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検索対象: SFマガジン 1980年9月号
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1. SFマガジン 1980年9月号

「わっ」 ふひびひひひひひ、ひいつ、ひいつ。 俺は思わず大声を出してしまった。それから小窓から眼をそらし 女は絶叫。大絶叫。 てしまったんだ。 なあに、まだ女は生きてやがる。子宮壁を切り裂いただけだ。 作業員が、・コム手袋をつけて女の腹の中に手を突っこんで胎児を「くつくつくつくつ」と先輩は含み笑いしながら俺の反応を楽しん でるようすさ。 とりだすんだ。 とりだした胎児を、その作業員は嬉々とした顔で吊るしてみせ「ああやって、妊娠した原住民の女を補充しているわけさ。別に妊 娠した女を探す必要はないわけでね : : : 。若い原住民の女を連れて へその緒を握って吊るしてるんだ。ぶらぶら。ぶらぶら。ひつひきて、この部屋の中で″処理″を施して十ヶ月待てば、胎児が手に 入るって寸法になっているからな。ここの作業員も楽しんで仕事し ひひ。 あとで先輩に聞いたんだが胎児の血清はピ = アな状態でなくてはているように見えるが、あれはあれで体力を消耗する大変な仕事な いけないから原住民の母体には麻酔薬なそ一切使ってはいけないんんだよ。時々、交代して″処理。を手伝ってやることもあるんだが ひつひつひつひ。どうだい、おまえもここの仕事を志願しち だそうな。でないと経胎盤で胎児に薬が移行しちゃうらしい 「いつも、ああやって妊娠した原住民の女を手配してるわけですや。ひつひっぴ : : : 初心者にや二日も持たないだろうなあ」 俺は純情にも耳もとまであかくなっちまったのさ。 そう質問したよ。 「だけど、ここの作業員も誇りを持ってやってるんだ。いま処 「馬鹿、そう、うまく妊娠した原住民が見つかるはずがないじゃな理″にたずさわってたあの男、二、三日前の晩飯のときに言ってた んだがな : : : 「俺の精液が、胎児の血清になって、それがインフェ いか。こっちへきてみろ」 ルノンの原料になって、地球のやつらがそれを服用して命を永らえ 先輩は部屋の隅へ俺を導いていった。部屋の隅は小窓になってい て隣の部屋をのそき見ることができるようになっているのだ。ガラてるわけだ。つまり、こういうことじゃないか。地球のやつらは、 ス状のもので仕切られているから、こちらの音は聞こえない仕組に生ぎながらえるために、俺の精液をおしいただいて飲んでるってこ なっているのかもしれないなと思ったけど、多分まちがいないと思とになるんじゃないかってね。そう思うと今の単調な仕事も楽しく うよ。 って嬉しくって、ついつい : : : 身が入っちゃうわけでなしってね」 「のそいてみな」 俺はついにたまらず床のうえに汚物をまき散らしてしまったの だ。突然、嘔吐感がこみあげてきたから仕方がない。しかし、その 先輩にうながされて、しかたなく俺は小窓に顔を近づけた。鬼が 出るか蛇が出るか。いい加減、残酷シ 1 ンの連続で気が減人りはじ時の俺の反応は絶対に正常だったはずだ。確信もってる。 で、俺は床の上をきれいに掃除すると、恐る恐るもう一度、小窓 めていたというのが本音なんだ。 か」 こ 0 207

