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検索対象: SFマガジン 1981年12月号
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1. SFマガジン 1981年12月号

「少しつづけていれば、しんそこひととわかりあいたいと望んだ アウラはほほえんだ。 その笑いは、何となく、さびしそうで、風のように、透きとおつり、何ひとっかくさずに心をみせあったりするのが、どんなに傷つ く、イヤなことだか、わかるでしようよ、イヴ」 ていた。 とだけこたえて、また話をもとにひきもどした。 「なぜなら・ーーわたしは、レダがセクシャリスト・タワーにゆくた びに、嫉妬にさいなまれーーーしんそこよ。しんそこ嫉妬するわ、わ「そうですともーーわたしは、レダを殺したいわ。わたしが、レダ : レダに憎悪がビンク・タワーのユニットで、何をしているのか知らないとでも たしはーーーそして、レダを殺してやりたいとおもい : レダを思う ? わたしが、何も感じないだろうとでも思うの ? わたしほ を抱くから。そしてわたしはレダを愛しているからよ。 愛することは、レダをにくむこと。レダをにくむことは、レダを愛ど、レダを愛しているものはいないのよ。そして、わたしは実に嫉 すること。それが、わかって ? かわいそうな、ヴァ 1 ゴのイヴ」妬ぶかい、といわなかったかしらね ? わたしは、いろいろな意味 で先祖返りなの。たしかにそうだと思うわーーだから、わたしは、 セクシャリストや、他のだれとでも、レダを共有することなんてで 「ーーーぼくは考えてみたけど、やつばり、わかりそうもないよ」 きない。したくない。ほんとは、レダを殺すことで、レダがわたし それは、契茶室でするたぐいの話ではなかった。 ひとりのものになる、というのだったら、いつでもすぐにためらわ そこで、・ほくたちは、公共ビルの、談話ュニットをひとっとり、 そっちへ移動することにした。どちらかというと、ばくよりも、アずわたしはそうするでしようよ・ーーほんとに、そう思うわ」 「じゃあーーーこんなことまで、いってもよければーーなぜ、レダを ウラが話したがっていた。 セクシャリスト・タワーにつれてきて、レダの、そのーーーレダの用 「むりもないわ。そう、かんたんに、ましてヴァーゴで、わかるこ がすむのを、待っていたりするの ? あなたがひとりで、家にいる とじゃないもの」 ことだってよくあるじゃないの ? 」 トナーのあなた 「レダをーーー殺したいとおもうって ? レダのパ 「そうねーーーときどき、わたしも、じぶんにそうきいてみることが が ? 」 これは、ありとあらゆる、シティの会話の礼儀作法を、こつばみあるのよ、イヴ」 ・ほくは、アウラの率直さにおどろかされた。アウラは、何ひと じんにふみにじる会話だったかもしれない。 しかし、ぼくは、それがふしぎなほど、ここちよく、何かスーツ つ、かくすとか、ためらうということを、知らないのかとさえ思わ と胸がすいてゆくのを発見しておどろいた。 れた。 な。せ、かれらは、こんなふうにざっくばらんにしゃべりあうこと「ただーーわたしにわかるのは、わたしがレダをほんとうに愛して て、レダなしでは、生きてゆけない、と思っているということだ を、やめてしまったのだろう、と思う。・ほくが、そういってみるい け。ーー・そんなイヤなことでさえ、レダなしで生きるのにくらべた と、アウラはわらい

