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検索対象: SFマガジン 1981年12月号
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1. SFマガジン 1981年12月号

「かりに毛布が縫い合わされてきれいになり、わしはコードと集塵クリスマスツリー用の電球は、二つのお碗形のタンドのあいだにぶ 袋を修繕してもらい、おまえはもう一度ビカ。ヒカになったとしよらさがって、たのしそうにチカチカとウインクし、いつぼう、テレ 5 2 う。かりにそうなったとしても・ーーそれからどうする ? どこへ行ビとステレオは、有名なミュージカルからの歌合戦をくりひろげま くというんじゃ ? 」 す。 トースターはビカビカに磨き上げられ、掃除機も絶好調にもど 「わからない。・ とこだろうな。考えてみなくちゃ」 りました。しかし、なによりもすばらしいのはーー電気毛布がほと 「ちょっと失礼」テレビが園芸番組を消しながらたすねました。 んどまっさらに見えることです。その黄色は昔ほどあざやかではな 「いま、よく聞こえなかったんだが : : : 泥棒だって ? 」 いかもしれませんが、それでもやはり美しい黄色でした。テレビの 「そう」ミシンが不安そうにいいました。「いまの話ですが、どん いうところによると、カスタードや、桜草や、最高のティッシュペ な泥棒です ? まさか、このビルに泥棒がいるのではないでしよう ーの黄色なのです。 五時きっかりにラジオの目ざましが鳴り出し、みんなが急に静か 「ご心配なくーーーもう、その泥棒のことで気をもむ必要はないよ。 になりました。毛布だけはまだうれしそうにリビングルームの中を ・ほくたちは一度つかまえられたんだけど、うまく逃け出してきたんくるくる踊りまわっていましたが、そのうちに音楽がやんでいるこ だ。どうやって逃げ出したか、聞きたいかい ? 」 とに気がっきました。 「もちろんたとも」テレビがいいました。「おもしろい話は大好き「どうしたの ? 」毛布はたずねました。「な・せ、そんなに静かにし だからね」 てるんだい ? 」 そこで、アパート の電気器具たちはトースターのまわりに輪にな「しーっ」ラジオがいいました。「〈交換会〉の時間だ」 り、トースターは別荘を出発する決心をしたそもそもの始まりか 「〈交換会〉って ? 」毛布はききかえしました。 ら、このア。ハート の入口にたどりつくまでの、一行の冒険を物語り「のラジオ局がやってる聴取者参加番組だよ」トースター はじめました。みなさんもご存じのように、それはとても長い物語が興奮した口調でいいました。「これで・ほくたちの新しい家が見つ でしたので、 トースターがしゃべっているあいだに、 ミシンは仕事かるんだー だから、心配するなっていったろう ? なにかうまい にとりかかり、毛布の破れやかぎ裂きをすっかりつくろってしまい方法を考えるっていったろう ? 」 ました。 「静かにしてくれ」卓上スタンドがいいました。「はじまったそ」 ラジオは、部屋の中のみんなに聞こえるように、ポリュームを上 あくる日の午後、毛布がニュートン街の筋向かいのジフィー・ト げました。そして、よくとおる、アナウンサー調の声でしゃべりは ライクリーニング店から帰ってくるのを待って、アパ 1 ト の電気器じめました。 しパーティーを開きました。 具たちは五台のお客のためにすばらし、 「みなさん、こんにちは。〈交換会〉にようこそ。きようの番組の

