。絶対自憶に生々しい第一一一次トレポロ独立戦争において、トレポロ人の全面 虐殺命令を下したのはゼナ人だという奪が流れた。おそらく正しい 分の優越を信じている者の傲岸な態度で答えた。 「流刑者の諸君はおとなしく流刑地へ行けばいいのだ。それが惑星のだろう。種族全体としては本能的結びつきが弱く、また各人の個 性が違いすぎるためにまだ一国家を形成するに到っていない。これ 間評議委員会の決定だった」 「このチビめ ! 」 から先もその見込みはないたろう。もともと調停者がゼナの種族を 突然列が乱れ、ひどい混乱が起こった。ゼナ人が頭をかかえこんある惑星上で発見した時、彼らはごく初歩的な宇宙航法さえ知ら
係から金を受け取るまで、待ってもらえまいか。それまでは、立て がいでしよう ! 」 替えようにも手持ちがないのでな」 「シミルコよ、われわれはまちがっておらぬ。現状はいま申したと キューゲルはためらったが、結局は説き伏せられて、そこに居残おり。もし、望むならば、そなたの目で確認させてもよい」 ることになった。 「″ありえぬ″と″信じられぬ″という二つの言葉しか、わたしに は思いうかびません」シミルコは叫んだ。「乙女たちをじかに問い 一時間後、使いの者が宿に飛びこんできた。 「シミルコどの、ご一行とともに、ただちに大陰陽師のもとまでおただしてごらんになりましたか ? 」 いでくださいますよう。由々しい一大事でございます」 「もちろん。だが、あの娘たちはただ天井を見上げ、ロ笛を吹くの シミルコは驚いて顔を上げた。 みであった。シミルコよ、この忌わしい不祥事をどう説明するつも しゆったい りか ! 」 「なにごとが出来したのだ ? 」 「それはここでは申し上げかねます」 「わたしにはさつばり見当もつぎません ! あの娘たちは、生まれ 浮かぬ顔つきで、シミルコは一行をひき連れ、広場を横切って、落ちた日そのままの清らかさで旅立ちました。これは真実です ! 古い宮殿の前の涼み廊に向かった。そこには大陰陽師ががっしりし起きているあいだ、娘たちは一度としてわたしの知覚の範囲から外 た椅子に腰かけていた。両側には陰陽士らが立ち並び、沈痛な面持に出ていません。これも事実です」 「そなたが眠っているあいだは ? 」 ちでシミルコをながめている。 「この呼出しはどういう意味です ? 」シミルコはたずねた。「な「これも、やはり考えられぬことです。御者たちは、つねに一団と ぜ、そんな重々しい表情でわたしをごらんになるのです ? 」 なって、床につきました。わたしは自分の幌馬車を御者長と分かち あっていたので、おたがいに相手の潔白を保証できます。しかも、 大陰陽師はよく透る声で答えた。 「シミル、コよ、そなたがシムナシスからルマースへ送り届けた十七その間、キューゲルが、野営地ぜんたいを見張っていたのです」 「一人でか ? 」 人の乙女の検査は終わった。遺憾なことに、十七人のうち、処女の 範疇に入るものは、わずか二人であることがわかったのだ。あとの「護衛は一人で充分です。夜の時間は歩みがのろいし、陰気ではあ 十五人は、すでに性的凌辱を受けておる」 りますがね。しかし、キューゲルは一度も不平を申しませんでし シミルコは驚愕のあまり、しばらくはロもきけぬほどだった。どた」 もりながら、 「犯人はキューゲルにちがいない ! 」 「ありえないことです ! シムナシスで、わたしは最も厳重な選考シミルコはにこやかにかぶりを振った。 3 7 を重ねました。一人ひとりの純潔性を証明した、三通りの書類もお「キーゲルの任務からしても、不法な行為にふける暇はありませ 2 見せできます。疑いの余地はありません ! きっと、なにかのまちんよ」
