は、実にすごいイメージだが、「よくわ「何をする」のかは、実に、まったく、 「狂乱星雲記」の中の「霧の町」で、 「何が何だかよくわからないもの」といかる」のだ。神話的である、といってもこれ以上ないくらいよくわかってしまう う、いちばんマンガにしづらいはずのもよろしい。大友克洋もそうだ。そのおどのです。 これはーー「何が何だかわからないも のを、あっけらかんと描いてみせたときろきと感動は、要するに「スター・ウォ であったが、この「メチル・メタフィジ 1 ズ」が、目のまえにヨ 1 ダや、トーンの」を、絵、という、何がどうなのか、 ・トーンや、惑星ベスビンを、「現実にイヤでもわからせずにはおかないそ、と ーク」でもまったく同じである。吾妻ひ でおが、とにかくしみじみとでああるもの」・として視覚化してくれた、あいうもので、しかもあれだけカンタン明 レ り、しみじみと「、 しい」のは、早い話の大感動とよろこびとにつながってゆく瞭な線で描いて、しかもそれを「何が何 ほんとうにように思える。神話が目の前で目にみえだかわからない」ままでちゃんと「何が t..r•u. が、彼がーー・彼だけが 「何が何だかわからないもの」を、ほんるかたちになってあらわれたら、やはり何だかわからないもの」に描ける、とい とうに「何が何だかわからない」ままでこれは感動するだろう。実のところこれうのは、これはもう、寄蹟だ、としか云 いようのないことであって、ただもうと は、「クレオパトラ」とか「・ヘン・ハ 絵にできる、というこの一事につきる。 あの、のた魚ともんもこもんとへコペス ー」などと、根本的には同じ種類の感動にかく許してしまう。とにかく何が何で のスゲエことはどうであろうか。とにかではないかと思うのである。こういったも、吾妻ひでおはよくてたまらないので くこれは本当にスゲエのよ。 からといって、誤解する人はいないだろある。 そして、これは一体何だろう、と考え 私が ()n マンガで、そのヴィジュアルうと思うが。 な面だけで感動してしまった、というのところが、である。吾妻ひでおが、実ると、まさしく、そのもののやろう っとしていること、そのものだ、というこ は、過去に、「デビルマン」のディモンにケロケロとして、あのきれいな、い 軍団があり、「ファイアポール」のラスこうにシャ】ブにならぬ、別冊マーガレとがわかるのである。 吾妻ひでおはすごい。そして、それ トがあり、かどうか知らないが「黒ット、って感じの線で、実にリアルに、 もん」のねぎつき美少年があった。しか実にあたりまえに描いてみせる、ヘコペは、のもっ最高の可能性と、まった し、それらにはいまでもむろん大感動すスやもんもこもんや、アルマジロや不気く同じ性質のすごさなのである。 ( 『メチ るが、それらの絵というものは、考えて味さんやーーこれは、とにかく「何が何ル・メタフィジ 1 ク』 / 作者吾妻ひで みると、理屈にあう、何が何だかたいへだかわからないもの」でしかないのだお / 190 頁 / 520 円 / 奇想天外社 ) んよくわかる「すごさ」なのである。サね。しかも、「何が何だかわからない」 イコジェニーやシレーヌやゼノン将軍のに、それが「どうなる」のか、そして 8
たと思うんだい。間違いないよ。定期的に硫化物や水蒸気が噴出し 通信器をオンにする。 ていることを確かめたんだ。それも、ひとつの惑星だけじゃない」 「やあ、なんの用だい ? 」 「それはすごい。じゃあ急いでコース変更をしなくては」 ニキの作用がまだ続いているので、ヒーリは愛想のいい声で説「そのことなんだよ、・ほくが言いたかったのは」 二隻の宇宙船はわずかに制動をかけながら黄色い星へ接近してい く。びとつの手は四本の指を広げて、未練たらしくボールに触れて った。