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検索対象: SFマガジン 1981年10月号
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1. SFマガジン 1981年10月号

そのくせ、レダは、ときどき自分でもわからぬ理由で、彼女を愛ども、】必ずひとつの同じ方向性があるのよ。つまグーーー《自由にな する人をー・ーわたしやファンや、あなたを、こ 0 びどく傷つけてやりたい》《自由でいたい》という、そういう見えない底流というべ 、という、強烈な衝動にかられるのだと思うわ。それはもしきものが」 かしたら、自分を愛しているものに対して、自分の力を確信したい ・ほくはききかえした。ききかえさずにいられなかった。 あなたがかえってから、しばらく、レダは、お のかもしれない という、・目・由 そろしくうわっいて、上機嫌でいたわ。でもそれからしだいに沈み「市民はすべて自由たるべき権利と義務がある こみ、自分があなたを怒らせたのではないか、と気にしだすの。 と根うわ。なぜなら、レダにとっては、そういう与え そんなことを思うのなら、はじめから、しなければいいのに、と「ちがう いうことは、レダに関するかぎりありえないのねーーーなぜなら、そられた自由は、少しも自由でなどないばかりか、むしろ、彼女の考 える自由とまったく相反するものになってしまうもの。・ : ・ : 与えら れがレダだからよ : : : レダとは、そうした存在なのよ。 れた、ということだけで、彼女は束縛されたと思うでしようね。そ そして、おそらく、性ホルモンを服用していないのに、レダがい つもわたしを求めることーーそれもそうなのよ。なろん、レダは人れがどのように完全な自由であってさえ、彼女は、もっとずっと不 よりは、多少もともと色情狂の素質はあったかもしれない。でも、完全なものであっても、自分でかちとる自由のほうを望ましいと思 それにもましてたぶん確かだとわたしが思うのは、レダに、自分自うでしよう。しかし、自分でかちとった自由でも、もっとしばらく 身についても同じその悪意、何といえばいいのか、ひとを傷つけるすれば彼女はそれを、まったく自分を東縛するためのものでしかな く、うっとうしくて、いまわしいものだ、といはじめるわ。そし ことでおのれの優位を確認しようとするのと同じ無邪気な悪意とい うべきものが、じぶんじしんに向かったときに、自己攻撃、自分をて、また、新しい自由を得ようと身をもがきはじめる。ー・・ー彼女に とっては、自由とは、そうしてぬぎすてられてゆく皮のようなもの いじめたい、自分をぎりぎりのところ。ーー体力でも、心の点でもー よ。そうやって皮をぬぎすてつづけて、あんなに、やせほそってし ーに追いつめたい、というかたちで出てくるのではないかという、 あれは、ぬぎ まった。わたしはレダをみるたびにそう思うの。 そういうことなの。 ああ、わたしはよく、レダのことについて考えるのよーー・何をしすてた殻をうしろにおいて先へ先へと狂ったようにすすんでゆく、 ていても、考えずにはいられないの。最終的に、レダだけがわたし自分でもわからぬなにかにかりたてられている大きな鳥だ、とね」 の興味のあることなのだなとよく思うの。レダは、たぶん、自分が「自分をくるしめて、ひとを苦しめたり、傷つけたりしてーーーしか 何を望んでいるのか、どうしたいのかさえ、わかってはいないにちも愛している人をーーーそれで一体、どうなるというの。何ひとつ、 ・、、ないわ : : : そうとは、ってはいないでしようけれどね。で彼女は、していることにはならないのじゃないの : : : 第一、したい も、いつも、レダのすることには、自分でそうとは気づかないけれことをして、したくないことはしないのだと、さっきアウラはいっ - 一ンプ十マ - 一ア