「もし、キューゲルが、その任務をおろそかにしたとすれば ? 」 こうへ連れ出した。キューゲルは左に右に体をねじって抗がった が、むだだった。 シミルコは辛抱強く答えた。 「よろしいか、どの娘もそれそれの個室で安全にかくまわれてお「どこへ連れていく気だ ? この茶番はどういう意味だ ? 」 り、キュ 1 ゲルとのあいだは丈夫な戸で隔てられていたのです」 陰陽士の一人が優しい声でいった。 「なるほどーーーそれでは、もしキュ 1 ゲルがその戸を開き、こっそ「わたしたちはそなたをフアム。フーン廟へ連れていく。これは決し り個室に忍びこんだとすれば ? 」 て茶番ではない」 シミルコは、半信半疑でつかのま考えこんでから、あごひげをひ 「こっちはお断わりだ」キュ 1 ゲルはいった。「手を離せ。います ねった。 ぐルマースを出ていきたい」 「応分のカ添えはしよう」 「その場合は、ひょっとすると可能かもしれません」 大陰陽師はキューゲルに視線を向けた。 三人は磨り減った大理石の階段をのぼり、巨大な拱門をくぐっ 「この悲しむべき事件について、そなたの正直な陳述が聞きたい」 て、よく反響する広間にはいった。高い丸天井と、むこうの端の内 キューゲルは憤然として叫んだ。 陣か祭壇らしいものを除いて、中はなんの特徴もない。キューゲル は脇の小部屋に導かれた。高い丸窓から光がさしこみ、壁は暗青色 「この取調べはでっち上げだ ! わたしは顔に泥を塗られた ! 」 チャラデットは、優しいがどことなくひややかな目で、キュ 1 ゲの羽目板でととのえられている。白い寛衣を着た一人の老人が、部 ルを見つめた。 屋にはいってきてたずねた。 「そなたに贖罪の機会を与えよう。陰陽士たちょ、この男の身柄を「この男はなんですかな ? 悩みをかかえた人物で ? 」 預ける。彼が高潔さと自尊心をとりもどせるよう、あらゆる配慮を「さよう。キューゲルは一連の忌わしい罪を犯したため、自己を浄 めたいと願っているのです」 してやりなさい ! 」 キューゲルは声をかぎりに抗議した。だが、大陰陽師は耳をかさ「真赤なだ ! 」キュ 1 ゲルは叫んだ。「証拠がどこにある ? む りやりにここへ連れこんだくせに ! 」 ず、大きな壇上から思案深げに広場を見まわした。 「きようは三の月か、四の月か ? 」 陰陽士たちは、それには耳をかさずに立ち去り、キュ 1 ゲルは老 「暦によりますと、ちょうどヨーントの月が終わり、フアムプーン人といっしょに取り残された。老人はびつこを引きひき床几に近づ き、腰をおろした。キューゲルはロを開きかけたが、老人は片手を の月にはいりましてございます」 「よろしい。刻苦精励すれば、この放埓な不正直者も、われわれの上げて、それを制した。 愛情と尊敬をかちうるやもしれぬ」 「落ちつきなされ ! 忘れてはいかん、わしらは一切の悪意を持た 一一人の陰陽士が両側からキューゲルの腕をとらえ、彼を広場のむぬ、慈愛深い者たちじゃ。感覚ある生き物たちを助けるためにの 274
・前回までのあらすじ・ 泰然とかまえていた典型的なイギリス田園紳士の面影は、ど こにもなかった。 ロクストン卿、チャレンジャー教授、サマリー教授、・マローン記 者の四人は、ロクストン卿か南米旅行のおり手に入れた品を手がか も 0 とも、ぼく自身の風も同じようなものだ 0 たろう。奥地に りに、伝説の黄金都市マノア″探検の旅に出た。しかし、その手 近づいてからというもの、身だしなみに気を使うような余裕はとて がかりの品の所有権を主張する女エスメラルダの執拗な妨害、ロク もなかったからだ。しかし人間はどんなことにでも慣れるものだ。 ストン卿へ恨みを持っ匪族の脅威に悩まされる。やがてそれらの危 今では・ほくは、自然の状態のままに自分を置いておくことが、もっ 機を乗り越え、改心したエスメラルダを加えた一行は旅をつづける。 とも快適だと感じられるようになっていた。 だが、ゴール目前にしてインディオの一隊の襲撃にあい、チャレン ーーその時、 戸クストン卿に水筒を渡そうと腕をのばしかけた。 ジャ 1 教授、サマリー教授、エスメラルダの三人がさらわれてしま う。それを追うロクストン興マローン記者の二人は、やがて″大 廃墟の北の方角から、叫び声がひびいて来た。両教授のうち、どち 地のへそ″と呼ばれる大陥没地に達した。そこは、奇しくも一行の らかが上げたと思われる男の叫び声だった。続いて、ウインチェス 目指す″マノア″であるらしかったが、三人はそこで、双頭のティ ター銃の軽くはじけるような銃声が、一発、二発、ひびき渡った。 ラノサウルスへの生贄にされようとしていたのだ。