黄色い星とは、、 しうまでもなく、我々が太陽と呼んでいる星 「なんの用って、きみはまさかぼくたちが何のためにこうやって飛のことである。 んでいるのか、忘れたわけじゃないだろうね ? 」 最初に二人がやってきたのは、その星系最大の惑星であった。内 ビヒビの口調は皮肉っぽかった。しばらくニキに触れてなくて、 それでイラだっているのだろう。とすると、ビヒビは何か仕事をし側から三番目の衛星に火山活動がみられたのである。 「どうだい、 リ」通信器からビヒビの声がきこえてきた。「色 ていたことになる。 、あの衛星はニキ・ポールそっくりじゃないか」 といい形といし ヒーリは弁解めいた口調で言った。 スクリーンにはやや赤味をおびた黄色い球体が映っている。表面 「当然、覚えているさ。でも緊急の用がない限り、この時間はニキ には無数の黒い斑点が散らばっている。 を抱いていいということは、二人で取り決めたじゃないか」 ヒーリはその姿を見つめて答えた。 「そう、緊急の用がない限り、はね。しかしこういう場合はどうな 「うん : : : でも、あれがニキ・ポールだとしたら、ずいぶん粗雑に のかね ? ばくたちの進路の正面に星が近づいていて、しかもその 星には火山活動が認められる惑星が伴っている、というような時は」作られたやつだな。器量がすこぶるよろしくないよ」 「ほ、本当かい」 「そうだね。それにちょっと心配なのは、あの衛星の表面には水が 「本当も嘘も、きみにはスクリーンの真ん中に映っているあの光り無さそうなんだよ。ほとんどが硫黄と二酸化硫黄でおおわれている。 水分がないとニキの原石は生成されないというのは常識だからね」 が見えないのかね」 ヒーリは慌ててスクリーンを見つめた。ビヒビの言うとおり、中それでも二人は衛星に降りて調査することにした。調査は二人が 央には黄色い星が明るく輝いている。ボタンを押して拡大すると、交互に行なった。一人が調査をしている時、もう一方は上空に宇宙 確かにその星は惑星を伴っている様子だ。 船で待機し、もしものことがあった場合は救助に駆けつけることに なっていた。 「きみの言うとおりだ : : : でも、どうなのかな、火山活動があるか 半年間の調査は空しく終わった。ニキはひとかけらも発見されな どうかは・ : ・ : 」 、カュー 「おいおい、・ほくが何のためにニキに触れもしないで仕事をしてい ー 50
「さて : : : と。わしは昨日から、大急ぎで、この火星が今どんな状 りませんので : : : 」 態なのか、大まかなオリエンテーションを受けた。まあ、どれほど 丿ーマーが緊張を自ら解こうとするかのように、そう説明した。 リ 1 マーの声にかぶ詳しくそれを分析したところで、どうやら結論はいっしょのようじ 「総裁、紹介が遅れて申し訳ありません : : : 」 さるように 、ハミル元帥が口を開いた。「彼は、本艦の艦長、ならや。つまり、全ては最悪だ。もう、我々には、数少ない拠点すらも びに、鎮圧軍の空宙軍総指揮官を務めるリーマー下位少将で持ちこたえる力がない、とこういうことだ。違うかね ? 」 、、ミル元帥に向け カドが、むしろ楽しそうにすら見える表情を 「ガーディアン艦長リーマーです」彼も慌ててそう名乗る。 「そして、こちらは、もちろん初対面とは思うが国際経済開発委員「残念ながら、地表面での闘いは、まさにそのような局面に立ち至 っております」 会総裁ジン・カド氏だ」 ハミルが顔面をわずかにひきつらせた。 紹介を受けたカド総裁は、片頬を歪めて笑った。 「しかも、戦況の悪化にともない、それに費やされる戦費も、今や 「うーむ、わしはどうも、マスコミというやつが嫌いでな。いや、 見たり、聞いたり、読んだりするのは好きなんじゃが、そこに自分天井まで達した感がある。この半期で、地球経済は、約十兆ドル が顔を出すとなると、また話は別じゃ。わしは恐らく、世界で最もを、この派遣軍のためだけに投じているわけだ。