2. SFマガジン 1981年10月号

深い嘆息をしてぼくは云った。 アウラは楽なように、ゆっくりとすわり直し、足をくんだ。 しかしアウラのこたえは意想外だった。 「少なくとも、レダが望まないのに、わたしが欲望にかられたとい うことは、一回もないしーーレダが、望まなかったと思われること「レダにだってわかってはいないのよ」 アウラは小さくためいきをつき、つぶやくように云ったのであ を望むときには、そういうようにしてみせるけれどね : : : わたしは フミ - 一ン 完璧なちょっと珍しいくらい徹底した女性型だわ。わたしは、誰もる。 がそういうとおどろくでしようが、ただひとつのことをのそいて「レダに ? 」 こうしてレダを待つのもそう。レダの望「そうですよーーーどう思っていたの ? レダは、わたしが、そんな は、すべて受身なのよ んだようにしてやりたいと思うのも、レダの欲望をみたしてやりたふうに狂気のようにレダを愛しているなんて、ちっとも思っていや いと思うのもねーーーただひとつのこと、というのはね、イヴ。それしないわ。もしそんなことに気づこうものなら、レダは , ーーあの始 末におえない小鳥はそれこそ、わたしに不必要に残酷にふるまって、 はーーー愛すること」 わたしを発狂寸前にまで追いこんでしまうか、でなければ、うる 「わたしはとぎどき、あんまりじぶんがすさまじくレダを愛し、愛さがり、うっとうしがって、わけもなく、わたしの手の中からすり 情のありったけをそそぎこんでいるので、おそろしくなることがあぬけて逃げ去ってゆこうとしてしまうでしようね。しかも、レダが るわ。こんなに人に愛情をかたむけるのは、おそろしく不敬な、ゆああして幸福で、世間から守られていられるのは、ただわたしの腕 るされぬことではないのかしらーーそう思って。それにたしかにその中にいる、そのときだけだ、というのに」 「・ほくにはわからないよーーー」 んなに人を好きになるのは、不幸なことよ。シティ・システムが、 トナー・システムや、契約もういちど、ぼくは呟いた。本音だった。 愛情というものを、他のしくみ ートナーズ・ユニット、ビンク・ドラッグとすりかえてし「そうね : : : レダを理解することは、とても難しいわ。わたしは長 の塔のパ まったというのは、 O " O のしたことの中でいちばん正しい、あた年のおかげで、もう、レダを扱うこつは覚えているのだけれどね。 まのよいことだわ。わたしはいつもはまるつきりデイソーダーでなそれでも、レダをすっかり理解しているかどうか、ということにつ たとえば、レダ 、それこそ模範市民としてくらせるけれども、ことレダのことといては、それは、あやしいものだろうと思うわ。 な「たら、たちまち、人格そのものがかわってしまい、どんなことのあの無垢と、レダのあの悪意よ。レダは、本当にあなたがとても でもーーーそうよ、どんなひどいことでもし、どんなあいてにもかみ気に入っているし、来てほしいと思っているのよーーそれにもし、・ つき、狂ったようになって立ち向かってゆく、そんな人間になって自分が気づかずに、あなたのことを傷つけた、なんて思ったら、そ 7 4 う思うことで傷ついてしまい、ワッと泣き出して、何日もしょげか しまうでしようから」 2 えって、食事もとらなくなってしまうでしようよ。 「ぼくにはーーーわからないよ」

3. SFマガジン 1981年10月号

王宮の 事故か ? ーーー主宮の軍 ?

4. SFマガジン 1981年10月号

このさい、ラウリにきくのは論外だった。たしかにラウリには、 ふうに、レダやアウラのように《世にも孤独なしかめつ面をするこ とになるのかどうか、どうしても知りたかった。 セクソロジストのギルドに属する第二パ 何だか、何もかもわからない。 ら、そうしたことにはくわしいのかもしれなかったが ラウリに いやだめだ。何故かわからないが、ふしぎなくらい それまでぼくが見、きき、おぼえ、ともかくこんなふうなことだ は、ものごとの生命ともいうべきものを、殺してしまい、つまらなろうと、何となく考えてそれでよいことにしていたさまざまなこと 無性につまらなく、どうでもいいことにしてしまう、そんな特 世のなかとは、こういうところで、人間はこういうもので、社 性というべき何かがそなわっていることに、・ほくはしだいに気づき会とはこう、だから反社会とはこう、そんなふうに信じていたこと はじめていた。 が、何もかも、このごろ、ぐらぐらとくずれかけ、ゆりうごかさ 気の毒な、まじめ一方のラウリ、あんなに若いのに、あんなにしれそしておびやかされているような、そんな気がしてならないの である。 かつめらしいなんて ! ではミラーー・悪いことには何でもよく目はしのきく先達たるミラ これというのも、みんな、レダのせいなのだ。 ぼくはそれでも自分で何とか、この迷路から出ようと、丸一日、 しかし、それもダメだった。ミラは何でも知っているけれど、そあれやこれやと考えをひねくりまわした。 のかわり何ひとつまじめにとろうとしない。彼は何もかもからかう しかし、ダメだった。・ほくはすっかり自信を失ってしまってい し、そうしてめちゃくちゃにしてしまう。ぼくは、このことについ てだけは誰にも、何も、めちゃくちゃにされたくなかった。 五日めに、ぼくは、ごくりと生唾をのみこみ、会話レッスンの申 どうしてかわからないがこのことは、何かとても大切な、そしてしこみをキャンセルし、そして、何度も、ぼくはデイソーダーにひ かれてやしない、 と自分に云いきかせながら、 レダの家のある ごく重要なことだ、という気がする。どうしてかわからないが、こ ほうへむかって走路にのった。 んなにそう思えるからには、行為ということ、レダとアウラ、そう したことの中に、なにかものごとのーーーそう、ものごとの、ぼくの ひどくドキドキする。しかしぼくは、自分が何もこわがってなん 知らなかった、これまでまるで考えていなかったような面の真実がかいないということを、自分に証明してみせなければならなかった あるにちがいないのだ。 し、ファンとの約東も守らなくてはならない。 ぼくは誰かに何かーーー何をかはよくわからないがーーーをききた そしてまた、・ほくは、あのふだんはとりすましている人びとをお ラヴ く、行為とその意味について教えてほしく、そうして、ぼく自身もそうあのふしぎな不可解な嵐ーー愛欲について、どうしても、誰か あんなふうな、二人で近く身をよせていながら獣のようにうなりあに教えてもらわぬわけにはいかなかったのだ。 、話ーー、・人間に与えられた最上のものーーーもせず、そしてあんな このままでは、頭が破裂してしまう。どうせ、レダはからかうば こ 0 238