2. SFマガジン 1981年12月号

いささかの冒険にはちがいないわ。よほどのことでも、あの礼儀正ボタンをおした。 「あ」 しい市民たちは、見てみぬふりをしてくれるでしようけれどね。 でも、ああ、 あなたにはわかりそうもないことだけど、レダ ぼくは小さく、叫び声をあげた。 は、それが、危険な冒険だ、とうつかりわたしが云ったもので、そ「ラウリ。 あの、今日は、どうもすみませんでした。あの : れですっかり夢中になっているのよ。壁がある、とわたしがいうー ーするときまって、レダはまっすぐそっちへむかってゆき、壁にあ「いや、 いいんだ」 たまをふつつけるの。どうしてだか、わからないわ : : : きっとレダ ラウリの顔が、ちょっと神経質そうにこわばっていた。・ほくは、 は傷つくのが好きなのかもしれないけれど、でもそれだけでも説明ラウリが、気をわるくしているのだ、と思った。 がっかない」 「ほんとにすみません。ことわりもなしに先にかえったりして、あ 「ファンは、レダが、傷つくのが好きだ、といっていたよ」 の ぼくは、あなたに連絡が、せめて伝言をのこすべきでした。 「ファンはね」 もし、釈明の機会を与えて下さるのでしたら : : : 」 「イヴ。、、 アウラはかるく掌を上へむけてもちあげてみせた。 ししんだといったろう ? あのとき、外へ出てくれるよう 「要するに、彼はイヌなのだ、とわたし、云ったでしょ ? 彼たのんだのは、・ほくだったんだし 心配したよ。場所が場所た の、デリケートさは尊重に値するけれど、基本的に彼の精神パター し、きみは、まだ、あの : : ビンク・ゾーンにまぎれこみでもした ンはそう複雑ではないのよ : ・ : 知的ではあるとしてもね。でも、わら、いまのきみの人格形成にはよくないファクターとなるだろうし たしにとっては、そうじゃない」 「・ほくが、大人になるのと、レダがスペースマンとあそぶことと、 しかし、かえったら、きみがもどっているという伝言があったか どんな関係があるの、アウラ ? 」 ら、・ほくはもう、それで、すっかり、安心したよ。何か用があった 「そうーーー」 んだろうと。それはだから、もういいんだがーーーしかし : : : 」 アウラは、ふいに、何か辛いかのように、目をふせてしまった。 ラウリは、手のひらを・ほくにむけて押すようにした。会話中断 コールだ、と知って、・ほくはぎくりとし 「それはねーーもしあなたが大人になって、立派な一人前の男 ( プの、エマージェンシー ライのよくするスペースマンの云い方をかりればね ) になったとすこ。 れば レダは、好きこのんで、スペースマンの中に誰かをさがさ ラウリの、神経質なようすが、必ずしも、ぼくのふるまいに気を なくてもよくなるからよ。わかる ? 」 わるくしたというせいではないらしい、と、はじめて気づいたので ちっともわからない、 とぼくは考えた。アウラは、わざとのようある。 に、謎めかした云いかたはかりをする。・ほくは、ヴィジフォーンの 「あの、何かーーー」 2

3. SFマガジン 1981年12月号

そのとき、ロランたちの背後で、男の悲鳴ががあった。それにす も戦闘になれば、何人分もの働きを示す者たちばかりだった。 ロランが振り返る。甲板の端に、二人の 月が昇り、あっという間に、天頂を過ぎていく。ロランは、月がぐ水音が続く。失敗ったー 沈み、闇がやってくる夜明け前が一番危ないと考えていた。テイロ男の人影が見える。その手には、剣が握られている。イレンに注意を 集中している間に、海を泳いできた男たちが、乗り込んできたのだ。 スは、ほとんど無関心な素振りを装っていた。 ロランが命令する間もなく、キャラの男たちは、その二人の男に 月の光が、陸地の奥をおおっている森林の彼方に消えた。夜の影 が、ハイアを閉じていく。そのときだった。クセスは、、 , ィアの建殺倒した。テイロスも、その中に加わる。ロランは、イレンの様子 物の一つの影で、何かが動くのを見た。それはゆっくりと桟橋に向に注意しながら、男たちの戦いを見守った。 二人の男は、なかなか手強いようだった。デリマ 1 が、どこかに かって歩いてくる。クセスは、ロランに合図する。ロランが、うな ずくのが見え、ほどなく闇が世界を支配した。船の僅かな明りだけ傷を負ったらしい。甲板の上を転げ回るのが見えた。だが、どれほ どの男たちであろうと、キャラで鍛え上げられた男たちには勝ち目 が、その闇の中でぼんやりとした光を放っている。 クセスは、桟橋を歩んでくる人影が一つだけであることに気付がない。最初に、やせた男が切られ、海に転げ落ちた。もう一人の く。ロランもテイロスも、ほとんど同時に、それに気付いた。ロラ男は、素早い動きで、水夫たちを手こずらせていたが、やがて、右 ンの身体はこわばり、テイロスは微かに笑みを浮かべた。その人影腕ごと、剣を切り落とされ、甲板におさえつけられた。 ロランが駆け寄ろうとしたとき、テイロスの剣が振り上げられ、 は、女のものだった。 女は、ゆっくりと、桟橋と船をつなぐ板に足を乗せ、登ってく男の首を切り落とした。ロランは舌打ちした。これで、男から何も る。それがイレンであることを見てとるには、僅かな光だけで充分聞き出せなくなった。ロランは、男の死体が海に放り込まれるのを ・こっこ 0 見、イレンを振り返った。依然として無表情に、ロランを見返す。 「あの二人は、何者なの ? 」 「イレン ! 」 「ムザクとエルワースよ」 テイロスは、思わす声をあげた。イレンが、そのテイロスの方に 目を向ける。テイロスが一歩、足を踏み出し、ロランもそのあとに イレンは、他人事のように答えた。テイロスたちは、笑い声をあ げて、戻ってくる。テイロスがイレンを抱き締めた。思ったよりも 従がった。 「イレン、探したそ」 簡単だった。簡単すぎるほどだ。ロランは思う。 海の中では、エルワースとムザクと呼ばれた男たちの死体が、異 テイロスが言う。だが、、イレンは無表情に兄を見つめるだけだ。 妙た。ロランは思う。自分が知っていたイレンと、あまりにも感じ常なほどの速さで、原形を失い、崩れていった。それが何を意味し がちがいすぎる。男たちの一人がタイマツに火を点けた。その光のているのか知る者は、イレン一人を除いて、「千の生命」の甲板に 9 中で、イレンは、無言のまま立っている。 よ、よかっこ。 ( 以下次号 )