確かに当初は、そ うした軍需によって、見せかけの好況が世界中をふるい立たせた。 人に知られていない経済人ではなかろうか。いや、まったく : しかし、だ。それはあくまでも、表面的なものだ。一歩離れてこの だが、少将、わしはまちがいなくカド本人じゃ。わしはここへ、 地球のあらゆる利益代表としてや「てきた。火星の問題が、どうや状況を観察すれば、地球が、火星という泥沼に、ただ際限なく資源 ら、最後の決断を迫られる時期に来ているらしい、というのでな」と資産を投げ棄てているだけにしか過ぎんことは、余りにも明白 立ち話をするうちに、従卒が、飲み物をテー・フルの上に並べはじだ。違うかね ? 」 カドは、飲み物を慎重な手つきで持ち上げ、すすった。 める。 「総裁、確かに、そのような見方が存在し得ることは分ります」 「さあ、こうしているのもなんだ。せつかく、これほど素晴らしい ミルが言った。 、くつろいで話そうじゃない 部屋にご招待いただいたのだ。お互い 「見方 ? ほう、元師は、それでは、他の見方を持っているのか か」 カドがそう言って両手を広げた。 カドが面白そうに、眉を上げた。 足首まで埋まってしまいそうな毛足の長いカーベットを踏んで、 「いえ、ただわたしは、軍人としての立場から、この戦争を考える 三人はそれそれのソフアに身を沈めた。 だけです。経済的には、確かに総裁のおっしやられる通りたと思う 短い沈黙の後、またロを開いたのはカドだ。
。しったい何を思ってい だが、また時がたち、文字の失われた時代が来て、あるひとりの大声をあげて電車の後を追って走る人よ、、 少女が自分だけの文字を発明し、それがたまたま、最初の少年のもるのだろう。 のと同じだったとしたらどうだろう。彼女は岩肌に刻まれたものが ポロポロになった毛布を引きずる子供は・ 何であるか、すぐに知るだろう。それが「ボク ハ、ココニイタ」と お気に入りを求める時、ただの「好きなもの」を「お気に入り」 いう意味の文字であることを。 にしてしまう時、人はなにかをなくしているのではないか。なくし ( うちの近くの・フロック塀には「尊皇愛国ーーー黒い皇帝」と、黒のてしまったものがあるから、お気に入りを欲しがるのではないか。 お気に入りは、時々、少し悲しいものであるように思える。 スプレーベンキで書いてある ) 自分のお気に入りを持っことは楽しい。お気に入りは多ければ多そのお菓子をぼくはニッケイ玉と呼んだ。本当はニッキ飴とでも 呼ぶのだろう。ニッケイの味のするまん丸い飴玉だった。大きく いほど良いように思うが、いくらでもできるというものでもない。 慣れ親しんで、好感を抱いているうちに、いつの間にかお気に入りて、頬に入れると、人相が違って見えた。外側は赤や黄や緑に塗ら になっている。いや、いつの間にか、というのは正しくないのかもれていた。初めてのお気に入りのお菓子だった。ある時ぼくは「き ようから・ほくはニッケイ玉のファンだ」と思った。そしたらなんだ しれない。 お気に入りを持つ、ということにはふたつの行為が含まれているかうれしくなった。 ように思う。 いちばん気に入ったのは、安くて長もちすることだった。固いと ひとつは、その対象と触れ合って、なぐさめやよろこびを得るこいう点では、飴玉の中でも一、二ではないだろうか。噛み砕こうと と。しかし、それだけでは駄目だ。それだけでは、お気に入りを持いう気になれないのである。小指の爪よりも小さく、薄くなるまで つ、ということにはならない。もうひとつは、自分でそう決めるこなめて、やがてどこへいったのかわからなくなる。 と。これは自分のお気に入りである、と決めること。積極的にそう味が好きだった。ただ甘いだけではない。さわやかさと、ちょっ 意識することによって初めて、何かが、ただの「好きなもの」からとした辛味があった。