2. SFマガジン 1980年9月号

実をいえば、教授のいうことにも一理はあるのだった。この不運なきっと、これも誰かが計算するでしよう。どんな答が出るとして 調査行のために費やされた何年もの努力の中からできるだけのものも、それは甘すぎるんじゃないかと思いますよ」チャンの声は数デ シ・ヘル低くなり、明らかに誰かに聞かれまいとして、まるで内証話 を救出するというのは、もっともな理屈だった。 「やむをえん」やがてモーガンは、不可抗力に妥協しながらいつのような口調で話しはじめた。「先生や学生たちは知らないんです が、南ロの気閘が爆発で損傷しています。空気が洩れているんです た。「教授と話せないとあれば、君から状況の概要を聞きたいな。 よ 今のところ、間接の情報だけなんでね」 ガスケットの隙間から絶えず音がしています。どの程度かは ここで彼は、いずれにせよチャンは教授より遙かに役に立っ報告わかりません」相手の声は、またふつうの大きさに戻った。「え ができるかもしれないと、気がついた。この運転手・操縦士が自分え、そんな状況です。そちらから知らせが来るのを待っています」 の肩書の後半に固執することは、本物の宇宙飛行士の間に嘲笑を招だが、いったい我々に、「さよなら」という以外に、何がいえる いてはいたが、 / ー 彼よ機械工学と電気工学の十分な素養を持っ極めてだろう、とモーガンは思った。 優秀な技術要員だったのである。 「あまり報告することはないんです。何しろ急なことだったんで、 緊急事態が処理されてゆく手腕をモーガンはいつも感嘆していた 何も助ける時間はありませんでしたーー・・あのいまいましい分光器以が、羨しいとは思わなかった。中間点ステーションにいる塔の安全 ・・ハルトークが、いまやこの問題の指揮に当って 外はね。本心をいえば、気閘を通り抜ける暇があるとは思っていな責任者ヤノーシュ かったんです。我々の衣類はいま着ているものだけー、ーまあ、そん いた。二万五千キロ下の ( そして事故の現場からは僅か六百キロ下 なところです。学生の一人が自分の旅行鞄をひつつかんできましの ) 山の中にいる者たちにできることといえば、報告を聞き、有益 た。何だかわかりますかーー何と、″紙″に書いた彼女の原稿の下な助言をし、マスコミの好奇心を何とか満足させることだけだった 書きなんですよ。不燃性にもしてない規則違反の代物です。酸素さのである。 えあれば、燃やして少しは暖がとれるんですがね」 いうまでもなく、マクシーヌ・デュヴォールは、事件の数分後に その宇宙からの声を聞き、塔の透明な ( しかし固体のような外見接触してきたし、例によって彼女の質問はまことに単刀直入たっ をした ) ホログラムを眺めているうちに、モーガンはまことに奇妙た。 な幻覚に襲われた。彼は、その最下部の区画の中で、小さな十分の「中間点ステーションからの救援は間にあうの ? 」 一の大きさの人間が、動きまわっているところを想像した。手をの モーガンはロごもった。それに対する答は、明白に「ノー」だっ ばして、彼らを安全な場所へ運びだしさえすれば : た。それでも、今からもう諦めてしまうのは、残酷とはいわないま 「寒さの次に大きな問題は空気です。二酸化炭素の蓄積で我々がやでも、賢明ではなかった。それに、一つだけ幸運なことがあったの協 られるまで、どのくらいの時間があるか、私にはわかりません

