生を促すといわれているものだが、ヴィルスに対して中和作用を示め。発ガン物質だらけだろう。おつ。すまないな。 とにか ) トリ すんだ。それから免疫インターフェロン。これは、体内のリン・ハ球ふう。ひさしぶりだ。こんなに喋るってのは : やマクロファージなどの免疫担当細胞を引きよせてその活性を増しマンⅦじゃ、会話なんてほとんど必要なかったんだからなあ。 たり、ガン細胞に作用して殺す作用を持っている。ここいらの機能勤務についた日、のつけに先輩に言われたんだ。俺が宿舎の食堂 で「免疫学の本に目を走らせていたときだ。 が、わりとボ・ヒュラーになってるんじゃないかと思う。 インターフェロンというのは、ガンにもヴィルスにも効果のある「ここじゃ、医者である自覚なんて、あまり持たないほうがいい まのうちに地球に帰っち 物質だが、それはインターフェロン自身の作用じゃなく、はやい話・せ。宗教観とか倫理観を持ってるなら、い まいな」 が、そのうながす免疫作用によるところが大きいんだ。 おい、変な顔をするなよ。これでもわかりやすく説明したつもり 工場敷地入口で、俺は注射された。 「なあに、いまに注射も必要なくなるさ。馴れてくりや、ここの仕 なんだ・せ。 とにかくだな、そのインターフェロンで、インフェルノンはでき事も : : : むひひひひひ」 ている。 先輩は笑いながら、俺の腕に刺しこんだ注射針をぐりぐりかきま ただ、このインターフェロンというやつは種特異性があるんだわした。痛いのなんの。 な。えつ。何のことかって。つまり、人体に効果のあるインターフ 「あっ、すまない。っ い、こんなことがクセになっちまってな」 ェロンは人体からしかとれないんだ。ネズミ、豚、チンパンジーの俺はこの星の風土病の予防注射くらいに軽く考えてたんだ。 インターフェロンをいくら人体に使用しても効果なし。 先輩は言ったんだ。この工場のどの工程の仕事に携わるか、新顔 昔は人体の血液から採集して作っていたから、ほんの微量ですごの場合は自由に選ぶことができるって。だから、今からインフェル ノンの製造工程を案内してやる。 く高価にあたったそうだぜ。それやこれやで、このインターフェロ ン、遺伝子操作で大量生産のための研究が進められていたんだ。だ俺は先輩のあとについていくことになった。 から、天寿製薬のインフェルノンも遺伝子組替で培養して大量生産まず″原料採取場へ案内された。 しているくらいの軽い気持で考えてたんだ。遺伝子技術によるイン そこは倉庫みたいな窓の一つもない建物なんだな。 ターフェロンの製造が地球で壁につきあたっていたことを知ったの扉をあけて俺たちは中へ入った。 ギャツ。 はトリマンⅦの研究所についてからのことだったのだ。 じゃ、どうやってインフェルノンを作っていたかって。今から話俺は思わず悲鳴をあげてしまったよ。なぜって、だだっ広い部屋 そうとしてるところじゃないか。 の中には、裸の人間がずらりと逆さ吊りされてるじゃないか。 ちょっと水もらえないか。合成ワインじやどうだって。だめだ 裸の男女は生きているのだ。みながもぞもぞと動いている。部屋 8 2
という理由によって注目されなかった。そし て、その三年後の一九五七年、英国のアイザッ 8 クス、リンデンマン両博士が「インターフェロ ン」と命名した。長野博士らも、英国のアイザ ックス博士らが命名した同じ年に、日仏生物学 会で「抑制因子は抗体とは別なもの」との証明 結果を発表したから、日英同時期の発見ともい えそうだ。 インターフェロンは、ウイルスに感染した細 胞が分泌する極徴量の糖タン・ハク質である。ウ 池見照二 イルスの増殖を抑えるばかりでなく、ガン細胞 カット / 島津義晴 の増殖も抑える効果があるのではないかとみら れている。 「夢の新薬」とか「ガンの特効薬」といわれるレの二社に合計十七億五千万円の委託開発費のそのメカニズムは、まだはっきりわからず、 インタ】フェロンが、最近にわかに脚光を浴び支出を決定、五年後に量産体制を確立し実用化研究が進められている。