5. SFマガジン 1981年10月号

ぼくたちはそれ ーリアンなど、見たであった、ということは、ばくも知っている。 誰もーーー天才のスティでさえーー・ほんもののエ こともないだろうと思うと、妙にぞくそくと、満足感でからだがふを総合宇宙史の時間に習う。 るえて来るような気がした。 だから、かってのかれらとわれわれーーー市民とのあいだに《不幸 な確執》があったこと、それも、・ほくは知っているのだ。昔、かれ だって・ほくはこれまで、いつだって他の誰かからはっきりと・ほく を区別し、かけはなれた存在にする何かをもっていたことなどなからがその家族を地球においたまま、宇宙へ出てゆき、また戻ってき ったのだからーーーラウリのいうとおり何にでも平均点の・ほく、ステていたとぎ、この星は、かれらにとって、ホームであると同時に敵 イのように天才でも、ミラのようにスポーツの選手でも、イーラののーーー敵というのが少し云いすぎなら、少なくとも互いに理解しあ えない人間の住むところでもあった。 ように美しくもない・ほく、すべて「 : : : より : : : しない」マイナス の方向でだけ、ぼくの・ほくであることを見つけ出さねばならなかっ そして市民もまた、かれらに対して、きわめて錯綜した感情を抱 た、気の毒なイヴ。しかし、スペースマンを見、ことばをかわしたきーーというのも、独自の行動律と規範をもち、シティのそれに自 のは、そのかれらの誰でもない、 この・ほく、当のイヴだったではならをあわせようとしないかれらの存在は、このすぐれてパランスの とれたマザー・シティ・システムを、たえず根底からゆりうごかす ( そう云ったからといって、その本人がスペースマンだとか、スべものにまぎれもなかったからだがーー・そのたがいの緊張関係は、し ースマンになれることを発見した、とかいうわけじゃ、ないと思う だいにたかまり、はりつめたものとなってゆき、一触即発の危機を はらんだ。 んですがね、同期生イヴ ! ) そして、ベガサス 8 、アンドロメダ、メディア 9 など、 ミラならば、そんな意地のわるい、しかも表面上は完璧にカン・ハ 一一クソダ セーションのルールにのっとった皮肉で・ほくをやつつけようとする かの宇宙船の不幸な事故や誤解や反乱を経たのちに、ついに《大離 だろうが、それでさえ、ほんとうのスペースマンをみた、という事脱》が行われ、スペースマンたちは、そのファミリーごと、地球を 実の前には、色あせてしまう。 すてて放浪の民となったのである。 まったくのところ、スペースマンについて、どんな野放図な臆それから何世紀の間《上》人と《下》人とは、何回も戦いや危機 測、想像がたくましく市民たちにめぐらされていることだろう。びや和解をくりかえしはしたがーーースペースマンたちは地球をすて、 つくりしてしまうくらいだーーーまた、かれらは何ものなのか、とい あるいはどこかの星にすみついてほんとうの異星人となり、あるも うことについても : のは巨大な宇宙船そのものをすみかとするようになって、いまなお たしかなのはわかっていることだけだ。スペースマンたちが、そそのままでいる。 のギルドをすべて地球上からひきあげ、自らエーリアンとして新世最終的な和解ーーあるいはいまのところ最終的と見られている妥 「ひとつの正しく確実な表現は百の誇大な形容詞にまさ 界をもとめていったこと、つまり、かってはかれらも同じ地球人類協が 228