2. SFマガジン 1981年12月号

でも、セクシャリストたちでもね : : : なぜなら彼女は、皮女の内なでは決してないだろう、ということが : : : 彼女はただ、この新しい おもちゃに夢中になっているわ。 る欠落を、みたしてほしく、うずめてほしい、それだけで、誰が、 そして、プライのほうは これはわたしにはわからない、わた どうやってみたしてくれるか、ということを気にかけるほどは、ま しには、何も云えない異星人が何を考えているかなんて、どうし ーソナリティは成長してはいないから : だ彼女のパ 彼女は、語のいかなる意味においても、キャッチ・ポールをするてわたしにわかるわけがあって ? プライは、たしかに、おもしろ 男よ : : : それに男 、地球の男にはない強烈な個性をもった、いい ことを知らないのよ。ただ彼女は、どこからかポールを投げてもら くらわくさいわ。恐しく男くさい。彼の方も、はるばるやってきた地球 、それをうけとめてあそびたい。そのために、彼女は、い しい、か・け一 たしがポールを投げてやってもそれでいいとはいわず、ただ、もつで、公式見解や、みごとなカン。ハセーションにあうのを、 んうんざりしているのよ。彼は、《フランク》にーーそう、彼はい と、もっと、と要求するたけ。 うけどーー友達をつくりたがっているの。 これは、とても悲しいことよ。しかし、彼女に、あいてがいるこ しかし、彼ののそむことがセックスだとは、私にはおもえないけ とを覚えさせることはできない。彼女は暗がりでキャッチ・ポール ーー」・いつだっ をしているの。急にあかりをつけても、彼女は目をとじるか、まぶれどね。ああみえて、彼はとても精神的だし、古風よ て、スペースマンは、わたしたちよりずっと古風だわ。 しくてかえって何もみえなくなってしまう。 だから、彼は、ナイト的精神で、レダがもとめるから、応じてい わたしは、彼女がスペースマンに好奇心をもつのを、何とかし て、やめさせるべきだったのかもしれないわ。ーー異星人としたしるのか、それとも、たやすくセクシャリスト・タワーへゆくといっ くする、というのは、ことにここのような内陸部の都市では、他のたっきあいかたも、彼の世界のうちにあるのかーーーまあどのみち、 どんな紊乱行為よりも、とびぬけてタ・フー視されていることだもの私は彼について何も知っているわけじゃない しかし、彼のパワーとーーーそして、彼が、レダの欠落を、一時的 ね : : : あまりにも、汚らわしくて、そんなことをあえてするような にせようめつくす器官をもっているということで、たしかにわたし 人間がいるとは考えられもしないからこそ、誰もわざわざそれがタ は彼をうらむわ。それはわたしがそうでありたかったものよ。だか ・フーだなどと、 しいもしないほど : レダは、たとえどんなにわ でも、レダは、子供のようにわたしにせがむのよ。彼女が・フライら、わたしには、レダをとめられない。 に興味をーーーあなたとは、ぜん。せんちがった意味でだけれどーーーひたしが彼女のあいてをしてやっても、もっと、もっと、とせがむだ : ブライがあのつよい腕で抱きしめると、そのあいだだけ、 かれるのは、わかっていたわ。・フライのあの強烈なパーソナリティけよ : は、レダにとっては、のどのかわいたときに青々とした海水をみるレダは何ひとっ考えたり、感じたりすることがなくなる。 おお、わたしは、何もかも知っているわーーー知っている、と思う 5 ように、自分をひきつけるものなのね。レダには、わからないのよ 彼女の抱いている欠落をうめてくれるのが、からだのセックス - わ : : : でもわたしには、それでどうすることができるというの ?