カンロ飴や黒糖飴よりも好きだと思った。 「お気に入り」へと変化する。 駄菓子屋で、ふだんの日に一個か二個、遠足の時は五個、ガラス ひとをそう思わせるものは何か ? ひとと本来は無関係であった瓶からとって、薄茶色の紙袋に入れてもらった。 ものを強力に結びつけるものよ、、 ーしったい何か ? 今はちょっと気取って、シナモン・ドロップと呼んでみよう。 マンガのフクちゃんは、・ とうして大学帽をかぶるようになったの シナモン・ドロップに捧げる歌 だろう。・ほくの町にも、年がら年中、学生帽をかぶっている男の人 、刀しー シナモン・ドロップ・ほくは大好き に 5
ポートのほうが速かった。彼我の距離はしだいに大きくなって行く 「宙行機よ ! 」 ばかりだ。 シェドが、行く手の上空をみつめて呷んだ。 調査船はいつでも出帆出来る状態で待っていた。 小型宙行機が、低い音をあげながらこっちへ接近して来るのだ。 河口近くで待っている母船 . ーー二号調査船が救援のため送り出して 来たものであった。 エンジン音がたえずひびく船室である。 船上の団員会議なのだ。 「今ごろ : : : 遅い」 ヘンゼルは呟き、だがすぐに訂正した。「いや : : : そんなも会議といっても、タガノヤ上陸前のそれのような緊迫感はない。 今回の調査がどう評価されるかはあとの話として、とにかく調査そ のかも知れないな」 のものが ( いやおうなしにではあるが ) 終了したのは事実であり、 そうかも分らない、と、ヤトウも思った。彼の感覚ではあのダ・ ガの前での絶体絶命の窮地から長い長い時間が経過したような気がそのことによる一種の安堵感と気落ちが、集まった人々の顔にもあ するが : : : 実際には、そんなには経っていないのであろう。時間をらわれていた。 タガノヤにおいて起った出来事や見聞きした事柄についてのお互 見ていたのではないからはっきりとはいえないものの、三十分、 いの確認と記録のしかたについてのざっとした打ち合わせが済んだ や、ひょっとすると十五、六分しか経過していないのかも知れなか った。救援要請を受けたハーケンダインが宙行機を再点検し搭のは、夕方になってからである。もっと詳細な詰めや整理は当然行 載物を確認し目標地点をセットし直して送り出すまで、無駄な時間なわれるはずだが、きようはここまででおしまいにしたほうが良さ そうであった。それだけみんなが ( じりじりしながら待機していた をついやすはずがないからである。 1 ケンダインÄO 以下の残留組をも含めて ) 疲れていたからであ ヘンゼルはロポットに船との連絡をとらせ、船から指令が出 たらしく、小型宙行機はそこから反転して、河口へと戻って行っる。 「本日はこの位でやめておこう」 ヘンゼルがいい、部屋の隅に佇立していたに視線を向け 「船です ! 」 「だが、終る前に、ーーだったな、おまえの説明を聞いて テイト OO が、斜め後方を指してどなった。 おきたい。おまえは原住者たちがわれわれを処刑するかも知れない 一枚帆の小船だった。小船が三隻 : : : 追って来ゑ と予想していたのではないか ? そうとしか思えないが : : : どうし 機敏な追跡であった。 あるいは、そうした船は、こちらの人々が岸壁とポートに分れててそれを予測したのだ ? 」 時間を稼いでいるうちに、こっちの退路を断っぺく、別働隊が作らその質問が行なわれるであろうことは、他の人々にもあらかじめ れて漕ぎ出したものだったのかも知れない。けれども、こうなれば分っていたのである。この席にが出ているのは、 -. ヘンゼル 224