6. SFマガジン 1981年10月号

「これはあることを証明しているー - ー、適合人間はまったく当り前のの単位として働くことが可能だったーーっまり普通の仕事なり絵を 生活を営むことができる。町一番の金持ちでかわいい娘と結婚する描くなりーーあるいは本来の目や手を休ませている間に、本を読む ことさえできる」 こともできた。普通人の二人分以上に働けた。 マリオンは眉をひそめた。「かもしれないわね。でもーーーおねが「なるべくしてなったことです、ハントさん」とジミイが言った。 、、ハント、次の子供のことはもうすこし考えたいの」 「なんといっても、適合人間が実験室を出てから、もう五十年以上 わたしはずっと妻をせつついていた。ジミイの成功を見るにったっているのです。ぼくたちは、適合人間こそ人類が受け入れるこ とのできる唯一のスー け、次の子供を適合人間にしたい気持はさらにつのっていたのだ。 ーマンでありーーー人間の血と肉でできてい ーマンです , ーー誰でもその両親になれる、ということ つまり、手術のあとでジミイが話してくれたことは、わたしには納る類のスー 得できるものだった。 を実証しつつあるのです。 カービイ医師が手術したのはほんのわずかだけだった。ジミイは 母体にほどこす手術は手順の定まったものです。妊娠後まもなく 骨片を脳の表層に押しあげておいたのだ。彼が話してくれたところ制御された放射線を照射します。その時までには胎児は着床してお によると、適合人間協会では精神力学の講座もあるのだーー宇宙でり「分化していない部分にまだ干渉することができます。ミスはあ は医者の数は多くない。 りません。 「ぼくたちはとても特異な存在です、ハントさん」と彼は言った。 それに、こう考えてみてください。アラブ人たちが太った女性ほ 「でも、人類の世界というのはみんなそうでしよう。木の上から降ど美しいとみなしーーアフリカのある部族が皿のような唇をした花 りてきて以来、人類がどんなに変化を持ちこんできたか。都市、衣嫁を珍重するならーーー」 服、食事ーーーどんなものでもです。自分たち以外のすべてのものを ジミイはおなじみの控えめな笑顔を浮かべ、二組の肩をすくめ 変えました」 今や人類は自分自身をも変える仕度ができたのだ、とジミイは説 だがその晩、結婚式の招待状が配達された時に、ウォ 1 シントン 明した。人類は機械装置を巧みに造りすぎたので、機械のほうが人のあちこちで、かなりまじめに考えた人たちがいた。 間の追いつくのを待っている始末だ。みずからの自動化世界のダイ それまでは、ジミイは一時的に住んでいる人間にすぎなかった。 ャルをあやつるために余分な腕を生やした。自分の機械が蓄積する根なし草だ。いまや、われわれの一員になろうとしている。父であ 尨大な量のデータを処理するための補助脳。見、読み、調査し、補 り、世帯持ちであり、一人前の市民である。 助脳にデータを供給するための予備の目さえ。 それに、その子供 : ジミイが働くところを見ていたわたしには、そうしたことへのうそれからの一週間、わたしは自分がジミイを憎悪していると考え たがいはなかった。第二の手ー目ー脳の組合わせは、ま 0 たく別個ていた。言うまでもないが、適合人間がきちんと子を宿すことは稀

