が、その先つぼがかすかに痙攣しているのは、また眠っていない証少女はそう言って頬も彼の毛皮にこすりつけてきた。 「おまえさんの父親にどやされるよ」 少女は大きな黒い目をさらに大きくして、猫の背中を見つめた。 「父はいま、遺跡よ。心配ないわ」 そして短くなった煙草を投げすてると、そっとまた猫に忍びよりは猫は憮然として少女の幼ない顔を見つめた : じめた。一歩、二歩、三歩 : 「なんだって、このマセたガキめ ! 何が心配ないわ、だ ! 」 そして猫の尾をつかもうとした瞬間、少女のからだはふわりと宙猫は少女の・フルーの腰布をつかむと、宙にぶらさげた。 に浮き、猫に抱きすくめられていた。 「いや、おろしてよー ・ハカ猫 ! 」 「さあ、つかまえた ! 」 少女は手足を・ハタつかせた。 少女は胸を圧迫されて、ふうっと息を吐いた二 なぜ腰布をつかんだかというと、それしか少女は身につけていな 猫はハッとした。 かったからだ。・、、 カその布はよほど弱い生地でできていたに違いな 少女は苦痛の呻き一つたてなかったのだ。ただ、背中の筋肉をこい。次の瞬間、それはビリビリとひどい音をたてながらやぶれ、少 わばらせ、身をよじったのたった。猫の鉤爪が少女の背中を傷つけ女は生まれたまんまの姿で床の上にぼとりと落ちた。 ていたのである。 「あーっ、猫が脱がせたあ ! 」 アジャセ 「阿闍世、すまない」 少女は。ヒョンビョン跳ねながら叫んだ。 猫の頭は完全に覚醒していた。珍しく動揺していた。 「おまえは : : : 根本的に、羞恥心というものが欠けているんだ」 少女のうすい白い背中に鮮血がにじみ出している。 猫はタオルをもって少女の白いお尻を追いまわした。 「だいじようぶよ、もう止まった」 少女はしかし、肩からポシェットのようにぶらさげていた小さな 少女は花が開くように笑った。 皮袋のロを開くと、中のものを猫めがけて投げつけた。 猫は少女の身体をひっくり返すと、傷口を舐めはじめた。少女は 猫は急に全身が痺れるのを感じた。それは決して生理的に不快な おとなしくしていた。おそらく体重は猫の三分の一にも満たないだ感じではなかったが、妖精のようにすつばだかのまま小踊りしてい ろう。 る少女を見ていると″してやられた″という感覚がわきおこってき 「阿闍世、すまなかったね。でも眠り猫を起こしたりするものじゃ、た。 ない」 少女は悪戯つばく笑った。 「それ、マタタビなの」 少女はばら色の小さな乳房を、猫の強靱な腹筋をおおっている二 段腹に押しつけた。 「ふわふわしていていい気持ちだわ」 彼らは遺跡の学術調査をしている。 アジャセ 4 7
舞台はアル・フス山中の山岳ホテル。近くの山る。だが結局、彼の行動の規範はヒ、ーマニズ送りだすしかない。かくして十四歳の少年少女 6 で遭難した登山家の幻霊が出ることを売りものム、正義、人類の進歩を妨げるものの否定とい六人が危機に瀕した未知の惑星にむかって旅立 8 にしているホテルで、連続殺人事件が起る。雪ったものに支えられていることがわかる。人工っ : : : 宇宙冒険もの。ジュビナイル。 崩で外界と遮断され、一種の密室状態。たまた頭脳とロポットを扱った作品、画面は悪くな『宇宙の少年たち』スタッフ、キャスト共に前 ま泊り合せたグレ・フスキ刑事が事件の解明に当 記の作品と同じ。『モスクワ・カシオ。ヘア座飛 行』の続篇。 るが、不可解な泊り客の奇妙な行動と支配人が『モスクワ・カシオペア座飛行』製作日ゴー 仕掛けた幻霊のトリックがからんで状況は混乱リキースタジオ。脚本いアヴェニール・ザーク、子供たちが到着したカシオペア座アルファ する。