4. SFマガジン 1981年12月号

白い、ふくらんだ布袋をかついでいる桂子は、なんだか大黒天の「そうだな。地下の食糧庫へ行ってみようか」 ようだけど、やつばりサンタかな。桂子にはもち、髯はないが、髪「やだ、じみてる。上よ、対相」 は銀色だ。それに真っ赤なワンビース。 「ジミテルって、どういう意味だ」 「なにをプレゼントしようか、ミテン」 ときどき桂子はぼくにわからない言葉を遣う。対相は相対の反 たぶん、親がつけてくれた名前だ。よくわからない。でも字は知対、つまり絶対ってこと。 ってる。水天と書いて、ミテンと読む。これがぼくの名前なんだ。 「生活にくたびれてるのを嘲笑ってるの」 「 : : : 燃えない身体が欲しい」 「フムム、それが今イ表現なのか」 そう言うと桂子は表情を曇らせて目を伏せる。そして泣き出す。 「もう一昨日になっちまった」 「あたしだって」 ばくらはゲラゲラ笑う。びつくりするじゃないか、笑うのをやめ 「ごめんよ。 : いっか天が願いをかなえてくれるよ。先に行くかてもまだ笑い声がする。こだまらしい。桂子はちょっと肩をすくめ ら、遅れないようについてくるんだ。さあ、笑って」 て親指を立て、行く ? とく。もちろん行くさ、上へ。まだジミ ばくらは一晩世話になったねぐらを出る。 る年じゃない。 地上は大きな街だ。ビルの谷間から仰ぐ空は、まるで舞台装置の 「この街の人たちも嵐が来たとき逃けられずに全減しちゃったの 背景のように迫力のない表情をしてる。朝日のあたるビルは輝いてね。中はほら、こんなにきれいじゃないの」 ガラスが一枚もないんだ。黒く。ほっかりとあいた窓窓が・ほ 「そうだな」 くらを見下ろしている。 ハンデイライトの光のなかに、買い手を待っているドレスが浮び 「ねえ、 ミテン、この街、人がいると思う ? 」 あがる。それから、燃えっきた人人も。塩の柱のようにも見える。 「わからないよ」道路は、衝突してぶつ壊れた車のパレード。「で桂子はむそうさにそれを崩しながら歩いた。人間柱が砕けて床が白 も食糧はあるんじゃないかな。たくさんあったら、しばらくここに 砂をしいたようになる。いやな臭いはしなかった。少少埃つぼい・こ おちっこうじゃないか。そのうち嵐もやむかもしれないし」 けで。桂子は有頂天になってワンビースを脱ぎ捨て、白い肌を・ほく 「あまり長居してると身が砂袋になっちゃうかもしれない。見ての前にさらした。 よ、あっち」 「なにを買うつもりだい。なにを探してる」 立ち止まって、桂子の指さす方を見やる。ほんと。南へ抜ける道「サイズ A70 のプラ」 が砂丘の下に消えている。ビルが砂防の役目をしてなかったら、こ 「 7 0 て、小さいほうか」 の辺はもうすっかり砂漠になっていただろう。 「そうね、 7 0 はアンダー・ハストの寸法。はトップとアンダーの 「これ、デパートみたいよ。入ってみない」 差が十センチのカップってこと。になると十二・五センチ。なん イマ 8 3