7. SFマガジン 1981年10月号

女はいつも、自分がどう見えるか知らないわ。とても美しいわ、とたよけいなことを云うと責めようとも、顔いろひとつ、かえようと はしなかった。 鏡をみて云っているときと、地だんだをふんで、『なんてみにく ちっぽけな、やせつぼちの小蛇でしよう ! 』とわめきちらし「どう云えばいいのかしらねーーーそれは、微妙な問題なのよ」 て泣いているときとあるわ。でも、わたしにはーーーわたしにとって「ごめんなさい。もしぼくが、逸脱をしたんだったら : : : 」 は、いつだって、レダは美しいの。どんなビューティフル・・ヒープ「そうしゃないのよ。わたしは、ちっともイヤじゃないの。たたー ーとても、話すのに、むずかしいことがらでーーーそうね : ルよりもよ : : : 『美はそれを見つめるものの目の中にある』 れは古いことばだけれど、わたしは、何ごとも規範づくめの世の中 たとえばね、イヴーーあなたは、信じられるかしらね ? わたし に、これ以上ない美しい真理だといつも思うわ。わたしは、レダが はいつも性ホルモンを定期的に服用しているし、レダは一回もして ・レダがよろこぶのが何よりうれしい かわいくてならないのよ・ いないの。それでも、いつも、求めるのはレダの方だ、といったと の。レダが苦しむのが、何よりいやなの。レダのためなら、何でもしたら」 してやりたいし、レダのようなものは他に二人といないわ。わたし「 : ・ は、レダのことをみにくいと思って見たことはいちどもないの。わ ーつでもレダはとても、とても、かわいらしく、 たしにとってま、、 信じられる、信じられないよりもさきに、それはあまりにも、・ほ 美しく、わたしの本当の子どものようなものなのよ」 くには理解しがたいことがらでありすぎた。 ぼくは黙っていたが、それは、何といったらよいのかわからな 思いきって、ぼくは、喘ぐように云い出した。 という、単純な、実に単純な理由でしかなかった。 「そんなに、レダが大切なのにーーそれなのに、何故あんなことを しかしアウラは、・ほくのその沈黙を、非難か、嫌悪とでも、とつ、 たのかもしれない。 ああーー・云ってしまった。 「こんなことって、健全な市民には、とてもおそましいことだわ そう思うと、とたんに、いくぶんスーツと心が楽になった。口にね。別の話をしましようか ? 」 出してしまうと、それはいくらか、その触れがたさ、このあいだの 「しいえ、いいえ ! どうか、つづけて下さい、アウラ・ザンペ ィー ぼくの間のわるさ、を救ってくれるように思われた。 ・ほくは、あれからずっと考えていたんだ、ラヴということ、 「そうね、イヴ」 どうして人は、そんなことをせずにいられないのかとか、それに : そうね、というのが、アウラのロぐせであるらしかった。アウラ だろうと はゆたかな髪をかきあげ、どう答えようかと、ことばをさがすふう「わたしは、少しも、そんなものに悩まされはしない だったが、ぼくの思っていたようこ、 冫パッと態度を硬化させも、ま思うわ」 こ

8. SFマガジン 1981年10月号

に・ほくの手をなめた。一 、・ほくは、奥の室のドアをあけて、こちらへ出てくる音をきいて、 「ほんとに、また来るんだよ、ポーイ。それもなるべくすぐにねー あわててドアの外へ出た。ファンが、のそのそとついて来た。 2 ーこの家は、レダの家だが、わたしの家でもある。レダやアウラに 「すまないことをしたね、ポーイ。そのうーーーかれらは悪気じゃな い。ただ、きみのような存在とはあまりにもちがってしまっているでは会いに来づらい気持でも、わたしに会いにくると思えば平気だ : かれらを、こんなことで、嫌わないでやつろう ? また、わたしと話をしてくれるだろうね、ポーイ ? 」 というだけなのだ。 「もちろんだよ。あたりまえじゃないの、ファン」 てくれるね」 「よかろう。では、わたしに会うために、ここへおいで」 「もちろん、ファン」 ・ほくはステーションまで歩いていった。曲がり角のところでふり ぼくの声は、少し不確かだったかもしれない。 かえると、まだファンは立っていて、黒いシルエットになりながら ファンの目がじっとぼくを見た。 じっとぼくを見おくっているところだった。 「ポーイ。しし力し また、来てくれるだろうね」 ぼくの胸はしめつけられた。忠実な、愛情深いファン、ぼくの友 「ここへ ? 「いろいろなものを見ずにビ = アであるのは、たやすいことだよ。達ー しかし、ステーションにのりこみ、ぐんぐんと走路が居住エリア 肝心なのは、あらゆるものを見ーーーしかもなおかっビュアであるこ とだ。わたしはきみにそれができるかどうか知りたいし : : : 人間がヘむかっての・ほりはじめるとき、ぼくの胸には、いつばいに、白くの イヌにまさるところがあるとすればまさしくそこだからね。それけぞった二つのからだーーーあやしい錯綜したオ・フジェを形成してい たふたりと、そのふしぎなうめき声、そして、ぼくをみたレダの銀 に、いろいろなものを見るのは、きみにはいちばんいいことだよ。 いろの目の勝ちほこったような悪意にみちたきらめきと、「ハ レダの家はきみのためになる。そうわたしは信じるよ」 ! 」というすさまじい彼女の哄笑ばかりがひろがり、ユ 「ぼく、いろんなものを見なくてはいけないらしいよ」 ニットについてもなお、それは少しもうすれさえしなかったのたっ ・ほくは、ラウリが・ほくのために組むという例の特別。フログラムの 話を、ファンにしてきかせた。 「人が見せたがるものには、おおむね見るほどの値うちはないもの さ。人が見せていると気づかないものに、、ちばん見る・ヘきものが あるね」 というのがファンのこたえだった。 もちろん、また行くよー・ーファンは、ぼくに、レダやアウラに会 ファンはいつもせいぜいドアのところまでしか来ないのに、このうのがイヤなら、ファンに会うためにレダの家へやって来るよう 日はわざわざ、庭をとおりぬけ、門のところまできて、考えぶかげに、と云い、そしてぼくはファンにそう答えたのだった。 こ 0

