「立ち話もなんだからね : : : 。教えてあげよう。君達がネ。フチュー ばーーーあの三人を、ロをきける状態では、ここから出すな。それか ンと呼んでいる女の子の生いたちについて。そして : : : それを聞いら、先生をこの部屋にお連れしろ。あくまで紳士的に、だ」 たなら、協力して欲しい。ネプチ = ーンーーー彼女に、元の世界へ戻部屋の隅にいた男は、軽くうなずくと、再び音もたてずに部屋を るよう説得することを」 出てゆく・ーーーじ 一体全体、笹原は何をする気なんだろう。一 「カン・フリア紀と : : : 現代 : : : 」 第七ドームの中心部で大島は、苛々と煙草のフィルターにかみつ由布子が、一番まともだった。男達一一人はまるで自失していた。 く。目の前に大きなスクリーン。今写っているのは、ドーム内第九かといってそれは由布子が一番度胸があるということではない。 カメラでーーーそれはつまり、笹原教授が三人を説得している処。 番科学にうといから、ことの重大さがろくに判っていないだけ。 「あの三人にタイム・トンネルの話なんかしてどうする気なんだ。 「とするとネプチューンは、本来カンプリア紀の生物だと : : : 」 あの三人を始末して、ネプチューンをトンネルの中へつつこめば、 「カンプリア紀なんていったら、ろくな生物いないじゃないか」 それですべてはおわりではないか」 正行がうめく。信じられない。信じたくない。 「おそらく先生は、人を殺すのが嫌なんでしよう : : : 」 「そうだ。進化の始まりの頃だよ。逆にいえばだからこそーーーなま そばにいた男の台詞を、大島、さえぎる。 じ進化をはじめてしまった頃の生物でない、この先どんな生物にな 「そんなことは判っている。誰だって人を殺すのが好きなもんかー る可能性をも秘めているからこそ、人間になったんだろうと思う。 けれど、それが必要な場合だってあるんだ」 とにか ~ 、 : : これが判ったら、協力して欲しい。ネプチュ 1 ンを、 三日に渡る口論の結果、あの三人のことは一応、笹原に一任、とカン・フリア紀に帰すのを」 いう形にしてあるのだ。しかし、彼としては、言外に、あの三人を「どうして : : : です ? 」 殺せという意味を含めた筈だった。だから。その手のことに関する 門外漢の由布子が聞く。 腕ききを二人、笹原に渡した。それをーー生かしておくことさえ許「どうしてネプチ = ーンを帰さなければいけないんですか」 しがたいのにーー・莫迦丁寧に時震のことやタイム・トンネルのこと「歴史に人為的に介入してはいけないのだ ! それが判らないか まで説明するとはー ね ? このトンネルはカン・フリア紀に通じているんだが : : : 仮にこ 仕方がない。大島は、右手を上げる。部屋の隅にいた男が一人、れが近代へ続くトンネルだったとする。そこで私が、例えばナポレ 音もたてずに近づいてくる。 オンを、例えばアルキメデスを今の時代に連れて来て返さなかった 「説明がおわっても、先生があの三人を始末する気がないようならら、歴史が狂ってしまう」
行く子の母親。 が、やがて。正行の死体が視界から消えてしばらくたっと。ネプ あお向けになって、海に浮いていた由布子、うつぶせになる。ゅチューンの心に、新たな想いがうかんだ。 つくり水をかき始める。右肩を、あまり使わないように。あまり、 あんなに行きたがっていた人が、どこへも行かないうちに死ぬ筈 体力を消耗しないように。 : よい。あれは絶対、何かの間違い。 ああ、そうだわ。 何があっても、死ぬわけにはいかなかった。今の彼女は三人分だ から。由布子の分の人生、子供の為の人生、正行の思い。 とたんに判る。 