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検索対象: SFマガジン 1981年12月号
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1. SFマガジン 1981年12月号

ねばならないのよ。それを知ったときーーーはじめてわたしは、何も覚えているのは、昏く熱つばかったアウラの眼、その快い、ひく かもがこれでよかったのだ、とシティの理念のように云えるでしょ うよ ) ぼくは、どうすればいいんです、アウラ ? ) ( では ( 何もーー何にも、イヴ ! ) 2 ( だって : : : ) ( あなたは、あなたである以外のことはできないし、それよりもよ ヴィジフォーンの、呼び出しプザーが鳴っていた。 いことはできない と、わたしは思うわ ) あわてて、ねころがって物思いにふけっていたべッドからとびお ( でも ) りながら、ばくは、奇妙な気分だった。 ( 何がいちばんよいか、どうすべきかなんて、ことレダにからむか ( ぼくは、レダをーー《好き》なのだろうか ) ぎり、まるつきりないのと同じよ。レダには、ものごとの、あるべ ( そしてレダい、ばくを ) き姿などというものはないんだからー いつだって、レダは、きょ これが好きという感情なのだろうか だとしたらそれはたぶう着るトーガを、青と赤、二つ並べてビンでさして決めているわ : ん、・ほくにはまだよくわからないのだ。 : ・彼女はほんとうは、何ひとっ決めたくもなければ、決められたく レダのほうは レダの方のことについては、これはもう、・ほくもないのよ。もし、他の人びとさえいなければ、わたしはいつだっ が考えたところでしかたがない。 て、ぞんぶんにレダのいいようにしてあげられるのだけれどね ) 別れぎわに、アウラは・ほくの目をじっと見つめた。その目には、 アウラのいったことについても大半はそうだ。・ほくが考えたとこ ろで、どうしようもない、わかるすべもないことばかりで、・ほく何かひどく、ふしぎな光が宿っていた。 は、アウラのいっていることが、半分もわかりはしなかった。 「はやく、大人になって、イヴ」 むろん、とてもよくわかるように思えたときもあったが、次の瞬彼女は低い声でいった。 間、またさつばり、わけがわからなくなってゆき、何か、ネオ・モ 「成人に ? 」 ダニズム派の詠唱をきいているような、・ほんやりした心地よさ、そ 「そうじゃないのよ。 : やはり、スペ わたし、、心配なの。・ してうっとりとした気分にひきこまれてゆき スマンはスペースマンだわ。かれらはまるつきり異質な人びとよ。 全体として、セクシャリスト・タワーにいってからあとのことご レダには、それさえもわからないのだけれど。そして、かれらがそ とが、みな、まるでふかい夢の中のように、・ほうっとして、ぐるぐ うでなかったとしたところでさえ : るとまわっているように、脈絡もなく切れぎれに頭の中を漂ってい 要するに、エーリアンと交わるのは、わたしたちのようなまった くの、最悪の、ス。へシャルマークのデイソーダーにとってさえ、 こ 0 アダルト 0