ほうほうの体で ・ほくは水筒を取り落とし、ばね仕掛けのように立ち上がった。 窮地を脱した彼らは、ついに″マ / ア 4 の黄金を発見する。そし 「彼らが襲われた ! 行こう ! 」 て、帰途へつくべくカヌーの製作にとりかかり、二人の教授とエス メラルダは、標本の採集に出かけたが : ロクストン卿は叫びざま、手斧を取り直して走り出した。ぼく は、ロクストン卿が腰から外して近くの枝にかけてあったウエプリ 1 拳銃をホルスタ 1 から抜き出すと、その後を追った。 : もちろは・ほくは自信があった。ロンドンで、オ 1 ル・アイルランド・ラグ ん、ウインチェスタ 1 銃でも食い止められない相手に、拳銃の弾がビーチームの、クオーターノ ・、ツクをつとめていたからである。悲鳴 役に立っ筈はない。しかし、目や喉などの急所に当てれば、わずかの方向を辿って、あの祭祀場の円盤の外壁のふちに近づいた時、 ひる でも怯ませることは出来るだろう。 クストン卿をだいぶ引き離してしまったようだった。 にかこまれた遺跡群を縫って走り出し さらに銃声が二発、続いてエスメラルダの叫びが聞こえた・ 密林のふちに点在する、 「早く ! 早く逃げて ! 」 た時、忘れようとしても忘れられない、あの腿にひびく咆哮を聞い た。ぼくの全身に恐怖と焦りが分泌するアドレナリンがどっと湧ばくはくずれ落ちた外壁の破片を跳びこえて突進した。外壁の切 おど ぎ立ち、心臓は喉元まで跳り上がった。 三人を襲ったのは、あれ目に近づいた時、おそるべき光景が目を搏った。そこは、二人の 教授とエスメラルダがオン・フリ族によって犠牲に捧げられようとし の双頭の怪物、テイラノサウルスにちがいない。 ふたたび怒り狂った咆哮と女の悲鳴が交錯して密林にひびき渡た時、巨龍が侵入して来ようとしていたあの通路だった。 ブッシュ り、ぼくらは狂気のように疾走した。ーー・幸い、走ることに関して密林の壁とその通路の間には、幅三十メートルほどの薮の茂っ う カ / トリー・ジスントルマン まら 2 9
立レヒッウ 句なしにこれはおもしろい といえるくたっていいではないか。それ専門の作 作品は、そう多くはない。「九十パーセ家が、他にいつばいいるのだから。「悪 ントはクズだ」というラスタージョンの鬼の種族」が冒険 co の傑作だ、という 有名な法則は、ここでも通用しているかのは、冒険の部分だけではなく、と らだ。でも、そういったつまらない作品しても傑作である、ということなのだ。 ばかり読むのも、少しだけだけど、快感物語のほとんどは、惑星上に浮かぶち ではある。マゾヒスティックだけどね。 つぼけな島の上で展開される。島の上に いっかは大傑作にぶちあたるのじゃない いるヒロインが、どうやってエイリアン か、こういう期待があるから、どんなクをやつつけるか、そこに話はし・ほられ、 0 、 ズでも読んでられるのですよ。スタージ読者の目もそこに集中する。ところが最 ョンの言葉が正しいならば、十冊読めば後にきて、物語は突然、銀河系全域にま だから、「悪鬼の種族」は、冒険小説 一冊は満足できるものがあるはずなのたがる壮大なものに広がっていくのだ。 として傑作であるばかりでなく、と だ。特にその一冊が、新人とか、よく知まさに劇的、のショックなのであして傑作なのである。冒険の傑作な らない作家の書いたものだったとするる。 のだ。 と、読み終わったときの喜びも、一層大 一人の人間というミクロのものを見て作者も、おそらくそのあたりを計算し きくなるというもの。 いたら、数万倍、数億倍のミクロのものて、物語を終始小さな島の上だけにセッ で、なにがいしたいかというと、ジェに拡大される、例のセンス・オ・フ・ワン ティングしたのだろう。だとすると、こ イムズ・・シ、ミツッという、あまりダーというやつだ。例えれば、目の前数のジェイムズ・・シ、ミツッという人 おなじみでない人の「悪鬼の種族」とい センチのところにあるとばっかり思っては、なかなかスゴイ人なのですな。 う作品は、十冊目にぶちあたった冒険 いたものが、実は何キロも先にあるもの こういうエライ人が見つかるから、ど の傑作なのだ、ということ。 