5. SFマガジン 1981年12月号

しいよ」小さく桂子は言う、「熱く、抱いて」 音がするのだ。足元から。気がつくと、・ほくはマグナム壜の底で地「 : : : 抱いて、 「行けよ。あの丘の向こうはオアシスかもしれない」 面をたたいていた。奇跡のように砂が崩れ、。ほっかりと穴があき、 「いっしょに行こうよ」 水音が大きくなる。 ・ほくは身を起こす。風が立ち、桂子の髪がなびく。高空の埃の層 「地下河川が流れているんだ」 ・ほくらは狂喜したが、しかし水は得られなかった。地面は硬い岩が厚くなって太陽を隠し、少しすずしくなる。・ほくらは向かい合 う。見つめる桂子の瞳がうるんでくる。 盤だった。わずかな裂け目から聞こえてくる水音は、遠く、残酷だ 「どうして泣く ? 」 「しあわせだから」 ・ほくは乾いた唇をなめた。それからマグナム壜を振り上げ、岩に たたきつけて割った。 髪に触れ、肩を抱きよせる。 「さよなら、。フチ。自由なんだ・せ。わかるか ? 壜づめから解放さ「熱いけど : : : すぐには燃えないのね」 「たぶん : : : もうじきだよ」・ほくは目を疑う。「見ろよ、桂子の れたんた」 はねるプチを、岩の裂け目から落とし入れる。ごく狭いクレバス髪」 の暗闇にプチは消えていった。はたして下の水脈が真水かどうか、 燃えてはいない。銀の髪がつややかな黒に変わってゆく。信しら 水の中に入れたかどうか、わからない。でもプチはとにかく壜かられない。 出ていった。広い世界へと。 「嵐が : ・ : 弱まっているんだ」 マグナム壜のかけらに残る水滴を桂子に飲ませて、再び歩き出「ほんとに ? やむの ? 」 やむのか、一時的なものなのか、そんなことは知ったことじゃな す。 い。ぼくらは感激のあまり、身を震わせる。触れ合えるのがこんな 二日目の昼、もう限界だった。・ほくは立っていられなくなった。 に素晴しいことだなんて。渇きを忘れる。 うつぶせに倒れる。 「生きててよかった」 「ミテン、ミテン、しつかりして」 「プチを放してやったんで、天の恵みかな」 「夜 : : : 露がおりたろう、水源が近くにあるんじゃないかな。海か もしれない : : せめて海で溺れ死にたいな。オン・ザ・ロックの海初めてのくちづけ。狂おしく。もう少しいけるかもしれない。先 のことなんか知るものか。だれも邪魔しないでくれ。 なら言うことはないんたけど。死ぬなんて、まだビンとこないよ。 ・ほくは桂子を抱いて熱くなる。 こんなものなのかな」砂をかきむしり、すすり泣く 「ミテン、あたしをおいてかないで」 ばくは顔を曲げて桂子を見る。眼がかすむ。 3 5