最後には泊り客の奇妙な振舞いが、地球 星、シェルダが舞台。その惑星には人間と高度 の環境で生きられるよう人間に擬した体 ( 乗物 ) な文明が存在した痕跡が認められた。だが今は 恐るべき悲劇にみまわれている。つまり、本来 を宇宙人が操っていることがわかる。だが、結第 局宇宙人を利用しようとした悪党の組織によっ は人間に仕えるべきロポットが、人間に反抗し て、脱出をはかるかれらは全減させられる。そ たばかりか、かれらを支配し自分たちに似せて の原因の一端は、常識的な思考の枠から出られ 人間をロポット化してしまったのだ。愛、良 なかった刑事にもあったのだ。ミステリ仕立て 』心、創造といった感情や能力を奪われたその惑 の〈接触〉もの。 た星の人間たちは、文字どおり口ポットのように 『双子座のもとに』原作はイーゴリ・ロンホ : - ′年生ける屍となり、思想も目的もなく生き、子孫 ワッキーの長篇「客』。製作日モスフィルム。 のすら生まなくなっていた。だが、就道上の電波 監督 " ポリス・イフチェンコ。脚本 " 原作者と 宙観測船にいたわずかな人間だけはその悲劇を免 イワン ・ミコライチューク。撮影日セルゲイ・ れたのだ。彼らの送った信号でやって来た地球 スタセンコ。美術 = ニコライ・レズニク。 の少年少女たちは、協力してロポットと闘い ソビエト科学アカデミーの総合研究所は、ヤ 人間を解放する。ューモアとファンタジーにあ ヴォロフスキー教授を中心に、生命の合成に成 ふれた極めて上質なジュビナイル。こうい う作品が日本で公開されてもいいと思うのだ 功し、知性を備え自己成長をする人工人間を作 が。両作品ともキャストはモスクワの小学生た りだす。シゴムと命名されたその人工知性は研を第み 究所を脱出し、人間の妨害をくぐり抜けて、理′・を〕、 ち。この作品は第十四回トリエステ国際映 解しがたい行動をとる。動物園の檻から動物をイサイ・クズネッオフ。監督日リチャルド・ヴ画祭で〈銀の惑星〉賞を獲得している。 解放したり、ロケットの装置を分解したり、まイクトロフ。撮影日アンドレイ・キリーロフ。 他に、ソ連の代表的作家、レオーノフの作品 たロポットを自分の支配下に置くといった、人力シオペア座のある惑星から信号がとどく。を映画化した『マッキリー氏の逃亡』がある 間に反抗的ともとれる行動をとるかと思えば、解読すると、その未知の惑星で文明が減亡の危が、これは前に詳しく紹介したのでここではは 一方、不治の病に罹った少女を救い、麻痺にか機に瀕しているという。カシオペア座まで往復ぶく ( 本誌七七年十一月号 ) 。 かった科学者を治したりもする。 , ついにはに二十七年の歳月を要することがわかってい 次に紹介するのはまだ出来上ったばかりの最 を自由に支配して世界に大地震の発生を予告する。救助員が地球に生還するためには、子供を新作だが、作家フセヴォロド・レーヴィチ
猫は煙を大きく吸い込んで咳込み、重そうに片方のまぶたをあげ「いつまでねてんのよ、ぐうたら猫 ! 」 少女は猫の鼻先に顔をよせて、思いきり、あかんべえをした。猫 はそのか・ほそい身体をつかまえようとしたが、太い腕は空を切った 半裸の少女は含み笑いをした。」 だけだ。 「このクソガキめ ! 」 少女はビョンビョン跳ねながら、煙草のけむりをへや全体に充満 猫はだぶだぶのアゴを震わせながらうなった。 させていった。 少女はお・ほえたばかりのタバコを、ぎこちなく吸いはじめた。 「おい、チビッ子 ! この宇宙船にはな、四ダースも人が乗ってる 「私には嫌煙権と同じく、嫌人権もあるんだからな , んだ。誰にだって嫌人権はあるし、。フライ・ハシーを守る権利だって 猫は血の凍るような声でそう言った。 少女はまるで妖精のようにヒラリと一回転してみせると、ふかしあるんだぞ。さあ、出ていけ ! おまえの顔なんざもう見たくもな ただけの白いけなりをふうっと猫の顔に吹きかけた。猫は目を閉い」 猫はごろりと横になった。長い尾がペッドの下にたれている。だ じ、神経質に首をぶるんと震わせた。 = 盞掌ー