ウイルスなどの誘発物 てきた。インターフェロンは略して。つまをはかることになった日一月三十日 質によって細胞が作ったインターフ工戸ンは、 り英語では「もしも」に当たる。この世にデビ☆岡山市の民間研究所である林原生物化学研いったん細胞の外へ出て、まだウイルスに感染 ューして実に四半世紀もたち、ようやく量産究所は、インターフェロン量産化のための実用していない他の細胞に作用し、ウイルスの増殖 化、実用化への機運が高まり「もしも」が「現プラントの建設にスタート。約六億円かけ今年を抑える別の未知の物質を作るらしい。つま 末に完成の予定六月十日 り、インターフェロンが直接ウイルスに作用す 実」のものになろうとしているわけである。 このところクローズアツ。フされたインターフ これらのニュースは、いずれもインターフェるのではなく、間接的に細胞の抵抗力を高める ェロンをめぐるホットなニュースの主なものをロン量産化への道を開くものだ。インターフ工作用をする。 ・ヒックアップしてみよう。 ロンは、とにかく極めて微量にしか作れないの 同じように生体の防御機構としては「免疫」 があるが、これは外から生体内にウイルスや細 ☆癌研究会・癌研究所生化学部の谷口維紹研が現状だ。だから、どんな病気に、どれくらい 究員らが、インターフェロンの生産をつかさど効果があるのか、臨床実験すら十分に行えない菌などの「抗原」が入ってくると、その「抗 る遺伝子を大量に作ることに、大腸菌に対するでいる。八〇年代半ばまでに量産化されるよう原」ごとに「抗体」が出来てやつつけるもの になれば、人類の夢が現実のものとなる。 ・こ。だから、ウイルスの種類が違えば、無力で 遺伝子組み替え実験の手法を駆使して成功し、 ところで、インターフェロンを初めて発見しある。それに対しインターフェロンは、、各細胞 日本分子生物学会で発表日昨年十一一月一一十日 ハード大学のウォルター・ギル・ハー たのは日本の科学者である。いまから二十六年の抵抗力を間接的に高めるから、あらゆるタイ ☆米ハ ト博士は「・ハイオジェン」という遺伝子工学研前の一九五四年、当時東大教授だった長野泰一・フのウイルスが侵入してきても対応でき「カゼ 究会社をスイス・チューリッヒ大学のチャール博士 ( 現在は名誉教授で、国立相模原病院常勤の万能薬」といわれるゆえんである。 ス・ワイスマン博士らと設立、研究を続けてき顧問 ) と小島保彦助手 ( 現・北里研究所 ) が、 このようにインターフェロンは「ウイルス病 たが、遺伝子組み替えの技術により大腸菌を用ウサギの皮膚にウイルスを植えつけたときに出のペニシリン」「ガン特効薬」になるかも知れ いて、インターフェロンを生産する新種の・ハクる浸出液の中から発見「ウイルス抑制因子」とないと期待されている。それにもかかわらず実 テリアを作ることに成功した日一月十六日 名付けて発表した。ところが、この因子が、生用化に手間取っているのは、量産化できないか ☆新技術開発事業団は、インターフェロンの体に異物が入ったときに出来る「抗体」とは別らだ。インターフェロンの製造法には、大きく 量産技術の開発を進めるため、ミドリ十字と東物の新しいものであるという証明が十分でない分類して四つある。 サイエンス・トピック インターフェロン実用化へ