母親になった女が強いのは、きっと二人分の生命力を持っている 正行はきっと、一人で、一足先に、誰も見たことのない世界へ行 からだわ。自分の分と子供の分。それならあたしは。三人分よ。常ってしまったに違いない。ずるいや。 人の三倍の生命力。 でも、それなら。私も行こう。誰も見たことのない世界へ。 どっちが陸地だろう。まるで闇で判らない。 うん、きっと。きっと由布子は気づいていない。あの人、正行の けれど。 こと、きっとそんなに心配しないもの。 由布子なんか待っていても無駄よ。そのかわり、私がおいかけて 由布子は、自信に満ちて、泳ぎ続けた。逆の方へ泳いでも、いっ かは必ず陸地につく。太平洋だった大西洋だって、楽に横断してみゆく。正行 行きたい。まだ誰も見たことのない世界へ。行きたい。遠くへ 1 せる。あたし、三人分なんだもの。 そして。いっか二人して、空の上から見ましようね。あたし達のあの人に会いに。行きたい 子供がーー・子供達が、果たしてどこまで行けるか。 やがて、ネプチューンは第四紀を抜ける。そして、降りてゆく。、 果たしてどこまで行けるか。 第三紀・ーー白亜紀ーージュラ紀ーーー三畳紀ーーベルム紀 ・ - ・ーー石炭紀 デ・ホン紀。そしてシルル紀ー - ーーオルドビス紀ーーーカンプリア紀 へと。 どこまでも、どこまでも、ネプチューンは降りてゆく。真の闇。 段々、物が考えられなくなる。 時間のまるでない世界。一瞬一瞬がまるで無限の時間のような。一 行きたい。まだ誰も見たことのない世界へ。行きたい。あの人に 瞬一瞬がまるで存在しないような。 会いに。 行かせてあげたかった。正行。あなたの行きたがる処なら、どこ 行きたい。どこ 遠くへ、何故 ? : : : 行きたい。よく判らない へでも。 けれど、行かなくちゃ、遠くへ。 - 行きたかったのに。あなたは叫んだ。なら私は。行かせてあげた ( く。どこーーーどこかへ。行く。 かったのに。 言葉がなくなり、思考力もなくなる。あとに残るのは、ただ、強 268
大正十五年には、「月世界のたんけん』続篇の「火星探険』 イ族とモーロックの対立のやき直し。胡堂先生、かなり海外 n を、再び〈報知新聞〉に連載している。 に通じていたと見える。 単行本は昭和五年に平凡社から〈少年冒険小説全集〉の第に カマキリ人の住処がわかった博士たちは、ひとまず航空船へ三巻として刊行。イラストは『月世界』と同しく太田雅光。 と帰還。そして今度は武器を持ってカマキリ人の村へ押しか 月世界探険から無事帰還した博士が、月人にもらった宝石を け、戦闘の末に太郎と花子を助けだす。 資本にして新しく「丸ビルよりは少し小さいが、東京駅よりも 二人さえぶじに救出できれば、もう月世界に長居は無用。博帝劇よりも大きく、壁の厚さたけでも二十四尺」という銀河帝 士たちが地球へ帰ろうとすると、あとからヒュ ーマノイド月人国のスタ ー・デストロイヤー級 ( ? ) の大型航空船を建造。ふ が追っ駆けてきて、しきりにカマキリ人退治を懇願する。 たたび太郎たちとともに、今度は火星探険を計画する。 ところがこの月人の願いに対して、博士はなかなかクビをた胡堂の描く火星は、見渡す限り沙漠また沙漠の砂の惑星。火 てに振ろうとはしない。「どっちが勝てば良いのか、わしには星人たちは、「物質の分子を解放して」エネルギー源とした巨 わからないから、支那の戦と同じことで、はたから下手な手出大な掘削機で運河をほり、極冠の氷から水を引いている。 しは出来ない」ーーーというワケ。まことにもって博愛精神の亀火星の人種は、エスペラント語を話し性格もいたって温和な 鑑ともいうべき美談。 ーマ / イド型と、″お化け人″と称するタコ型をした ( 出 結局こうしてさんざんつつばねていた博士も、ついに根負けた ! ) 好戦的な種族の二種に分かれており、互いに対立して交 して、宝石と武器とを交換。