イク “とはいえ情緒纒綿だったのに比べ、確かにナた。対語としては″ロック少年′がある。と音楽 ) のスタイル。渋い演奏だ。 ウくなっている。どーでもいいが、原作の方もかく、いつもの場末の三本立て映画館では この特集の最後を飾る曲はポプ・ウエルチ をテレビで観たときに、子供心にも、どうしありえない光景だった。 の「四〇一便の亡霊 ~ The ghost of flight てあんな地下道に怪人ひとりで・ハイ・フ・オル さて、お次に紹介するのは、アメリカン・ 401 」で、『スリー・ ーツ ( 3 Hearts) 』 ガンが組み立てられるのか、だいいち地下かロックの大御所ニール・ヤングの『渚にて』 CØO- 一一九〇七 ) 。実は、このお話、実 ら「トッカータとフ 1 ガ」かなんかが鳴り響というの中におさめられているズ・ハリ 話ということで出版されている。「生きてい いてきたら気がっかれないはずはないじ る幽霊飛行四〇一便」 ( ジョン・・フラー トニオ・「ライフ・イン・ザ・フードチェイン』 やろーに、と疑問に思ったもんです。し 著、阿刀田高、長部三郎訳、ワニの本ペ かし、級ホラーとは、あの御都合 ストセラーズ発行 ) がそれだ。著者のフラー 主義がいいんじゃという説もあるから、 は、アメリカのドキュメント作家で、「マネ あまり何も言えまへん。ところでその会 ・チェンジャ 1 ズ」「さびたナイフを持っ 場の映画館、ロック少女に占拠されてい 外科医・アリゴ」 ( 消毒も麻酔もせずに奇跡 て、妻かった。ファン、ホラー・フ の手術をするといわれているプラジル土民の アンらしいのもいたのかもしれんが、そ 医師に関するドキュメンタリー ) 「聖アント んなのわからんくらいロック少女が多か ニオの炎が燃える日」 ( に関するル った。そして、主人公が麻薬を鼻から吸 ポ ) 、「破壊寸前のデトロイト」 ( 原子力も ったりするシーンで、拍手が起こるん の ) 、「熱病」 ( ラッサ熱に関する本 ) などを だ、これが。まあ本当に、反体制は彼女 著している、いわゆるを科学屋さん。どの たちの心の中に生き続けているんだなあ 程度の信頼のおけるライターなのかはわから とびつくりしたのを今でも覚えている。 ない。本書の中でも、「私は冷静なジャーナ をロック少女つていうのは、要するに リストとしてこんなことは信じたくない、 日常生活において、ロックのレコードを が、しかし : : : 」という常套句がふんだんに 聴くこと、コンサートを観に行くこと、 飛び出してくる。お話は単純。一九七一一年十 お目当てのミュージシャンと寝ることの三つ「吸血鬼の・フル 1 ス」。このはちょっと二月二十九日の夜、イースタソ航空自慢のジ しか考えていない女の子のことで、業界用語古くて七四年に発表されている。歌詞は、もャンボ・ジェット機ロッキード L1011 、 ではグル 1 ・ヒーとも言う。独特のメイク、フろに、 - 「おれは吸血鬼だぜ、ペイビー」。タトライスター・ジェットによる四〇一便が、 ブッション、小道具、アクセサリーで身をかイトル曲の「渚にて」は、ネビル・シュート 乗客百七十七名を乗せてマイアミ郊外に墜 ため、普通人が近寄りにくいある種の雰囲気のとは無関係。いわゆるオーソドックス落、言一名が死亡するというジャンボ・ジェ を持っている。最近とみに減少してしまつな・フルース ( 十二小節ワン・コーラスの黒人ット初の遭難事故のあと、このために死亡し てんめん 2 ー 3