第一は、白血球を用いる方法。白血球を集めにより遺伝子を組み替え、人間のインターフ = わせて一千億単位。これでも、恩恵に浴する患 者は年間数百人である。林原生物化学研究所の てウイルスを作用させ、インターフェロンを分ロンを作らせる。 泌させる。ただ、インターフェロンを大量に作第四の大腸菌による方法は、大腸菌の培養が実用プラントも、月産百億 ~ 二百億単位。量産 ろうとすれば血液を大量に確保しなければなら簡単なため、最も理想的だが、現在はまだ一個化体制の早急な確立、強化が望まれるところで の大腸菌が作るインターフェロン量が少なく、ある。 第二の方法は、リンパ芽球の利用。リン・ハ芽インターフェロンの効果が、はたして生体細胞インターフェロンは、どんなウイルス病にも 球とは、ウイルスによって、白血球がガン化しから作られたものと同じかどうか、わかってい効き、ハシカ、インフルエンザ、はやり目、ウ イルス性のイボ、慢性型肝炎に効果がある。 ない。今後の研究課題である。 たもので、これは培養によって増殖する。 第三は、繊維芽細胞を用いるもの。繊維芽細第一の白血球法は、フィンランド赤十字社輸ガンにも効くとみられ、骨肉踵、乳ガン、白血 胞とは、正常細胞に合成核酸などを作用させて血センタ】のキャンテル博士が、この方法によ病などについて臨床試験が世界各国で進んでい 作る。リン。ハ芽球のように増殖はしないため、り年間一千億単位のインターフェロンを製造しる。 わが国でも、京都府立医大などで臨床試験が ているほか、フランス、デンマーク、スイス、 タンク培養ができないのが難点である。 第四は、大腸菌を利用して遺伝子工学の技術ソ連で行われ、わが国でも日本赤十字社中央血行われているが、厚生省にも「インターフェロ 液センターがこの方法で昨年十一一月から製造をンの臨床応用に関する特別研究班」 ( 班長・甲 野礼作国立予防衛生研究所ウイルス中央検査部 始めた。 リン・ハ芽球法は、英国、米国、西独などで採長 ) が二年前から発足、ヘルベス性角膜炎、ウ 用され、わが国でもミドリ十字が昨年初めからイルス性イボについて効果を調査してきている が、今後は量産体制の確立により、型肝炎や 製造を開始した。 繊維芽細胞法は、英国、ベルギー、西独、米ガンにも対象を広げる方針である。 インターフェロンは、白い粉末である。小さ 国などのほか、日本でも東レが開発している。 ン生産量では、フィンランド赤十字社の年間一なビンの中に凍結乾燥されている。純度一〇〇 ロ千億単位が抜きん出ており、世界の需要量の大 % という純品は作るのが難しいため、普通は純 十字や東レの年間度〇・一 % 程度のものが多い。〇・一 % のもの 工半をまかなっている。ミドリ だと、凍結乾燥した白いタン・ハク質の粉末一ミ 一生産量は、それそれ数十億単位程度である。 タ何億単位というのは、抗生物質など生物学的リグラム中にインターフェロン百万単位が含ま ・齢ン製剤が持っ活性の強さを示すもの。インターフれている。普通は、これに生理的食塩水を加え イエロンをウイルス病やガンなどの治療に使う場て筋肉または静脈に注射する。 れ合、ケースによって違うが、一回百万から一千値段は、百万単位入った一ビンが五十ドル。 た万単位が必要だ。ある期間繰り返し用いるから一ドル二百五十円とすると、一万一一千五百円。 エ・ 二億から五億単位が一人の治療にいるという。一回の注射が百万から一千万単位だから、一 - 万 イ 従って、フィンランドの年間生産量一千億単位円から十万円もし、なかなか高価である。これ が、今後量産化されれば、一回二ドル、つまり でさえ数百人の治療しか出来ない。 量去る一月、新技術開発事業団の委託開発費の五百円程度にコストダウンがはかられそうだと 支出を受け、量産化技術の開発に取り組んでい るミドリ十字と東レでは、それそれ毎月四十億電子工学の六、七〇年代から、八〇年代は、 単位、年間では約五百億単位生産する設備を五分子生物学、遺伝子工学が「人類の夢」インタ 1 フみロン開発を実現し、花開くことだろう。 年後に完成させることを目指している。両社合 ロ 9