3. SFマガジン 1981年12月号

「緊急の場合なので、。フライヴァシーに立ちいることをゆるしてくている、というのだ」 れたまえ」 ラウリが、神経質になっている、と思ったのは、まちがいだった ラウリは、あいかわらず、イヤというほど礼儀正しかった。 ことに気づいて、・ほくはびつくりした。ラウリは、神経質になって 「緊急の ? どうか、云って下さい、プラザー・ラウリ。どう いるのではなかった。 かしたんですか ? 」 なんと、かれは、怒っていたのだ。彼の、端正な顔はこわばって 「そのーーーこんなことは、、、たくなかったが : ・ : こ おり、彼は、誰かーーーましてや、彼の生徒が、そんなふうに彼にぶ 礼儀正しいのにだって、ほどというものがある、とぼくは思ったしつけな口をきく、ということに、すっかりショックをうけてしま よ、つこ 0 冫、し、カ十ー・カ / が、もちろんそうロに出すわけこよ、 っていた。 「ミラのことなんだ」 「ほくはそこで、きわめておちついて、彼に、彼の失礼な点を指摘 ラウリは、かたい表情で云った。 し、帰るようにいった。・ほくは、そんなかたちで、彼と話しあいを あっ とぼくは田 5 った。 もっ気はなかったし、それに、この件については、どれほどていね 「そのう、イヴーーーきみは、 ミラから、何か云われたりしなかった ートナーのゾロポーズ いに検討してもやはり、ぼくが彼に、第一・ かね ? そのう : : : きわめて逸脱的なようなことを、何かーーー・そをする、と信じこませるようなほのめかしも、態度も、とったこと の、・ほくとの第一 パートナー契約に関して ? 」 かない、と断言できたので、ぼく自身の決定についてそんなふうに ぼくも左手をあけて、礼儀を無視するあいすをした。 ミラに干渉をうける気も、この件で少しでも彼に釈明する必要も感 そのう、あなたとアーチスト・ギルドへゆくまえだつじなかったからだ。 たかに : : とっぜんあらわれて、おそろしく・ほくのちかくに立ち、 ところが、そうすると彼は、ばくが、彼に申しこむつもりだとみ ・ほくがあなたにとりいった、というようなことをいいました。 んな思っていたし、彼もそう思っていた、というんだ。それなのに ・ほくが、あなたにとりいって、あなたの気持をかえさせたのだ、と ・ほくがきみに申しこんだのは、何か、彼に対して、怒ってでもいる いうようなことを。でもーーー , 一 のか、ン」い、つ 0 「やはり、そうか」 そこで、・ほくは、・ほくの決定がきみと何かかかわりがあるのか、 ラウリは、何ともいえぬほど、こ 冫がにがしい顔をした。 とミラにたすねた。すると彼は、ある、とこたえた。どうしてだと まくのユニットにかえってくると、ミラがいた」 いうと、彼は、な・せなら、彼が、ぼくを、ずっとまえから好きだっ 彼は、説明した。 たからだ、というんだよ ! 」 ミラ 「彼は、ぼくに、すべてのカン・ ( セーションの前おきを無視して話思い出しただけでもぞっとする、というように、ラウリは身をふ 6 しかけ、・ほくが、まちがっている、ぼくが自分自身について誤解しるわせた。

4. SFマガジン 1981年12月号

「だからーー・そんなひとを、シティで見つけるなんて、ほんとう がき出て、となりへいってしまうと・・ーー・困ったことに、レダは心の に、め 0 たにないことだ 0 たから、だからレダはあなたに心をひか底から傷ついてしまうのよ。しつぼをひつばったり、抱きしめたり 5 れたのでしようねーーでもイヴ、あなたは磁カ線やイヌや草花じゃしたので、ファンがう 0 とうしがったのを、あいてに自分の愛情を ない。だから、レダには、ものをうけいれるやりかたは、たったひ拒まれたとおもってしまうのねーーそれよりさきに、どうしてファ とっしかないんだ、ということを、あなたの方がわかってくれなくンがよそのへやヘゆきたがるのか、イヌにはイヌの都合というもの てはどうにもならないわ。 があるんだということが、どうしてもレダには理解できないのよ。 それは、肌でたしかめること。 そうね、市民たちが、いちば これは、悲しいことだわーーわたしのすべての愛をもってして んきらいで、おそれていること、考えただけでもふるえあが 0 てしも、レダにたったそれだけを・ : ・ : わたしが出かけるのは、レダをう まうようなことね。肌と肌をすりあわせることーーーふれあい。レダとましいからじゃなくて、コミッティーにロフトをかりる期間延長 はそれに、飢えてるのよ いくら、みたしてやっても、肌のふれの手つづきをしにゆくためだ、というだけのことさえ教えることが あっているあいだだけ、それがなくなれば、またレダはひとりになできないなんて。 る。 そして、そのレ でもそれがレダなのだ、とわたしたちは思い おお、イヴーーーレダには、ほんとうになにかとかかわりをもったダをうけいれ、愛してきたの。守り、抱きしめ : めには、じぶんから、はたらきかけるほかはないんだ、というこん だからこそ、イヴ、あなたにはびつくりさせられたわ。わたしは な単純なことがどうしてもわからないのよ。だから、レダは、、 しつ一度だって、レダが、誰かにすすんで興味をもっとは、考えたこと でもふるえている。いつでもおちつかない いつでも、もっと、 もなかったもの。 もっと、もっと、と全身でさけんでいる。そうして、他のものと比おお、だから、わたしは心配なのよー・ー心配なのよ。あなたは、 べものにならないくらい、つよい同情をもっているファンにさえ、 あんまり、若すぎるわ : : : あなたは未経験で、セックスの意味も知 ほほをすりよせ、毛皮をさすっているあいだはーーーそう、ふれあい らなくて、ひととふれあおうとのそんだことも、まだその必要を痛 何ひとっ問題はないけれども、ファンがかれじしんの都合で立感したことさえ、これまではまだなかったはずよーーーあなたは何も ってとなりのへやヘゅこうとすると、怒ってぎゅっとファンのしつ知らない。 レダを、まだ、うけとめることも、支えることも、包む 。ほをひつばるでしようよ : : : それでもゆこうとすれば、上からぎゅこともできない たぶん、レダを、正しいやりかたで愛すること うっと抱きしめる。ファンが迷惑そうにうなるのなど、おかまいなさえもね。 しょーーあなたは、レダがそうしているのを、何回もみたことがあ おお、これが嫉妬だけだとはとても思えないわーーレダはもろい るでしよう。 のよ。信じられぬほどもろく、そしてわたしには二つとなく大切な そして、それでもなお、ファンがいやがって、レダの抱擁からものよ。そのレダが、あなたに恋をしてーーーあなたもレダに恋をして