この生物の一番安定したところーー両肩ーーに自分の居場所を定めさ ! 」 ゼナ人の一人はパラボラのような耳をくるくるさせながら、そ こ。ほうけ頭はふわりと飛び上がり、猫の背につかまった。 少女はサイレンのような悲鳴を上げると脇へ逃げ、非難に満ちた言った。 目つきでまっすぐ翼を見上げた。 「それとも、さいしよっからぶつこわれる計画だったのかな」 その激しい嫉妬を含んだ視線に気がついて、ほうけ頭はもやもや のちに判明したことだが、遺跡は実はひとかたまりの物体ではな した一つの予感を感じた。おそろしく人間的な、喧噪にみちた、ぐ く、ユニットと名付けられた小さな個体が無数により集まって、出 ちゃぐちゃと複雑にからまり合うドラマの始まりを。 来あがっているのだった。そして専門家の研究によると、ユニット ほうけ頭は生まれて初めて、期待に胸がおどるのを覚えた。 どうしの接合の弱いところ、所によっては空洞になっているところ さえあったらしい。そういう所は全体にまんべんなくあって、おそ 7 らくそれが脆性崩壊を招いたのだろうという。まあ、そんなことは アジャセ 猫は阿闍世をひきとった : 遣跡が脆性崩壊を起こしたのは、その三日後のことだった。一 少女ばエルトロスという姓が気に入ったようすだった。のちに、 運悪く、その時遣跡で調査を行っていたグルー。フはほとんど助か アジャセ らなかった。その長い死亡者名簿の中には、阿闍世の両親の名前も阿闍世は彼の養女ではなく、正式に妻として迎え入れられることに なる。 含まれていた。 エンジェル・キャット ほうけ頭は脆性崩壊が起こる二分前に、遺跡の表面に次のような 猫ーーー天使猫は、一週間、かたときも少女のそばを離れよう としなかった。少女ははじめ口をきかず、やがてしくしく泣き始め機械語が刻み込まれるのをヴィジ・スクリーンで見た。」 た。そしてヒステリ ーのような発作がおさまると、もう涙も涸れはて 他の仲間は、もう大昔にこの地を去ってしまったので てしまったのか、大きな目のまわりにくまをつくって、宇宙船の中を とても寂しい。私の生きがいの一つだったのだからね、一 徘徊する姿が見られた。猫は必ずそのすぐうしろについていった。 彼らの攻撃は。連中はどこかよその星系で帝国を築いた 今もって、遺跡がなぜ脆性崩壊を起こしたのかは明らかになって らしい。ほうけ頭よ、元気に飛んでいるのかね ? この いない。ただ、遺跡をつくった連中は、きっかり十地球年間だけ何 ートナーを見つ メッセージが見えるかね ? 誰かいし / 者かに向かって巨大な看板をかかげ、そして取りこわしてしまった けたかね ? というわけだ。 「おそらく契約有効期限が切れちまったんだろうよ。お宅様の銀行 不具のアディア。フトロン・クレア、 口座の残高では、広告料をお支払い頂くことができません、てわけ . ウ、ールトへ . - アジャセ 7 7