2. SFマガジン 1981年12月号

しいか、シタルの衛兵というのは特別なんだ。、奴ら 間の兵士たちは、足をふらっかせ、大声で歌いながら、歩み過ぎて「まあいいさ、 4 は、 ) シタルの言葉の切れ端から様々なことを造り上げちまう。どん 9 な途方もないことも、勝手に造り上けて、信じちまうんだよ。そい 「簡単さ。アコヴは、あのとおりのことを聞いてきたんだ」 キリイは、胸の奥から奇妙な塊りが咽喉の中にこみ上げてくるのつを、真に受けて信じちまう奴らも、沢山いるわけさ。あのアコヴ を感じる。だが、それを押し殺す。ウェイルに、自分の動揺を覚らのようにな」 「で、ウェイル、あんたはそいつを信じてないってわけか」 れてはならない。キリイは言った。 「そうさ。シタル自身の言葉以外は、な、信じるわけにはいかん」 「本当に、そう思うのか ? 」 キリイとウェイルは、先に行ってしまった仲間たちのあとを追っ ウェイルが、怪訝な表情を浮かべているのに気付き、キリイは、 て、足を急がせた。 とまどいを覚えた。 キリイは、ウェイルの説明ですべてを納得したわけではなかっ 「当り前だ」 た。納得できるわけがない。アコヴの言葉は、ほとんど真実そのま キリイの返事を待たずに、ウェイルは続けた。 「それ以外に、考えられないぜ。アコヴが、あんなこと、自分で思まと言ってもかまわないものだったからだ。ウ = イルの話からすれ ば、アコヴに告げられた話は、シタルが出所だということになる。 いつくわけがない」 胸のしこりが消えていくのを、キリイは感じる。だが、すぐにそモーネか。キリイはまた思う。だが、な・せモーネが、そのようなこ れで安心してはいられないことに気付く。再び、胸の奥で何かが固とを他人に告げてまわらねばならないのた。それを考えると、キリ イの確信は揺らいでいく。あるいは、シタルと呼ばれるあの女たち まりはじめる。 そのものに関わることなのかもしれない。 「アコヴが考えつくわけがないのなら、シタルの衛兵たちだって、 シタルとよ、、 ~ しったい何なのだ。どのような階級なのだ。それが 同じことしゃないのか ? 」 階級だとすれば、だが。そしてキリイは、それを言葉にして尋ね ウェイルの頬に、笑みが走る。キリイの肩を叩いた。 「おい、キリイ、おまえはアコヴの言ったことを、おれに信じさせた 「ウェイル、シタルとは何者なんだ ? 」 たいのか ? え ? 」 キリイは、あわてて言う。 それを口にした途端、キリイは自分の不用意さを悔んだ。通りに 「そんなつもりはないさ。ただーーー」 置かれたかがり火とかがり火の間の暗闇の中に二人はいた。ウェイ 「不思議に思ったってわけか。おまえの言い方では、アコヴが正しルの表情はわからなかったが、身体がこわばったのがわかった。 いと言ってるみたいに聞こえるぜ」 「おまえ、シタルのことを知らないとでもいうのか ? 」 ウェイルは笑う。キリイは、黙る。 「知っているさ。シタルは、心の世界を司どっている」

3. SFマガジン 1981年12月号

「チェ、神父さんよ ! それや片手落てもんだ・せ。そんならも少し え、検察庁は殺人未遂と認めてるんた」 雑音・接続音 やつの言い草差押えてくださいョ。おれにだって、ぐれたにやぐ 「くそでもくらえ ! 〔調整音〕神父さん、そんな野郎の言うことれただけの訳があるんた。それを何でえ ! 「殺人未遂のかどによ うえ 信じちや不可ませんぜ。やつは役人だから何でも上司の云いなりに り -J だ ? サイバンの途中に於てダッチョウをなしたるモノデアル なりやがるんだ。あっしゃ奴等の吐すような悪い事はなにもしてやウ ? ばかやろう、しちやかめっちやか気取りやがって。手めえ しません。もちろん律気な世渡りはしちゃいませんがネ、それや神がナシタルモ / デアル柄かョ、安月給で芋の屁ばかりこいてやがっ 仏聖人も凡俗の已むなきところと大目に見てくださろうってもんてョ ! 」 だ。あっしの言うことも聴いてください。放蕩無頼をはたらいたこ 「コ、コノ野郎 ! 言わしておけば・ : ・ : 」 とは認めますがネ、法外な悪名を着せられて彼世へは行きたくね「伍長、言葉をお慎みなさいー 公安官は報告をつづけてーーー」 しおら え。懺悔なんかするほど柔順しくもねえかわり、極道の札貼られた「はい 由って本職はただちに同人の捕捉に赴いたところ、同人 まま閻魔に会うのも気がひけるんだ」 は無頼社会におおくの仲間をもち、転々と住居を変えて当方の追跡 一調整音一 をのがれ、ネレイドから天王星ラトナ、ラトナから土星のチタニア 「スクレニー伍長。私は司祭だから懺悔なら聴く。しかし今はエウという風に逃走をつづけたので、そのたびに今一歩というところを わたくし ロペウス刑事の職務上の報告を収録している最中だから、私の事取逃す本職の苦衷はひとかたならぬものであり 以下日常のロ話 情や感情をさしはさむのは控えてもらいたい。貴方の言い分はもし体で話しますーー果ては小惑星帯を追いっ追われっして、ついに内 あと ご希望ならその後でうかがおうーー公安官、続けて下さい」 惑星界火星にまで入りこむに至ったのであります。どうやら本人は 新しいヒーローが誕生したー 文 ワ カ ャ 田中文雄一 ' ( 、 ' 大魔界 1 ぬか あの ( 大を、① 定価 420 円 9 5