はあ、やっと地球へ帰ってきたわけか。久しぶりだなあ。おまえ採用通知が来たとぎは、さすがの俺も迷っちまったな。しかし、 どうしてたんだ。へ工結婚したのか。子供もいるって。そうかあ、清水の舞台から飛び降りる : : : って気持で決めちまった。 おまえにねえ。 それから亜光速船に乗りこんで : : : 就職を決めたのが二十四のと 俺か。俺は天寿製薬に就職してたの。ほらい万能薬インフェルノき、勤務についたのが二十八のときというケッタイな話さ。なにせ 職場まで地球から四光年の距離だからな。 ンを製造販売しているあの天寿製薬さ。 トリマンⅦの惑星所有権は天寿製薬が握っているんだ。そうさ 知ってるって。へえ、おまえの奥さん、乳ガンにかかったことあ な、トリマンⅦに人類が足を踏みいれたのが、いまから三十年ほど るの。子供が小児性肝ガンにかかったときも使ったのか。インフェ ルノンって効くだろう。一週間も服用すればほとんどのガンに効果前のことらしい。で、そこがインフェル / ソ製造に一番適した環境 があるらしいからな。 というので工場をおったてちまった。とにかく、だだ広い草原の真 中にぼつんと天寿製薬インフェルノソ製造工場だけがあるんだ。他 最近、地球の食品って発ガン物質だらけらしいからなあ。えつ、 には何もない。なあんにもないんだなあ。何せ星の所有権は天寿製 インフェルノンは今じや家庭常備薬になってるのか。そうでもしな 薬が持ってるから、誰もやってくる客はいないわけだし。それにエ いと命がいくつあっても足りない : なるほどね。あの薬はガンだけじゃなくヴィルス性疾患だろうが場勤務者の日常はす・ヘて工場内の施設でこと足りるようになってい るから、他には何も必要ないわけさ。 総てに効果があるらしいからな。 俺は最初、医者になるのが夢だったんだ。医学部を出て国家試験で、俺はトリマンⅦの製造工場で勤務につくことになった。 にはパスしたものの、やたらと医者が増えすぎてただろう。それ天寿製薬の製品はインフェルノン一本槍だ。インフェルノンとい に、インフ = ルノンが発売されて以来、病人が激減していた。医師うのは万病に効果のある薬だから、他の製品は何も必要ない : てのが社の方針及び理念らしい として食っていく目途がっかない状態が続くくらいならと思って、 インフェル / ンの主成分って何だか知ってるか。教えてやろう。 俺はふんぎりをつける意味で、思いきって天寿製薬に応募しちまっ インターフェロンってんだ。聞いたことあるだろう。ガンの特効薬 たわけさ。 くらいの知識しかないって。そうか : 天寿製薬の製造工場はトリマンⅦにあるんだ。トリマンⅦという インターフェロンってのはヴィルスから人体を防衛する機能を持 のは、ケンタウルス座アルファ星の第七惑星のことだ。地球から四 つ物質のことだ。専門的にはインタ 1 フェロンもいろいろあって、 光年以上も離れている。 なぜ、そんな場所で、天寿製薬がインフェルノンを製造している機能的に分類すると、ヴァイラスインターフェロンと免疫インター と思う。輸送経費をかけるだけのメリットがトリ . マンⅦには存在すフェロンに分けることができる。ヴィルスから身体を守る働きはヴ 0 るからだ。 アイラスインターフェロンというものがある。抗ヴィルス蛋白の産
で、工場の作業員たち皆が、すべてを知っていたことに気づいた けた。 それは若い原住民のカップルだった。眠を閉じ、抱き合った男女のさ。でもなきや、素面で原住民狩りなそできるものじゃないんだ。 が浮揚を続けているのだ。数百人の差しだした手に導かれるように あの、空に浮かび宇宙の果てに消えていった原住民のカップルは 少しずつ少しずつ垂直に上空へ昇っていくのだ。 いずれ、どこかの星に漂いついて繁殖をはじめるのだろう。あるカ : でも、あるカツ・フル 他の群に照明を向けた。そこも同じことが起っていたのさ。それップルは恒星に吸いこまれたかもしれない : は宗教的な光景としか言いようがないわけで、俺は思わず跪いてしが地球にたどりつき、地球人の祖先にならなかったと誰に言えるん だ。おまけにインターフェロンってのは種特異性があるんだ。人の まったほどだ。 