5. SFマガジン 1981年12月号

まえ」 いセックス・マシンよーー・・ー男がみんなあんたみたいなら、あたし、 「レダ、よしな」 スペースマン・シテイへいきたいわ」 ・フライよ、」 に、とりなすというつもりでもないらしかった。か ブライの顔が妙なふうにゆがんだ。笑っているのか、怒っている れはどうやら、おもしろがっていた。うしろにごろごろねころんでのか、・ほくにはわからなかった。 いる連中ーーーセクシャリストとか、デイソーダー、反逆者といった ・フライは、レダをかかえあげーーーそれは、彼には、たやすいこと やつらなのだろう は、たぶん、ヘヴィ ー・ドラッグをでもやっ だったーーーひざの上にのせて、そして ているらしく、一人ふたりがぼんやりと頭をもちあげてこっちをみ ぼくは、よろよろとうしろにさがり、ドアがしまるのを待たすに たほかは、少しも、興味を示そうとさえしなかった。 ふりむいて、廊下をもと来た方へ逃げ出した。レダの哄笑も、悪意 「さあ、・フライ、このお客さんったら、オージイには何の興味もなも、こんどはぼくを追っては来なし 、。・よくは、胸ぐるしいような いのだそうよ えたいの知れぬ、怒り、いや、おののき、何だかわからぬドロドロ ふいにまたレダの気分はかわった。 としたものに浸されながら、よろめきよろめき、壁をつたって歩い 彼女はケラケラと声をたててわらい、手をのばして、これみよが こ。ぼくは、自分のひとつのつよい感情だけが、しつかりとそのど しにプライに抱きっき、ぼくのみているまえで、プライのロに、ロろどろのほとばしりの中からいつのまにかうかびあがり、自分の中 をおしつけた。レダの半びらきのくちびるから、ビンク色の舌がとに根をおろすのを感じていた。 び出し、それが・フライのロへさしこまれていくのを、・ほくはそっと それは、殺意たった。 背筋を粟立てながら見つめ、ゾライがそのつよいうででレダをふつ 明瞭な、ほとんど激しくも、爆発的でもない殺意、これまで・ほく とばすかと思った。しかし、そうするかわりに、プライはふとい腕がもったことも、もとうと思ったことも、自分にもっことが可能だ でしつかりレダを抱きよせ、その細い胴に手をまきつけた。スペー とさえ考えてみたこともないこのあやしい感覚、しかしそれは、は スマンの褐色のからだによりそって、レダはまるで少年のようにみじめて意識した瞬間から、まるで・ほくがフラスコから生まれたとき え、白くほっそりして、とねりこの枝のようたった。 からぼくと共にあったとでもいうように、しつ 2 、りと・ほくによりそ 「この赤ん坊に、見せつけてやりましようよ」 っていた。ぼくとそれとをわかっことさえできぬくらいに。 レダは、咽喉声でささやいた。 それでは、・ほくも、殺意などというものを抱くことができるのだ 「ねえ、スペースマン , ーーあたし、見られながらするの、大好きょ しかし、誰に ? : それは、いま、じふんが何をしてるか、とってもよくうっし出 レダに ? それともプライに してくれる鏡たしーーーやつらときたら、そりゃあたまげた顔をする レダ。銀色の目のデイソーダー んだから。ねえーーー , あんたって、どんなセクシャリストもかなわな ・フライ、レダをかかえあげ、そして、ぼくのみたこともない、し