猫は吐きすてるように言ったが、同時に少女のふわふわした頭を「、 し、いや。・ : : ・私は猫族だ」 軽く愛撫してやった。人間の子供というのは、・ とうしてこう弱々し翼だ。翼が彼に質問をしてきたのだ。 くて甘えん坊なのだろう。そしてなぜ、こんなにかわいいのだろ少女はおびえきって、猫の毛皮につかまっている。あまりきつく 引っぱるので痛いのだが、そんなことは気にしていられない。 その時だった。一 デハ、オマエハ生物カ ? 猫はヴィジ・スクリーン上に何か異変を感じて、倍率を上げた。 「そうだ」 最初、それは白い、チラチラ動くものにしか見えなかった。しか猫は心臓がはり裂けそうな興奮を必死でおさえながら答えた。 し像を拡大してゆくにつれて、しだいにその姿形もはっきりしてき翼はしばらく何も言わなかった。激しい緊張にたまりかねて猫が 身震いした時、ようやく翼が返事をよこした。 猫は興奮をかくしきれないようすで唸った。 ョロシイ。はっちヲアケロ。 「天使の翼じゃないかー 猫は言われたとおりにした。 少女も目を見はってスクリーンに釘づけになった。 天使の翼は息もたえだえといったかっこうで飛び込んで、床の上 天使の翼は星の海の中でひとり、華麗な舞いを披露していた。とでのたうちまわった。すぐに空気が満たされ、エアロックの扉が開 きおり、それは遠い恒星の光をぎらりと反射して、しろがね色に輝いた。 いた。猫と少女は、そのあまりに異質な美しさに、息を呑んだ。 翼は、あの宇宙空間での壮麗な舞踊からは想像もっかない奇妙な 猫は船をそろそろと翼に近づけていった。調停者の定めた汎宇宙歩き方で、ヨチョチと猫に近づいてきた。それは黒い頭部と、一本 法によると、天使の翼は第一発見者に所有権が生じることになっての足しかないのだった。 オマエガ猫カ ? 翼も船に気がついたようだ。ひらひらとまるで白い蝶のように近通信器を通さない声がたすねた。 寄ってきた。 「そうだ」 猫が言った。 「このあたりには多いと聞いてはいたが : : : 」 信じられないといった口調で猫がひとりごとをつぶやく。 翼・ーーほうけ頭は、直立二足歩行の巨大な赤猫を観察した。どう ノイズ その時、突如、通信システムがオンに切り換えられた。雑音がサみても、それほど利ロそうには見えないが、・ ( ートナーとして不足 な点はどこにもない。それこ、、、、 1 とひどい音を立て始めた。そして金属的な声が飛び込んできた。 冫ししカげん、彼も孤独な旅には飽き オマエハ、調停者カ ? はじめていたのだ。 猫は心臓を凍った手でつかまれたように、とびあがった。 ふん、ひとつ、この生物と組んでやろうじゃないか。彼は思し
ているようだ。猫は発進ボタン ( らしきもの ) に手を触れた。そのと 遺跡はあまりに広大だった。 たん船はカタバルトを飛び出し、母船からぐんぐん離れていった。 それは宇宙空間に。ほっかり浮かんでいるのだ。まるで巨大なフッ トボールのように浮かんでいるのだった。一番長い横の線は八〇〇猫はとなりのボタンを押した。 突然、意識が遠くなり、彼は失神してしまった。一 万キロ、中心部の直径は二〇〇万キロ近くもある。 、くつか深い溝が刻まれており、刻一刻とその形かすかに煙草の香りがする。猫は耳を倒したまんま、首をふつ」 その表面には、し を変化させてゆくのだった。それが何を意味するのか、まだ解明さた。しったいいつ、はいり込んだのだろう ? れていない、ただ、同行している三人のゼナ人は、それそれ別の場「アホ猫」 所で同時に " これは広告である。と言明した。ゼナ人は直観力にすきんきら声が頭蓋の中を駆けめぐる。 猫はうすく目をあけた。 ぐれた種族である。 猫はベルセウス腕地区専門の言語学者・文学博士だった。彼阿闍世がいたーー今日は紫色の派手な腰巻きをして。 は、ほとんど現場へ降りようとはしなかった。