3. SFマガジン 1980年9月号

測できません。長距離の無線通信がその特性に依存していた時 だが、彼らの絶望的な 代、これは多くの人命を救いました 信号を電離層が跡かたもなくのみこんでしまうときには、我々 に知られている以上の人間が死に追いやられたのでした。 通信衛星がこれに代るまでの一世紀足らずの間、電離層は我 我にとってかけがえのない、しかし気まぐれな下僕でした それ以前には予想もしなかった自然現象、それを利用した三つ の世代にとっては、莫大な金額に値するものだったのです。 これが人類にとって直接的な重要性をもっていたのは、歴史 のごく短い期間でした。しかしーー仮にこれが存在しなかった としたら、我々はここにこうしてはいなかったことでしよう ! したがって電離層は、ある意味では最初の原人にいたるまでの 技術以前の人類、いやそれどころかこの惑星の最初の生物にと ってさえ、決定的な重要性を持っていたのです。なぜなら、電 離層は、太陽の有害な >< 線や紫外線から我々を保護する障壁の 一部なのです。仮にそれらが海水面にまで侵入していたとして も、それでも何らかの生命が地上に生まれてはいたかもしれま せん。だが、それが我々に徴かにでも似たものにまで進化する ことは、決してなかったでしよう : 電離層は、その下の大気圏と同様に、最終的には太陽に支配 されていますので、これにも気象の変化があります。太陽の擾 乱期には、電離層は全惑星規模での荷電粒子の嵐に吹きまくら れ、地球の磁場に捩じまげられて輪や渦巻をつくります。この ような時期には、電離層はもう眼に見えないものではなくて、 オーロラの光り輝くカーテンーー極寒の北極の夜を妖しげな光 で彩ゑ自然の最も長敬すべき景観の一つとして、姿を現わす のです。 今日においても、我々は電離層でおこるす・ヘての過程を理解 してはおりません。その研究がな・せ困難であるかという理由の 一つは、ロケットや人工衛星に載せた我々の計器が、時速何千 キ tl という速度でそこを通り抜けてしまうことです。我々に は、立ち止って観測することができなかったのです ! いま、ま さに初めて、いわゆる宇宙塔の建造によって、我々には電離層 の中に定点観測所を設ける機会が与えられております。塔その ものが電離層の特性を変えるかもしれませんーーしかし、ビッ カースタッフ博士が示唆したように塔が電離層をショートさせ るようなことは、絶対にありえないのでありますー 電離層が通信技術者にとって重要ではなくなった今日、我々 はなぜこの領域を研究せねばならないのか ? その美しさ、不 思議さ、科学的な興味は別としても、電離層の挙動は我々の運 命の支配者である太陽の挙動と密接な関係を持っているからな のです。今日、我々は、太陽が我々の祖先が信じていたような 安定したお行儀のいい恒星ではないことを知っています。太陽 は、長期あるいは短期の変動をおこすのです。目下のところ、太 陽は、一六四五年から一七一五年までのいわゆる″マウンダー 極小期から未だに脱けだしつつあるところです。このため、 現在の気候は中世初期以来のどの時期よりも穏和になってお ります。だが、この上昇がいつまで続くのでしようか ? それ 以上に重要なことは、必然的な下降がいっ始まるのか、そして これが気候に、気象に ( そして人類の文明のあらゆる側面に、 いかなる影響を及ぼすのか、ということですーー・ただにこの惑引 星のみならず、他の惑星についてもです。なぜなら、惑星たち

4. SFマガジン 1980年9月号

生を促すといわれているものだが、ヴィルスに対して中和作用を示め。発ガン物質だらけだろう。おつ。すまないな。 とにか ) トリ すんだ。それから免疫インターフェロン。これは、体内のリン・ハ球ふう。ひさしぶりだ。こんなに喋るってのは : やマクロファージなどの免疫担当細胞を引きよせてその活性を増しマンⅦじゃ、会話なんてほとんど必要なかったんだからなあ。 たり、ガン細胞に作用して殺す作用を持っている。ここいらの機能勤務についた日、のつけに先輩に言われたんだ。俺が宿舎の食堂 で「免疫学の本に目を走らせていたときだ。 が、わりとボ・ヒュラーになってるんじゃないかと思う。 インターフェロンというのは、ガンにもヴィルスにも効果のある「ここじゃ、医者である自覚なんて、あまり持たないほうがいい まのうちに地球に帰っち 物質だが、それはインターフェロン自身の作用じゃなく、はやい話・せ。宗教観とか倫理観を持ってるなら、い まいな」 が、そのうながす免疫作用によるところが大きいんだ。 おい、変な顔をするなよ。これでもわかりやすく説明したつもり 工場敷地入口で、俺は注射された。 「なあに、いまに注射も必要なくなるさ。馴れてくりや、ここの仕 なんだ・せ。 とにかくだな、そのインターフェロンで、インフェルノンはでき事も : : : むひひひひひ」 ている。 先輩は笑いながら、俺の腕に刺しこんだ注射針をぐりぐりかきま ただ、このインターフェロンというやつは種特異性があるんだわした。痛いのなんの。 な。えつ。何のことかって。つまり、人体に効果のあるインターフ 「あっ、すまない。っ い、こんなことがクセになっちまってな」 ェロンは人体からしかとれないんだ。ネズミ、豚、チンパンジーの俺はこの星の風土病の予防注射くらいに軽く考えてたんだ。 インターフェロンをいくら人体に使用しても効果なし。 先輩は言ったんだ。この工場のどの工程の仕事に携わるか、新顔 昔は人体の血液から採集して作っていたから、ほんの微量ですごの場合は自由に選ぶことができるって。だから、今からインフェル ノンの製造工程を案内してやる。 く高価にあたったそうだぜ。それやこれやで、このインターフェロ ン、遺伝子操作で大量生産のための研究が進められていたんだ。だ俺は先輩のあとについていくことになった。 から、天寿製薬のインフェルノンも遺伝子組替で培養して大量生産まず″原料採取場へ案内された。 しているくらいの軽い気持で考えてたんだ。遺伝子技術によるイン そこは倉庫みたいな窓の一つもない建物なんだな。 ターフェロンの製造が地球で壁につきあたっていたことを知ったの扉をあけて俺たちは中へ入った。 ギャツ。 はトリマンⅦの研究所についてからのことだったのだ。 じゃ、どうやってインフェルノンを作っていたかって。今から話俺は思わず悲鳴をあげてしまったよ。なぜって、だだっ広い部屋 そうとしてるところじゃないか。 の中には、裸の人間がずらりと逆さ吊りされてるじゃないか。 ちょっと水もらえないか。合成ワインじやどうだって。だめだ 裸の男女は生きているのだ。みながもぞもぞと動いている。部屋 8 2