4. SFマガジン 1981年12月号

「あんたたちは : ・ : メカプロバーを使っているな ? あなたたちの 本体は墓石の下なんだ。墓の中から意志信号でプロップを操ってい 「あんたたちは生きているとはいえない。・ほくは、自ら金魚鉢に飛 るんたろう。よくできてる人形だな」 びこむような真似は絶対にしないそ。広く世界を見るんた。それで 「メカ。フロップよりは高級だよ、水天くん」 大自然に殺されるなら、そのほうがましだ」 「黒崎さん : : : あの発電センターから制御波が〕出ているんですね「青くさいことを」 「ほっときなさいよ」と千香は言い、桂子を見た。「あなたは、わ 「無線の神経だと思えばいい。 まったく異和感はない。きみたち用かるわね。ちょうど、娘が欲しいと思っていたの。夢の中に入って のも用意してある。愛し合っているのたろう ? 燃える身体など捨くれない ? 夢、まだ魂が入ってないのよ」 てたまえ。このほうが自然なんだよ」 「あの : : : 夢ちゃんが : : : プロバーだったのか。まだだれにも操ら 「いやだ。ぼくは自分の肉体で外界と触れ合っていたい。あなたたれていないのね」 ちは : : : まともじゃない」 廊下のほうでざわざわする気配。村人が集まってきているんだ。 「わからない坊やだ。なってみればわかるよ。絶対後悔はしない」カづくで墓に入れる気だ。ぼくは桂子と別れたくはなかった。 「墓に入ったら最後、この村から出られなくなる。メカプロップの「桂子、桂子、愛してる」 制御用信号波は遠距離まで飛ばないだろう。この村に縛りつけられ「きみに彼女を縛る権利はない」 るのはごめんだ。金魚鉢のなかの金魚じゃないか」 「それはこっちの台詞だ」 「他のどこへ行こうというのかね。この荒れた地のどこで生きるの桂子の悲鳴。黒崎に手を取られてる。「助けて、ミテン、別れ別 ・星雲賞受賞ー 囎火星人先史 川又千秋 火星 : : : 闘いの星。人類には過酷な この星に、改良され、知能を高めら れたカンガルーが労働力として大量 に連れてこられた。だが、奴隷とし て使われるカンガルーたちもやがて 自我に目ざめ、原始的な武器を手に 人類に反旗をひるがえしたのだーーー 川又千秋が火星への熱い思いをこめ て描いた長篇・定価 1300 円 発に , スを高められた政讒 カンサルーたち . 、日ごリざ めたかれらは . を′な式を手 : 、 ういに人数に区・をひるえした第・ 第暑交物 四六判上製 5

5. SFマガジン 1981年12月号

トースターは生 今夜の毛布はまだごきげん斜めのようでしたが、 を合わせたらどれだけのことができるか、考えてごらん . まれながらの外交官なので、どんな反論も、もの柔らかに、筋道立 「大には足がある」毛布が異議をとなえました。 トースターは相った理屈で押えこんでしまいました。 座を白けさせる人 ) はごめんだね」 「ちえつ、濡れ毛布 ( と 「あんたのいうとおりだよ。もし、自力でそんな長旅をしようとし 手をからかいました。 そんなことをしてはいけなかったのです。あまりューモアのセンたものなら、ラジオも・ほくも、それこそ目も当てられないざまにな スがなくて、傷つきやすいたちの毛布は、べそをかいて、もうべッる。でも、そんなことをする必要はない。つまり、どこかで車輪を ドへ入る時間だとぐすりはじめました。こうなると、なにをいって借りてくれば : ・ : こ 卓上スタンドが急に明るくなりました。 もだめで、結局トースターが正式にあやまるよりほかに方法はあり 「なるほど、一種の乗り物を作るわけか ! 」 ません。 トースターはそうしました。 ラジオがつけたしました。 やっと毛布もいくらかきげんを直していいました。 「あとは乗ってしまえば楽な旅、安全で快適そのものです」 「それに、大には鼻もある。大は鼻で道を探すんだよ」 こんなときのラジオの口調は、 O のアナウンサーそっくりでし 「そのことなら」と掃除機が割って入りました。「わしの鼻以上に こ 0 よく働く鼻があったら、見せてもらいたいもんじゃ」 その言葉を実証するために、掃除機は自分のスイッチを入れる「さあ、どうかなあ」毛布がいいました。「それならなんとかなり と、敷物の上でシューシュ ーゴウゴウと、大きな鼻息を立ててみせそうな気もするが」 ました。 「問題は」と、トースターは掃除機に向きなおってたすねました。 「すてきだ ! 」 トースターはさけびました。「じゃ、掃除機に・ほく「あんたがやってくれるかどうかだよ」 掃除機は、モーターの奥深くで、ゴロゴロと静かな自信にみちた たちの鼻になってもらおうーーーそして、・ほくたちの足にもね」 音をひびかせました。 掃除機はスイッチを切って、ぎきかえしました。 「なんじゃと ? 」 ちょうど頃合いの車輪を見つけることは、トースターが想像した 「いや、ぼくたちの車輪、といいたかったんだよ。車輪が足よりも ずっと能率的なのは、だれもが知っているとおりだからね」 ほど簡単ではありませんでした。最初にトースターの頭にあったの 「あとのわたしたちはどうなる ? 」毛布が詰問しました。「わたしは、差掛け小屋に入っている芝刈り機の車輪でしたが、それを芝刈 たちには車輪も足もないんだそ。どうすればいし 、 ? どこへ行くにり機の重い・フレードから取りはすそうとすると、電気器具たちの限 5 2 しても、むこうまで這っていくなんて、できない相談だ。もしそんられたノウハウではどうにもなりません。どこへ行くにも一すしの 2 なことをしようものなら、すぐにポロポロになってしまう」 刈り跡がついてまわることに掃除機が賛成してくれればともかく、