6. SFマガジン 1981年12月号

「何だか、デイソーダーになりかけているじゃないかと思うことが というのが、アウラのこたえだった。 「心配で、目がはなせないしー・ー・第一、レダは、こういうシティのある。何が自分に関係があ 0 て、何がそうでないのか、見きわめる セントラル・エリアにくると、みなにじろじろ見られるわ。だかのが、何だかすごく難しくって : : : 」 「誰にだって難しいでしようよ」 ら、行きかえりに、わたしが守っていてあげないと」 アウラは、そっけなくいった。 「レダがー・・ーーあんなことをしているというのに ? 」 いま、あなたがいったこと、ほ 「でも、ことにレダについて。 そのことばは、とめるいとまもなく、・ほくのくちびるから出た。 そのことばは、それ自体、憎悪にぬれて、ふるえているかのようにんとにあれはぼくと関係はないはずなんだ。なのにーーアウラ、正 直にいうけど、・ほくは、あのとき、あのへやで、あのふたりをみた きこえた。 ときーー殺してやりたいと思った。・ほくには、何のかかわりもない 「あのーーースペースマンと ? 」 ことなのにねーー苦しくて : : : レダを憎んで : : : 」 「おだまりなさい」 「そうねーーー」 するどく制されて、・ほくは。そこが公共の場所であったことに、 シティの上空を吹きわた アウラの声が、とおく、風のように ようやく気づいた。 「プライヴェ 1 トよ。それが、あなたと、何の関係があって、イヴる、すずしい風のように・ほくの耳に鳴った。 イエンセン ? よしんば関係があったところで、それをこんなふう「そういうことならーーーたぶん、わたしはあなたにどういうことな のか、説明してあげられるし、それに、説明すべきでしようね、イ に、公共工リアで、誰にきかれてもよい話として口にするのは、礼 ヴ。 してほしい ? 」 儀にかなったことなの ? 」 「どうか」 しいえ」 「かんたんなことだわ」 ・ほくはうちのめされていった。 アウラの目は、物思いにふけるようにとおくなっていた。 「心底から、謝罪します、アウラ・ザンべリイ。・ほくは、軽率にふ 「あなたは るまいました。・ほくの謝罪を、うけいれて下さいますか ? 」 アウラは、うけいれるというしるしに手をあげ、ななめに額に指レダが好きなのよ」 「レダがーーー好き ? 」 さきをふれた。 ・ほくは叫び、あわてて声を小さくした。 ではこれ 「軽率さの罪をわすれないでね、イヴ・イエンセン。 「どうしてーーどうして、そんなことがわかるんです、アウラ・ザ はもうすんだことよ」 ンべリイ ? 」 「ーー - ー・ほくは、このごろ、何だかおかしいんだ」 「わたしにはわかるのよ」 ・ほくは、云った。