9. SFマガジン 1981年10月号

転川鬮地 嶐要賊進量 鼬・變鬮量誠肌 賊世報鬮 第、物Ⅲ贏ⅲ川ⅢⅢ も、つじキ」 宙港です ト多重 予知夢 ーーー宙港の 宇宙船の ホーム近く とび降りる から どうも 思っていたより 事態は急変 切迫している しかし = = ? フとおりに , ーハ

10. SFマガジン 1981年10月号

る。 うに、肩身のせまい思いなんそしやしないのにな」 「わたしに手があれば、何か薬をさがしたり、せめて、何かのむも 「ご好意はありがたいが、船長。私はこのとおりの存在なのだか のをあげられるのだがね」 ら、このとおりの存在として生きるほかないと思うね。このシティ 「その子はレズどもの現場をみて、目をまわしたんだろ。それな もまた、わたしをこのようにあらしめているひとつの要囚なのだか ら、つよい酒でも一杯、きゅっとひっかけて、正気をとりもどすの ら」 「おれにいわせりゃな、ファン、そいつはまったく・ ( カげてるとしがいちばんてものさ」 か云いようがないよ。ばかげた強情ってものだなーー本当は何ひと「船長、少し黙っててくれないか」 ファンにしては珍しいほど、つよい語気という・ヘきだった。 つ、こんな手前勝手なシティのやつらに義理立てするいわれなどな 「ぼくーーーどうしたの、ファン」 いんだから」 冫だな、船長ーーおお、ち「きみはね、ポーイ、ちょっと貧血をおこしたんだよ。それだけの 「それについては再々云っているようこ、 ことさ」 よっと待ってほしい、ポーイが気がついたようだ」 「貧血ーーーでも、どうして : : : 」 それでは・ほくは気を失ってでもいたというのだろうか ? ゆっくりとファンのばたばたいう足音が近づいて来、しめ「た鼻「ふむ、いろいろなことが、あまりたてつづけにおこりすぎたの さ」 づらがそっと・ほくの頬におしあてられた。・ ファンはあの、さっき・ほくの見たこと・・ーー・・アウラとレダの、あや 「気分はどうだね、ポーイ」 「う : しいからみあいについて、話をしたくないのだ、とぼくは思った。 : うん」 それは、少し不満だったが、しかし、これまで何ひとつ、ぼくに 何だか妙にぐったりとした気分だったし、吐きたいような、めま いがするような、それに妙に恥ずかしいような気持がした。病気なかくそうなどとしたためしのないファンがそんなふうにするのな どというものはシティには存在しないたてまえになっているし、もら、それはよくよくのことなのだろうし、そして・ほくは、たとえイ し具合がわるくなったりすれば、またたくまに大きな市の総合病院ヌであろうと何であろうと、ばくの友達が話したがらぬことを、む りやりに話させたり、話したりする気はなかった。 へ収容されてしまう。だから、シティで、具合のわるい人間など、 もちろんそれはシティでの対人関係の第一のエチケットでもあ 見たこともない。 る。しかしそのためだけでなくて、ぼくはそんなエチケットがなく 「ぼく、何だか、とても妙な具合なの、ファン」 てさえ、ファンのいやがることをするのは、とてもいやな気分だ、 「それはどうも困ってしまった」 5 いったんとじていた目をまたあけると、目のまえに、誠実なやと思っただろう。これは奇妙な体験だった。ぼくはそれまでずつ 2 さしい大きな犬の、黒ビーズのような目とボタンのような鼻があと、ほんとうに小さいときからつねに教えこまれつづけてきたとお