5. SFマガジン 1980年9月号

から隣りの部屋をのぞきこんだんだ。 だ。糞尿はたらしつばなし、汚物にまみれ、無気力にやつらは立っ 中では″処理″を施そうとする作業員と : : : びび : ているんだ。 ″処理″ を : : : ひひひ施されようとする : : : ひひひひひひ : : : 原住民の女先輩の右胸についていた機械のランゾがそのとき明減しはじめた のだ。 ひひひ 「部屋の外へ出よう。噴霧がはじまる」 何のことやらわけのわからないままに俺たちは一度部屋の外へ出 ひつ。ひつ。ひつ。ひつ。ひいつ。 あっ、俺はなぜこんなに笑ってるんだろ。何の話してたんだっ窓越に霧状の物質が原住民たちに浴せかけられているのが見え け。あっ、そうかそうかそうか。 インフェルノンの話だったな。 「ガスですか」 誘導物質と胎児の血清の入った培養液をしばらくほったらかすと俺が連想したのは、あのアウシュヴィッにおけるナチスのガス室 インターフェロンが合成されるわけさ。この液のうわずみを遠心分だったのだ。 離してとりだす。それを濃縮させてできあがりということになる。 「いやちがうな。あれは特殊な発ガン性の気体だ。原住民は、あの それが第一の方法。 気体を定期的に浴びることによって・ハーキットリンパ腫というガン じゃ、他にも方法があるのかって。あるんですよ。それが : に羅ることになるんだ。この細胞を使えば、ガノ化したリンパ球が 胎児の血清も使わんでインフェル / ンを製造する方法がね。 どんどん分裂、増殖していくわけだ。あとの製造工程は先ほどのも ナマル・ ( 細胞からインフ = ルノンを作るわけでな。先輩は次に俺のと似たりよったりだが見るかね。原住民の皮下組織の繊維細胞を をその製造工程の部屋に連れていってくれた。 使うから、やつらの生皮をはぎとって赤ムキにしなくちゃならん工 もうその段階では何にも驚かない精神状態になっていたから、矢程が入ってくる尸これはすごいそ。いくら無感情のような原住民で でも鉄砲でも持ってこいという気ではいた。 もひいひい泣きさけぶから。くくくくく : 。まあ、一見の価値あ その部屋に入った途端、ひどい悪臭が鼻をついた。スタジアムほ りと言えばあるわけだが。見てみるか」 どの広さの部屋だ。 いやです。結構ですと泣きそうになって尻ごみする俺を、無理に 牛舎というのを見たことがあるか。スタンチオン方式という飼育その工程現場へ引きずっていった。 法は、肉牛を柵に一列に繋留して飼料だけを与えて肥らせていく方この部屋はすごい叫声。全身の表皮を剥かれて神経と血管をむき 法だ。 だしにした原住民たちが泣きわめいているのだから。 まさにその伝で原住民たちは繋留されていた。何千人という数「ちえつ。こいっ気絶しかけてやがる。イキが悪い細胞だと薬ので 208