恐い恐い夢だったよ。 その頃には最初の抵抗はきれいに失せちまっていた。何せ、この 気がついたのは宿舎の自分のべッドの中だった。たぶん先輩たち原住民たちは、外見こそ人間と似ているが人間とは別種の生きもの が運んでくれたに違いない。 なのだと思いこむことに徹してしまっていたわけだ。だから、この 「まだ、製造工程を全部まわったわけじゃないんだそ」 仕事を遂行していくことが地球の人々の生命を救うことになるはず ペッドの脇で先輩たちがにたにた笑いながら俺を見おろしていた なのだと信じきっていたのさ。 のさ。 そうなると不思議なことに仕事に熱が入ってくる。俺は残業をや 翌日から再び地獄巡りがはじまったわけだ。 ってまで職務に没頭していた・ その日は不思議なことに、もう吐き気もめまいもおこらなかっ 血抜き工程の能率がマンネリのため低下してくると、次に腹裂き 工程にまわされた。ここでも同じく、俺は職業的使命感に燃え、原 原住民を酸で生きたまま溶かす工程や、宇宙開発現場で使用する住民の女の腹を裂いて裂いてクヒヒヒヒヒヒヒヒ裂きまくったの 臓器の生体腑分けやらを見て、それから開発研究部へ行った。そこさ。 では工場に輪をかけてひどい所業・ いや実験をやっていたんだやってみて、こんな楽しい仕事は他にないと考えるほどになって が、その話も聞きたい : たんだなあ。 ふうん。あんまり聞きたくないみたいだな。おまえの眉はそんな えつ、休暇だって。いっ トリマンへ俺が帰るのかっていうのか。 前から八時一一十分になってたかなあ。眉の間にたてじわが寄ってた いや、俺はもうトリマンⅦへは帰らないんだ。 かなあ。なんだ気分が悪いのか。 転勤になったわけじゃない。俺、辞表をだしてきてる。 じゃあ、もうその話はよそう。 天寿製薬を退職したのさ。 仕事に満足して楽しかったらやめる必要はなかっただろうに : どの工程の作業を選んだのかって。 とそう言いたいんだな。 そりゃあ、いろいろやったさ。 そりやそうかもしれない。インフ = ルノンという薬を製造するこ 最初の二ヶ月は血抜き工程でさ。慣れというのは恐ろしいものだとによって人類のために貢献していたことになるんだからな。そん よな。はじめは目をつぶ 0 てメスを振りまわして原住民を苦しませな社会的責任さえある仕事をやめた 0 てのはおかしいのかもしれな ていたのが、どうやれば苦しませずに、かっ能率よく / ルマをこな いさ。でも、そうせずにはいられないできごとが起ったためなの せるかと考えるようになっていたんだな。それがだんだんマンネリ になってくると、今度はどうやれば原住民たちがクックククククク あれはトリマンⅦで勤務について八ヶ月目にかかろうとした頃だ ・ : 苦しむだろうと面白くなってきていてね。 ったと思う。 幻 0
の町営住宅に住んでいたのだと思う。事情があって、昼間、彼女のともない。死んでしまったからだ。 小学校にあがって間もなく、脳腫瘍ができて、何度も手術をした 面倒を見る人がいないので、ぼくの家の下の農家まで歩いてゆくと と・ほくは思った。そ が助からなかったという話を聞いた。むごい ころだったのだろう。雨の中を、ひとりで、傘をさして。 小さい女の子にとって、その道のりは決して近くはない。その道して、たった一回言葉をかわした、あの時のことを思い出した。可 程を彼女はほぼ歩き終えていた。目指すおばさんの家まではあと少愛いい笑い顔を思い出した。 しだ。そんな所で、ばくに会った。そして、声をかけた。初めてぼ今でも考えるのだけど、どうしてあの子は、あの時、・ほくに声を かけたのだろう ? 余ったお菓子を自分のためにとっておかずに、 くの名を呼んだ。 女の子は傘を持ってない方の手を差し出した。手の中にはニッケなぜ・ほくにやろうと思ったのだろう ? それまで一度も話もしたこ イ玉があった。ずっと握りしめていたので、色がてのひらににじんとがなかったのに、なぜ初めて呼ぶ名を口にしたのだろう ? ゴリラの群に身を投じてもいい。死ぬことだって、そんなにたい でいた。 したことじゃない。