俺の周囲では天寿製薬の作業員たちが、インフ = ル / ンの材料集インターフェロンは人にしか効かないんだ。 だとすれば、インフェルノンを製造し、それによって生命を永ら めに悪鬼のごとき形相で奮闘している。 いや親殺しじゃな 再び、一番近くの原住民の群の上空にライトをむけてみた。宙空えている地球人というのは、とんだ祖先殺し : いか。というより創造主・ : ・ : 神殺しということになってしまう。 の原住民のカップルは青い透明な球状のものに包まれているかのよ この考えは耐えられなかったね。 うに見えた。それから上昇速度を速めていき数分後には遙か上空の 彼方へと消え去ってしまった。 そう悟ったらいても立ってもおられずに、すぐに辞表を出してし それから、目的を終えた原住民たちはどこかへ最初と同じく消えまってこうして地球に還ってきちまったというわけさ。 これでもやはりインフェルノンを服用する気になるかい。 去ってしまっていたのさ。残ったのは広い広い草原ばかり。 それで、俺は天寿製薬をやめた。 へ工。やはり話さずに黙っといたほうがよかったかも知れないな。 よく意味がわからないって。 えつ、これからの俺の身のふりかたか。心配してくれなくてもい えつ。地球人に虐待され続けて、原住民がトリマンから逃げだす いよ。ちゃんと決めてきた。 方法を考えついたのだろうって。 ちがうんだなあ。 安楽製薬という、やはり製薬会社でな、インフェルノンよりよく 俺も最初はそう思った。しかし、ロを閉ざしていた先輩がようや効くへルキルシンという薬を製造しているそうだ。これが、製造工 く話してくれたんだ。 場がーナードⅡにあってな。そこの原住民というのがまた : トリマンⅦの原住民たちは何億年も昔から、年に一回あの行為をや、心配ない、心配ないって。そこの原住民が地球人の祖先である くりかえしていたのさ。種を他の星系に繁殖させるための儀式を : ・可能性はまったくないんだ。だから、いくら残酷な製造法をとって 。儀式というより、それはその原住民たちの本能であり、存在意いようと、いまの俺にはいひひひひひひひひひひひひひ・ : 義だったんたな。 だから今後はヘルキルシンをよろしく。 2 に
から隣りの部屋をのぞきこんだんだ。 だ。糞尿はたらしつばなし、汚物にまみれ、無気力にやつらは立っ 中では″処理″を施そうとする作業員と : : : びび : ているんだ。 ″処理″ を : : : ひひひ施されようとする : : : ひひひひひひ : : : 原住民の女先輩の右胸についていた機械のランゾがそのとき明減しはじめた のだ。 ひひひ 「部屋の外へ出よう。噴霧がはじまる」 何のことやらわけのわからないままに俺たちは一度部屋の外へ出 ひつ。ひつ。ひつ。ひつ。ひいつ。 あっ、俺はなぜこんなに笑ってるんだろ。何の話してたんだっ窓越に霧状の物質が原住民たちに浴せかけられているのが見え け。あっ、そうかそうかそうか。 インフェルノンの話だったな。 「ガスですか」 誘導物質と胎児の血清の入った培養液をしばらくほったらかすと俺が連想したのは、あのアウシュヴィッにおけるナチスのガス室 インターフェロンが合成されるわけさ。この液のうわずみを遠心分だったのだ。 離してとりだす。それを濃縮させてできあがりということになる。 「いやちがうな。あれは特殊な発ガン性の気体だ。原住民は、あの それが第一の方法。 気体を定期的に浴びることによって・ハーキットリンパ腫というガン じゃ、他にも方法があるのかって。あるんですよ。それが : に羅ることになるんだ。この細胞を使えば、ガノ化したリンパ球が 胎児の血清も使わんでインフェル / ンを製造する方法がね。 どんどん分裂、増殖していくわけだ。あとの製造工程は先ほどのも ナマル・ ( 細胞からインフ = ルノンを作るわけでな。先輩は次に俺のと似たりよったりだが見るかね。原住民の皮下組織の繊維細胞を をその製造工程の部屋に連れていってくれた。 