一行はふたたび航空船に乗りこん戦状態にあるという。 で、地球へと向かうのであった 火星を訪れた博士たち一行は、この二種族の闘争に巻き込ま これが『太郎の旅月世界のたんけん』の大ざっぱなストー れ、お化け人の群れにとり囲まれてあわやーーーというところで からくも航空船で危地を脱出。命からがら火星を逃れ、次なる アイデアが外国作品からの借りものたったり、低年齢の読者目的地の金星へと向かうのでありました。 「地底の都』 層を意識して全体的にかなり幼稚たったりで、いま読み返すと いろいろ食い足りない部分もあるけれど、まあその辺のことは脚 2 目をつぶってしまおう。 なんといってもこの小説でいちばん良いのは、ラストで博士 が月人の頼みを断わっちゃう部分。戦前のにしては珍し 由人にヒュ ーマニスティックな作品た。たた、そのふんあま り派手なアクション場面のないのが、残念といえに残念たけれ
一人で。一人で。一人で。 星や月が見えるということはーーーああ、あたしは無事、ドームの 呪文のようにそう繰り返し、とたんに気づく。一人じゃない。 外へ出ることができたんだ。 まだ判らない。まだ判らないけど。ひょっとすると。 「洋介 : : : 。ようすけ ? 」 小声で呼んでみる。返事はない。 あたし、二人かも知れない。 右肩がずきずきした。水の中ということは、血は止まらずに、流お腹を軽くなぜる。まだ、全然ふくらんでいないけれど。とたん れ続けているかも知れない。 につりあいがくずれて水を飲んでしまう。咳こむ。 死ぬのかな。不思議な程、おだやかに思った。このまま血がとま ひょっとすると。このお腹の中に。いるかも知れない、あなたの らずに、海にただよっていれば、遠からず死ねるだろう。 子供。 なんであんなに必死に逃げたんだろう。考えてみると莫迦莫迦し後継者。あなたは、そう言った。あなたの思いの後継者。そし い。 ~ 、す - つ。 て、あなたが・ーー・あなたが、思いを果たせず死んだなら。 もうちょっと、待っててね。正行。もうちょっとしたら、あたし あと。あと、何十年か、待ってて、あなた。一人じゃ淋しいかも もあなたのそばへ行く。 知れないけれど。あなたの夢を、いっか果たしてくれるかも知れな 生きたいとは思わなかった。少しも。 い子供が、育つまで。 三の、ガスコンロ二つおけるダイニングキッチン。そんな処すべての生物が思うわけ。遠くへ行ぎたい。見てみたい。まだ、 で、一人で食事をしても、おいしくも何ともないだろう。 誰も見たことのない世界を。この目で。触れてみたい。誰も触れた 誰も恨んではいなかった。ただ一つ心残りなのは。 ことのない世界を。この手で。進化なんてさ、そんな風なことの繰 正行。あなた、死の直前まで、あんなに強く思っていたのね。遠り返しの結果だと思わない ? くへ行きたいって、誰も見たことのない世界を見てみたいって。そ うふ。そうよね、正行。それならきっとこの子はーーあたしの子 れが叶わず死ぬのは、どんなにか口惜しく心残りだったことでしょ は、新人類だわ。絶対。思いのたけの量は他の生き物と較べものに ならないもの。 どこまでだって、行けるわよ。それこそ、もう、あなたが想いも 行かせてあげたかった。あたしがかわりに死ねるものなら、死に たかった。行かせてあげたかった。ようやくあたしをつかまえてくしなかった遠くまで。土星、天王星、海王星、めじゃない。太陽系 の中でうろうろなんてしてるもんですか。光速の壁だって何だって れた人。行かせてあげたかったのよ、本当に。 二の、あたしのお部屋。いつもせまくて不満だった。それで越える。 7 も、一人であそこにいたら。きっともう、部屋の端が見えない位広あなたの恋人は聖母マリアだったのよ。知らなかったでしよう。 2 何ていっても、人類の後継者の母親だもの。今までで、一番遠くへ い部屋になってしまうわ。」