でも、いなくなってしまったあとでも、繰り返 「あげる」 ひとことだけ、彼女は言った。よく見るとロの中にひとつ、ニッしよみがえってくる記億がある。それが人を奇妙な気分にさせる。 「こいつは : : : 」といって・ほくを見た祖父は何を思っていたのか ? ケイ玉が入っている。 長い道のりを歩くのに、寂しさをまぎらすようにと、長もちのすあの子はどうして・ほくを呼んだのか ? る飴玉を母親が持たせたのだろう。ふたつあったが、ひとつだけで 充分だったのだ。食・ヘなかった一個を、彼女は・ほくに差し出した。 ぼくは受け取った。 「ありがとう」 ヒーリは、ニキ・ポール ( と思われるもの ) を受け取った黒い布 口に入れて、すれ違った。 の生き物の後を追った。生き物は水の流れと同じ方向に歩いてゆき 女の子はうれしそうに笑っていた。 ながら、時々、頭の上で布をグルグルと回転させる。 ニッケイ玉は、学校に着いた時もまだロの中にあった。お菓子を ( なるほど、ああやって布きれにしみこんだ水分を振り払い、雨を 食べながら学校に来てはいけないことになっている。ばくは校門の防ぐ力を持続させるのだな ) 内側の植えこみの下に、小さくなった飴玉を吐き出した。 調査艇から観察して、ヒーリはそう思った。 授業が終わって、帰る時、見るともうそこにはなかった。 意外だったのは、その生き物がニキ・ポールを発声器官の中に投 げこんだことだ。発声器官にはニキ・ポールを貯蔵する役目もある その小さな女の子とは、それ以後話したことはない。もう話すこのか。それとも、あそこでニキを吸収するようになっているのか・ 3
後へは退かぬ断乎とした口調で、ゆっくりといった。「決めるべき う。あとはス・ハイダーの内蔵電池が引き継ぐことになる」 ことは、もう何もない」 「それで、有効荷重はいくらになる ? 」 キングスリーの笑顔は消えた。 「どうやらこうやらだな。我々の最高の電池を使って、約五十キロ 「私は何も権威をかさにきようとしているんではないんだ、・ハルト ーク」とモーガンはいった。「単純な論理の問題だよ。なるほど、 グラムだ」 誰でもスパイダーは運転できるーーだが、関係のある技術上の細か 「たった五十キロか ! それで何の役に立つんだ ? 」 いことをすっかり知っている者は半ダースだけだ。塔に着いたと 「それで十分のはずだ。酸素五キロが入る例の新型の千気圧ポンペ を数本。二酸化炭素を防ぐ分子フィルターマスク。少量の水と圧縮き、何か操作上の問題が生じるかもしれんのだが、それを解決する ロ糧。若干の医薬品。全部ひっくるめても四十五キロ以下にでき最適任者は私なんだ」 る」 「失礼ですが、モーガン博士」と安全責任者はいった。「あなたは 「ふう ! それでほんとうに十分なのか」 六十五歳です。もっと若い者をやる方が賢明だと思いますよ」 「うんーー川ステーションから運搬車が到着するまで、それで切「私は六十五歳じゃない。六十六歳だ。しかし、年齢はこのことと り抜けられるだろう。それに、もし必要なら、ス。 ( イダーがもう一絶対に関係ないんだ。危険は何もないし、体力を要することはまっ 度いけばいい」 たく何もない」 「・ハルトークは何といっている ? 」 そして、肉体的要素よりも心理的要素の方が遙かに重要なのだ、 「賛成している。何せ、他にいい考えはないんだから」 とつけ加えてもいいところだった。マクシーヌ・デュヴォールがや モーガンは、肩の重荷がおりたような気持だった。まだ支障がおったように、またこれから先の歳月の間に他の無数の者たちがやる こる可能性は山ほどあったが、やっと一縷の望みが生じたのであことになるように、カプセルに乗って受動的に登り降りするだけな ら、ほとんど誰にでもできる。六百キロ上の無人の空の中で、何が る。どうにもならないという気分は払いのけられたのだ。 