使うから、やつらの生皮をはぎとって赤ムキにしなくちゃならん工 もうその段階では何にも驚かない精神状態になっていたから、矢程が入ってくる尸これはすごいそ。いくら無感情のような原住民で でも鉄砲でも持ってこいという気ではいた。 もひいひい泣きさけぶから。くくくくく : 。まあ、一見の価値あ その部屋に入った途端、ひどい悪臭が鼻をついた。スタジアムほ りと言えばあるわけだが。見てみるか」 どの広さの部屋だ。 いやです。結構ですと泣きそうになって尻ごみする俺を、無理に 牛舎というのを見たことがあるか。スタンチオン方式という飼育その工程現場へ引きずっていった。 法は、肉牛を柵に一列に繋留して飼料だけを与えて肥らせていく方この部屋はすごい叫声。全身の表皮を剥かれて神経と血管をむき 法だ。 だしにした原住民たちが泣きわめいているのだから。 まさにその伝で原住民たちは繋留されていた。何千人という数「ちえつ。こいっ気絶しかけてやがる。イキが悪い細胞だと薬ので 208
中が裸体の逆さ吊りなのだ。彼等は伸び放題の髪の毛をだらんとたを踏み入れたとき、彼等の存在を発見したのだ。人間と同じ炭素系 生物で、二本足で歩く。知能は低いが、かといって兇暴性はないし、 らし、無表情で遠くを見ているってふうなんだな。 吊られた足を見て驚いたよ。フックで足首を、こんなふうに串刺地球人の指図にも従順だ。彼等同士の言葉も持たず、木の実が彼等 の主食ときている平和的動物なのだ。だからここの原住民は地球人 しにされていたんだ。 とは別種の生物なのだ。だが、ある偶然から、この原住民の血液中 それだけでも気分が悪くなるじゃないか。 フックは移動してるんだ。規則的に裸の男女は部屋の隅へと運ばから産生しうるインターフェロンが人類に格段の効果あることがわ れていくんだな。その先には、白衣を着てメスを持った作業員が待かったのだ。それで、天寿製薬がこの星の所有権を手にいれて、一 そういうことだ」 大殺戮コンビナートを作った・ : ちかまえている。 といった内容を淡々と話してくれた。 フックの移動が停止するだろう。 「もちろん、地球では、インフェルノンがこうやって作られてるこ 同時に一人の逆さ吊りも作業員の前で停止する。むびひ。 作業員がにたりと笑う。むひひひ。逆さ吊りの頸動脈を切り裂とは関係者以外誰も知らない。企業イメージにさしさわるからね」 く。ひひひひひ。声にならない悲鳴と血が : : : 血が : : : 血が : : : ひとつけ加えたのだ。 つまり、トリマンⅦにはインタ 1 フェロン原料としての原住民が 存在するということで、単に工場が建てられたにすぎないというこ あっ失礼。もう一杯、水もらえる。 それで血が噴きだすんだ。血は下の槽にたまっていくというわけとになる。 原住民の喉笛をかっ切って採集された血液は隣の部屋へ流れてい ・こな。 俺も初めてその光景を見たときは顎が獅子舞いの面みたいにカタた 俺は案内されるままに隣の部屋へ歩いていった。 カタ鳴り続けだったさ。 その部屋へ流れた血液は樽のような容器に流れこんでいく。その 「人殺しじゃないですか」 俺は先輩にくってかかった。その時、悟ったね。工場に入るとき容器はベルトで回転している。 この部屋にも四十人ほどの裸の原住民がいて、無表情に把手を回 注射されたのは、あれは予防注射なんかじゃなく、ショックを柔げ るための精神安定剤だったってことを。それもかなり強力なものだしている。把手にはベルトがついており、原住民の労働の総力が、 ったはずだ。でなきや、その時の俺だったら失神してたに違いな樽のような容器を回転させていることになるんだ。原住民の近くに 鞭を握った作業員がにたにた笑いながら立っている。その作業員は 時々、思いだしたように奇声を発して原住民を引っぱたいているわ 0 先輩はその裸の男女について教えてくれた。 「奴等はこの星の原住民なんだ。三十年前、トリマンⅥへ人類が足けだ。