どうぶっすう の、草一本ない不毛の地たった。海が干上がったあとの沙漠に 木立の中から飛び出した動物の数は二百か三百もあるで と ガラス製のビルが立ち並ぶ古代都市の遺跡を発見するが、ここ しよう、恐ろしい勢で飛んで来ましたが、百メートルぐ とこく きふた も白骨が散乱するだけの無人境。 らいの所へ来ると、急に立ち止ってがや / 、話しながら、 うすきみわる 生物の姿をもとめてあちこち航空船で飛び回る一行は、やが 薄気味悪そうに、 こっちを見てをります。の蕋さは人間 まっくろや からだふし てガラスの天井に覆われた谷に行きつく。望遠鏡で観測してみ の二もあるでしよう、真黒で痩せこけて、體が節たらけ かまきりゃう ちょっとみ たら、なんと谷底には水と空気があるばかりか立派な町や人間 ですから一寸と見ると、大きい螳螂の様です、それでも、 にんげんおなやうた て ぼうやう の行きかう姿さえ見えるのだ。さらに船をめぐらすと、谷への 人間と同じ様に立って歩いて、手には棒の様ふなものを振 入口とお・ほしき大鉄門もみつかった。 り廻して居ります。 すぐさまストウーム・トレー。、 ーみたいな格好の″魔法服 に身をかためた太郎、花子、博士、五郎八の四人は、助手とル もの珍しそうに寄ってきたカマキリ人の一人を、五郎八が気 ルーを船の留守番に残して、エアロックがわりの鉄門の中へと持ち悪がって投げ飛ばしたものたからもう大変、一勢に襲いか 入っていく。 魔法服というのは急激な気圧・気温の変化から身かってきた。 体を守るための気密服で、本文の説明によると「魔法壜のしか (.-5 の小さい環境に生まれ育ったせいか、このカマキリ人た けで鎧をこしらへた様なもの」なのだそうだ。 ち、背がヒョロ高いばかりでカはからっきし弱い。仲間がかた 門のむこう側はというと、一面のお花畑にガラス天井から柔つばしから博士たちに投げ飛ばされるのを見て、こりやかなわ らかな太陽光線が降りそそぎ、美しい鳥の歌声が響く楽園のよんと思ったか太郎と花子をつかまえるが早いか一目散に逃げて うな世界。歩き疲れた一行がノンビリお弁当を食べていると、むしまった。 こうの森からとっ・せん変な奴らが現われた。原文によると 困ったのはあとに残された博士と五郎八。追いかけようにも 皆目方向がわからない。やむなくウロウロと歩き回っているう 1 マ / イド型月人の ちに、たどり着いたのが温厚な性質のヒュ 住むガラスの町。 町の住人たちから身振り手振りで聞いたところによると、本 来あのカマキリ人たちはかれらの労働用家畜人たった。ところ ーマノイド月人が頽廃化・無気 が文明が発達するにつれてヒュ 力化していくのに対し、カマキリ人はしだいに知能をつけてこ とあるごとに反乱を起こすようになり、今では勝手に森の中に ーマノイド月人をつかまえては食用にしている 群棲して、ヒュ : というのだ。 このあたり、完全にウエルズ『タイムマシン』の中の、エロ 『六一八の秘密』 こだちなか おそ を と ある どま 幻 3