6. SFマガジン 1980年9月号

断末のようすを演じわける。それが、いっ終るともしれず延々と続 俺がはじめて経験する″とりいれ″が行われたのさ。 くわけだ。 それまで俺はほとんど工場の敷地から外へでたことがなかった。 この惑星の表面上は六割がた草原になっている。工場の周辺を数回酒を文字どおり浴びながら飲むやつ。顔だちのよい年頃の原住民 気ばらしに散歩したことがあったのだが、原住民たちの姿なそ、見の娘をひつばってきて部屋の隅で犯しているやつ。床のうえに反吐 たことがなかったのさ。先輩たちによれば「インフェルノンの原料をまき散らしているやつ。酔っぱらって、ここはどこだ、なぜおれ なら、この星には掃いて捨てるほどいるさ。時期がくれば、ぼこぼはここにいると大声で叫んでいるやつ。各種さまざまな反応なのだ こ顔を出しはじめるからみてなよ」ということだったので、そんなな。 ものなのかというふうには考えていた。でもやはり不思議だったこ おまえの友人か誰かに精神病理学をやってるようなやついない とには変りない。 か。あの状況は確実に生きた教材として使えると思うんだけどな・ みなが酔い潰れてしまうと、カフェテリアは静寂だけさ。 だから、数日中に″とりいれ″になると聞いてもびんとこなかっ たのだ。工場内の敷地から周囲の草原を見まわしても、その徴候さ俺はどうしてたって。俺か : : : 俺は実はあんまり酒というのは苦 手なほうでな。ほとんど俺は酒を飲まずに、へたばったふりをして えみあたらないのだから仕方がない。 それでも、格納庫から何台も巨大な檻のついたトラックやら、麻すみつこでじっとしていたのさ。つきあいきれないと思ったのが正 酔棒やら、捕獲用ネット弾やらが引きだされ整備されはじめると、直なところでね。 ″とりいれ″の夜がくると皆は重い頭をあげはじめる。敷地内を なんとなく実感が湧いてきたわけだ。 ″とりいれ″の開始を知らせるべルが鳴りわたるからだ。 ″とりいれ″というのは、原住民たちを捕獲するという天寿製薬の 「″とりいれ″というのは、どうやって工場では知るんですか」 連中のスラングなのだが、このような種々の機材を見ていると、 俺が聞くと先輩は教えてくれた。 狩猟と同義という気になってしまう。 天寿製薬の社員たちにとって、その″とりいれ″は″まつり″と「工場では昔から知ってるさ。トリマンⅦの公転位置によって原住 冫いよいよ″とりい民のやつらが出てくるんだから・これは毎年のことさ。決まってい 同じ意味を持っているらしかった。というのよ、 れが迫った頃から、工場は操業を停止し、全員がカフ = テリアにるんだ。だから、一定の公転位置にトリマンⅦがくればベルが自動 集まって、連日、酒をくみかわし、どんちゃん騒ぎを開始したから的に知らせてくれるのさ」 敷地の中から金網をとおして外を見まわすと、本当だ。どこから 各人が、得意の芸を披露した。おくに自慢のうたを唄い、異様な湧きだしたのか知らないけれど原住民たちがあてもなく草原をさま トリマンダンスという踊りとやらをクネクネと踊ってみせた。驚くよっている。それも数人ではない。何千人、何万人という原住民な ほどの芸達者揃いで、ある者は工場の各製造工程における原住民ののだ。どこから湧きでてきたのかわからない。いままでどこに隠れ ハンティング 2 日