6. SFマガジン 1981年12月号

いとか、胎盤と乳腺で哺育した母親が重要なんだとかって考えは間 違ってると思うよ。おめえは「構造原素」だとか言ったナ " その通り だ】父親はおれの素子なんだ。、それを知らせねえって法はねえ ! 」 「それやそうだが、だからどうなんだ」 「だからョ、お蔭でぶじ助かってもおめえを追掛けることを止めや しねえが、今までとは違っておめえの気持を解りながら追掛ける ゾ、って言いたかったんだ。ーーー正直言って、おめえはどうか知らね えが、おれは : : : おれは識らねえ親父に会いてえと思うーー」 「わかったーー、火を入れろ」 ◇第四のテープ 「私は旁らから彼等の会話をききかっ様子を察しながら、どうする ことも何を言うこともできなかった。ど、、 オししち、それは他人の容喙 すべき事ではなかった。私はただ彼等のど性っ骨・ : 何というか最後 まで理性と諧謔を失わずに力を尽すことを止めない「宇宙魂」に圧 倒され、畏敬の念とおのれの無力の歎きにうちひしがれていた。 舟はそのあいだにも秒速千キロで飛び、すでに遠く火星圏をあと にしていた。彼等が地球大気を脱出してから三日、私に遇ってから 二日がすぎ、そのあいだ彼等は「あと数時間の命と言いながら互 いに悪罵と助言をとり交して癒着部の穿孔や駆動機の修理を試み・つ づけたのだ。船の空気洩れは装備の酸素ポンべがほんとうの空にな るときが致命の時期だったが、それも宇宙兵スクレニの言うとお り、稀薄になると圧が減って漏洩も軽減するのだった そして、それでも司法部員の体力が限界に達したとき彼等の録音 ☆十一月ニ十三日 ( 火・祭日 ) 毎日放送 ( テレビ 3 、ニシリーズ ) ( 一部午前九時五十五分 ~ 午前十一時、 二部午後三時 ~ 午後三時五十五分、 三部午後四時 ~ 午後五時五十五分 ) 「火星年代記」 レイ・ブラッドベリ作 マシスン 脚本日リチャード・ 演出日マイクル・アンダースン ハドスン、ダレン・マクギャビン、 出演はロック・ / ニカット ニイ・ケイシイ、ゲイル・、 ・メディア情報 0 ☆十一月十六日 ( 月 ) ラジオ・ラジオ図書館 ( 午後八時 ~ 午後八時五十五分 ) 「折紙宇宙船の伝説」 矢野徹作 脚本Ⅱ鈴木清順 7 6