〈ニニ五三年十月十八日〉 海に浮かんでいるヨットには、三人の男女がいた。水沢由布子、 Op ぎ g 第七工業ドーム そしてすべての始まり 河村正行、山岸洋介。 三人の精神は今、かろうじて均衡を保っている。破れ去る直前 の、緊張に満ちた均衡。 秋の西陽が差しこむ部屋で。笹原俊は、一人物思いにふけってい た。カン・フリア紀の海。歴史のはるかかなた。あの頃から海は、毎そこへ。物語のはじめの為に、空から石が降ってくる。ほんの小 日毎日、繰り返していたのだろうか。寄せては返し、返しては寄せさな石。けれど、かろうじて均衡を保っている三人の精神に影響を およ。ほすには充分すぎる大きさ。 る波。 そして。物語は始まる。思いもよらない模様を描く為 窓の下には一面の海。まがまがしい茶色。今、その水面は実に穏 やかだった。 洋介 むこうからョットが走ってくる。たいして風がないので、のたの たと。ョットの通った跡には、前とは違う波。 そう。たとえ投げこまれた石がどんなに小さくても、小石が水面海は、茶色く、ぬめっとしていた。まるで油のように重たい水 に描く波紋は実に大きいのだ。そして。世の中という水面に、絶え面。指をつつこんだら茶色に染まるのではなかろうか。潮の香りが 間なく投げこまれる小石。波紋は幾重にもかさなって。思いもよらするのが不思議。 ない模様を描く。 「海は汚ない、汚ないって言われてるけど、本当に汚ないのねえ」 笹原は今、自分の描いた模様のことを想っていた。自分のーーー第由布子は妙なことに感心していた。こんなもんだろうな。俺は、 七工業ド 1 ムが抱えた秘密の、波紋。幾人の人が、これにより運命空しく思う。自分達で海を汚しておきながら海の汚なさに驚く。人 間なんて、勝手なもんさ。 を狂わされたことだろう。 が。歴史はそのすべてをのみこんで。百年も後の人が見れば、そ「山岸。まだかい」 くわえ煙草の河村が聞く。 の狂わされた運命は、そうなるべきだった過去の事実の一つとし て、歴史を形成していることだろう。一段下の模様の上に次の模様「もうそろそろ : : : あ、おい」 俺、慌てて灰皿をさし出す。 が重なって。歴史という織物ができる。 一段下の模様の上に、次の模様が重なって。歴史という名の織物「河村、天皿こっちだ。これ以上海を汚すな」 「え : : : あ、悪い」 となる。 2 2 3
「拒絶反応ってのは生体の免疫作用のせいでな。移植した他人の器あるだけしゃ。口がきけんと何かと不便だし、君も話し相手がおっ ま、とにかく二人共、仲良くやっ 官を、病原菌なんそと同じ異物、つまり抗原と判断した生体が、そた方がよかろうと思っての。 てくれ。それから、わかってるだろうが、なにしろその格好だ。あ いつを排除しようとして抗体をせっせと作るから起きる現象じゃ。 ならば、 , ー・ー生体にそれを異物だと思わせなけりやいいわけじゃ」まり出歩かんようにな。いいか、タチ・ハナ君。ひと月。わずかひと じゃ、あとはよろしくな」 「理屈はそうですが、しかし、そんな都合のいい方法はまだ発見さ月の辛抱だ。 「あっ、先生。一人にしないで」 れていないはすでしよ。一体どうやったんです ? 」 「下らん冗談を言うな。それに君はもう絶対に一人・ほっちになる気 「なーに。地獄の沙汰も金次第といってな」 遣いはないんじやから、その点は心配せんで大丈夫」 「ま、まさか : : : 」 いつもいつも肩の上に他 「心配せんでも、お前さんの体の免疫機能に、ちゃあんと袖の下を「その点こそが、一番心配なんですよー 渡してあるんじゃよ。見て見ぬふりをしてくれるようにな。今まで人がいられちゃ迷惑だ。なんか、自分で言ってても信じられんセリ の連中が失敗ばかりしておったのは、そこに気がっかなかったからフだけど、とにかくですね、僕の。フライ・ハシーってものはどーして じゃ。ぎやはははははは」 くれるんですか」 「まあまあ、そのうち慣れるさ。わしが保証する。それにな、 「そんなアホな : : : 」 しいこと教えてやろうか ? 」 二人が押し問答をくり返しておりますところへ、それまでよく眠 っていた首が眼を醒まします。いきなり耳元で声がしたタチ・ ( ナ「なんです ? 」 「君ら、なかなか似合うとるそ。