7. SFマガジン 1981年12月号

も了り、最後の瞬間がぎた。地球から五日目である。 『伍長 ! 公安官 ! どうでした。、どこにいます卩聞えたら答え 『ちやパードレうまく行ったら拾ってください。まづかったら : て下さい ! 』 : ・まア念仏でも』 『聞こえますよ』 『ばかやろう、まづる予定なんかするな ! ーー神父さん、ながいこ 弱々しいが、疑いもなく無事だった声がひとっ返ってきた。『あ と付添ってくれて有難う。加速は素人さんにや大へんだったでしょ の悪兵野郎の考えどおり、鉢だけは出ました』 う。お礼は : ・ソノ、ナンだから、言えるうちに言っときますぜ』 『よかった ! ちゃ巧くいったのではありませんか』 『この栃面棒が ! てめえだってやってるちゃねえか』 『それが巧くねえんでーーー』 『いいから / 、 ! ーーーやるゾ ! 』 べつの声がわりこんだ。『どうも目算どおりおなじ方向へスッ飛 『よし。一、 んちゃくれなかったようです。おれは計器でみると戦道平面へもど 私は宇宙間の爆発をはじめて見た。実さいには直視する勇気ってゆく角度で流れてますが、イヤ、流れてるなんてもんちゃねえ がなくて面をそむけていたのだが、そのそらした視野でも一つに抱ナ、秒千キロにまた十でスッ飛んでるから、とても拾っちゃ戴け 合った宇宙船が真闇の宙空で中央から真っ二つに炸裂し、私の船窓ねえ仕儀と相成りやしたーー、おめえはどうだい、八丁堀 ! 』 が一しゅん桃色の閃光に眩しく輝くのが頭のなかで分った。そして 『こっちは元来たほうへまっしぐらだ ! 』と警察員が答えた。『も 艇が激しく揺れ、どうじに私が急につきとばされたように壁にぶつ いちど地球で燃えなきやお天道さまへ飛込みだナ。ただし司祭さん かって転倒した。 の手にどうしても頂けねえことはお前さんと同じだ』 どうしたのだ爆風が宙空でおこることはない筈だった。その 『そうか。ちやマ、あきらめるしかねえナ。どうも、そう何もかも ときには私はもう窓を見ていないのだったから、闇空に二つの船が巧く行くはずはねえと思ってたんだ』 飛散する様子はわからなかった。だが何かが船にあたったことは間 『そうさ。それにお前は肝心なことを忘れてたぜ " 爆力で飛出せば 違いなか 9 たーーー私はいそいで起上って展望座へ走りこんだ。 とても背ロケットなんかちや制御しきれねえ。どうにもなりやしね もう何も見えなかった。たった一つ、さいごのやつだろう、大きえぢゃねえか』 な破片が、裂けた金属のギザギザと何かの索らしい長い管状のも『そんなこと分ってたさ。だから一か八かって言ったろう。ほかに のを光のあたる側だけ玉虫いろに反射さしながらたちまち遠ざかつ手があったか ? 』 て見えなくなるのが目に映った。そして見えたものと云ってそれき『たしかにねえ。まアよくやってくれたワサーー豸やナ。こんどは りだった オリオンかス・ハルで会おう』 二人はどうしたかーーー生死にかかわらず・外へ出たなら捕捉する『うん、友達でナー達者で死亡ねえ』 のが私の義務だった。私はひっしに無電にしがみついて呼びかけた】 私は涙でふたりに呼かけた。ひとりは答え、ひとりは笑うばかり 8 6