7. SFマガジン 1981年12月号

仮死から醒めて、もし、もしミテンがいなかったらあたしーーー」 間ノンストツ。フのやつが。時計の死はひとつの時代の終わりを象徴 「どうしてそう思うんだ。いない 、と」 しているように思えた。腕から外し、傷だらけの表面をなでる。ア 「たってミテン、 いつも言ってるじゃない。帰りたいと思いながらナログ時計だ。思い出も多い 死ぬのはいやだって」 べランダに出て、さよならと別れをつげ、落とす。音もなく破片 ・ほくはうなずく。「そう。死ぬなら地球だ。桂子を抱けないな がとび散り太陽を反射してきらめく。 ら、大地にスペルマをぶち込んで死んでやる。だけど : : : きみには「大切なものじゃなかったの ? 」 生きていてもらいたいんだ。仮死仮生の状態でも」 「育ての親の形見だ。いやな思い出ばかりさ」 「そんなの勝手よ。あたしが嫌いになったの」 「だっていままでつけていたんじゃない。いけないよ、あたし拾っ 「わかってくれよ」 てくる」 「わからないわ」 「よせったら」大声に立ちすくむ桂子、「いいんだ。桂子がいれば 「わかった。もう言わないから、機嫌をなおしてくれ」・ほくはおろそれでいい。時計なんかいらない」 おろとギタ 1 を抱えなおす。「死ぬまで生きよう。仮死はごめんだ」 ・これからあたしたち、どうなるのかしら。すっとこんな調子 ・ほくらは手を伸ばし、人差指どうしをちょっと触れ合う。電撃ので、年だけとっていくの ? 時計はなくとも時はすぎるわ」 ようなショック。 「南へ行ってみないか。海へ。ずっと、行ってみたいと思ってた。 「フフン、スリルあるウ、、、 し気持ちじゃん」 燃えた恋人たちが暮らしてたらしいマンションをきのう見つけたん 「これだけ触れ合ってもちょっと熱いだけだから、この付近には人だ。四輪駆動のでかいビックアップがあった。荷台にはハー 間はだれもいないんだな。燃え易さは人口密度に比例するんだ」 。フがついていてさ、その上に太陽熱ポン。フの本格的な水製造機がっ 「なんだか冷えてきたわ。プチに餌もやらなくちゃ。内に入らない いているんだ。燃料も、サ・フタンクにいつばいある。千や二千は走 れるたろう」 「そうだな」 「干上がった海底を走るわけか。道なんかないわよ」 ・ほくらはビリビリ遊びをしながら階段を下りる。桂子の笑いが心 「国連軍の難民収容キャンプの跡とか、補給基地跡とか、けっこう あるよ、それを結ぶ道路が。いまじゃ、宇宙港のあるカロリン諸島 まで車で行けるよ。燃料と度胸があれば」 「地震でずたずたかもしれないわ。ちょっと前まで大地震の連続だ ったもの」 街に入って十三日目、・ほくの腕時計が時を刻むのをやめた。五年「ま、道といってもハイウェイというわけこよ、 冫 : し力ないよ。とうこ