7. SFマガジン 1980年9月号

ああいうお菓子は有害食品追放の際、まっ先にヤリ玉にあがった祖父の葉書はユーモラスだった。とりたてて何ということもない だろうな。 内容で、休みが来たら早く帰って来い、というようなことたった。 ニッケイだけでなく、ほかの植物もお菓子のようにしてよく食べ最後に次のようなことが書いてあって、それが今でも印象に残って た。砂糖キビの茎をかじった。スカンポやイタドリは塩をつけて食いる。 「春日川の鮒も、ロをパクパクあけて、おまえが帰ってくるのを待 った。フワフワした草の穂を食べた。レンゲの花粉をなめた。ツ・ハ っておる」 キの蜜を吸った。 春日川というのは、家の近くを流れる川のことである。 思えばあの頃の田舎の子供は、鳥や虫のようであった。 このくだりを読んだ・ほくの頭には、明るい空の下で、川面に浮か セロリを生でかじる時、・ほくはウガンダ奥地のマウンテンゴリラ のことを思う。熱帯の露に濡れた野生のセロリは、ゴリラの食生活び上がった何匹ものフナが、丸く口をあけて何ごとか叫んでいる様 の中心を占めているという。もっとも野生のセロリは苦くて、人間子が浮かんだ。そして、祖父がそんな表現をすることに驚いた。 聞けば、若い頃祖父は短歌を詠んだりしたことがあったという。 には食べられないそうだが。 そんな素養が出たのかもしれない。 ゴリラも人間もそう変わりはないのだ。 いや、むしろゴリラの群れの中に入って、その日暮らしの生活を高校生の頃、一時、・ほくは釣りに狂ったことがある。狂ったとい っても、仕掛けや竿に金をかけるわけではなく、ただ釣ることたけ ・ほくはある。 してみたいと思うことが、 に情熱を燃やした。 祖父から一度だけ葉書をもらったことがある。大学の夏休みが近道具は裏山で伐った竹にテグスを結び、浮き、針、重りをつけた だけのものだった。学校から帰るとぼくは、その簡単な道具と・ハケ づく頃だった。 , ツを持って春日川へ急いだ。日が暮れるまでにはかなりの小魚が釣 葉書の内容は祖父のイメージとはやや違っていた。家にいる時の ・、、・ほくたちの地方でいうハヤ、オイカワだった。 祖父は、決して気嫌のいい人物ではなかった。暗くなって仕事かられた。ほとんどカ 帰「て来て、泥のついた地下足袋を脱ぎながら、「ああ辛い」と言釣 0 た魚は大半を、飼っていた鶏に食わせたが、一部は焼いて祖 うのを聞いたことがある。その「辛い」は、単に、疲れて身体が痛父が食べた。晩酌のつまみだった。 「おいしい ? 」 むというふうな感じではなかった。自分の生活を恨んでいるような と疑わしげな顔で訊くと、 響きを、・ほくは感じとった。 「うまい、うまい」 祖父は晩酌をした。晩酌の前に、コップで一杯、冷や酒をひっか と顔をほころばせた。 けることもあった。そんな祖父の酒を、・ほくは好感をもっては見な かった。今ではぼくも毎晩のように酒を飲む。 魚の好きな人だった。 3