おこるかわからない状況に直面するのは、それとまったく別の問題 「すっかり準備ができるのは、いつになる ? 」と彼は説ねた。 なのである。 「何も問題がおこらなければ、二時間以内だ。遅くとも三時間。う まいエ合に、どれも通常の備品でいける。いま、ス・ハイダーの点検「私はやはり」と安全責任者・ハルトークは、穏やかだが頑強に主張 、と思います。たとえばキング が進んでいるところだ。あと一つだけ決めなきゃならんことがあるした。「もっと若い人を送るのがい スリー博士のように」 ヴァニーヴァー モーガンは、背後で自分の同僚が突然息をのむのを聞いた ( それ ・モーガンは、くびを振った。「いや、ウォーレ ン」彼は、相手がこれまでに聞いたことのないような、穏やかだがとも気のせいだろうか ) 。彼はもう何年というもの、ウォーレンが
ば、枚数に関係なく十五枚までは一本百万円と買っても、家に帰ってきてはいてみると長すぎ するわけね。そして、それ以上は、各出版社規てしまうという話を書いたけど、また、同じこ とが起こった。 程の原稿用紙一枚いくらというふうに。 だけど、これをやると、十五枚のつもりで原今度は、ジーンズショップで買ったジー・ハン 稿依頼にきた編集者は、全員十六枚で書いてくが二本とも、家に帰ってきてはいてみたらはけ ださいっていうに決まってるから、やつばし、 なかった。もちろん、長すぎて。ふしぎじゃな いかんのだろうなあ。 あ。儂が死んだら、どこかの医科大学で調査し てもらうように、妻なるものに遺言しておこ 税務署って、すごいんだよね。儂、昨年、地う。 方税の支払いを分割で銀行預金落しにしたの。 それで今年はどうしようかなあ、と考えてい それは、それとして、その儂がはくと、長く た。一括で現金支払いにしようかな、とかいろて引きずってしまうジ ー・ハンを、ためしに妻な いろ。そのうち、支払い期限がきてしまったのるものがはいてみたところ、踵の上のあたりま で、あわてて、銀行に手続きにいった。 でしかないのだ。これは、どういうことだ ! そしたら、どうだ " " 儂にひとことの相談はわかってはいるけど、許せない。十センチ以上 の〆切りの計算になる。と書くと、なんだ、ももちろんのこと、連絡もせず、かってに銀行預も差があるのだからなあ。悔しいなあ。 うからん、もうからんといって、ずいぶん、も金から引いてあったのだ。これは、いったい、 けど、人間の価値は、・せったい足の長さで決 うけているではないか、といわれそうだが、神どうしたことだ ! まるわけではないと思う。背の低さで決めたっ に誓って、ほんとにそんなにはもうけていな昨年、銀行預金落しにしたから、今年もそうていいのだ。腹の出ぐあいで決めたっていいの 。その忙しさに比して。総枚数は二百二十枚するだろうと判断したのだろうが、そうするかだ ! ちがうか、やいっ " しかないのだから。 どうかは、儂の決めることではないか ! それ しかも、その十六本の原稿の中には、八十枚なのに、ひとのわずかな財産を、かってにもっ 「日本こてん古典①』が、おかげさまで、 が一本、三十枚が二本ある。これで、百四十枚ていきおって、税務署にそんなことをする権利好意的な評をいただいている。正直いって、こ ね、三本で。で、残りが十三本。その合計枚数があるのか ! なんだ、なんだ " 【 ( と、税務署れほど誉めてもらえるとは考えてもいなかっ が八十枚。平均六枚強の原稿をひと月に十一一一には抗議せず、ここで文句をいってもしかたなた。とても、うれしい。これも、ひとえに、本 本書いていたのでは、もうからん。 いのだけど、ひどい話だよなあ ) 誌連載中からあたたかいご声援を送ってくださ った皆さまのおかげ。ほんとうに、ありがとう そこで、今度から、儂、短いものは一本いく このコラムのなん回目だったかに、儂の場ございました。 らという値段をつけようかと考えた。たとえ合、いくら、デパートでズボンの丈を合わせて もうお、 ーたんる 介℃い 6 や ) ロ 7