6. SFマガジン 1981年12月号

・ほくは君った。 おったうすものでさえも。彼女は森の木のように白くそこにいた。 まだ、あの嘲笑に追われていた方がいい びったりとしまった鏡のドア、すべての人が、まるで死にたえて「おどろいた。あんた、あたしをさがしにきたの ? どうして、あ んた、しばらくうちに来なかったの ? あたし、あんたに会いたか しまったみたいに・ : ぼくは、ふいに、のどにかたまりのような恐怖がこみあげてきったのよ : : : 何だか、あんたに、きらわれたようで、とてもさびし て、何かわけのわからぬ叫び声をあげるなり、廊下をかけ出し、つかったの : : : まあ、おどろいた。セクシャリストのビンク・タワー で、あんたと会うなんてね ! 見てよ、この子、わたしのヴァーゴ きあたりの、いちばん大きいドアの前に立った。 を ! 」 とたんに、そのドアが、するするとあいたのである。 他のドアは、びったりとしまったままで、・ほくがその前をとおっ ぎくりとして、ぼくはそこから身をびこうとする。 ても開かなかったから、おそらくそれらの室は、中からカギがかか とう室の奥から、むくりと、黒い人影がーー大きな人影がーー起きあ っていたのにちがいない。しかし、そのへやのドアだけには、・ っこ 0 、刀ュ / いうわけか、カギがかかっていなかったのだ。 スペ 1 スマンの・フライー そのほかにもー ほのぐらいあかり、異国ふうな匂い、そして、とろりと沈みこん でいくような、濃密な空気。 その室の中には、五、六人の人たちがいた。どの人も、・せんぜ ん、なにも、身につけていなかった。 「あらッ ! 」 どこかききお・ほえのある声がきこえた。 しかしぼくは他の人が目に入らなかった。・ほくはただ、息をつめ ふいに、するどい、 アイ フラスコて、スペースマンと、そしてレダだけを見つめていた。何だか、か 「まあ、まあ、イヴじゃないの ! わたしのヴァーゴー いったいどうしてまた、こんなところに迷れらは、他の人びとと、まるきりちがっているようだ。 から出たてのあんたー ことに、・フライ船長ーーああ、彼 ! 彼は、ほんとに、人間だろ いこんできたの ? 」 ろれつのまわらない早ロ。甲高い、わらい声、見おぼえのある、 なんだか なんだかとてもちがうものが、なまぐさいようなも 細いかたそうな木の枝めいたからだっき、少年のような、銀色のみ じかい髪 のが、いたたまれぬような、人を圧しつけるような勢いが、その大 ( レダ ! ) 柄なたくましい全身から、ほとばしり、物理的な力になってぼくを ぼくは、目を丸くし、何が何だか、まったくわけがわからす、立うちのめすようでーー一回だけ、そう、動物園でみた、昔の珍しい ちすくんだきり、そのなっかしい顔を見すえていた。レダは レ野獣ーートラ、だっけ ? そんな大きくて毛むくじゃらの獰猛な生 ダは何も身につけていなかった。そう、いちばん下にきる、すきと物のように、彼も、大きくて、毛むくじゃらで、獰猛で、そして :