だった、という錯覚から受ける衝撃。人んなつまらなそうなだってやめられ ある惑星を舞台にした、一人の女性科間の目は、見るものが近くにあるとき、 ないのですよ。 ( 『悪鬼の種族』 / 著者 学者が主人公の冒険物語。こう書いちや無意識にもそのものを目で追ってしま ジェイムズ・・シュミツツ / 訳者“ うと身もフタもないけど、ともかく十分 、遠くのものを見る目にならない。そ冬川亘 / 272 頁 / 340 円 / 文庫 / 早 冒険小説としておもしろく読める。 のとき、遠くを見せてくれるのが、川書房 ) なのだ。 でもこの小説は、断じて冒険小説では ないのだ。これは冒険なのだ。ここ 良質のが持っている、こういう が大事なところ。冒険小説が読みたいの本来の機能を「悪鬼の種族」も例外で だったら、とりたててスベオペを読まな はなく十分に備えているのである。 ◇ 248
彼らはようやくスペイラの巣を這い出すと森を抜け、岩場の方へ います。彼は、私が今まで出会ったすべての人間の中で、一番神様 冫近い人でした。 歩いていった。 彼女が言ったように海が見えた。風は凪いでいた。夜の海の表面「限定核戦争が起きて水爆が落ちた時、彼は死の灰を被らた人々の は静かで、たった一つきりの大きな月の光が、百万のさざ波すべて生命を救ってまわりました。なぜなら、非常にすぐれた″治療者″ にきらきら反射していた。二人は岩場をてくてく歩いて渡り、断崖だったからです。彼が救えたのはたった十四人と赤ん坊が一人だけ ″治療者″は自らの身を傷つけ、減 絶壁の縁まで行ってしやがみ込んだ。涼しい風が吹き上げ、潮の香でしたが。知っていますか ? ぼしてしか他人の生命を救うことができないのですよ。腹の裂けた とこまかな霧を二人の顔に吐きかけた。スペイラの言ったように、 衝動的に飛び込みたくなるような激しい誘惑に眩暈を感じた。青白負傷者を治す時には、彼自身の腹もまた、真赤な口を開いて血を流 。ちょうどあなたが地球人を救うため い悲しげな光が二人に影をつくっている。おとぎ話のような月夜のさなければならなかった : に、自らの外見や考えや文化や財産や、その他もろもろの大切なも のを捨て去らなくてはならなかったように」 しったしいくつなんだ ? 」 「まだ捨て切ってないよ」 吹き上げる風に真紅の髪をなびかせながら猫がたずねた。 「アルザス人に猫の血が混入した時のことを覚えていますよ。十五猫は言い、背中の翼をつかまえた。翼は反抗するように鋭く嗚 き、やがておとなしくなった。猫はそれを崖つぶちに置くと、立ち 万年前の話ですが」 上がった。冷たい色の月光が長い長い影をつくった。 まんまるになった猫の目を見て折衝者は笑った。 「さようなら、ありがとう、折衝者。たった今から私は偉大な″種 「もちろん、あなた方の遺伝記憶とは違いますよ。その時私は確か にその場に存在していたのですから。・ : ・ : 惑星アルザスはさまざま蒔き人″た」 な鉱物資源に恵まれ「しかもその位置は当時の調停者とアディア。フ折衝者は猫を強く抱擁した。乾燥した血がばりばり剥がれていっ トロン帝国の版図のちょうど中間にあったんです。私はその時教師た。潮風が鼻をくすぐって猫は三度もくしやみをした。 をしながらアルザスのいなかにいました : : : 彼らの将来に興味があ そして猫は一人で歩いていった。 ったもんですからね。そこで私は一人の猫に出会いました」 そうとも、猫はいつも一人で歩いていくものだ と折衝者はひ 折衝者は思い出の疼くようななっかしさにうっとりと息をつい とりごち、ふり返らずに再びしやがんでじっと暗い海を見つめた。 翼はそのまま何カ月もの間、時折小刻みに震えながら、年とった 「 : : : 彼は明らかにうすらばかで、生徒たちはよくからかっていま鷲のように止まっていた。しかしある日強い突風が吹き、石をつか エンジェル・キャット したが、また慕ってもいました。彼は実際には天使猫ではありんだまま翼はふわっと宙に舞った。くるくると円弧を描きながら翼 ・ : 私もそう思は断崖を落ちていった。そして海から突き出た大岩の上で砕け散っ ませんでしたが、皆から天使と呼ばれていました。