のば わる 伸して笑び顔。コリヤお目出たや 戯長日く先づ此の一ゲ倏に就てとか悪いとか云ッて たうじ こっくわい ′」らう せつ せつ 十とセー当時日の出の滑怪は。コリヤ工。戯員のこ誤覧じろ尤も原案の中に分らない事があった節には説 めいるるん な むてきりゅう らず笑ひ顔。コリヤお目出たや 迷異員に就て誤質問を成さるが宜しい四十番 ( 無敵流 かはきりしゃ・〈 . だ 太 ) 日く然らば本員が皮切に饒舌り出します工ヘン底 ふたあけ かかあ いつもなら、ここで、作者はなにをいわんとしている で以て蓋を明て原案を見るときは只焼併をやく女房は たた か、などと書くところだが、本人がなにもいおうとして 叩き出すべしとあるばかりで外の事は些とも書てあ んたい だ かぎ - わけ いないというのだから、しかたない。 りませんが全体女房を叩き出すのは焼餅に限る譯であ はた 」ら・い この、ひとかけらの風刺もなければ、主張もないとこ りませんか果して然らば何故に何云ふ譯がらで焼餅に かかあ ちょっと ろが、なんともいえず、うれしい 限り女房を叩き出すのでありませうか一寸説迷を願ひ せつめいるゐんうそもゆうざう たこさま 続いて、戯事奇則なるものが作られたが、これもハチ たい説迷異員 ( 卯曾茂勇蔵 ) 日く如何さま章魚様誤尤 ごしつもん とくごがてん ものやうでも尤もでない誤質問 : : : 宜しい篤と誤合點 ごせつめい ごせうち こっくわい けんとう しょぜい の参るやうに誤説迷致さう : : : 諸君も誤承知の通り昔 第一條この滑怪は一國滑稽の見当を定め且っ諸贅金 けたうじんこく かかあ ぎよういく なん し毛唐人國の奇則によると七去と云ッて女房を追出す かでう の取立法および狂育の方法そのほか難でも艱でも思 はうだいめっちゃくちやせうだん のに七ツの箇條があります乃ち亭主に従はざる者は おひだ ひ出し次第見当り放題減茶苦茶に笑談するために設 おひだ 追出すとか或ひは焼餅をやく者は追出すとか或ひはお しゃ・ ( どろまうこんぜう 饒舌りの女房は追出すとか或ひは泥坊根性のある女は 第二條この滑怪は前條に掲ぐるが如く難でも艱でも おひだ めっちゃくちゃ まじめくさ 追出すとか其外まだ難だとか艱だとか小六ヶ敷箇條が 減茶苦茶に笑談するが故に真面目腐ッた會議の如く ふえ じくわい ちくでうしんぎ めんだう ありますけれども夫から見ると今はまだ箇條が殖て居 一次會二次會三次會或ひは逐條審議などの七面倒な おほめしくら けっしたしく お て大飯食ひの女房は去るとか亭主を尻の下へ敷女房は る事は之を為さず早く云へば大ザッパイに遣かすも めんだうくさ 去るとか色々七面倒臭い事になって居るから夫を一々 のとす さいげん 爰處へ並べ立た日には實に際限のない事でありますか ら「焼餅は女房の處、疝気は亭主の都しむ處」 こんなのが、十一条も書いてある。どういう人なの かかあ と云ふ處から女房の慎むべきものの第一だけを此處に ・こ、この作者は ? くわ むてっぽう 第一日目の戯事はぶじ終了し、二日目は、無敵法律の擔ぎ出したのであります故にこれで気に食ない人は何 つらなり しうせい 制定。 とでも醜正を成さるが宜しい三十番 ( 赤井面也 ) 日く わかり せつめいゐるん 説迷異員の誤説迷で原案の意味だけは了解ましたが扨 ばけ もうじゃまっぴるま むてつばふりつ 無敵法律 わかった處で考へて見ると盲目の亡者が真昼間に化て けんたうちが やきもち かかあすみ 出た有様でマルで見当違ひかとおもひます何故かと云 第一條焼餅をやく女房は速やかに敲き出すべし こっくわい はや かか たた かん やら かっ こ - 」 ならたて めくら かん にか : 8 牆