8. SFマガジン 1980年9月号

車体がのろのろと終点に向って進む間、自動・フレーキ機構に頼っかもしれないと、悟りはじめたのである。 ているだけの勇気は、彼にはなかった。幸・い練習は十分にやってい たから、視覚信号はすべて見分けがっき、ドッキング・アダ。フター 天の洞穴 から一センチ以内に止まることができた。 気が狂ったようなあわただしさで気閘が連結され、連結管を通し 山の奥深く、地球作業センターの表示装置や通信設備に囲まれな て必需品や装備が放り投げられた : ・ がら、モーガンと彼の技術者たちは、塔の基底部の十分の一大のホ : そして、貴重な装置を取りに戻ろうとするセスイ教授も、操ログラムのまわりに集まっていた。それは、それそれの壁面に沿っ 縦士、技術助手、スチュワード が力を合わせておさえつけた。気閘てのびる誘導テープの四本の細い線にいたるまで、あらゆる細部ま のドアがカまかせに閉められたのは、 = ンジン室の隔壁が崩れおちで完璧だった。テー。フは床のすぐ上のところで宙に消えていて、こ る直前たった。 の縮めた尺度でさえ、下へさらに六十キロ延びて、地殻を完全に貫 その後は、避難者たちにできることといえば、設備のよい監房に通することになるのだということは、なかなかイメージが擱みにく くらべてさえびどく居心地の悪い、十五メートル四方の寒々とした 、刀ュ / 部屋の中で待ちながら、火災が自然鎮火するのを願うだけだった。 「破断図を見せてくれ」とモーガンがいった。「それからガ地階 . チャンと彼の技師だけが一つの決定的な数字を知っていたことは、 を眼の高さに持ちあげて」 乗客たちの心の平穏にとっていいことだったかもしれない。十分に塔は固体のような外見を失って、明るい幻影となった , ーー動力供 充電した電池には大きな化学爆弾に相当するエネルギーが貯えら給用の超伝導ケー・フル以外は何もない、薄い壁の、長い真四角な箱 れ、いまそれは塔の外で時を刻んでいるのたった。 だった。最下部の区画は、仕切られて一辺十五メートルの独立した この山の百倍もの高さの所にあるのではある 彼らが大急ぎで避難してから十分後、爆弾は破裂した。おし殺し部屋になっていた たような爆発音は塔をほんの僅か震動させ、金属の裂ける音がそれが、″地階″とはまったくうまい名前たった。 に続いた。破壊の物音はそれほど大きくはなかったが、それは聞く「入口は ? 」とモーガンが説ねた。 者の心を寒くさせた。唯一の輸送手段は破壊され、彼らは安全な場映像の二カ所が、それまで以上に光りはじめた。北面と南面と に、誘導軌道の溝にはさまれて、複製された気閘の外側のドアが、 所から二万五千キ離れた所に置きざりにされたのである。 くつきりと浮かび上ったーーすべての宇宙空間のすべての居住場 さらに続いて、もっと長く続く爆発が聞こえ・ーーそれから静寂が 戻った。避難者たちは、車体が塔の面から墜落したのだろうと想像所における当然の安全措置に従って、できるだけ離してあるのだっ した。彼らは、まだ茫然としたままで、自分たちの資産を調べはじた。 めた。そして、徐々に、自分たちの奇蹟的な脱出も全く無駄だった「彼らは、もちろん南側ドアから入りました」 . と当直責任者が説明 9

9. SFマガジン 1980年9月号

とすると、彼らはチチ人のように、腹の表面から養分を摂取するのると、まだ四倍の大きさはあった。それを間近に見たヒーリは、激 ではないということになる。手足の本数だけでなく、色々な点でチしく腹の皮を波打たせた。 チ人とは違っているようである。 今、連絡をするべきだろうか。艇の中でヒーリは迷った。連絡を とってビヒビを呼び寄せると、生まじめなやつは必ずあれを分析し それにしても、あの巨大なニキ・ポールを味わうとしたら ようといいだすに決まっている。味わうことは、すべての作業が終 そう思うとヒーリは腹の皮に鍛が寄るのをどうしようもなかった。 これは我々の「舌なめずりをする」というのと同じ意味合いを持つわってしまうまで許さないことは目に見えている。ヒーリにはとて 行為なのである。あれ一個で普通のニキ・ポール六十四個分は優にもそんな我慢はできそうになかった。 ある。どんなにか強烈な刺激がもたらされることであろうか。 ( 少しだけ、味わってみるんだ。連絡はその後でも遅くない。あの しかし、それにしてはあの生き物は何の変化もなく動き続けてい生き物はこれを捨てたのだから、すぐに取りもどしに来るとは思え る。身体が大きいぶんだけ ( チチ人のおよそ八百三十八万八千六百ない。それに、味わってみることだって、立派な調査活動の一端で 八倍近くある ) ニキの効き目が薄いのか。それとも、やはり単に貯はないか ) 蔵しているだけなのか。 なんとか理屈をつけて、まず楽しみを手に入れることにした。 やがて生き物は他の生き物たちの群れと合流し、高速の移動機械 ハッチをあけて、外へ出る。強烈な芳香が押し寄せ、ヒーリはあ が行きかう通路の端を進んで、大きな建造物の並ぶ一画へ近づい ゃうく失神しそうになった。香りはチチのニキ・ポールよりはるか に強い。ヒーリの腹の皮は・フル・フルとけいれんした。 その区画を取り囲む塀の一部が破れていて、生き物たちはゾゾ彼は四本足を震わせながら、その黄金色の巨大なポールへ接近し た。ところどころに泥が付いているが、味わうに問題はなさそうで ロとそこから中へ入っていった。例の生き物も一緒に中へ入ったの だが、入った途端、発声器官の中に入れてあったニキ・ポールを吐ある。 き出した。 あと四歩でニキ・ポールに触れる、というところでヒーリは思い ヒーリは勇んで吐き出されたニキ・ポールのもとへ調査艇を飛ばっきりジャン。フした。もちまえの脚力で見事に彼はニキ・ポールの 上へ、腹這いに、すぐニキを味わえる姿勢で着地した。目を閉じて した。 ポールは小形の樹木の陰に転がっていた。表面にはかなり泥が付ニキの効き目が現れるのを待つ。頭はすでに匂いのためクラクラし ている。 いている。 じっと彼は待ち続けたが、いつまでたってもあのめくるめく幸 ( なんというもったいないことをするやつだ ! ) 福感はやってこなかった。 ヒーリは腹を立てながら、・艇を近くに着陸させた。 ポールはかなり小さくなっていたが、・それでもチチのものに比べ、 ( 違うのか ? ' 、これはニ、キトボールではないのかリ )