8. SFマガジン 1981年12月号

く位置を知らせてくれ。、できるだけの事はするから」 私はおどろいて尋ねた。 答は来たが、なにやら別の声で、おそろしく解りにくい宇宙「貰いようがねえからョ。窓も扉ロも塞がっちまって蟻一匹通れね 5 兵用語だった。、おまけにひどい早ロだ。、事態はかなり切迫しているえ」 らしい とひとりの声が自分を嗤う声で答える【「だから其方さんが機械 「そんな言い方では分らないョ」と私は相手を落付かすことに努め場みたいな電道具を山ほど抱えていねえかぎり、薬もいただけねえ た【「こちらは只の巡回司祭だ。素人にもわかるように図を送電っ って訳ョ」 てくれ」 「どうしてまた : : : 」 「。ヒュータは壊れてる ! 」 「だから衝突だって言ったでしょ ? それが熱でクッ付いちまやが どな と前の声がおなじような早ロで呶りつけた。「千なん百度の熱ったんだ」と別のひとりが代って言う。「だがその事の説明より電 で灼けたんだ。、人間さまの生きてるのが不思議と思え ! おまけに画送りだすほう急いでくれ。、いまコードと書込み順言うからーーーそ はづ 軌道平面をどんどん外れてるというのに、藪医者の診察みてえに電っちの鍵盤はデヂタルか ? 」 画の面ながめてのんきな論判していられるか ! 土星便そこのけの 「そうだ。、ニッポニーの「六〇一」と標記してある」 加速でスッ飛んちゃってるんだそ】衝突のためョ。、文句あツか ! 」 「上等 ! 【宇宙最高の機械だ。それなら一ばん右下の赤釦を押して イン なだ 「ないとも ! 」私は宥めつづけた。「それなら其方から書込みの入操作してくれればその儘一〇メガヘルツで発信する。ただし電信部 第シオ カ手順を指示してくれ。此方がそれによってグラフを作り放送すと正しく連結していればの話だがーーー・そうなってるか」 る。そうしながら大体の方角を発信してくれれば、私だけにしても「なってるようだーーー待ってくれーーうん、連結は間違ないが、電 自動探知進航ですぐそちらへ向ってゆける これでよくはない気は私には分らないョ。、起電力がどうだろうか」 か。サア、かかってくれ。もう一度言うが、出会うまでに私はどん相手たちはそんな事はかまはぬ、発電機さえ無事なら大丈夫天王 な用意をすれば貴方々の役にたてるのだネ ? 」 星まで届く、ただここまでおいそれと来られねえだけだ、と言い 「済まねえ。、神父さんーーー」 私は言われるまま位置標点の電画を送信する作業にしたがった。電 二つの声がかわるがわる言った。 「ヒステリー女みてえに奐いて波は聴かれているかぎりの受信機にはいるだろうが、まにあう時間 悪かったヨ。思いもかけねえ事故を二重にくらっちまって、どうし距離内に救け手がいるかどうかが心細いのだ。そしてそれは宇宙の ようもねえ態たらくなんだ。仰言るとおり、救助信号はこっちも出宿命だった。 数時間ののち、相手の姿が視界にはいってきた。やはり二隻 しつづけるが、位置図加えて貰えれば一そう有難え。だが「用意」 のほうはなんにも要らねえ【何をくれようとしたって駄目なんだ」だった。それがどうした事だろう、仏蘭西のパンのように一つにく 「どうしてだネ ? 」 っ付いている ! これでは両数より単数を使わなくてはならぬほど つら わら ウラス

9. SFマガジン 1981年12月号

いささかの冒険にはちがいないわ。よほどのことでも、あの礼儀正ボタンをおした。 「あ」 しい市民たちは、見てみぬふりをしてくれるでしようけれどね。 でも、ああ、 あなたにはわかりそうもないことだけど、レダ ぼくは小さく、叫び声をあげた。 は、それが、危険な冒険だ、とうつかりわたしが云ったもので、そ「ラウリ。 あの、今日は、どうもすみませんでした。あの : れですっかり夢中になっているのよ。壁がある、とわたしがいうー ーするときまって、レダはまっすぐそっちへむかってゆき、壁にあ「いや、 いいんだ」 たまをふつつけるの。どうしてだか、わからないわ : : : きっとレダ ラウリの顔が、ちょっと神経質そうにこわばっていた。・ほくは、 は傷つくのが好きなのかもしれないけれど、でもそれだけでも説明ラウリが、気をわるくしているのだ、と思った。 がっかない」 「ほんとにすみません。ことわりもなしに先にかえったりして、あ 「ファンは、レダが、傷つくのが好きだ、といっていたよ」 の ぼくは、あなたに連絡が、せめて伝言をのこすべきでした。 「ファンはね」 もし、釈明の機会を与えて下さるのでしたら : : : 」 「イヴ。、、 アウラはかるく掌を上へむけてもちあげてみせた。 ししんだといったろう ? あのとき、外へ出てくれるよう 「要するに、彼はイヌなのだ、とわたし、云ったでしょ ? 彼たのんだのは、・ほくだったんだし 心配したよ。場所が場所た の、デリケートさは尊重に値するけれど、基本的に彼の精神パター し、きみは、まだ、あの : : ビンク・ゾーンにまぎれこみでもした ンはそう複雑ではないのよ : ・ : 知的ではあるとしてもね。でも、わら、いまのきみの人格形成にはよくないファクターとなるだろうし たしにとっては、そうじゃない」 「・ほくが、大人になるのと、レダがスペースマンとあそぶことと、 しかし、かえったら、きみがもどっているという伝言があったか どんな関係があるの、アウラ ? 」 ら、・ほくはもう、それで、すっかり、安心したよ。何か用があった 「そうーーー」 んだろうと。それはだから、もういいんだがーーーしかし : : : 」 アウラは、ふいに、何か辛いかのように、目をふせてしまった。 ラウリは、手のひらを・ほくにむけて押すようにした。会話中断 コールだ、と知って、・ほくはぎくりとし 「それはねーーもしあなたが大人になって、立派な一人前の男 ( プの、エマージェンシー ライのよくするスペースマンの云い方をかりればね ) になったとすこ。 れば レダは、好きこのんで、スペースマンの中に誰かをさがさ ラウリの、神経質なようすが、必ずしも、ぼくのふるまいに気を なくてもよくなるからよ。わかる ? 」 わるくしたというせいではないらしい、と、はじめて気づいたので ちっともわからない、 とぼくは考えた。アウラは、わざとのようある。 に、謎めかした云いかたはかりをする。・ほくは、ヴィジフォーンの 「あの、何かーーー」 2