7. SFマガジン 1981年12月号

「さあ、あなたがたのお名前も聞かせてちょうたい」マージョリー 高いところまで登りきり、小道はどこまでもどこまでも先に伸びて がいいました。「あたしたちはこうして名乗ったんですもの」 います。午後の中頃にまたにわか雨が降り、そのあとで一行はまた 「あいにく、われわれには名前がないんですよ」トースターが答え キャンプを張りました。ただし、こんどは草地ではありません。こ の〈んは木々が深く生い茂 0 て、広い場所があるのは大木の下だけました。「つまり、電気器具だから」 ハロルドが問いただしました。 なのです。そこで、草の上で自分を乾かす代りに ( 草地がないだけ 「もし名前がないとすると、だれが男でたれが女なのか、どうして でなく、日光もさしこんできませんので ) 毛布は掃除機の助けをか りて、とほうもなく大きいオークの老木の一番低い枝にぶらさがりわかるんだい ? 」 「われわれはどっちでもないんです。電気器具だから」トースター ました。風に揺すられているうちに、ほどなく毛布は乾いてしまい は掃除機をふりかえって、確認を求めました。 ました。 「どういう意味だか知らないけど」とマージョリーがそっけなくい たそがれ時になって、卓上スタンドがそろそろともろうかと考え いました。「自無の法則は変えられないわよ。だれでも男か女のど ていると、毛布が満足げにぶらさがっている枝の右隣の葉むらで、 っちかなの。ネズミもそう。小鳥もそう。聞くところによると、虫 なにかがもそもそと動きました。 もそう」彼女は前足を口にあてて、クスクス笑いました。「あなた 「やあ、こんばんは ! 」密生した葉のあいだから、一びきのリスが ・、たは虫を食べるのが好き ? 」 顔を出しました。「お客かなと思ったもんでね」 「いや、ぜん・せん」とトースターは答えました。電気器具はなにも 「こんばんは」電気器具たちは声をそろえてあいさっしました。 「やあ、これはこれは ! 」リスはロひげをなめました。「じゃ、よ食べないことをこのリスたちに説明するのは、骨の折れるわりに効 果が上がらないだろうからです。 ろしくね」 「あたしも嫌いなの、ほんとは」とマージョリーがいいました。 スターがききかえしました。べつにあいそが悪い 「なにを ? 」トー ひ わけではなくて、ときおり、特に疲れたときなど、相手の言葉を文「でも、木の実は大好き。あなたがた、木の実を持 0 てない ? よっとしたら、その古・ほけた袋の中なんかに」 字どおりに受けとってしまう癖があるのです。 「いや」掃除機がむっとしていいました。「この中にはゴミしかな リスは面くらったようすでした。「自己紹介させてくれたまえ。 ぼくは ( 。ルド」名乗りおわる頃には、リスはす 0 かりもとの陽気いね、あんたのいう古・ほけた袋の中には。そうさな、二キ 0 あまり のゴミが詰まっとるたけじゃ」 さをとりもどしました。「それからこの美しい生き物がーーー」 3 もう一びきのリスが上の枝から降りてきて、 ( ロルドのそばにと「しかし、い 0 たいなんのためにゴミなんかを貯めるんだい ? 」こ の問いになんの答も返ってこないのを見て、 ( ロルドは方向転換を まりました。 こンヨ しました。「一つ、みんなでたのしくやろうよ。おたがいを、 「ーー , 家内のマージョリー」

8. SFマガジン 1981年12月号

だ思らを し ク し つ し、 し見た たれそ し リ ん た ばん 。か と ろ し ま い て う せだ知四 な そ しね と 電住 れ つ枚 、た卓 ん 、気み カ : 。な て ま 上 の は は 食ば み 器心、 ト さ し ス な具 地 の ま か さ し、 が さ ま ン り た ス を・ ト の ン 感 ド ん しをな ち い にそナ が は じ は に ス タ 関ん が度 は別 ら る S F とファンタジイの区別をどこに置くかはむず ふ う な荘 すな かしい問題だが , せんだって来日したノーマン・ス ば 焼 でう 力、 ひ の る ト ん で ビンラッドがどこかでこんなことをいっていたと , 信かか と け し の ふ 念 ぎ た百 し で り ェリザベス・リンがどこかに書いていた。 「 S F は 不 る ス か 暮 れ満 し な り ト タ ワ 読者の心の中に不信の停止を作り出し , ファンタジ ま も ぎ の ツ イは不信の停止を要求する」 で 大 せなな ト し ス は ト 夏別荘に残された電気器具たちが , 帰ってこない し 切 ん く 美 タ 自 で の ス友 た な 分 電 し ご主人様をたずねて旅に出る・・ 。およそありそう 残 が自 なし 球 た の タ もない設定だと敬遠せずに , 不信の気持を一時スト 念 ん森 ちあ身 を は ッフ。させて読んでみてください。とても気のきい も な 里を に 見 る の に が気と ほあ こ満 じ る た , ューモラスで心、あ ら苦 や し ま と 足 り た たたまる , いい話なの なが 、労ま り も び し です。 そ も く 、て る か い に な 雑し う なれ て と トマス・ M ・ディッ 質 し、 号上 じ か 、ま て は チ シュといえば , 『人類 皆殺し』『キャンフ。収 器 た ナこ り 容』『 3 3 4 』などか や ー -1 のも なわ オょ 目 れな ら , シリアスで暗い小 や し う だ に 力、 に た ん い 説を書く作家 , という そ ん な よ ら よ ち よ の う 年 な な り イメージがつきまとう ふ り いで 0 よ 年 う も し 、も の す た かさ が , 実はこうした軽妙な一面がある。というより , 困 に困 見カ っ ま 1960 年代にファンタスティック誌やアメージング誌 、彼 た電が る捨 る と お に発表していた初期短篇は , 大半がこういう傾向の 近 て途 こ気 ど 先 た ら の の ら 方は の毛 う は ま は ・ワールズ誌の終刊号にも , ものだったし , 毛布 れ よ オよ にみ しゃれたファンタジイを寄せているぐらいで , むし さ暗と た 暮ん 布が と ろこちらが素顔なのかもしれない。 ラ境れな で も ナこ っ フ ジ遇てみ お て 、め シ・ ディッシュという作家は , そのキャリナと力量か 息 だ ス オ いじ い らするとふしぎなほど賞というものにまれず , S カ : を る と っ ま タ め ま F ェンサイクロペディアの表現をかりると長らく 指 しな の 力、 いた つ ン は 摘 いかた落 き か れ ド 。無冠の帝王”だった。ようやく長篇「歌の翼に』 す ま も が し ま ら る ち でジョン・キャンベル記念賞をもらったのはご同慶 相 し ま し 、つ か のいたりただヒューゴー , ネビュラ両賞にはま たぜ たすこ し と か い り 。ん のな た だ縁がない。 F & SF 誌 80 年 8 月号に掲載されたこ ぜ よ 十つ 力、 い 日 の中篇も , むろん両賞の候補にのぼっていたが , ジ ー 1 みはん 。を わ気 な、 フ ンクスは生きているのか , 今年も受賞を逸してしま わ説 打 ぜ、 い分 と シ・ ォ ん った。ただし , SF 情報誌く口一カス〉の読者投票 だ そ か 明ち て で と でも ら も か う ま では , 中篇部門の一位にダントツで選ばれ , またイ 時 い陽な な し さ なな ギリス SF 賞も獲得している。 ( 訳者 ) ま 気 い した 黽 に ば と 気を し に トマス・ M ・ティッシュ T' ん om . のな c ん 二二ロ 222