10. SFマガジン 1980年9月号

「ぬか喜びをさせたくはないんだが、中間点ステーションを当てに はいまビーム出力を計算している、ーーもちろん、やりすぎて皆を燃 しなくてもよさそうなんだよ。もっと近くの川ーーーっまり一万キやしちまわないようにた」 ロ・ステーションで作業している組があるんた。そこの運搬車なら「じゃ、私がいうとおりだったのね」と、マクシーヌは、気をよく していった。「どうして気がっかなかったのよ、ヴァン。ほかに何 ″地階″に二十時間で行ける」 か忘れていない ? 」 「じゃ、なぜ出発していないの ? 」 これには返事のしようもなかったし、モーガンも答えるつもりは だが、そ 「間もなく安全責任者の・ハルトークが決定するだろう なかった。 彼にはマクシーヌのコンビューターのような頭脳が大車 れも徒労かもしれんのだ。彼らの空気は、その半分の時間しかもた んだろうと思う。それに、温度の問題の方が、それ以上に重大なん輪で働いているのがわかり、次の質問が何であるかを推測した。そ のとおりだった。 「スパイダーは使えないの ? 」 「どういうこと ? ・」 「向うは夜になっていて、彼らには熱源がないんだ。まだ、外へは「最新型のやつでも、高度がかぎられているんだ , ーー・あの池では 洩らさんでくれよ、マクシーヌ、凍死か酸素欠乏かということにな三百キロまでしか昇れない。あれは、塔が大気にに入った後ての点 検用に設計されているんだ」 りそうなんだよ」 数秒間の沈黙があり、それからマクシーヌ・デュヴォールは、柄「じゃ、大きな電池をつけたら ? 」 「たぶん、ばかなことをい にもなくおずおずとした口調でいった。 「数時間でか ? だが、それが問題なんじゃない。目下テスト中の ってるんだと思うけど、大赤外線レーザーを持っている気象ステー唯一のやつは、乗客を乗せられないんだ」 ションなら、きっと・ーーー」 「無人のまま送ればいいわ」 「ありがとう、マクシ 1 ヌ はかだったのは私さ。中間ステーシ 「悪いが、それも考えた。スパイダーが″地階″に着いたとき、ド ョンに話をするから、ちょっと待って : : : 」 ッキングをするためには、オペレ 1 ターが乗っていなけりゃならん モーガンの電話に対してパルトークは丁重な態度だったが、そののだよ。それに、一人ずつ七人の人間を脱出させるには、そうやっ きびきびした返事には、素人が首をつつこんでくることに対する彼ても何日か必要たろう」 の意見が、いやというほど表現されていた。 「何かいい知恵はないの ? 」 「邪魔をして悪かったな」というと、モーガンはまたマクシースに 「いくつかあるが、どれも気狂いじみている。うまくいきそうなの 切りかえた。「時には専門家も、自分の仕事を心得ているもんだ」が出てきたら教えるよ。その間に、頼みたいことがあるんたが」 と、彼は気落ちしながらも誇らしげにいった。「我々の連中は心得「何よ ? 」マクシーヌは、うさんくさそうに訊ねた。 ている。彼は、十分前にモンスーン制御部に電話していたよ。彼ら「視聴者たちに、宇宙船は六百キロ上空でお互いにドッキングでき