8. SFマガジン 1981年12月号

それは、このシティに何か新しい局面をもたらすファクターなのでとしたら は、ないのかしら ? レダは、予兆のようなものではないか、とい それは、ねえ、イヴ、わたしたちでさえ、何かを生むことができ う気が、このごろ、わたしはしてならないの。どういう予兆なのる、という、希望ではないのかしら ? か、不吉、それとも希望、それはわからないのだけれどねーーた わたしは、そう信じたいし、そうだとすれば、わたしは、そのと だ、わたしにわかるのは、少くとも、レダが、このシティの現状のき、レダかレダであることの不幸もじゅうぶんにあがなわれたと感 中で満足していない、不幸たということ これは、ひとつの能力じるでしよう。だから、わたしは、このあいだから、他のシティに よ。そして、これまで、何世紀ものあいだ、市民たちは、不幸であは、レダのような不適応者がいないのかどうか、いたとしたら、か るための能力をもってさえいなかったのよ れらはどんな存在で、どう扱われ、そして他のシティはそれらを何 レダがきざしだとすれば、ますます彼女は奇蹟なのだわ。わたしだと考えているのか、それをつてをたどって調べるリポートづくり は、彼女が、予兆しているものが何なのか知りたい。それが、一体にとりかかろうとしているの。す・ヘての《個》は、全体と調和せね ばならな、 なにを招来するのか知りたい。 これが、シティ・システムの理念だわ。そのため ・フライのいうことがほんとうなら、わたしたちは種として、あるに、シティ群は、個のあらゆる要請にこたえようと限りなく細分化 いは社会のありかたとしてすでに老い、新しい変化をみごもる力をし、いつ。ほう《個》は、とても多くのものを切りすててきた。 しかし、それでいいのか ? とレダ・セイヤーの存在は、わたし もなくしているということになるわ。その場合には、レダは減びの 予言であり、破減の、きたるべき終末の、さいしょのきざしであたちにといただしているような気がしない ? では、わたしたちに る、ということになる。適応不能ーー過剰反応ーーー不協和音、異常は、何が欠けているのか。どうして、レダは、生まれてきたのか : の萌芽。 でもねえ、イヴ、だとしたところで、なにもレダが、レダが《減他のすべてのよき市民が申し分なく幸福であったとしても、それ びの子供》であることは、彼女の罪なんかではありはしないわ、そがレダの不幸の上にきずかれる幸福なら、わたしはそんなものを承 うでしょ ? そして、誰が、レダがレダ . であることで、彼女を責め認しないわ。少なくとも、かれらは、シティがレダをでなく、かれ るというの。そんなこと、わたしが許しはしないわ。 らをえらんだのだ、ということを、いつも知っていなくてはならな そしてもし、そうではなくて、レダが何か新しいことのーーまっ いはずよ 0 だって、レダがレダであることは、レダのせいじゃない たく新しい変化のきざしを示しているのであるとしたら : : : やが ーー彼女の不適応は、他のすべての模範市民の適応と同じく、神聖 て、いまのレダにはまだきわめて不完全なかたちでしかあらわれてなものだ、とわたしは思うわ。 だから、わたしは、わたしこそ、レダがなぜ、レダであるのか、 いない何かを、もっと完全なかたちで具現させるものがあらわれ て、それがこのシティ・システムに少しづっ何かをもたらしてゆくそれは何がもたらしたもので、どのような意味があるのかを、知ら 29

9. SFマガジン 1981年12月号

「かりに毛布が縫い合わされてきれいになり、わしはコードと集塵クリスマスツリー用の電球は、二つのお碗形のタンドのあいだにぶ 袋を修繕してもらい、おまえはもう一度ビカ。ヒカになったとしよらさがって、たのしそうにチカチカとウインクし、いつぼう、テレ 5 2 う。かりにそうなったとしても・ーーそれからどうする ? どこへ行ビとステレオは、有名なミュージカルからの歌合戦をくりひろげま くというんじゃ ? 」 す。 トースターはビカビカに磨き上げられ、掃除機も絶好調にもど 「わからない。・ とこだろうな。考えてみなくちゃ」 りました。しかし、なによりもすばらしいのはーー電気毛布がほと 「ちょっと失礼」テレビが園芸番組を消しながらたすねました。 んどまっさらに見えることです。その黄色は昔ほどあざやかではな 「いま、よく聞こえなかったんだが : : : 泥棒だって ? 」 いかもしれませんが、それでもやはり美しい黄色でした。テレビの 「そう」ミシンが不安そうにいいました。「いまの話ですが、どん いうところによると、カスタードや、桜草や、最高のティッシュペ な泥棒です ? まさか、このビルに泥棒がいるのではないでしよう ーの黄色なのです。 五時きっかりにラジオの目ざましが鳴り出し、みんなが急に静か 「ご心配なくーーーもう、その泥棒のことで気をもむ必要はないよ。 になりました。毛布だけはまだうれしそうにリビングルームの中を ・ほくたちは一度つかまえられたんだけど、うまく逃け出してきたんくるくる踊りまわっていましたが、そのうちに音楽がやんでいるこ だ。どうやって逃げ出したか、聞きたいかい ? 」 とに気がっきました。 「もちろんたとも」テレビがいいました。「おもしろい話は大好き「どうしたの ? 」毛布はたずねました。「な・せ、そんなに静かにし だからね」 てるんだい ? 」 そこで、アパート の電気器具たちはトースターのまわりに輪にな「しーっ」ラジオがいいました。「〈交換会〉の時間だ」 り、トースターは別荘を出発する決心をしたそもそもの始まりか 「〈交換会〉って ? 」毛布はききかえしました。 ら、このア。ハート の入口にたどりつくまでの、一行の冒険を物語り「のラジオ局がやってる聴取者参加番組だよ」トースター はじめました。みなさんもご存じのように、それはとても長い物語が興奮した口調でいいました。「これで・ほくたちの新しい家が見つ でしたので、 トースターがしゃべっているあいだに、 ミシンは仕事かるんだー だから、心配するなっていったろう ? なにかうまい にとりかかり、毛布の破れやかぎ裂きをすっかりつくろってしまい方法を考えるっていったろう ? 」 ました。 「静かにしてくれ」卓上スタンドがいいました。「はじまったそ」 ラジオは、部屋の中のみんなに聞こえるように、ポリュームを上 あくる日の午後、毛布がニュートン街の筋向かいのジフィー・ト げました。そして、よくとおる、アナウンサー調の声でしゃべりは ライクリーニング店から帰ってくるのを待って、アパ 1 ト の電気器じめました。 しパーティーを開きました。 具たちは五台のお客のためにすばらし、 「みなさん、こんにちは。〈交換会〉にようこそ。きようの番組の