10. SFマガジン 1981年12月号

これに似た場所も、こんなところがシティの中にあるということ「さあ、アイ、つまらないことを、気にするのはやめて。ビンク・ も、ぼくは知らなかった。 ドラッグの夢はみじかいのよ」 「ハイ、何だい。何か用かい、ヴァーゴ」 「もう一粒どう ? 」 いきなり、誰かに声をかけられて、・ほくはぎくりととびあがっ セクシャリスト塔ー こ 0 こんどこそーーー・ほくにもわかった。 それで、すっかり ダワー 「おまえさんの、来るところじゃないね」 なんということだろうーーーよりによって、セクシャリスト塔にま 嘲笑、たかわらい、ばかわらい ・ほくのほほがかっとあっくなぎれこんでしまうなんて。 考えようによっては、それもムリはない、なぜなら、セクシャリ 「ほ ・ほくは出口をさがしてるんです」 スト・ギルドは、基本的にはセクソロジスト・ギルドに管轄される 「出口だとさ ! 入口でなくだと ! 」 その一部分であり、そしてセクシャリスト塔は、セクソロジスト・ またわッとまわりの連中が笑う。 ギルドととなりあって立っているのだからーーーしかし、そんな考え 中で親切そうなのが、 : 、・ほくの頭に、ちゃんと脈絡をもってうかんだのは、ずっとあと 「出口ならまっすぐいって左へまがり、つきあたりの階段を上るんになってのことだった。 だね」 ・ほくは、じぶんのいるところが、セクシャリスト・ギルドの中だ そう、教えてくれた。 と知ると、もう、ただひたすら目を丸くしてあたりを見まわしたい 礼をいうのもそこそこに、・ほくはそっちへむかってかけ出した。 熱烈な好奇心と、何だかそうすることがはばかられるような奇妙な 何だか、無性に、不快で、このねっとりとまとわりついてくるよう気分とのいたばさみになって、いそぎ足で、出口だとおしえられた な空気に、これ以上ひたっていては、息がつまってしまう、そう思方へかけつづけた。 えてならない。 両側にならぶドアのむこうで、何か、桃色やべージュの、大きな うしろでは、またそれそれのソフアにもどって、そのあやしげもつれた象か、蛇のようなものがうごめいている。そして、ときお な、考えられぬような作業をつづけながら、どっとわらうのがきこり、ほそくあけたドアのすきまから、何やらくぐもった音がもれて えた。 くる。 かって、なんだかとおい昔のように思われるこのまえ、 「ヴァーゴだとさ ! 」 レダの家で、アウラの下でくみしかれたレダの口から出ていた音 「何をまちがって、このセクシャリスト塔に迷いこんできたんだろに、どこか、似かよった、心を不安にさせ、おちつかなくさせる音 。こっこ 0 ュ / ↓ / リーグ 「見学者にしちゃ、・ハッジをつけてないし、指導員もいないね」 ( アイア、アイア、アイー、イイイー ) う」 る。 ダワー タワー に 9