わははははははは」 君、尋常一様の驚きではございません。 「この、マッドサイエンティスト ! ふえ ~ ん」 「あの 5 、・ ~ 」 怒鳴ろうが泣きわめこうが、もはやどうしようもありません。あ 「うわっ ( 目ン玉ひんむいて首を見る ) 」 「あ、お初にお目にかかります。私、ナガヌマです。どーも、このわれタチパナ君、他人の首を、文字通りしよいこんでしまう ( メに なりました。 たびはまた、とんだご迷惑をおかけしまして : : : 」 「あ ~ 、ムダじゃムダじゃ、ナガヌマさん。こいつ、とうに気を失 っておるわ。だらしのないやつじゃ。こりやっ、しつかりせんか馬 鹿もの」 、やつば、二人、なんでしようなあ、私もあ こうして二人の : 「・、・ : : あっ。せ、せんせえ ~ 、く、くびが、くちくちくちをきいた まり自信は持てませんが、とにかく二人のケッタイな入院生活が始 5 んですよお ~ 、首が口をオ : 「えーい、泣くな。うっとうしい。声帯マイクを喉の奥に仕込んでまったわけでありますが、決して平穏無事に、という風にはまいり
とん「輸送品」 上村敏夫 ( 新潟県 ) こういう欄の選者というのは、割の合わなんある。選者の守備範囲でない作品は、・ 三日目くらいに入選にしようと考えて、思 いものだろう。な・せなら、黙殺した投稿者にどん落とす。偏見にはちがいないが、やむを いなおした。一人の体に多重人格というアイ は怨まれるだろうし、酷評した投稿者にも憎えない。 まれかねない。喜んでくれる人がいるとすれそのかわり、アイデア・ストーリイで面白デアは、新井素「さんたけでなく、公知公用一 い作品は、下手でも選評までは残したいと思である。もちろん、処理の仕方もストーリイ ば、入選者くらいのものかもしれない。損な も違うが、それをオチに持ってきた点はと っている。 役廻りだが仕方がない。 うも気になる。プロ作家が眄く書けば、何百 ただし、効用もないことはない。黙殺され今月の選評を、もってまわった書きだしに た、あるいは酷評された人が、豊田有恒の畜したのには、理由がある。この時点で入選作篇もある作品のひとっとして許されるが、ア マチュアのデビュー作としては、オリジナリ 生めと思いたって、発奮して書きっ・つけるこが決まっていないのだ。こういう時は困る。 今月は、雑誌の締切りを人れていない。楽ティが問題になる。 とである。 西宮久雄 ( 平塚市 ) なはずだった。文庫を創刊したばかりで、手「英才教育」 選者の机のなかに、極秘のリストがある。 乱塾時代という疑似イベント風のくだりは かって虐められた人の一覧表である。原稿が持作品が乏しく、新書の書下ろしが苦しい 書けなくなると、このリストを開く。そのと社には、たいへん世話になっている。長篇の悪くないのだが、人肉食というのは、まえに きの怒りが湧きおこってきて、原稿が進みだ書下ろしにかかるためだった。八十枚まで順述べたように「周の文ェ」の故事を越える、 すのである。ただし、このリストは、選者が調に来たところでひっかかった。・の生とんでもないアイデアでないかぎり採らな 。しかも、選者のように、高校時代に観た 死ぬまで公表はしない。選者が生きているあ原稿を読み、長篇の原稿を一「三枚かくとい いだは、発表できない。な・せなら、意外ともう日が、五日も続いている。アプ ( チ取らず映画が三本、。フロ野球、映画など何も知らず ( に、受験勉強サイボーグのような生活をして 思える人物も、そのリストに入っているからになっているのだ。仕方なく、選評を書きだ である。いわば大恩人にあたる人ばかりであした。順不同で書いていく。締切りはとっくきた親としては、・あの丸暗記地獄を目分の子 る。 に過ぎている。読みあげてから一週間もたっ供にだけはさせたくないと思う。 西山美佐子 ( 長崎県 ) 「風」 実際、判断の下せない応募原稿も、たくさのに、まだ決まらないのは、新記録である。 0 リータース・ストーリイ 選・評 豊田有厘 0 読者のつくるべー ) ン 2