9. SFマガジン 1981年12月号

しいか、シタルの衛兵というのは特別なんだ。、奴ら 間の兵士たちは、足をふらっかせ、大声で歌いながら、歩み過ぎて「まあいいさ、 4 は、 ) シタルの言葉の切れ端から様々なことを造り上げちまう。どん 9 な途方もないことも、勝手に造り上けて、信じちまうんだよ。そい 「簡単さ。アコヴは、あのとおりのことを聞いてきたんだ」 キリイは、胸の奥から奇妙な塊りが咽喉の中にこみ上げてくるのつを、真に受けて信じちまう奴らも、沢山いるわけさ。あのアコヴ を感じる。だが、それを押し殺す。ウェイルに、自分の動揺を覚らのようにな」 「で、ウェイル、あんたはそいつを信じてないってわけか」 れてはならない。キリイは言った。 「そうさ。シタル自身の言葉以外は、な、信じるわけにはいかん」 「本当に、そう思うのか ? 」 キリイとウェイルは、先に行ってしまった仲間たちのあとを追っ ウェイルが、怪訝な表情を浮かべているのに気付き、キリイは、 て、足を急がせた。 とまどいを覚えた。 キリイは、ウェイルの説明ですべてを納得したわけではなかっ 「当り前だ」 た。納得できるわけがない。アコヴの言葉は、ほとんど真実そのま キリイの返事を待たずに、ウェイルは続けた。 「それ以外に、考えられないぜ。アコヴが、あんなこと、自分で思まと言ってもかまわないものだったからだ。ウ = イルの話からすれ ば、アコヴに告げられた話は、シタルが出所だということになる。 いつくわけがない」 胸のしこりが消えていくのを、キリイは感じる。だが、すぐにそモーネか。キリイはまた思う。だが、な・せモーネが、そのようなこ れで安心してはいられないことに気付く。再び、胸の奥で何かが固とを他人に告げてまわらねばならないのた。それを考えると、キリ イの確信は揺らいでいく。あるいは、シタルと呼ばれるあの女たち まりはじめる。 そのものに関わることなのかもしれない。 「アコヴが考えつくわけがないのなら、シタルの衛兵たちだって、 シタルとよ、、 ~ しったい何なのだ。どのような階級なのだ。それが 同じことしゃないのか ? 」 階級だとすれば、だが。そしてキリイは、それを言葉にして尋ね ウェイルの頬に、笑みが走る。キリイの肩を叩いた。 「おい、キリイ、おまえはアコヴの言ったことを、おれに信じさせた 「ウェイル、シタルとは何者なんだ ? 」 たいのか ? え ? 」 キリイは、あわてて言う。 それを口にした途端、キリイは自分の不用意さを悔んだ。通りに 「そんなつもりはないさ。ただーーー」 置かれたかがり火とかがり火の間の暗闇の中に二人はいた。ウェイ 「不思議に思ったってわけか。おまえの言い方では、アコヴが正しルの表情はわからなかったが、身体がこわばったのがわかった。 いと言ってるみたいに聞こえるぜ」 「おまえ、シタルのことを知らないとでもいうのか ? 」 ウェイルは笑う。キリイは、黙る。 「知っているさ。シタルは、心の世界を司どっている」