何よりも安全でいる彼女は煙草を吸っていた。 「ほうら、先から出るけむりとフィルターの方から出るけむりと、 ことを好んだし、だいたい宇宙船に乗り組むのだっていやだったの だ。彼はほとんど毎日、立体写真や三次元ビデオをながめてくらし色がちがうでしよう ? 白い光のそばで見るとよくわかるわ」 少女の母親は形態論理アカデミーを首席で卒業した超一流の科学 ー・シャンビニョン トウルスドー・オ 健啖家で、好物はひれ牛肉のキノコそえだった。それは彼が船室者だ。この子も非常にすぐれた観察力と感受性を備えているーーま だ十三歳だというのに。 に持ちこんだ万能調理機でさえ、四十分もかかるという、手のこん だ味つけの料理なのである。 「いったい何が起こったんだ ? 」 毎日、妖精のようないたずら少女が、彼の大切な陶製の皿をひっ猫が呆けた声でたずねた。 少女は脳天をつき抜けるような声で嘲笑しはじめた。 ) くり返してやろうとやって来た。彼女の父親は調査隊の隊長で、ス ポンサーである調停者政府の高官でもあったから、猫は何も言わな「押すところ、まちがえたのよ。ワ 1 プーしやったの、もう遺跡も いようにつとめていた。まあしかし、二人とも互いに気をひかれる見えないわよ」 ところがあるのは確かなようだ。要するに仲がよいのである。 猫は大きくため息をついた。こんな小さな船にワーゾがついてい そうしたある日、猫は急に思いたって、小型宇宙艇を借り出しるなんて。 た。遺跡を遠くからながめてみたいと思ったのだ。 少女はいつの間にか猫にすり寄ってきた 猫は怠情な生活でかなりぜい肉がついており、ぶよぶよの体驅を「いいじゃない。たまには宇宙でデートをしてみるのも ? 」 「マセたガキだ」 狭しシートに押し込むのに苦労した。操縦のしかたはまだ頭に残っ アジャセ 5 7
② 30 ②の 0 ・①・ 00 ② 研究に「ディーダラス計画」 (Pro 」 ect Daedalus) の名が与えられたのは、一九七 四年になってからのようだが、提案者は誰 かわからない。 多くの方が御存知たろうが、ディーダラ スとはギリシア・ローマ神話に登場する名 匠、発明家、建築家、彫刻家の英語読み で、一般にはギリシア語形のダイダロス (Daidalos) の方で知られている。 ダイダロスは弟子 ( 従弟 ) のタロースが 自分以上のエ匠になるのを恐れてアテーナ イでこれを殺し、クレータのミーノース王 のもとに身を寄せていた。ミーノースの妻 パーシバエーはポセイドーンの怒りにより 牡牛を恋し、ダイダ戸スの造った木の牛に 入って牡牛と交わった。その結果。ハーシ。ハ エーが産んだのが牛頭人身のミー / ータウ ロスで、 ミーノースはダイダロスにラビュ リントス ( 迷宮 ) を造らせて、この怪物を 幽閉した。ミーノースの征服したアテーナ 図 イから毎年 ( 三年毎、九年毎の諸説有り ) 七人の少年少女が ミーノータウロスへの生 贅として送られたが、ある時犠牲の中にい伝って脱出し、アリアドネーと遂電した。 まで見事に欺かれる。 たテーセウスにミー / ースの娘アリアドネ ボルへスに「アステリオーンの家」と題 ミー / ースは怒ってダイダロスと息子イ ーが恋をして、ダイダロスに教えられてテした短篇があるが、王妃の子のアステリオ ーカロスをラビュリントスに閉じ込めた ーセウスに糸玉を渡した。テーセウスは糸ーンの一人称で語られているので、これがが、怒るのもあたりまえだと思う。どうも ミーノータウロス ( 「ミーノースの牡牛」 の一端をラビュリントスの人口に結んで中 このダイダロスという男、天才にはよくあ に入り、ミーノータウロスを倒して、糸をの意 ) の本名だと知らないと、最後の数行ることだが、倫理感がゼロのようだ。 ッション・プロファイノレ 第一段分離 木星級惑星探知 中間経路修正 0 第 2 段停止 地球級惑星探知 0 遭遇科学観測 プロープ発射 最終径路修正 コースト期科学観測開始 時問 ( 田 3d ) 0