てねえョ」 と彼女は歔欷しながら言った。「行っちゃって。帰ってョ」 「なんだい ! 「ここにだって速報灯ぐらいあるヨ」 おれはお前に、お前が待ってるだろうと思って報せ 9 見てもいない壁面の電光板にユーラは顎をしやくった。 にきたんだゼ」 「それや分ってるサ。だけどおれはカンボ・ダウルの基地でオマル 「判ってるわヨー しいから去って」 やイマイケ達に会ってきたんだ。やつらはみんなにばくられち「ちえ、ばかにしてやがらア ! 勝手にしろイ ! 」 やったヨ。、火星人のヨーンソンもサ。やつなんか一等兵で技術兵な少年は腹をたてて、羊の角で空をつきながら行ってしまった。 のに、とにかく民間竸技に、ただ「参画」しただけでも不可ねえん残ったユーラはそのままジッと動かず、しばらく黙っていたが、 から 、としても、 コントアルにも近くにも人がいないのを見ると、手に持った空のコ だって。やつらは宇宙軍で除籍か重営倉をくうのはいし 千キュールの分け前にあづかれねえのとゼオの死んちまったの口惜ツ。フに話しかけるように しがって悄気きってたヨ。だけどお前はどうしてそれを知ってるん 「ゼオーー」 ツアイへ だ。そっちの報道ちゃ落ちた機の標識がかか読取れなかったん とひとり一一一口った。 「あんた私のためにたった一人で五千キュールも作ってくれようと 「ゼオに決ってるもの ! 」 したのネ。そしてたった一人で宇宙の果へ流れていってしまったー とユーラは投げつけるように言った。「ーーそんな無茶するの。 あの人は、私のためにレースに出たんだョ」 そう言って彼女は泣いた。しかしすぐ手巾を出して涙をふくと、 はたち 「それや知ってるヨ。だけど分んない事がひとつあるんだ」 二十歳の大人になった女のような目付で宙を見つめ、、 「私もそうするヨ、ゼオ」 「なに」 そら と続けた。「私は宇宙で死ぬことはできないから、ドームで生き 「やつはどうして航須員を取らなかったんだ ? もちろん一人のほ うが艇も軽速するから、側輪へ乗ってからの切線が切りやすい。だてたけど。私、家を飛出して、たとえ海王星のヨシワラへ流れてゆ が睡眠交替のないことはどうにかなるとしても、やつは新兵で航須くことになっても、あの不動産屋のお嫁にはゆかない。、一生、ひと を識るまい。こんなレース独りでやるってのは、よほど何べんもアりきりで生きるーーー」 ヌルスを廻った熟練翔者でなきや望めないことだゼ。やつはなぜそ そして、また言った。 うまで無理したんだろうナ。賞金の五千キュール、・ せんぶ一人で欲「それや、生きてゆくんだから、生きてるあいだは何があるか判ら しかったのかナ。そんな金銭欲のつよい奴ちゃなかったんだがナア」ないけど、あんたの嫌がったイケ好かない、お金とカで脂切ってお ューラの目から涙があふれ出た。」 腹の出つばった中年のお嫁にだけは、ぜったいならないョ , ーー貴方 のために」 「トミ、夫って ! 」 ナヴィガトール アスルス