10. SFマガジン 1981年12月号

といわれて、スクラップの山へ投けこまれたばかりなのに ? 」 して、トースターは堅くそう信じて疑いませんでした。 「もしあの男に使えると思われたら、小屋の中へ連れていかれて、 泥棒は夕食がすむと小屋から出てきて、ほかの電気器具を調べに かかりました。まず掃除機の泥だらけの集塵袋と、掃除機が自分でラジオとおなじように、あいつのものにされてしまうからだよ。こ かじってしまったためにすり切れたコードをいじります。それかられだったら、逃げ出すチャンスがある」 毛布を持ちあげて、どうにもならんというように黙って首を横に振折れた車軸からだらんとぶらさがった毛布は、めそめそぐちりは ります。つぎに卓上スタンドの小さな笠の中をのそきこみ、そしてじめました。「いや、いや、あの男のいうとおりさ。それがいまの わたしだよーー屑 ! まあ、見てくれーーこのかぎ裂き、この穴 卓上スタンド自身もいままで気がっかなかったのですが ここがわたしにふさわしい場所なんだ」 このしみ。屑たよー さな電球が割れているのを見てとります。 ( きっとこれは、一行が ポートを見つける直前、卓上スタンドが椅子から投げ出されたとき卓上スタンドの嘆きは、もっと静かではあっても、おなじように 悲痛なものでした。「ああ、わたしの電球ーとつぶやくのです。 に、割れたのにちがいありません ) 最後に泥棒はトースターを手にとりーーーそしてばかにしたような「ああ、かわいそうな、かわいそうな電球 ! 」 しかめつらを作りました。「屑だ ! 」そういうと、トースターを近掃除機がうめきをもらしました。 ! トースターは、それがきびし くのスクラツ。フの山へほうりこみました。 「おい、しつかりしろよ、みんな」 ーしいがと願いながら、励ましの声をかけま 「屑だ ! 」そうくり返して、卓上スタンドにもおなじ仕打ちを加え い命令口調に聞こえれ・よ、 とこも悪いところなんかないよ。ちょ ました。 した。「われわれはみんな、・ 「屑だ ! 」かわいそうな毛布は、五七年型フォード の折れて突き出っと修理するだけでだいじようぶだ。きみはーー」と毛布に向かっ た車軸の上に投げ出されました。 て、「基本的には健康だ。電熱線はどこも傷んでない。すこしほこ 「屑だ ! 」掃除機はアスファルトの上にドスンとすごい音を立ててろびを縫ってもらってから、ドライクリーニング屋に行けば、新品 同様になれるよ」 ほうり出されました。 トースターは卓上スタンドに向きなおりました。「きみにもあき 「どれもこれも屑ばっかりだ」この恐ろしい判決をくだしたあと、 泥棒は自分の小屋へ帰っていきました。そこではラジオがあいかわれたなあーー割れた電球のことでおろおろするなんて。前にも電球 が割れたことはあるし、これからだって何度も割れるかもしれない らず、世にも陽気な調子でうたいつづけています。 いったい交換部品がなんのためにあると思ってるんだい 「ああ、ありがたい」男が行ってしまうのを待って、トースターはんだよ。 そうつぶやきました。 5 「ありがたい ? 」掃除機が聞きとがめて、悲しげな口調でいいまし最後にトースターは掃除機に話しかけました。「ねえ、しつかり た。「どうして″ありがたいなどといえる ? たったいま、屑たしてくれよ。あんたはわれわれのリーダーなんだ・せ。そのたくまし