( 前号までのあらすじ ) 再生ミスにより人格記憶を失ってしまったマ ーリーは、自分に関りのあるという少女ラグトーリンを訪ねて赤砂地星を訪れる。 しかし、王宮の預言者からきみような赤子を預けられ、赤砂地をすぐ脱出しろと言われる。言われたとおり、マ ーリーは脱出の為に宙港へ行くが : も、つドレ当」 宙港です / レ 變聞加災鼬變 ・」川Ⅲ川Ⅲ川Ⅲ ど , フしたに す′ 2
的新しいものであったりした。彼は虚空の片すみで、さまざまな生れともこの生物は、三身一体のコン。フレックスなのだろうか。い き物の営み、怒り、戦争の物音、恋人への手紙、それに天体のひとや、違う。手紙の送り主はべター ーフ / 奥さまにやきもちを妬い 7 りごとなどを聴いた。 ているのだから。不思議だ。そんな危なっかしい関係が長続きする 恋を語る手紙などは、たとえ解読できたところで、ほとんど理解はずがない。いずれはこわれてしまうに違いない。それとも、もう することなどできなかった。めばえたばかりの恋、破れ去った恋、崩壊してしまったのだろうか : ほのかな恋心、日常生活も社会的地位も何もかも焼きつくすような彼は、そんなとりとめもないことを考えながら、びらひら舞いっ . 灼熱の恋。 づけた。 あの不具のクレアトウールと通いあった心に少しは似ているのだ ろうか、と彼は思った。 ある時、彼は次のような手紙を盗み読みした。その手紙は次元と 時を越えて、混信してきたのだ。 巨大な直立二足歩行の猫は、個人用寝室をぶんどって昼寝をして ザクースカのー、ー・様 赤い毛皮はいつもプラシがかけられているので、つやつやしてい る。この典型的都市生活者である猫族の男はひどく美食家なので、 あなたはお信じにならないかもしれませんが、私は決してあ毛皮のつやもいちだんといいようだ。 なたがおっしやるような女豹などではなく、昔から、人に話し実際、猫というのはよく眠る。半日くらいは平気でねている。だ かけられると返事ができなくて涙ぐむような女の子でした。 が、一度仕事を始めると、短時間のうちに実に見事な成果を上げ お若くてお美しくてお優しい奥さまにどうぞよろしく。とてる。そこのところは、彼の先祖である小型肉食獣が、穫物ののどぶ もお似合いのご夫婦だと私は思います。 えに喰らいつく時の敏捷なイメージがわずかながら残っているとい ってもいし クリスティーナ 0 十三世拝 しかし図体のでかくなった分だけ、体の動きよりも頭 の血のめぐりへ才能が移っていったことは確かだ。 ″奥さまという概念はペター ーフのイメージを伴っていた。知猫は長い尾をくるりと巻きこんで、眠りこけている。 少女は足音を忍ばせて、眠り猫のそばまでそっと近づいていっ 性ある生物も、彼のようにコン。フレックスになるのだろうか。しか し、この手紙の送り主は、このユニットと、べター ーフよりも親 た。そうして猫が眠っているのを確かめると、ロにくわえていた煙 しかったようだ。そんな不可思議なことがあるものだろうか。この草を白い指先にもちかえて、猫のぬれた黒い鼻先まで持っていっ - ュニットも彼のように、べター ーフを憎んでいたのだろうか。そた。 6 バーゾナル・キャビン