一ページに泣いた。ほんとうに感激した。これ 藤岡正勝 ) 第三作「親殺し」 ( 何とタイム・ハラドックス ほどの感銘を受けた作品は他には、『アルジャ ! ) もすでに完成し、誌上で今後次々と ーノンに花東を』くらいしかなかった。 十月五日、毎月第一日曜日にお茶の水の喫茶大原さんの作品群は発表されるそうで、彼女独 それからまた二カ月経って「濡れた指」が載店「丘」で行っているファン集団の例特の素敵なイマジネーションの世界が構築され り、次々と、暖かい小宇宙はぼくたちの目の前会にあの大原まり子さんをお呼びして楽しい集ていくのを体験できる私達は何と幸運なことで とに姿を現わした。 いの一時を過ごしました。 しよう " ・ 彼の作品からは、優しさがあふれていた。例マガジンコンテストで入賞こそしなかつ大原さんにぞっこん惚れ込んだ私メとして ま 外なく。 たものの斬新な作風、不思議な魅力をもったは、今後の活躍に大きな期待を寄せると共に心 れ今日は片道四百一一十円も使 0 て神戸の本屋ま「一人で歩いてい 0 た猫」の作者、大原まり子から応援して行きたいと思 0 ています。本当に で出かけて来た。ぼくが新刊文庫本のコーナー嬢とはいかなる人物であるか ? 皆さんも興味素敵な人なんだからーー栗本さん新井さんもう て を見ていると、「おや ? 」どこかで見たことの津々でしようから、ここに少々御紹介したいとかうかしてられませんゾ。 あるタイトル「わあ、遂に出たのか " こ森下さ思います。 ( 板橋区板橋二ー三七ー九田沼マンション んの処女短篇集『コスモス・ホテル』がそこに まず言えることは、美人です。身長一メート 一五号室井手俊一 ) あった。収められている十篇のうち八篇をすでル六十三センチのスラリとした、由美かおると にで読んでいたのに、すぐに買ってしまアグネスチャンと大竹しのぶをたして 3 で割っ始めまして。 った。立ち読みする気にはなれなかったから。 たようなきれいな人です。美人というのは、た いやあ、とにかく、毎日話相手をもとめて苦 いま、ぼくの本棚は、春の暖かさであふれて いていどこかしらつんつんしていて冷たい所が労していたのです。なんのことかというと、僕 いる。 HA P P Y 一 あるのですが、大原さんにはそんな性格は徴塵のかよっている中学にはファンが一人もい ところで、ひとっ腹の立つのは、今年の二月もなく、落ち着いた、それでいて人なつつこい なくて ? あ、ウ〇トラマンか " がと言 特大号に彼の作品が載っていなかったこと。今ューモアのある話し方で、その言葉の端々に知った人とか、と聞くとなぜか笑う人だけう 度は必ず載せて下さい、編集部さん。それにこ性の輝きが感じられました。エレガンスというようよしているのです。 ( 岩井 " " ) の頃、彼の作品が載らない。ちゃんと載せない形容がびったりな感じです。ちなみに、今までで命を保っているぼく、いやマガジ と、読者を減らすことになりますよ。 最も感動した映画は「 2001 年宇宙の旅」ンを持って産まれてきた僕としては、とにかく ぼくの意見に賛成の人、「てれぼーと」あて「ソラリス」とのことで、数あるの中でも泣きたくなってくるのです。 ( 少しオー にどんどん原稿送りましよう。 ″宇宙″さえ出てくればとにかく大好きとのこ ことを書いてしまった ) と 森下さんは、作家を目指すぼくの一番の目標と。小さい頃は天体望遠鏡で月のクレーターば文庫を読んでいると、友達がやって来 であります。彼のファンである高校生の女のかり見ていたロマンチスト ( 今でもそのよう ) る。部屋に入るとまず、ずらあっと並んだ ま 子、・ほくと文通しましよう。ばくは現在、高校だそうです。 本が目立つので、おまえもあいかわらずスッキ れ 二年生です。 将来何になるかはまだ未定で、就職するかどダナア、と奇異の目でながめ回すのです : : : 気 て ・近くの方、・ほくと同人誌やりませんうかもわからないそうですが、これだけの人並か狂うよ本当に。一体どうして一人もおもしろ はずれた豊かな才能があるのだから、・せひともそうだなあ、と言う人間がおらないのだ " 【竜 ( 兵庫県小野市樫山町一四七五ー三一六作家への道を歩んでほしいものです。 操中には " ・