10. SFマガジン 1981年12月号

「大変だったわね。でももう大丈夫よ。ここは小さいけれど楽しい柵。平和なながめだった。 8 村よ。みんな歓迎するわ。もう終わったのよ、あなたたちの苦しい 4 「食事がすんだら村を案内してくれるって、千香さん。あたしもう 旅は。ほんとによく生ぎてきたわ」 いただいてきた」 思いやりのこもった女の言葉に、桂子は涙ぐむ。 「千香さん ? 魔女のなまえか」 「さあ、もう休むといいわ。部屋を用意してあげる」 女主人は三十前後、昨夜とまったく同じ顔で、・ほくにコーヒーを 「すみません : : : ほんとにいいんですか」 いれてくれた。朝の光で見ても、妖しさがっきまとう。まるで千香 「いいのよ。娘と二人暮らしなの。明日、村のみんなに紹介してあというその女の周囲だけが真夜中のような印象。彼女は未亡人で娘 げる」 が一人。娘は五歳くらいか、まったくしゃべらず、無表情でかわい ・ほくらは二段ペッドのある部屋に通された。埃もなく清潔だったげがない。なまえは夢。 が、長いこと使われてない様子だった。照明のスイッチはここだと「自閉症なの、夢」と千香はしかしさほど心配そうな声ではなく娘 女は壁を指しほほえみ、おやすみなさいと言ってドアを閉めた。 を紹介した。「でもそのうちになおると思うわ。ええ、きっと」 「どうも様子がおかしい : : : 親切すぎると思わないか ? 」・ほくはプ そしてほほえむ。紅い唇。そくっとくるような。 チとキスリングを板張りの床におく。「食われそうなかんじ」 食事のあと、千香は村長に会わせると言い、娘はほっといて、家 「ヘンゼルとグレーテルなら」桂子は上のべッドへ上がって、笑を出た。娘の夢は食卓で母を見送るでもなく・ほんやりと壁を見つめ ひと う。「あの女は魔女ね」 ていた。桂子は夢を心配したが、千香は大丈夫なのだと言った。 どことなく怪しい気配がある。桂子は気のせいだと言った。人を会った村長は、やはり三十前後、しかし言葉っきや物腰からする 疑うのはよくないとも言った。やさしさを受け入れられないのは心と五十くらいにも察せられる男だった。黒崎です、と彼は言って、 がすさんでいるからだ、と。そうかもしれないと思いながらも、しジョ 1 クだろう、手を差し出した。 かし・ほくは簡素なべッドの上で、花柄のカーテンの向こうに朝日が「そうか。握手はできないのだったな、まだ」 の・ほるまで緊張をとくことができなかった。 黒崎は笑い、この村におちつくつもりなら、働くところがある、 桂子に起こされた。刺繍入りの・フラウス、サラサの巻きスカート 見てみるかね、と言った。 の桂子は、別人のようにしとやかに見えた。 「ええ、ぜひーと桂子。「おねがいします」 「食事の用意ができてるわよ。ハムエッグにトースト、 ばくはあいまいにうなずくだけにした。これまで数えきれないほ ドにコーヒー」 ど危ないめにあってきたぼくの心のなかで、気を許してはならない べッドをおり、窓の外を見る。砂漠の中の村とは思えない。家のという声がするのだ。見た目にはこれ以上平和な村はないのだが。 形こそ営舎のように味気ないが、庭には芝、花咲く花壇、白い低、 しかし嵐の吹き荒れる地球で、こんなにおだやかなのはかえって異